Soranoha

石

いし

平山 千代子

私の家に門から玄関まで、ずつと石が敷いてある。

私は、始めは土をふんで歩いた。その頃からこの石とはお馴染である。何度この石につまづいて、口惜しい思ひをしただらう。

「こんな邪魔な石! どけちやえばいゝのに……」と、けとばして見たことも何度かあつた。

この憎まれたり、けとばされたりした、沢山の石の中に、私の好きな石が二つある。一つは玄関近くにあつて、少し青味がかつた……丁度、青磁のやうな色をした、大きい石で、そのきれいな色、なめらかなつやが私の心を牽いた。

もう一つは丁度、門と玄関との中間に位し、割合に四角く、やはり青ツぽい色をしてゐる。

春はつゝじの花びらをうけ、夏は水引草の小さい花の赤さと調和して、尚更、美しく私の心をとらへた。

私にはこれらの石が、とてもきれいに見えたのである。毎朝の往復にもこの石だけは、わざ〱よけて通つた。この石の青さを汚すのが惜しい様な気がして、ふむのにしのびなかつたのである。

夏になると、水まきの時などよくたわし、でこの石をみがいて、その青さに一種の驚きに近い喜びをおぼえた。ジヤンケンとびをする時も、この石だけはふむのが惜しくて、内しよでよけたものである。

少し大きくなつてからは、この石をとびこした。が、困る事には、玄関に近い石の隣りがやはり二番目に私の好きな石なのである。どつちもふみたくない。

早く二つとも、跳びこせる様に大きくなりたいと、何度か練習したものだが、今では二つ位はヘイチヤラで、跳ばうと思へば三つでもとべる様になつた。

かうして、かつては私に可愛いがられたこの石も、今ではちつとも他の石と変らなくなつてゐる。

底本 / Source edition

底本:「みの 美しいものになら」四季社
1954(昭和29)年3月30日初版発行
1954(昭和29)年4月15日再版発行
入力:鈴木厚司
校正:林 幸雄
2008年2月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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平山 千代子「石」(新字旧仮名)、底本『みの 美しいものになら』四季社、1954年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 047156_001292, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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