Soranoha

夏の日のちぎれ雲

なつのひのちぎれぐも

原 民喜

まっ青な空に浮ぶ一片の白い雲がキラキラと雪のやうに光ってゐる、山の頂である。向ふには竹藪があって、晴嵐がまき起ってゐる。そこに金髪の女がガーターを留めようとして脚をかがめながら笑ってゐる。イメージと実景がごっちゃになって、生活感情がもっと旅を欲してゐる。青年は九州の山の奥へ来て、ライン河が見たいなと呟く。

人の気もない石で囲まれた浴槽へ彼が入ると、女の裸体が一つあった。それは大理石のやうで、静かに溢れる青い湯に浸されたままであった。静かな真昼の光線がなみなみと降り注ぐ。にはかに、女の裸体は生きてゐて、そっと身動きした。

自動車で乗合はせた少女が鼻血を出してゐて、揺れるたびに啜り込む。その血が花瓣のやうに想へて、何時までも彼の頭にこびりつく。――昨日、宿の前の海で溺死人があった、さっき自動車は小犬を轢き殺した。

底本 / Source edition

底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日初版発行
入力:蒋龍
校正:伊藤時也
2013年1月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/048491_000293/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/048491_000293/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/048491_000293/

原 民喜「夏の日のちぎれ雲」(新字旧仮名)、底本『普及版 原民喜全集第一巻』芳賀書店、1966年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048491_000293, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite