Soranoha

四月号の創作三つ

しがつごうのそうさくみっつ

平林 初之輔

「火星の運河」――江戸川乱歩作。剣術使いがひとりで剣をふり回したり、絵かきが目的なしに線をひいたりするたぐいの、試筆ともいうべきもので、作者自身の「お詫び」言葉のとおりこれはむろん探偵小説ではない。ただ枕の所に大形の天文学書が開いてあって、そこに火星の想像図が描かれていたところなどに探偵小説の型が痕跡をとどめている。サイコアナリシスの実例にはふさわしいものである。

「安死術」「秘密の相似」――小酒井不木作。どちらも陰惨な作だ。ことに、「秘密の相似」の方は、あまり陰惨すぎるように思う。二人とも網膜炎であったところでとめといた方が、ユーモラスな味があったではなかろうか。女の復讐が必要以上に惨酷で、作者としてはくどいように思うが。「安死術」の方も継子ままこいじめがあまりに深刻で、『先代萩』の政岡の場でも見るような印象を与えられる。「安死術」というような新しい名前には新しい犯罪がつりあうように思うが、これは僕一人の考えかもしらん。まだこれだけしか読めないのです。

(『新青年』第七巻第六号、一九二六年五月)

底本 / Source edition

底本:「平林初之輔探偵小説選2[#「2」はローマ数字、1-13-22]〔論創ミステリ叢書2〕」論創社
2003(平成15)年11月10日初版第1刷発行
初出:「新青年 第七巻第六号」
1926(大正15)年5月号
入力:川山隆
校正:門田裕志
2010年12月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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平林 初之輔「四月号の創作三つ」(新字新仮名)、底本『平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕』論創社、2003年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 048017_000221, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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