Soranoha

黒檜

くろひ

北原 白秋

序

黒檜の沈静なる、花塵をさまりて或は識るを得べきか。

薄明二年有半、我がこの境涯に住して、僅かにこの風懐を遣る。もとより病苦と闘つて敢て之に克たむとするにもあらず、幽暗を恃みて亦之を世に愬へむとにもあらず、ただ煙霞余情の裡、平生の和敬ひとへに我と我が好める道に終始したるのみ。

「黒檜」一巻、秘して寧ろ密かに我といつくしむべく、梓に上して些か我が真実の謬られむことをおそる。他に言ふところなし。

庚辰孟夏

白秋

上巻

熱ばむ菊

駿台月夜

照る月の冷ひえさだかなるあかり戸に眼は凝こらしつつ盲しひてゆくなり

月読つきよみは光澄みつつ外とに坐ませりかく思ふ我や水の如ごとかる

朝

鶏かけの声けぶかき闇にたちにしがよく聴けば市の病院にして

お茶の水電車ひびくに朝早やも爽涼の空気感じゐるなり

杏雲堂側面未明まだきは暗き窻あけて混こみ合ひの屋根に霜の置く見つ

暁あけの窻にニコライ堂の円頂閣ドオムが見え看護婦は白し尿の瓶持てり

屋上の胸壁にして朝あがる一つの気球みつめつ我は

菊、その他の花

菊の鉢は我が家の子久吉爺の丹精になるものなり

逆光の玉の白菊仰臥あふぶしに見つつはなげけやがて見ざらむ

我が眼先まさきしろきに蘊つつむ菊の香の硝子戸あけて乱れたるらし

視力とぼし掌てにさやりつつ白菊のおとろふる花の弁熱ばみぬ

影にのみ匂にほひやかなる窻ぎはのその花むらも暮れて来きたりぬ

杏雲堂屋上展望

冬曇り明大の塔にこごりゐて一つ黝くろきは赤き旗ならむ

雲厚く冬は日ざしかとどこほる聖堂の黝くろき樹立うごかず

冬の日

失明を予断せられ、I眼科医院を出づ

犬の佇たち冬日ふゆひ黄に照る街角の何なんぞはげしく我が眼には沁む

病院街冬の薄日に行く影の盲目めしひづれらし曲りて消えぬ

鑑真和上

昭和十一年盛夏、多磨第一回全国大会の節に拝しまつりし唐招提寺は鑑真和上の像を思ふこと切なり

目の盲しひて幽かに坐ましし仏像みすがたに日なか風ありて触さやりつつありき

盲しひはててなほし柔やはらとます目見まみに聖ひじりなにをか宿したまひし

唐寺の日なかの照りに物思ものもはず勢きほひし夏は眼も清すみにけり

童女像の下にて

童女像朱しゆの輝てり霧きらひ今朝見れば手に持つ葡萄その房見えず

焔ほのほだち林檎一つぞ燃えにける上皿うはざら一キロ自動計量器

或る画報を見て

両もろの眼を白く蔽へる兵ひとり見やる方だにおもほえなくに

降誕祭前夜

ニコライ堂円頂閣ドオム青さび雲低しこの重圧は夜にか持ち越す

ニコライ堂この夜よ揺りかへり鳴る鐘の大きあり小さきあり小さきあり大きあり

ある夜

暖房は後冷あとびえきびし夜にさへや眼帯白くあてて寝むとす

鳥籠に黒き蔽布おほひをかけしめて灯ひは消しにけり今は寝ななむ

早春指頭吟

退院直後

花かともおどろきて見しよく見ればしろき八つ手のかへし陽びにして

我が宿よ冬日ぬくとき端居はしゐには隣もよろし松の音して

今朝見えて置く霜さへや我が眼には谷地田やちだも畦も隈黝くろみあり

冬、ぴしりと氷ひびく石くれは子こか打ちつけし沈みて止みぬ

瞼まぶたしめしつくづくとゐる冬日中ふゆひなか畳の目など見むはすべなし

眼を病めば起居たちゐをぐらし冬合歓ふゆねむの日ざしあたれる片枝かたえのみ見ゆ

折ふしに冬木見えくる眼先まなさきもたちまち暗し虚むなしかりけり

こがらしの背戸に音やむ小夜ふけて温罨法の息吹いぶき眼に当あつ

(吸入器にて)

冬日向

文鳥の影移りする鳥籠は日なたの軒にかけてこそ置け

蘭の香や冬は日向に面おも寄せてただにひとつの命いのち養ふ

山鳥

木俣修より贈り来る

冬冷ひやき皿の上には山鳥の瞼まなぶたしろし閉ぢしまなぶた

冬光無し

高空たかぞらに富士はま白き冬いよよ我が眼力まなぢから敢あへなかりけり

眼を洗ふ冬光無し雑木々ざふきぎのいつひらきなむ柔やはき若葉ぞ

眼にたのむ何ひとつなき芝庭の冬なりながら薄日照りたる

冬ひと日堪へてありしか池水の冰こほれる面めんに風の吹き当つ

白き冬

冬三月みつきただにましろく引くものに方丈の屏風襞ひだ冷えにけり

白きものまた白からじ立つ襞ひだの六曲の屏風影もこそもて

我がみ冬しろき屏風に引きかけてラヂオの線の影も凍いてゐる

白磁はくじの八角の壺の稜線すぢ引きてほの上光うはひかるみ冬なるなり

眼は閉とぢて眶毛まつげにさやる眼帯の冷ひえきはみけり月夜かも沁む

方丈冬夜

影さへや蕾つぼみは硬かたき冬の薔薇ただ三葉四葉の灯映ひうつりにして

聴耳ききみみに胡桃くるみ食はみゐる影我は坐すわる太尾ふとをの栗鼠にかも似る

何しらに灰掻かきならす夜のなぐさまぶれあやしく蝿はへかはばたく

手を当ててまたほてるなき鉄瓶の胴はじきつつすべな夜寒よさむは

春寒月夜三首

春立ちて月の幾夜ぞ雑木々ざふきぎの風騒さわぐ枝に我が眼閃く

冬雑木ざふきこずゑほそきに照りいでて鏡の如く月坐ませりとふ

父われに冴ゆる月夜を戸は鎖さして書ふみよみにけり女童めわらはこの子

書斎後夜

万巻の書ふみをい照らす灯ひうつりに鼠は啼くかさむき鼠は

夜の鼠小耳かき立て声も無しうしろけはひをうかがふらしき

古書の帙ちつのぼる鼠の尾は引きて夜の咳しはぶきに乱れたりけり

物の文あや繁しじにし思もへばかいさぐる我が指頭ゆびさきに眼はのるごとし

春蘭

春蘭の冷ひやき葉叢はむらの香の蘊つつみ点滴てんてきの音は鉢の外とにあり

春蘭のかをる葉叢はむらに指および入れ象かたちある花にひた触れむとす

片手

眼さきに

眼さきに片手さし寄せしぱしぱと見入るならひもおのづとなりぬ

能のなげきを

片手のみ眼にさしかざし声は無し泣くなる姿こころには観よ

春夜寒

春夜寒よさむ白の小屏風超こゆとして面つら出す鼠声落ちにけり

風すごし愛かなしふたつのあなうらに赤外線の燈ひは当てて寝む

早春五首

雪降りてしづけかりとふ朝庭に春の時雨か音わたり来くる

我が内障眼そこひすべないたはり日も暗し春早き外とに土旋風つちつむじ巻く

春塵しゆんぢんのいづ方となき日のまぎれ渡鳥わたりのこゑを聴くと切なり

水ぐるま春めく聴けば一方ひとかたにのる瀬の音もかがやくごとし

何知れず眩まばゆき雲やはげしくぞ眼をしばたたき我はありける

粉雪

朝の餉げの堆朱つゐしゆの膳に散らひ来くる粉雪は松の揺りにたるらし

女童めわらはは雛祭るとぞ言問ひて朱あけの氈かもなど部屋に取りに来く

女めの子ろに傾かしぐ思は積む雪の枝しづりつつ春待ちがてぬ

菫咲く

楢山に菫咲くとふその色のどれが菫ぞ見つつわかぬに

乾反葉ひそりばにまじる菫すみれをおぼつかな陽炎をのみ見つつあやなし

玉蘭吟

まさに鳴く音はヒーカタカタなり

日方とよ鶲ひたき啼なくなり玉蘭はくれんのまだ蕾なる枝の揺れ見よ

玉蘭はくれんは空すがすがし光発さす一朝ひとあさにしてひらき満ちたる

木高きは現うつつあらぬか玉蘭はくれんの花多さはにしてむしろ幽かすけき

春昼しゆんちうはあやかしふかし玉蘭はくれんの下照る篁子影二人笑ゑむ

月のごとく

観るほどは敢あへなかるらし日を経りて物のあいろの暗くなりゆく

日の光月のごときに玉蘭はくれんの花さゆれつつあるが清すがしさ

我が眼には月の色なる日の照りを雀歩ありけり庭片寄りに

玉蘭散る

玉蘭はくれんは花うやうやし散ちるとして散りつつ冴えぬその下枝したえだに

玉蘭はくれんは木末こずゑより散りやすけらし下枝しづえの花ぞ日に照らひつつ

土に帰る時なりけらし玉蘭はくれんのいや澄みまさる散りがたの花

花落ちてただち萌ゆるか玉蘭はくれんの立枝たちえの芽ぶき雷に勢いきほふ

日光現像

春日籠居

春ふかむ隣家りんかのしろき花一樹ひとき透影すいかげゆゑにいよよおもほゆ

春田中ねもごろ人のいふ聴けばげんげは遅し菫いま咲く

承塵なげしには池の水照みでりの影ゆらぎまだ春早し鼠のをどり

註、水陽炎の影を壁鼠と云ふ

壺つぼにして影ぞおぼめけ盛る色の薔薇さうびとを見れば薔薇さうびとし見ゆ

籠鳥の揺りつつ遊ぶさま聴けば夕とのぐもり久しかるらし

篁子

春の陽に輝き笑ゑまふ女めの童わらは瞼の外そとに置きて思へや

女童めわらはを今朝出いだしやり午ひるまけて早や待ちがたし山辺かすむに

(受験の日)

春日すら

春日すら霞をぐらき雑木山木この芽もただにたちて匂ふを

雲といへば光恋こほしき玻璃の戸にあまりてしろく春は闌たけつつ

良寛遺愛の鞠

かねて懇望したりしかば、遂に越後長岡の知人よりやうやく届け来る。喜びかぎりなし。この鞠、見るからに円く稚く、赤と青とにてかがりたるが、手垢黒くついていとめでたし。小函に入れ、その函の蓋には良寛遺愛の鞠、裏には第十七代の孫新木吟雨とあり。吟雨六十二翁は与板の人、蓋し良寛の父以南の実家新木氏の子孫なる由。乃ちその鞠の歌

その一

我が籠こもり楽しくもあるか春日さす君が手鞠をかたへ置きつつ

春ひねもす鞠のこもりの音聴くと幽かすかよ吾れの手触たふり飽かなく

霞立つ永き春日を子どもらと手鞠つきつつこの日暮らしつ    良寛

乙宮おとみやの春はひねもす子どもらと手触たふり遊びし君が鞠これ

何の香かこむる春野ぞ手もすまにつきて遊びし君が鞠これ

鉢はちの子と鞠といづれぞ陽にあてて鞠はすみれの花の香かのする

春日さす鞠はかなしもうつしとる感光板にうつら影引く

その二

ぬくとさは縁えんの端居はしゐの春日向はるひなたわれも袂たもとの鞠とり出いだす

手に撫なでてつくづくと居れこの鞠のかがりの綾あやは透かせど見えず

女童わらはがふふむ笑わらひはこの鞠のかがりの手垢愛かなしがりつつ

手垢てあかつく君が手鞠てまりのあや糸は赤しとを見えず青しともまた

春日向ぬくむ手鞠は掌てにのせて綾は見えずもほの光りさす

聞くほどは人香ひとがこもらへこれの鞠手触たふりすべなもなにかゆがみて

陽に明あかる瞼まぶたさし寄せ嗅ぐ鞠の影黝くろきかもやかゆきこの鞠

つきて見よ一二三四五六七八九の十、とをとをさめてまたはじまるを  良寛

つきて見む一ひ二ふ三み四よ五い六む七な八や九ここの十とを手もて数へてこれの手鞠を

霞立つかかる春日に子らとゐてつかしし鞠ぞいま手にはずむ

おぼつかな鞠のありどの手を逸それて音なかりけり霞むこの昼

道

技わざびとや技わざに遊ぶといにしへは一生ひとよの命かけて愛惜をしみき

めでたかる世々の匠たくみは言挙げずただ恍ほれゐつその楽しみに

言ことさやぐけだし寒けし匂ふらく幽けききはぞ道に哭なかしむ

新万葉審査所懐、四首

和にぎみ魂楽しみ思へば苦しくもただに言はまく言ことすらも無し

我敢て道に言はずも読み読みて盲しひしふたつの眼まなこかくあり

道により敢て楽しと言はまくは楽しびあまり声泣かむかに

読み読みき選び選びきひたむきを眼は楽しみき喰くひ入るまでに

千手

唐招提寺金堂追想

観音の千手の中なかに筆もたすみ手一つありき涙す我は

観世音像千手の指のことごとに眼まなこ坐ましにき清すみかがやかに

文珠

紫磨金しまごんの匂おだしき御座みざにして文珠の笑ゑまひはてなかるらし

慶州石窟庵を憶ふ

本尊の石仏は悲願によつて日本海に正面したまひ、洞窟はその朝噋の光により微妙に荘厳せられたり

東ひむがしの海さしわたる朝日影石仏は坐ましぬこよなき目見まみに

鑑真和上木像

再び唐招提寺の和上を憶ふ。芭蕉に句あり 若葉しておん眼の雫拭はばや

み眼めは閉とぢておはししかなや面おももちのなにか湛へて匂へる笑ゑみを

雪柳

春邦画伯を訪ふ

輝るばかりたわわに匂ふ雪柳君が門辺は寒からなくに

咲きしだり匂清すみゐる雪柳ただ白してふものにあらなくに

春夕

春ゆふべ眼に白らけゆく燠おきの色のもの柔やはきかなや火桶かい撫なづ

そことなき春の蚊にすら聴くものは愛かなしかりけり若葉たをやぐ

雨後

水楢の若葉ほたほたと雨重おもり何ぞここだく雫線すぢ引く

萱の根に鼠あらはれ小走りを此方こなた見しとふ我も其方そなた見る

春曇

糸檜葉いとひばにしろくこもらふ春曇しゆんどんのこのかがやきは底しれぬなり

隣にて鳴く雛聴けば群れはしり眼は開あかぬもや若葉山吹

春昼一首

現身うつしみは春も背そびらの経絡けいらくに火をつづらせて愛かなしがるなり

註、経絡は灸の筋

初夏の庭

朝間あさま干す白き衾ふすまの日に照るは夜ににほふよりせつなかりけり

山吹の黄に咲きしだる色かとも見つつは籠こもれ若葉とも見ゆ

日おもての庭の此面このもの白つつじ蕋しべ長ながなれや春酣たけなはに

盲目の蛙

草ごめや蛙かはづのこゑの、夜に聴けばくくくとふくむ。おもしろよ盲目めしひの蛙、かいろ、くく、暗しとを啼く。盲しひぬ盲しひぬ、くくく。惜しや惜しや、くくく。すべな右すでに盲ひぬと、左の眼早やあやしとぞ。春の田のげんげの小田の、水のるや鋤きかへし田を、その蛙、ころろ、かいろ、くくく、草ごもり暗しとぞ跳ぶ。をかしとよ、早や見えずとよ、後脚あとあしはねてまた水くぐる。

