Soranoha

真理を求めて

しんりをもとめて

中井 正一

ロマン・ロランは第一次大戦にあたって彼の「戦いを超えて」の中で次のようにいっている。

「真理を求めようとはしないで、それを所有していると称するものと議論することは不可能である。ドイツが日の光りに対して防御壁をつくっている自信の厚い壁を破ることは、今のところ、いかなる精神の力にとっても可能ではない。」

ドイツの多くの哲学者が、すべて背骨を失って、戦の中に巻きこまれたあのとき、そして、フランスの好戦論にこびたあのとき、ロランはひとりスイスに逃れて、痛切な孤独の中に吐いたのがこの言葉である。真理を求めようとしないで、それを所有していると称する者たちの間でのみ戦争は巻き起こされるのである。

真理が何であるかを、ひたすら求め抜く心が、地球に拡がるときにのみ、人々の上に美しい平和がくるのである。

そして、それは醜いことだろうか。決してそうではない。

それは卑きょうなことだろうか。否、決してそうではない。

それは弱いもののできることだろうか。否、その反対である。

子供たちが、手離しで自転車を走らせてあそぶ遊びが外国にはある。

その中の一人の子供が、たまりかねてハンドルに手をかけると、皆で、

「卑きょう者!」

と呼ぶ。そして車はなおも狂って走るのである。

しかし、ほんとうは、あえて、このハンドルに手を出す子供が「勇気があるもの」であり、手を出さない子供たちが、むしろ、ほんとうは卑きょう者なのである。

*『中国新聞』一九五一年八月

底本 / Source edition

底本:「中井正一全集 第四巻 文化と集団の論理」
1981(昭和56)年5月25日第1刷
初出:「中国新聞」
1951(昭和26)年8月
入力:鈴木厚司
校正:染川隆俊
2009年8月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/049711_001166/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/049711_001166/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/049711_001166/

中井 正一「真理を求めて──――平和祭に寄す」(新字新仮名)、底本『中井正一全集 第四巻 文化と集団の論理』美術出版社、1981年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 049711_001166, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite