この頃の短い小説には、よく、若い人達の自由な集會――文學者とか、新聞雜誌の記者とか、會社員とか、畫家とか、乃至は貧乏華族の息子とか、芝居好の金持の若旦那とか――各自新しい時代の空氣を人先に吸つてゐると思ふ種々の人が、時々日を期して寄つて、勝手な話をする會の事を書いたのがある。さういふのを讀む毎に、私は「ああ、此處にも我々のやうな情ない仲間がゐる。」と思はずにはゐられない。さうして、其作者の筆が少しでもさうした集會の有樣を、興味か同情かで誇張して書いてあれば、私は又、自分を愍むと同じ愍みを以て其人を見るか、でなければあの魚の目よりも冷たい目を持つた、諷刺家の一人ではあるまいかと疑はずにはゐられない。〔以下斷絶〕
無名会の一夕
むめいかいのいっせき
石川 啄木
底本 / Source edition
1961(昭和36)年8月10日新装第1刷発行入力:蒋龍
校正:阿部哲也
2012年4月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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石川 啄木「無名会の一夕」(旧字旧仮名)、底本『啄木全集 第十卷』岩波書店、1961年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048150_000153, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079