反歌

春の田の草間の蛙かはづ眼をあけて啼くなるのみと子らは思はむ

田蛙

丘の翼家にて

眼は見えて啼くがままなる蛙かはづらに春雨はるあまづつみ風そよぎつつ

声あがる田居の蛙を上居うへをりて眼はふたぎゐる親蛙われは

背戸に出でて

春の田の柔やはら浅茅生風向かざむきを色走りつつ子らが追ひがてぬ

女童めわらはを手触たふりなげかひげんげ田の春の日向は行き飽かぬかも

牡丹現像

1 庭にて

春の日の朱鷺色ときいろ牡丹女童めわらはが跳ぶ足音に揺れつつ照りぬ

ほのあかき朱鷺ときの白羽の香の蘊つつみ牡丹ぞと思ふ花は闌たけつつ

2 病室にて

豊けきは葉ぐみととのふ牡丹ぼうたんのひと花紅あかき穏おだしさにして

香ひたつ朱鷺ときいろ牡丹籠にあふれ時計と置くにひと花しづか

蕋しべつつむ幾重花びら内紅うちあかき朝の牡丹は食はままく柔やはら

禿髪かむろ垂たる黒きかほばせあどなくてあてなる際きはは物もの思もはずらし

匂満ちて全またけき牡丹二日ふつかまり我と在りしがくづれてちりぬ

3 居間の縁にて

蕾添ふ黒き牡丹は一鉢の花重きから縁にさし置く

女童めわらはや穏おだし牡丹の靄だちを禿髪かむろかき垂り父にゐずまふ

牡丹の弁なごしくつつむ靄すらや我が眼先まさきには揺れてくるしき

庭の一隅

靄ごもり層かさむ若葉の緑金りよくこんはただ一方ひとかたを陽の照らふらし

うち層かさむ若葉くらきに子が遊ぶ鏡の反射そこらひらめく

初夏の灸点

影黝くろむ照てりやすからず夏山のこの靄立もやだちを我が眼おとろふ

よく点つきて当あたりかなしく柔らかき艾もぐさは妻が揉むべかるらし

火のうつり繁しじにし沁むる艾もぐさには蓬の汁つゆを先さき濡らしてむ

背は向けて灸やいとこらふる若葉どき妻が手触たふりの繁しじに来くるかも

若葉照りいぶる艾もぐさは押しすゑて熱き三里がよくきくよくきく

五月靄

谷地やちの靄こむるかぎりは日の射して色おぎろなし若葉かも蒸す

靄ごめと香に蒸す緑くるしくて蛙は鳴くか声盛りあがる

おぼほしく若葉黝くろずむこの眺め梅雨つゆのま待たず我が眼盲しひむか

若葉靄けふただならず爆弾機関銃弾漢口の空に火を噴くとふはや

激しく火を噴き墜つるたまゆらの機上幾干いくばくを眼まなこ見すゑし

浴湯一首

朝早やもたぎる風呂釜の湯を浴あぶとひたかぶる時し我適ゆきにけり

夏山

朝鳥の声乱れ来る夏山は窻ひきあけてただちすずしさ

山蝉の翅はねかがやかす声聴けば合歓ねむの若葉か最もともをさなき

えごの花咲く

陽にまがふ何かしらけし眺めには若葉もわかずえごの鈴花すずばな

花しろきえごの木このまを日ごもりと手斧てうなは音に楽しむごとし

人杖

女童めわらはは父が人づゑ蔓薔薇の白きは見つつ寄りて言ふかも

女童めわらはや香にほふ人づゑ肩触りてはずむ温ぬくみの艶いろひ母めく

女童めわらはは愛かなし人づゑ行かしめて行きつつ父の笑ゑまひあかるを

§

眼に触りてしろく匂ふは夏薔薇の揺りやはらかき空気なるらし

ラヂオ朝暮

夏の鳥朝のラヂオに啼き乱りその山と思ふ滝津瀬鳴りぬ

夕ゆふ待たず我が眼くらきに聴きほくる早慶戦もラヂオに止みぬ

犬の声ラヂオの中に群れ起り外とに吠え継つぎて月の夜ふけぬ

多磨三周年歌会にて

睡蓮の花泛うけりとふ池の面もは日の照りつけて観る色も無し

な悲しみ霧きりてをぐらき我が眼にももろもろの頭づは光てりて見ゆるに

弟の撮し来し水郷柳河と北支大同の映画を観る。天然色のそれらもありき

眼のうらに光る汲水場くみづを蛇くちなはの奔はしる影さへすばやかりしか

石仏は正面まと向きおはし須臾しゆゆに見る空現うつしけく涯はてなかりにし

光を

ひと度は相見まつりき縁えにしなり日光菩薩加護あらせたまへ

物のはし黄金にあかる夕すらもただにし塵の舞ふと思へや

たまたま、道に出でて

夏菊のしろき籬まがきの角にして日のいちじるき光に遇ひぬ

曇れる魚眼

霖雨低唱

庭を観つつ

梅雨つゆの庭おぼおぼしきに鉄線蓮てつせんの花見えてゐてまた降りこめぬ

ふりこむる梅雨つゆは霖雨ながめの日ぐらしを硯に向ひ書くこともなし

ふる雨にベンチ濡れゐるそれのみの影なりながら眼には頼みき

谷地やちの水上かみと下しもとに瀬鳴りて気けごもり重しここの梅雨時つゆどき

日癖雨梅雨つゆはけ長しふきぶりとふりこむるきはぞむしろすがしき

木深くも繁しじに異ことなる物の雨瞼まぶたへだててひびくを聴けば

隣の松

梅雨つゆぐもり気重けおもき松や靄ごめと隣は邃ふかき色のこめつつ

隣の松、舞台の松に似たれば、お能の松と我が呼びならはしぬ

靄ごめや三階松さんがいまつの塗笠の笠揺り畳ね今は梅雨時つゆどき

蛙青し

森にひびき鳴ける蛙かはづを梅雨早やも茅蜩ひぐらしの声のきざむかと聴く

雨あまがへる日中ひなか啼き継つぎ声速はやし矢筈檀やはずまゆみの根にひびかひぬ

白昼

我がほかは日の白光びやくくわうにこだましてラヂオ体操の響くあるのみ

暑しよの霞はてなきごとし熬いりつつやにいにい蝉の声沁むるかに

盲父子像

父八十三翁、四年前、手術の甲斐ありて幸に明を得たまひたれどこの頃再びよろしからず、我が視界も亦渾沌たり

ま白髯しらひげ長かる父の目は盲しひて端然たんねんと坐ますに月押し照りき

父の老おい内障眼そこひはかなくなりましてひたすらと執とらす母の手なりき

立秋を白き木槿むくげの花咲きて見る眼すがしく開あきましし父や

閉ぢしみ眼ひらくただちを咲き笑ゑまふ少女が面輪おもわこよなかりしと

老おいのみ眼とかく曇らへ年なれば早や諦あきらめておはすかよ父よ

そのごとも盲しふる子が眼を乞ひ祷のむと手触たふりなげかす父は子が眼を

盲しふる眼の梅雨つゆの霖雨ながめを日ぐらしと子は父を思ふ父は子を蓋けだし

父と子や霖雨ながめけなるき起臥おきふしを盲しひつつ坐ますに盲しひにつつあり

メンコン蛙

土もぐるメンコン蛙がへる眼ばかりを上のぞかせて吼ゆとふかなや

ラヂオにはメンコン蛙がへるくくみ啼き鳴る瀬のうつつ蛍が飛ぶも

六月二十五日

茅蜩ひぐらしのこの日啼きそめ山方やまかたやまだ夕ゆふ淡あはき合歓ねむのふさ花

雨けむる合歓の条花すぢばな夕ゆふ淡あはきこの見おろしも今は暮れなむ

山寄り

小綬鶏の雛うち連れて過ぎりしはまだ朝かげの山寄りにして

小綬鶏の雛を守もりつつ降り行ける谷地やちをぞ思ふその夏霞

我が庭は莠はぐさにまじる桔梗きちかうの紫しらけ朝から暑し

卓上の一鉢

朝顔は白く柔やはらにひらきゐて葉映はうつりあをし蔓も濡れつつ

何なるや白くすずしくひらき来て朝顔の花といま匂ふもの

眼まなこかも蔓にはあらし一方ひとかたと伸び向ふなり朝顔絡からむ

水の音

ある日のラヂオ

苔清水ひびきつたふる幽かすかなる金閣寺の庭を我家わがやにぞ聴く

金閣は細みちよろろぐ水の音おとのただもはらなる夏の日にして

晩夏、瞼に想ふ

火のごとや夏は木高こだかく咲きのぼるのうぜんかづらありと思はむ

夏山は我が知る方の夕霧に緋秧鶏ひくひな飛びて風もつらしき

火

谷地の東宝撮影所、日々に戦火起る

閑しづけきを人は戦ふ夏闌たけて模擬地雷火を爆発せしむ

秋気

葉ごもりと合歓かふかのうれの秋霧に尾長は居をらしその飛ぶ一羽

風の先さきつぎつぎと飛ぶ雛見れば尾長や秋を気色けしきだちたる

夕顔

眼力まなぢからけだし敢あへなし夕顔の色見さだめむ睫毛まつげ触りたり

夕顔は端居はしゐの膳に見さだめて月より白し満ちひらきつつ

七夕

篁子の傍らにて

端渓たんけいの硯に向ふ女めの童わらは髪黒う垂れて面照おもてりにけり

また磨らな硯にうつる空のいろの消えつつしあるに墨の乾くに

よく磨らむ愛かなし女童めわらは七夕たなばたは磨る墨のいろの金きんに顕たつまで

端渓の硯の魚眼ぎよがんすがしくて立秋はいま水のごとあり

残暑籠居

澄みつつし沁しむる暑さか西日さししづけき幹に蔦ひかり見ゆ

いよいよに濃く黒き眼鏡をかけて

うち沈む黒き微塵みぢんの照りにして暑しよは果しなし金きんの向日葵ひまはり

日中レコードのみをかく

何聴かむこの日のうちぞ指および触ふりあてゆく針の鋭とくも短かき

深大寺の九月

深大寺じんだいじ水多さはならし我が聴くに早や涼しかる滝の音ひびく

むくろじの実のまだあをき庫裏の前もの申すこゑの我はありつつ

深大寺じんだいじの池、水澄みたらし下照りて紫金しこんの鯉の影行く見れば

御厨子みづしには倚像きざうの仏坐ましまして秋さなかなり響くせせらぎ

はてしらぬ仏の笑ゑまひ面おもあかる灯映ひうつりにしてみ掌ての欠けたる

ここの山我が聴く方かたゆ日照雨そばえして庫裏戸くりどに濡るる秋海棠の花

月色

雲とありて月の光の流らふる屋やの空ならし坐すわりて飽かず

子等がいふ欠くることなき望月も父我の眼には二日ふつか三日みかの月

風に見ゆる月の光を涼しくはにじり出でて仰げ暗きかも木々

薄雲にひらめく月の光かも風にかもあれや我が眼過よぎぬる

夜色をまた

月い照るかかるか黝ぐろく厳いつかしき地表の皴しゆんを我が思もはなくに

山河に輝てれる今宵こよひの望月の円まどけき思もへば我盲しひにけり

秋夜父に読む

女童めわらはの読みとどこほり声無きは灯ひに見てかあらむ瞳凝こらすと

秋曇り

渡り鳥飛ぶとふ空も雨雲のいや降りつぎて暗きかもただ

山椒太夫哀歌

安寿恋しやほうやれほ、厨子王恋しやほうやれほ

佐渡ヶ島雑太さはたの庄に目は盲ひて干すさ莚の粟の粒はや

啄つむ粟の薄日うすびあはれとほうやれと追ふ鳥すらや眼には見なくに

短日童女像

短日

短日たんじつは盲しふる眼先まさきに朱しゆの寂さびし童女像ありて暮れてゆきにけり

初冬月象

夜の池にうごきて繊ほそき月形つきがたはかがやく箆へらのゑぐれる如し

夜のふけの冬の池水か黒くて深沈たるに月映りけり

鼠騒ぐ

田鼠ら硝子戸のぼりあわただし谷地やちの月夜も凍しみて明あかきか

物欲ほると鼠つい居る燈ひかげには霜こごる夜よの微動がありぬ

夜々出いづる鼠ひとつにこだはるは何ぞとも思おもへその尾引くなり

書画箋や鼠被かかぶる間まをおきて聴くに穏止おだやみまた引き裂きぬ

護摩壇に鼠むらがる夜半にして頼豪阿闍梨狂ひたまひき

冬夜

ラヂオには赤き翼つばさといふ曲の楽すすむなり夜よただ寒きに

篁子一銭新貨といふものを持てくる

冬夜さりひとつ光れる手に載せて吹きて見よちふ吹けば飛ぶ貨かね

鼠よあはれ

鼠子は後あとも見ざらしするすると柱に消えて夜寒よさむなるなり

雑魚

吉植庄亮君より送り来たる、二首

眼にさぐる雑魚ざこの熬いり煮には箸つけて暗きかもやあはれ霜夜しもよ燈火ともしび

冬ざれの印旛郡いにはごほりゆ熬いりて来こし小蝦のひげが繁しじこごりけり

谷地の冬

藪雑木やぶざふき谷地やちの日かげのしづけきは一朝にしもみ冬寂びたる

小綬鶏こじゆけいの群れつつ黙つぐむ雑木原冬は日すぢの目に立たずして

冬山

冬ひと日なにかきこえてある山のまだしづかにて明あきらなりける

瀬の音のひと日ひびかふ冬まけて鉄瓶の湯気我も立たしむ

冬むかふ谷地田やちだの日かげ瀬の音として照る山方ぞす枯れはてたる

陽にあてて瞼まぶた温ぬくもるほどほどは聴かゆる方かたの音きこえつつ

積むのみぞ冬の書塵しよぢんのもろもろは我が読まずなりてすでにしづけき

落葉

玉蘭はくれんの落葉掻き集つめ焚く風呂のねもごろ柔やはき湯気に立つめり

我が山は落葉繁しじなり風呂立てて二十日はつかまり焚きていまだ散り敷く

霜三首

大霜の田川ひびかふのみなるを我が聴きに出て朝は居りける

霜下おりて近くなりたる冬山を鴑あとりの声は繁しげくもぞ来くる

眼を開ひらき歩む林の小綬鶏は霜踏み越えて清すがしかるべし

愚かなる虎

讃岐金刀比羅宮の襖絵を思ひ出でて

虎の貌かほ啖くらひ飽きたるさましてぞ愚かなりしかその眼とろめつ

猛々たけだけし群虎の月に嘯うそぶくを呆ほけたるがひとり澗水たにみづなめぬ

読書

書ふみ読みて楽しかりにし昨きぞ思もへば燠おき掻きほぜり冬よるべなし

楽しみと書ふみは読みしか味気なしゆとりとてあらず読むを聴きつつ

書ふみ読みてひたり味ふしづけさを声ありやとも聴きぬ霜夜は

読みさしてゆとりあるまのうら和なぎや自しが楽しみと書ふみは読みける

聴きてゐつ心に読むと沁む文字の声ことごとく象かたちありにし

妻

いたりける妻なるならしねもごろとかたへ寄りつつこの夜読みつぐ

我が二人ふたりいたりつくらし何くれと言ことには出でね依り合ふ思へば

聴くとして書ふみ読ませゆく気づまりも妻には思もはず心隔おかずも

家妻は心おきなし読む書ふみの声ねむたげに落ちゆく聴けば

短日起居

口授くじゆしつつうしろ寒けき短日たんじつを懸巣かけすは飛びてするどかりしか

その母の父とこもるにいつか来て子らはあるなり居るともなしに

飲食

面おも火照ほでり炉ろに寄る子らが影見ればあかあかとけぶり煮立つものあり

ありやうは春の朝あしたの飲食おんじきも色に見ずてはつひに寒けき

絵馬

山にして幽かすけかりしか蔀戸しとみどに冬はここだくの小ちさきめの絵馬

めの絵馬は掌てを合せゐる幼児に一刷毛の空を青く流しき

短日視野

眺めとて何の色なき冬山の雑木端山も見ずばさぶしき

冬山は雑木のかげり夕ゆふ早し灯ひを点つけよとぞ諸もろに点つけしむ

鼠と貂

明あかき燈ひに人ははばかる我が影を鼠牙きば研とぎ噛む音立てぬ

明笛みんてきの竹紙ちくしすらだに舌ねぶる鼠なりきや啖くひやぶりける

眼を開くをさな夜床の灯ほかげには鼠の法師大きかりにし

鉢の蘭くらひゐにしか夜よの凍しみを障子ゆるがし鼠去りぬ

貂てんならむ我が冷えわぶる後夜ごやにして鼠ひた追ふ音駈けめぐる

壁うらに食はるる鼠声啼けり飽くなき貂てんもはたや寒かる

冬夜さり鼠の業ごふも果てけらし貂てんの眼まなこも食じきに和むか

松風やさわたるらしき灯ひを消してその松の姿いまは見えつつ

寒夜

池水に黝くろき八つ手の葉はひたりなまじひに月夜見えてあるなり

うちみはり眼まなこうつろに居る我を月昼のごと照りて闌ふくるか

東宝撮影所

トーキーは夜の寒かんにして騎馬隊の蹄の音も撮とるにかあらむ

雪空

めらめらと火の燃えつきし幻覚も障子に消えて雪曇りなり

雪空の暗く閉ぢたる降り出でてことごとが白く楽しく舞ひぬ

我が堪へて瞼まなぶたたぎる日暮れ方雪はけはひに降り乱れつつ

一つ来て瞼まぶたに煮ゆる雪片せつぺんの須臾とどまらず水と滴たりにけり

睫毛まつげより涙したたる両眼を映画にて見にきその大写し

観雪

枯山からやまに雪しらしらと降れりとふ枯山にすらも人目遊ぶを

降る雪に灯あかり向けしめその雪のほたほたと出でて飛ぶに胆きも冷ゆ

雪後

庭に観て眼もひらく今朝のよろこびは雪つもる木々の立体感なり

冬わたる紅腹鷽べにはらうそは雪ぶりの後晴あとばれにして声にこそ来め

瞳人語

年頭薄明吟

新春にひはると今朝たてまつる豊御酒とよみきのとよとよとありてまたたのたのと

父母ちちははに寿詞よごとまうさく歳としの旦あした仰ぎまみえむ視力早や無し

ゑずまひに眼先まさき貴あてなる杯さかづきやとよりと屠蘇の注つがれたるかに

汝兄なえ今は屠蘇も召さぬかあはれよと母嘆かすやしづけき我を

弟おとどもが酒に吼ゆるを寿詞よごととも元日は聴け日もかたむきぬ

木魚と明笛

人より贈られて

妻を呼ぶ小ちさき木魚は掌てに据ゑてうつによろしも足音あのとちかづく

呼ぶとしてたたく木魚も見えぬ外とに手元逸それつつ畳をうちぬ

§

明笛みんてきはひやるろほろろと吹きいでてすべしらぬかなや指を遣やるすべ

指および触り冬は頼めし明笛の竹紙ちくしのつよき張りぞひびらぐ

春寒

春早やも蛙鳴きそめ幾夜さか真闇つづきて月ほそく出でぬ

へうへらと蟇ひきは土より音哭ねなきして春なりけりや月夜はつかに

世は献金の盛りなるに

ほそき金きん何ぞ秘むやと夜を覚めて妻に訊きゐつをさな蟇の音

夜哭きする食用蛙風にゐて春寒しゆんかんなれや咽喉のみどつづかず

或る絵をもらひて

夜は暗し皿なる鰯冰こほれるが片照る青き脊すぢそろへぬ

鼠の春

冴えかへる

蘭の香に寒波押し来くる夜の闇や春酣たけなはといふに間まはあり

春蘭の根に置く卵殻からなるを鼠は出でて触れゐるらしき

春蘭の鉢跳びおりる夜の鼠そのひと跳びの尾は冴えかへる

春夜寒

鼠出でてもこりと居るは畳目のけばをかひろふ夜寒よさむ灯ほあかり

承塵しようぢんに水月すゐげつのかげのぼるとき鼠は居りき面つらを出いだして

註、承塵は長押

電燈のコード咬み切るふてぶてし鼠彼奴かやつは感ぜぬらしき

温ぬくときは鼠らしきが小走りに体あたりして早や消えしなり

冷えまさる闇に目を瞑とぢ我が居ればおのれ鼠の親なるごとし

闇にゐる鼠思へば立つ鬚に眼のするどかる啼く音引くなり

春惜む

春惜む我が方丈の闇にしてさうさうと群るる鼠暫しばあり

薄眼にぞ走る鼠の影追ひて何すとならし春も暮るるに

梁うつばりや春来てかじる野鼠のおもしろと聴けばなほと居るなり

風狂

歳時記をかじる鼠はげんげ田の畔あぜをかも来こらすその日がへりを

花さぐる鼠和上わじやうは身ぐるみに濡れてかまさめ春雨な降り

朧

春朧ろかがむ鼠のをさなきは両肢もろて持ちそへ物ふふみ食はむ

朧月ろうげつの匂ふ面おもてを行く刻み定刻九時四十分の時報今点うつ

花塵

牡丹しろく香を吐く夜々は陰かげのみを鼠跳梁し早や在らずあはれ

花塵くわぢんをさまりて幽かすけく暑くなるものか梁うつはりを走る鼠すら無し

春山

百千鳥聴くによろしき春山も眺むるにしかずこれの霞を

聴くになほ匂ふ霞か春山のわたりの野鳥羽ぶりしじなり

そこらくは萌ゆる端山はやまの藪雑木やぶざふき春の鳴る瀬のかがよひにけり

盲しひむより見る眼まされり楽しみとただに聴けとふ何のなぐさめ

色に見ずもただに聴けとふ明らなる両眼にして人言ひにけり

聴くものに春はのどけき鑿のみかんな昼の鼠のそことなきこゑ

春日

鶯に蛙かはづ鳴きつぐ庭ありて我が春日しゆんじつは果はてなきごとし

三度、鑑真和上を憶ふ

盲しひてなほ浄慧じやうゑの人は明らけし面おももちしろく春を寂さびてぞ

瞳人語

聊斎志異の瞳人を思ひあはせて

のんのんと瞳の中に言ふ聴けば春昼しゆんちうにして花か咲きたる

夜にまさる黒き眼鏡の視野にして桜の花はひらきそめにし

靖国神社を偲びて、一首

映画には桜浮び出で揺れゐしが影日向ありて真昼なりにし

塑像を置く縁にて

風はまだ繁しじしらけ立つ春塵しゆんぢんに眼まなこ洗はむ朝あしたとてなし

立ちにけり空くうにさまよふあるかなき春の蚊すらも眼は持つらしき

我が塑像ふくらみ黒き瞼まぶたに夕柔ゆふやはらなる春陽はるびかぎろふ

短歌新聞百号の祝に

百と積むけだし稀なり香かぐの果の影さへや然り歌に敢て積む

人ならば百に垂なんなん翁にて言ひてめでたし新聞を君は

暗夜行

夜行くはむしろ安けしひと色と見つつ馴れにし闇の眼にして

真闇まやみにはまぎらふ光あらなくに瞼まなぶた慧さとしにほひのみして

闇いとど春夜しゆんやは愛かなしこの道のにほふかぎりを聞きて行くがね

ガソリン・コールター・材香きが・沈丁と感じ来て春繁しげしもよ暗夜やみよ行くなり

春の夜と時計うごけるアトリエは表おもての闇やみも光かげさすごとし

土移る桜の花にありけらし夜風うごきて将たしづまりぬ

春しぐれ夜を行く人の間隔はけだしけはひに濡れて知りつつ

闇ながら戦盲せんまうい寝ぬる家やの棟は蛙鳴く田をのぼりきりて見ゆ

夜目にして黒きはふかき藤浪のしだれたりけり隣家りんかなるらし

物の和なぎ沈むを聴けば草堀の春闌たけにつつ雨夜あまよひさしき

塙保己一を偲びて、一首

燈ひや消えし眼のあきらけきあはれとぞ沈痛に人の言ひて笑ひき

四度、鑑真和上を憶ふ

若葉しておん眼の雫ぬぐはばや  芭蕉

水楢の柔やはき嫩葉わかばはみ眼にして花よりもなほや白う匂はむ

藤と牡丹

一

豊けくや匂ふ藤浪房垂れてひと鉢の空をその色とせり

莟ふふみける短かかりしか臈たけて房ことごとに長き藤浪

糸づくり光る鱵魚さよりはすずしくて早や夏近し鉢の藤浪

触りよきは空くうにしだるる藤浪の下重したおもりつつとどめたる房

牡丹ぼうたんの四方よもの明あかりはしづけくて色無きがごとしこもる蚊のこゑ

白牡丹はくぼたん光発たちつつ和なぎ久し自界荘厳の際きはにあらむか

陰かげにして紫紺の香にほひすさまじき藤浪にあれや夜よの灯ひ闌たけたる

藤浪は重おもりしだるる夜のしじま世界動乱の気先きさき観むとす

二

隆太郎富山高校に入りてより早や四十日にもなりぬ

鉢の藤かかへ危ふきその母と畳にぞ下おろす房ゆらゆらに

ひと鉢を藤は老木おいきの片寄りに房しだれたり空むなしき椅子に

藤といへば早やも夏場所夕ゆふこめて鉄傘てつさんの揺ゆらぎラヂオとよもす

我が眼には黝くろきのみなる藤浪の散りかつ散りぬけ長き房を

鉢うづむ藤の散花ちりばな干ひからびて手に触るるほどは音に立つめり

惜春賦

花ひとつ片枝かたえに留とむる玉蘭はくれんの我が視野にして煙霞はてなし

裏端山うらはやま匂ふ霞のおほよそは聴きつつ居らむ聴くに幽かすけき

春山はえごの楉しもとのとわたりを闌ふけつつかあらしきよろろ鶯

閑しづけさは春の蚊をすら羽ぶき澄む浅間の鷹のごとも聴き居つ

春すでに闌ふけてほけゆく紫雲英田げんげだは我が木戸過ぎて打越橋まで

下空に沈みかがやく花見えて我が夕闇は迫れるごとし

表おもてには月夜あかるき我が山を春のしぐれか背戸わたりゆく

黒檜

孟夏余情

黒き檜ひの沈静にして現うつしけき、花をさまりて後のちにこそ観め

か黝葉ぐろばにしづみて匂ふ夏霞若かる我は見つつ観ざりき

我が眼はや今はたとへば食甚しよくじんに秒はつかなる月のごときか

視ると聴くとそのいづれとふいよをかし視て而も聴くに豈まさらめや

我ならぬ言ひたやすかり縦よしや眼は耳に聴けちふ心に観よちふ

我が暗き人にここだくきこゆるは勢きほふに似たり言ひて何せむ

馴れにけり暗き視界もよのつねはかくあるごとく見つつ安らに

春蝉 五月十六日

春蝉の早や鳴きそむる我が山を向ひにもこの日じじと声立つ

激しかる我が性さがをしも言こと撓ためて堪へ堪へて居れ蝉の鳴きいづ

青蛙呼ぶ

若葉森に雨呼ぶ蛙湯に聴けば煙筒を揺りて声湧くごとし

郭公

野鳥レコード

郭公の録音聴くと楢わか葉風あざやけき庭に眼は留む

眼もひらく初夏の清すがしさ我われ聴けりかつこうかつこうの光の録音

大暑

深かりし霧霽れゆきて谷地田やちだには月照れりとふ明日あすから暑し

靄ごもり大暑たいしよの照りのしづけきは寒むかるがごとし蝶ひらら居る

白栄しろはえの靄たちこむる真昼にぞげんのしようこはよく煮立つらし

鳥猫大暑の照りに耳立てて蚊を追ふ見れば体たいかろく跳とぶ

茅蜩

茅蜩ひぐらしは合歓ねむの夕花咲きそむる山方やまかたにして気色けしき添ひつつ

雨とふる朝ひぐらしの声きけば常あるに似たり繁しげき杉山

東宝映画撮影所俯瞰

夏山に波の音荒く起りしがあはれあはれトーキーの模擬音にして

すべて模造花らし

夏撮うつす林檎の花は光れども現うつつならねば早やあはれなり

夜の零時火星赤々と迫り来て模擬市たちまちにネオン消けしたり

街建てて夜々華やぎし今朝聴けばぐわらぐわらとすでに壊くづしつつあり

所懐二三

憤ることありて

反高そりだかの青かまきりを打つべくは一撃いちげきにしてその斧ともに

蟷螂かまきりのはらわた頼めすぢ黒き針金虫の生くらくあはれ

樹相に寄せて

大き木の鬱然たるは然しかありてその雲吐けり年を経へにける

多磨運動会

短歌マラソンのともがらを、我家の方へ出しやるとて

日の透とほり影と乱るる秋ざくらよく見て来むぞ庭つきぬけて

庭なべて落葉のみなるありやうをこの凪の陽に思ひみるべし

夕光ゆふかげの諸葉もろはかがよふ黄の銀杏わが腰掛は庭に置きたる

村童、あまりに現実的なる

眼にうとく我がつきそれし風船は童わらべが地よりさらひて逃げぬ

鉛筆の一二本ゆゑに我れがちと子らひた競ふあの駈けざまや

額髪

井上理吉夫人弔歌一首

額髪ぬかがみの幼なかりにし俤は五十歳いそとせ過ぎてその亡きあとも

冬の庭

玉蘭はくれんは黄葉もみぢ乾からびし落ちはてて庭のはひりの音ひびきけり

夕かげはここだをぐらき我が眼にも楓かへでの紅葉火照ほでりするなり

日おもてに黄葉もみぢはららく声するは日陰ひかげの雑木風か吹き越す

背戸わきを我が蹴つまづくバケツには落葉かきためあかつきの霜

心の花五百号をことほぎて

おのがじし華は咲かせてゆたかなるみ園のあるじ今よき老おいに

我が園と眺め足らはす竹柏なぎの園牡丹の花も咲きて明るき

五百いほあまり華の慶よろこび積つみましてなほかがやかしみ園は久に

篁子

女めの童わらは篁子くわうこが削る鉛筆に朱あかき粉の飛び短日たんじついまは

灯ひのもとに篁子がすなる英習字菊さし寄せてその父われは

髪揺りて父に笑ゑみ寄る夜の寝ぎは手のつめたきは少女ゆゑにぞ

榛名湯沢行

榛名

巓いたゞきの裏行く低き冬の雲榛名はるなの湖うみは山のうへの湖うみ

上つ毛榛名のみ湖うみ雲のうへのいただきにして冬の陽映うつす

雲過ぎて陽のあたりたる湖面には漁舟れふぶねひとつ見ゆとふかなや

榛名富士明あかく日あたり暖ぬくしとふ鬢櫛山びんぐしやまは早や白しとふ

はろばろに神楽きこゆる雲の上埴山姫はにやまひめや巌いはの秀ほに坐ます

日すぢ降る雲こそ透けれ冬山榛名の宮はいや石高に

榛名の宮冬日薄きに妻と我が鶯笛を吹きつつ下る

この下りいまだ日のある山路とて残んの黄葉もみぢ目にとまりつつ

上越線を湯沢へ、水上より

水上みなかみは屋群やむら片寄る高岸に瀬の音とぞひびく冬陽ふゆびさしつつ

こごしかる湯檜曾ゆびその村や片谿かただにと日ざしたのめて冬はありつつ

岩ひとつ白かりしかなや冬谿ふゆだに水上の瀬は澄みにしかなや

短日たんじつの分水嶺に我が立てば二方ふたかたへくだる水の瀬早し

上つ毛利根の水上我が越えてすでにぞくだる越こしの山がは

北の峡かひ雲ひたひたと押しかぶし降雪かうせつちかし紅葉も過ぎぬ

上つ毛は明あかき黄葉もみぢを越こしへ来てほとほと過ぎぬのこれる見れば

ふりさけて空に寒けき裾山を奥なる峯は隠こもりて見えず

湯沢の宿

山国はすでに雪待つ外そとがまへ簾垂りたり戸ごと鎖さしつつ

冬の宿しゆく屋内やぬち暗きに人居りて木蓼またたび食はむかひそと木蓼またたび

父ととが曳く柴積しばつみ車ぐるま子が乗りてその頬かぶり寒がり行きぬ

鯉市

鯉市ぞ本城寺前に立てりとふ早や短日たんじつを競せりてあらむか

門川は黒きのみなる鯉生きて初冬の真水まみづほそりたりけり

雪降らむ雲は低きに荒々し山袴さんぱくづれが真鯉まごひ競せりあぐ

山びとが鯉を愛めづるは常無くて徹り澄みたる姿観にけり

白鱗びやくりんの三色さんけの鯉の清さやけきは氷中花とも澄みて真水まみづに

観るものとはぐくむ鯉は常愛めでてなほ思ふから色に出づちふ

水に澄む端厳の相これをかも豊けしといはむ鯉ぞ老いたる

生くらくは鯉市にしもしかもなほ青淵の鎮しづみ鯉たもちたり

黒の鯉三十六鱗みな張りて息ととのへれ寒かんきはまらむ

山国は冬のものなる鯉市も日の目みじかく数よまずけり

短日たんじつの市の盥や手づかみと鯉は投げられ少くなりぬ

市はてて気けどほきごとし鯉あらぬせせらぎに菊のうつれる見れば

み湯のしりとろむお池の湯ごもりに息づきてあるか鯉は老ふけつつ

(高半旅館にて)

冬渓

風ひびく冬山岸にはららくは白樺の清き黄葉もみぢなりけり

冬山のつまさきあがり早や凍しみて日光ひかげはじかぬここだ石ころ

冬渓ふゆだににこもる椙森すぎもり夕日さしかかる鎮しづみの雪を待つなり

山柿のここだ朱あかかる豆柿も正眼まさめ仰ぎて色によむなし

手にひろふものの落葉はつくづくと眼まさきすがめて見るべかるらし

柴積しばづみは莚かけ置く霜ながらまだあをあをし穭田ひつぢだの湯田

月夜

天の月川の瀬照らす更闌かうたけてここにしぞ思ふ四方の鎮しづもり

潭水たんすゐの自力発電の音澄みて飯士いひじの山に月照りわたる

雪祭四章

穂積忠が処女歌集「雪祭」に寄せて

雪祭は睦月の神事

雪祭は睦月むつきの神事かむごと、その雪は田の面の鎮しづめ、雪こそは豊とよの年の、穂に穂積む稔みのりのしるし、その雪を神に祈ると、その雪に神と遊ぶと、山峡や小峡をがひの子らが、あな幽かそか、鬼の子鬼が、雪祭四方よもの鎮めと、幣ぬさ立てて、小松植ゑてな、あな清さやけおもしろ、雪よ雪こんこよ、ハレヤとう、ヤソレたたらと、夜すがら遊ぶ。

反歌

天竜の水上みなかみ清み雪祭る族うからが鬼はよに遊びける

「雪祭」幽けきかも

「雪祭」幽かそけきかも、忠きよしはうれしきかも。その窓に富士を見さけて、狩野かのの瀬に月を仰ぎて、豊かなる心ばえやなほも、ほのぼのと朝夜あらし。ちちのみの父のみ身、ははそばの母のみ魂たま、老いませば、常無けばあはれ。風花かざばなや天城あまぎの杉を、うらら日を、何とはなくて吹きちらふその影にかも、心は寄する。

反歌

うら歎く父母の子は風花かざばなの消けぬかに散らふ和なぎにかも行く

おもしろの雪祭や

おもしろの雪祭や。風花かざばなの空に顕たちて、日和ひよりうららよとの。遠山は霜月祭、新野にひのにては睦月むつき、西浦にしうれは田楽でんがく、北設楽きたしだらは花祭とよの。さてもめでたや、雪祭のとりどり。国は信濃よ三河遠江、水は天竜の流、水上みなかみよ、下り下りに春うらかすむ。

反歌

春天城あまぎ雪の鎮めと伊豆びとは何をもて遊ぶ歌をもて遊ぶ

神業ぞ雪祭

神業かむわざぞ雪祭、鬼の子の出でて遊ぶは、ひたぶるぞ雪の上の田楽でんがく、鎮しづみこそ四方よもに響くに、まことのみぞ神と遊ぶに、おもしろとこれをや聴く、をかしとよそをや笑ゑららぐ。な巧みそ歌に遊ぶと、早や選りそ言ことのをかしと。心にぞはじめて満ちて、匂ひ出づるその外ほかならし。遊びつつ将はたや忘れよ、そのいのち命いのちとをせよ、穂積ほづみの忠きよし。

反歌

神遊び忘るるきはよ鬼の子がひたぶるに笑ゑらぐ命とをあれ

利久居士

三百五十年遠忌によせて、その墓所、京の聚光院へ贈れる懐紙の歌一首

茶をわびと和敬わきようきよらに常ありてそのおのづから坐すわりたまひき

春寒

池辺

池の面に匂へる影を雲ぞとは知らで過ぎしか今は見さだむ

池水に映る繊雲ほそぐもあふぎみて霞むのみなるあはれ白雲

十方じつぱう射光しやくわう霞むのみなる浮雲のまうへ照りつつ春なるかなや

門前新月

眼にとめて月のをさなさいふこゑはまかる人らし門かどの夜寒よさむに

月暦つきごよみ睦月むつき二日ふつかの新月わかづきの眉をさなかる西に見ゆとふ

白辛夷

春邦画伯の銀屏によせて

白辛夷しろこぶし花さく枝にとまりたる頬白見れば春冴えにけり

春雷

春雷しゆんらいの行ゆきかそけかる夜なりけり寒餅かんもちの水の雫切らしむ

尾長

うち霞む三階松さんがいまつの空にして尾長は喚よぶかその尾ひらめく

春山の松に群れ来くる尾の長き空いろの鳥といふがめでたし

玉蘭唱

ひらきかけて黄にぞこごれる玉蘭はくれんは時ならぬ寒波かんぱ昨夜よべかいたりし

その母の子らかきおこす声きけば白木蓮はくれんの咲きて夜明よあけちかきか

玉蘭はくれんの花咲きてより来くる鳥の尾長・鷽うそ・鶲ひたき・雀みなあはれ

玉蘭はくれんの下照る土に歩めるは野の小綬鶏か長閑のどになり来し

庭の春日

春日照る庭の枯芝しづかやとただ白くもぞ観てを居りける

蝶の飛ぶ春なるかなと見てをるを小鳥ぞといふに微笑ほほゑみ尽きず

春日照る庭の芝生を鶏とりじもの我は掻きをり白しらけたる芝

冬旱ふゆひでり長かるあひだ乾からび来し雑ざふの落葉もはららき失せぬ

うちしらけ色無き芝生下萌えず日は春にして眼霧まぎらひ泣かゆ

うち見には枯山からやま芝生春日照りねもごろ聞けば濃すみれ咲きぬ

吾が犬の呆ほけてあくなきい寝ざまにうらら春日の照りこそなごめ

春といへば菓子などめして犬じもの我の坐ましけり渇くものから

口出づる「おばこ」のどかや用のない煙草売たばこうりなど春はふれて来くる

我がこもり春は匂へば照り美ぐはし物のあいろよ強ひてしも見ず

転居近づく

成城十九番地月まどかなる春夕しゆんせきの暮れつつはありて明あかりつつあり

花ひとつ枝にとどめぬ玉蘭はくれんの夏むかふなり我も移らむ

下巻

日本古武道

昭和十三年九月十五日独逸青少年使節団一行を迎へて、日本古武道型大会開かる、会場神田国民体育館、主催は日本文化聯盟なり、我視力乏しけれども行きて参観す

武神

建御雷たけみかづち響きわたらし夏雲やすでに向伏むかふす下しもつ国原

大船の香取の海に潮うしほとよみ弓弭ゆはず輝てりわたらす経津主ふつぬしの神

ひもろぎ香取の山は鷺多さはに梢とよめり清さやの明りを

荒み魂しかも和やはすと明らけし遠とほつ祖先みおやは討ちに討たしき

神前

神とある弓矢のまことうやうやしひとたび立ちてたぢろがめやも

剣執り闘ふかぎり斎庭ゆにはなり塵だにとめじ朝潔きよめつつ

武田流陣貝

陣貝は裃正し高々と両手もろて持ちにぞ吹きあげにけれ

陣貝の法螺貝聴けば武者押しに今ぞ押しゆく昧爽あけぐれの空

音おとに止やむ陣の法螺貝緋ぶさ垂りしづけかるかも吹きをさめける

立身流居合

真竹またけを立身たちみの居合抜く手見せずすぱりずんとぞ切りはなちける

見たりけり斎庭ゆにはに立つる青竹の試し切りこそうべな一と太刀

日置流弓術

その一

弓構ゆがまへや差矢前型さしやまへがたいざとこそ片折り敷きぬ物見正しく

矢を番つがへ物見安らぐ跼つくばひのよに落居おちゐたる姿よく見む

物見しばし弣ゆづかしづもる際きはありてきりり引きしぼる張りのよろしさ

姿なり構かまへ正しく張る弓の矢と一つなる心澄みつつ

引く弓はいよよ張り詰め一筋や眼先まさきの鏃やじり弣ゆづかまで引く

満を持してまさに射はなすたまゆらは幽かすけかるらし弽ゆがけふるへつ

詰つめいよよ張りて堪へたる右手めての肱ひぢ矢頃はよろしひようとはなしつ

射てはなし見入る我かのしばらくは楽しきがごとしいまだ名残なごりに

矢をはなしくるりと返る弓返ゆがへりの弣ゆづかよろしも君が押手おしでに

的はいざ神明こころあきらに引く弓の矢は音たてつ徹とほりたらしも

その二

矢継ぎ早に管矢くだや継つぎ射るしばらくは矢筈あてゆくひまもなく見ゆ

つぎつぎと矢継早にぞ引く弓の弦ゆづるは鳴りぬしづけきまでに

甲矢はや乙矢おとや射継ぎはなちてつく息の事なかりけり弓はをさめつ

剣道諸流

相むかひ声無き太刀の鋒鋩きつさきはむしろ凄まじき気合なるなり

気先きさきには撃つと見せつつまじろがず張り満つる力ちから極みなむとす

青眼せいがんにひたとつけたるしづかなる時たちにけりひらめく一太刀

真向まつかうより打ちおろす太刀雷撃のこの太刀風は息もつかせず

一太刀にひた打ちおろす、響あり何を思もはむぞ小手先のわざ

体あたりかららと絡からむ火のごとき気合鍔つばにして敢て押しにけり

白刃しらは取とり極む捨身すてみの入り早し飛鳥の如くその手抑へぬ

柔道諸流

男童をわらべら構かまへ凛々しく肱立ててゐずまふ見れば張り切るごとし

母はいざ国の童男をぐなが相搏つと対むかひ構へぬ小さき柔やはら手

相むかふ今か搏うたんず面つらがまへ丹田にして気合満ちたる

えやと掛けおうと応こたふる張り満てる童わらべが気合相搏つかすでに

身をあげてすべて相搏つひたごころ童わらはべなれや響き合ひにつつ

男童をわらべは稚なかるとも相搏つとひとたび対むかひ面おもてふらぬかも

手は疾はやし礼ゐやしてぞ退のくすなはちをじりりじりりと寄り身にはゆく

早技はやわざとすくふただちのこのきまり大外刈おほそとがりの型のよろしさ

師の道におのれ鍛ふとたじろがず力尽くしてその型学ぶ

天道流薙刀

薙刀の一手ひとてひらめきいつくしき真夏なるなりしづもる塵に

しやつ小女童こめろ小太刀するどし老刀自の薙刀ぐるまたとうちとめぬ

根岸流手裏剣

十とをの指諸もろに手挟たばさむ手裏剣のつぎつぎ疾はやしうつ手は見えず

手裏の技わざ神にもかもや的の戸にうちし小柄は我われと礼ゐやし抜く

夢想流杖術

天地あめつちに構ふる杖ぢやうの音無きはただ水のごとし無念無想の型

杖ぢやうの手は眼にもとまらず引くと見せ打つと返すと十方じつぱう無礙むげなり

武道

青雲おをぐもに直ただにひびかふ剣つるぎ太刀たち古いにしへありきいまもこの道

戦時雑唱

鋒鋩

靖光は陸軍省贈の将官刀なり。征戦一ヶ年、而も我眼を病みて今為す無し

晴はれけふを暗きかもやとうちなげきひたと瞻もり居りわが太刀靖光やすみつ

父の子はつくづくと見よ我が太刀と鞘さやはらふ太刀に曇りひとつ無し

一方ひとかたに力あつむる我が眼先まさき鋒鋩ほうばうの蒼み光発さし見ゆ

哀歌

ひたひたと攀ぢてうばへる塁とりでにて何を叫びしつはもの彼ら

つはものはあへぐいまはもをたけびてこゑあげにけむ天皇陛下万歳

先き駆くとただに勢いきほふ軍の犬ひとたび吼えてかへらざりけり

伝書鳩荒野の空に行き消えてたより無しとふその鳩泣かゆ

斃れ伏す軍馬あはれと我が水のひとしづくつけて死にし兵はや

この感激を

昭和十三年九月廿六日、大日本聯合青年団第十四回大会に際して、秩父宮殿下には会場日本青年館に台臨あらせられ、畏くも令旨を賜ふ。一同感激措く能はず、我また席末を忝うすれども、眼疾の篤きをもつて幽かにただ拝し奉るのみ。この日、我が新作大日本青年団々歌初めて合唱さる

