Soranoha

妖異むだ言

よういむだごと

国枝 史郎

幽霊の中で好いものは、牡丹燈籠のお米である。牡丹燈籠を下げて主人を案内して、恋の仲介をするあたりは、人情があって面白い。

不快な幽霊は小幡小平次で、気の毒な幽霊は小仏小平であろう。

滑稽な化物は唐傘の一本足で、愛嬌のあるのは一ツ目小僧が、大阪の子供に人気のあるのは、酒を買いに行く豆狸である。

路傍で見て凄いのは流灌頂。

妖怪画で面白いのは「百鬼夜行」で、特に光信のそれがよい。狩野芳崖の鷲の「絵」なども、一種の妖怪画と云ってよい。

美しい幽霊は雪女郎で、泉鏡花さんのお書きになるところの、いろいろの幽霊も美しい。喜多村丈の好む以上に、私も鏡花さんの幽霊を好む。

姑護女という幽霊には同情される。只ただ何んとなく同情される。

出いず可べくして出でたと思われるのは、佐倉宗五郎の幽霊である。

根津某の幽霊も宗五郎の幽霊と似たような意味で、その出現は有意味である。

化物の中での豪傑は、おそらく三本五郎左衛門であろう。天狗の一種だということであるが、衆をひきいて山嶽を渡って、大移動をするのは痛快である。

菅公を幽霊に化したのは、物語作者の悪趣味である。菅公はすがすがしく保つ可きである。こういう悪趣味の物語作者は、軍神広瀬中佐などをも、やがては幽霊に化かすだろう。

オスカ・ワイルドの書いた所の「カンタビィルの幽霊」は保守主義者であり貴族主義者である。だからすっかり滑稽化せられた。「クリスマス・カロル」に出る幽霊は、一種の平凡な哲学者である。

花の妖なるものは曼珠沙華であろう。

人の妖なるものは、平賀源内で、山師で新智識で不平家で、文学者で俗物で哲学者で、そうして立派な男色家であろう。

型タイプ化された幽霊は、謡曲中の幽霊である。終しまいには懺悔をし成仏をする。諦めのいい幽霊と言わなければならない。

妖怪文学での白眉といえば小泉八雲の「轆轤首」であって決して「耳なし法師」では無い。

巴のはじまりは眉間尺である。図案化された化物と云えよう。

「四谷怪談」で恐ろしいのは、お岩でもなければ小平でも無い。群れて現われる鼠である。

よき春画には幽霊味があり、よき宝石にも幽鬼味がある。

何んとなく好きな妖怪といえば、官女姿の刑部明神で、荘重で典雅で色っぽい。

どんな幽霊でも化物でも、人間の形に則のっとるのは、不思議なようで不思議で無い。幽霊や化物を創造つくり出した者が、その人間であるのだから。こういう意味から云う時も、人間というものは利己的なものだ。自己により近い存在で無ければ、決して是認しようとしない。

新幽霊談の創造は、現代人にはむずかしい。と云うのは立派な幽霊談が、過去にあるからと云うのでは無い。過去の幽霊談に心酔し、とらわれ過ぎているからである。

荒唐無稽を狙っていては、新幽霊談は作れない。尋常な理詰めを心掛けた時に、新幽霊談は創造出来る。

日本の古典で鬼気のあるのは、枕草子を以もって最とする。

建築では奈良の南国堂か?

大地を割ってはじめて出た、植物の双葉というようなものには、幽霊のような凄味がある。

底本 / Source edition

底本:「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」作品社
2005(平成17)年9月15日第1刷発行
底本の親本:「探偵趣味」
1928(昭和3)年3月
初出:「探偵趣味」
1928(昭和3)年3月
入力:門田裕志
校正:きゅうり
2018年9月28日作成
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書誌 / Bibliography
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国枝 史郎「妖異むだ言」(新字新仮名)、底本『国枝史郎探偵小説全集 全一巻』作品社、2005年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 047271_000255, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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