初期詩篇

  


感動

私はゆかう、夏の青き宵は

麦穂<ruby><rb>臑</rb><rt>（すね）</rt></ruby>刺す小径の上に、<ruby><rb>小草</rb><rt>をぐさ</rt></ruby>を蹈みに

夢想家・私は私の足に、<ruby><rb>爽々</rb><rt>（すがすが）</rt></ruby>しさのつたふを覚え、

吹く風に思ふさま、私の頭をなぶらすだらう！

私は語りも、考へもしまい、だが

果てなき愛は心の<ruby><rb>裡</rb><rt>うち</rt></ruby>に、浮びも来よう

私は往かう、遠く遠くボヘミヤンのやう

天地の間を、女と伴れだつやうに幸福に。

  


フォーヌの頭

緑金に光る葉繁みの中に、

<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>が眠る大きい花咲く

けぶるがやうな葉繁みの中に

活々として、佳き<ruby><rb>刺繍</rb><rt>ぬひとり</rt></ruby>をだいなしにして

ふらふらフォーヌが二つの目を出し

その<ruby><rb>皓</rb><rt>（しろ）</rt></ruby>い歯で<ruby><rb>真紅</rb><rt>まつか</rt></ruby>な花を咬んでゐる。

古酒と血に染み、<ruby><rb>朱</rb><rt>あけ</rt></ruby>に浸され、

その唇は笑ひに開く、枝々の下。

と、逃げ隠れた――まるで栗鼠、――

彼の笑ひはまだ葉に揺らぎ

<ruby><rb>鷽</rb><rt>（うそ）</rt></ruby>のゐて、沈思の森の金の<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>

掻きさやがすを、われは見る。

  


びつくりした奴等

雪の中、濃霧の中の黒ン坊か

炎のみゆる気孔の前に、

奴等<ruby><rb>車座</rb><rt>くるまざ</rt></ruby>

<ruby><rb>跪</rb><rt>（ひざま）</rt></ruby>づき、五人の<ruby><rb>小童</rb><rt>こわつぱ</rt></ruby>――あなあはれ！――

ジツと見てゐる、<ruby><rb>麺麭</rb><rt>（パン）</rt></ruby>屋が焼くのを

ふつくらとした金褐の麺麭、

奴等見てゐるその白い頑丈な腕が

<ruby><rb>粘粉</rb><rt>ねりこ</rt></ruby>でつちて<ruby><rb>窯</rb><rt>（かま）</rt></ruby>に入れるを

燃ゆる窯の穴の中。

奴等聴くのだいい麺麭の焼ける音。

ニタニタ顔の麺麭屋殿には

古い<ruby><rb>節</rb><rt>ふし</rt></ruby>なぞ唸つてる。

奴等まるまり、身動きもせぬ、

真ツ赤な気孔の<ruby><rb>息吹</rb><rt>いぶき</rt></ruby>の前に

胸かと熱い息吹の前に。

メディオノーシュ（１）に、

ブリオーシュ（２）にして

麺麭を売り出すその時に、

煤けた大きい梁の下にて、

<ruby><rb>蟋蟀</rb><rt>（こほろぎ）</rt></ruby>と、出来たての

麺麭の皮とが<ruby><rb>唄</rb><rt>（うた）</rt></ruby>ふ時、

窯の息吹ぞ命を煽り、

<ruby><rb>襤褸</rb><rt>（ぼろ）</rt></ruby>の下にて奴等の心は

うつとりするのだ、此の上もなく、

奴等今更生甲斐感じる、

氷花に充ちた哀れな<ruby><rb>基督</rb><rt>エス</rt></ruby>たち、

どいつもこいつも

窯の格子に、<ruby><rb>鼻面</rb><rt>はなづら</rt></ruby>くつつけ、

中に見えてる色んなものに

ぶつくさつぶやく、

なんと阿呆らし奴等は祈る

<ruby><rb>霽</rb><rt>（は）</rt></ruby>れたる空の光の方へ

ひどく<ruby><rb>体</rb><rt>からだ</rt></ruby>を捩じ<ruby><rb>枉</rb><rt>（ま）</rt></ruby>げて

それで奴等の股引は裂け

それで奴等の肌襦絆

冬の風にはふるふのだ。

註（１）断肉日の最終日にとる食事。

（２）パンケーキの一種。

  


谷間の睡眠者

これは緑の窪、其処に小川は

銀のつづれを<ruby><rb>小草</rb><rt>をぐさ</rt></ruby>にひつかけ、

其処に陽は、<ruby><rb>矜</rb><rt>（ほこ）</rt></ruby>りかな山の上から

顔を出す、泡立つ光の小さな谷間。

若い兵卒、口を<ruby><rb>開</rb><rt>あ</rt></ruby>き、頭は<ruby><rb>露</rb><rt>む</rt></ruby>き出し

頸は露けき草に埋まり、

眠つてる、草ン中に倒れてゐるんだ<ruby><rb>雲</rb><rt>そら</rt></ruby>の<ruby><rb>下</rb><rt>もと</rt></ruby>、

蒼ざめて。<ruby><rb>陽光</rb><rt>ひかり</rt></ruby>はそそぐ緑の寝床に。

両足を、<ruby><rb>水仙菖</rb><rt>（すゐせんあやめ）</rt></ruby>に突つ込んで、眠つてる、微笑むで、

病児の如く微笑んで、夢に入つてる。

自然よ、彼をあつためろ、彼は寒い！

いかな香気も彼の鼻腔にひびきなく、

<ruby><rb>陽光</rb><rt>ひかり</rt></ruby>の中にて彼眠る、片手を静かな胸に置き、

見れば二つの血の<ruby><rb>孔</rb><rt>あな</rt></ruby>が、右脇腹に<ruby><rb>開</rb><rt>あ</rt></ruby>いてゐる。

  


食器戸棚

これは<ruby><rb>彫物</rb><rt>ほりもの</rt></ruby>のある大きい食器戸棚

古き代の佳い<ruby><rb>趣味</rb><rt>あぢ</rt></ruby>あつめてほのかな<ruby><rb>檞材</rb><rt>（かし）</rt></ruby>。

食器戸棚は開かれてけはひの中に浸つてゐる、

古酒の波、心惹くかをりのやうに。

満ちてゐるのは、ぼろぼろの<ruby><rb>古物</rb><rt>こぶつ</rt></ruby>、

黄ばんでプンとする下着類だの<ruby><rb>小切布</rb><rt>こぎれ</rt></ruby>だの、

女物あり子供物、さては萎んだレースだの、

禿鷹の模様の<ruby><rb>描</rb><rt>か</rt></ruby>かれた<ruby><rb>祖母</rb><rt>ばあさん</rt></ruby>の肩掛もある。

探せば出ても来るだらう恋の形見や、白いのや

金褐色の髪の<ruby><rb>束</rb><rt>たば</rt></ruby>、<ruby><rb>肖顔</rb><rt>にがほ</rt></ruby>や枯れた花々や

それのかをりは<ruby><rb>果物</rb><rt>くだもの</rt></ruby>のかをりによくは混じります。

おゝいと古い食器戸棚よ、おまへは知つてる沢山の話！

おまへはそれを話したい、おまへはそれをささやくか

<ruby><rb>徐</rb><rt>（しづ）</rt></ruby>かにも、その黒い大きい扉が開く時。

  


わが放浪

私は出掛けた、手をポケットに突つ込んで。

半外套は申し分なし。

私は歩いた、夜天の下を、ミューズよ、私は忠僕でした。

さても私の夢みた愛の、なんと壮観だつたこと！

独特の、わがズボンには穴が<ruby><rb>開</rb><rt>あ</rt></ruby>いてた。

小さな夢想家・わたくしは、道中韻をば捻つてた。

わが宿は、大熊星座。大熊星座の星々は、

やさしくささやきささめいてゐた。

そのささやきを<ruby><rb>路傍</rb><rt>みちばた</rt></ruby>に、腰を下ろして聴いてゐた

あゝかの九月の宵々よ、酒かとばかり

<ruby><rb>額</rb><rt>ひたひ</rt></ruby>には、露の<ruby><rb>滴</rb><rt>しづく</rt></ruby>を感じてた。

幻想的な物影の、中で韻をば踏んでゐた、

擦り剥けた、私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、

<ruby><rb>竪琴</rb><rt>（たてごと）</rt></ruby>みたいに弾きながら。

  


蹲踞

やがてして、兄貴カロチュス、胃に不愉快を覚ゆるに、

軒窗に<ruby><rb>一眼</rb><rt>いちがん</rt></ruby>ありて其れよりぞ

磨かれし大鍋ごとき陽の光

偏頭痛さへ<ruby><rb>惹起</rb><rt>ひきおこ</rt></ruby>し、<ruby><rb>眼</rb><rt>まなこ</rt></ruby>どろんとさせるにぞ、

そのでぶでぶのお<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>をば布団の中にと運びます。

ごそごそと、灰色の布団の中で大騒ぎ、

<ruby><rb>獲物</rb><rt>えもの</rt></ruby><ruby><rb>啖</rb><rt>（く）</rt></ruby>つたる年寄さながら驚いて、

ぼてぼての腹に膝をば当てまする。

なぜかなら、<ruby><rb>拳</rb><rt>こぶし</rt></ruby>を壺の柄と<ruby><rb>枉</rb><rt>（ま）</rt></ruby>げて、

肌着をばたつぷり腰までまくるため！

ところで彼氏<ruby><rb>蹲</rb><rt>しやが</rt></ruby>みます、寒がつて、足の指をば

ちぢかめて、<ruby><rb>麺麭</rb><rt>（パン）</rt></ruby>の黄を薄い硝子に<ruby><rb>被</rb><rt>き</rt></ruby>せかける

明るい日向にかぢかむで。

<ruby><rb>扨</rb><rt>（さて）</rt></ruby>お人好し氏の鼻こそは<ruby><rb>仮漆</rb><rt>ラツク</rt></ruby>と光り、

肉出来の珊瑚樹かとも、射し入る<ruby><rb>陽光</rb><rt>ひかり</rt></ruby>を厭ひます。

★

お人好し氏は<ruby><rb>漫火</rb><rt>とろび</rt></ruby>にあたる。腕拱み合せ、下唇を

だらりと垂らし。彼氏今にも火中に滑り、

ズボンを焦し、パイプは消ゆると感ずなり。

何か小鳥のやうなるものは、少しく動く

そのうららかなお<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>でもつて、ちよいと臓物みたいなふうに！

<ruby><rb>四辺</rb><rt>あたり</rt></ruby>では、使ひ古るした家具等の睡り。

垢じみた<ruby><rb>襤褸</rb><rt>ぼろ</rt></ruby>の中にて、<ruby><rb>穢</rb><rt>けが</rt></ruby>らはし壁の前にて、

腰掛や奇妙な寝椅子等、暗い<ruby><rb>四隅</rb><rt>よすみ</rt></ruby>に

<ruby><rb>蹲</rb><rt>（うづく）</rt></ruby>まる。食器戸棚はあくどい慾に

満ちた睡気をのぞかせる<ruby><rb>歌手</rb><rt>うたひて</rt></ruby>達の口を<ruby><rb>有</rb><rt>（も）</rt></ruby>つ

いやな熱気は<ruby><rb>手狭</rb><rt>てぜま</rt></ruby>な部屋を立ち<ruby><rb>罩</rb><rt>こ</rt></ruby>める。

お人好し氏の頭の中は、<ruby><rb>襤褸布</rb><rt>ぼろきれ</rt></ruby>で一杯で、

<ruby><rb>硬毛</rb><rt>こはげ</rt></ruby>は湿つた皮膚の中にて、突つ張るやうで、

時あつて、猛烈<ruby><rb>可笑</rb><rt>（をか）</rt></ruby>しい<ruby><rb>嚏</rb><rt>（くさめ）</rt></ruby>も出れば、

がたがたの彼氏の寝椅子はゆれまする……

★

その宵、彼氏のお<ruby><rb>臀</rb><rt>しり</rt></ruby>のまはりに、月光が

光で出来た鋳物の<ruby><rb>接合線</rb><rt>つぎめ</rt></ruby>を作る時、よく見れば

入り組んだ影こそ<ruby><rb>蹲</rb><rt>しやが</rt></ruby>んだ彼氏にて、薔薇色の

雪の配景のその前に、たち<ruby><rb>葵</rb><rt>（あふひ）</rt></ruby>かと……

面白や、空の奥まで、<ruby><rb>面</rb><rt>つら</rt></ruby>はヴィーナス追つかける。

  


坐つた奴等

<ruby><rb>肉瘤</rb><rt>こぶ</rt></ruby>で黒くて<ruby><rb>痘瘡</rb><rt>あばた</rt></ruby>あり、<ruby><rb>緑</rb><rt>あを</rt></ruby>い指環を嵌めたよなその<ruby><rb>眼</rb><rt>まなこ</rt></ruby>、

すくむだ指は腰骨のあたりにしよむぼりちぢかむで、

古壁に、漲る<ruby><rb>瘡蓋</rb><rt>かさぶた</rt></ruby>模様のやうに、前頭部には、

ぼんやりとした、気六ヶ敷さを貼り付けて。

恐ろしく夢中な恋のその時に、彼等は可笑しな<ruby><rb>体躯</rb><rt>からだ</rt></ruby>をば、

彼等の椅子の、黒い大きい骨組に<ruby><rb>接木</rb><rt>つぎき</rt></ruby>したのでありました。

枉がつた木杭さながらの彼等の足は、<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>となく

昼となく組み合はされてはをりまする！

これら<ruby><rb>老爺</rb><rt>ぢぢい</rt></ruby>は何時もかも、椅子に腰掛け編物し、

強い日射しがチクチクと皮膚を刺すのを感じます、

そんな時、雪が硝子にしぼむよな、彼等のお<ruby><rb>眼</rb><rt>めめ</rt></ruby>は

<ruby><rb>蟇</rb><rt>ひきがへる</rt></ruby>の、いたはし<ruby><rb>顫動</rb><rt>ふるへ</rt></ruby>にふるひます。

さてその椅子は、彼等に甚だ親切で、<ruby><rb>褐</rb><rt>かち</rt></ruby>に<ruby><rb>燻</rb><rt>いぶ</rt></ruby>され、

詰藁は、彼等のお尻の<ruby><rb>形</rb><rt>かた</rt></ruby>なりになつてゐるのでございます。

甞て照らせし日輪は、甞ての日、その尖に穀粒さやぎし詰藁の

中にくるまり今も猶、<ruby><rb>燃</rb><rt>とも</rt></ruby>つてゐるのでございます。

さて奴等、膝を立て、元気盛んなピアニスト？

<ruby><rb>十</rb><rt>じふ</rt></ruby>の<ruby><rb>指</rb><rt>および</rt></ruby>は椅子の下、ぱたりぱたりと<ruby><rb>弾</rb><rt>たた</rt></ruby>きますれば、

かなし船唄ひたひたと、聞こえ来るよな思ひにて、

さてこそ奴等の<ruby><rb>頭</rb><rt>おつむり</rt></ruby>は、恋々として横に揺れ。

さればこそ、奴等をば、<ruby><rb>起</rb><rt>た</rt></ruby>たさうなぞとは思ひめさるな……

それこそは、<ruby><rb>横面</rb><rt>よこづら</rt></ruby>はられた猫のやう、唸りを発し、湧き上り、

おもむろに、肩をばいからせ、おそろしや、

彼等の穿けるズボンさへ、むツく〱とふくれます。

さて彼等、禿げた頭を壁に向け、

<ruby><rb>打衝</rb><rt>ぶちあ</rt></ruby>てるのが聞こえます、枉がつた足をふんばつて

彼等の服の<ruby><rb>釦</rb><rt>（ボタン）</rt></ruby>こそ、鹿ノ子の色の瞳にて

それは廊下のどんづまり、みたいな眼付で睨めます。

彼等にはまた人殺す、見えないお<ruby><rb>手</rb><rt>てて</rt></ruby>がありまして、

引つ込めがてには彼等の<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>、打たれた犬のいたいたし

眼付を想はすどす黒い、悪意を<ruby><rb>滲</rb><rt>にじ</rt></ruby>み出させます。

諸君はゾツとするでせう、恐ろし漏斗に吸込まれたかと。

再び坐れば、汚ないカフスに半ば隠れた<ruby><rb>拳固</rb><rt>げんこ</rt></ruby>して、

<ruby><rb>起</rb><rt>た</rt></ruby>たさうとした人のこと、とつくり思ひめぐらします。

と、貧しげな顎の下、<ruby><rb>夕映</rb><rt>ゆふばえ</rt></ruby>や、扁桃腺の色をして、

ぐるりぐるりと、ハチきれさうにうごきます。

やがてして、ひどい睡気が、彼等をこつくりさせる時、

腕敷いて、彼等は夢みる、結構な椅子のこと。

ほんに可愛いい愛情もつて、お役所の立派な<ruby><rb>室</rb><rt>へや</rt></ruby>に、

ずらり並んだ房の下がつた椅子のこと。

インキの泡がはねツかす、<ruby><rb>句点</rb><rt>コンマ</rt></ruby>の形の花粉等は、

水仙菖の線真似る、<ruby><rb>蜻蛉</rb><rt>とんぼ</rt></ruby>の飛行の如くにも

彼等のお臍のまはりにて、彼等をあやし眠らする。

――さて彼等、腕をもじ〱させまする。髭がチクチクするのです。

  


夕べの辞

私は坐りつきりだつた、理髪師の手をせる天使そのままに、

丸溝のくつきり付いたビールのコップを手に持ちて、

下腹突き出し頸反らし陶土のパイプを口にして、

まるで<ruby><rb>平</rb><rt>たひら</rt></ruby>とさへみえる、荒模様なる空の下。

古き鳩舎に煮えかへる<ruby><rb>鳥糞</rb><rt>うんこ</rt></ruby>の如く、

数々の夢は私の胸に燃え、徐かに焦げて。

やがて私のやさしい心は、沈欝にして<ruby><rb>生々</rb><rt>なま〱</rt></ruby>し

<ruby><rb>溶</rb><rt>とろ</rt></ruby>けた金のまみれつく液汁木質さながらだつた。

さて、夢を、細心もつて<ruby><rb>嚥</rb><rt>（の）</rt></ruby>み下し、

身を転じ、――ビール三四十杯を飲んだので

尿意遂げんとこゝろをあつめる。

しとやかに、<ruby><rb>排香草</rb><rt>ヒソフ</rt></ruby>や杉にかこまれし天主の如く、

いよ高くいよ<ruby><rb>遐</rb><rt>（とほ）</rt></ruby>く、褐色の空には向けて放尿す、

――大いなる、ヘリオトロープにうべなはれ。

  


教会に来る貧乏人

臭い<ruby><rb>息</rb><rt>いき</rt></ruby>にてむツとする教会の隅ツこの、

<ruby><rb>樫材</rb><rt>かし</rt></ruby>の<ruby><rb>床几</rb><rt>（しやうぎ）</rt></ruby>にちよこなんと、<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>は一斉に

てんでに丸い<ruby><rb>脣</rb><rt>くち</rt></ruby>してる唱歌隊へと注がれて。さて

二十人なる唱歌隊、大声で、敬虔な讃美歌を<ruby><rb>怒鳴</rb><rt>どな</rt></ruby>ります。

蝋の<ruby><rb>臭気</rb><rt>にほひ</rt></ruby>を吸ひ込める麺麭の匂ひの如くにも、

なんとはや、打たれた犬と気の弱い貧乏人等が、

旦那たり我君様たる神様に、

可笑しげな、なんとも頑固な<ruby><rb>祈祷</rb><rt>おいのり</rt></ruby>を捧げるのではございます。

<ruby><rb>女連</rb><rt>をんなれん</rt></ruby>、滑らかな床几に坐つてまあよいことだ、

神様が、苦しめ給ふた暗い<ruby><rb>六日</rb><rt>むいか</rt></ruby>のそのあとで！

彼女等あやしてをりまする、めうな<ruby><rb>綿入</rb><rt>わたいれ</rt></ruby>にくるまれて

死なんばかりに泣き叫ぶ、まだいたいけな子供をば。

胸のあたりを汚してる、<ruby><rb>肉汁食</rb><rt>スープぐら</rt></ruby>ひの彼女等は、

祈りするよな眼付して、祈りなんざあしませんで、

お転婆娘の一団が、いぢくりまはした帽子をかぶり、

これみよがしに振舞ふを、ジツとみつめてをりまする。

戸外には、寒気と飢餓と、而も男はぐでんぐでん。

それもよい、しかし<ruby><rb>後刻</rb><rt>あと</rt></ruby>では名もない病気！

――それなのにそのまはりでは、干柿色の<ruby><rb>婆々連</rb><rt>ばばあれん</rt></ruby>、

或ひは呟き、鼻声を出し、或ひはこそこそ話します。

其処にはびツくりした奴もゐる、昨日巷で人々が

<ruby><rb>避</rb><rt>よ</rt></ruby>けて通つた<ruby><rb>癲癇病者</rb><rt>てんかん</rt></ruby>もゐる、

古いお<ruby><rb>弥撒</rb><rt>みさ</rt></ruby>の<ruby><rb>祈祷集</rb><rt>おいのりぼん</rt></ruby>に、<ruby><rb>面</rb><rt>つら</rt></ruby>つツ込んでる<ruby><rb>盲者</rb><rt>めくら</rt></ruby>等は

犬に連れられ来たのです。

どれもこれもが間の抜けた物欲しさうな呟きで

無限の嘆きをだらだらとエス様に訴へる

エス様は、<ruby><rb>焼絵玻璃</rb><rt>やきゑがらす</rt></ruby>で黄色くなつて、高い所で夢みてござる、

痩せつぽちなる悪者や、<ruby><rb>便々腹</rb><rt>べんべんばら</rt></ruby>の<ruby><rb>意地悪者</rb><rt>いぢわる</rt></ruby>や

肉の臭気や織物の、<ruby><rb>黴</rb><rt>か</rt></ruby>びた<ruby><rb>臭</rb><rt>にほ</rt></ruby>ひも知らぬげに、

いやな身振で一杯のこの年来の狂言におかまひもなく。

さてお祈りが、美辞や麗句に花咲かせ、

真言秘密の傾向が、まことしやかな調子をとる時、

日影も知らぬ<ruby><rb>脇間</rb><rt>わきま</rt></ruby>では、ごくありふれた絹の<ruby><rb>襞</rb><rt>（ひだ）</rt></ruby>、

峻厳さうなる<ruby><rb>微笑</rb><rt>ほゝゑみ</rt></ruby>の、お屋敷町の奥さん<ruby><rb>連</rb><rt>れん</rt></ruby>、

あの肝臓の病人ばらが、――おゝ神よ！――

黄色い細いその指を、聖水盤にと浸します。

  


七才の詩人

母親は、宿題帖を閉ぢると、

満足して、誇らしげに立去るのであつた、

その碧い眼に、その秀でた額に、息子が

嫌悪の情を浮べてゐるのも知らないで。

ひねもす彼は、服従でうんざりしてゐた

聡明な彼、だがあのいやな顔面痙搐患つてをり、

その目鼻立ちの何処となく、ひどい偽嬌を見せてゐた。

壁紙が、黴びつた廊下の暗がりを

通る時には、股のつけ根に<ruby><rb>拳</rb><rt>こぶし</rt></ruby>をあてがひ

舌をば出した、<ruby><rb>眼</rb><rt>めんめ</rt></ruby>をつぶつて<ruby><rb>点々</rb><rt>ぼちぼち</rt></ruby>も視た。

夕闇に向つて戸口は開いてゐた、ラムプの明りに

見れば彼、敷居の上に喘いでゐる、

屋根から落ちる<ruby><rb>天窗</rb><rt>（てんまど）</rt></ruby>の明りのその下で。

夏には彼、へとへとになり、ぼんやりし、

<ruby><rb>厠</rb><rt>かはや</rt></ruby>の涼気のその中に、御執心にも<ruby><rb>蟄居</rb><rt>（ちつきよ）</rt></ruby>した。

彼は其処にて思念した、落付いて、鼻をスースーいはせつゝ。

様々な昼間の匂ひに洗はれて、小園が、

家の<ruby><rb>背後</rb><rt>うしろ</rt></ruby>で、冬の<ruby><rb>陽光</rb><rt>ひかり</rt></ruby>を浴びる時、彼は

壁の根元に打倒れ、泥灰石に<ruby><rb>塗</rb><rt>まみ</rt></ruby>れつゝ

魚の切身にそつくりな、<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>を細くして、

汚れた壁に<ruby><rb>匍</rb><rt>（は）</rt></ruby>ひ付いた、<ruby><rb>葡萄葉</rb><rt>ぶだうば</rt></ruby>の、さやさやさやぐを聴いてゐた。

いたはしや！　彼の仲間ときた日には、

帽子もかぶらず色褪せた<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>をした哀れな奴ばかり、

市場とばかりぢぢむさい匂ひを<ruby><rb>放</rb><rt>あ</rt></ruby>げる着物の下に

泥に汚れて黄や黒の、痩せた指をば押し匿し、

言葉を交すその時は、白痴のやうにやさしい奴等。

この情けない有様を、<ruby><rb>偶々</rb><rt>（たまたま）</rt></ruby>見付けた母親は

慄へ上つて怒気含む、すると此の子のやさしさは

その母親の驚愕に、とまれかくまれ身を投げる。

母親だつて嘘つきな、碧い<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>をしてゐるではないか！

七才にして、彼は砂漠の生活の<ruby><rb>物語</rb><rt>ロマン</rt></ruby>を書いた。

大沙漠、其処で自由は伸び上り、

森も陽も大草原も、岸も其処では<ruby><rb>燿</rb><rt>かがや</rt></ruby>いた！

彼は絵本に助けを借りた、彼は絵本を一心に見た、

其処にはスペイン人、イタリヤ人が、笑つてゐるのが見られるのだつた。

<ruby><rb>更紗</rb><rt>（サラサ）</rt></ruby>模様の着物著た、お転婆の茶目の娘が来るならば、

――その娘は八才で、隣りの職人の子なのだが、

此の野放しの娘<ruby><rb>奴</rb><rt>め</rt></ruby>が、その背に<ruby><rb>編髪</rb><rt>おさげ</rt></ruby>を打ゆすり、

片隅で跳ね返り、彼にとびかゝり、

彼を下敷にするといふと、彼は<ruby><rb>股</rb><rt>もゝ</rt></ruby>に噛み付いた、

その娘、ズロース穿いてたことはなく、

扨、拳固でやられ、<ruby><rb>踵</rb><rt>かかと</rt></ruby>で蹴られた彼は今、

娘の肌の感触を、自分の部屋まで持ち帰る。

どんよりとした十二月の、日曜日を彼は嫌ひであつた、

そんな日は、髪に油を付けまして、<ruby><rb>桃花心木</rb><rt>アカジユ</rt></ruby>の円卓に着き、

縁がキャベツの色をした、バイブルを、彼は読むのでありました。

数々の夢が毎晩寝室で、彼の呼吸を締めつけた。

彼は神様を好きでなかつた、鹿ノ子の色の<ruby><rb>黄昏</rb><rt>たそがれ</rt></ruby>に場末の町に、

仕事着を着た人々の影、くり出して来るのを彼は見てゐた

扨其処には東西屋がゐて、太鼓を三つ叩いては、

まはりに集る群集を、どつと笑はせ唸らせる。

彼は夢みた、やさしの牧場、其処に<ruby><rb>耀</rb><rt>かゞよ</rt></ruby>ふ大浪は、

清らの<ruby><rb>香</rb><rt>かをり</rt></ruby>は、金毛は、静かにうごくかとみれば

フツ飛んでゆくのでありました。

彼はとりわけ、ほのかに暗いものを愛した、

<ruby><rb>鎧戸</rb><rt>（よろひど）</rt></ruby>閉めて、ガランとした部屋の中、

天井高く、湿気に傷む寒々とした部屋の中にて、

心を凝らし気を凝らし彼が<ruby><rb>物語</rb><rt>ロマン</rt></ruby>を読む時は、

けだるげな石黄色の空や又湿つた森林、

霊妙の林に開く肉の花々、

心に充ちて――<ruby><rb>眩暈</rb><rt>めくるめき</rt></ruby>、転落、潰乱、はた遺恨！――

かゝる間も下の方では、街の<ruby><rb>躁音</rb><rt>さやぎ</rt></ruby>のこやみなく

<ruby><rb>粗布</rb><rt>あらぬの</rt></ruby>重ねその上に独りごろんと寝ころべば

<ruby><rb>粗布</rb><rt>あらぬの</rt></ruby>は、満々たる帆ともおもはれて！……

  


盗まれた心

私の悲しい心は船尾に行つて<ruby><rb>涎</rb><rt>（よだれ）</rt></ruby>を垂らす、

私の心は安い煙草にむかついてゐる。

そしてスープの<ruby><rb>吐瀉</rb><rt>げろ</rt></ruby>を出す、

私の悲しい心は船尾に行つて涎を垂らす。

一緒になつてげらげら笑ふ

世間の駄洒落に打ちのめされて、

私の悲しい心は船尾に行つて涎を垂らす、

私の心は安い煙草にむかついてゐる！

諷刺詩流儀の雑兵気質の

奴等の駄洒落が私を汚した！

舵の<ruby><rb>処</rb><rt>とこ</rt></ruby>には壁画が見える

諷刺詩流儀の雑兵気質の。

おゝ、玄妙不可思議の波浪よ、

私の心を<ruby><rb>浚</rb><rt>（さら）</rt></ruby>ひ清めよ、

諷刺詩流儀の雑兵気質の

奴等の駄洒落が私を汚した。

奴等の<ruby><rb>噛煙草</rb><rt>たばこ</rt></ruby>が尽きたとなつたら、

どうすれあいいのだ？　盗まれた心よ。

それこそ妙な具合であらうよ、

奴等の煙草が尽きたとなつたら。

私のお<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>が跳び上るだらう、

それで心は<ruby><rb>奪回</rb><rt>かへ</rt></ruby>せるにしても。

奴等の<ruby><rb>噛煙草</rb><rt>たばこ</rt></ruby>が尽きたとなつたら、

どうすれあいいのだ？　盗まれた心よ。

  


ジャンヌ・マリイの手

ジャンヌ・マリイは丈夫な手してる、

だが夏負けして仄かに暗く、

蒼白いこと死人の手のやう。

――ジュアナの手とも云ふべきだ？

この双つの手は褐の乳脂を

<ruby><rb>快楽</rb><rt>けらく</rt></ruby>の池に汲んだのだらうか？

この双つの手は月きららめく

澄めらの水に浸つたものか？

太古の空を飲むだのだらうか？

可愛いお膝にちよんと置かれて。

この手で葉巻を巻いただらうか、

それともダイヤを<ruby><rb>商</rb><rt>あきな</rt></ruby>つたのか？

マリアの像の熱き御足に

金の花をば萎ませたらうか？

<ruby><rb>西洋莨菪</rb><rt>はしりどころ</rt></ruby>の黒い血は

<ruby><rb>掌</rb><rt>てのひら</rt></ruby>の中で覚めたり<ruby><rb>睡</rb><rt>ね</rt></ruby>たり。

双翅類をば<ruby><rb>猟</rb><rt>（か）</rt></ruby>り集め

まだ明けやらぬ<ruby><rb>晨</rb><rt>あした</rt></ruby>のけはひを

花々の密の槽へと飛ばすのか？

それとも毒の注射師か？

如何なる夢が捉へたのだらう？

<ruby><rb>展伸</rb><rt>ひろ</rt></ruby>げられたるこの手をば、

<ruby><rb>亜細亜</rb><rt>（アジア）</rt></ruby>のかカンガヷールのか

それともシオンの不思議な夢か？

――密柑を売りはしなかつた、

神々の足の上にて、日に焼けたりもしなかつた。

この手はぶざまな赤ン坊たちの

<ruby><rb>襁褓</rb><rt>（むつき）</rt></ruby>を洗つたことはない。

この手は<ruby><rb>背骨</rb><rt>せぼね</rt></ruby>の矯正者、

決して悪くはしないのだ、

機械なぞより正確で、

馬よりも猶強いのだ！

猛火とうごめき

<ruby><rb>戦</rb><rt>（をのの）</rt></ruby>き慄ひ、この手の肉は

マルセイェーズを歌ふけれども

エレーゾンなぞ歌はない！

あらくれどもの<ruby><rb>狼藉</rb><rt>（らうぜき）</rt></ruby>は

厳冬の如くこの手に<ruby><rb>応</rb><rt>こた</rt></ruby>へ、

この手の甲こそ気高い暴徒が

<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>をしたその場所だ！

或時この手が蒼ざめた、

蜂起した<ruby><rb>巴里</rb><rt>（パリ）</rt></ruby>市中の

<ruby><rb>霰弾砲</rb><rt>（さんだんはう）</rt></ruby>の<ruby><rb>唐銅</rb><rt>からかね</rt></ruby>の上に

托された愛の太陽の前で！

神々しい手よ、甞てしらじらしたことのない

我等の<ruby><rb>脣</rb><rt>くち</rt></ruby>を顫はせる手よ、

時としておまへは<ruby><rb>拳</rb><rt>こぶし</rt></ruby>の形して、その<ruby><rb>拳</rb><rt>こぶし</rt></ruby>に

<ruby><rb>一連</rb><rt>ひとつら</rt></ruby>の、指環もがなと叫ぶのだ！

又時としてその指々の血を取つて、

おまへがさつぱりしたい時、

天使のやうな手よ、それこそは

我等の心に、異常な驚き捲き起すのだ。

  


やさしい姉妹

若者、その眼は輝き、その皮膚は<ruby><rb>褐色</rb><rt>かちいろ</rt></ruby>、

裸かにしてもみまほしきその<ruby><rb>体躯</rb><rt>からだ</rt></ruby>

月の下にて崇めらる、ペルシャの国の、

或る知られざる神の持つ、<ruby><rb>銅</rb><rt>あかがね</rt></ruby>に<ruby><rb>縁</rb><rt>ふち</rt></ruby>どられたる額して、

<ruby><rb>慓悍</rb><rt>（へうかん）</rt></ruby>なれども童貞の悲観的なるやさしさをもち

おのが秀れた執心に誇りを感じ、

若々し海かはた、ダイアモンドの地層の上に

きららめく真夏の夜々の涙かや、

此の若者、<ruby><rb>現世</rb><rt>うつしよ</rt></ruby>の醜悪の前に、

心の底よりゾツとして、いたく苛立ち、

癒しがたなき傷手を負ひてそれよりは、

やさしき<ruby><rb>妹</rb><rt>いも</rt></ruby>のありもせばやと、思ひはじめぬ。

さあれ、女よ、臓腑の塊り、憐憫の情持てるもの、

汝、女にあればとて、<ruby><rb>吾</rb><rt>あ</rt></ruby>の謂ふやさしき<ruby><rb>妹</rb><rt>いも</rt></ruby>にはあらじ！

黒き<ruby><rb>眼眸</rb><rt>まなざし</rt></ruby>、茶色めく影睡る腹持たざれば、

軽やかの指、ふくよかの胸持たざれば。

目覚ます<ruby><rb>術</rb><rt>すべ</rt></ruby>なき大いなる<ruby><rb>眸子</rb><rt>ひとみ</rt></ruby>をもてる<ruby><rb>盲目</rb><rt>めくら</rt></ruby>の女よ、

わが如何なる抱擁もつひに<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>には訝かしさのみ、

我等に<ruby><rb>附纏</rb><rt>いつきまと</rt></ruby>ふのはいつでも<ruby><rb>汝</rb><rt>おまへ</rt></ruby>、乳房の運び手、

我等おまへを<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>る、穏やかに人魅する<ruby><rb>情熱</rb><rt>パシオン</rt></ruby>よ。

<ruby><rb>汝</rb><rt>な</rt></ruby>が憎しみ、<ruby><rb>汝</rb><rt>な</rt></ruby>が失神、汝が絶望を、

即ち甞ていためられたるかの獣性を、

月々に流されるかの血液の過剰の如く、

<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>は我等に<ruby><rb>返報</rb><rt>むく</rt></ruby>ゆなり、おゝ汝、悪意なき夜よ。

★

一度女がかの<ruby><rb>恐惶</rb><rt>（きようくわう）</rt></ruby>、愛の神、

生の呼び声、行為の歌に駆り立てられるや、

緑の<ruby><rb>美神</rb><rt>ミューズ</rt></ruby>と正義の神は顕れて

そが厳めしき制縛もて彼を引裂くのであつた！

絶えず〱壮観と、<ruby><rb>静謐</rb><rt>（せいひつ）</rt></ruby>に渇する彼は、

かの執念の<ruby><rb>姉妹</rb><rt>あねいもと</rt></ruby>には見棄てられ、

やさしさ籠めて愚痴を呟き、巧者にも

花咲く自然に血の出る額を彼は与へるのであつた。

だが冷厳の錬金術、神学的な研鑚は

傷付いた彼、この倨傲なる学徒には不向きであつた。

狂暴な孤独はかくて彼の上をのそりのそりと歩き廻つた。

かゝる時、まこと爽かに、いつかは彼も<ruby><rb>験</rb><rt>な</rt></ruby>めるべき

死の忌はしさの影だになく、真理の夜々の空にみる

かの夢とかの壮麗な逍遥は、彼の想ひに現れて、

その魂に病む四肢に、呼び覚まされるは

神秘な死、それよやさしき<ruby><rb>妹</rb><rt>いも</rt></ruby>なるよ！

  


最初の聖体拝受

Ⅰ

それあもう愚劣なものだ、村の教会なぞといふものは

其処に<ruby><rb>可笑</rb><rt>（をか）</rt></ruby>しな村童の十四五人、柱に垢をつけながら

神聖なお説教がぽつりぽつりと話されるのを聴いてゐる、

まこと奇妙な墨染の衣、その下では靴音がごそごそとしてゐる。

あゝそれなのに太陽は木々の葉越しに輝いてゐる、

不揃ひな<ruby><rb>焼絵玻璃</rb><rt>やきゑがらす</rt></ruby>の古ぼけた色を透して輝いてゐる。

石は何時でも母なる大地を呼吸してゐる。

さかりがついて荘重に身顫ひをする野原の中には

泥に<ruby><rb>塗</rb><rt>まみ</rt></ruby>れた小石の<ruby><rb>堆積</rb><rt>やま</rt></ruby>なぞ見受けるもので、

重つたるい麦畑の近く、赫土の小径の中には

焼きのまはつた小さな木々が立つてゐて、よくみれば青い実をつけ、

黒々とした桑の樹の<ruby><rb>瘤</rb><rt>こぶ</rt></ruby>や、怒気満々たる薔薇の木の瘤、

百年目毎に、例の美事な納屋々々は

水色か、クリーム色の野呂で以て塗換へられる。

ノートル・ダムや藁まみれの聖人像の近傍に

たとへ異様な聖物はごろごろし過ぎてゐようとも、

蠅は旅籠屋や牛小舎に結構な匂ひを漂はし

日の当つた床からは蝋を鱈腹詰め込むのだ。

子供は家に尽さなければならないことで、つまりその

凡々たる世話事や人を愚鈍にする底の仕事に励まにやならぬのだ。

彼等は皮膚がむづむづするのを忘れて<ruby><rb>戸外</rb><rt>そと</rt></ruby>に出る、

皮膚にはキリストの司祭様が今し効験<ruby><rb>顕著</rb><rt>あらたか</rt></ruby>な手をば<ruby><rb>按</rb><rt>お</rt></ruby>かれたのだ。

彼等は司祭様には東屋の蔭濃き屋根を提供する

すると彼等は日焼けした額をば陽に晒させて貰へるといふわけだ。

<ruby><rb>最初</rb><rt>はじめて</rt></ruby>の黒衣よ、どらやきの美しく見ゆる日よ、

ナポレオンの形をしたのや小判の形をしたの

或ひは飾り立てられてジョゼフとマルトが

恋しさ余つて<ruby><rb>舌</rb><rt>べろ</rt></ruby>を出した絵のあるものや

――科学の御代にも<ruby><rb>似合</rb><rt>ふさ</rt></ruby>はしからうこれらの意匠――

これら僅かのものこそが最初の聖体拝受の思ひ出として彼等の胸に残るもの。

娘達は何時でもはしやいで教会に行く、

若い衆達から<ruby><rb>猥</rb><rt>わい</rt></ruby>なこと囁かれるのをよいことに

若い衆達はミサの後、それとも愉快な日暮時、よく密会をするのです。

屯営部隊のハイカラ者なる彼等ときては、カフヱーで

勢力のある家々のこと、あしざまに云ひ散らし、

新しい作業服着て、恐ろしい歌を怒鳴るといふ始末。

扨、主任司祭様には子供達のため絵図を御撰定遊ばした。

主任司祭様の菜園に、かの日暮時、空気が遠くの方から

そこはかとなく舞踏曲に充ちてくる時、

主任司祭様には、神様の御禁戒にも拘らず

足の指がはしやぎだすのやふくらはぎがふくらむのをお感じになる……

――夜が来ると、黒い海賊船が金の御空に現れ出ます。

Ⅱ

司祭様は郊外や豊かな町々の信者達の間から

名も知れぬ一人の少女を撰り出しなされた

その少女の眼は悲しげで、額は黄色い色をしてゐた。

その両親は親切な門番か何かのやうです。

｟聖体拝受のその日に、伝導師の中でもお偉い神様は

この少女の額に聖水を、雪と降らしめ給ふであらう。｠

Ⅲ

最初の聖体拝受の前日に、少女は病気になりました。

上等の教会の葬式の日の<ruby><rb>喧噪</rb><rt>（けんさう）</rt></ruby>よりも甚だしく

はじめまづ悪寒が来ました、――寝床は味気なくもなかつた、

<ruby><rb>並</rb><rt>なみ</rt></ruby>ならぬ悪寒は繰返し襲つて来ました、｟私は死にます……｠

恋の有頂天が少女の愚かな姉妹達を襲つた時のやうに、

少女は打萎れ両手を胸に置いたまゝ、熱心に

諸天使や諸所のエス様や聖母様を勘定しはじめました、

そして静かに、なんとも云へぬ喜びにうつとりするのでありました。

神様！……――<ruby><rb>羅典</rb><rt>（ラテン）</rt></ruby>の末期にありましては、

緑の<ruby><rb>波形</rb><rt>なみがた</rt></ruby>ある空が<ruby><rb>朱</rb><rt>あけ</rt></ruby>色の、

天の<ruby><rb>御胸</rb><rt>みむね</rt></ruby>の血に<ruby><rb>染</rb><rt>し</rt></ruby>みた人々の額を潤ほしました、

雪のやうな大きな麻布は、太陽の上に落ちかゝりました！――

現在の貞潔のため、将来の貞潔のために

少女はあなたの『<ruby><rb>容赦</rb><rt>みゆるし</rt></ruby>』の<ruby><rb>爽々</rb><rt>すがすが</rt></ruby>しさにむしやぶりついたのでございますが、

水中の百合よりもジャムよりももつと

あなたの<ruby><rb>容赦</rb><rt>みゆるし</rt></ruby>は冷たいものでございました、おやシオンの女王様よ！

￼

それからといふもの聖母ははや<ruby><rb>書物</rb><rt>ほん</rt></ruby>の中の聖母でしかなかつた、

神秘な熱も時折衰へるのであつた……

<ruby><rb>退屈</rb><rt>アンニユイ</rt></ruby>や、どぎつい極彩色や年老いた森が飾り立てる

<ruby><rb>御容姿</rb><rt>みすがた</rt></ruby>の数々も貧弱に見え出してくるのであつた、

どことなく<ruby><rb>穢</rb><rt>（けが）</rt></ruby>らはしい貴重な品の数々も

貞純にして水色の少女の夢を破るのであつた、

又脱ぎ捨てられた聖衣の数々、

エス様が裸体をお包みなされたといふ下著をみては<ruby><rb>吃驚</rb><rt>（びつくり）</rt></ruby>するのでありました。

それなのになほも彼女は願ふ、遣瀬なさの限りにゐて、

<ruby><rb>歔欷</rb><rt>（すすりなき）</rt></ruby>に窪んだ枕に伏せて、而も彼女は

至高のお慈悲のみ光の消えざらんやう願ふのであつた

扨<ruby><rb>涎</rb><rt>よだれ</rt></ruby>が出ました……――夕闇は部屋に中庭に充ちてくる。

少女はもうどうしやうもない。身を動かし腰を伸ばして、

手で青いカーテンを開く、

涼しい空気を少しばかり敷布や

自分のお<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>や熱い胸に入れようとして。

Ⅴ

夜中目覚めて、窓はいやに白つぽかつた

<ruby><rb>灯火</rb><rt>ひかり</rt></ruby>をうけたカーテンの青い睡気のその前に。

日曜日のあどけなさの幻影が彼女を捉へる

今の今迄<ruby><rb>真紅</rb><rt>まつか</rt></ruby>な夢を見てゐたつけが、彼女は鼻血を出しました。

身の潔白を心に感じ身のか弱さを心に感じ

神様の<ruby><rb>温情</rb><rt>みなさけ</rt></ruby>をこころゆくまで味ははうとて、

心臓が、<ruby><rb>激昂</rb><rt>たかぶ</rt></ruby>つたりまた鎮まつたりする、夜を彼女は望んでゐました。

そのやさしい空の色をば心に想ひみながらも、

<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>、触知しがたい聖なる母は、すべての若気を

灰色の<ruby><rb>沈黙</rb><rt>しじま</rt></ruby>に浸してしまひます、

彼女は心が血を流し、声も立て得ぬ憤激が

<ruby><rb>捌</rb><rt>は</rt></ruby>け口見付ける強烈な<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>を望んでゐたのです。

扨<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>は、彼女を<ruby><rb>犠牲</rb><rt>にへ</rt></ruby>としまた配偶となし、

その星は、<ruby><rb>燭火</rb><rt>（あかり）</rt></ruby>手に持ち、見てました、

白い幽霊とも見える仕事着が干されてあつた中庭に

彼女が下り立ち、黒い<ruby><rb>妖怪</rb><rt>おばけ</rt></ruby>の屋根々々を取払ふのを。

Ⅵ

彼女は彼女の聖い<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>をば<ruby><rb>厠</rb><rt>（かはや）</rt></ruby>の中で過ごしました。

<ruby><rb>燭火</rb><rt>あかり</rt></ruby>の所、屋根の穴とも云ひつべき所に向けて

白い気体は流れてゐました、青銅色の<ruby><rb>果</rb><rt>み</rt></ruby>をつけた野葡萄の木は

<ruby><rb>隣家</rb><rt>となり</rt></ruby>の<ruby><rb>中庭</rb><rt>には</rt></ruby>のこつちをばこつそり通り抜けるのでした。

天窗は、ほのぼの<ruby><rb>明</rb><rt>あか</rt></ruby>る<ruby><rb>火影</rb><rt>あかり</rt></ruby>の核心

窓々の、硝子に空がひつそりと鍍金してゐる中庭の中

敷石は、アルカリ水の匂ひして

黒い睡気で一杯の壁の影をば甘んじて受けてゐるのでありました……

Ⅶ

誰か恋のやつれや浅ましい恨みを口にするものぞ

また、潔い人をも汚すといふかの<ruby><rb>憎悪</rb><rt>にくしみ</rt></ruby>が

もたらす所為を云ふものぞ、おゝ穢らはしい狂人等、

折も折かの癩が、こんなやさしい肉体を<ruby><rb>啖</rb><rt>くら</rt></ruby>はんとするその時に……

Ⅷ

さて彼女に、ヒステリックな錯乱がまたも起つて来ますといふと

彼女は<ruby><rb>目</rb><rt>ま</rt></ruby>のあたり見るのです、幸福な悲愁の思ひに浸りつつ、

恋人が真つ白い無数のマリアを夢みてゐるのを、

愛の一夜の明け方に、いとも悲痛な<ruby><rb>面持</rb><rt>おももち</rt></ruby>で。

｟御存じ？　<ruby><rb>妾</rb><rt>あたし</rt></ruby>が貴方を亡くさせたのです。妾は貴方のお口を心を、

人の持つてるすべてのもの、えゝ、貴方のお持ちのすべてのものを

奪つたのでした。その妾は病気です、妾は寝かせて欲しいのです

<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>の水で水飼はれるといふ、死者達の間に、私は寝かせて欲しいのです

｟妾は<ruby><rb>稚</rb><rt>わか</rt></ruby>かつたのです、キリスト様は妾の息吹をお汚しなすつた、

その時妾は<ruby><rb>憎悪</rb><rt>にくしみ</rt></ruby>が、<ruby><rb>咽喉</rb><rt>のど</rt></ruby>までこみあげましたのです！

貴方は妾の羊毛と、深い髪毛に<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>ました、

妾はなさるがまゝになつてゐた……あゝ、行つて下さい、その方がよろしいのです、

男の<ruby><rb>方々</rb><rt>かたがた</rt></ruby>は！　愛情こまやかな女といふものが

汚い<ruby><rb>恐怖</rb><rt>おそれ</rt></ruby>を<ruby><rb>感</rb><rt>おぼ</rt></ruby>える時は、どんなにはぢしめられ、

どんなにいためられるものであるかにお気付きならない

又貴方への熱中のすべてが<ruby><rb>不品行</rb><rt>あやまち</rt></ruby>であることにお気付きならない！

｟だつて妾の最初の聖体拝受は取行はれました。

妾は貴方の<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>を、お受けすることは出来ません、

妾の心と、貴方がお抱きの妾のからだは

エス様の腐つた接唇でうよ〱してます！｠

Ⅸ

かくて敗れた魂と悲しみ悶える魂は

キリストよ、汝が呪詛の滔々と流れ流れるを感ずるのです、

――男等は、汝が不可侵の『憎悪』の上に<ruby><rb>停滞</rb><rt>とどま</rt></ruby>つてゐた、

死の準備のためにとて、真正な情熱を逃れることにより、

キリストよ！　汝永遠の精力の掠奪者、

父なる神は二千年もの間、汝が蒼白さに捧げしめ給うたといふわけか

恥と頭痛で地に縛られて、

動顛したる、女等のいと悲しげな額をば。

  


酔ひどれ船

私は不感な河を下つて行つたのだが、

何時しか私の曳船人等は、私を離れてゐるのであつた、

みれば罵り喚く<ruby><rb>赤肌人</rb><rt>あかはだびと</rt></ruby>等が、彼等を<ruby><rb>的</rb><rt>まと</rt></ruby>にと引ツ捕へ、

色とりどりの棒杭に裸かのままで釘附けてゐた。

私は一行の者、フラマンの小麦や<ruby><rb>英綿</rb><rt>えいめん</rt></ruby>の荷役には

とんと頓着してゐなかつた

曳船人等とその騒ぎとが、私を去つてしまつてからは

河は私の思ふまま下らせてくれるのであつた。

私は浪の狂へる中を、さる冬のこと

子供の脳より<ruby><rb>聾乎</rb><rt>ぼつ</rt></ruby>として漂つたことがあつたつけが！

怒濤を<ruby><rb>繞</rb><rt>（めぐ）</rt></ruby>らす半島と<ruby><rb>雖</rb><rt>（いへど）</rt></ruby>も

その時程の動乱を<ruby><rb>蒙</rb><rt>う</rt></ruby>けたためしはないのであつた。

嵐は私の海上に於ける警戒ぶりを讃歎した。

<ruby><rb>浮子</rb><rt>うき</rt></ruby>よりももつと<ruby><rb>軽々</rb><rt>かろがろ</rt></ruby>私は浪間に躍つてゐた

犠牲者達を永遠にまろばすといふ浪の間に

幾夜ともなく<ruby><rb>船尾</rb><rt>とも</rt></ruby>の<ruby><rb>灯</rb><rt>ひ</rt></ruby>に目の疲れるのも気に懸けず。

子供が食べる酸い林檎よりもしむみりと、

緑の水はわが樅の船体に滲むことだらう

又<ruby><rb>安酒</rb><rt>やすざけ</rt></ruby>や嘔吐の<ruby><rb>汚点</rb><rt>しみ</rt></ruby>は、舵も錨も失せた私に

無暗矢鱈に降りかかつた。

その時からだ、私は海の歌に浴した。

星を<ruby><rb>鏤</rb><rt>（ちりば）</rt></ruby>め乳汁のやうな海の、

<ruby><rb>生々</rb><rt>なま〱</rt></ruby>しくも吃水線は蒼ぐもる、緑の空に見入つてあれば、

折から一人の水死人、思ひ深げに下つてゆく。

其処に忽ち<ruby><rb>蒼然色</rb><rt>あをーいいろ</rt></ruby>は染め出され、おどろしく

またゆるゆると陽のかぎろひのその<ruby><rb>下</rb><rt>（もと）</rt></ruby>を、

アルコールよりもなほ強く、竪琴よりも<ruby><rb>渺茫</rb><rt>（べうばう）</rt></ruby>と、

愛執のにがい茶色も漂つた！

私は知つてゐる稲妻に裂かれる空を竜巻を

打返す浪を潮流を。私は夕べを知つてゐる、

群れ立つ鳩にのぼせたやうな<ruby><rb>曙光</rb><rt>あけぼの</rt></ruby>を、

又人々が見たやうな気のするものを現に見た。

不可思議の<ruby><rb>畏怖</rb><rt>おそれ</rt></ruby>に<ruby><rb>染</rb><rt>し</rt></ruby>みた落日が

紫の長い<ruby><rb>凝結</rb><rt>こごり</rt></ruby>を照らすのは

古代の劇の俳優か、

大浪は遠くにはためき逆巻いてゐる。

私は夢みた、眩いばかり雪降り積つた緑の夜を

<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>は海の上にゆらりゆらりと立昇り、

未聞の生気は循環し

歌ふがやうな燐光は青に黄色にあざやいだ。

私は従つた、幾月も幾月も、ヒステリックな

牛小舎に似た大浪が暗礁を突撃するのに、

もしもかの光り<ruby><rb>耀</rb><rt>かゞよ</rt></ruby>ふマリアの<ruby><rb>御足</rb><rt>みあし</rt></ruby>が

お望みとあらば太洋に<ruby><rb>猿轡</rb><rt>（さるぐつわ）</rt></ruby>かませ<ruby><rb>給</rb><rt>たま</rt></ruby>ふも<ruby><rb>儘</rb><rt>（まま）</rt></ruby>なのを気が付かないで。

船は<ruby><rb>衝突</rb><rt>あた</rt></ruby>つた、世に不可思議なフロリダ州

人の<ruby><rb>肌膚</rb><rt>はだへ</rt></ruby>の豹の目は<ruby><rb>叢</rb><rt>むら</rt></ruby>なす花にいりまじり、

手綱の如く張りつめた虹は遥かの沖の方

海緑色の畜群に、いりまじる。

私は見た、沼かと<ruby><rb>紛</rb><rt>まが</rt></ruby>ふ巨大な<ruby><rb>魚梁</rb><rt>やな</rt></ruby>が沸き返るのを

其処にレヴィヤタンの一族は草に絡まり腐りゆき、

<ruby><rb>凪</rb><rt>（なぎ）</rt></ruby>の<ruby><rb>中心</rb><rt>もなか</rt></ruby>に海水は流れいそそぎ

<ruby><rb>遠方</rb><rt>をちかた</rt></ruby>は淵を目がけて滝となる！

氷河、白銀の太陽、真珠の波、<ruby><rb>燠</rb><rt>（おき）</rt></ruby>の空、

褐色の入江の底にぞつとする破船の残骸、

其処に大きな蛇は虫にくはれて

くねくねの木々の枝よりどす黒い臭気をあげては堕ちてゐた！

子供等に見せたかつたよ、<ruby><rb>碧波</rb><rt>あをなみ</rt></ruby>に浮いてゐる鯛、

其の他金色の魚、歌ふ魚、

漚の花は私の漂流を祝福し、

えもいへぬ風は折々私を<ruby><rb>煽</rb><rt>おだ</rt></ruby>てた。

時として地極と地帯に飽き果てた殉教者・海は

その<ruby><rb>歔欷</rb><rt>すすりなき</rt></ruby>でもつて私をあやし、

黄色い吸口のある仄暗い花をばかざした

その時私は膝つく女のやうであつた

半島はわが船近く揺らぎつつ金褐の目の

怪鳥の糞と争ひを振り落とす、

かくてまた漂ひゆけば、わが細綱を横切つて

水死人の幾人か<ruby><rb>後方</rb><rt>しりへ</rt></ruby>にと流れて行つた……

私としてからが浦々の乱れた髪に踏み迷ひ

鳥も棲まはぬ<ruby><rb>気圏</rb><rt>そら</rt></ruby>までも<ruby><rb>颶風</rb><rt>（ぐふう）</rt></ruby>によつて投げられたらば

<ruby><rb>海防艦</rb><rt>モニトル</rt></ruby>もハンザの船も

水に酔つた私の<ruby><rb>屍骸</rb><rt>むくろ</rt></ruby>を救つてくれはしないであらう、

思ひのままに、煙吹き、紫色の霧立てて、

私は、詩人等に美味しいジャミや、

太陽の<ruby><rb>蘇苔</rb><rt>こけ</rt></ruby>や青空の<ruby><rb>鼻涕</rb><rt>はな</rt></ruby>を呉れる

壁のやうに赤らんだ空の中をずんずん進んだ、

電気と閃く星を著け、

黒い海馬に<ruby><rb>衛</rb><rt>まも</rt></ruby>られて、狂へる小舟は走つてゐた、

七月が、丸太ン棒で打つかとばかり

燃える漏斗のかたちした紺青の空を揺るがせた時、

私は慄へてゐた、五十里の彼方にて

ベヘモと<ruby><rb>渦潮</rb><rt>うづ</rt></ruby>の発情の<ruby><rb>気色</rb><rt>けはひ</rt></ruby>がすると、

ああ永遠に、青き不動を紡ぐ海よ、

昔ながらの欄干に<ruby><rb>倚</rb><rt>（よ）</rt></ruby>る<ruby><rb>欧羅巴</rb><rt>（ヨーロッパ）</rt></ruby>が私は恋しいよ。

私は見た！　天にある群島を！　その島々の

狂ほしいまでのその空は<ruby><rb>漂流</rb><rt>ただよ</rt></ruby>ふ者に開放されてた、

底知れぬこんな夜々には眠つてゐるのか、もう居ないのか

おゝ、百万の金の鳥、当来の精力よ！

だが、<ruby><rb>惟</rb><rt>（おも）</rt></ruby>へば私は<ruby><rb>哭</rb><rt>（な）</rt></ruby>き過ぎた。曙は胸<ruby><rb>抉</rb><rt>ゑぐ</rt></ruby>り、

月はおどろしく陽はにがかつた。

どぎつい愛は心<ruby><rb>蕩</rb><rt>とろ</rt></ruby>かす失神で私をひどく<ruby><rb>緊</rb><rt>し</rt></ruby>めつけた。

おゝ！　竜骨も砕けるがよい、私は海に没してしまはう！

よし今私が欧羅巴の水を望むとしても、それははや

黒い冷たい林の中の<ruby><rb>瀦水</rb><rt>いけみづ</rt></ruby>で、其処に風薫る夕まぐれ

子供は<ruby><rb>蹲</rb><rt>（しやが）</rt></ruby>んで悲しみで一杯になつて、放つのだ

五月の蝶かといたいけな笹小舟。

あゝ浪よ、ひとたびおまへの倦怠にたゆたつては、

<ruby><rb>綿船</rb><rt>わたぶね</rt></ruby>の<ruby><rb>水脈</rb><rt>みを</rt></ruby>ひく跡を奪ひもならず、

旗と炎の驕慢を<ruby><rb>横切</rb><rt>よぎ</rt></ruby>りもならず、

船橋の、恐ろしい眼の下をかいくぐることも、出来ないこつた。

  


虱捜す女

嬰児の額が、赤い<ruby><rb>憤気</rb><rt>むづき</rt></ruby>に充ちて来て、

なんとなく、夢の真白の群がりを乞うてゐるとき、

美しい二人の<ruby><rb>処女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>は、その<ruby><rb>臥床辺</rb><rt>ふしどべ</rt></ruby>に現れる、

細指の、その爪は白銀の色をしてゐる。

花々の乱れに青い風あたる大きな窓辺に、

二人はその子を坐らせる、そして

露<ruby><rb>滴</rb><rt>しづ</rt></ruby>くふさふさのその子の髪に

無気味なほども美しい細い指をばさまよはす。

さて<ruby><rb>子供</rb><rt>かれ</rt></ruby>は聴く気づかはしげな薔薇色のしめやかな蜜の匂ひの

するやうな二人の<ruby><rb>息</rb><rt>いき</rt></ruby>が、うたふのを、

唇にうかぶ唾液か<ruby><rb>接唇</rb><rt>（くちづけ）</rt></ruby>を求める慾か

ともすればそのうたは杜切れたりする。

<ruby><rb>子供</rb><rt>かれ</rt></ruby>は感じる<ruby><rb>処女</rb><rt>をとめ</rt></ruby>らの黒い<ruby><rb>睫毛</rb><rt>（まつげ）</rt></ruby>がにほやかな<ruby><rb>雰気</rb><rt>けはひ</rt></ruby>の中で

まばたくを、また<ruby><rb>敏捷</rb><rt>すばしこ</rt></ruby>いやさ指が、

<ruby><rb>鈍色</rb><rt>にびいろ</rt></ruby>の<ruby><rb>懶怠</rb><rt>たゆみ</rt></ruby>の<ruby><rb>裡</rb><rt>うち</rt></ruby>に、あでやかな爪の間で

虱を潰す音を聞く。

たちまちに<ruby><rb>懶怠</rb><rt>たゆみ</rt></ruby>の酒は子供の脳にのぼりくる、

有頂天になりもやせんハモニカの溜息か。

子供は感ずる、ゆるやかな愛撫につれて、

絶え間なく泣きたい気持が絶え間なく消長するのを。

  


母音

Ａは黒、Ｅは白、Ｉは赤、Ｕは緑、Ｏは赤、母音たち、

おまへたちの穏密な誕生をいつの日か私は語らう。

Ａ、眩ゆいやうな蠅たちの毛むくぢやらの黒い<ruby><rb>胸衣</rb><rt>むなぎ</rt></ruby>は

むごたらしい悪臭の周囲を飛びまはる、暗い入江。

Ｅ、蒸気や<ruby><rb>天幕</rb><rt>テント</rt></ruby>のはたゝめき、誇りかに

槍の形をした氷塊、真白の諸王、<ruby><rb>繖形花顫動</rb><rt>（さんけいくわせんどう）</rt></ruby>、

Ｉ、緋色の布、<ruby><rb>飛散</rb><rt>とばち</rt></ruby>つた血、怒りやまた

熱烈な悔悛に於けるみごとな笑ひ。

Ｕ、循環期、鮮緑の海の聖なる身慄ひ、

動物散在する牧養地の静けさ、錬金術が

学者の額に刻み付けた皺の静けさ。

Ｏ、至上な<ruby><rb>喇叭</rb><rt>（らつぱ）</rt></ruby>の異様にも<ruby><rb>突裂</rb><rt>つんざ</rt></ruby>く叫び、

人の世と天使の世界を貫く沈黙。

――その目紫の光を放つ、物の終末！

  


四行詩

星は汝が耳の核心に薔薇色に<ruby><rb>涕</rb><rt>（な）</rt></ruby>き、

無限は<ruby><rb>汝</rb><rt>な</rt></ruby>が<ruby><rb>頸</rb><rt>うなじ</rt></ruby>より腰にかけてぞ真白に巡る、

海は<ruby><rb>朱</rb><rt>あけ</rt></ruby>き<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>が乳房を<ruby><rb>褐色</rb><rt>かちいろ</rt></ruby>の真珠とはなし、

して人は黒き血ながす至高の<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>が脇腹の上……

  


烏

神よ、牧場が寒い時、

さびれすがれた村々に

<ruby><rb>御告</rb><rt>みつげ</rt></ruby>の鐘も鳴りやんで

見渡すかぎり花もない時、

高い空から<ruby><rb>降</rb><rt>お</rt></ruby>ろして下さい

あのなつかしい烏たち。

<ruby><rb>厳</rb><rt>いか</rt></ruby>しい叫びの奇妙な部隊よ、

木枯は、君等の<ruby><rb>巣</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>を襲撃し！

君等黄ばんだ河添ひに、

古い十字架立つてる路に、

溝に窪地に、

飛び散れよ、あざ<ruby><rb>嗤</rb><rt>（わら）</rt></ruby>へ！

幾千となくフランスの野に

昨日の死者が眠れる其処に、

冬よ、ゆつくりとどまるがよい、

<ruby><rb>通行人</rb><rt>とほるひと</rt></ruby>等がしむみりせんため！

君等<ruby><rb>義務</rb><rt>つとめ</rt></ruby>の叫び手となれ、

おゝわが喪服の鳥たちよ！

だが、あゝ<ruby><rb>御空</rb><rt>みそら</rt></ruby>の聖人たちよ、夕暮迫る<ruby><rb>檣</rb><rt>マスト</rt></ruby>のやうな

<ruby><rb>檞</rb><rt>（かし）</rt></ruby>の高みにゐる御身たち、

五月の頬白見逃してやれよ

あれら森の深みに繋がれ、

出ること叶はず草地に縛られ、

しようこともない<ruby><rb>輩</rb><rt>ともがら</rt></ruby>のため！

  


飾画篇

  


静寂

アカシヤのほとり、

<ruby><rb>波羅門</rb><rt>（バラモン）</rt></ruby>僧の如く聴け。

四月に、櫂は

鮮緑よ！

きれいな<ruby><rb>靄</rb><rt>（もや）</rt></ruby>の中にして

フヱベの<ruby><rb>方</rb><rt>かた</rt></ruby>に！　みるべしな

頭の<ruby><rb>貌</rb><rt>かたち</rt></ruby>が動いてる

昔の聖者の頭のかたち……

明るい藁塚はた岬、

うつくし<ruby><rb>甍</rb><rt>（いらか）</rt></ruby>をとほざけて

<ruby><rb>媚薬</rb><rt>びやく</rt></ruby>取り出しこころみし

このましきかな古代<ruby><rb>人</rb><rt>びと</rt></ruby>……

さてもかの、

<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>の吐き出す濃い霧は

祭でもなし

星でなし。

しかすがに彼等とどまる

――シシリーやアルマーニュ、

かの蒼ざめ<ruby><rb>愁</rb><rt>かな</rt></ruby>しい霧の<ruby><rb>中</rb><rt>うち</rt></ruby>、

粛として！

  


涙

鳥たちと畜群と、村人達から<ruby><rb>遐</rb><rt>（とほ）</rt></ruby>く離れて、

私はとある叢林の中に、<ruby><rb>蹲</rb><rt>（しやが）</rt></ruby>んで酒を酌んでゐた

<ruby><rb>榛</rb><rt>（はしばみ）</rt></ruby>の、やさしい森に繞られて。

生ツぽい、微温の午後は霧がしてゐた。

かのいたいけなオワズの川、声なき<ruby><rb>小楡</rb><rt>（こにれ）</rt></ruby>、花なき芝生、

垂れ<ruby><rb>罩</rb><rt>（こ）</rt></ruby>めた空から私が酌んだのは――

<ruby><rb>瓢</rb><rt>ひさご</rt></ruby>の中から酌めたのは、味もそつけもありはせぬ

<ruby><rb>徒</rb><rt>（いたづら）</rt></ruby>に汗をかゝせる金の液。

かくて私は<ruby><rb>旅籠屋</rb><rt>はたごや</rt></ruby>の、ボロ看板となつたのだ。

やがて嵐は空を変へ、暗くした。

黒い国々、<ruby><rb>湖水々々</rb><rt>みづうみみづうみ</rt></ruby>、竿や棒、

はては清夜の列柱か、数々の船著場か。

樹々の<ruby><rb>雨水</rb><rt>あめみづ</rt></ruby>砂に<ruby><rb>滲</rb><rt>し</rt></ruby>み

風は空から氷片を、泥池めがけてぶつつけた……

あゝ、金、貝甲の採集人かなんぞのやうに、

私には、酒なぞほんにどうでもよいと申しませう。

  


カシスの川

カシスの川は何にも知らずに流れる

異様な谷間を、

百羽の烏が声もて<ruby><rb>伴</rb><rt>つ</rt></ruby>れ添ふ……

ほんによい天使の川波、

樅の林の大きい所作に、

沢山の風がくぐもる時。

すべては流れる、昔の田舎や

訪はれた牙塔や威儀張つた公園の

<ruby><rb>抗</rb><rt>あらが</rt></ruby>ふ神秘とともに流れる。

<ruby><rb>彷徨</rb><rt>（さまよ）</rt></ruby>へる騎士の今は亡き情熱も、

此の<ruby><rb>附近</rb><rt>あたり</rt></ruby>にして人は解する。

それにしてもだ、風の爽かなこと！

飛脚は矢来に何を見るとも

なほも往くだらう元気に元気に。

領主が遣はした森の士卒か、

烏、おまへのやさしい<ruby><rb>心根</rb><rt>こころね</rt></ruby>！

古い<ruby><rb>木片</rb><rt>きぎれ</rt></ruby>で乾杯をする

狡獪な農夫は此処より立去れ。

  


朝の思ひ

夏の朝、四時、

愛の睡気がなほも漂ふ

木立の下。東天は吐き出だしてゐる

楽しい夕べのかのかをり。

だが、<ruby><rb>彼方</rb><rt>かなた</rt></ruby>、エスペリイドの太陽の<ruby><rb>方</rb><rt>かた</rt></ruby>、

大いなる工作場では、

シャツ一枚の大工の腕が

もう動いてゐる。

荒寥たるその仕事場で、冷静な、

彼等は豪奢な屋敷の<ruby><rb>準備</rb><rt>こしらへ</rt></ruby>

あでやかな空の下にて微笑せん

都市の富貴の<ruby><rb>下準備</rb><rt>したごしらへ</rt></ruby>。

おゝ、これら嬉しい職人のため

バビロン王の臣下のために、

ヹニュスよ、偶には<ruby><rb>打棄</rb><rt>うつちや</rt></ruby>るがいい

心<ruby><rb>驕</rb><rt>（おご）</rt></ruby>れる愛人達を。

おゝ、牧人等の女王様！

彼等に酒をお与へなされ

<ruby><rb>正午</rb><rt>ひる</rt></ruby>、海水を浴びるまで

彼等の力が平静に、持ちこたへられますやうに。

  


ミシェルとクリスチイヌ

馬鹿な、太陽が軌道を<ruby><rb>外</rb><rt>はづ</rt></ruby>れるなんて！

失せろ、洪水！　路々の影を見ろ。

柳の中や名誉の古庭の中だぞ、

雷雨が先づ大きい雨滴をぶつけるのは。

おゝ、百の仔羊よ、牧歌の中の金髪兵士達よ、

水路橋よ、痩衰へた灌木林よ、

失せろ！　平野も沙漠も牧野も地平線も

雷雨の真ツ赤な<ruby><rb>化粧</rb><rt>おめかし</rt></ruby>だ！

黒犬よ、マントにくるまつた褐色の牧師よ、

目覚ましい稲妻の時を逃れよ。

ブロンドの畜群よ、影と硫黄が漂ふ時には、

ひそかな私室に引籠るがよい。

だがあゝ神様！　私の精神は<ruby><rb>翔</rb><rt>（と）</rt></ruby>んでゆきます

赤く凍つた空を追うて、

レールと長いソローニュの上を

飛び駆ける空の雲の、その真下を。

見よ、千の狼、千の蛮民を

まんざらでもなささうに、

信仰風な雷雨の午後は

漂流民の見られるだらう古代欧羅巴に<ruby><rb>伴</rb><rt>（つ）</rt></ruby>れてゆく！

さてその<ruby><rb>後刻</rb><rt>あと</rt></ruby>には月明の晩！　曠野の限りを、

赤らむだ額を夜空の下に、戦士達

蒼ざめた馬を<ruby><rb>徐</rb><rt>（しづ）</rt></ruby>かに進める！

小石はこの泰然たる隊の足下で音立てる。

――さて黄色い森を明るい谷間を、

碧い<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>の嫁を、赤い額の男を、それよゴールの国を、

さては可愛いい足の<ruby><rb>踰越</rb><rt>すぎこし</rt></ruby>祭の白い仔羊を、

ミシェルとクリスチイヌを、キリストを、牧歌の極限を私は想ふ！

  


渇の喜劇

Ⅰ

<ruby><rb>祖先</rb><rt>みおや</rt></ruby>

<ruby><rb>私</rb><rt>わし</rt></ruby>達はおまへの<ruby><rb>祖先</rb><rt>みおや</rt></ruby>だ、

<ruby><rb>祖先</rb><rt>みおや</rt></ruby>だよ！

月や青物の

<ruby><rb>冷</rb><rt>ひや</rt></ruby>こい汁にしとど濡れ。

<ruby><rb>私達</rb><rt>わしたち</rt></ruby>の粗末なお酒は心を持つてゐましたぞ！

お日様に向つて<ruby><rb>嘘偽</rb><rt>うそいつはり</rt></ruby>のないためには

人間何が必要か？　飲むこつてす。

小生。――野花の上にて息絶ゆること。

<ruby><rb>私</rb><rt>わし</rt></ruby>達はおまへの<ruby><rb>祖先</rb><rt>みおや</rt></ruby>だ、

田園に棲む。

ごらん、柳のむかふを水は、

湿つたお城のぐるりをめぐつて

ずうつと流れてゐるでせう。

さ、酒倉へ行きますよ、

<ruby><rb>林檎酒</rb><rt>シイドル</rt></ruby>もあればお乳もあります。

小生。――牝牛等呑んでる<ruby><rb>所</rb><rt>とこ</rt></ruby>へゆく。

<ruby><rb>私</rb><rt>わし</rt></ruby>達はおまへの<ruby><rb>祖先</rb><rt>みおや</rt></ruby>。

さ、持つといで

戸棚の中の色んなお酒。

上等の紅茶、上等の珈琲、

薬鑵の中で鳴つてます。

――絵をごらん、花をごらん。

<ruby><rb>私</rb><rt>わし</rt></ruby>達は墓の中から<ruby><rb>甦</rb><rt>かへ</rt></ruby>つて来ますよ。

小生。――骨甕をみんな、割つちやへばよい。

Ⅱ

精神

永遠無窮な<ruby><rb>水精</rb><rt>みづはめ</rt></ruby>は、

きめこまやかな水<ruby><rb>分割</rb><rt>わか</rt></ruby>て。

ヹニュス、蒼天の妹は、

きれいな浪に情けを<ruby><rb>含</rb><rt>（こ）</rt></ruby>めよ。

ノルヱーの彷徨ふ<ruby><rb>猶太人</rb><rt>（ユダヤじん）</rt></ruby>等は、

雪について語つてくれよ。

追放されたる古代人等は、

海のことを語つてくれよ。

小生。――きれいなお<ruby><rb>魚</rb><rt>さかな</rt></ruby>はもう沢山、

水入れた、コップに漬ける造花だの、

絵のない昔噺は

もう沢山。

小唄作者よ、おまへの名附け子、

<ruby><rb>水螅</rb><rt>ヒイドル</rt></ruby>こそは私の<ruby><rb>渇望</rb><rt>かわき</rt></ruby>、

憂ひに沈み衰耗し果てる

口なき馴染みのかの<ruby><rb>水螅</rb><rt>ヒイドル</rt></ruby>。

Ⅲ

仲間

おい、酒は浜辺に

浪をなし！

ピリツとくる奴、<ruby><rb>苦味酒</rb><rt>ビットル</rt></ruby>は

山の上から流れ出す！

どうだい、手に入れようではないか、

緑柱めでたきかのアプサン<ruby><rb>宮</rb><rt>きう</rt></ruby>……

小生。――なにがなにやらもう分らんぞ。

ひどく酔つたが、勘免しろい。

俺は好きだぞ、随分好きだ、

池に漬つて腐るのは、

あの気味悪い苔水の下

漂ふ丸太のそのそばで。

Ⅳ

哀れな空想

恐らくはとある夕べが俺を待つ

或る古都で。

その時こそは<ruby><rb>徐</rb><rt>（しづ）</rt></ruby>かに飲まう

満足をして死んでもゆかう、

たゞそれまでの辛抱だ！

もしも俺の不運も<ruby><rb>終焉</rb><rt>をは</rt></ruby>り、

お金が手に入ることでもあつたら、

その時はどつちにしたものだらう？

北か、それとも葡萄の国か？……

――まあまあ今からそんなこと、

空想したつてはじまらぬ。

仮りに俺がだ、昔流儀の

旅行家様になつたところで、

あの緑色の旅籠屋が

<ruby><rb>今時</rb><rt>いまどき</rt></ruby>あらうわけもない。

Ⅴ

結論

青野にわななく<ruby><rb>鳩</rb><rt>ふたこゑどり</rt></ruby>、

追ひまはされる<ruby><rb>禽獣</rb><rt>とりけもの</rt></ruby>、

水に棲むどち、家畜どち、

瀕死の蝶さへ<ruby><rb>渇望</rb><rt>かわき</rt></ruby>はもつ。

さば雲もろとも融けること、

――すがすがしさにうべなはれ、

<ruby><rb>曙</rb><rt>あけぼの</rt></ruby>が、森に満たするみづみづし

菫の上に息絶ゆること！

  


恥

<ruby><rb>刃</rb><rt>は</rt></ruby>が脳漿を切らないかぎり、

白くて<ruby><rb>緑</rb><rt>あを</rt></ruby>くて<ruby><rb>脂</rb><rt>あぶら</rt></ruby>ぎつたる

このムツとするお荷物の

さつぱり致そう筈もない……

（あゝ、奴は切らなけあなるまいに、

その鼻、その<ruby><rb>脣</rb><rt>くち</rt></ruby>、その耳を

その腹も！　すばらしや、

脚も棄てなけあなるまいに！）

だが、いや、確かに

頭に刃、

脇に<ruby><rb>砂礫</rb><rt>こいし</rt></ruby>を、

腸に火を

加へぬかぎりは、寸時たりと、

<ruby><rb>五月蠅</rb><rt>（うるさ）</rt></ruby>い子供の此ン畜生が、

ちよこまかと

謀反気やめることもない

モン・ロシウの猫のやう、

<ruby><rb>何処</rb><rt>どこ</rt></ruby>も<ruby><rb>彼処</rb><rt>かしこ</rt></ruby>も臭くする！

――だが死の時には、神様よ、

なんとか祈りも出ますやう……

  


若夫婦

部屋は濃藍の空に向つて開かれてゐる。

所狭いまでに手文庫や櫃！

<ruby><rb>外面</rb><rt>そとも</rt></ruby>の壁には一面のおはぐろ花

そこに化物の歯茎は顫へてゐる。

なんと、天才流儀ぢやないか、

この<ruby><rb>消費</rb><rt>つひえ</rt></ruby>、この不秩序は！

桑の実呉れるアフリカ魔女の趣好もかくや

部屋の隅々には<ruby><rb>鉛縁</rb><rt>なまりぶち</rt></ruby>。

と、数名の者が這入つて来る、不平<ruby><rb>面</rb><rt>づら</rt></ruby>した名附親等が、

色んな食器戸棚の上に<ruby><rb>光線</rb><rt>ひかり</rt></ruby>の<ruby><rb>襞</rb><rt>（ひだ）</rt></ruby>を投げながら、

さて止る！　若夫婦は失礼千万にも留守してる

そこでと、何にもはじまらぬ。

<ruby><rb>聟殿</rb><rt>（むこ）</rt></ruby>は、乗ぜられやすい残臭を、とゞめてゐる、

その不在中、ずつとこの部屋中に。

意地悪な水の精等も

寝床をうろつきまはつてゐる。

<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>の微笑、<ruby><rb>新妻</rb><rt>にひづま</rt></ruby>の微笑、おゝ！　蜜月は

そのかずかずを摘むのであらう、

<ruby><rb>銅</rb><rt>あかがね</rt></ruby>の、千の帯にてかの空を満たしもしよう。

さて二人は、鼠ごつこもするのであらう。

――日が暮れてから、銃を打つ時出るやうな

気狂ひじみた蒼い火が、出さへしなけれあいいがなあ。

――寧ろ、純白神聖なベツレヘムの景観が、

この若夫婦の部屋の窓の、あの空色を悩殺するに<ruby><rb>如</rb><rt>（し）</rt></ruby>かずである！

  


忍耐

或る夏の。

菩提樹の明るい枝に

病弱な鹿笛の音は息絶える。

しかし意力のある歌は

すぐりの中を舞ひめぐる。

血が血管で微笑めば、

葡萄の木と木は絡まり合ふ。

空は天使と美しく、

空と波とは聖体拝受。

外出だ！　<ruby><rb>光線</rb><rt>ひかり</rt></ruby>が辛いくらゐなら、

苔の上にてへたばらう。

やれ忍耐だの退屈だのと、

芸もない話ぢやないか！……チエツ、苦労とよ。

ドラマチックな夏こそは

『運』の車にこの俺を、縛つてくれるでこそよろし、

自然よ、おまへの手にかゝり、

――ちつとはましに賑やかに、死にたいものだ！

ところで羊飼さへが、大方は

浮世の苦労で死ぬるとは、<ruby><rb>可笑</rb><rt>（をか）</rt></ruby>しなこつた。

季節々々がこの俺を使ひ減らしてくれゝばいい。

自然よ、此の身はおまへに返す、

これな渇きも<ruby><rb>空腹</rb><rt>ひもじさ</rt></ruby>も。

お気に召したら、食はせろよ、飲ませろよ。

俺は何にも惑ひはしない。

御先祖様や日輪様にはお笑草でもあらうけど、

俺は何にも笑ひたかない

たゞこの不運に屈托だけはないやうに！

  


永遠

また見付かつた。

何がだ？　永遠。

<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>つてしまつた海のことさあ

太陽もろとも<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>つてしまつた。

見張番の魂よ、

白状しようぜ

空無な<ruby><rb>夜</rb><rt>よ</rt></ruby>に就き

燃ゆる日に就き。

人間共の配慮から、

世間<ruby><rb>共通</rb><rt>ならし</rt></ruby>の<ruby><rb>逆上</rb><rt>のぼせ</rt></ruby>から、

おまへはさつさと手を切つて

飛んでゆくべし……

もとより希望があるものか、

願ひの<ruby><rb>条</rb><rt>すぢ</rt></ruby>があるものか

黙つて黙つて勘忍して……

苦痛なんざあ覚悟の前。

<ruby><rb>繻子</rb><rt>（しゆす）</rt></ruby>の肌した深紅の<ruby><rb>燠</rb><rt>（おき）</rt></ruby>よ、

それそのおまへと燃えてゐれあ

<ruby><rb>義務</rb><rt>つとめ</rt></ruby>はすむといふものだ

やれやれといふ暇もなく。

また見付かつた。

何がだ？　永遠。

<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>つてしまつた海のことさあ

太陽もろとも<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>つてしまつた。

  


最も高い塔の歌

何事にも屈従した

無駄だつた青春よ

繊細さのために

私は生涯をそこなつたのだ、

あゝ！　心といふ心の

陶酔する時の来らんことを！

私は思つた、忘念しようと、

人が私を見ないやうにと。

いとも高度な喜びの

約束なしには

何物も私を停めないやう

厳かな隠遁よと。

ノートルダムの<ruby><rb>影像</rb><rt>イマージュ</rt></ruby>をしか

心に持たぬ惨めなる

さもしい限りの

千の<ruby><rb>寡婦</rb><rt>（くわふ）</rt></ruby>等も、

処女マリアに

祈らうといふか？

私は随分忍耐もした

決して忘れもしはすまい。

つもる怖れや苦しみは

空に向つて昨日<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>つた。

今たゞわけも分らぬ渇きが

私の血をば暗くする。

忘れ去られた

牧野ときたら

<ruby><rb>香</rb><rt>かをり</rt></ruby>と毒麦身に着けて

ふくらみ花を咲かすのだ、

汚い蠅等の残忍な

<ruby><rb>翅音</rb><rt>はおと</rt></ruby>も伴ひ。

何事にも屈従した

無駄だつた青春よ、

繊細さのために

私は生涯をそこなつたのだ。

あゝ！　心といふ心の

陶酔する時の来らんことを！

  


彼女は埃及舞妓か？

彼女は<ruby><rb>埃及舞妓</rb><rt>アルメ</rt></ruby>か？……かはたれどきに

火の花と<ruby><rb>崩</rb><rt>くづほ</rt></ruby>れるのぢやあるまいか……

豪華な都会にほど遠からぬ

壮んな眺めを前にして！

美しや！　おまけにこれはなくてかなはぬ

――<ruby><rb>海女</rb><rt>あま</rt></ruby>や、海賊の歌のため、

だつて彼女の表情は、消え去りがてにも猶海の

<ruby><rb>夜</rb><rt>よる</rt></ruby>の<ruby><rb>歓宴</rb><rt>うたげ</rt></ruby>を信じてた！

  


幸福

<ruby><rb>季節</rb><rt>とき</rt></ruby>が流れる、<ruby><rb>城寨</rb><rt>おしろ</rt></ruby>が見える、

<ruby><rb>無疵</rb><rt>（むきず）</rt></ruby>な<ruby><rb>魂</rb><rt>もの</rt></ruby>なぞ何処にあらう？

<ruby><rb>季節</rb><rt>とき</rt></ruby>が流れる、<ruby><rb>城寨</rb><rt>おしろ</rt></ruby>が見える、

私の手がけた幸福の

秘法を誰が<ruby><rb>脱</rb><rt>のが</rt></ruby>れ得よう。

ゴオルの<ruby><rb>鶏</rb><rt>とり</rt></ruby>が鳴くたびに、

「幸福」こそは万歳だ。

もはや何にも希ふまい、

私はそいつで一杯だ。

身も魂も<ruby><rb>恍惚</rb><rt>とろ</rt></ruby>けては、

努力もへちまもあるものか。

<ruby><rb>季節</rb><rt>とき</rt></ruby>が流れる、<ruby><rb>城寨</rb><rt>おしろ</rt></ruby>が見える。

私が何を言つてるのかつて？

言葉なんぞはふつ飛んぢまへだ！

<ruby><rb>季節</rb><rt>とき</rt></ruby>が流れる、<ruby><rb>城寨</rb><rt>おしろ</rt></ruby>が見える！

  


飢餓の祭り

俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、

驢馬に乗つて失せろ。

俺に<ruby><rb>食慾</rb><rt>くひけ</rt></ruby>があるとしてもだ

土や<ruby><rb>礫</rb><rt>いし</rt></ruby>に対してくらゐだ。

Dinn\! dinn\! dinn\! dinn\! 空気を食はう、

岩を、炭を、鉄を食はう。

飢餓よ、あつちけ。草をやれ、

<ruby><rb>音</rb><rt>おん</rt></ruby>の牧場に！

昼顔の、愉快な毒でも

吸ふがいい。

乞食が砕いた<ruby><rb>礫</rb><rt>いし</rt></ruby>でも<ruby><rb>啖</rb><rt>くら</rt></ruby>へ、

教会堂の古びた石でも、

洪水の子の磧の石でも、

寒い谷間の<ruby><rb>麺麭</rb><rt>（パン）</rt></ruby>でも啖へ！

飢餓とはかい、黒い空気のどんづまり、

空鳴り渡る鐘の音。

――俺の袖引く胃の腑こそ、

それこそ不幸といふものさ。

土から葉つぱが現れた。

熟れた果肉にありつかう。

畑に俺が摘むものは

<ruby><rb>野蒿苣</rb><rt>のぢしや</rt></ruby>に菫だ。

俺の飢餓よ、アンヌ、アンヌ、

驢馬に乗つて失せろ。

  


海景

銀の戦車や<ruby><rb>銅</rb><rt>あかがね</rt></ruby>の戦車、

<ruby><rb>鋼</rb><rt>はがね</rt></ruby>の船首や銀の船首、

泡を打ち、

茨の根株を掘り返す。

曠野の行進、

干潮の巨大な<ruby><rb>轍</rb><rt>あと</rt></ruby>は、

円を描いて東の方へ、

森の柱へ波止場の胴へ、

くりだしてゐる、

波止場の稜は渦巻く光でゴツゴツだ。

  


追加篇

  


孤児等のお年玉

Ⅰ

薄暗い部屋。

ぼんやり聞こえるのは

二人の子供の悲しいやさしい<ruby><rb>私話</rb><rt>ささやき</rt></ruby>。

互ひに額を寄せ合つて、おまけに<ruby><rb>夢想</rb><rt>ゆめ</rt></ruby>で重苦しげで、

慄へたり揺らいだりする長い白いカーテンの前。

<ruby><rb>戸外</rb><rt>そと</rt></ruby>では、小鳥たちが寄り合つて、寒がつてゐる。

灰色の空の下で彼等の羽はかじかんでゐる。

さて、霧の季節の<ruby><rb>後</rb><rt>あと</rt></ruby>に来た新年は、

ところどころに雪のある彼女の衣裳を引摺りながら、

涙をうかべて微笑をしたり寒さに慄へて歌つたりする。

Ⅱ

二人の子供は揺れ動くカーテンの前、

低声で話をしてゐます、<ruby><rb>恰度</rb><rt>（ちやうど）</rt></ruby>暗夜に人々がさうするやうに。

遠くの囁でも聴くやう、彼等は耳を澄ましてゐます。

彼等屡々、目覚時計の、けざやかな<ruby><rb>鈴</rb><rt>りん</rt></ruby>の音には

びつくりするのでありました、それはりんりん鳴ります　鳴ります、

硝子の覆ひのその中で、金属的なその響き。

部屋は凍てつく寒さです。寝床の<ruby><rb>周囲</rb><rt>まはり</rt></ruby>に散らばつた

喪服は<ruby><rb>床</rb><rt>ゆか</rt></ruby>まで垂れてます。

<ruby><rb>酷</rb><rt>きび</rt></ruby>しい冬の北風は、戸口や窓に泣いてゐて、

陰気な息吹を此の部屋の中までどんどん吹き込みます。

彼等は感じてゐるのです、何かゞ不足してゐると……

それは母親なのではないか、此のいたいけな子達にとつて、

それは得意な<ruby><rb>眼眸</rb><rt>まなざし</rt></ruby>ににこにこ微笑を湛へてる母親なのではないでせうか？

母親は、夕方独りで様子ぶり、忘れてゐたのでありませうか、

灰を落としてストーブをよく燃えるやうにすることも、

彼等の上に羊毛や<ruby><rb>毬毛</rb><rt>わたげ</rt></ruby>をどつさり掛けることも？

彼等の部屋を出てゆく時に、お休みなさいを云ひながら、

その<ruby><rb>晨方</rb><rt>あさがた</rt></ruby>が寒いだらうと、気の付かなかつたことでせうか、

<ruby><rb>戸締</rb><rt>とじ</rt></ruby>めをしつかりすることさへも、うつかりしてゐたのでせうか？

――母の夢、それは微温の<ruby><rb>毛氈</rb><rt>（まうせん）</rt></ruby>です、

柔らかい<ruby><rb>塒</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>です、其処に子供等小さくなつて、

枝に揺られる小鳥のやうに、

ほのかなねむりを眠ります！

今此の部屋は、羽なく熱なき<ruby><rb>塒</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>です。

二人の子供は寒さに慄へ、眠りもしないで怖れにわななき、

これではまるで北風が吹き込むための<ruby><rb>塒</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>です……

Ⅲ

諸君は既にお分りでせう、此の子等には母親はありません。

<ruby><rb>養母</rb><rt>そだておや</rt></ruby>さへない上に、父は他国にゐるのです！……

そこで婆やがこの子等の、面倒はみてゐるのです。

つまり凍つた此の家に住んでゐるのは彼等だけ……

今やこれらの幼い孤児が、嬉しい記憶を彼等の胸に

徐々に徐々にと繰り<ruby><rb>展</rb><rt>ひろ</rt></ruby>げます、

恰度お祈りする時に、<ruby><rb>念珠</rb><rt>（じゆず）</rt></ruby>を爪繰るやうにして。

あゝ！　お年玉、貰へる朝の、なんと嬉しいことでせう。

<ruby><rb>明日</rb><rt>あした</rt></ruby>は何を貰へることかと、眠れるどころの騒ぎでない。

わくわくしながら<ruby><rb>玩具</rb><rt>おもちや</rt></ruby>を想ひ、

<ruby><rb>金紙包</rb><rt>きんがみづつ</rt></ruby>みのボンボン想ひ、キラキラきらめく宝石類は、

しやなりしやなりと渦巻き踊り、

やがて見えなくなるかとみれば、またもやそれは現れてくる。

さて朝が来て目が覚める、直ぐさま元気で<ruby><rb>跳</rb><rt>は</rt></ruby>ね起きる。

目を<ruby><rb>擦</rb><rt>こす</rt></ruby>つてゐる暇もなく、口には<ruby><rb>唾</rb><rt>つばき</rt></ruby>が湧くのです、

さて走つてゆく、頭はもぢやもぢや、

目玉はキヨロキヨロ、嬉しいのだもの、

小さな<ruby><rb>跣足</rb><rt>はだし</rt></ruby>で床板踏んで、

両親の部屋の戸口に来ると、そをつとそをつと扉に触れる、

さて這入ります、それからそこで、御辞儀……寝巻のまんま、

<ruby><rb>接唇</rb><rt>ベーゼ</rt></ruby>は<ruby><rb>頻</rb><rt>しき</rt></ruby>つて繰返される、もう当然の躁ぎ方です！

￼

あゝ！　楽しかつたことであつた、何べん思ひ出されることか……

――変り果てたる此の<ruby><rb>家</rb><rt>や</rt></ruby>の<ruby><rb>有様</rb><rt>さま</rt></ruby>よ！

太い薪は<ruby><rb>炉格</rb><rt>シユミネ</rt></ruby>の中で、かつかかつかと燃えてゐたつけ。

家中明るい灯火は<ruby><rb>明</rb><rt>あか</rt></ruby>り、

それは洩れ出て<ruby><rb>外</rb><rt>そと</rt></ruby>まで明るく、

机や椅子につやつやひかり、

鍵のしてない大きな戸棚、鍵のしてない黒い戸棚を

子供はたびたび眺めたことです、

鍵がないとはほんとに不思議！　そこで子供は夢みるのでした、

戸棚の中の神秘の数々、

聞こえるやうです、鍵穴からは、

遠いい<ruby><rb>幽</rb><rt>（かす）</rt></ruby>かな嬉しい囁き……

――両親の部屋は今日ではひつそり！

ドアの下から光も漏れぬ。

両親はゐぬ、家よ、鍵よ、

<ruby><rb>接唇</rb><rt>ベーゼ</rt></ruby>も言葉も呉れないまゝで、<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>つてしまつた！

なんとつまらぬ今年の正月！

ジツと案じてゐるうち涙は、

青い大きい目に浮かみます、

彼等呟く、『何時母さんは帰つて<ruby><rb>来</rb><rt>（くる）</rt></ruby>ンだい？』

Ⅴ

今、二人は悲しげに、眠つてをります。

それを見たらば、眠りながらも泣いてると諸君は云はれることでせう、

そんなに彼等の目は腫れてその息遣ひは苦しげです。

ほんに子供といふものは感じやすいものなのです！……

だが揺籃を見舞ふ天使は彼等の涙を拭ひに来ます。

そして彼等の苦しい眠に嬉しい夢を授けます。

その夢は面白いので半ば開いた彼等の<ruby><rb>唇</rb><rt>くち</rt></ruby>は

やがて微笑み、何か呟くやうに見えます。

彼等はぽちやぽちやした腕に<ruby><rb>体重</rb><rt>おもみ</rt></ruby>を<ruby><rb>凭</rb><rt>もた</rt></ruby>せ、

やさしい目覚めの身振りして、頭を<ruby><rb>擡</rb><rt>もた</rt></ruby>げる夢をばみます。

そして、ぼんやりした目してあたりをずつと眺めます。

彼等は薔薇の色をした楽園にゐると思ひます……

パツと明るい<ruby><rb>竃</rb><rt>（かまど）</rt></ruby>には薪がかつかと燃えてます、

窓からは、青い空さへ見えてます。

大地は輝き、光は夢中になつてます、

<ruby><rb>半枯</rb><rt>はんかれ</rt></ruby>の<ruby><rb>野面</rb><rt>のも</rt></ruby>は蘇生の嬉しさに、

陽射しに身をばまかせてゐます、

さても彼等のあの家が、今では<ruby><rb>総体</rb><rt>いつたい</rt></ruby>に心地よく、

古い着物ももはやそこらに散らばつてゐず、

北風も扉の隙からもう吹込みはしませんでした。

仙女でも見舞つてくれたことでせう！……

―二人の子供は、夢中になつて、叫んだものです…おや其処に、

母さんの寝床の傍に明るい明るい陽を浴びて、

ほら其処に、<ruby><rb>毛氈</rb><rt>タピー</rt></ruby>の上に、何かキラキラ光つてゐる。

それらみんな大きいメタル、銀や黒のや白いのや、

チラチラ<ruby><rb>耀</rb><rt>（かがや）</rt></ruby>く黒玉や、真珠母や、

小さな黒い額縁や、<ruby><rb>玻璃</rb><rt>（はり）</rt></ruby>の王冠、

みれば金字が彫り付けてある、『我等が母に！』と。

〔千八百六十九年末つ方〕

  


太陽と肉体

太陽、この愛と生命の家郷は、

嬉々たる大地に熱愛を注ぐ。

我等谷間に寝そべつてゐる時に、

大地は血を湧き肉を躍らす、

その大いな胸が人に激昂させられるのは

神が愛によつて、女が肉によつて激昂させられる如くで、

又大量の樹液や光、

凡ゆる胚種を包蔵してゐる。

一切成長、一切増進！

おゝ<ruby><rb>美神</rb><rt>ヹニュス</rt></ruby>、おゝ女神！

若々しい古代の時を、放逸な<ruby><rb>半人半山羊神</rb><rt>サチール</rt></ruby>たちを。

獣的な<ruby><rb>田野の神々</rb><rt>フォーヌ</rt></ruby>を私は追惜します、

愛の小枝の樹皮をば<ruby><rb>齧</rb><rt>（かじ）</rt></ruby>り、

金髪ニンフを<ruby><rb>埃及蓮</rb><rt>はす</rt></ruby>の中にて、接唇しました彼等です。

地球の生気や河川の流れ、

樹々の<ruby><rb>血潮</rb><rt>ちしほ</rt></ruby>が<ruby><rb>仄紅</rb><rt>ほのくれなゐ</rt></ruby>に

<ruby><rb>牧羊神</rb><rt>パン</rt></ruby>の血潮と<ruby><rb>交</rb><rt>まざ</rt></ruby>り<ruby><rb>循</rb><rt>めぐ</rt></ruby>つた、かの頃を私は追惜します。

当時大地は牧羊神の、山羊足の下に胸ときめかし、

牧羊神が葦笛とれば、空のもと

愛の<ruby><rb>頌歌</rb><rt>（しようか）</rt></ruby>はほがらかに鳴渡つたものでした、

野に立つて彼は、その笛に答へる天地の

声々をきいてゐました。

<ruby><rb>黙</rb><rt>もだ</rt></ruby>せる樹々も歌ふ小鳥に<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>し、

大地は人に接唇し、海といふ海

生物といふ生物が神のごと、情けに篤いことでした。

壮観な<ruby><rb>市々</rb><rt>まちまち</rt></ruby>の中を、青銅の車に乗つて

見上げるやうに美しかつたかのシベールが、

走り廻つてゐたといふ時代を私は追惜します。

乳房ゆたかなその胸は<ruby><rb>顥気</rb><rt>（かうき）</rt></ruby>の中に

不死の命の霊液をそゝいでゐました。

『人の子』は吸つたものです、よろこんでその乳房をば、

子供のやうに、膝にあがつて。

だが『人の子』は強かつたので、貞潔で、温和でありました。

なさけないことに、今では彼は云ふのです、俺は何でも知つてると、

そして、<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>をつぶり、耳を<ruby><rb>塞</rb><rt>（ふさ）</rt></ruby>いで歩くのです。

それでゐて『人の子』が今では王であり、

『人の子』が今では神なのです！　『愛』こそ神であるものを！

おゝ！　神々と男達との大いなる母、シベールよ！

そなたの乳房をもしも男が、今でも吸ふのであつたなら！

昔<ruby><rb>青波</rb><rt>せいは</rt></ruby>の限りなき光のさ中に顕れ給ひ

浪かをる御神体、泡降りかゝる

<ruby><rb>紅</rb><rt>とき</rt></ruby>の<ruby><rb>臍</rb><rt>ほぞ</rt></ruby>をば示現し給ひ、

森に鶯、男の心に、愛を歌はせ給ひたる

大いなる黒き瞳も誇りかのかの女神

アスタルテ、今も此の世におはしなば！

Ⅱ

私は御身を信じます、聖なる母よ、

海のアフロヂテよ！――他の神がその十字架に

我等を繋ぎ給ひてより、御身への道のにがいこと！

肉、大理石、花、ヹニュス、私は御身を信じます！

さうです、『人の子』は貧しく醜い、空のもとではほんとに貧しい、

彼は衣服を着けてゐる、何故ならもはや貞潔でない、

何故なら至上の肉体を彼は汚してしまつたのです、

気高いからだを汚いわざで

火に遇つた<ruby><rb>木偶</rb><rt>でく</rt></ruby>といぢけさせました！

それでゐて死の後までも、その蒼ざめた遺骸の中に

生きんとします、最初の美なぞもうないくせに！

そして御身が処女性を、ゆたかに賦与され、

神に似せてお造りなすつたあの偶像、『女』は、

その哀れな魂を男に照らして貰つたおかげで

地下の牢から日の目を見るまで、

ゆるゆる暖められたおかげで、

おかげでもはや娼婦にやなれぬ！

――奇妙な話！　かくて世界は偉大なヹニュスの

優しく聖なる<ruby><rb>御名</rb><rt>みな</rt></ruby>に於て、ひややかに笑つてゐる。

Ⅲ

もしかの時代が帰りもしたらば！　もしかの時代が帰りもしたらば！……

だつて『人の子』の時代は過ぎた、『人の子』の役目は終つた。

かの時代が帰りもしたらば、その日こそ、偶像<ruby><rb>壊</rb><rt>こぼ</rt></ruby>つことにも疲れ、

彼は復活するでもあらう、あの神々から解き放たれて、

天に属する者の如く、諸天を吟味しだすであらう。

理想、砕くすべなき永遠の思想、

かの<ruby><rb>肉体</rb><rt>にく</rt></ruby>に棲む神性は

昇現し、額の下にて燃えるであらう。

そして、凡ゆる地域を探索する、彼を御身が見るだらう時、

諸々の古き<ruby><rb>軛</rb><rt>（くびき）</rt></ruby>の侮蔑者にして、全ての恐怖に勝てる者、

御身は彼に聖・<ruby><rb>贖罪</rb><rt>（しよくざい）</rt></ruby>を給ふでせう。

海の上にて荘厳に、輝く者たる御身はさて、

微笑みつゝは無限の『愛』を、

世界の上に投ぜんと光臨されることでせう。

世界は顫へることでせう、巨大な竪琴さながらに

かぐはしき、<ruby><rb>巨</rb><rt>おほ</rt></ruby>いな愛撫にぞくぞくしながら……

――世界は『愛』に<ruby><rb>渇</rb><rt>かつ</rt></ruby>ゑてゐます。御身よそれをお鎮め下さい、

おゝ肉体のみごとさよ！　おゝ素晴らしいみごとさよ！

愛の来復、<ruby><rb>黎明</rb><rt>よあけ</rt></ruby>の凱旋

神々も、英雄達も身を屈め、

エロスや真白のカリピイジュ

薔薇の吹雪にまよひつゝ

足の<ruby><rb>下</rb><rt>もと</rt></ruby>なる花々や、女達をば摘むでせう！

￼

おゝ偉大なるアリアドネ、おまへはおまへの悲しみを

海に投げ棄てたのだつた、テエゼの船が

陽に燦いて、去つてゆくのを眺めつつ、

おゝ貞順なおまへであつた、闇が傷めたおまへであつた、

黒い葡萄で縁取つた、金の車でリジアスが、

<ruby><rb>驃￼</rb><rt>（へうかん）</rt></ruby>な虎や褐色の豹に牽かせてフリジアの

野をあちこちとさまよつて、青い流に沿ひながら

進んでゆけば仄暗い波も恥ぢ入るけはひです。

牡牛ゼウスはイウロペの裸かの身をば頸にのせ、

軽々とこそ揺すぶれば、波の中にて<ruby><rb>寒気</rb><rt>さむけ</rt></ruby>する

ゼウスの丈夫なその<ruby><rb>頸</rb><rt>くび</rt></ruby>に、白い<ruby><rb>腕</rb><rt>かひな</rt></ruby>をイウロペは掛け、

ゼウスは彼女に送ります、悠然として<ruby><rb>秋波</rb><rt>ながしめ</rt></ruby>を、

彼女はやさしい蒼ざめた自分の頬をゼウスの顔に

さしむけて<ruby><rb>眼</rb><rt>まなこ</rt></ruby>を閉ぢて、彼女は死にます

神聖な<ruby><rb>接唇</rb><rt>ベエゼ</rt></ruby>の只中に、波は音をば立ててます

その金色の<ruby><rb>泡沫</rb><rt>しはぶき</rt></ruby>は、彼女の髪毛に花となる。

夾竹桃と<ruby><rb>饒舌</rb><rt>おしやべり</rt></ruby>な白蓮の<ruby><rb>間</rb><rt>あはひ</rt></ruby>をすべりゆく

夢みる大きい白鳥は、大変<ruby><rb>恋々</rb><rt>れんれん</rt></ruby>してゐます、

その真つ白の羽をもてレダを胸には抱締めます、

さてヹニュス様のお通りです、

めづらかな腰の丸みよ、<ruby><rb>反身</rb><rt>そりみ</rt></ruby>になつて

幅広の胸に<ruby><rb>黄金</rb><rt>こがね</rt></ruby>をはれがましくも、

雪かと白いそのお<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>には、まつ黒い苔が飾られて、

ヘラクレス、この<ruby><rb>調練師</rb><rt>ならして</rt></ruby>は誇りかに、

<ruby><rb>獅</rb><rt>（しし）</rt></ruby>の毛皮をゆたらかな五体に締めて、

<ruby><rb>恐</rb><rt>こは</rt></ruby>いうちにも優しい顔して、地平の<ruby><rb>方</rb><rt>かた</rt></ruby>へと進みゆく！……

おぼろに照らす夏の月の、月の光に照らされて

立つて夢みる裸身のもの

丈長髪も金に染み蒼ざめ重き波をなす

これぞ御存じアリアドネ、<ruby><rb>沈黙</rb><rt>しじま</rt></ruby>の空を眺めゐる……

苔も閃めく林間の<ruby><rb>空地</rb><rt>あきち</rt></ruby>の中の其処にして、

肌も真白のセレネエは<ruby><rb>面帕</rb><rt>かつぎ</rt></ruby>なびくにまかせつつ、

エンデミオンの足許に、怖づ怖づとして、

蒼白い月の光のその中で一寸<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>するのです……

泉は<ruby><rb>遐</rb><rt>（とほ）</rt></ruby>くで泣いてます　うつとり<ruby><rb>和</rb><rt>なご</rt></ruby>んで泣いてます……

<ruby><rb>甕</rb><rt>（かめ）</rt></ruby>に肘をば突きまして、若くて綺麗な男をば

思つてゐるのはかのニンフ、波もて彼を抱締める……

愛の微風は闇の中、通り過ぎます……

さてもめでたい森の中、大樹々々の凄さの中に、

立つてゐるのは物云はぬ大理石像、神々の、

それの一つの<ruby><rb>御顔</rb><rt>おんかほ</rt></ruby>に鶯は<ruby><rb>塒</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>を作り、

神々は耳傾けて、『人の子』と『終わりなき世』を案じ顔。

〔一八七〇、五月〕

  


オフェリア

Ⅰ

星眠る暗く静かな浪の上、

蒼白のオフェリア漂ふ、大百合か、

漂ふ、いともゆるやかに長き<ruby><rb>面帕</rb><rt>かつぎ</rt></ruby>に横たはり。

近くの森では鳴つてます鹿遂詰めし合図の笛。

以来千年以上です真白の真白の妖怪の

哀しい哀しいオフェリアが、其処な流れを過ぎてから。

以来千年以上ですその恋ゆゑの<ruby><rb>狂</rb><rt>くる</rt></ruby>ひ<ruby><rb>女</rb><rt>め</rt></ruby>が

そのロマンスを夕風に、呟いてから。

風は彼女の胸を撫で、水にしづかにゆらめける

彼女の大きい<ruby><rb>面帕</rb><rt>かほぎぬ</rt></ruby>を<ruby><rb>花冠</rb><rt>くわくわん</rt></ruby>のやうにひろげます。

柳は慄へてその肩に熱い涙を落とします。

夢みる大きな額の上に<ruby><rb>蘆</rb><rt>（あし）</rt></ruby>が傾きかかります。

傷つけられた睡蓮たちは彼女を<ruby><rb>囲繞</rb><rt>とりま</rt></ruby>き溜息します。

彼女は時々覚まします、睡つてゐる<ruby><rb>榛</rb><rt>はんのき</rt></ruby>の

中の何かの<ruby><rb>塒</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>をば、すると小さな羽ばたきがそこから逃れて出てゆきます。

不思議な一つの歌声が金の星から堕ちてきます。

Ⅱ

雪の如くも美しい、おゝ蒼ざめたオフェリアよ、

さうだ、おまへは死んだのだ、暗い流れに運ばれて！

それといふのもノルヱーの高い山から吹く風が

おまへの耳にひそひそと<ruby><rb>酷</rb><rt>むご</rt></ruby>い自由を吹込んだため。

それといふのもおまへの髪毛に、押寄せた風の一吹が、

おまへの夢みる心には、ただならぬ音とも聞こえたがため、

それといふのも樹の嘆かひに、夜毎の闇の吐く溜息に、

おまへの心は天地の声を、聞き<ruby><rb>落</rb><rt>もら</rt></ruby>すこともなかつたゆゑに。

それといふのも<ruby><rb>潮</rb><rt>うしほ</rt></ruby>の<ruby><rb>音</rb><rt>おと</rt></ruby>が、さても巨いな<ruby><rb>残喘</rb><rt>（ざんぜん）</rt></ruby>のごと、

情けにあつい子供のやうな、おまへの胸を痛めたがため。

それといふのも四月の朝に、<ruby><rb>美々</rb><rt>びゝ</rt></ruby>しい一人の蒼ざめた騎手、

哀れな狂者がおまへの膝に、黙つて坐りにやつて来たため。

何たる夢想ぞ、狂ひし女よ、天国、愛恋、自由とや、おゝ！

おまへは雪の火に於るがごと、彼に心も打靡かせた。

おまへの見事な幻想はおまへの誓ひを責めさいなんだ。

――そして無残な無限の奴は、おまへの瞳を<ruby><rb>震駭</rb><rt>びつくり</rt></ruby>させた。

Ⅲ

<ruby><rb>扨</rb><rt>（さて）</rt></ruby>詩人<ruby><rb>奴</rb><rt>め</rt></ruby>が云ふことに、星の光をたよりにて、

嘗ておまへの摘んだ花を、夜毎おまへは探しに来ると。

又彼は云ふ、流れの上に、長い<ruby><rb>面帕</rb><rt>かつぎ</rt></ruby>に横たはり、

<ruby><rb>真</rb><rt>ま</rt></ruby>ツ<ruby><rb>白白</rb><rt>しろしろ</rt></ruby>のオフェリアが、大きな百合かと漂つてゐたと。

〔一八七〇、六月〕

  


首吊人等の踊り

愛嬌のある<ruby><rb>不具者</rb><rt>かたはもの</rt></ruby>＝絞首台氏のそのほとり、

踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、

悪魔の家来の、痩せたる刺客等、

サラヂン幕下の骸骨たちが。

ビエルヂバブ閣下事には、ネクタイの中より取り出しめさるゝ

空を睨んで容子振る、幾つもの黒くて小さなからくり人形、

さてそれらの<ruby><rb>額</rb><rt>おでこ</rt></ruby>の辺りを、古靴の底でポンと叩いて、

踊らしめさるゝ、踊らしめさるゝ、ノエル<ruby><rb>爺</rb><rt>ぢぢい</rt></ruby>の音に合せて！

機嫌そこねた<ruby><rb>からくり人形</rb><rt>パンタン</rt></ruby><ruby><rb>事</rb><rt>こと</rt></ruby>には<ruby><rb>華車</rb><rt>ちやち</rt></ruby>な腕をば絡ませ合つて、

黒い大きなオルガンのやう、昔綺麗な乙女達が

胸にあててた胸当のやう、

醜い恋のいざこざにいつまで<ruby><rb>衝突</rb><rt>ぶつかり</rt></ruby>合ふのです。

ウワーツ、陽気な踊り手には<ruby><rb>腹</rb><rt>おなか</rt></ruby>もない

踊り狂へばなんだろとまゝよ、大道芝居はえてして長い！

喧嘩か踊りかけぢめもつかぬ！

<ruby><rb>怒</rb><rt>いき</rt></ruby>り立つたるビエルヂバブには、<ruby><rb>遮二無二</rb><rt>（しやにむに）</rt></ruby>ヴィオロン掻きめさる！

おゝ頑丈なそれらの<ruby><rb>草履</rb><rt>サンダル</rt></ruby>、<ruby><rb>磨減</rb><rt>すりへ</rt></ruby>ることとてなき<ruby><rb>草履</rb><rt>サンダル</rt></ruby>よ！……

どのパンタンも、やがて間もなく、大方肌著を脱いぢまふ。

脱がない奴とて困つちやをらぬ、悪くも思はずけろりとしてる。

<ruby><rb>頭蓋</rb><rt>あたま</rt></ruby>の上には雪の奴めが、白い帽子をあてがひまする。

<ruby><rb>亀裂</rb><rt>ひび</rt></ruby>の<ruby><rb>入</rb><rt>はい</rt></ruby>つたこれらの頭に、烏は似合ひのよい羽飾り。

彼等の痩せたる顎の肉なら、ピクリピクリと慄へてゐます。

わけも分らぬ喧嘩騒ぎの、中をそは〱往つたり来たり、

しやちこばつたる剣客刺客の、<ruby><rb>厚紙</rb><rt>ボール</rt></ruby>の兜は鉢合わせ。

ウワーツ、北風ピユーピユー、骸骨社会の大舞踏会の真ツ只中に！

大きい鉄のオルガンさながら、絞首台氏も<ruby><rb>吼</rb><rt>（ほ）</rt></ruby>えまする！

狼たちも吠えてゆきます、<ruby><rb>彼方</rb><rt>かなた</rt></ruby><ruby><rb>紫色</rb><rt>むらさきいろ</rt></ruby>の森。

地平の果では御空が真ツ赤、地獄の色の真ツ赤です……

さても忘れてしまひたいぞえ、これら陰気な威張屋連中、

壊れかゝつたごつごつ指にて、血の気も失せたる椎骨の上

恋の念珠を爪繰る奴等、<ruby><rb>陰険</rb><rt>いや</rt></ruby>な奴等は忘れたいぞえ！

味もへちまも持つてるもんかい、くたばりきつたる奴等でこそあれ！

さもあらばあれ、死人の踊の、その<ruby><rb>中央</rb><rt>たゞなか</rt></ruby>で跳ねてゐる

狂つた大きい一つの骸骨、真ツ赤な空の背景の前。

<ruby><rb>息</rb><rt>いき</rt></ruby>も激しく苛立ちのぼせ、<ruby><rb>後脚</rb><rt>あとあし</rt></ruby>跳ねかし牡馬の如く、

硬い紐をば頸には感じ、

<ruby><rb>十</rb><rt>じふ</rt></ruby>の<ruby><rb>指</rb><rt>および</rt></ruby>は腰骨の上、ピクリピクリと痙攣いたし、

<ruby><rb>冷笑</rb><rt>ひやかしわらひ</rt></ruby>によく似た音立て、<ruby><rb>大腿骨</rb><rt>こしのおほぼね</rt></ruby>ギシギシ軋らす、

さていま一度、ガタリと跳ねる、骨の歌声、踊りの<ruby><rb>際中</rb><rt>さなか</rt></ruby>、

も一度跳ねる、掛小舎で、道化が引ツ込む時するやうに。

愛嬌のある<ruby><rb>不具者</rb><rt>かたはもの</rt></ruby>＝絞首台氏のそのほとり、

踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、

悪魔の家来の痩せたる刺客等、

サラヂン幕下の骸骨たちが。

〔一八七〇、六月〕

  


タルチュッフの懲罰

わくわくしながら、彼の心は、恋慕に燃えて

僧服の下で、幸福おぼえ、手袋はめて、

彼は出掛けた、或日のことに、いとやさしげな

黄色い顔して、歯欠けの口から、信心垂らし

彼は出掛けた、或日のことに――｟<ruby><rb>共に祈らん</rb><rt>オレムス</rt></ruby>｠――

と或る意地悪、祝福された、彼の耳をば手荒に掴み

極悪の、文句を彼に、叩き付けた、僧服を

じめじめの彼の肌から引ツ剥ぎながら。

いい気味だ！……僧服の、<ruby><rb>釦</rb><rt>（ボタン）</rt></ruby>は既に<ruby><rb>外</rb><rt>はづ</rt></ruby>されてゐた、

多くの罪過を赦してくれた、その長々しい念珠をば

心の裡にて爪繰りながら、聖タルチュッフは<ruby><rb>真</rb><rt>ま</rt></ruby>ツ<ruby><rb>蒼</rb><rt>さを</rt></ruby>になつた。

ところで彼は告解してゐた、お祈りしてゐた、<ruby><rb>喘</rb><rt>（あへ）</rt></ruby>ぎながらも。

<ruby><rb>件</rb><rt>（くだん）</rt></ruby>の男は嬉々として、獲物を拉つてゆきました。

――フツフツフツ！　タルチュッフ様は丸裸か。

〔一八七〇、七月〕

  


海の泡から生れたヴィナス

ブリキ製の緑の棺からのやうに、褐色の髪に

ベトベトにポマード附けた女の頭が、

古ぼけた浴槽の中からあらはれる、どんよりと間の抜けた

その顔へはまづい化粧がほどこされてゐる。

<ruby><rb>脂</rb><rt>あぶら</rt></ruby>ぎつた薄汚い<ruby><rb>頸</rb><rt>くび</rt></ruby>、幅広の<ruby><rb>肩胛骨</rb><rt>かひがらぼね</rt></ruby>は

突き出てゐるし、短い脊中はでこぼこだ。

皮下の脂肪は、平らな葉のやう、

腰の丸みは、飛び出しさうだ。

<ruby><rb>脊柱</rb><rt>せすぢ</rt></ruby>は少々赤らんでゐる、総じて異様で

ぞつとする。わけても気になる

奇態な<ruby><rb>肉瘤</rb><rt>こぶ</rt></ruby>。

腰には二つの、語が彫つてある、Clara Venus と。

――胴全体が大きいお尻を、動かし、<ruby><rb>緊張</rb><rt>ひきし</rt></ruby>め、

肛門の、潰瘍は、見苦しくも美しい。

  


ニイナを抑制するものは

彼曰く――

そなたが胸をばわが胸の<ruby><rb>上</rb><rt>へ</rt></ruby>に、

そぢやないか、<ruby><rb>俺等</rb><rt>おいら</rt></ruby>は行かうぜ、

鼻ン<ruby><rb>腔</rb><rt>あな</rt></ruby>アふくらましてヨ、

空ははればれ

朝のお日様アおめへをうるほす

酒でねえかヨ……

寒げな森が、血を出してらアな

恋しさ余つて、

枝から緑の雫を垂れてヨ、

若芽出してら、

それをみてれアおめへも俺も、

肉が顫はア。

<ruby><rb>苜蓿</rb><rt>（うまごやし）</rt></ruby>ン中おめへはブツ込む

<ruby><rb>長</rb><rt>なげ</rt></ruby>エ肩掛、

大きな<ruby><rb>黒瞳</rb><rt>くろめ</rt></ruby>のまはりが青味の

聖なる別嬪、

田舎の、恋する女ぢやおめへは、

何処へでも

まるでシャンペンが泡吹くやうに

おめへは笑を撒き散らす、

俺に笑へよ、酔つて暴れて

おめへを抱かうぜ

こオんな<ruby><rb>具合</rb><rt>ぐえイ</rt></ruby>に、――立派な髪毛ぢや

嚥んでやらうゾ

苺みてエなおめへの味をヨ、

肉の花ぢやよ

泥棒みてエにおめへを掠める

風に笑へだ

御苦労様にも、おめへを<ruby><rb>厭</rb><rt>いと</rt></ruby>はす

野薔薇に笑へだ、

殊には笑へだ、狂つた<ruby><rb>女子</rb><rt>あまつこ</rt></ruby>、

こちのひとへだ！……

十七か！　おめへは<ruby><rb>幸福</rb><rt>しやはせ</rt></ruby>。

おゝ！　<ruby><rb>広</rb><rt>ひれ</rt></ruby>エ草ツ原、

素ツ晴らしい田舎！

――話しなよ、もそつと寄つてサ……

そなたが胸をばわが胸の<ruby><rb>上</rb><rt>へ</rt></ruby>にだ、

話をしいしい

ゆつくりゆかうぜ、大きな森の方サ

<ruby><rb>雨水</rb><rt>あまみづ</rt></ruby>の滝の方サ、

死んぢまつた小娘みてエに、

息切らしてヨウ

おめへは云ふだろ、抱いて行つてと

<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>エ細くして。

抱いてゆくともどきどきしてゐるおめへを抱いたら

小径の中へヨ、

小鳥の奴めアゆつくり構へて、啼きくさるだろヨ

<ruby><rb>榛</rb><rt>（はしばみ）</rt></ruby>ン中で。

口ン中へヨ俺ァ話を、注ぎ込んでやら、

おめへのからだを

締めてやらアな子供を寝かせる時みてエにヨウ、

おめへの血は酔ひ

肌の下をヨ、青ウく流れる

桃色調でヨ

そこでおめへに俺は云はアな、

――おい！　とね、――おめへにヤ分らア

森は樹液の匂ひでいつぱい、

おてんと様ア

金糸でもつてヨ<ruby><rb>暗</rb><rt>くれ</rt></ruby>エ血色の、森の夢なざ

ぐツと飲まアナ。

日暮になつたら？……<ruby><rb>俺等</rb><rt>おいら</rt></ruby>ア<ruby><rb>帰</rb><rt>けへ</rt></ruby>らア、

ずうツとつゞいた白い路をヨ、

ブラリブラリと<ruby><rb>道中</rb><rt>みちみち</rt></ruby>草食ふ

羊みてエに。

青草<ruby><rb>生</rb><rt>へ</rt></ruby>エてる果物畑は、

しちくね曲つた林檎の樹が、

<ruby><rb>遠方</rb><rt>ゑんぱう</rt></ruby>からでも匂ふがやうに、

強エ匂ひをしてらアな！

やんがて俺等は村に著く、

空が半分<ruby><rb>暗</rb><rt>くれ</rt></ruby>エ頃、

乳臭エ匂ひがしてゐようわサ

日暮の空気のそン中で、

臭エ寝藁で<ruby><rb>一杯</rb><rt>いつぺエ</rt></ruby>の、

牛小屋の匂いもするベエよ、

ゆつくりゆつくり息を吐エてヨ

大ツきな背中ア

<ruby><rb>薄明</rb><rt>うすらあかり</rt></ruby>で白ウくみえてヨ、

向ふを見ればヨ

牝牛がおつぴらに<ruby><rb>糞</rb><rt>くそ</rt></ruby>してらアな、

歩きながらヨ。

<ruby><rb>祖母</rb><rt>ばば</rt></ruby>は眼鏡エかけ

<ruby><rb>長</rb><rt>なげ</rt></ruby>エ鼻をヨ

<ruby><rb>弥撒集</rb><rt>いのりぼん</rt></ruby>に突ツ込み、鉛の<ruby><rb>箍</rb><rt>（たが）</rt></ruby>の

ビールの壺はヨ

大きなパイプで威張りくさつて

突ン出た<ruby><rb>唇</rb><rt>くち</rt></ruby>から煙を吐き吐き、

しよつちう吐エてる奴等の前でヨ、

泡を吹いてら、

突ン出た<ruby><rb>唇奴</rb><rt>くちめ</rt></ruby>等もつともつとと、

ハムに食ひ付き、

火は<ruby><rb>手摺</rb><rt>（てすり）</rt></ruby>附の寝台や

長持なんぞを照らし出してヨ、

丸々太つてピカピカしてゐる

尻を持つてる腕白小僧は

膝ついて、茶碗の中に突つ込みやがらア

その<ruby><rb>生</rb><rt>なま</rt></ruby>ツ<ruby><rb>白</rb><rt>ちれ</rt></ruby>エしやツ<ruby><rb>面</rb><rt>つら</rt></ruby>を

その<ruby><rb>面</rb><rt>つら</rt></ruby>を、<ruby><rb>小</rb><rt>ちひ</rt></ruby>せエ声してブツクサ呟く

も一人の小憎の鼻で撫でられ

その小僧奴の<ruby><rb>丸</rb><rt>まアる</rt></ruby>い<ruby><rb>面</rb><rt>つら</rt></ruby>に

接唇とくらア、

椅子の端ツこに黒くて<ruby><rb>赤</rb><rt>あけ</rt></ruby>エ

恐ろし頭した

<ruby><rb>婆々</rb><rt>ばばあ</rt></ruby>はゐてサ、<ruby><rb>燠</rb><rt>（おき）</rt></ruby>の前でヨ

糸紡ぐ――

なんといろいろ見れるぢやねエかヨ、

この<ruby><rb>荒家</rb><rt>あばらや</rt></ruby>の中ときた日にヤ、

焚火が<ruby><rb>明</rb><rt>あか</rt></ruby>アく、うすみつともねエ

窓の硝子を照らす時！

<ruby><rb>紫丁香花</rb><rt>むらさきはしどい</rt></ruby>咲いてる中の

こざつぱりした住居ぢや住居

中ぢや騒ぎぢや

愉快な騒ぎ……

来なよ、来なつてば、愛してやらあ、

わるかあるめエ

来なツたら来なよ、来せエしたらだ……

彼女曰く――

だつて<ruby><rb>職業</rb><rt>しごと</rt></ruby>はどうなンの？

〔一五、八、一八七〇〕

  


音楽堂にて

シャルルヸル・ガアルの広場

貧弱な芝地になつてる広場の上に、

木も花も、何もかもこぢんまりした辻公園に、

暑さにうだつた市民たち、毎木曜日の夕べになると、

恋々と、愚鈍を提げて集つて来る。

軍楽隊は、その中央で、

ファイフのワルツの演奏中、頻りに<ruby><rb>軍帽</rb><rt>あたま</rt></ruby>を振つてゐる。

それを<ruby><rb>囲繞</rb><rt>とりま</rt></ruby>く人群の前の方には気取屋連が得意げで、

公証人氏は安ピカの、<ruby><rb>頭字</rb><rt>かしらじ</rt></ruby>入のメタルに見入つてゐる<ruby><rb>際中</rb><rt>さなか</rt></ruby>。

<ruby><rb>鼻眼鏡</rb><rt>ロルニヨン</rt></ruby>の金利生活先生達は、奏楽の、調子の<ruby><rb>外</rb><rt>はづ</rt></ruby>れを気にします。

無暗に太つた<ruby><rb>勤人</rb><rt>つとめにん</rt></ruby>達等は、太つた細君連れてゐる、

彼女の<ruby><rb>側</rb><rt>おそば</rt></ruby>に行きますは、いと世話好きな先生達、

彼女の著物の裾飾と来ちや、物欲しさうに見えてます。

隠居仕事に、食料を<ruby><rb>商</rb><rt>や</rt></ruby>る連中の何時も集る緑のベンチ、

今日も彼等はステッキで砂を掻き掻き大真面目

何か契約上のこと、論議し合つてゐるのです、

何れお金のことでせう、扨『結局……』と云つてます。

お尻の丸味を床几の上に、どつかと据ゑてるブルジョワは、

はでな釦を附けてゐるビール腹したフラマン人、

オネン・パイプを<ruby><rb>嗜</rb><rt>たしな</rt></ruby>んでゐる、ボロリボロリと煙草はこぼれる、

――ねえ、ホラ、あれは、密輸の煙草！

芝生の<ruby><rb>縁</rb><rt>ふち</rt></ruby>では<ruby><rb>無頼漢共</rb><rt>わるども</rt></ruby>が、さかんに冷嘲してゐます。

トロンボオンの<ruby><rb>節</rb><rt>ふし</rt></ruby>につれ、<ruby><rb>甘</rb><rt>あま</rt></ruby>アくなつた純心の

いとも気随な兵隊達は子守女と口をきかうと

まづその抱ゐてる赤ン坊をあやします。

――私は学生よろしくの<ruby><rb>身装</rb><rt>みなり</rt></ruby>くづした<ruby><rb>態</rb><rt>ざま</rt></ruby>なんです、

<ruby><rb>緑々</rb><rt>あを〱</rt></ruby>としたマロニヱの、下にははしこい娘達、

彼女等私をよく知つてゐて、笑つて振向いたりします

その眼付にはいやらしい、要素も相当あるのです。

私は黙つてゐるのです。私はジツと眺めてる

<ruby><rb>髪束</rb><rt>かみたば</rt></ruby>が風情をあたへる彼女等の、<ruby><rb>白</rb><rt>しろ</rt></ruby>い<ruby><rb>頸</rb><rt>うなじ</rt></ruby>。

彼女等の、胴衣と<ruby><rb>華車</rb><rt>ちやち</rt></ruby>な<ruby><rb>装飾</rb><rt>かざり</rt></ruby>の下には、

肩の<ruby><rb>曲線</rb><rt>カーブ</rt></ruby>に打つづく<ruby><rb>聖</rb><rt>（きよ）</rt></ruby>らの背中があるのです。

彼女等の靴も私はよく見ます、靴下だつてよく見ます。

扨美しい熱もゆる、全身像を更めて、私は胸に描きます。

彼女等私を嗤ひます、そして<ruby><rb>低声</rb><rt>（こごゑ）</rt></ruby>で話し合ふ。

すると私は唇に、寄せ来る<ruby><rb>接唇</rb><rt>ベーゼ</rt></ruby>を感じます。

〔一八七〇、八月〕

  


喜劇・三度の接唇

彼女はひどく略装だつた、

無鉄砲な大木は

窓の硝子に葉や枝をぶツつけてゐた。

意地悪さうに、乱暴に。

私の大きい椅子に坐つて、

半裸の彼女は、手を組んでゐた。

<ruby><rb>床</rb><rt>ゆか</rt></ruby>の上では嬉しげに

小さな足が顫へてゐた。

私は視てゐた、少々顔を蒼くして、

灌木の茂みに<ruby><rb>秘</rb><rt>ひそ</rt></ruby>む細かい光線が

彼女の微笑や彼女の胸にとびまはるのを。

薔薇の木に蠅が戯れるやうに、

私は彼女の、柔かい<ruby><rb>踝</rb><rt>くるぶし</rt></ruby>に接唇した、

きまりわるげな長い笑ひを彼女はした、

その笑ひは明るい<ruby><rb>顫音符</rb><rt>トリロ</rt></ruby>のやうにこぼれた、

水晶の<ruby><rb>擢片</rb><rt>かけら</rt></ruby>のやうであつた。

小さな足はシュミーズの中に

引ツ込んだ、『お邪魔でしよ！』

甘つたれた最初の無作法、

その笑は、罰する振りをする。

かあいさうに、私の<ruby><rb>唇</rb><rt>くち</rt></ruby>の下で<ruby><rb>羽搏</rb><rt>（はばた）</rt></ruby>いてゐた

彼女の双の<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>、私はそおつと接唇けた。

甘つたれて、彼女は<ruby><rb>後方</rb><rt>うしろ</rt></ruby>に頭を反らし、

『いいわよ』と云はんばかり！

『ねえ、あたし一寸云ひたいことあつてよ……』

私はなほも胸に接唇、

彼女はけた〱笑ひ出した

安心して、人の好い笑ひを……

彼女はひどく略装だつた、

無鉄砲な大木は

窓の硝子に葉や枝をぶツつけてゐた

意地悪さうに、乱暴に。

〔一八七〇、九月〕

  


物語

Ⅰ

人十七にもなるといふと、石や<ruby><rb>金</rb><rt>かね</rt></ruby>ではありません。

或る美しい夕べのこと、――灯火輝くカフヱーの

ビールがなんだ、レモナードがなんだ？――

人はゆきます遊歩場、緑色濃き<ruby><rb>菩提樹</rb><rt>（ぼだいじゆ）</rt></ruby>の下。

菩提樹のなんと薫ること、六月の佳い宵々に。

空気は大変甘くつて、瞼閉じたくなるくらゐ。

程遠き街の響を運ぶ風

葡萄の薫り、ビールの薫り。

Ⅱ

枝の彼方の暗い空

小さな雲が浮かんでる、

甘い<ruby><rb>顫</rb><rt>（ふる）</rt></ruby>へに溶けもする、白い小さな

悪い星<ruby><rb>奴</rb><rt>め</rt></ruby>に<ruby><rb>螫</rb><rt>（さ）</rt></ruby>されてる。

六月の宵！……十七才！……人はほろ酔ひ陶然となる。

血はさながらにシャンペンで、それは頭に上ります。

人はさまよひ<ruby><rb>徘徊</rb><rt>（はいくわい）</rt></ruby>し、羽搏く<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>感じます

小さな小さな生き物の、羽搏く<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>……

Ⅲ

のぼせた心はありとある、物語にまで拡散し、

折しも蒼い街灯の、明りの下を過ぎゆくは

可愛いい可愛いい女の子

彼女の<ruby><rb>恐</rb><rt>こは</rt></ruby>い父親の、今日はゐないをいいことに。

<ruby><rb>扨</rb><rt>（さて）</rt></ruby>、君を、純心なりと見てとるや、

小さな靴をちよこちよこと、

彼女は忽ちやつて来て、

――すると貴君の<ruby><rb>唇</rb><rt>くち</rt></ruby>の<ruby><rb>上</rb><rt>へ</rt></ruby>の、<ruby><rb>単純旋律</rb><rt>カヷチナ</rt></ruby>やがて霧散する。

￼

貴君は恋の捕虜となり、八月の日も暑からず！

貴君は恋の捕虜となり、貴君の恋歌は彼女を笑まし。

貴君の友等は貴君を去るも、貴君関する所に非ず。

――さても彼女は或る夕べ、貴君に色よい手紙を呉れる。

その宵、貴君はカフヱーに行き、

ビールも飲めばレモナードも飲む……

人十七にもなるといふと、遊歩場の

菩提樹の味知るといふと、石や<ruby><rb>金</rb><rt>かね</rt></ruby>ではありません。

〔一八七〇、九月二十三日〕

  


冬の思ひ

僕等冬には薔薇色の、車に乗つて行きませう

中には青のクッションが、一杯の。

僕等仲良くするでせう。とりとめもない接唇の

巣はやはらかな車の隅々。

あなたは目をば閉ぢるでせう、窓から見える夕闇を

その<ruby><rb>顰</rb><rt>（しか）</rt></ruby>め面を見まいとて、

かの意地悪い異常さを、鬼畜の如き

愚民等を見まいとて。

あなたは頬を引ツ掻かれたとおもふでせう。

<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>が、ちよろりと、狂つた蜘蛛のやうに、

あなたの頸を走るでせうから。

あなたは僕に云ふでせう、『探して』と、頭かしげて、

僕等蜘蛛<ruby><rb>奴</rb><rt>め</rt></ruby>を探すには、随分時間がかかるでせう、

――そいつは、よつぽど駆けまはるから。

一八七〇、十月七日、車中にて。

  


災難

<ruby><rb>霰弾</rb><rt>（さんだん）</rt></ruby>の、赤い<ruby><rb>泡沫</rb><rt>しぶき</rt></ruby>が、ひもすがら

青空の果で、鳴つてゐる時、

その霰弾を<ruby><rb>嘲笑</rb><rt>あざわら</rt></ruby>つてゐる、王の近くで

軍隊は、みるみるうちに崩れてゆく。

狂気の沙汰が<ruby><rb>搗</rb><rt>（つ）</rt></ruby>き砕き

幾数万の人間の血ぬれの<ruby><rb>堆積</rb><rt>やま</rt></ruby>を作る時、

――哀れな死者等は、自然よおまへの夏の中、草の中、歓喜の中、

<ruby><rb>甞</rb><rt>（かつ）</rt></ruby>てこれらの人間を、作つたのもおゝ<ruby><rb>自然</rb><rt>おまえ</rt></ruby>！――

祭壇の、<ruby><rb>緞子</rb><rt>（どんす）</rt></ruby>の上で香を焚き

<ruby><rb>聖餐杯</rb><rt>（せいさんはい）</rt></ruby>を前にして、笑つてゐるのは神様だ、

ホザナの声に揺られて睡り、

悩みにすくんだ母親達が、古い帽子のその下で

泣きながら二スウ銅貨をハンケチの

中から取り出し奉献する時、開眼するのは神様だ

〔一八七〇、十月〕

  


シーザーの激怒

蒼ざめた男、花咲く芝生の中を、

黒衣を着け、葉巻<ruby><rb>咥</rb><rt>（くは）</rt></ruby>へて歩いてゐる。

蒼ざめた男はチュイルリの花を思ふ、

曇つたその<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>は、時々烈しい眼付をする。

皇帝は、過ぐる二十年間の大饗宴に飽き〱してゐる。

かねがね彼は思つてゐる、俺は自由を吹消さう、

うまい具合に、臘燭のやうにと。

自由が再び生れると、彼は全くがつかりしてゐた。

彼は<ruby><rb>憑</rb><rt>（つ）</rt></ruby>かれた。その結ばれた唇の上で、

誰の名前が顫へてゐたか？　何を<ruby><rb>口惜</rb><rt>くや</rt></ruby>しく思つてゐたか？

誰にもそれは分らない、とまれ皇帝の<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>は曇つてゐた。

恐らくは眼鏡を掛けたあの教父、教父の事を恨んでゐた、

――サン・クルウの夕べ夕べに、かぼそい雲が流れるやう

その葉巻から立ち昇る、煙にジツと<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>を据ゑながら。

〔一八七〇、十月〕

  


キャバレ・ヹールにて

午後の五時。

五六日前から、私の靴は、路の小石にいたんでゐた、

私は、シャルルロワに、帰つて来てゐた。

キャバレ・ヹールでバタサンドヰッチと、ハムサンドヰッチを私は取つた、

ハムの方は少し冷え過ぎてゐた。

好い気持で、緑のテーブルの、下に脚を投出して、

私は<ruby><rb>壁掛布</rb><rt>かべかけ</rt></ruby>の、いとも粗朴な絵を眺めてた。

そこへ眼の活々とした、乳房の大きく発達した<ruby><rb>娘</rb><rt>こ</rt></ruby>が、

――とはいへ決していやらしくない！――

にこにこしながら、バタサンドヰッチと、

ハムサンドヰッチを<ruby><rb>色彩</rb><rt>いろどり</rt></ruby>のある

皿に盛つて運んで来たのだ。

桃と白とのこもごものハムは韮の<ruby><rb>球根</rb><rt>たま</rt></ruby>の香放ち、

彼女はコップに、午後の陽をうけて

金と輝くビールを注いだ。

〔一八七〇、十月〕

  


『皇帝万歳！』の叫び共に<ruby><rb>贏</rb><rt>（か）</rt></ruby>ち得られたる

花々しきサアルブルックの捷利

三十五サンチームにてシャルルロワで売つてゐる色鮮かなベルギー絵草紙

青や黄の、礼讃の中を皇帝は、

燦たる馬に跨つて、<ruby><rb>厳</rb><rt>いか</rt></ruby>しく進む、

嬉しげだ、――今彼の<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>には万事が<ruby><rb>可</rb><rt>よ</rt></ruby>い、――

残虐なることゼウスの如く、優しきこと慈父の如しか。

下の方には、歩兵達、<ruby><rb>金色</rb><rt>こんじき</rt></ruby>の太鼓の近く

<ruby><rb>赤色</rb><rt>せきしよく</rt></ruby>の<ruby><rb>大砲</rb><rt>ほづつ</rt></ruby>の近く、今し昼寝をしてゐたが、

これからやをら起き上る。ピトウは上衣を着終つて、

皇帝の方に振向いて、<ruby><rb>偉</rb><rt>おほ</rt></ruby>いなる名に<ruby><rb>茫然自失</rb><rt>ぼんやり</rt></ruby>してゐる。

右方には、デュマネエが、シャスポー銃に<ruby><rb>凭</rb><rt>もた</rt></ruby>れかゝり、

丸刈の<ruby><rb>襟頸</rb><rt>えりくび</rt></ruby>が、顫へわななくのを感じてゐる、

そして、『皇帝万歳！』を唱へる。その隣りの男は押黙つてゐる。

軍帽は<ruby><rb>恰</rb><rt>（あたか）</rt></ruby>も黒い太陽だ！――その真ン中に、赤と青とで彩色された

いと朴訥なボキヨンは、腹を突き出し、ドツカと立つて、

後方部隊を前に出しながら、『何のためだ？……』と云つてるやうだ。

〔一八七〇、十月〕

  


いたづら好きな女

ワニスと果物の匂ひのする、

褐色の食堂の中に、思ふ存分

名も知れぬベルギー料理を皿に盛り、

私はひどく大きい椅子に埋まつてゐた。

食べながら、<ruby><rb>大時計</rb><rt>オルロージュ</rt></ruby>の音を聞き、好い気持でジツとしてゐた。

サツとばかりに料理場の<ruby><rb>扉</rb><rt>と</rt></ruby>が開くと、

女中が出て来た、何事だらう、

とにかく下手な襟掛をして、ベルギー・レースを冠つてゐる。

そして小さな顫へる指で、

桃の肌へのその頬を絶えずさはつて、

子供のやうなその口はとンがらせてゐる、

彼女は幾つも私の近くに、皿を並べて私に媚びる。

それからこんなに、――<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>してくれと云はんばかりに――

小さな声で、『ねえ、あたし<ruby><rb>頬</rb><rt>ほつぺた</rt></ruby>に風邪引いちやつてよ……』

シヤルルロワにて、一八七〇、十月。

  


附録

  


失はれた毒薬（未発表詩）

ブロンドとまた<ruby><rb>褐</rb><rt>かち</rt></ruby>の夜々、

思ひ出は、ああ、なくなつた、

夏の<ruby><rb>綾織</rb><rt>レース</rt></ruby>はなくなつた、

手なれたネクタイ、なくなつた。

<ruby><rb>露台</rb><rt>ヷルコン</rt></ruby>の上に茶は月が、

<ruby><rb>漏刻</rb><rt>（ろうこく）</rt></ruby>が来て、のんでゆく。

いかな思ひ出のいかな<ruby><rb>脣趾</rb><rt>くちあと</rt></ruby>

ああ、それさへものこつてゐない。

青の<ruby><rb>綿布</rb><rt>めんぷ</rt></ruby>の<ruby><rb>帷幕</rb><rt>とばり</rt></ruby>の隅に

光れる、金の頭の針が

睡つた大きい昆虫のやう。

貴重な毒に浸されたその

<ruby><rb>細尖</rb><rt>ほさき</rt></ruby>よ私に笑みまけてあれ、

私の<ruby><rb>臨終</rb><rt>をはり</rt></ruby>にいりようである！

  


後記

私が<ruby><rb>茲</rb><rt>（ここ）</rt></ruby>に訳出したのは、メルキュル版千九百二十四年刊行の「アルチュル・ランボオ作品集」中、韻文で書かれたものの殆んど全部である。たゞ数篇を割愛したが、そのためにランボオの特質が失はれるといふやうなことはない。

私は随分と苦心はしたつもりだ。世の多くの訳詩にして、正確には訳されてゐるが分りにくいといふ場合が少くないのは、語勢といふものに無頓着過ぎるからだと私は思ふ。私はだからその点でも出来るだけ注意した。

出来る限り逐字訳をしながら、その逐字訳が日本語となつてゐるやうに気を付けた。

語呂といふことも大いに尊重したが、語呂のために語義を無視するやうなことはしなかつた。

★

附録とした「失はれた毒薬」は、今はそのテキストが分らない。これは大正も末の頃、或る日小林秀雄が大学の図書館か何処かから、写して来たものを私が訳したものだ。とにかく未発表詩として、その頃出たフランスの雑誌か、それともやはりその頃出たランボオに関する研究書の中から、小林が書抜いて来たのであつた、ことは覚えてゐる。――テキストを御存知の方があつたら、何卒御一報下さる様お願します。

★

いつたいランボオの思想とは？――簡単に云はう。パイヤン（異教徒）の思想だ。彼はそれを確信してゐた。彼にとつて基督教とは、多分一牧歌としての価値を有つてゐた。

さういふ彼にはもはや信憑すべきものとして、感性的陶酔以外には何にもなかつた筈だ。その陶酔を発想するといふこともはや殆んど問題ではなかつたらう。その陶酔は全一で、「地獄の季節」の中であんなにガンガン云つてゐることも、要するにその陶酔の全一性といふことが全ての全てで、他のことはもうとるに足りぬ、而も人類とは如何にそのとるに足りぬことにかかづらつてゐることだらう、といふことに他ならぬ。

繻子の色した深紅の燠よ、

それそのおまへと燃えてゐれあ

<ruby><rb>義務</rb><rt>つとめ</rt></ruby>はすむといふものだ、

つまり彼には感性的陶酔が、全然新しい人類史を生むべきであると見える程、忘れられてはゐるが貴重なものであると思はれた。彼の悲劇も喜劇も、恐らくは茲に発した。

所で、人類は「食ふため」には感性上のことなんか犠牲にしてゐる。ランボオの思想は、だから嫌はれはしないまでも容れられはしまい。勿論夢といふものは、容れられないからといつて意義を減ずるものでもない。然しランボオの夢たるや、なんと容れられ難いものだらう！

云換れば、ランボオの洞見したものは、結局「生の原型」といふべきもので、謂はば凡ゆる風俗凡ゆる習慣以前の生の原理であり、それを一度洞見した以上、忘れられもしないが又表現することも出来ない、<ruby><rb>恰</rb><rt>（あたか）</rt></ruby>も在るには在るが行き道の分らなくなつた宝島の如きものである。

もし曲りなりにも行き道があるとすれば、やつとヹルレーヌ風の楽天主義があるくらゐのもので、つまりランボオの夢を、謂はばランボオよりもうんと無頓着に夢みる道なのだが、勿論、それにしてもその夢は容れられはしない。唯ヹルレーヌには、謂はば夢みる生活が始まるのだが、ランボオでは、夢は夢であつて遂に生活とは甚だ別個のことでしかなかつた。

ランボオの一生が、恐ろしく急テムポな悲劇であつたのも、恐らくかういふ所からである。

★

終りに、訳出のその折々に、教示を乞うた小林秀雄、中島健蔵、今日出海の諸兄に、厚く御礼を申述べておく。

〔昭和十二年八月二十一日〕