澄みわたりいよよ静けき時今を宮みや成らすらしみ気配けはひ聴かゆ

金屏の映えて畏き真正面まおもてに宮みやおはすらしあたりしづけき

秩父嶺ちちぶねに神立かんだちわたる朝の雲み声いさぎよし若き直ぢきの宮みや

朗かと国の若らに下くだしたぶ力雄々しきみ声なるはや

聞えあげ応こたへまつれる人誰たれぞ涙せきあへずその声歔欷さぐる

みそなはせ天そらもとよめとけふ今ぞ声揺りあがる大日本青年団の歌

老兵

その一 応召

昭和十三年五月、応召兵我家に宿る。その中にひとりの老兵ありき

老いし兵笑わらひ落しつかきかぞへ一ひ二ふ三み四よ五い六む七な八や九人ここなたりの子

召されけり老いし兵つはもの若やぐと面おもてもふらね多きかも子ら

小童がきらかよ末は名すらも忘れつと兵後あと言はず将はたや忘れし

老いし兵強き日差に歩を張れりむしろ叫びて駈けたかるべし

点呼なり若葉しづもる午ひる行くと兵は照る陽の地に灼やくる踏む

死ぬべくぞ兵は戦へかりそめと病みてな還り草も灼くるに

手もすまに養かふ蚕こかなしびまた書かず兵つはものが妻や九人ここなたりの母や

立つとして今は安きか兵彼ら生死いきしにの外ほかに遊べるごとし

壺口の防毒マスク管くだ長し若葉光るにをどり出でて来る

蒸しむしと夜眼よめに撲うち来る土ほこりトラックとどろき兵発たちはじむ

その二 その家

初夏、我家に宿りし兵士の一人今既に中支に奮戦しつつあり、我等とその妻子との消息絶ゆることなし

兵の妻九人ここなたりとふ子の母のまた細るらし家貧しきに

兵の家いへ事ことに嘆かこたず貧しくも国を頼たのめて養かふ蚕こあげにき

山と言へば子ら九人ここなたり母のみにかつかつ暮らす冬日ふゆびおもほゆ

兵の家いへ雑木端山ざふきはやまの後空あとぞらも朝寒むからむ子らの騒さわぎて

前線に今ぞ発たつとふ文ありて生死しやうしもわかね戦たたかひ勝ちぬ

秋ざくら花みだれゆく庭にして何くれとなく干す日はつづく

霜夜しもよ着る幼をさなな小衾をぶすま継つぎあてて仕立て送らな内うちのさがりを

小ぎれもの掻集かきつめ送る菰巻に古綿畳たたねキャラメル九ここのつ

戦影

戦場の眼

じりじりと匍匐しつつも寄り進む兵をぞ思ふその眼力まなぢから

ひたおもて戦車にあるはまじろがずその眼射たれけり両ふたつのその眼

銃つつ向けて壕がうに押し並なむ鉄兜眼には堪ふるか待つある時を

動ぜぬはいよよ見据うと塹ざんにして未だは射たず敵引き寄せぬ

白昼に思ふ

日のさかり眼まなこ射たれて聴きにける兵の命の四方よものしづもり

夜戦

夜戦よいくさは月をこもれば黍の根に鳴き澄む虫のその翅はすら見む

眼先まなさきに友の屍しかばね凍こほれるを月夜つくよ堪へつつ七夜ななよ経しとふ

廃馬

ましぐらに進み行きける軍ぐんのあと馬縡切こときれぬ草は喰みつつ

砲火絶え今はあやなき夜の沼に馬沈まんずまた嘶きて

盲兵春日

ひと棟むねは盲目めしひのみなる兵にして真昼明あかきに坐りてありしと

もの言はず光る戸口へ面おも向けて兵はありきと盲目めしひなりしと

面つらあげし兵の一人はそれぞとふ眼も無かりきと見て来て言ひぬ

戦盲兵せんまうへい見て来しといふ人見れば眼はあきらけく頼むあるらし

戦聾

面かほ笑ひ照る日に群るる兵見れば呆ほけたるがごとし耳聾しひにけり

夕河鹿また聴かざらし戦聾せんろうの幾人いくたりの兵青葉見てあり

空は見て答ふるなきは音絶えし兵の起居たちゐの性さがとやなりにし

爆撃音今は玄はるけくありぬらし聾兵は碁に余念無しとぞ

弔電二首

手嶋多賀美君の英霊に捧ぐ

つはものはかくしあるべし先行さきゆくと面おもてもふらず戦ひ死にぬ

ちちははは国に捧ぐとひとり子ごの愛児まなご先立さきだたし老いつつ言はず

若鷹

我が一族、陸軍航空兵少佐(当時大尉)鶴田静三君、昭和十三年初夏、南昌空中に於て散華す 九月十一日、郷里柳河にて葬儀盛大に行はる

我が族うからすでに一人はいさぎよしくわうくわうと空に散りつつ消えぬ

夏空を翼つばさはららかし錐揉むと激し若鷹眼まなこ見据ゑき

誉とぞ世人よひと讃へむ我わも然りその老いし父も厳いつかしくあらむ

電送歌口授くじゆし勢きほひし今出でて秋草の中にうづくまりぬる

故郷ふるさとや今日けふし響とよまむ秋草の闌たけて閑しづけきかかる日差を

長江夜話

見る見る黝くろき蝗の大群たいぐんの空おほひ来くる恐れを言ひぬ

長江の大き出水は見るさへや空をのみ映うつし白き積雲つみぐも

或る船員

揚子江遡江しつつも夜ふけには耳に入り来くと後うしろ引く波

下航する夜よのおそろしさ言ひにけり兵揚げて来て後のちのむなしさ

新秋を待つ

あますなき戦車爆撃を軍言ひて虱つぶしに撃ちに撃ちにけり

哈爾哈ハルハ河朝あした越え来てほろびたる蘇蒙の兵に白夜はくやけ長し

戦車来くる音のとどろを地に伏して待つま澄みつつ神しんはあるらむ

大草原おほくさはら沙塵捲きつつ響き来こし百の戦車の骸がい燃えにけり

編隊機けだし進むは山形やまがたと列並つらなむ雁の一機先さきかゆく

ノモンハン火を噴ふき戦ふ国境の上空じやうくうにして夏もをはるか

ホロンバイル夕湖岸ゆふうなぎしにうつ砲の煙噴きつぎて未まだし暑からむ

掃射戦のすさまじかりし後あと冷ひえてパン焼き車香にほひ立てつと

国境線敢て守りてしづかなる月夜にしあるか笛を吹きつつ

口をつくハロンアルシャンといふ語韻ひびき新秋にして我も癒えなむ

波濤の歌人に寄せて

ながむらくしづけきがごとしまともにぞ敢てしぬぎて大き荒波

海洋図絵

辰の歳に寄せて、二首

竜巻の幾はしら立つ冥くらき海リーダアの画ゑは影繁かりき

海を雲へ竜巻き騰あがる幾はしら覆くつがへる船は小さくゑがきつ

§

海洋の西洋木版画帆船はんせん描かき地球の円き弧線があはれ

§

コロンブスが卵立てをるその画など時に笑ましく思ふことあり

戦時立冬

めらめらと人馬も草も燬やきつくす火焔砲とふに冬ひた恐る

火焔砲重戦車ピアノ鋼線あはれあはれ子らが遊びも昂じ来にけり

戦はいつ止むとしもあらなくに米ひた惜む冬にぞ入りぬ

独居る暗き眼にして頼めたる一と擦すりのマチの火すら惜みつ

ハルハ河あはれとしいふ言ことすらも冬来にけらし口を衝つかずも

町に遇ふ小さき兵隊バンドには代用らしき締めてみ冬なり

§

北支那に砲とどろきし頃よりぞ目見まみ闇くなりて我は籠りつ

内閣印刷局

かうがうし菊の御紋は透かし漉すき人つつましも紙あつく漉すく

閑しづけくて偉おほき機構の刷り出づる百円紙幣さつは現うつしけなくに

長江の流もかくやたうたうと刷りいづる紙幣さつの清さやの洪水おほみづ

国の紙幣さつ日を夜をただにかく刷りて幾百億円刷るにやあらむ

截たち切るや刷る間まただちを香に澄みて百円紙幣しへい手も切れぬべし

うち羽ぶき常にもがもな刷られゆく紙幣さつ夜昼よひるなし戦いくさ長きに

五色旗の満州紙幣手童たわらはがただに愛かなしぶものならなくに

紙幣・債券・印紙・郵便貯金帳虹なして刷りいづるところ人鼠なす

円陣に秘ひそゐる少女鋭眼とめ速はやく紙幣さつ検けみしをれ早やおそれつつ

網の目の蟻なす花文けもんうつしけき百円紙幣さつを指はじくなり

豊けかる退ひけて出づる子がゆふぐれは身のほそりして悲しかるべし

大御代と刷りいづる紙幣さつや我は見て大臣おとどのごとく闊ひろく歩みき

年の瀬一首

我が戦いくさ疑ふとにはあらなくに紀元二千五百九十九年の年の瀬今は

鉄を削る

前橋理研工場所見

機械とは将はたやしづけき鉄削る旋盤のかくも艶いろひ澄みつつ

複雑の単純化とふ一方ひとかたに機械はこころこめゐるごとし

旋盤やひねもす速はやれ事といへばただにリングの幅はば削るのみ

旋盤に立つ微塵見れば鉄と鉄や触れあひのただち声いづるなり

鉄微塵短日たんじつにして現うつしけき色盛りあがれ旋盤速はやむ

冬といへば精密機械気先きさきにもリングの寸分すんぶひた感じつつ

戦艦のピストンリング大きなるこの円輪ゑんりんに我はなごまむ

おなじ作業ただに繰り返すのみなるを愛かなし機械や倦みもせなくに

旋盤工は少年のみなり、一首

れうれうと子ら一つなれやリング削り単純にただにうごくを見れば

香にほくる鉄の微塵や気色けしきすら旋盤も人も別わきししらずも

黄塵

風荒れて黄に霾つちふらす下つ空大き年けさの初日ぞのぼる

国挙げて事に惑へりかくしてぞ年明けたりといふもおろかや

かきほぜる埋火すらに早や消けちて後継あとつぎ足さむ炭とてもなし

ゆゆしくも照りつつ降らぬ冬空の寒かんにもちこし水尽きむとぞ

我が観るはむしろ用なしけだしただ盲しひつつくらき眼にぞ堪へゐむ

紀元二千六百年讃歌

読売新聞社募集奉讃歌選者吟

天雲あまぐもの青くたなびく大き陸くがかくいにしへも和やはしたまひき

大日本歌人協会奉祝歌集に

遥けくも今に澄みたる天あまの原その蒼雲に直ただむかふ我は

巻末に

本集『黒檜』は前集『渓流唱』(未完)に次ぐものである。

昭和十二年十一月、眼疾いよいよ昂じて、駿河台の杏雲堂病院に入院して以来、同十五年四月、砧の成城よりこの杉並の阿佐ヶ谷に転住するに至る、約二年有半の期間に於ける薄明吟の集成が之である。

収むるところ長歌五章短歌六百五十一首、之等がそのすべてである。

本来病中生活の吟詠であるゆゑ、自らの歌誌「多磨」以外にはさして発表せず、知らるることも欲しなかつた。ここにはじめて取りまとめて諸賢の清鑑を仰ぐのである。

此の集の歌は、別に選ぶところ無く、作したほどのものは洩れなくここに蒐めた。ただ一々に検して、その磨くべきは改めて磨き直した。

私の眼疾は遠因を肉体の上に加へた多年の精神的暴虐に発し、糖と蛋白との漏出が激甚となり、遂に、新万葉選歌に於ける日夜の苦業が眼底の出血と共に極度の視神経の衰弱を来し、失明直前の薄明状態に坐らねばならなくなつた。この一生の重患に於て、他に補うてあまりある道の楽しみを得たことは、私の欣びである。私は寧ろ現在の境涯に於て幸せられてゐる。

本集は歌集であるゆゑ、作品にすべてを委ね、病気の経過その他心境の如何等に就いてはここに贅しない。短歌以外の詩作、或は随感、消息等は、各年度の白秋年纂「全貌」に全部を収録してある。

なほ、病中吟の外に、正統「郷土飛翔吟」その他の覊旅歌六百余首も、その後半期には氾濫した。しかし之等はその性質上前々集『夢殿』に収めてある。で、創作の順序歌風の推移に就いては、これも「全貌」によつて知つてほしく思ふ。その「全貌」にはこの『黒檜』の諸作も、原形のままに保存して置いた。異同も亦録したい考である。

終りに、此の集の中に時局の歌が少いのは、恰も発病が北支事変と同じ頃に当つて作歌の機を逸したのである。これは短歌作品のみならず他の詩歌にも禍した。甚だ残念に思ふがいづれ大成してその責を果したいと思ふ。ここには「戦時雑唱」としてその片鱗のみを示すにとどめた。

視力は一進一退して、今日に至つたが、やや小康を得て、薄明にも馴れた。ただ四方は暗くなりつつある。(昭和十五年七月廿四日夜)

底本 / Source edition

底本:「歌集 黒檜」短歌新聞社文庫、短歌新聞社
1994(平成6)年8月25日初版発行
2002(平成14)年1月10日再版発行
底本の親本:「黒檜」八雲書林
1940(昭和15)年8月13日
初出:「黒檜」八雲書林
1940(昭和15)年8月13日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※小見出しよりもさらに下位の見出しには、注記しませんでした。
入力:岡村和彦
校正:光森裕樹
2014年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/052301_000106/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/052301_000106/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/052301_000106/

北原 白秋「黒檜」(新字旧仮名)、底本『歌集 黒檜』短歌新聞社文庫、短歌新聞社、1994年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 052301_000106, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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