## 古代新頌

## 懸巣

飛べよ、<ruby><rb>深山懸巣</rb><rt>みやまかけす</rt></ruby>、

神神はまた目ざめぬ。

磐が根に<ruby><rb>注連縄</rb><rt>しめ</rt></ruby>ひきはり、

<ruby><rb>幣帛</rb><rt>みてぐら</rt></ruby>にしで<ruby><rb>結</rb><rt>ゆ</rt></ruby>ひ垂れ、

真榊の、鏡葉の音さやさやに

うち清めて。

啼けよ早や<ruby><rb>深山懸巣</rb><rt>みやまかけす</rt></ruby>、

日は若し、かの<ruby><rb>稚神</rb><rt>をさながみ</rt></ruby>、

ひむがしはすでにかぎろふ。

## 菊盛り

<ruby><rb>少女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>たち、黄菊には古代のかをりがある。

純粋に日本の寂びと気品がある。

ああ、この静かな菊の<ruby><rb>香</rb><rt>か</rt></ruby>の<ruby><rb>苑</rb><rt>その</rt></ruby>に<ruby><rb>坐</rb><rt>すわ</rt></ruby>らう。

<ruby><rb>少女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>たち、<ruby><rb>黄菊</rb><rt>きぎく</rt></ruby>には九重のみけしきがある。

雲の上の日と月のにほひもする。

わかい<ruby><rb>帝</rb><rt>みかど</rt></ruby>の御いきづかひが聞える。

<ruby><rb>少女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>たち、黄菊には御鏡の明りがある。

森厳な賢所のみけはひも澄む。

<ruby><rb>皇后宮</rb><rt>くわうごうのみや</rt></ruby>も白い唐衣でお出ましになる。

<ruby><rb>少女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>たち、黄菊には紫宸殿の午後が光る。

<ruby><rb>高御倉</rb><rt>たかみくら</rt></ruby>の<ruby><rb>金</rb><rt>きん</rt></ruby>の鳳、<ruby><rb>玉旛</rb><rt>ぎよくばん</rt></ruby>の玉や、青地錦、

かうがうしい<ruby><rb>黄櫨染</rb><rt>くわうろぜん</rt></ruby>の<ruby><rb>御袍</rb><rt>ぎよはう</rt></ruby>も拝される。

<ruby><rb>少女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>たち、黄菊には<ruby><rb>聖駕</rb><rt>みくるま</rt></ruby>の軋みもこもる。

儀仗兵の旗槍もちらちらつづく。

ああさうして、日本の民族の新らしい祝福が<ruby><rb>来</rb><rt>く</rt></ruby>る。

## 白き花鳥図

## みづのうへ

しろがねのさざなみみれば

くれなゐのはちすのにほひふふむらむ。

つくばえのあかれるみれば、ささにごり、

おしどりのつがひのおよぎしぬばるる。

はてなきかもよ、よひよひの

みのわひろごるわがこころ。

## 風を祭る

## 冬の野

寂びつくす冬のながめを

小さき騎士馬駈けにけり。

いまぞ撤け、黄の飛行船、

消息の銀のちらちら。

## 十月の都会風景

十月、

大都会東京の午後一時二時、

日光がばかに白かつた、立体的で。

市民は高層なビルヂングの近景を、

いつもの通り右往左往してゐた、豆のやうに、

紅や青や紫や、パラソルの花、花、花、

自動車は疾駆した、旋廻した、昆虫の騒乱。

俺は空想した。ああ、この瞬間。

カーキ色の飛行船が爆発した、空の遥かで。

ぷすとただ光つて消えた点、――人、人、人。

十月、

誇張すると天を摩す屋上庭園の酒卓で

俺は古風な遠眼鏡を引伸ばしながら、

いつか<ruby><rb>失</rb><rt>な</rt></ruby>くした童心を探索してゐる。

## 珠数工の夜

## 良夜

よい花は空気をおくる。

<ruby><rb>落下傘</rb><rt>パラシユウト</rt></ruby>月から放つ。

ああ、よいむすめよ、

今晩は笛が鳴ります。

## 孔雀

青い孔雀の白い脛、

月はその爪みがいてる。

扇の冠、<ruby><rb>緑玉</rb><rt>エメラルド</rt></ruby>、

そよりともせぬ闇のうち。

<ruby><rb>丈</rb><rt>たけ</rt></ruby>の<ruby><rb>濃青</rb><rt>こあを</rt></ruby>の、<ruby><rb>頬</rb><rt>ほ</rt></ruby>の横を、

蒸すは<ruby><rb>黝朱</rb><rt>うるみ</rt></ruby>の初夜の雲。

秘めよ、女性よ、すくなくも、

樫は花時、夜の時。

ああ、月は射す、刻刻に、

光は膝を匍ひのぼる。

張れよ、孔雀よ、尾の羽根の

渦の金紗の濃むらさき。

## 夜ふかき墓地

<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>ふかき墓地に

<ruby><rb>音</rb><rt>おと</rt></ruby>して、

<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ささ</span>とし、

落つる花あり。

幻ならず、

雲間に

むらがる<ruby><rb>霊</rb><rt>たま</rt></ruby>の

しづまり。

<ruby><rb>闌</rb><rt>た</rt></ruby>けたり、

花はおどろく、

<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ささ</span>とし、

しきり<ruby><rb>落</rb><rt>お</rt></ruby>ちつつ。

梢よ、

月に照られて、

音あり、

暗き葉をうつ。

## 歩みつつ

聖上の<ruby><rb>御悩</rb><rt>ごなう</rt></ruby>重らせたまひぬ。

ああ、日の暮、

<ruby><rb>寒靄</rb><rt>かんもや</rt></ruby>に人ゆき消え、

立木くろずみ、

公園の辻、ポスト赤し。

聖上の<ruby><rb>御悩</rb><rt>ごなう</rt></ruby>重らせたまひぬ。

<ruby><rb>街</rb><rt>まち</rt></ruby>の方、

鈴、車、ラヂオ、人ごゑ、

此処にして立ち聴けば、ただ

何か深く、

また暗くとどろくなり。

聖上の<ruby><rb>御悩</rb><rt>ごなう</rt></ruby>重らせたまひぬ。

靄に点くイルミネーシヨン、

高架線、

すれちがふ省線電車、

ああ、スパーク、

師走月、

風も吹く、風も吹くなり。

## 月に

おほぎみのみやまひおもし、

おほぎみのみやまひおもし。

いたいけの<ruby><rb>掌</rb><rt>て</rt></ruby>をあはせつつ、

みつよつの子もぬかづきぬ。

<ruby><rb>寒</rb><rt>かん</rt></ruby>の月てらす玉垣、

霜はただふりそそぐなり。

## 冬

貧しい冬の横丁でも

煙突のけむり<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>になり、

窻に灯のつく安ホテル、

月の<ruby><rb>反</rb><rt>そ</rt></ruby>つたがなほとよい。

枯木は高い欅です。

## 童話の月

## 白い月

白い月ゆゑ、

昼の千鳥もつれないか。

波よ、来い来い、

坊やが浜から招きます。

白い波ゆゑ、

白い月ゆゑつれないか。

## 月と童

うちの子はまだ一年と五ヶ月である。このごろ初めて月を識つた。

月は<ruby><rb>童</rb><rt>わらべ</rt></ruby>に<ruby><rb>笑</rb><rt>ゑ</rt></ruby>みかける。

まだ<ruby><rb>日中</rb><rt>ひなか</rt></ruby>ゆゑ遊べよと。

<ruby><rb>童</rb><rt>わらべ</rt></ruby>は月を観て遊ぶ。

はじめて白い月を観て。

波の<ruby><rb>音</rb><rt>と</rt></ruby>よ、

唐黍の毛のかすかな<ruby><rb>紅</rb><rt>べに</rt></ruby>よ、

遠いあなたの笛の音よ。

## なのりそ

とこしへに君もあへかもいさなとり海の浜藻のよるときどきを　　衣通姫

なのりそといふ藻を

まだ知らぬ<ruby><rb>女</rb><rt>め</rt></ruby>の<ruby><rb>子</rb><rt>こ</rt></ruby>よ、

なのりそといふ藻は

小鳥がたべる、

いんや、さかながたべる。

さて、ほんたうはおまへが、

もうすこしたたねばわかるまい。

ほれ見い、<ruby><rb>真珠</rb><rt>しんじゆ</rt></ruby>いろの月が出てゐる。

## 月に飛ぶもの

月の光がさしました。

枯れた葡萄に、

日時計に。

月の<ruby><rb>燻</rb><rt>いぶ</rt></ruby>しになりました。

ちらばる色も、

縫ふ影も。

月に消え<ruby><rb>消</rb><rt>ぎ</rt></ruby>え飛ぶものよ。

ほの紫の

連れ鳥よ。

月の遥かになりました。

見果てぬ夢よ。

あの頃よ。

## 月夜

<ruby><rb>澄</rb><rt>す</rt></ruby>みきつた<ruby><rb>中天</rb><rt>ちゆうてん</rt></ruby>に

めり込んだ<ruby><rb>小</rb><rt>ち</rt></ruby>ひさな満月、

白孔雀の尾だ、あの円光は。

起きて来い、坊や、

ふり<ruby><rb>仰</rb><rt>あふ</rt></ruby>げ、<ruby><rb>真上</rb><rt>まうへ</rt></ruby>を。

<ruby><rb>小</rb><rt>ち</rt></ruby>つちやい、<ruby><rb>小</rb><rt>ち</rt></ruby>つちやい坊や。

## あけがた

ほのあかい<ruby><rb>蓮</rb><rt>はす</rt></ruby>の蕾は

露にすずしい水鳥の

胸ふくらめてゐるやうで、

ほのぼのと夜が明けまする。

『パン屋さん、お早う。』

『や、お早う。』

## 春朝

ほのかなるそよ風のうち、

わが頬早や春を感じぬ。

ああ、わが子よ、

庭に来よ、善きものや見む、

善き<ruby><rb>朝</rb><rt>あした</rt></ruby>、善き善きしめり、

をさなかる蝶もうまれむ。

白き白き光して来む。

## 海豹と雲

## 童貞女

北海道函館の郊外、湯の川といふところにトラピストの修女院があります。男子禁制の地です。天使園といふのがそれです。

君こそは<ruby><rb>童貞女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>よ。

イエズス　キリストの花嫁。

あかつきの鈴蘭。

月の夜の亜麻。

君こそは<ruby><rb>童貞女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>よ。

<ruby><rb>花時</rb><rt>はなどき</rt></ruby>の天使園。

かがやきの<ruby><rb>歌弥撒</rb><rt>うたミサ</rt></ruby>。

アンゼラスの鐘の音。

君こそは<ruby><rb>童貞女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>よ。

聖母マリヤの<ruby><rb>使</rb><rt>つか</rt></ruby>ひ<ruby><rb>女</rb><rt>め</rt></ruby>。

しろがねの微笑。

牛の<ruby><rb>乳</rb><rt>ち</rt></ruby>しぼりの<ruby><rb>木履</rb><rt>サボ</rt></ruby>。

君こそは<ruby><rb>修道女</rb><rt>しうだうめ</rt></ruby>よ。

ローマ、カトリツクの<ruby><rb>寵児</rb><rt>まなご</rt></ruby>。

燃えそめし<ruby><rb>聖燈</rb><rt>みあかし</rt></ruby>。

葡萄棚の駒鳥。

君こそは君こそはまこと<ruby><rb>童貞女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>よ。

昼見えぬ<ruby><rb>小</rb><rt>ちひ</rt></ruby>さき星。

向日葵を刈る<ruby><rb>間</rb><rt>ま</rt></ruby>も

主へかよふくちつけ。

## 蜃気楼

帆のかげか、

船か、そは、

<ruby><rb>体</rb><rt>たい</rt></ruby>はなし、

ただすすみぬ。

オホーツクの

海のはて、

時あかる

<ruby><rb>縁</rb><rt>ふち</rt></ruby>、しろがね。

たよりなし、

うそさむし、

かひやぐら

<ruby><rb>黄</rb><rt>き</rt></ruby>に、うつつに。

神ありや、はた<ruby><rb>虚</rb><rt>むな</rt></ruby>しや、

かもかくに

思ふ我のみ。

<ruby><rb>海阪</rb><rt>うなざか</rt></ruby>や、

越えなづむ

波、波、波、

ただうねりぬ。

## 半島旅情

<ruby><rb>金色</rb><rt>こんじき</rt></ruby>の

円き月

炎はなち、

山のきは

はや黒し、

冴えかへりて。

ただ畳む

入江、岬

波、漣。

遠遠し、

また近し、

この明さを。

松が根の

はだら雪

まだ<ruby><rb>凝</rb><rt>こご</rt></ruby>りて。

人はゆく

ひたひたと、

影はつけぬ。

## 柘榴

柘榴は飛ぶ

人の手より、

空中の

円光と赤。

海の波たうたうとして

しろがねなり。

まぶしさ、

このはるけさ。

真昼の、せつない

一瞬の抛物線。

## 月の出前

夜はくらい。沖はしづんで、

寄せ波の音ばかりする。

<ruby><rb>闌</rb><rt>ふ</rt></ruby>けて聴く浪の音には

モーターのとどろきもする。

ぬか星に犬も吼えてる。

セメン樽ころがしてゐる。

月の出はまだまだ遅い。

横雲の<ruby><rb>断</rb><rt>き</rt></ruby>れる寒さだ。

<ruby><rb>満潮</rb><rt>みちしほ</rt></ruby>の闇の音には

饑そそる<ruby><rb>騒</rb><rt>ざわ</rt></ruby>めきがある。

ただ一つ、向日葵か、いな、

突堤の、線の<ruby><rb>灯</rb><rt>ひ</rt></ruby>あしだ。

ああ、浜だ、燐の眼をした

人がゐる。ほういほういだ。

## 渚

日の光波に照り満ち、

ゆくところ<ruby><rb>頻吹</rb><rt>しぶ</rt></ruby>かざるなし。

耿として

わたれ、むら鳥、

<ruby><rb>目路</rb><rt>めぢ</rt></ruby>遠く秋はあるなり。

## 春の蚊

## 身近な春

しろい一重の木いちごに、

朱のレッテルのマッチ函、

昼は昼とて、

夜は夜とて、

<ruby><rb>身</rb><rt>み</rt></ruby>ぢかな春のあかるさよ。

壺の一重の木いちごに、

擦るはマッチの燐のかず、

煙草ばつかり

すひほけて、

あそぶこころのけぶたさよ。

## 寝すごした朝

すぐろな壺の

もものはな、

ただ投げ挿した

枝の<ruby><rb>秀</rb><rt>ほ</rt></ruby>に、

青くチヨピリと葉が萠えて、

いつか毛ばだつ<ruby><rb>蕋</rb><rt>しべ</rt></ruby>のつや。

『おおい、煙草だ。』

春が逝く。

## 四月十一日

向うに

あかいもものはな、

棕櫚の葉に

鳴る

日のひかり。

蛾はまだ

飛べず、

この窻の

硝子に

羽うらひつつける。

## 電球

寝室に

薄き紫、

書斎には

白の燭光。

竹、

竹、

竹、

一つほつとり、

北窻に

オレンヂの<ruby><rb>球</rb><rt>たま</rt></ruby>。

夜はふけぬ、

ねむれ、鶯、

春の雪

幽かに<ruby><rb>沁</rb><rt>し</rt></ruby>むや。

## 卓上

青磁に金のほそきは

二三冊、鏡花全集、

しろい花、壺の木いちご、

蔓まろし、素焼の土瓶

湯気はまだそこらにふけど、

あてもなやわれの消息。

## 月夜孟宗の図

## 犬蓼の道

犬蓼の花やらむ。

日に照りてこまごまし<ruby><rb>紅</rb><rt>べに</rt></ruby>、

道も<ruby><rb>狭</rb><rt>せ</rt></ruby>にこぼれ<ruby><rb>咲</rb><rt>さ</rt></ruby>きたり。

その道を、

やうやくに拾ひ歩める

吾が<ruby><rb>愛児</rb><rt>まなご</rt></ruby>なる。

虫も鳴け、露もあがれよ。

吾が子こそ地には立ちたれ、今日あきらかに。

## 夕

日天子、

月天子、

りりりと虫は鳴きまする。

子どもは母に添ひまする。

<ruby><rb>雁</rb><rt>かり</rt></ruby>も野づらに落ちまする。

## 小謡

<ruby><rb>篁</rb><rt>たかむら</rt></ruby>に遊ぶ<ruby><rb>童</rb><rt>わらべ</rt></ruby>は

素肌にて、

さびしかるらむ、一人にて、

前ゆすり、

<ruby><rb>後</rb><rt>あと</rt></ruby>ゆすり、

竹の葉洩れの暑き<ruby><rb>陽</rb><rt>ひ</rt></ruby>を

ちりやちりちり、

ちりやちりちり、

見て楽しめり。

## 草の葉

<ruby><rb>小</rb><rt>ち</rt></ruby>さき<ruby><rb>童</rb><rt>わらべ</rt></ruby>のつむりにも

月の光はしたたれり。

草の葉しるき土のうへ、

影は風とし揺りそよぐ。

## 月光の曲

母の<ruby><rb>乳</rb><rt>ち</rt></ruby>に添ふみどり児の

<ruby><rb>小</rb><rt>ち</rt></ruby>さきつむりのめづらしさ。

月の光に白萩の

夜はこぼれて<ruby><rb>香</rb><rt>か</rt></ruby>ににほふ。

## 地上

竹のはやしは明るくて

秋風のみぞ満ちにける。

<ruby><rb>今宵</rb><rt>こよひ</rt></ruby>まどけき月天子

かぐや姫をか召したまふ。

## もくせい

もくせいがにほふよ。

となりからにほふよ。

ひとりでゐればにほふよ。

たかむらにこもるよ。

月の光がみちたよ。

## 胡麻の実の秋

胡麻の実は早くも肥えて、

ふたつづつ茎をはさみぬ。

胡麻の花下べよりちり、

<ruby><rb>秀</rb><rt>ほ</rt></ruby>にのこる、まだほのあかし。

いとなめよ、地は震ふとも、

<ruby><rb>茎高</rb><rt>くきだか</rt></ruby>に<ruby><rb>熟</rb><rt>う</rt></ruby>れよ、胡麻の実。

ああ、秋よ、

つくづくと鳴く蝉あれば、

音<ruby><rb>爆</rb><rt>は</rt></ruby>ぜて

飛行機は飛ぶ、かの<ruby><rb>高天</rb><rt>たかあめ</rt></ruby>に。

## 落栗

いが栗のあをきがうちは

つくづくと鳴く蝉ありき。

栗は落ち、<ruby><rb>土</rb><rt>つち</rt></ruby>は震へど、

日のあたりつねにかはらず、

落栗をひとりひろはむ。

## 蛾

かすかなは

白い蛾の

まだ死なぬ<ruby><rb>翅</rb><rt>はね</rt></ruby>。

みなぎるは

<ruby><rb>寺庭</rb><rt>てらには</rt></ruby>の

残暑の<ruby><rb>陽</rb><rt>ひ</rt></ruby>。

秋はやや

曳かれつつある

白い蛾の眼に<ruby><rb>映</rb><rt>はえ</rt></ruby>るのみ。

光り、

かげり

息づきつつ。

## 風と蝶

蝶を追ふ

光る<ruby><rb>風並</rb><rt>かざなみ</rt></ruby>。

<ruby><rb>風並</rb><rt>かざなみ</rt></ruby>の

そよぐ青萱。

この道の

はてしなさ。

空はあり、

空の奥。

風は追ふ。

蝶を追ふ。

## 良夜

鮮麗なは良夜の

一二等星。

月のあるのを忘れて

童は飛ばしてゐる竹の蜻蛉を。

いつまでもいつまでも竹の蜻蛉は光つてゐる。

薄にまるまる露の<ruby><rb>二</rb><rt>ふた</rt></ruby>たま

ぽろんぽろんと何か鳴る。

## 初秋

身について来た浪の音だよ。

竹の根の曼珠沙華だよ。

## 花楮

## うた

うたはただほのぼのとの、

よいにほひでの、

さいたばかしのはなのやうでの、

しなのたかい、いきづかひでの、

それはさびしいたましひのほほゑみでの、

さうありたいとおもふがの、

みなさまどうぢやの。

## 花の盛り

花の盛りはちんころぐさの花でさへ、

ただもう、ふんはりとしましての、

よいにほひの、

<ruby><rb>好</rb><rt>す</rt></ruby>いたらしいよいおいろの、

にくげといふものつゆもない。

花のさかりはよいもののう、

わかいうちぢや、

なんでもわかいうちぢやとよ。

## 閑か

曇り日の

あるかないかのそよ風に、

ほうつほうつと<ruby><rb>楊</rb><rt>やなぎ</rt></ruby>の<ruby><rb>絮</rb><rt>わた</rt></ruby>が飛ぶわいの、

かはせみの巣のあたりまで<ruby><rb>往</rb><rt>い</rt></ruby>たわいの、

かはせみは<ruby><rb>居</rb><rt>を</rt></ruby>らなんだよ、

ただ、いたちが<ruby><rb>疱瘡</rb><rt>はうさう</rt></ruby>で寝てゐた。

## へちま

小歌風

黄の花の二つや三つや、

棕櫚の葉ずゑに巻きのぼり、

ほつと、はづれて、

咲いさがりたり、

<ruby><rb>何花</rb><rt>なにばな</rt></ruby>か、咲いさがりたり。

さて、知らぬとも、

すでについたる<ruby><rb>実</rb><rt>み</rt></ruby>の<ruby><rb>形</rb><rt>なり</rt></ruby>の

ふらりひよろりとする実ゆゑ、

おもしろのへちまや、

おもしろのへちまやと、

妻が申しき。

妻が申しき。

## 秋

鴫が立つ、

鴫が立つ、

ただそれのみの秋でおりやるよ。

おりやるよ、のう、

そこな<ruby><rb>坊</rb><rt>ばう</rt></ruby>さま、

いそがしやれよと、風も通つた。

## 雲水

ああもう秋ぢやな。

一所不住の沙門ぢやで、

山松風も聴いて行かうぞ。

花はかるかや、われもかう、

笹のほとりの女郎花、

ながめながめて見て行かう。

さて、白い

七<ruby><rb>日</rb><rt>か</rt></ruby>八<ruby><rb>日</rb><rt>か</rt></ruby>の月も見て、

<ruby><rb>昼餐</rb><rt>ひるげ</rt></ruby>の<ruby><rb>料</rb><rt>しろ</rt></ruby>やいただかう。

<ruby><rb>昼餐</rb><rt>ひるげ</rt></ruby>の<ruby><rb>料</rb><rt>しろ</rt></ruby>やいただかう。

## 豊干

秋が深いで、

虎の瞳も深うなる。

山松風も高うなる。

だがな、寒山、

虎の背なかは温かいぞよ。

しつしつ、温かいぞよ。

## 唐子売

南京小情

<ruby><rb>総角</rb><rt>あげまき</rt></ruby>の唐子、唐子よ、

子を売ろよ、売ろよ、子を売ろ。

春の日は<ruby><rb>永</rb><rt>なが</rt></ruby>や、のどかや、

ふれ売の大きな<ruby><rb>藺笠</rb><rt>ゐがさ</rt></ruby>や。

<ruby><rb>黄</rb><rt>き</rt></ruby>の服の唐子、唐子よ、

かつがれて、籠にゆられて。

春の日は永や、のどかや、

前うしろ<ruby><rb>傾</rb><rt>かし</rt></ruby>ぐになひや。

幼子よ、唐子、唐子よ、

まろき目を寄せて、集めて。

春の日は永や、のどかや、

売られゆく身とも知らずや。

<ruby><rb>総角</rb><rt>あげまき</rt></ruby>の唐子、唐子よ、

<ruby><rb>物珍</rb><rt>ものめづ</rt></ruby>ら、<ruby><rb>街</rb><rt>まち</rt></ruby>を眺めて。

春の日は永や、のどかや、

風吹けば<ruby><rb>絮</rb><rt>わた</rt></ruby>の柳や。

<ruby><rb>選</rb><rt>え</rt></ruby>りどりよ、唐子、唐子よ、

子を売ろよ、売ろよ、子を売ろ。

春の日は永や、のどかや、

水の江の橋の眼鏡や。

## 彼

美の、忍従の徳により、

彼は正しく<ruby><rb>讃</rb><rt>ほ</rt></ruby>められん。

彼はただひとり<ruby><rb>寂</rb><rt>さ</rt></ruby>びつつ、

いや高き「<ruby><rb>上無</rb><rt>うへな</rt></ruby>き<ruby><rb>時</rb><rt>とき</rt></ruby>」を楽しみぬ。

おのづから神に通ひぬ。

## 冬眠

## はつ冬

住みついてゐても、はつ冬

豆柿の点点に来る

鳥のちひささ。

## 冬晴

わたしは見てゐる、目白のむれを。

鈴なりの豆柿よ。<ruby><rb>冬晴</rb><rt>ふゆばれ</rt></ruby>のあをぞらよ。

わたしは写してゐる、<ruby><rb>食</rb><rt>た</rt></ruby>べほれてゐる目白の一羽を。

あ、ちよつとお待ち、鉛筆を削ります。

## 小禽

目白だ。

こぼれるやうな目白だ。

あ、鵯が来た。

目白が散つた。

百舌が来た。

鵯が逃げた。

枝を移つた、<ruby><rb>翔</rb><rt>かけ</rt></ruby>つた、百舌が。

ああ、冬ばれ、

鈴なりの赤い赤い豆柿。

わたしはまた、待つてゐる。

目白を、鵯を、百舌きちを。

## 十二月三日の薄暮

<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ちちりちちり</span>と、まだ、

鳴く虫がある。

子はつまづいてはづした

膝つこぶの関節。

月は黄いろに光らぬ

<ruby><rb>電灯</rb><rt>でんとう</rt></ruby>の線である。

松風だ、松風だ。

鳥の毛のやうな飛び雲だ。

## ざさんさ

枯枇杷の完き<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>、

雀と大きな百舌、

残り<ruby><rb>陽</rb><rt>び</rt></ruby>の孟宗

ざさんさ、

めづらしい浪のざさんさ。

ああ、それだけの清明に、いま、

パッと<ruby><rb>電灯</rb><rt>でんとう</rt></ruby>がついたのである。

ざさんさ

ああ、ざさんさ。

## 美濃びとに

ほうい　ほうい　ほうい、

霜が<ruby><rb>濃</rb><rt>こ</rt></ruby>いぞ、鶫よ。

## 水郷の早春

## 黒髪三品

## 山色連天

<ruby><rb>葦</rb><rt>あし</rt></ruby>の芽あをむ<ruby><rb>水</rb><rt>み</rt></ruby>ぎはに、

黒髪梳くや子の母、

うなじの白さ、つめたさ、

<ruby><rb>遠山</rb><rt>とほやま</rt></ruby><ruby><rb>雪</rb><rt>ゆき</rt></ruby>のはるけさ。

## 蜃気満海

黒髪<ruby><rb>丈</rb><rt>たけ</rt></ruby>に濡らして

裳の裾しぼる<ruby><rb>海女</rb><rt>あま</rt></ruby>あり。

ついたちふつかの月ゆゑ、

<ruby><rb>夕汐騒</rb><rt>ゆふしほさゐ</rt></ruby>のかすけさ。

## 煙霞有情

鼓うちつつ、冴えつつ、

舟にて通ふ沼の女、

<ruby><rb>芽柳</rb><rt>めやなぎ</rt></ruby>かすむ朝とて

黒髪風になびきぬ。

## 金粉の靄

## 馬

旅こころ今日うら安し子を抱きて絵馬の馬など眺めまはりつ　　信州別所北向観音

坊やよ、あの絵馬を見い。

ほうれ、馬が遊んでゐる。

白い馬、

葦毛の馬、

黒い馬、

<ruby><rb>跳</rb><rt>は</rt></ruby>ね立つ馬、

<ruby><rb>寝</rb><rt>ね</rt></ruby>てゐる馬、

並んで水をのんでゐる馬、

泳いでゐる馬、

向うの向うを眺めてゐる馬、

ふりかへる馬、

ひとりぽつちの馬、

出てくる馬、

消えてゆく馬、

何千何百とゐる馬、

裾野いつぱいの馬、

馬は馬同志群れてゐる。

風は薄を吹いてゐる。