１　Ver erat

春であつた、オルビリウスは<ruby><rb>羅馬</rb><rt>（ローマ）</rt></ruby>で病ひに苦しんでゐた

彼は身動きも出来なかつた、無情な教師、彼の剣術は中止されてゐた

その打合ひの<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>は、我が耳を<ruby><rb>聾</rb><rt>（ろう）</rt></ruby>さなかつた

木刀は、打続く痛みを以つて我が四肢をいためることをやめてゐた。

<ruby><rb>機</rb><rt>をり</rt></ruby>もよし、私は和やかな田園に<ruby><rb>赴</rb><rt>はし</rt></ruby>つた

全てを<ruby><rb>忘</rb><rt>ばう</rt></ruby>じ……転地と懸念のなさとで

柔らかい欣びは研究に倦んじた我が精神を休めるのであつた。

云ふべからざる満足に充たされ、我が心は無味乾燥の学校を忘れ、彼、教師の魅力なき学課を忘れ、私ははるかな<ruby><rb>野面</rb><rt>のづら</rt></ruby>を見遣り、春の大地のおもしろき、幻術を観るに余念なかつた。

子供の私は、かの田園の逍遥なぞと、<ruby><rb>洒落</rb><rt>しやれ</rt></ruby>ることこそなかつたけれど

小さな我が心臓は、いと<ruby><rb>気高</rb><rt>けだか</rt></ruby>き渇望に膨らむでゐた

如何なる聖霊が我が<ruby><rb>昂</rb><rt>たか</rt></ruby>ぶれる五感にまで

翼を与へたか私は知らぬが、押黙つた歎賞を以て

我が眼は諸々の光景を打眺め、我が胸の<ruby><rb>裡</rb><rt>うち</rt></ruby>に

やさしき田園への愛惜は忍び入るのであつた。マニヱジイの磁石が或る見えざる力に因つて、音もなくありともわかぬ<ruby><rb>鉤</rb><rt>かぎ</rt></ruby>もて寄する、かの鉄環の如くであつた。

それにしても私の<ruby><rb>四肢</rb><rt>てあし</rt></ruby>は、我が浮浪の幾<ruby><rb>歳月</rb><rt>としつき</rt></ruby>に衰へてゐたので、

私は緑色なす川の岸辺に身をば横たへ、

たをやけきそが呟きのまにまにまどろみ、怠惰のかぎりに

鳥らの楽音、<ruby><rb>風神</rb><rt>ふうしん</rt></ruby>の<ruby><rb>息吹</rb><rt>いぶ</rt></ruby>きに揺られてゐた。

さて雌鳩らは谷間の空に飛びかよひ

そが白き群は、シイプルの園に、ヴェニュスが摘みし

薫れりし花の冠を<ruby><rb>咬</rb><rt>くは</rt></ruby>へてゐた。

雌鳩らは、静かに飛んで、我が寝そべつてゐる

芝生の方までやつて来て、私のまはりに<ruby><rb>羽搏</rb><rt>（はばた）</rt></ruby>いて

私の<ruby><rb>頭</rb><rt>かうべ</rt></ruby>を取囲み、我が双の手を

草花の鎖で以て<ruby><rb>縛</rb><rt>いまし</rt></ruby>めた。又、<ruby><rb>顳顬</rb><rt>こめかみ</rt></ruby>を

薫り佳き桃金嬢もて飾り付け、さて<ruby><rb>軽々</rb><rt>かろがろ</rt></ruby>と私を空に連れ去つた

彼女らは雲々の<ruby><rb>間</rb><rt>あひだ</rt></ruby>を抜けて、薔薇の葉に

<ruby><rb>仮睡</rb><rt>まどろ</rt></ruby>みゐたりし私を運び、風神は、

そが<ruby><rb>息吹</rb><rt>いぶ</rt></ruby>きもてゆるやかに、我がささやかな<ruby><rb>寝台</rb><rt>とこ</rt></ruby>をあやした。

鳩ら生れの棲家に到るや

即ち迅き飛翔もて、<ruby><rb>高山</rb><rt>たかやま</rt></ruby>に懸かるそが宮殿に入るとみるや、

彼女ら私を打棄てて、目覚めた私を置きざりにした。

おお、小鳥らのやさしい<ruby><rb>塒</rb><rt>ねぐら</rt></ruby>！……目を射る光は

我が肩のめぐりにひろごり、我が総身はそが聖い光で以て纏はれた。

その光といふのは、影をまじへ、我らが瞳を曇らする

そのやうな光とは<ruby><rb>凡</rb><rt>おほよ</rt></ruby>そ<ruby><rb>異</rb><rt>ちが</rt></ruby>ひ、

その清冽な原質は此の世のものではなかつたのだ。

天界の、それがなにかはしらないが或る<ruby><rb>神明</rb><rt>しんめい</rt></ruby>が、

私の胸に充ちて来て大浪のやうにただようた。

やがて鳩らはまたやつて来た、<ruby><rb>嘴々</rb><rt>くちぐち</rt></ruby>に

調べ佳き合唱を、<ruby><rb>指</rb><rt>および</rt></ruby>もて指揮するを喜んだ

アポロンのそれに似た、月桂樹編んで造れる冠<ruby><rb>携</rb><rt>たづさ</rt></ruby>へ。

さて鳩らそを我が<ruby><rb>額</rb><rt>ぬか</rt></ruby>に<ruby><rb>被</rb><rt>かづ</rt></ruby>けるとみるや

空は<ruby><rb>展</rb><rt>ひら</rt></ruby>かれ、めくるめく我が<ruby><rb>眼</rb><rt>め</rt></ruby>には、

フヱビュス親しく雲の上、黄金の雲の上、飛び翔けり舞ふが見られた。

フヱビュスは我が上にそが神聖な腕を伸べ、

又頭の上には、天上の炎もて

｟<ruby><rb>汝</rb><rt>なんぢ</rt></ruby>詩人たるべし！｠と<ruby><rb>記</rb><rt>しる</rt></ruby>した。すると我が四肢に

異常の温暖は昇り来り、そが清澄もて光り耀く

清らの泉は太陽の光に<ruby><rb>炎</rb><rt>（も）</rt></ruby>え立つた。

<ruby><rb>扨</rb><rt>（さて）</rt></ruby>も鳩ら<ruby><rb>先刻</rb><rt>さき</rt></ruby>にせる姿を改め、

<ruby><rb>美神</rb><rt>ヹニュス</rt></ruby>等<ruby><rb>合唱隊</rb><rt>コーラス</rt></ruby>を<ruby><rb>作</rb><rt>な</rt></ruby>し優しき声もて歌を唱へば

鳩らそが腕に私を抱きとり、空の方へと連れ去つた

<ruby><rb>三度</rb><rt>みたび</rt></ruby>｟汝、詩人たるべし！｠と呼び、<ruby><rb>三度</rb><rt>みたび</rt></ruby>我が<ruby><rb>額</rb><rt>ぬか</rt></ruby>を月桂樹もて<ruby><rb>装</rb><rt>よそほ</rt></ruby>うて、空の方へと連れ去つた。

千八百六十八年十一月六日

シャルルヴィル公立中学通学生

ランボオ・アルチュル

シャルルヴィルにて、千八百五十四年十月二十日生

  


２　天使と子供

ながくは待たれ、すみやかに、忘れ去られる新年の

子供等喜ぶ元日の日も、<ruby><rb>茲</rb><rt>（ここ）</rt></ruby>に終りを告げてゐた！

<ruby><rb>熟睡</rb><rt>うまい</rt></ruby>の<ruby><rb>床</rb><rt>とこ</rt></ruby>に埋もれて、子供は眠る

<ruby><rb>羽毛</rb><rt>はね</rt></ruby>しつらへし<ruby><rb>揺籠</rb><rt>ゆりかご</rt></ruby>に

音の出るそのお<ruby><rb>舐子</rb><rt>しやぶり</rt></ruby>は置き去られ、

子供はそれを幸福な夢の裡にて思ひ出す

その母の年玉貰つたあとからは、天国の小父さん達からまた貰ふ。

笑ましげの<ruby><rb>脣</rb><rt>くち</rt></ruby>そと開けて、唇を半ば動かし

神様を呼ぶ心持。枕許には天使立ち、

子供の上に身をかしげ、<ruby><rb>無辜</rb><rt>（むこ）</rt></ruby>な心の呟きに耳を傾け、

ほがらかなそれの額の喜びや

その魂の喜びや。南の風のまだ触れぬ

此の花を褒め讃へたのだ。

｟此の子は私にそつくりだ、

空へ一緒に行かないか！　その天上の王国に

おまへが夢に見たといふその宮殿はあるのだよ、

おまへはほんとに立派だね！　地球<ruby><rb>住</rb><rt>ずま</rt></ruby>ひは沢山だ！

地球では、<ruby><rb>真</rb><rt>しん</rt></ruby>の勝利はないのだし、まことの<ruby><rb>幸</rb><rt>さち</rt></ruby>を<ruby><rb>崇</rb><rt>（あが）</rt></ruby>めない。

花の薫りもなほにがく、騒がしい人の心は

哀れなる喜びをしか知りはせぬ。

曇りなき<ruby><rb>怡</rb><rt>（よろこ）</rt></ruby>びはなく、

<ruby><rb>不慥</rb><rt>（ふたし）</rt></ruby>かな笑ひのうちに涙は光る。

おまへの純な額とて、浮世の風には萎むだらう、

憂き苦しみは蒼い眼を、涙で以て濡らすだらう、

おまへの顔の薔薇色は、死の影が来て逐ふだらう。

いやいやおまへを伴れだつて、私は空の国へ行かう、

すればおまへのその声は天の<ruby><rb>御国</rb><rt>みくに</rt></ruby>の住民の佳い音楽にまさるだらう。

おまへは浮世の人々とその<ruby><rb>騒擾</rb><rt>どよもし</rt></ruby>を避けるがよい。

おまへを此の世に繋ぐ糸、今こそ神は断ち給ふ。

ただただおまへの母さんが、喪の悲しみをしないやう！

その揺籃を見るやうにおまへの<ruby><rb>柩</rb><rt>（ひつぎ）</rt></ruby>も見るやうに！

流る涙を打払ひ、葬儀の時にもほがらかに

手に一杯の百合の花、捧げてくれればよいと思ふ

げに汚れなき人の子の、最期の日こそは飾らるべきだ！｠

いちはやく天使は翼を薔薇色の、子供の脣に近づけて、

ためらひもせず空色の翼に載せて

魂を、摘まれた子供の魂を、至上の国へと運び去る

ゆるやかなその羽搏きよ……揺籃に、残れるははや五体のみ、なほ美しさ漂へど

息づくけはひさらになく、<ruby><rb>生命</rb><rt>いのち</rt></ruby>絶えたる<ruby><rb>亡骸</rb><rt>なきがら</rt></ruby>よ。

そは死せり！……さはれ<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづけ</rt></ruby>脣の<ruby><rb>上</rb><rt>へ</rt></ruby>に、今も薫れり、

笑ひこそ今はやみたれ、母の名はなほ脣の<ruby><rb>辺</rb><rt>へ</rt></ruby>に波立てる、

<ruby><rb>臨終</rb><rt>いまは</rt></ruby>の時にもお年玉、思ひ出したりしてゐたのだ。

なごやかな眠りにその眼は閉ぢられて

なんといはうか死の誉れ？

いと清冽な輝きが、額のまはりにまつはつた。

地上の子とは思はれぬ、天上の子とおもはれた。

如何なる涙をその上に母はそそいだことだらう！

親しい我が子の<ruby><rb>奥津城</rb><rt>（おくつき）</rt></ruby>に、流す涙ははてもない！

さはれ夜<ruby><rb>闌</rb><rt>た</rt></ruby>けて眠る時、

薔薇色の、天の<ruby><rb>御国</rb><rt>みくに</rt></ruby>の<ruby><rb>閾</rb><rt>しきみ</rt></ruby>から

小さな天使は顕れて、

<ruby><rb>母</rb><rt>かあ</rt></ruby>さんと、しづかに呼んで喜んだ！……

母も亦<ruby><rb>微笑</rb><rt>ほゝゑ</rt></ruby>みかへせば……小天使、やがて空へと<ruby><rb>辷</rb><rt>（すべ）</rt></ruby>り出で、

雪の翼で舞ひながら、母のそばまでやつて来て

その<ruby><rb>脣</rb><rt>くち</rt></ruby>に、天使の<ruby><rb>脣</rb><rt>くち</rt></ruby>をつけました……

千八百六十九年九月一日

ランボオ・アルチュル

シャルルヴィルにて、千八百五十四年十月二十日生

  


３　エルキュルとアケロユス河の戦ひ

嘗て水に膨らむだアケロユスの河は氾濫し、

谷間に入つて<ruby><rb>迸</rb><rt>（ほとばし）</rt></ruby>り、その騒擾いはんかたなく、

そが浪に畜群と稔りよき収穫を薙ぎ倒し、

人家悉く潰滅し、みはるかす<ruby><rb>田畠</rb><rt>でんぱた</rt></ruby>は砂漠と化した。

かくてニムフはその谷を去り、

フォーヌ合唱隊亦鳴りを静め、

人々は唯手を<ruby><rb>拱</rb><rt>こまぬ</rt></ruby>いて河の怒りを眺めてゐた。

此の有様をみたエルキュルは、憐憫の思ひに駆られ、

河の怒りを鎮めむものと巨大な<ruby><rb>躯</rb><rt>み</rt></ruby>をば<ruby><rb>跳</rb><rt>をど</rt></ruby>らせて、

逞しい双腕に泡立つ浪を逐ひまくし、

そがもとの河床に治まるやうに努めたのだ。

<ruby><rb>制</rb><rt>おさ</rt></ruby>へられたる河浪は、怒濤をなして呟きながらも、

やがて<ruby><rb>蜿蜒</rb><rt>（ゑんえん）</rt></ruby>たるもとの姿にかへつたが、

河は<ruby><rb>息切</rb><rt>いきぎ</rt></ruby>れ、<ruby><rb>歯軋</rb><rt>はぎし</rt></ruby>りし、そが蒼曇る背をのたくらし、

そが<ruby><rb>険呑</rb><rt>けんのん</rt></ruby>な尾で以て<ruby><rb>荒</rb><rt>すが</rt></ruby>れた岸を打つてゐた。

エルキュルは再び身をば投入れて、腕をもて河の頸をば締めつけた、その抵抗も物の数かは

河は懲され、エルキュルは、その上に、大木の幹を振り<ruby><rb>翳</rb><rt>かざ</rt></ruby>し、

ひつぱたきひつぱたく、河は瀕死の<ruby><rb>態</rb><rt>てい</rt></ruby>となり砂原の上にのめされた。

扨エルキュルは立直り、｟此の腕前を知らんかい、たはけ<ruby><rb>奴</rb><rt>め</rt></ruby>が！

我猶揺籃にありし頃、二頭の<ruby><rb>竜</rb><rt>ドラゴン</rt></ruby>打つて取つたる

かの時既に鍛へたる此の我が腕を知らんかい！……｠

河は慚愧に顛動し、覆へされたる栄誉をば、

思へば胸は悲痛に<ruby><rb>滾</rb><rt>たぎ</rt></ruby>ち、跳ねて狂へば

獰猛の<ruby><rb>眼</rb><rt>まなこ</rt></ruby>は炎と燃え<ruby><rb>熾</rb><rt>さか</rt></ruby>り、角は突つ立ち風を切り、

<ruby><rb>咆</rb><rt>（ほ）</rt></ruby>ゆれば天も<ruby><rb>顫</rb><rt>（ふる）</rt></ruby>へたり。

エルキュルこれを見ていたく笑ひて

ひつ捉へ、振り廻し、<ruby><rb>痙攣</rb><rt>ひきつけ</rt></ruby>はじめしその五体

<ruby><rb>鞺</rb><rt>（たう）</rt></ruby>とばかりに投げ出だし、膝にて頸をば圧へ付け、

腰に<ruby><rb>咽喉</rb><rt>のど</rt></ruby>をば敷き据ゑて、打ち叩き打ち叩き

力の限りに懲しめば、やがては河も悶絶す。

息を絶えたる怪物に、勇ましきかなエルキュルは、

打<ruby><rb>跨</rb><rt>（またが）</rt></ruby>つて血濡れたる、額の角を引抜いて、茲に捷利を完うす。

かくてフォーヌやドリアード、ニムフ姉妹の<ruby><rb>合唱隊</rb><rt>コーラス</rt></ruby>は、

減水と富源のために働いた、彼等が勇士の愉しげに

今は木蔭に憩ひつつ、

古き捷利を思ひ合はする勇士に近づき、

かろやかに彼のめぐりをとりかこみ、

花の冠・葉飾りを、それの額に<ruby><rb>冠</rb><rt>かづ</rt></ruby>けたり。

さて皆の者、彼の近くにころがりゐたりし

かの角をばその手にとらせ、血に濡れたその戦利品をば

美味な果実と薫り佳き花々をもて飾つたのだ。

千八百六十九年九月一日

シャルルヴィル公立中学通学生

ランボオ・アルチュル

  


４　ジュギュルタ王

諸世紀を通じ、神は此の者をば、

折々此の世に降し給ふ……

バルザック書簡。

Ⅰ

彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は<ruby><rb>健</rb><rt>すこや</rt></ruby>かに

<ruby><rb>軟風</rb><rt>そよかぜ</rt></ruby>の云ふを聞けば、｟これはこれジュギュルタが孫！……｠

やがては国のため人民のため、大ジュギュルタ王とはならん此の者が、

いたいけなりし或る日のこと、

来るべき日の大ジュギュルタの幻影は、

その両親のゐる前で、此の子の上に顕れて、

その境涯を述べた後、さて次のやうに語つた

｟おお我が祖国よ！　おお我が労苦に護られし国土よ！……｠と

その声は、寸時、風の神に<ruby><rb>障</rb><rt>さまた</rt></ruby>げられて杜切れたが……

｟嘗て悪漢の巣窟、不純なりし羅馬は、

そが狭隘の四壁を<ruby><rb>毀</rb><rt>こぼ</rt></ruby>ち、<ruby><rb>雪崩</rb><rt>なだ</rt></ruby>れ出で、兇悪にも、

そが近隣諸国を併合した。

それより漸く諸方に進み、やがては世界を我が<ruby><rb>有</rb><rt>もの</rt></ruby>とした。

国々は、その圧迫を<ruby><rb>逃</rb><rt>のが</rt></ruby>れんものと、

競ふて武器を執りはしたが、

空しく流血するばかり。

彼等に<ruby><rb>優</rb><rt>まさ</rt></ruby>りし羅馬の軍は、

盟約不賛の諸国をば、その<ruby><rb>民</rb><rt>たみ</rt></ruby>等をば攻め立てた。

彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は<ruby><rb>健</rb><rt>すこや</rt></ruby>かに

<ruby><rb>軟風</rb><rt>そよかぜ</rt></ruby>の云ふを聞けば、｟これはこれジュギュルタが孫！……｠

我、久しきより羅馬の民は、<ruby><rb>気高</rb><rt>けだか</rt></ruby>き<ruby><rb>魂</rb><rt>たま</rt></ruby>を持てると信ぜり、

さはれ成人するに及びて、よくよく見るに

そが胸には、大いなる傷、口を開け、

そが四肢には、有毒な物流れたり。

それや黄金の崇拝！……そは彼等武器執る手にも現れゐたり！……

<ruby><rb>穢</rb><rt>けが</rt></ruby>れたるかの都こそ、世界に君臨しゐたるかと、

よい<ruby><rb>力試</rb><rt>ちからだめ</rt></ruby>し、我こそはそを打倒さんと決心し、世界を統べるその民を、爾来白眼、以て注視を怠らず！……

彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は<ruby><rb>健</rb><rt>すこや</rt></ruby>かに

<ruby><rb>軟風</rb><rt>そよかぜ</rt></ruby>の云ふを聞けば、｟これはこれジュギュルタが孫！……｠

当時羅馬はジュギュルタが事に、

介入せんとは企てゐたり、我は

迫りくるそが<ruby><rb>縄目</rb><rt>なはめ</rt></ruby>をば見逃さざりき。立つて羅馬を討たんとは決意せり

かくて我日夜悶々、辛酸の極を<ruby><rb>甞</rb><rt>（な）</rt></ruby>めたり！

おお我が民よ！　我が戦士！　わが聖なる<ruby><rb>下々</rb><rt>しもじも</rt></ruby>の者よ！

羅馬、かの至大の女王、世界の誇り、

かの<ruby><rb>土</rb><rt>ど</rt></ruby>は、やがてぞ我が手に瓦解しゆかん。

おお如何に、我等羅馬のかの傭兵、ニュミイド<ruby><rb>人</rb><rt>びと</rt></ruby>等を<ruby><rb>嗤</rb><rt>（わら）</rt></ruby>ひしことぞ！

此の蛮民等はジュギュルタが、あらゆる<ruby><rb>隙</rb><rt>すき</rt></ruby>に乗ぜんとせり

当時世に、彼等に手向ふものとてなかりし！……

彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は<ruby><rb>健</rb><rt>すこや</rt></ruby>かに

<ruby><rb>軟風</rb><rt>そよかぜ</rt></ruby>の云ふを聞けば、｟これはこれジュギュルタが孫！……｠

我こそは羅馬の国土に乗り込めり、

その都までも。ニュミイドよ！　<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>が額に

我<ruby><rb>平手打</rb><rt>ひらてうち</rt></ruby>を<ruby><rb>啖</rb><rt>くら</rt></ruby>はせり、我は<ruby><rb>汝等</rb><rt>なれら</rt></ruby>傭兵ばらを物の数とも思はざり。

茲にして彼等久しく忘れゐたりし武器を執り、

我亦立つて之に向へり。我は捷利を思はざり、

唯に羅馬に拮抗せんことこそ思へり！

河に拠り、<ruby><rb>巌嶮</rb><rt>いはほ</rt></ruby>に拠りて、我敵軍に対すれば、

敵<ruby><rb>勢</rb><rt>ぜい</rt></ruby>は、リビイの<ruby><rb>砂原</rb><rt>すなはら</rt></ruby>、<ruby><rb>或</rb><rt>ある</rt></ruby>はまた、丘上の角面堡より攻めんとす。

敵軍の血はわが野山蔽ひつつ、

我がなみならぬ頑強に、四分五裂となりやせり……

彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は<ruby><rb>健</rb><rt>すこや</rt></ruby>かに

<ruby><rb>軟風</rb><rt>そよかぜ</rt></ruby>の云ふを聞けば、｟これはこれジュギュルタが孫！……｠

｟恐らくは我敵<ruby><rb>方</rb><rt>かた</rt></ruby>の、歩兵隊をも敗りたらむを……

此の時ボキュスが裏切りに遇ひ……思ひ返すも<ruby><rb>徒</rb><rt>あだ</rt></ruby>なれど、

されば我、<ruby><rb>祖国</rb><rt>くに</rt></ruby>も王位も棄て去りて、

羅馬に<ruby><rb>謀反</rb><rt>むほん</rt></ruby>をせしといふ、ことに甘んじてゐたりけり。

さても今<ruby><rb>復</rb><rt>また</rt></ruby>フランスは、アラビヤの、都督を<ruby><rb>伐</rb><rt>（う）</rt></ruby>ちて誇れるも……

<ruby><rb>汝</rb><rt>なんぢ</rt></ruby>、我が子よ、<ruby><rb>汝</rb><rt>いまし</rt></ruby>もし、此の難関に処しも得ば、

<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>こそはげにそのかみの、我がため仇を報ずなれ。いざや戦へ！

<ruby><rb>去</rb><rt>い</rt></ruby>にし日の、我等が勇気、今は<ruby><rb>汝</rb><rt>な</rt></ruby>が、心に抱き進めかし、

<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>等が<ruby><rb>剣</rb><rt>つるぎ</rt></ruby>振り翳せ！　ジュギュルタをこそ胸に秘め、

居並ぶ敵を押返し！　国の為なり血を流せ！

おお、アラビヤの獅子共も、此の戦ひに参ぜかし！

鋭き<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>等が牙をもて、敵の軍勢裂きもせよ！

<ruby><rb>栄</rb><rt>さかえ</rt></ruby>あれ！　神冥の加護<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>にあれ！

アラビヤの恥、<ruby><rb>雪</rb><rt>そゝ</rt></ruby>げかし！……｠

かくて幻影消えゆけば、幼な子は、青竜刀の<ruby><rb>玩具</rb><rt>おもちや</rt></ruby>もて、遊び興じてゐたりけり……

Ⅱ

ナポレオン！　おお！　ナポレオン！（１）　此の今様のジュギュルタは、

打負かされて、縛られて、<ruby><rb>幽閉</rb><rt>おしこ</rt></ruby>められて暮したり！

茲にジュギュルタ<ruby><rb>更</rb><rt>あらた</rt></ruby>めて、夢の<ruby><rb>容姿</rb><rt>かたち</rt></ruby>にあらはれて

此の今様のジュギュルタにいとねむごろに云へるやう、

｟新らしき神に来れかし！　汝が災害を忘れかし、

佳き<ruby><rb>年</rb><rt>とし</rt></ruby>今やめぐり来て、フランス<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>を解放せん……

<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>は見るべし、フランスの治下に栄ゆるアルジェリア！……

<ruby><rb>汝</rb><rt>なれ</rt></ruby>は容るべし、寛大の、このフランスの条約を、

世に並びなき信仰と、正義の司祭フランスの……

愛せよ、汝がジュギュルタを、心の限り愛すべし

さてジュギュルタが命数を、つゆ忘れずてありねかし

註（１）アムボワーズの城に幽閉されたりしアブデルカデルは　ナポレオン三世の手によりて釈放されたり　時に千八百五十二年

Ⅲ

これぞこれ、<ruby><rb>汝</rb><rt>な</rt></ruby>に顕れしアラビヤが<ruby><rb>祖国</rb><rt>くに</rt></ruby>の<ruby><rb>精神</rb><rt>こころ</rt></ruby>ぞ！｠

千八百六十九年七月二日

シャルルヴィル公立中学通学生

ランボオ・ジャン・ニコラス・アルチュル

  


５　Tempus erat

その頃イエスはナザレに棲んでゐた。

成長に従つて徳も亦漸く成長した。

或る朝、村の家々の、屋根が薔薇色になり<ruby><rb>初</rb><rt>そ</rt></ruby>める頃、

父ジョゼフが目覚める迄に、父の仕事を仕上げやらうと思ひ立ち、

まだ誰も、起きる者とてなかつたが、彼は寝床を抜け出した。

早くも彼は仕事に向ひ、その<ruby><rb>面容</rb><rt>おもざし</rt></ruby>もほがらかに、

大きな<ruby><rb>鋸</rb><rt>（のこ）</rt></ruby>を押したり引いたり、

その幼い手で、多くの板を挽いたのだつた。

<ruby><rb>遐</rb><rt>とほ</rt></ruby>く、高い山の上に、やがて太陽は現れて、

その<ruby><rb>眩</rb><rt>まぶ</rt></ruby>しい光は、貧相な窓に射し込んでゐた。

牛飼達は牛を<ruby><rb>牽</rb><rt>ひ</rt></ruby>き、牧場の方に歩みながら、

その幼い働き手を、その朝の仕事の物音を、てんでに褒めそやしてゐた。

｟あの子はなんだらう、と彼等は云つた。

綺麗にも綺麗だが、由々しい顔をしてゐるよ。力は腕から迸つてゐる。

若いのに、杉の木を、上手にこなしてゐるところなぞ、まるでもう一人前だ。

昔イラムがソロモンの前で、

大きな杉やお寺の<ruby><rb>梁</rb><rt>はり</rt></ruby>を、

上手に挽いたといふ時も、此の子程熱心はなかつただらう。

それに此の子のからだときたら、葦よりまつたくよくまがる。

<ruby><rb>鉞</rb><rt>まさかり</rt></ruby>使ふ手<ruby><rb>許</rb><rt>もと</rt></ruby>ときたら、狂ひつこなし。｠

此の時イエスの母親は、鋸切の音に目を覚まし、

起き出でて、静かにイエスの傍に来て、黙つて、

大きな板を扱ひ兼ねた様子をば、さも不安げに目に留めた。

唇をキツト結んで、その<ruby><rb>眼眸</rb><rt>まなざし</rt></ruby>で<ruby><rb>庇</rb><rt>かば</rt></ruby>ふやうに、暫くその子を眺めてゐたが。

やがて何かをその唇は呟いた。

涙の裡に笑ひを浮かべ……

するとその時鋸が折れ、子供の指は怪我をした。

彼女は自分のま白い着物で、真ツ紅な血をば拭きながら、

軽い叫びを上げた、とみるや、

彼は自分の指を引つ込め、着物の下に匿しながら、

強ひて笑顔をつくろつて、<ruby><rb>一言</rb><rt>ひとこと</rt></ruby>母に何かを云つた。

母は子供にすり寄つて、その指を揉んでやりながら、

ひどく溜息つきながら、その柔い手に<ruby><rb>接唇</rb><rt>くちづ</rt></ruby>けた。

顔は涙に濡れてゐた。

イエスはさして、驚きもせず、｟どうして、母さん泣くのでせう！

ただ鋸の歯が、一寸<ruby><rb>擦</rb><rt>かす</rt></ruby>つただけですよ！

泣く程のことはありません！｠

彼は再び仕事を始め、母は黙つて

蒼ざめて、俯き<ruby><rb>顔</rb><rt>かほ</rt></ruby>に案じてゐたが、

再びその子に眼を遣つて、

｟神様、聖なる<ruby><rb>御心</rb><rt>みこころ</rt></ruby>の、成就致されますやうに！｠

千八百七十年

ア・ランボオ