Soranoha

酸漿

ほおずき

原 民喜

結婚式の二時間前、彼女は畳に落ちてゐた酸漿を拾って鳴らして捨てた。

朝、夫が役所へ出て行くと、彼女はもう一度寝床に潜り込んで、昼過ぎに起きた。それから煎餅を噛りながら新聞を読んだ。それから夕方まで鏡台に対ってぽかんと暮した。

夫が出張で三日も帰らないと、彼女はふらりと街へ出掛ける。夜遅くそこの窓のカーテンには男の影が大きく映ったりした。

彼女の生んだ赤ん坊が這ひ出す頃、その子は、ほほづきを拾って食べて、呼吸がつまって死んだ。子を失った彼女は奇妙に若返った。若くなるためには、人知れぬ工夫がされた。しかし何よりもいけないのは、他人が彼女の齢を註文よりも老けてみることだった。さうした場合、彼女は癇癪が起きて、咽喉が塞がりさうになった。

底本 / Source edition

底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日初版発行
入力:蒋龍
校正:伊藤時也
2013年1月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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原 民喜「酸漿」(新字旧仮名)、底本『普及版 原民喜全集第一巻』芳賀書店、1966年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048484_000293, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite