Soranoha

且8氏の出発

しゃ8しのしゅっぱつ

李 箱

亀裂の入つた荘稼泥地に一本の棍棒を挿す。

一本のまま大きくなる。

樹木が生える。

以上 挿すことと生えることとの円満な融合を示す。

沙漠に生えた一本の珊瑚の木の傍で豕の様なヒトが生埋されることをされることはなく 淋しく生埋することに依つて自殺する。

満月は飛行機より新鮮に空気を推進することの新鮮とは珊瑚の木の陰欝さをより以上に増すことの前のことである。

輪不輾地 展開された地球儀を前にしての設問一題。

棍棒はヒトに地を離れるアクロバテイを教へるがヒトは了解することは不可能であるか。

地球を掘鑿せよ。

同時に

生理作用の齎らす常識を抛棄せよ。

一散に走り 又 一散に走り 又 一散に走り 又 一散に走る ヒト は 一散に走る ことらを停止する。

沙漠よりも静謐である絶望はヒトを呼び止める無表情である表情の無智である一本の珊瑚の木のヒトの脖頸クビの背方である前方に相対する自発的の恐懼からであるがヒトの絶望は静謐であることを保つ性格である。

地球を掘鑿せよ。

同時に

ヒトの宿命的発狂は棍棒を推すことであれ*。

*事実且8氏は自発的に発狂した。そしていつの間にか且8氏の温室には隠花植物が花を咲かしていた。涙に濡れた感光紙が太陽に出会つては白々と光つた。

底本 / Source edition

底本:「李箱作品集成」作品社
2006(平成18)年9月15日第1刷発行
底本の親本:「朝鮮と建築 第十一集第七号」朝鮮建築会
1932(昭和7)年7月
初出:「朝鮮と建築 第十一集第七号」朝鮮建築会
1932(昭和7)年7月
※底本は横組みです。
※表題は底本では、「且8氏[#「8氏」は上付き小文字]の出発」となっています。
※誤植を疑った箇所を、「近代朝鮮文学日本語作品集 セレクション4 詩」緑蔭書房、2008(平成20)年6月発行の表記にそって、あらためました。
入力:坂本真一
校正:春日井ひとし
2017年12月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/053719_001597/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
/works/053719_001597/

李 箱「且8氏の出発」(新字旧仮名)、底本『李箱作品集成』作品社、2006年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 053719_001597, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite