Soranoha

予が本年発表せる創作に就いて

よがほんねんはっぴょうせるそうさくについて

牧野 信一

予が本年発表せる創作に就いて

沢山書いた

牧野信一

四月に書いた「父を売る子」は思ひ出すだけでも閉口したが、此頃になつては澄んだ心で夢のやうな気がする。三月の始めに十二三枚書いて、たしか退屈してそれなりに放つておいたのだが、その月に父が急死した、そして四月になつてから凋まうとする心に鞭打つて更に十二三枚附けたして発表した。

その後書いた「父の百ヶ日前後」は自分の最初の力作のつもりである。これを書きあげてから、重苦しい父からの借着の外套を脱ぎ棄てた気がした。二作とも出来栄えは別にしても、周囲の知己から兎も角讚められたことだ。讚められて悦んで、作中のモデル人物達に面目なき思ひがしたが、「俺の文学なのだ。これが俺の文学なのだ。」と確信してゐるので、讚められる毎に喜悦の色を露はにせずには居られなかつた。

以上の他「スプリングコート」(これは去年の十二月慌しく書き、一月発表。当時の慌しさにも今に思へば多くの感慨もあり。)

「渚」「或る五月の朝の話」「明るく暗く」「蝉」等書いた。

沢山書いた気がしてゐたが(実際これだけ書いたのは従来に比べれば最も多いが、従来は怠け過ぎてゐたので比較にもなるまいが。)、斯う題名を書きならべて見ると一寸アツケない気がする、けれど自分にとつては一杯の力だつたに相違ない、満足もしてゐなければ、と云つて別段後悔の念もない。

底本 / Source edition

底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
2002(平成14)年3月24日初版第1刷
底本の親本:「新潮 第四十一巻第六号(十二月号)」新潮社
1924(大正13)年12月1日発行
初出:「新潮 第四十一巻第六号(十二月号)」新潮社
1924(大正13)年12月1日発行
※底本編集時に付されたと思われる、表題冒頭の「●」は省きました。
※「予が本年発表せる創作に就いて」と題したアンケートへの、「沢山書いた」との回答です。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2011年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/052731_000183/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/052731_000183/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/052731_000183/

牧野 信一「予が本年発表せる創作に就いて──努力の不足を痛感す」(新字旧仮名)、底本『牧野信一全集第一巻』筑摩書房、2002年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 052731_000183, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite