Soranoha

『春の岬』序詩

『はるのみさき』じょし

三好 達治

わが古きまづしきうたのたぐひここにとり集へてひと卷のふみをばなしつ、名づけて春の岬といふ、ふみのはじめに感をしるして序を添へよとは人の命ずるところなり、あな蛇足をしひたまふものかな、よしやつたなかるともわがうたのかずかずうちかへしわが感をのべたるものを、とてその夜わびしらに率然とおのれつぶやけるつぶやき

わが若き

十とせあまりのとしつきの

いつしかにはやすぎゆきて

あとこそなけれ

そこばくのうたはのこりつ

そのなかばいまここにあり

ながき夜の

燈火のもとにつどへて

二つ三つ手にとりあげて

ひるがへし見ればつたなし

よみかへすさへやものうし

宿かりのかつてやどりし

貝なりとこの貝がらの

童べさび

うづわの底をさしのぞけ

あるはただ小さき闇のみ

磯の香のもしやふとだに

わが鼻の頭かすめて

あればあれうれしからまし

なくもまたせんなしなどと

考へてひとりなだめて

茶をすすり煙草ふかしつ

はたうつうつと

かなしびのたへがたかりし

すぎし日をおもひかへしつ

(かのひとも老いたまひけむ)

山川のうつくしかりし

國々のさまをしのびつ

(錢もなき旅もせしかな)

讀む人よあはれと思へ

わがうたはそれらのかたみ

おほかたは情感うせて

おのれにはあぢきなけれど

ただたのむ

いささかのまことを陳べし

遠き日の思出はあれ

底本 / Source edition

底本:「三好達治全集第一卷」筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日発行
底本の親本:「定本三好達治全詩集」筑摩書房
1962(昭和37)年3月30日
初出:「春の岬」創元選書、創元社
1939(昭和14)年4月
入力:kompass
校正:榎木
2018年10月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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三好 達治「『春の岬』序詩」(旧字旧仮名)、底本『三好達治全集第一卷』筑摩書房、1964年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 053779_001749, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite