Soranoha

横顔

シルーエット

上田 進

1

壊滅した――と言う

そうかも知れないと思う

健在だ――と言う

そうかも知れないと思う

地下に追込められたものは

益々深く地下に潜り込んだのだ

俺達にはてんで見当がつかなくなったのだ

2

汽笛ボーの白い蒸気が

灰色の空にちぎれ飛んだ

午前六時の川風が

雪交りの雨を赤煉瓦に叩きつけ

脂染あぶらじみた硝子窓をゆすぶった

肩をすぼめた俺達の行列が

鉄門の外にまだ長くつづいていた

3

泥んこの通路みちがやけに癪に触る

癪に触るから大股で歩いて行く

口の開いた護謨長ゴムながの鼻先に

ビラが落ちて来た

顔を上げると頭の上に

赤や黄のビラが舞っていた

風が一吹き強く吹いて

霙みぞれの中にビラが一段と激しく散った

むこうを見た

厚いコンクリの塀が立ってるだけだった

4

何処から舞って来たのか?

どんな人が撒いたのか?

俺達は知らなかった

「俺達の中に居る人かも知れぬ」

――だが、たしかに、今、此の手に

俺達はビラを握っている

日本共産党のビラを!

これは夢じゃない

そら、ひっぱたかれたら痛かろうが?

本当だ!

5

衣兜かくしじゃ駄目だ

肌へつけときな

よし……いやもう一度見て

左の下の隅の五つの文字

見つめていると

レーニンの顔になって

笑い出して

躍り出して

ぼやけた……

いけねえ、涙で鼻がつまって

6

ピチャピチャ……急に足音が高くなり

行列が騒がしくなった

俺達は胸を張って工場に入ってった

俺達はプロレタリアだぜ!

7

眼の底に染みついた

頭の心に焼きついた

この五つの文字――それが

胸の中を引掻きむしる

8

お出でなすったな、監督さん

パイ公連れてさ。

出すもんかい、

これあ俺達の御守だ。

………………

へん、ざまア見やがれだ!

9

俺達は見た

俺達は知った

俺達の党は健在だ!

俺達はやけに嬉しいんだ

(おお、その胸に抱かれているのは

地下に健在な党がチラリと見せた

小さい四角な、赤い横顔シルーエット!)

(一九三〇年三月六日作 『戦旗』同年六月号に発表 一九三一年八月戦旗社刊『一九三一年版日本プロレタリア詩集』を底本)

底本 / Source edition

底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日初版
底本の親本:「一九三一年版日本プロレタリア詩集」戦旗社
1931(昭和6)年8月刊
初出:「戦旗」
1930(昭和5)年6月号
※表題は底本では、「横顔《シルーエット》」となっています。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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上田 進「横顔」(新字新仮名)、底本『日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)』新日本出版社、1987年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 054069_001628, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite