――カムバスを立つ―― 岳の上はひたに靜もり妹は合歡の木の下にカムバスを立つ 妹は默して立てりひたすらに海を描かむ心一つに 帆の形面白しなど語らひつ雜草の丘にデツサンをする ――貨物船―― やゝ沖に貨物船はとまりたりデツキを動く人の氣配す 貨物船の投錨の音たかだかと朝の海にひろごりわたる 蟲にたかる蟻の如くに船をめぐり塩運ぶ船集りてきぬ 凪なれど海に寫らず貨物船の朱の船腹はなかばあせたり ――潮光園など―― 潮光園對鴎館など好ましき旅館を持つよ御崎の海は ベランダの朝のてすりにそと凭りて海を見居たる少女を想ふ 潮光園のベランダはよろしやゝ沖に眞赤な貨物船の點景を持つ 赤き屋根白きベランダたへまなく青き海風さやさやと入る ――鳶―― 海にすめば海になれたり鳶三羽怒濤の岩に降りて動かず 曇り日の空は低くして南風に吹かれて鳶はその空に居り 蝉をついばみ鳶はましぐら昇りゆくその猛しさは心にくきや ――猿數多鐵柵の中に飼ひてあれば―― 鐵柵に猿は並びぬ眼をむきて手をさしのばし物乞ふかたち 怒り悲しみ恐れはすれど猿なれば笑ひを何處かに忘れたる如し 餌に寄りて爭ふかたち猿なればわれら笑ふもわれらも似たり