Soranoha

丹那トンネル開通祝ひ

たんなトンネルかいつういわい

原 民喜

頼太は四十歳の独身の独眼の発明家だったが、まだ汽車へ乗ったことがなかった。その癖十何年も前から丹那トンネルには興味を持ってゐた。いよいよトンネルが成功しかかった頃には、彼の発明まで成功し出すのではないかと考へた。山奥で二十年間、何とも云へない不思議な機械を考案しながら、世の中からまるで奇妙な道楽者扱ひにされてゐた頼太のことだ、トンネルが成功した時には誰よりも一番に喜んだ。

新聞によれば今日が開通祝ひだと云ふ。頼太は汽車に敬意を表すべく七里の山路を駅まで歩いた。すると汽車と云ふ奴はどうももともと頼太には親しめなかったが、今日に限ってまあ大目に見ることが出来た。そこの駅を生意気さうにそっぽむいて行く急行を見送ると、あれがやがて丹那トンネル潜るのかと思ふと少し謀叛心が生じた。自分だって一度は汽車に乗ってやらう、さう決心すると次の次の駅まで切符を買った。そして始めて汽車に乗ったのである。何と乗ると乗らないとは相違してゐたことか。頼太は次の次の駅で降りると、早速一軒の旗亭へ入った。そこの女をとらへて頻りに頼太は丹那トンネルの自慢をした。

底本 / Source edition

底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日初版発行
入力:蒋龍
校正:伊藤時也
2013年1月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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原 民喜「丹那トンネル開通祝ひ」(新字旧仮名)、底本『普及版 原民喜全集第一巻』芳賀書店、1966年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048471_000293, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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