Soranoha

遍歴

へんれき

原 民喜

植民地を殖すのだとか、鉄道を敷設するのだとか云ふ譬喩で、新しく友達を作ることを彼は説明するのであった。少年が青年になると、進取的な気象が芽生え、新たなる環境と展望の下に、すべてがみごとに進行して行くものだ。彼は自分の頭脳の工場へ現実社会からいろんな原料を運んで来て、其処で加工した品を口の港からどしどし植民地諸君へダンピングした。――かう云ふ自己中心の観点が何時までも続けばよかった。

やがて工場にはストライキが起り、或る植民地は反旗を掲げ、鉄橋はダイナマイトで壊された。醜悪なる恋愛と云ふものはかくも青年を盲目にするものであるか。

油のきれた機械を見捨てて、工場主はルンペンとなって街から街へほどこしを求めて歩いた。自己の頭脳を見限って放浪することは、何時も彼を安易なその日暮しの上機嫌にさせた。

…………そして時が流れた。彼は今、頭脳の皺のどの部分からでも、あらゆる過去の断片が引出せるやうにカード式に整理しようと焦った。秋の嵐におびただしく吹き散らされるポプラの葉を川添ひの工場の附近で無心に拾った子供でその昔彼はあった。

底本 / Source edition

底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力:蒋龍
校正:小林繁雄
2009年6月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/048500_000293/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/048500_000293/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/048500_000293/

原 民喜「遍歴」(新字旧仮名)、底本『普及版 原民喜全集第一巻』芳賀書店、1966年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048500_000293, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite