いらだたしき一夜、 群集と巡査とは睨みあい、 街燈の瓦斯の灯も常より青し。 窓硝子のやぶるる音に、 喜びて叫ぶ声、恐ろしき鬨の声、 馳せちがう民衆と警官の剣鞘のおと。 哀れにも暴君のくるしむ姿、 われもまた群集ともろ共に手を打って 幾度か「バンザイ」を叫ばんとせしが、されど…… かの家にはわが椅子あり、 わがペンもあり、 かかる時なお忘れえざるわがパンの家。 雨のごとく石はふり、 群集は狂おしく鳴りわめく、 いらだたしき銀座の一夜。 (『近代思想』一九一三年三月号に発表)