Soranoha

今後を童話作家に

こんごをどうわさっかに

小川 未明

自由と純真な人間性と、そして空想的正義の世界にあこがれていた自分は、いつしかその芸術の上でも童話の方へ惹ひかれて行くようになってしまいました。

○

私の童話は、ただ子供に面白い感じを与えればいいというのではない。また、一篇の寓話で足れりとするわけではない。もっと広い世界にありとあらゆるものに美を求めたいという心と、また、それらがいかなる調和に置かれた時にのみ正しい存在であるかということを詩としたい願いからでありました。

○

この意味において、私の書いて来た童話は、即ち従来の童話や世俗のいう童話とは多少異なった立場にいるといえます。むしろ大人に読んでもらった方がかえって意の存するところが分かると思いますが、あくまで童心の上にたち、即ち大人の見る世界ならざる空想の世界に成長すべき童話なるがゆえに、いわゆる小話ではなく、やはり童話といわるべきものでありましょう。

○

多年私は小説と童話を書いたが、いま頭の中で二つを書き分ける苦しさを感じて来ました。「未明選集」六巻の配布も去る四月に完了したのを好機として、余の半生を専心わが特異な詩形のためにつくしたいと考えています。

○

たとえいかなる形式であっても、芸術は次の時代のためのものでなければならない。そして、その意味からいっても童話の地位は、今後もっと高所におかれなければならないであろう。

童話文学の使命については、いずれ異日にゆずる。過去の体験と半生の作家生活に於いて、那辺なへんに多少の天分の存するかを知った私は、更生の喜びと勇気の中に、今後童話作家として邁進をつづけようと思っている。ここにあえて声明するゆえんのものは、ただ友人諸君の平素の眷顧けんこにそむかざらんことと諒解をこいねがうためとであります。

「東京日日新聞」大正十五年五月十三日

底本 / Source edition

底本:「定本小川未明童話全集 5」講談社
1977(昭和52)年3月10日第1刷
初出:「東京日日新聞」
1926(大正15)年5月13日
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:江村秀之
2014年2月14日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/052927_001475/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/052927_001475/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/052927_001475/

小川 未明「今後を童話作家に」(新字新仮名)、底本『定本小川未明童話全集 5』講談社、1977年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 052927_001475, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite