貴方は南国の<ruby><rb>傀儡</rb><rt>くぐつ</rt></ruby>を御存じですか？　（と物識りの旅行家が私に話してきかせました）

文楽の舞台に比べては余り原始的でみすぼらしいものの、まことの名人気質と名も知られない人形造りが一心こめて残した霊妙な人形はむしろ棄てられた傀儡師に伝へられてゐるのです。

七年前のことです。四国の淋しい路傍で最も神秘な傀儡師を見ました。至妙な演戯よ！　私の心は涯もない夢幻の奥へ誘はれてゐたのです。けれども終生忘れることのできないのは（そして彼は暫く深々と感動の瞑目をつづけてゐました）ふと自分に返つたとき、芝居を終へた人形の額に汗のジットリ滲んでゐるのを見出したのでした。

私は物識りの旅行家の額には汗なぞ滲まないので、彼の話をきくのが好きです。