* フランス中部の或る都市の とあるお家の鳥籠に、 たつた一と言口眞似の 出來る鸚鵡が飼はれてた。 出來るといふのは他でもない、 誰れかゞ籠に近寄ると、 すましかへつて大風に、 叱つていふのは次ぎのこと―― ⦅誰れだ、そこにゐるのは?   誰れだ…?⦆   * ところで或る日籠の扉を うつかり女中が開けたとき 得たりと鸚鵡は逃げ出して 早速庭の木にとまる。 呼んでも籠へは歸らない、 傍まで行くと例の聲 ⦅誰れだ、そこにゐるのは?   誰れだ?…⦆     * それから森へ飛んでゆき、 櫻實なぞ啄ついた。 森は胡桃が花盛り、 莓は藪に熟れてゐる。 天氣はよいし、人はゐず、 鸚鵡は愉快でたまらない。     * さてこゝに一人の百姓さん、 鐵砲かりて獵に出て、 森を朝からさまよつて 見つけたものはこの鸚鵡。 『ホウ!』と思はず喜んで、 銃とりあげて忍び足、 獲物目がけて近よつて、 銃のねらひをつけかける。 すると鸚鵡は氣がついて 例の言葉を云ひ出した ⦅誰れだ、そこにゐるのは?   誰れだ?…⦆     * 呆つ氣にとられて百姓は、 聲する方を見まもつた。 この百姓はその日まで 鸚鵡といふもの知らなんだ こんなに上手にものをいふ 鳥に出あつた試しなし ⦅誰れだ、そこにゐるのは?   誰れだ?…⦆     * そこで段々怖くなり、 鐵砲は手からずりおとし、 帽子をとつて丁寧に お辭儀したあと言ふことは、 『いや御免ください、わたくしは 貴方を鳥だと思ひました。』 そして鐵砲をひろひあげ もと來た路へと逃げ出した。 鸚鵡はこれで大得意、 一日森をば飛びまはる。 (了)