Soranoha

少年に文化を嗣ぐこゝろを

しょうねんにぶんかをつぐこころを

中井 正一

大塚金之助博士に或雜誌記者が、博士の一生に最も感銘深かった記憶は何でございますかとたずねた。

博士は次の樣に答えられたそうである。

博士の少年の頃、圖書館へ行って、本を要求したとき、館員が、部厚い本を持ち出して來て、未だ少年の博士に、その本を差出したそうである。

そのずっしり重い本を受取ったときの深い感激は、今、尚博士の胸の中に殘っているとの事である。これが、博士一生を通じての最も感銘深い瞬間であった。

博士が、その受けられた手の重みの中には、世界の文化遺産の重みが、同時に音もなく、博士の全身にかゝってゆくところのものがあったに違いない。

文化を嗣ぐこゝろが、この本を通して、博士の一生を支配するまでに、深い影響をあたえ、常に記憶の中に、博士はその重みを掌の中に感じつゞけられているかも知れない。博士が、今、日本文化史の中に持たれている位置を思いあわせて、少年の日の讀書が、いかに、民族の文化に重大な關連をもつかを、しみじみと感ぜしめるのである。

岩波書店が、本腰を入れて、少年の文庫に力を傾けられることは、まことに私のよろこびとするところである。數限りない少年が、世界の文化を嗣いだ博士の感銘をくりかえし、博士の跡を追って、日本の學界に伸上ってくる日を、私は、樂しく期待するものである。

底本 / Source edition

底本:「少年文學 圖書 第十四號 臨時増刊」岩波書店
1950(昭和25)年12月5日発行
入力:鈴木厚司
校正:染川隆俊
2007年11月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/046419_001166/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/046419_001166/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/046419_001166/

中井 正一「少年に文化を嗣ぐこゝろを」(旧字新仮名)、底本『少年文學 圖書 第十四號 臨時増刊』岩波書店、1950年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 046419_001166, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite