Soranoha

丹藤川〔「家長制度」先駆形〕

たんどがわ〔「かちょうせいど」せんくけい〕

宮沢 賢治

火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはこの家の主人の膝が大黒柱を切って投げ出しどっしりがたりと座ってゐる。

その息子らは外の闇から帰って来た。肩はばがひろくけらを着て馬を廐へ引いて入れ、土間でこっそり飯をたべそのまゝころころ寝てしまった。

もし私が何かまちがったことを云ったらそのむすこらの一人でもすぐに私を外のくらやみに連れ出すだらう。

火皿は黒い油煙を揚げその下で一人の女が何かしきりに仕度をしてゐる。どうも私の〔膳〕をつくってゐるらしい。それならさっきもことはったのだ。

ガタリと音がして皿が一枚床板の上に落ちた。

主人はだまって立ってそっちへ行った。

三秒ばかりしんとした。

主人は座へ帰ってどしりと座った。

どうもあの女はなぐられたらしい。

音もさせずに撲ったのだな。その証拠には土間がいやに寂かだし主人のめだまは黄金のやうだしさ。

底本 / Source edition

底本:「【新】校本宮澤賢治全集 第十二巻 童話5[#「5」はローマ数字、1-13-25]・劇・その他 本文篇」筑摩書房
1995(平成7)年11月25日初版第1刷発行
※底本の本文は、草稿による。
※本文中〔〕で括られた部分は、底本の編者により校訂された箇所である。
(例)私の〔膳〕を
※作品名のうち、「〔「家長制度」先駆形〕」は底本の編者によるもの。
入力:砂場清隆
校正:noriko saito
2008年8月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/048201_000081/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/048201_000081/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/048201_000081/

宮沢 賢治「丹藤川〔「家長制度」先駆形〕」(新字旧仮名)、底本『【新】校本宮澤賢治全集 第十二巻 童話Ⅴ・劇・その他 本文篇』筑摩書房、1995年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048201_000081, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite