Soranoha

マイクロフォン―雑感―

マイクロフォン―ざっかん―

国枝 史郎

「新青年」はすべからく「探偵小説新青年」と斯こう改題する必要がある。

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川田功氏の「砲弾を潜りて」は、日本のあらゆる戦争文学の中、第一位に置かる可べき名作であった。「尼港の怪婦人」に至っては、遺憾ながら稍やや落ちる。

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小酒井不木氏は「手術」を書いて、素人の域から飛躍した。しかし「遺伝」に至っては、学者の余技たる欠点を、露骨に現わしたものである。「犯罪文学研究」は、西洋物ほどには精彩がない。

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近代文学とは如何いかなるものか? 反逆性ある文学である。日本の探偵小説家に、反骨の無いのはウンザリものである。

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トリック、トリック! 解剖、解剖! これだけでは近代の探偵小説とは云えない。

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所謂いわゆる刑事上の罪人なるものを、真の罪人と思い込んでいるのが、探偵小説家の悪い癖である。

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ウェルシーニンの「死の爆弾」を、喝采謳歌しないような、探偵小説家はヤクザである。さすがに前田河広一郎氏は、ウェルシーニンを認めていた。

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内容を変えることが出来なかったら、せめて型でも破ってくれ。日本の探偵小説家よ。

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活動写真の筋書のような、「近頃読んだもの」は無くもがなである。

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モーリス・ルブランはお喋舌しゃべりに過ぎ、ビーストンは高踏的、チェスタートンは固い道化で、ドイルは既に古くなった。

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手淫芸術、幇間芸術、日本の探偵小説家は、その製造に忙しそうだ。

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純芸術と称せられるもの、大方無気力の書斎芸術である。本当の巷芸術は、謂いう所の大衆文芸である。そうして探偵小説は大衆文芸の一分派である。

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大衆文芸の大衆の意義は? 大は大勢の大であり、衆は民衆の衆である。そうして民衆とは第四階級の謂いいだ。果然大衆文芸とは大勢の第四階級の文芸ということになる。だが日本の探偵小説家で、ここ迄まで考えているものが果して幾人あるだろう?

底本 / Source edition

底本:「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」作品社
2005(平成17)年9月15日第1刷発行
底本の親本:「新青年」
1925(大正14)年12月
初出:「新青年」
1925(大正14)年12月
入力:門田裕志
校正:Juki
2014年4月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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国枝 史郎「マイクロフォン―雑感―──「新青年」一九二五年一二月」(新字新仮名)、底本『国枝史郎探偵小説全集 全一巻』作品社、2005年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 047282_000255, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite