砂糖のような安逸が おれの感覚をにぶらしている 鍋底で倦怠だ! 憂鬱だ! と小声でつぶやいている 若い熱情が下駄の歯のようにすりへりそうだ 残火が火消壺で喘いでいる 短気な意志が放心した心臓をつかんでいる そいつは滓だ おれの食慾がめしを喰ってる おれの性慾が女を恋しようとしている オブロモフ! オブロモフ! オブロモフ! 倦怠をつぶやきながらも安逸は砂糖のように甘い 憂鬱の霧を逃れようともしないでおれはうずくまっている だがそこを突きぬけようとする意志! 沈頽した牢獄に投げられた やり場のない憤怒! 内抗する病菌だ! 月蝕だ! 月蝕だ! 熱情がむしばまれようとしている 月蝕が煙突の上にはいのぼる (『鎖』一九二三年六月創刊号に発表 一九六三年八月国文社刊『陀田勘助詩集』を底本)