Soranoha

煤掃

すすはき

萩原 朔太郎

井桁古びた天井に

鼠の夢を驚かして

今朝年越しの煤拂ひ、

主人七兵衞いそいそと

店の小者を引具して

事に堪ふべく見えにけり。

さて若衆のいでたちや

奴冠りに筒袖の

半纏すがた意氣なるに

帶ぶや棕梠の木竹箒、

事あり顏に見交して

物物しくも構へたり。

お花、梅吉、喜三郎

ことし十五の小性とて

娘お蝶がませぶりを

さげすみしたる樣もなく

家代代の重寶を

そつと小縁に運ぶ哉。

要所、要所の手くばりも

あらましここにすみぬれば

手代が下知の一聲に

家臺やたいをゆする物音や

たまたま晝の閑寂に

庭の椿の落つる頃。

木遺男きやりをとこの勇者等も

仕事師ばらの援軍も

いま力戰の眞最中まもなかや

たち上りたる、もうぢんの

中に交りて一しきり

陣鼓ときめく凄まじさ。

煤の埃の中にして

捨松ここに思ふ樣

老店しにせの主人三代の

暖簾のれんをくぐる町人は

幾度同じ夢を見て

繰り返したる榮落に

街の繁華は見たるなり。

耳を聾する亂調に

入興ありたる擧動ふるまひや

お竹つらつら思ふ樣

こは夕暮を酒にして

主人あるじの笑を見んと也

忠義ぶりなる店の子が

賢かりける可笑しさよ。

一重筵の上にして

蒔繪の盆や草雙紙

さては廚の煤鍋が

入り亂れたる狂態を

水干やれし古雛の

こは狼藉ととがめずや。

庭狹きまでに散り亂れ

さしも竝びし家財等の

一つ一つに處えて

二度もとの店の中

帳場格子の間より

手習雙紙見る頃を。

宵の酒宴うたげの可笑しさよ

娘が運ぶ瓶子より

もるる灯影ほかげにかしこまる

左右さうの破顏を反り見て

七兵衞獨り忻忻たり。

底本 / Source edition

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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萩原 朔太郎「煤掃」(旧字旧仮名)、底本『萩原朔太郎全集 第三卷』筑摩書房、1977年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 053545_000067, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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