## <ruby><rb>春</rb><rt>はる</rt></ruby>の<ruby><rb>雁</rb><rt>かり</rt></ruby>

からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち<ruby><rb>不沙汰</rb><rt>ぶさた</rt></ruby>にひっそりしている<ruby><rb>色街</rb><rt>いろまち</rt></ruby>であった。この深川では、夜などは見たこともないが、かえって昼間はどうかすると、<ruby><rb>御旅</rb><rt>おたび</rt></ruby>の裏の草ッ原で、子を連れて狐が<ruby><rb>陽</rb><rt>ひ</rt></ruby>なたに遊んでいたりする事があるという。

――<ruby><rb>通船楼</rb><rt>つうせんろう</rt></ruby>の若いおかみさんは、

「何だえ、包み始めてさ。……負けずに持って帰るつもりかえ」

歯ぎれのいい女だけに、笑いながら云っても、人を<ruby><rb>蔑</rb><rt>さげす</rt></ruby>むように美しいのである。

<ruby><rb>清吉</rb><rt>せいきち</rt></ruby>は、頭を<ruby><rb>掻</rb><rt>か</rt></ruby>いて、

「だって、<ruby><rb>御寮人様</rb><rt>ごりょんさん</rt></ruby>、何ぼなんでも、この<ruby><rb>唐桟</rb><rt>とうざん</rt></ruby>を、十七両だなんて」

「<ruby><rb>高価</rb><rt>たか</rt></ruby>すぎるかえ」

「ご<ruby><rb>冗戯</rb><rt>じょうだん</rt></ruby>でしょう。<ruby><rb>新渡</rb><rt>しんと</rt></ruby>じゃあござんせんぜ。これくらいな<ruby><rb>古渡</rb><rt>こわた</rt></ruby>りは、<ruby><rb>長崎</rb><rt>あっち</rt></ruby>だって<ruby><rb>滅多</rb><rt>めった</rt></ruby>にもうある品じゃないんで」

<ruby><rb>内緒部屋</rb><rt>ないしょべや</rt></ruby>の障子の<ruby><rb>桟</rb><rt>さん</rt></ruby>には、絶えず波の影が揺らいでいた。すぐ裏手が、晩には<ruby><rb>猪牙</rb><rt>ちょき</rt></ruby>の客を迎える<ruby><rb>狭</rb><rt>せま</rt></ruby>い河だった。

「どうするのさ」

通船楼の若いおかみさんは、清吉には<ruby><rb>苦手</rb><rt>にがて</rt></ruby>なお客様とみえる。せめて二十両でといえば、<ruby><rb>良人</rb><rt>うちのひと</rt></ruby>に着せるのだから、自分の<ruby><rb>一存</rb><rt>いちぞん</rt></ruby>ではそう高く買えないと云う。

「じゃあ、とにかく、置いて参りますから、旦那様にもお目にかけた上でひとつ……」

そこらへ並び散らしてある他の<ruby><rb>鼈甲物</rb><rt>べっこうもの</rt></ruby>だの、縞だの、<ruby><rb>珊瑚</rb><rt>さんご</rt></ruby>だの、香料だの、<ruby><rb>青磁</rb><rt>せいじ</rt></ruby>だの、支那文人画の小点などを、片手に<ruby><rb>提</rb><rt>さ</rt></ruby>げられるくらいな包みに小ぢんまりと<ruby><rb>纏</rb><rt>まと</rt></ruby>めてしまうと、

「これでいいだろう」

金を出して、<ruby><rb>通船楼</rb><rt>つうせんろう</rt></ruby>のおかみさんは、<ruby><rb>唐桟</rb><rt>とうざん</rt></ruby>の<ruby><rb>一巻</rb><rt>ひとまき</rt></ruby>を、自分の後ろへころがした。

数えてみると、二十両あるので、<ruby><rb>清吉</rb><rt>せいきち</rt></ruby>はかえって眼をみはってしまった。まだ<ruby><rb>二十歳</rb><rt>はたち</rt></ruby>を幾つも出ていまいと思われるのに、青い眉と黒豆のような歯並びをしているおかみさんは、

「ホホホホホ。<ruby><rb>揶揄</rb><rt>からか</rt></ruby>って上げたんだよ」

と、<ruby><rb>独</rb><rt>ひと</rt></ruby>りでおかしがった。

「へえ、ひどい事を！」

「あたりまえさ。<ruby><rb>良人</rb><rt>うちのひと</rt></ruby>にわたしが見立てて着せようというのに、<ruby><rb>穢</rb><rt>きたな</rt></ruby>い値切り方をしたの、買い惜しみをしたのと聞いたら、着るにも<ruby><rb>気色</rb><rt>きしょく</rt></ruby>が悪いと云って、良人だって着やしないし、わたしの意気だって届かないじゃないか」

「これはどうも、<ruby><rb>手放</rb><rt>てばな</rt></ruby>しなところを」

「お<ruby><rb>惚気賃</rb><rt>のろけちん</rt></ruby>は、前払いで云っている筈なんだよ」

三両の聞き賃かと思えば、ごもっともでといくらでも神妙に聞ける。勿論、清吉だってまだ若いのだし、木の<ruby><rb>股</rb><rt>また</rt></ruby>から生れたのでもないから、こんな女の<ruby><rb>素惚気</rb><rt>すのろけ</rt></ruby>は決していい気持なものではないが。

それに清吉は、三年のうち二年を旅暮しで送っている身だった。家は長崎で、<ruby><rb>反物</rb><rt>たんもの</rt></ruby>や装身具や支那画などの<ruby><rb>長崎骨董</rb><rt>ながさきこっとう</rt></ruby>を持って、関西から江戸の<ruby><rb>花客</rb><rt>とくい</rt></ruby>を廻り、あらかた金にすると、<ruby><rb>春</rb><rt>はる</rt></ruby>の<ruby><rb>雁</rb><rt>かり</rt></ruby>のように、遥々な<ruby><rb>故国</rb><rt>ここく</rt></ruby>へ帰ってゆくのである。

## ここの世界

清吉の<ruby><rb>花客先</rb><rt>とくいさき</rt></ruby>は、上方でも江戸でもたいがい花柳界だった。金持らしい金持となると、近づき難いし、骨を折って出入りしても、買物となると、<ruby><rb>横柄</rb><rt>おうへい</rt></ruby>ぶっているわりに、貧乏人より金には細かくて、彼に云わせれば、

（みみッちい、見かけ倒しなボロ客だ）

そうである。

第一、鑑賞の眼がない、下駄に<ruby><rb>蒔絵</rb><rt>まきえ</rt></ruby>をしたり、<ruby><rb>裾模様</rb><rt>すそもよう</rt></ruby>に<ruby><rb>珊瑚</rb><rt>さんご</rt></ruby>を入れたりして、<ruby><rb>豪奢</rb><rt>ごうしゃ</rt></ruby>ぶッているのが多いのだ。<ruby><rb>唐桟</rb><rt>とうざん</rt></ruby>の新渡も<ruby><rb>古渡</rb><rt>こわた</rt></ruby>りもわからないでは、一反の縞に、二十金も出すような物好きにはなれない。そういう物好きの多いのは、やはり天下の<ruby><rb>狭斜</rb><rt>きょうしゃ</rt></ruby>の街のうちでも、この深川に越した所はないように思われる。

そんなわけで清吉は、ずいぶん諸国の<ruby><rb>花明柳暗</rb><rt>かめいりゅうあん</rt></ruby>の里を見て来ているが、およそこの深川ほど、意気だとか、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">きゃん</span>だとか、<ruby><rb>不可思議</rb><rt>ふかしぎ</rt></ruby>な女だましいと、あそびの世界の<ruby><rb>燈火</rb><rt>ともしび</rt></ruby>とを、まるで名匠の芸術的事業でもあるように、客も<ruby><rb>妓</rb><rt>おんな</rt></ruby>も、茶屋や船頭に至るまでが、競い合って<ruby><rb>研</rb><rt>みが</rt></ruby>いているなどという所は、およそ他国の遊び場所では見られないものだった。

――だから、ここではいい<ruby><rb>商</rb><rt>あきな</rt></ruby>いも出来たが、来始めの二、三年は、この土地の人間の<ruby><rb>気質</rb><rt>きだて</rt></ruby>というものが分らなくて、清吉は<ruby><rb>呆</rb><rt>あ</rt></ruby>っ<ruby><rb>気</rb><rt>け</rt></ruby>に取られてばかりいた。――分らないといえば、<ruby><rb>馴染</rb><rt>なじ</rt></ruby>みになっても、いまだに分らない問題に度々ぶつかる。

つい<ruby><rb>昨日</rb><rt>きのう</rt></ruby>も。

<ruby><rb>櫓下</rb><rt>やぐらした</rt></ruby>の<ruby><rb>大隅屋</rb><rt>おおすみや</rt></ruby>へ商いに行って、茶ばなしに聞いていた話なのであるが――

<ruby><rb>其家</rb><rt>そこ</rt></ruby>へよく来るお客で、<ruby><rb>綽名</rb><rt>あだな</rt></ruby>を「<ruby><rb>黒</rb><rt>くろ</rt></ruby>さん」とも「<ruby><rb>能</rb><rt>のう</rt></ruby>の<ruby><rb>面</rb><rt>めん</rt></ruby>」ともいわれているお客がある。金切れもわるいし、<ruby><rb>御面相</rb><rt>ごめんそう</rt></ruby>は綽名のとおりだしするのだ。

（また、能の面の口だとさ）

と聞くと、<ruby><rb>何家</rb><rt>どこ</rt></ruby>の<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>も逃げを張って、<ruby><rb>花代</rb><rt>はな</rt></ruby>に依らず、座敷へ出てがない。

すると、お<ruby><rb>鷹</rb><rt>たか</rt></ruby>という<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>が、

（わちきが、いいお客にしてみせよう）

と云って<ruby><rb>好</rb><rt>この</rt></ruby>んで出たが、同時に、べつな家のお<ruby><rb>蝶</rb><rt>ちょう</rt></ruby>という妓も、

（そんなに<ruby><rb>持</rb><rt>も</rt></ruby>てないお客なら、わたしが持てるお客にしてみせる）

と、自分から進んで座敷へ買って出た。

四、五たび<ruby><rb>両妓</rb><rt>ふたり</rt></ruby>がぶつかるうちに、当然、黒さんを<ruby><rb>挟</rb><rt>はさ</rt></ruby>んで張りッこになった。お鷹は、お蝶に<ruby><rb>情夫</rb><rt>いろ</rt></ruby>があるのを知っていたので、

（おまえの心意気か知らないが、そんなおせっ<ruby><rb>介</rb><rt>かい</rt></ruby>に出なさんして、忠さんによいのかえ）

痛いところを、黒さんの前で<ruby><rb>素</rb><rt>す</rt></ruby>ッぱ抜いた。

するとすぐお蝶は、恋人を呼びにやって、黒さんの眼の前で、無理に切れてしまったというのである。

――清吉には、どう考えても、そんな<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>の心理がわからないのであった。それをまた、噂ばなしに、

（あの妓は、うれしい意気だよ）

などと<ruby><rb>称</rb><rt>たた</rt></ruby>えているこの土地の女や男達の気持もなおさら、<ruby><rb>解</rb><rt>げ</rt></ruby>せなかった。

もっと、彼が首を<ruby><rb>傾</rb><rt>かし</rt></ruby>げた話では。

<ruby><rb>木綿</rb><rt>もめん</rt></ruby>のお<ruby><rb>力</rb><rt>りき</rt></ruby>という妓がある。そのお力が、<ruby><rb>八幡前</rb><rt>はちまんまえ</rt></ruby>の小鳥屋の前まで来ると、人だかりがしていた。<ruby><rb>覗</rb><rt>のぞ</rt></ruby>いてみると、尾花家の<ruby><rb>稚妓</rb><rt>こども</rt></ruby>が小鳥屋の亭主に何かひどく<ruby><rb>呶鳴</rb><rt>どな</rt></ruby>られていた。

（どうしたのさ）

ベソを<ruby><rb>掻</rb><rt>か</rt></ruby>いている稚妓に聞くと、稚妓をさし措いて小鳥屋の亭主が、<ruby><rb>店頭</rb><rt>みせさき</rt></ruby>の立派やかな<ruby><rb>鳥籠</rb><rt>とりかご</rt></ruby>を示し、これは今、<ruby><rb>蒔絵</rb><rt>まきえ</rt></ruby>の鳥籠を註文してあるが、それが出来てくれば、さるお大名へ<ruby><rb>納</rb><rt>おさ</rt></ruby>める事になっている朝鮮渡りの<ruby><rb>鵯</rb><rt>ひよどり</rt></ruby>で、<ruby><rb>一番</rb><rt>ひとつがい</rt></ruby>で三十両もする名鳥なのに、この稚妓が今、菓子など喰わせたから怒ったのだと口から<ruby><rb>唾</rb><rt>つば</rt></ruby>をとばして云った。

するとお力は、

（おや、そうかえ。<ruby><rb>稚妓</rb><rt>こども</rt></ruby>だから、自分にひきくらべて、小鳥もお菓子を喰べたいだろうと思ってやったのだろうよ。わたしも、自分の勤めの身にひきくらべると、こうしてやりたくなってしまったよ）

あれ――という間に、<ruby><rb>籠</rb><rt>かご</rt></ruby>の口を開けて<ruby><rb>鵯</rb><rt>ひよどり</rt></ruby>を青空へ逃がしてしまった。

（何も<ruby><rb>噪</rb><rt>さわ</rt></ruby>ぐこたあないじゃないか。三十両払ってやりさえすればいいんだろう）

首も廻らない借金のある上に、お力はまた、借金を増して、それを払ったという話なのである。

――中国<ruby><rb>筋</rb><rt>すじ</rt></ruby>、大坂、<ruby><rb>島原</rb><rt>しまばら</rt></ruby>と、諸国の遊び場所を通って来たが、清吉はこんな馬鹿な女の多い土地はまだ<ruby><rb>他</rb><rt>ほか</rt></ruby>では知らなかった。彼が今、<ruby><rb>一商</rb><rt>ひとあきな</rt></ruby>いした<ruby><rb>通船楼</rb><rt>つうせんろう</rt></ruby>の若いおかみさんなどは、前のお蝶やお力などからみれば、まだまだ、くせの少ない方らしく思われた。

## <ruby><rb>男袷</rb><rt>おとこあわせ</rt></ruby>

「おや、おかみさん、<ruby><rb>好</rb><rt>す</rt></ruby>いたらしい物をお買いなすったね。これは<ruby><rb>古渡</rb><rt>こわた</rt></ruby>りじゃござんせんか」

清吉が立ちかけると、こう云って、そこの<ruby><rb>内緒</rb><rt>ないしょ</rt></ruby>を<ruby><rb>覗</rb><rt>のぞ</rt></ruby>き、今おかみさんの求めた反物を<ruby><rb>沁々</rb><rt>しみじみ</rt></ruby>見ている<ruby><rb>妓</rb><rt>おんな</rt></ruby>があった。

<ruby><rb>辰巳</rb><rt>たつみ</rt></ruby>ごのみを典型的に身に持っている<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>だった。すこし<ruby><rb>窶</rb><rt>やつ</rt></ruby>れの見えるのもかえって男には魅惑がある。二十三、四というところであろう。<ruby><rb>痩</rb><rt>や</rt></ruby>せがたで、抜けるほど白い<ruby><rb>襟足</rb><rt>えりあし</rt></ruby>が、<ruby><rb>寒紅梅</rb><rt>かんこうばい</rt></ruby>につもった雪を連想させる。

「――あの人が無事でいたら、わたしもどんな<ruby><rb>工面</rb><rt>くめん</rt></ruby>しても、こんなのを<ruby><rb>一反</rb><rt>いったん</rt></ruby>仕立てて、今年の<ruby><rb>袷</rb><rt>あわせ</rt></ruby>に、着せてやりたいが……」

軽い<ruby><rb>嘆息</rb><rt>ためいき</rt></ruby>して<ruby><rb>呟</rb><rt>つぶや</rt></ruby>くと、通船楼の若いおかみさんは、

「何さ、秀八さんともあろう<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>が、そんなさもしい<ruby><rb>愚痴</rb><rt>ぐち</rt></ruby>を云って」

「ほんとに、わたしも少し<ruby><rb>薹</rb><rt>とう</rt></ruby>が立って来たらしい」

「お座敷かえ」

「え、めずらしく。……この頃あ昼間のお客でもなければ、<ruby><rb>招</rb><rt>よ</rt></ruby>ばれもしなくなったとみえてね」

「また、<ruby><rb>自暴</rb><rt>やけ</rt></ruby>にお飲みでないよ」

秀八という名を、清吉はそこで記憶した。やがて、おかみさんに励まされたり、<ruby><rb>軽口</rb><rt>かるくち</rt></ruby>を交わしたりして出て行ったうしろ姿を、清吉は、<ruby><rb>唾</rb><rt>つば</rt></ruby>をのんでいるように、黙って見ていた。

「いい<ruby><rb>芸者衆</rb><rt>げいしゃしゅう</rt></ruby>ですね。あれで、売れないんですか」

その後で、こう話を出すと、

「どうして、この<ruby><rb>辰巳</rb><rt>たつみ</rt></ruby>でも、あんなに売れた<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>はなかった程だけれど、ちょっと、おかしな事が、ぱっと聞えたものだからさ」

「ヘエ、どうした<ruby><rb>理</rb><rt>わけ</rt></ruby>なんで？」

「何がさ」

「そんなに<ruby><rb>流行</rb><rt>はや</rt></ruby>っていた妓なのに、急に客が落ちたというのは」

「よけいな<ruby><rb>詮索</rb><rt>せんさく</rt></ruby>をおしでないよ。おまえさんは、<ruby><rb>長崎骨董</rb><rt>ながさきこっとう</rt></ruby>でも<ruby><rb>弄</rb><rt>ひね</rt></ruby>っていればいいのだろ」

相手にもしてくれないのである。若いおかみさんは、さっさと立って裏の川を覗きながら、今度はそこで晩の<ruby><rb>支度</rb><rt>したく</rt></ruby>をしている抱え船頭と、明るい声で何か<ruby><rb>冗戯</rb><rt>じょうだん</rt></ruby>を云っていた。

## <ruby><rb>黒</rb><rt>くろ</rt></ruby>い<ruby><rb>嬌歯</rb><rt>きょうし</rt></ruby>

品物はあらかた<ruby><rb>捌</rb><rt>さば</rt></ruby>けた。

いつもならば、路銀だけを<ruby><rb>懐中</rb><rt>ふところ</rt></ruby>に残し、後の金は<ruby><rb>悉皆</rb><rt>しっかい</rt></ruby>、長崎表へ<ruby><rb>為替</rb><rt>かわせ</rt></ruby>に組んで、<ruby><rb>身軽</rb><rt>みがる</rt></ruby>になって江戸を立つ頃であったが、清吉は、五月になっても、まだ深川に日を暮していた。

諸国の女の世界ばかりを<ruby><rb>花客先</rb><rt>とくいさき</rt></ruby>に廻っているので、よく<ruby><rb>儲</rb><rt>もう</rt></ruby>けもするが、

（今に見な、<ruby><rb>木乃伊取</rb><rt>ミイラと</rt></ruby>りが木乃伊になって、何か女で<ruby><rb>躓</rb><rt>つまず</rt></ruby>くから）

と、仲間の<ruby><rb>老人株</rb><rt>としよりかぶ</rt></ruby>からよく云われていたが、清吉は肚の中で、

（ふん、そんな甘いんじゃねえ）

と、笑う者をかえって<ruby><rb>嗤</rb><rt>わら</rt></ruby>っていた。

だが――今度だけは、少しその気持のぐらつきを、自分でも認めないわけにはゆかなかった。

ぷーんと<ruby><rb>藍</rb><rt>あい</rt></ruby>の香のたかい<ruby><rb>袷</rb><rt>あわせ</rt></ruby>の<ruby><rb>仕</rb><rt>し</rt></ruby>つけ糸を抜いたばかりなのを着込んで、今日も、灯ともし頃から、わざと人目離れた場末の<ruby><rb>新石場</rb><rt>しんいしば</rt></ruby>の<ruby><rb>金子屋</rb><rt>かねこや</rt></ruby>へ出かけてゆくと、

「おや、<ruby><rb>清</rb><rt>せい</rt></ruby>どん」

<ruby><rb>八幡横町</rb><rt>はちまんよこちょう</rt></ruby>で、ばったり、<ruby><rb>通船楼</rb><rt>つうせんろう</rt></ruby>の若いおかみさんに出会ってしまった。

「やあ、どちらへ」

清吉が、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">てれ</span>て云うと、

「どちらとは、こちから聞くところだよ。おまえさん、先月の<ruby><rb>初旬</rb><rt>はじめ</rt></ruby>には、もう長崎へ帰る帰ると云っていたのに、今頃まで、まだ深川にいたのかえ」

「ええ……実は少し、<ruby><rb>掛金</rb><rt>かけ</rt></ruby>の寄らない<ruby><rb>先様</rb><rt>さきさま</rt></ruby>があるもんですから」

「嘘をお云い。何でも近頃は、せっせと金子屋へ通って、秀八と会っているということじゃないか」

「誰がそんな事を云いましたか」

「云わなくたって、あたしにはちゃんと判っている。秀八が<ruby><rb>挿</rb><rt>さ</rt></ruby>している<ruby><rb>翡翠珠</rb><rt>ひすいだま</rt></ruby>は、おまえがいつか、わたしの<ruby><rb>釵</rb><rt>かんざし</rt></ruby>か<ruby><rb>良人</rb><rt>うち</rt></ruby>の<ruby><rb>根付</rb><rt>ねつけ</rt></ruby>にどうですと云ってすすめた珠じゃないか。どう？　恐れ入ったろう」

「……これは<ruby><rb>手酷</rb><rt>てきび</rt></ruby>しい」

「会いたいなら、わたしの<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>だってお茶屋だし、わたしが会わして上げるものを、隠れ遊びなんざよくないね」

「相済みません。……どうもつい、お<ruby><rb>花客先</rb><rt>とくいさき</rt></ruby>のお宅じゃあ」

「肩の<ruby><rb>凝</rb><rt>こ</rt></ruby>りがほぐれないかえ。その<ruby><rb>解</rb><rt>ほぐ</rt></ruby>れないところにうま味があるんだけれど」

「そのうちに伺います」

「もう<ruby><rb>手遅</rb><rt>ておく</rt></ruby>れだあね。……出来ちまったものは仕方がないから、たった一言云っておくが、いつかもちょっと云ったように、あの<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>の体には今、うるさい噂が立っているところだからね。おまえさんは旅の者で何も知るまいが、<ruby><rb>怪我</rb><rt>けが</rt></ruby>をしないようにおしよ」

黒豆を並べたようなこの若いおかみさんの<ruby><rb>嬌歯</rb><rt>きょうし</rt></ruby>が、清吉にはこの時も、何か他国者の自分を<ruby><rb>嘲</rb><rt>わら</rt></ruby>っているように見えてならなかった。<ruby><rb>宵詣</rb><rt>よいまい</rt></ruby>りにでも来たのであろう。<ruby><rb>片笑靨</rb><rt>かたえくぼ</rt></ruby>でそう云うとすぐおかみさんの姿は、鳥居<ruby><rb>内</rb><rt>うち</rt></ruby>の<ruby><rb>宵闇</rb><rt>よいやみ</rt></ruby>の人影に<ruby><rb>紛</rb><rt>まぎ</rt></ruby>れてしまった。

## 冷たい指

「約束のものを持って来たが」

秀八の顔を見るとすぐ、清吉は、五十両の<ruby><rb>封金</rb><rt>きりもち</rt></ruby>を三つ、ふたりの間へ置いた。そしてその手に<ruby><rb>杯</rb><rt>さかずき</rt></ruby>を持った。

「じゃあ何も<ruby><rb>使</rb><rt>つか</rt></ruby>い<ruby><rb>途</rb><rt>みち</rt></ruby>を聞かずに……」

「元より、初めからの約束だ。おまえがそれを、<ruby><rb>情夫</rb><rt>いろ</rt></ruby>に<ruby><rb>貢</rb><rt>みつ</rt></ruby>ごうが、どんな借金に<ruby><rb>費</rb><rt>つか</rt></ruby>おうが、何も訊こうとは云わないから、安心して取っておくがいい」

新石場は、深川での新開地だった。金子の二階からは、石川島の<ruby><rb>懲役場</rb><rt>しおきば</rt></ruby>の<ruby><rb>灯</rb><rt>ひ</rt></ruby>がひろい闇の中にポチとみえる。秀八は、暗い海へ<ruby><rb>面</rb><rt>おもて</rt></ruby>を向けて、じっと何か思いに沈んでいた。

<ruby><rb>欣</rb><rt>うれ</rt></ruby>しそうな顔もしない。――<ruby><rb>一言</rb><rt>ひとこと</rt></ruby>、

（ありがとう）

とも云わないのである。

おまけに初めから、<ruby><rb>費</rb><rt>つか</rt></ruby>い<ruby><rb>途</rb><rt>みち</rt></ruby>は訊いてくれるなという約束だった。百五十両といえば<ruby><rb>算盤</rb><rt>そろばん</rt></ruby>の<ruby><rb>弾</rb><rt>はじ</rt></ruby>き<ruby><rb>方</rb><rt>かた</rt></ruby>を知っている清吉には莫大な金に違いなかった。彼の一生涯でも思い切った気前の一つとなるであろう程な<ruby><rb>額</rb><rt>たか</rt></ruby>である。

「仕舞っておかないか。人が来るとよくないから」

<ruby><rb>杯</rb><rt>さかずき</rt></ruby>を出した。

杯の<ruby><rb>糸底</rb><rt>いとぞこ</rt></ruby>で秀八の冷たい指に、清吉の指が<ruby><rb>触</rb><rt>ふ</rt></ruby>れた。

「じゃあ、<ruby><rb>貰</rb><rt>もら</rt></ruby>っておきます」

厚い帯のあいだへ、秀八は金を仕舞った。清吉は、自分が惜しい眼でもしていないかと<ruby><rb>惧</rb><rt>おそ</rt></ruby>れて、床の間の<ruby><rb>懐月堂</rb><rt>かいげつどう</rt></ruby>の<ruby><rb>幅</rb><rt>ふく</rt></ruby>を見ていた。

意気といったようなもの――<ruby><rb>侠</rb><rt>きゃん</rt></ruby>といったようなもの――この<ruby><rb>辰巳</rb><rt>たつみ</rt></ruby>の女だけが持つさまざまな心<ruby><rb>伊達</rb><rt>だて</rt></ruby>だの<ruby><rb>肌合</rb><rt>はだあ</rt></ruby>いの中に<ruby><rb>溶</rb><rt>と</rt></ruby>け入って、清吉は一生涯に一度の思い出を<ruby><rb>創</rb><rt>つく</rt></ruby>るつもりで、<ruby><rb>算盤</rb><rt>そろばん</rt></ruby>を捨てているのだった。

――と云っても、ただの「遊び」でそれをしているほど、彼はまだ<ruby><rb>枯淡</rb><rt>こたん</rt></ruby>な<ruby><rb>粋人</rb><rt>すいじん</rt></ruby>では勿論なかった。やはり秀八の<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ずば</span>抜けた<ruby><rb>緻容</rb><rt>きりょう</rt></ruby>と、<ruby><rb>侠</rb><rt>きゃん</rt></ruby>な辰巳肌のうちに、どことなく打ち<ruby><rb>潤</rb><rt>しめ</rt></ruby>っている<ruby><rb>窶</rb><rt>やつ</rt></ruby>れの美しさが、通船楼で見た時から受けたつよい魅力であった。

あれから、わざとこの場末に避けて、七、八回会っていた。いつでも何か物案じな秀八の<ruby><rb>眸</rb><rt>ひとみ</rt></ruby>だった。金の事なら――とあっさり引きうけたのが今夜の事となったのである。

もっとも、その前後に秀八が<ruby><rb>杯</rb><rt>さかずき</rt></ruby>の<ruby><rb>嘆息</rb><rt>ためいき</rt></ruby>に、

（いッそ、他国へ行ってしまいたい）

と、二、三度つぶやいた。

清吉も心の<ruby><rb>裡</rb><rt>うち</rt></ruby>で、

（この女となら――）

と、思わないでもない。長崎へ行かないかと云えば、一緒に逃げて来そうな<ruby><rb>気振</rb><rt>けぶり</rt></ruby>もある。

けれど、それを条件に、金を出すのは、<ruby><rb>辰巳遊</rb><rt>たつみあそ</rt></ruby>びでいう――<ruby><rb>野暮</rb><rt>やぼ</rt></ruby>というものになろうし、また、折角の金が死ぬと考えて黙って――女の心のうごきを、彼は、見ようとしていた。

<ruby><rb>半刻</rb><rt>はんとき</rt></ruby>ほど、静かに飲んでいると、秀八は急に落着かない顔して――

「やっぱり、わたしは今夜のうちに済まして来よう。清吉さん、このお金の<ruby><rb>費</rb><rt>つか</rt></ruby>い<ruby><rb>途</rb><rt>みち</rt></ruby>がついたら、わたしを連れて、すぐ江戸を立ってくれますか」

自分の胸だけで、もう決めていたような<ruby><rb>口吻</rb><rt>くちぶり</rt></ruby>だった。清吉はむしろ思う<ruby><rb>壺</rb><rt>つぼ</rt></ruby>だった。百五十両が、この女の<ruby><rb>身代</rb><rt>みのしろ</rt></ruby>になるならばむしろ<ruby><rb>安値</rb><rt>やす</rt></ruby>いものだという<ruby><rb>算盤</rb><rt>そろばん</rt></ruby>が――無意識のうちに胸で働いていた。

「え。おれと？」

手を握って、見つめると、

「<ruby><rb>九刻</rb><rt>ここのつ</rt></ruby>ころ、<ruby><rb>御旅</rb><rt>おたび</rt></ruby>の<ruby><rb>汐見松</rb><rt>しおみまつ</rt></ruby>の下で落会っておくんなさいな。――私も、<ruby><rb>旅支度</rb><rt>たびじたく</rt></ruby>をして行きますから」

秀八はそう云うと、じっと清吉の手を握り返して、先に金子の座敷をもらって帰って行った。

## <ruby><rb>水調子</rb><rt>みずちょうし</rt></ruby>

<ruby><rb>九刻</rb><rt>ここのつ</rt></ruby>――といえばもう夜半、だいぶ間があるなあと、<ruby><rb>杯</rb><rt>さかずき</rt></ruby>を見て清吉は独り思う。

支度と云っても、もう商いの荷はないし、旅馴れてもいるので、これに、<ruby><rb>脚絆</rb><rt>きゃはん</rt></ruby>と<ruby><rb>草鞋</rb><rt>わらじ</rt></ruby>さえつければ、だが――ふと不安になって来たのは、

（ほんとに、来るのかしら？）

秀八の心の底だった。

無心した金さえ<ruby><rb>費</rb><rt>つか</rt></ruby>い<ruby><rb>途</rb><rt>みち</rt></ruby>を、訊いてくれるな、訊くなら<ruby><rb>要</rb><rt>い</rt></ruby>らないと云った女。――考えれば危ないものと、どうしても思われてならない。

通船楼のおかみさんに<ruby><rb>嗤</rb><rt>わら</rt></ruby>われたくない気がしきりにして来る。百五十両という額も、今さら、身に過ぎた大金に思えて惜しくもなった。――けれど、ほんの通りがかりに、三十両もする小鳥屋の<ruby><rb>鵯</rb><rt>ひよどり</rt></ruby>をツイと籠から放して、生涯の借金に背負っても苦にしないでいる<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>もある深川かと思うと、こんな事では、<ruby><rb>辰巳</rb><rt>たつみ</rt></ruby>で遊び客の資格はないのだと、あの通船楼の若いおかみさんの<ruby><rb>鉄漿</rb><rt>おはぐろ</rt></ruby>がまたどこかで<ruby><rb>嗤</rb><rt>わら</rt></ruby>っているような気がするのだった。

なるべく、<ruby><rb>此家</rb><rt>ここ</rt></ruby>で時をつぶしていようと、清吉は<ruby><rb>銚子</rb><rt>ちょうし</rt></ruby>を代えたが、手酌となるとすぐ酔ってしまった。

ごろりと横になった。

葉桜がどこかで風になっている。ここの風にはじっとりと<ruby><rb>潮気</rb><rt>しおけ</rt></ruby>があった。若い手足をのびのび投げて吹かせていると、

だまされて　いるのが遊び

なかなかに

<ruby><rb>騙</rb><rt>だま</rt></ruby>すそなたの　手のうまさ

<ruby><rb>水鶏</rb><rt>くいな</rt></ruby><ruby><rb>啼</rb><rt>な</rt></ruby>く夜の

酒の<ruby><rb>味</rb><rt>あじ</rt></ruby>……

近所の窓から洩れる忍び駒が、熱い<ruby><rb>耳朶</rb><rt>みみたぶ</rt></ruby>へ、冷んやりと流れこんでくる。

「ここらが辰巳の遊びの味というものかしらて？」

だが清吉は――例えば大きな<ruby><rb>博奕</rb><rt>ばくち</rt></ruby>を<ruby><rb>賭</rb><rt>は</rt></ruby>っているように結果が待たれた。黒と出るか白と出るか、その結果のわかるまが<ruby><rb>値打物</rb><rt>ねうちもの</rt></ruby>とは思うが、やはり秀八にこのまま<ruby><rb>打</rb><rt>う</rt></ruby>っ<ruby><rb>捨</rb><rt>ちゃ</rt></ruby>りを喰えば<ruby><rb>嗤</rb><rt>わら</rt></ruby>われた<ruby><rb>揚句</rb><rt>あげく</rt></ruby>まる損だし、約束した通りに行けば、金も生きるし、心意気も立つし、この先もう一苦労してもいい相手だから、ずいぶん<ruby><rb>安値</rb><rt>やす</rt></ruby>いものにつくが……などと彼の頭はやはり、<ruby><rb>算盤</rb><rt>そろばん</rt></ruby>とは縁が断ち切れなかった。

「まあ、お<ruby><rb>寝</rb><rt>よ</rt></ruby>っているなら、<ruby><rb>掻巻</rb><rt>かいまき</rt></ruby>でも持って来てさし上げましたのに。……お風邪を引きやしませんか」

金子の女中が上がって来て、彼の<ruby><rb>傍</rb><rt>そば</rt></ruby>へ、用ありそうに坐った。

「なあに、寝ちゃあいないよ。いい気持であの<ruby><rb>水調子</rb><rt>みずちょうし</rt></ruby>を聞き<ruby><rb>惚</rb><rt>ほ</rt></ruby>れていたのさ。……今<ruby><rb>何刻</rb><rt>なんどき</rt></ruby>だえ」

「もう<ruby><rb>八刻</rb><rt>やつ</rt></ruby>ごろでしょうか」

「よその<ruby><rb>爪弾</rb><rt>つめび</rt></ruby>きなんぞ聞いていると、何だか、<ruby><rb>故郷心</rb><rt>さとごころ</rt></ruby>がついて、気がめいっていけねえや。誰か、つき交ぜた顔で、三人ばかり<ruby><rb>招</rb><rt>よ</rt></ruby>ばないか、飲み直して、からっと笑って帰ろう」

「……でも、今、お迎えに見えていますよ」

「え。……誰が」

「通船楼のお使いが」

## <ruby><rb>澪</rb><rt>みお</rt></ruby>つくし

金子の勘定を払って清吉は使いに来た通船楼の男と、ぶらぶら<ruby><rb>河岸</rb><rt>かし</rt></ruby>を歩いていた。

「いったい、何の御用でしょう」

気にかかるので、しきりに<ruby><rb>訊</rb><rt>き</rt></ruby>いてみたが、使いの男は何も知らない様子で、

「さ、何も<ruby><rb>伺</rb><rt>うかが</rt></ruby>っておりませんが、ただ、おかみさんは先へ行って、<ruby><rb>土橋</rb><rt>どばし</rt></ruby>の<ruby><rb>梅掌軒</rb><rt>ばいしょうけん</rt></ruby>の<ruby><rb>床几</rb><rt>しょうぎ</rt></ruby>で待っているから、あなたを呼んで来てくれと仰っしゃっただけなんで。――何ですかいつぞやお求めになった、<ruby><rb>唐桟</rb><rt>とうざん</rt></ruby>を包んで持っておいでになりましたから、あの<ruby><rb>反物</rb><rt>たんもの</rt></ruby>の事じゃございませんか」

「はてな。あれやあほんとの<ruby><rb>古渡</rb><rt>こわた</rt></ruby>りで、新渡の<ruby><rb>贋物</rb><rt>いかもの</rt></ruby>を売ったわけでもないが。……その梅掌軒ていうなあ<ruby><rb>汁粉屋</rb><rt>しるこや</rt></ruby>か何かですか」

「いいえ土橋に出ている<ruby><rb>売卜者</rb><rt>えきしゃ</rt></ruby>ですよ」

「へえ、あんな<ruby><rb>侠</rb><rt>きゃん</rt></ruby>な<ruby><rb>気質</rb><rt>きだて</rt></ruby>のおかみさんでも、<ruby><rb>卜</rb><rt>うらない</rt></ruby>などを観てもらいに行きますかね」

使いの男は、土橋のてまえまで来ると挨拶して、店へ帰ってしまった。

竹の柱に、<ruby><rb>八卦</rb><rt>はっけ</rt></ruby>の<ruby><rb>乾坤</rb><rt>けんこん</rt></ruby>を書いた布の囲い、暗い川風にうごいていた。<ruby><rb>筮竹</rb><rt>ぜいちく</rt></ruby>の前に、易者の姿は見えなかった。――<ruby><rb>覗</rb><rt>のぞ</rt></ruby>き込んで、ちょっと清吉がぼんやりしていると、

「こっちだよ、往来から見えるから、裏へ廻っておいで」

と、川の方に向っている幕の<ruby><rb>蔭</rb><rt>かげ</rt></ruby>で、通船楼のおかみさんの声がした。

<ruby><rb>巨</rb><rt>おお</rt></ruby>きな<ruby><rb>柳樹</rb><rt>やなぎ</rt></ruby>の根を廻って、裏の方へ行ってみると若いおかみさんは、そこの<ruby><rb>床几</rb><rt>しょうぎ</rt></ruby>に腰かけて、川の<ruby><rb>櫓音</rb><rt>ろおと</rt></ruby>でも聞いているようにじっとしていた。

使いの男が云った通り、いつぞやの<ruby><rb>唐桟</rb><rt>とうざん</rt></ruby>らしい丸い物を、風呂敷につつんで膝にのせていた。

「何ぞ、御用ですかえ」

その唐桟なら、突き戻されるような品でもないし、何か、苦情を云われたら、あべこべに云ってやる気で、清吉は小腰を<ruby><rb>屈</rb><rt>かが</rt></ruby>めた。

「<ruby><rb>清</rb><rt>せい</rt></ruby>さん……おまえ今夜、秀八に金をやったろう」

「えっ……？」

「今、あの<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>は、家へ来ているんだよ」

「へえ、おかみさんに、話しに行ったんですか」

「わたしじゃないのさ。……会っているのは、<ruby><rb>与力衆</rb><rt>よりきしゅう</rt></ruby>と、<ruby><rb>伝馬牢</rb><rt>てんまろう</rt></ruby>の同心だよ」

「<ruby><rb>牢</rb><rt>ろう</rt></ruby>役人に……。はてな？　……それやあどういう<ruby><rb>理</rb><rt>わけ</rt></ruby>でございましょう」

「だからわたしが断っておいたじゃないか。――あの<ruby><rb>妓</rb><rt>こ</rt></ruby>の<ruby><rb>情夫</rb><rt>いろ</rt></ruby>は、<ruby><rb>澪</rb><rt>みお</rt></ruby>の伝兵衛という大泥棒なのだよ」

「げっ、そんな<ruby><rb>紐</rb><rt>ひも</rt></ruby>があったんですか」

「<ruby><rb>白魚</rb><rt>しらうお</rt></ruby>の黒いのがあったって、<ruby><rb>紐</rb><rt>ひも</rt></ruby>のない<ruby><rb>芸妓</rb><rt>はおり</rt></ruby>なんかいるわけはない。おまえも存外、<ruby><rb>色里</rb><rt>いろざと</rt></ruby>を知らない人だねえ」

「そして、与力衆や伝馬役人と、どういうわけでお宅で会っているんですか」

「その<ruby><rb>澪</rb><rt>みお</rt></ruby>の伝兵衛が、ついこの春先、お<ruby><rb>縄</rb><rt>なわ</rt></ruby>になったのさ。ぱっと噂になって、あの妓が売れなくなったというのは、大泥棒の<ruby><rb>澪</rb><rt>みお</rt></ruby>が<ruby><rb>紐</rb><rt>ひも</rt></ruby>だという事がお<ruby><rb>白洲</rb><rt>しらす</rt></ruby>で知れたからで、伝兵衛のお仕置は、獄門と極ったらしいが、どうしても、あの妓はそれを助けたいというので、お上の<ruby><rb>沙汰</rb><rt>さた</rt></ruby>も金次第だから、その筋へそっと<ruby><rb>贈</rb><rt>まわ</rt></ruby>す<ruby><rb>賄賂</rb><rt>おくすり</rt></ruby>の金を工面していたらしい。……そこへおまえさんという<ruby><rb>鴨</rb><rt>かも</rt></ruby>がかかったから、早速、馴じみの与力衆から手を廻して、今、わたしの出て来る前に、<ruby><rb>離室</rb><rt>はなれ</rt></ruby>でその取引さ」

「ヘエ、じゃああの金で、<ruby><rb>澪</rb><rt>みお</rt></ruby>の伝兵衛とかいう泥棒の男の<ruby><rb>生命</rb><rt>いのち</rt></ruby>が助かるんですか」

「まさか、お<ruby><rb>追放</rb><rt>ついほう</rt></ruby>とはゆかないけれど、<ruby><rb>獄門</rb><rt>ごくもん</rt></ruby>のところを<ruby><rb>遠島</rb><rt>えんとう</rt></ruby>ぐらいにはなるのは<ruby><rb>御定法</rb><rt>ごじょうほう</rt></ruby>とされている。――つまらない眼に<ruby><rb>遭</rb><rt>あ</rt></ruby>ったのはおまえさんさ。もう金のほうは<ruby><rb>諦</rb><rt>あきら</rt></ruby>めものだが、この上にまだ、<ruby><rb>曰</rb><rt>いわ</rt></ruby>くつきの<ruby><rb>妓</rb><rt>おんな</rt></ruby>にかかっていると、どんな目にあうかも知れないから、親しい<ruby><rb>誼</rb><rt>よし</rt></ruby>みに、<ruby><rb>一言</rb><rt>ひとこと</rt></ruby>教えておくよ。わたしの<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>でちらと見かけたのが、おまえさんの<ruby><rb>落目</rb><rt>おちめ</rt></ruby>の<ruby><rb>機</rb><rt>き</rt></ruby>ッかけになったなんて、生涯云われるのは寝ざめがわるいからね」

「御親切に、有難うございます」

「こんな事になるなら、早く打明けておけばよかったけれど、まさか、おまえさんがそんな<ruby><rb>甘納豆</rb><rt>あまなっとう</rt></ruby>みたいな人とも思わなかったから……」

「あはははは、これあ御挨拶でございますね。清吉も、女にゃ甘いに違いございませんが、これでも色街の事には、年期を入れておりますから、満更、<ruby><rb>溝</rb><rt>どぶ</rt></ruby>へ金を捨てるようなヘマはしていないつもりでございます」

「オヤ、そうなのかえ。わたしゃあまた、半年も一年も、旅の空で<ruby><rb>稼</rb><rt>かせ</rt></ruby>ぎ<ruby><rb>溜</rb><rt>た</rt></ruby>めたお金をと思って、余計な心配をしたわけだが……」

「いいえ、この清吉だって、<ruby><rb>初手</rb><rt>しょて</rt></ruby>からそれくらいな事は、感づいていないわけじゃなかったんで」

「へ。知っていたのかえ」

「あの女の心意気に――ええ、百五十両くれてやりました」

「心意気に？」

<ruby><rb>擽</rb><rt>くすぐ</rt></ruby>ったそうに、通船楼のおかみさんは笑った。闇の中でも<ruby><rb>鉄漿</rb><rt>おはぐろ</rt></ruby>は光った。

「……<ruby><rb>成程</rb><rt>なるほど</rt></ruby>、心意気かえ。……じゃあ他人から何もおせッかいは<ruby><rb>要</rb><rt>い</rt></ruby>らない事。おまえさんも、二、三年辰巳へ商いに来たおかげで、たいそう深川の水に<ruby><rb>滲</rb><rt>し</rt></ruby>みた<ruby><rb>通人</rb><rt>つうじん</rt></ruby>におなりだね。じゃあ来年またおいで」

心意気といえば、自分のヘマも隠されるし、先でも<ruby><rb>賞</rb><rt>ほ</rt></ruby>めてくれるかと思っていたが、案外、それが気に喰わなかったように、通船楼の若いおかみさんは、さっさと、清吉を<ruby><rb>置</rb><rt>お</rt></ruby>き<ruby><rb>去</rb><rt>ざ</rt></ruby>りにして、暗い横丁へ急いでしまった。

## <ruby><rb>裏</rb><rt>うら</rt></ruby>で<ruby><rb>燈</rb><rt>とも</rt></ruby>す<ruby><rb>灯</rb><rt>ひ</rt></ruby>

ごぼごぼと、<ruby><rb>咳</rb><rt>せき</rt></ruby>の声がする。うどん屋へ<ruby><rb>外</rb><rt>はず</rt></ruby>していた易者の梅掌軒がもどって来て、もう<ruby><rb>筮竹</rb><rt>ぜいちく</rt></ruby>を鳴らしているのだ。

「<ruby><rb>唐桟</rb><rt>とうざん</rt></ruby>を持っていたのに……その事は何も云わなかったが」

若いおかみさんの曲がった横丁へ、清吉も曲がって行った。

彼が<ruby><rb>尾</rb><rt>つ</rt></ruby>いて来るとは知らないもののように、通船楼の若いおかみさんは、薄暗い<ruby><rb>質屋庫</rb><rt>しちやぐら</rt></ruby>にひっ付いている<ruby><rb>蔀</rb><rt>しとみ</rt></ruby>障子を開けて、そんな所を<ruby><rb>潜</rb><rt>くぐ</rt></ruby>りそうもない姿をついそこへかくした。

「……あ、<ruby><rb>質屋</rb><rt>しちや</rt></ruby>へ？」

<ruby><rb>袷季節</rb><rt>あわせどき</rt></ruby>に、買ったばかりの袷の<ruby><rb>反物</rb><rt>たんもの</rt></ruby>を。

それを買う時に云った歯ぎれのいい若いおかみさんの言葉が、清吉の耳へ<ruby><rb>甦</rb><rt>よみがえ</rt></ruby>ってきて、何か皮肉なものを感じさせた。

「これで、あそこの<ruby><rb>楼</rb><rt>うち</rt></ruby>の<ruby><rb>内緒</rb><rt>ないしよ</rt></ruby>も、知れたもんだ……」

<ruby><rb>八幡鐘</rb><rt>はちまんがね</rt></ruby>が横丁を鳴って通った。

「ア、<ruby><rb>九刻</rb><rt>ここのつ</rt></ruby>」

清吉は、急ぎ出した。通船楼のおかみさんは笑ったが、秀八の金の<ruby><rb>使</rb><rt>つか</rt></ruby>い<ruby><rb>途</rb><rt>みち</rt></ruby>を聞いてみると、清吉は、あの女が、確かに自分の心意気を受け取っているものという感じがした。かえって、<ruby><rb>頼</rb><rt>たの</rt></ruby>もしい女だという気持がつよくして来た。

魚の皮みたいな<ruby><rb>鈍</rb><rt>にぶ</rt></ruby>い海が見えた。漁師の家から赤い火がもれていた。<ruby><rb>御旅</rb><rt>おたび</rt></ruby>の<ruby><rb>曲</rb><rt>ま</rt></ruby>がり松は、<ruby><rb>磯原</rb><rt>いそはら</rt></ruby>の真ん中にあった。

（……来ているかどうか？）

清吉は、心とは反対に、足を<ruby><rb>弛</rb><rt>ゆる</rt></ruby>めて近づいて行った。

秀八は来ていた。

<ruby><rb>座敷着</rb><rt>ざしきぎ</rt></ruby>を代えて、黒っぽい着物の<ruby><rb>裾</rb><rt>すそ</rt></ruby>を折り、髪も<ruby><rb>崩</rb><rt>くず</rt></ruby>して、手拭の耳を<ruby><rb>咥</rb><rt>くわ</rt></ruby>えていた。

「……オっ」

つい、意外だったような声を清吉は出してしまった。

「来ていたのか」

「だって、約束した筈じゃありませんか」

「いや……<ruby><rb>俺</rb><rt>おれ</rt></ruby>の方が、つい遅くなったからさ」

「おまえさん、<ruby><rb>支度</rb><rt>したく</rt></ruby>は」

「途中ですらあな。……何も大した<ruby><rb>身支度</rb><rt>みじたく</rt></ruby>は<ruby><rb>要</rb><rt>い</rt></ruby>りゃあしない。それより、おめえはもうそれでいいのか」

「ちょうど、深川の水に六年住んで、今夜が<ruby><rb>見納</rb><rt>みおさ</rt></ruby>めかと思うと、何だか、<ruby><rb>名残</rb><rt>なごり</rt></ruby>惜しいけれど……」

「見納めだなんて、<ruby><rb>縁起</rb><rt>えんぎ</rt></ruby>でもない事を云わぬがいい。また、いつだって江戸へ来られるじゃないか」

「でも、長崎くんだりまで行って、お前さんに捨てられたら、わたしゃそれこそ迷ってしまう」

「今は、何も云うめえ。どこか<ruby><rb>旅宿</rb><rt>やど</rt></ruby>へでも落着いてから云うが、おれはおめえの心意気が<ruby><rb>欣</rb><rt>うれ</rt></ruby>しいんだ。捨てるくらいなら初めから、<ruby><rb>費</rb><rt>つか</rt></ruby>い<ruby><rb>途</rb><rt>みち</rt></ruby>も聞かずにあんな金を出しはしない」

寝しずまった漁村を見ながら、波明りに添って二人は歩き出した。清吉はもう金の惜しみを考えなかった。――ただ<ruby><rb>侠</rb><rt>きゃん</rt></ruby>な肌あいの中に、<ruby><rb>濃</rb><rt>こ</rt></ruby>い人情と強い恋を持つ深川のにおいが、<ruby><rb>艶</rb><rt>なまめ</rt></ruby>かしく、自分を絵の中につつみこんで、波の音までが<ruby><rb>享楽</rb><rt>きょうらく</rt></ruby>に和しているかと思われた。

「……あの」

<ruby><rb>口籠</rb><rt>くちごも</rt></ruby>りながら、秀八はふいに足を止めた。

「なんだい？」

「……ちょっと、もいちどわたし、<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へ寄って、忘れ物を取って来たいんですけど。ここで待ってくれますか」

「近いのか」

「ええ、そんなにはない所だから、ちょっと走って行けば」

「そうか、じゃあ行って来な」

「すみませんが――」

何となく、それが、うつつな云い捨てようであった。

待っていると云ったが、清吉は、秀八の後から<ruby><rb>尾</rb><rt>つ</rt></ruby>けて行った。<ruby><rb>潮</rb><rt>しお</rt></ruby>くさい<ruby><rb>漁師町</rb><rt>りょうしまち</rt></ruby>の<ruby><rb>露地</rb><rt>ろじ</rt></ruby>へ、彼女は、小走りに入って行った。

トントントンと、そこの一軒を<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びやかに叩いて、

「おばさん、おばさん……。秀八ですよ、もいちど開けて下さいな」

<ruby><rb>老婆</rb><rt>としより</rt></ruby>の声が聞え、彼女は、あわてて中へかくれた。<ruby><rb>穢</rb><rt>むさ</rt></ruby>い漁師小屋だった。<ruby><rb>魚油</rb><rt>ぎょゆ</rt></ruby>を<ruby><rb>燈</rb><rt>とも</rt></ruby>すとみえ、臭い<ruby><rb>灯</rb><rt>ひ</rt></ruby>のにおいがして、家の中に、黄色い明りがついた。

「坊やは。……おばさん……坊やの顔を見せて！」

彼女の体も声も、生理的にわなないていた。――と見るうちに、そこの<ruby><rb>藁</rb><rt>わら</rt></ruby>むしろの上に敷いてあるうす<ruby><rb>穢</rb><rt>ぎたな</rt></ruby>い<ruby><rb>蒲団</rb><rt>ふとん</rt></ruby>の中へ、彼女はふるえつくように身を入れた。

そして、自分で白い胸をはだけると、寝ている<ruby><rb>幼児</rb><rt>おさなご</rt></ruby>の<ruby><rb>唇</rb><rt>くち</rt></ruby>へ、<ruby><rb>強</rb><rt>し</rt></ruby>いるように、乳ぶさをふくませ、

「……坊や、坊や。……わたしだよ、わかるかえ。……もう当分はおわかれだから、もういちど帰って来たんだよ。さ、たんと吸っておくれ。たんと吸ってね……」

一心に乳を吸う幼児の唇の音と――その顔の上へ顔を重ねて泣いている彼女の涙の音とが――戸の外まで聞えるように思われた。

「……？」

じっと、外に立ち<ruby><rb>竦</rb><rt>すく</rt></ruby>んで、雨戸のふし穴からそれを<ruby><rb>覗</rb><rt>のぞ</rt></ruby>いていた清吉は、深川の水の底を――<ruby><rb>辰巳</rb><rt>たつみ</rt></ruby>女の肌あいの底を――今こそ眼にまざまざと見せつけられたように<ruby><rb>固</rb><rt>かた</rt></ruby>くなっていた。

「ああ……おれにも」

ふと彼は、遠い長崎の家にある自分の妻と子を思い出した。

油のように海は眠っている。

<ruby><rb>櫓下</rb><rt>やぐらした</rt></ruby>や<ruby><rb>八幡</rb><rt>はちまん</rt></ruby>や、深川の<ruby><rb>灯</rb><rt>ひ</rt></ruby>の空は、今を<ruby><rb>潮時</rb><rt>しおどき</rt></ruby>にぞめいていた。

砂を<ruby><rb>蹴</rb><rt>け</rt></ruby>ってただ一人、逃げるように浜を<ruby><rb>素</rb><rt>す</rt></ruby>っ飛んで行ったその夜の男は、もう<ruby><rb>翌年</rb><rt>よくとし</rt></ruby>から、この土地へ<ruby><rb>商</rb><rt>あきな</rt></ruby>いにも来なかった。