Soranoha

雪子さんの泥棒よけ

ゆきこさんのどろぼうよけ

夢野 久作

夜中に雨戸のところでゴリゴリと音が始まりました。家中で雪子さんがたった一人眼をさまして、何だろうと思いました。鼠ではなく、どうしても人間が何かしているとしか思われませんでした。雪子さんは急いでお父さんとお母さんをゆすり起しましたが、なかなかお起きになりません。そのうちにゴリゴリと物を削る音が一そう高くなったようです。雪子さんはどうしようかと思いました。

音のするところへ行って見ると、雨戸の掛金のところを外から泥棒が切り破っているのです。雪子さんがそこらを見まわしますと、玩具のバケツがありましたから、そっとそこへ押し当てました。

そのうちに泥棒が雨戸を切り破って来ると、何か固いものがあります。小刀で突いて見るとカンカン音がします。雪子さんはおかしくなりました。

泥棒がどこかへ行ったと思ったら、今度は台所の方へ音が廻りました。雪子さんは又、そこへジッと押し当てて待っていました。泥棒は又カンカンと言う物に行き当りました。

「馬鹿に用心のいい家だナ。まさか家中、金で張ったるんじゃあんめえ」

と言いながら、今度はお座敷の床の間の壁のまん中をゴリゴリ始めました。

この時、お父さんとお母さんは眼をさまして御覧になると、雪子さんは寝床の中にいません。そして床の間を見ると、玩具のバケツを壁に押し当てています。外からはゴリゴリと壁を破る音……。

お父さんとお母さんは、初めはビックリしましたが、すぐに訳がわかり、雪子さんの勇気に大そう感心しました。なおも様子をジッと見ていますと、泥棒はとうとう厚い壁を切り抜いて、もういいと思って小刀の先で突いて見ると、どうでしょう。壁のまん中でもやはりカンカンカンと音がします。泥棒は腰を抜かさんばかりに驚きました。そしてため息をして言いました。

「これは驚いた。家中すっかり金張りだ」

家の中で、雪子さんとお父さんとお母さんとが一どきに笑い出しました。

「アハハハハハハ」

「オホホホホホホ」

「ウフフフフフフ」

泥棒は夢中になって逃げ出すと、すぐに通りがかりの巡査さんに捕まりました。

底本 / Source edition

底本:「夢野久作全集7」三一書房
1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「月刊探偵 2巻5号」
1936(昭和11)年6月
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年7月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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夢野 久作「雪子さんの泥棒よけ」(新字新仮名)、底本『夢野久作全集7』三一書房、1970年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 046707_000096, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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