Soranoha

ドン

ドン

夢野 久作、海若 藍平

たいそうあたたかくなりました。

猫が久し振りにあたたかくなったので縁側に出て見ると、縁側の鉢の中にいる金魚が五、六匹チラチラしています。これは占めた、どうかして取って食べてやろうと思ってジッと鉢の中を狙いました。

犬がこれを見つけて、これはうまいと思いました。ふだんから憎らしいと思う猫が今日は全く気がつかずにいる。今度こそは引っ捕えてひどい目に合わせて遣ろうと、猫に気のつかぬようにそっとうしろから忍び寄りました。

二階の窓から坊ちゃんがこれを見つけて、あの憎らしい犬が又猫をいじめてやろうとしている。今日こそは勘弁しないぞと、空気銃にバラ玉を込めて犬のお尻の処をジット狙いました。

その時お父さまがこれを見つけて、又坊やがいたずらをしている。よその犬に怪我をさせては大変だ。よしよし捕まえて懲こらして遣ろうと、ぬき足さし足うしろから近寄ってお出でになりました。

室の隅で縫い物をしていらっしたお母様はお父様の様子に気がついて、どうしたのかと思って窓の外を見ると、猫は金魚をねらい、犬は猫のすぐ後に近寄り、坊ちゃんは犬のお尻を狙って引き金を引こうとし、お父様は坊ちゃんの襟を捕まえようとしておられます。うっかりすると金魚も猫も犬も坊ちゃんもみんなひどい目に合いそうです。お母様はどうしてよいやらわからなくなりました。

その時にすぐ近所の砲台で耳も裂ける位大きなドンが鳴りました。

金魚は驚いて石の下へ逃げ込みました。

猫はガッカリしてうしろをふり返ると、犬がすぐ足もとにいたので驚いて家の中へ逃げ込みました。

犬はしまったと思って縁側に飛び上ると、空気銃の弾丸が尻尾のさきをカスッたので驚いて逃げて行きました。

坊ちゃんはガッカリしてうしろを見ますと、お父様が怖い顔をして立っておられたので、

「あれ。堪忍して頂戴」

と言うなりに空気銃を投げ出して逃げて行きました。

「アハハハハハ」

とお父様はお笑いになりました。

お母様はホッとしました。

それから間もなく金魚は餌えを投げて貰いました。

猫も犬も御飯をいただきました。

その時お父様もお母様も坊ちゃんも楽しいお昼の御飯を食べていました。

底本 / Source edition

底本:「夢野久作全集7」三一書房
1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「九州日報」
1923(大正12)年3月7日
※底本の解題によれば、初出時の署名は「海若藍平」です。
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年7月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/046715_000096/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/046715_000096/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/046715_000096/

夢野 久作、海若 藍平「ドン」(新字新仮名)、底本『夢野久作全集7』三一書房、1970年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 046715_000096, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite