Soranoha

報酬

ほうしゅう

織田 作之助

家には一銭の金もなく、母親は肺病だった。娘の葉子は何日も飯を食わず、水の引くようにみるみる痩せて、歩く元気もなかったが、母親と相談して夜の町へ十七歳の若さを売りに行くことにした。母親も昔そんな経験があったのだ。

夜、葉子は町角でおずおずと袖を引いたが、男は皆逃げ出した。それ程葉子は醜かったのだ。おまけに乾いた古雑巾のように薄汚い服装をしていた。葉子はすごすごと帰って水を飲み、母親にそのことを話すと、

「こちらから袖を引くよりも、男がからかいに来たら素人らしくいやですとモジモジしていれば、案外ひっ掛るかも知れないよ」

「いやです――と言ったらいいの……?」

翌る夜、葉子はまた出掛けた。そしてぐったりして帰って来た手には三枚の紙幣を握っていた。が、調べてみると、三枚とも証紙の貼ってない旧円だった。葉子はわっと泣き出した。

次の夜また出掛けた。男がからかいに来ると、葉子は、

「いやです、いやです、旧円はいやです」

底本 / Source edition

底本:「定本織田作之助全集 第六巻」文泉堂出版
1976(昭和51)年4月25日発行
1995(平成7)年3月20日第3版発行
入力:桃沢まり
校正:小林繁雄
2009年8月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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織田 作之助「報酬」(新字新仮名)、底本『定本織田作之助全集 第六巻』文泉堂出版、1976年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 047839_000040, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite