Soranoha

自信の無さ

じしんのなさ

太宰 治

本紙(朝日新聞)の文芸時評で、長与先生が、私の下手へたな作品を例に挙げて、現代新人の通性を指摘して居られました。他の新人諸君に対して、責任を感じましたので、一言申し開きを致します。古来一流の作家のものは作因が判然はっきりしていて、その実感が強く、従ってそこに或る動かし難い自信を持っている。その反対に今の新人はその基本作因に自信がなく、ぐらついている、というお言葉は、まさに頂門ちょうもんの一針いっしんにて、的確なものと思いました。自信を、持ちたいと思います。

けれども私たちは、自信を持つことが出来ません。どうしたのでしょう。私たちは、決して怠けてなど居りません。無頼ぶらいの生活もして居りません。ひそかに読書もしている筈であります。けれども、努力と共に、いよいよ自信がなくなります。

私たちは、その原因をあれこれと指摘し、罪を社会に転嫁するような事も致しません。私たちは、この世紀の姿を、この世紀のままで素直に肯定したいのであります。みんな卑屈であります。みんな日和見ひよりみ主義であります。みんな「臆病な苦労」をしています。けれども、私たちは、それを決定的な汚点だとは、ちっとも思いません。

いまは、大過渡期だと思います。私たちは、当分、自信の無さから、のがれる事は出来ません。誰の顔を見ても、みんな卑屈です。私たちは、この「自信の無さ」を大事にしたいと思います。卑屈の克服からでは無しに、卑屈の素直な肯定の中から、前例の無い見事な花の咲くことを、私は祈念しています。

底本 / Source edition

底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日第1刷発行
1998(平成10)年6月15日第4刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集第十巻」筑摩書房
1977(昭和52)年2月25日初版第1刷発行
初出:「東京朝日新聞 第一九四五七号」
1940(昭和15)年6月2日発行
入力:増山一光
校正:土屋隆
2006年1月13日作成
2016年7月12日修正
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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太宰 治「自信の無さ」(新字新仮名)、底本『太宰治全集10』ちくま文庫、筑摩書房、1989年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 045675_000035, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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