Soranoha

寒い夜の自我像

さむいよるのじがぞう

中原 中也

1

きらびやかでもないけれど、

この一本の手綱をはなさず

この陰暗の地域をすぎる!

その志明かなれば

冬の夜を、われは嘆かず、

人々の憔燥のみの悲しみや

憧れに引廻される女等の鼻唄を、

我が瑣細なる罰と感じ

そが、わが皮膚を刺すにまかす。

蹌踉めくままに静もりを保ち、

聊か儀文めいた心地をもつて

われはわが怠惰を諫める、

寒月の下をゆきながら、

陽気で坦々として、しかも己を売らないことをと、

わが魂の願ふことであつた!……

2

恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、

おまへの魂がいらいらするので、

そんな歌をうたひだすのだ。

しかもおまへはわがままに

親しい人だと歌つてきかせる。

ああ、それは不可ないことだ!

降りくる悲しみを少しもうけとめないで、

安易で架空な有頂天を幸福と感じ做し

自分を売る店を探して走り廻るとは、

なんと悲しく悲しいことだ……

3

神よ私をお憐み下さい!

私は弱いので、

悲しみに出遇ふごとに自分が支へきれずに、

生活を言葉に換へてしまひます。

そして堅くなりすぎるか

自堕落になりすぎるかしなければ、

自分を保つすべがないやうな破目になります。

神よ私をお憐れみ下さい!

この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。

ああ神よ、私が先づ、自分自身であれるやう

日光と仕事とをお与へ下さい!

(一九二九・一・二〇)

底本 / Source edition

底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩※[#ローマ数字2、1-13-22]」角川書店
2001(平成13)年4月30日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
※()内の編者によるルビは省略しました。
※「わが」と「我が」の混在は、底本通りです。
入力:きりんの手紙
校正:hitsuji
2021年9月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/051892_000026/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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中原 中也「寒い夜の自我像」(新字旧仮名)、底本『新編中原中也全集 第二巻 詩Ⅱ』角川書店、2001年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 051892_000026, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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