空は晴れてても、建物には蔭があるよ、

春、早春は心なびかせ、

それがまるで薄絹ででもあるやうに

ハンケチででもあるやうに

我等の心を<ruby><rb>引千切</rb><rt>ひきちぎ</rt></ruby>り

きれぎれにして風に散らせる

私はもう、まるで過去がなかつたかのやうに

少くとも通つてゐる人達の手前さうであるかの如くに感じ、

風の中を吹き過ぎる

異国人のやうな<ruby><rb>眼眸</rb><rt>まなざし</rt></ruby>をして、

確固たるものの如く、

また隙間風にも消え去るものの如く

さうしてこの淋しい心を抱いて、

今年もまた春を迎へるものであることを

ゆるやかにも、<ruby><rb>茲</rb><rt>ここ</rt></ruby>に春は立返つたのであることを

土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら

土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら

僕は思ふ、思ふことにも慣れきつて僕は思ふ……