Soranoha

芙蓉の花にも似た美しい楊貴妃を

ふようのはなにもにたうつくしいようきひを

上村 松園

帝展の方も大分出品しなかったので今年は思い立って……それも近頃取りかかったばかりで明日辺りから墨を当てようかというところなのです。画題は〈楊貴妃〉それもあの湯上りの美しい肌を柔らかな羅うすものに包んで勾欄てすりに凭れながら夢殿の花園を望んで見ると言った構図で、尤も湯上りと言いますと何だか意気に、そうしてやや下品な様に聞こえますがそうではなく極気品の高いものにして全体羅の中に玉の様な肩先から白い胸の辺り少し湯上りのぽっと紅潮した皮膚が見えて居ると言った風で……傍には侍女が一人います。

詩集はかなり繙ひもときましたが白楽天のは殊に愛誦して居りましたし中でもこの長恨歌には深い懐かしみを持って居りました。何時か一度はそれを描いてみたいと思って居りましたが、この夏大阪で開かれた展覧会に楊貴妃の半身を描いたのが今度全身の絵として出品する事になったのです。大きさは二枚折の少し大きな位で絹地を用います。

楊貴妃の服装についてはこの間中博物館へ通っていろいろ古い参考品を出して頂いて見て来ました。日本で申せば天平から奈良朝、あの時代の衣装や調度建築の様式で行く考えです。猶詩には春寒とありますがこれは夏の時候に改めるつもりです。

(大正十二年)

底本 / Source edition

底本:「青帛の仙女」同朋舎出版
1996(平成8)年4月5日第1版第1刷発行
初出:「京都日出新聞」
1923(大正12)年9月9日
※底本の二重山括弧は、ルビ記号と重複するため、「〈」(始め山括弧、1-50)と「〉」(終わり山括弧、1-51)に代えて入力しました。
入力:川山隆
校正:鈴木厚司
2009年1月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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書誌 / Bibliography
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上村 松園「芙蓉の花にも似た美しい楊貴妃を」(新字新仮名)、底本『青帛の仙女』同朋舎出版、1996年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 049727_000355, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite