一

<ruby><rb>姉妹</rb><rt>きやうだい</rt></ruby>三人の星の女が、毎晩、美しい下界を見るたびに、あすこへ下りて見たいと言ひ〱してゐました。

三人は<ruby><rb>或</rb><rt>ある</rt></ruby>晩、森のまん中に、<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">すゐれん</span>の一ぱいさいてゐる、きれいな泉があるのを見つけました。三人ともその水の中へつかつて見たいと思ひましたが、そこまで下りていく手だてがありません。三人は夜どほしその泉を見つめて、ためいきをついてゐました。

そのあくる晩も、三人はまたその泉ばかり<ruby><rb>見下</rb><rt>みおろ</rt></ruby>してゐました。泉は、ゆうべよりも、なほ一そううつくしく見えました。

「あゝ下りていきたい。一どでいゝからあの泉であびて来たい。」と、一ばん上の姉が言ひました。下の二人も同じやうに下りたいと言ひました。

すると、高い山のま上を歩くのが大好きな、月の夫人がそれを聞いて、

「そんなにいきたければ、<ruby><rb>蜘蛛</rb><rt>くも</rt></ruby>の王さまにそう言つて、蜘蛛の糸をつたはつて<ruby><rb>下</rb><rt>おろ</rt></ruby>しておもらひなさい。」と言ひました。

蜘蛛の王さまは、いつものやうに、網の中にすわつて、耳をすましてゐました。星の女たちは、その蜘蛛の王さまにたのみました。蜘蛛の王さまは、

「さあ〱、下りていらつしやい。<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>の糸は空気のやうにかるいけれど、つよいことは<ruby><rb>鋼</rb><rt>はがね</rt></ruby>と同じです。」と言ひました。

三人はその糸につかまつて、一人づゝ、する〱と泉のそばへ下りて来ました。

泉の面には、月の光が一面にさして、すゐれんの花のなつかしい<ruby><rb>香</rb><rt>にほひ</rt></ruby>がみなぎつてゐます。三人はきらびやかな星の着物をぬいで、そつと水の中へはいりました。

すが〱しい、冷たい水でした。三人はしづかにすゐれんの花をかきわけていきました。三人の<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">はだ</span>には、水のしづくが真珠のやうにきら〱光りました。

と、その泉のぢきそばに、<ruby><rb>或</rb><rt>ある</rt></ruby>若い<ruby><rb>猟人</rb><rt>かりうど</rt></ruby>が寝てゐました。三人はそれとは気がつかないでにこ〱よろこんで水を浴びてゐました。うと〱寝てゐた猟人は、三人の天の女が、泉のすゐれんの花をゆるがせて、水の中を歩いてゐる夢を見て、ふと目をさましました。ひぢをたてゝ泉の面を見ますと、まつ<ruby><rb>青</rb><rt>さを</rt></ruby>にさしてゐる月の光の中で、三人の美しい女が、たのしさうに水を浴びてゐます。

猟人はこつそりと、泉の岸をつたはつて、三人の着ものがぬいであるところへいきました。そして、その中の一ばんきれいな着ものを手に取つて見ました。それは、金と銀との糸でおつて、いろさま〲の宝石を使つて縫ひかざりをした、立派な着もので、左の胸のところには、心臓の形をした大きな赤い<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>が光つてゐました。

猟人は、その着物をかゝへて、もとのところへかへつて、かくれてゐました。

三人の星の女はそんなことは夢にもしらないで、永い間水をあびて楽しんでゐました。そのうちに、だん〱と夜あけぢかくなりました。すると、蜘蛛の王さまが空の上から、

「もうおかへりなさい。お日さまがお出ましになると、お日さまのお馬が糸を足で踏み切ります。早く空へお<ruby><rb>上</rb><rt>あが</rt></ruby>りなさい。」と言ひました。

星の女はそれを聞くと、いそいで岸へ<ruby><rb>上</rb><rt>あが</rt></ruby>りました。二人の姉はすぐに着物を着て、目に見えぬ蜘蛛の糸の<ruby><rb>梯子</rb><rt>はしご</rt></ruby>を<ruby><rb>上</rb><rt>のぼ</rt></ruby>つて、大空へかへつていきました。

三人の中で一ばん美しい下の妹は、一しよにぬいでおいた着物がないのでびつくりしました。それがなければ空へかへることが出来ないので、一しようけんめいにあたりをさがしましたが、見つかりません。

そのうちに、お日さまがお出ましになりました。お日さまのお馬は、蜘蛛の糸を足でふみ切つてしまひました。

星の女はとはうにくれて、草の上にうつぶして泣いてゐました。さうすると森の鳥がおきて来て、

「あなたのうつくしいおめしものは、わかい猟人が取つていきました。その猟人は、あすこの木の下で、寝たふりをしてゐます。」

かう、さへづつて星の女にをしへました。星の女はそれを聞くと、すゐれんの花をつなぎ合せて花の着物をこしらへて、それでからだをつゝんで、猟人のところへいきました。そして、

「どうか<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>の金と銀の着物をかへして下さい。そのかはりには、あなたのおのぞみになることは何でもしてあげます。」と、泣き〱たのみました。猟人は、

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>は何にもほしくはない。あなたが私のお嫁になつてくれゝば何にもいらない。」と言ひました。

星の女は、着物をとり上げられては、もう下界をはなれる魔力もなくなつたので、しかたなしに猟人のお嫁になりました。

猟人は、星の女をだいじにかはいがりました。星の女の姿は、すゐれんの花のやうに美しく、その声は、どんな小鳥の声よりも、もつとやさしくひゞきました。

猟人は毎日猟に出て、食べものを取つて来ました。そして星の女に、その日のいろ〱の楽しいお話をしました。

しかし星の女は、そういふ中でも、大空のお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>を忘れることが出来ませんでした。女は、月のでる晩には、一人ですゐれんの泉のそばに出て、大空を見ては泣きました。せめて二人の姉の星が、もう一ど下りて来てくれゝばいゝのにと思つて、待ちこがれてゐましたが、二人はだまつて青い目をまばたいてゐるきりで、毎晩蜘蛛の王さまが糸を<ruby><rb>下</rb><rt>おろ</rt></ruby>しても、ちつとも下りて来ようとはしませんでした。

二

そのうちに、星の女には、つぎ〱に男の子が三人も生れました。星の女はその子たちが大きくなるのを、たゞ一つの楽しみにして暮しました。

そのつぎには、かはいらしい女の子が生れました。星の女には、その女の子がかはいくつて〱たまりませんでした。

<ruby><rb>或</rb><rt>ある</rt></ruby>日<ruby><rb>猟人</rb><rt>かりうど</rt></ruby>の生れた遠い町からはる〲<ruby><rb>使</rb><rt>つかひ</rt></ruby>が来ました。猟人のお父さまが病気で死にかゝつてゐるといふ知らせです。猟人はびつくりして、

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>はこれからすぐにいかなければならない。」と言ひました。星の女はそれを聞いて、

「でもその長い旅の途中で、わるい獣にお殺されになつたらどうなさいます。」と言つて泣きました。猟人は星の女をなだめて、

「そんな心配はけつしてない。<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>の父さまには私より外には子が一人もないのだから、どうしても私がいつて、やすらかに目を閉ぢさせて上げなければかはいさうだ。おとむらひをすませたら、すぐにかへつて来る。どうぞ子どもたちと一しよにまつてゐておくれ。七日たつたらかならずかへつて来る。」と言ひました。すると一ばん上の男の子が、

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>は父さまと一しよにいつて、お<ruby><rb>祖父</rb><rt>ぢい</rt></ruby>さまを見て来たい。」と言ひました。猟人は、

「お前はみんなと一しよに<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>にゐて、どろ坊の番をしておくれ。」と言ひました。男の子は、

「それでは、この森の先まで一しよにいつて、そこからかへつて来るの。そして、母さまと一しよにお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>の番をするの。」と言ひました。猟人は、その子をつれて森のはづれまで来ますと、

「もうこゝからおかへり。これは<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>のお部屋中の<ruby><rb>鍵</rb><rt>かぎ</rt></ruby>だから、おまへにあづけておく。」と言つて、鍵のたばをわたしました。そして、

「よく言つておくが、どんなことがあつても、二階の小さいお部屋へはいつてはいけないよ。そのお部屋の鍵穴にこの金の鍵がはまるのだが、あすこだけは、けつして開けてはいけないよ。」と、いくども言つて聞かせました。男の子は分つた〱と、うなづきました。猟人は、

「では、なんにもこはいことはないから、おとなしく待つてお<ruby><rb>出</rb><rt>い</rt></ruby>で。」と言つて、わかれました。

男の子はまた森をとほつて、お<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへつて見ますと、お母さまが戸口に立つて、しく〱泣いてゐます。男の子は、「どうして泣いてゐるの？　<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>がかへつたから、どろ坊が来てもこはくはないでせう？」と言ひました。するとお母さまは、

「どろぼうなんかはちつともこはくはない。」と言ひました。

「それでは何が悲しいの？」

「だつて父さまは、もうこゝへかへつては入らつしやらないんだもの。」

「うゝん、さうぢやない。父さまはぢきかへると<ruby><rb>仰</rb><rt>おつしや</rt></ruby>つた。」

「それから<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>も、もうお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへらなければならないのよ。かへつたら、もう二度と出ては来られない。」

お母さまはかう言つて、またさめ〲と泣きました。男の子は、

「そんなら<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>たち三人や、小さな赤ちやんをみんなおいていくの？」と聞きました。星の女は、さう言はれるとびつくりして、

「いや〱、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>はもうどんなことがあつてもかへりはしない。安心しておいで。あの赤ん坊やおまへたちをおいて、どうしてかへつていかれよう。」

かう言ひ〱涙をふきました。男の子はそれで安心して、みんなと一しよにあそびました。

するとその晩、男の子は、外の月のあかりの中で、だれかゞうつくしい小鳥のやうな声で、しきりと何か言つてゐるので目がさめました。

聞いてゐると、その鳥のやうな声は、

「<ruby><rb>蜘蛛</rb><rt>くも</rt></ruby>のはしごが下りてゐる、早くかへつてお<ruby><rb>出</rb><rt>い</rt></ruby>でなさい。」といふことを、かなしいふしでうたつてゐます。

そばで赤ん坊に添へ<ruby><rb>乳</rb><rt>ぢ</rt></ruby>をしてゐたお母さまは、

「ねんねんよ〱。この子は私の<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>だものを、この子をおいてはかへれない。」といふ意味を<ruby><rb>謡</rb><rt>うた</rt></ruby>でうたひながら、赤ん坊の寝顔を見つめてゐました。

すると、外からは、

「そんなら二人でおかへりなさい。<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>をだいて二人で。」と謡ひます。お母さまは、しばらく黙つてゐました。そのうちに、外の声は、また、

「蜘蛛の<ruby><rb>梯子</rb><rt>はしご</rt></ruby>が下りてゐる。

おまへが七年ゐないとて、

星の二人は泣いてゐる。」

と、また謡ひ出しました。赤ん坊はふと目をさまして泣き出しました。お母さまは、そつとそのお背中をたゝいて、

「ねん〱よ、ねん〱よ。かへれ〱と言つたつて、玉の飾りの着物がない。」と、悲しさうに謡ひました。

赤ん坊はまたすや〱と眠りました。

それからしばらく、何の声もしませんでしたが、やがてまた外の月のあかりの中から、

「鍵をおさがしなさい。お前の着物のかくしてある、小さなお部屋の金の鍵を。」と小さな美しい声で謡ひました。

男の子は、その謡を聞いてゐるうちに、一人でに、うと〱と眠つてしまひました。さうするとその子の夢の中へ、二人の美しい女の人が出て来て、

「いゝ子だから、二階のあのお部屋の戸をあけて下さい。さうすればおまへのお母さまはもう泣きはしないから。」と言ひました。男の子は朝、目がさめると、お母さまに向つて、

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>は<ruby><rb>昨夜</rb><rt>ゆうべ</rt></ruby>、だれかゞお母さまに早くおかへり〱と言つていくども謡つたのを聞いた。」と言ひました。お母さまは、

「おまへは夢でも見たのでせう。」と言ひました。そして、あとで一人でさめ〲と泣きました。

男の子は、たしかに目をあいてゐて聞いたのですから、もしほんとうにお母さまがかへつてしまつたらどうしようと思ひ〱、いちんち昨夜の歌のことばかり考へてくらしました。

三

その夕方、男の子は、ゆうべ二人の女の人が、あの二階の部屋をあければお母さまはもう泣きはしないと言つたのを思ひだしました。そして、さうすればお母さまは、もう<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へもかへりはしないだらうと思ひました。そのときお母さまは、下の二人の男の子と赤ん坊とに水あびをさせに、泉へいつてゐました。

男の子は、いそいで二階へ上つて、小さな金の<ruby><rb>鍵</rb><rt>かぎ</rt></ruby>で、そこの部屋の戸をあけました。さうするとその部屋の中には、金と銀の糸でおつた、色々の宝石の飾りのついた、きれいな着物がかけてありました。

おろして見ますと、その着物の胸のところには、大きな<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>がついてゐました。飾りの宝石もその<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>も、ちようど夜の空の星のやうに、きら〱とまぶしく光ります。男の子はびつくりして、その着物をお母さまに見せようと思つて持つて下りました。

しばらくするとお母さまは、二人の男の子と、赤ん坊とをつれてかへつて来ました。男の子は、

「母さま〱、こんなきれいな着物が二階にありました。着てごらんなさい。」と言ひました。お母さまは、それを見ると、うれしさうにほゝゑんで、すぐにからだにつけました。子どもたちは、お母さまがその着物を着て、きれいなお母さまになつたものですから、よろこんで踊りまはりました。男の子は、

「父さまがかへるまで、毎晩貸して上げる。そして父さまがかへつたら、私がたのんで、もらつて上げる。」と言ひました。お母さまは、

「今晩赤ちやんを寝かせるまで貸しといておくれね。」と言ひました。男の子は、

「それまで着て入らつしやい。」と言ひました。

男の子はその晩は、いつまでも眠らないで、床の中で目をあいてゐました。さうすると、間もなくまた、外の月のあかりの中から、うつくしいこゑで、

「<ruby><rb>蜘蛛</rb><rt>くも</rt></ruby>の<ruby><rb>梯子</rb><rt>はしご</rt></ruby>が下りてゐる。

おまへが七年ゐないとて、

二人の星は泣いてゐる。」

と、小鳥のやうなうつくしいこゑでうたふのが聞えて来ました。

それから、しばらく何の声もしませんでしたが、こんどは、赤ん坊に添へ<ruby><rb>乳</rb><rt>ぢ</rt></ruby>をしてゐたお母さまが、

「ねん〱よ、ねん〱よ。わたしのかはい<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>を、どうしておいていかれよう。」と、<ruby><rb>謡</rb><rt>うた</rt></ruby>ひました。男の子は聞いてゐるうちに、ひとりでにうと〱と眠くなつて、お母さまの声がだん〱に遠くの方へいつてしまふやうな気がしました。そしてそれなり、お日さまが出るまで、ぐつすり寝てしまひました。

男の子は朝、目をさまして、ゆうべの歌のことを言はうと思つて、お母さまをさがしますと、お母さまはどこにもゐません。男の子は、

「それでは、すゐれんの泉へいつたのだらう。」と思つて、そちらへさがしにいきましたが、お母さまはやつぱりそこにもゐませんでした。それでまた<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへつて見ますと、お母さまばかりでなく、小さな赤ん坊もゐなくなつてゐました。男の子は、

「これはきつと、悪いどろぼうが、お母さまと赤ん坊をさらつていつたのにちがひない。をとゝひの晩からの美しい歌は、きつと、どろぼうが母さまをだましてつれ出さうと思つて謡つたのだ。」と思ひました。見ると、お母さまに貸して上げた、あの玉の飾りのついた、きら〱した着物もありません。

下の二人のこどもは、母さまがゐない、母さまがゐない、と言つて泣き出しました。男の子は二人をなだめて、森の中をさがしてまはりましたが、どこまでいつて見ても、お母さまはゐませんでした。二人の子どもは、

「母さまがゐないからこはい。母さまがゐないからこはい。」と言つて、どんなにだましても聞かないで、いちんちおん〱泣いてこまらせました。男の子もしまひには、

「母さま、かへつてよ。母さま、かへつてよう。」と言ひ〱泣きました。二人の子どもは、お<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>がすいてたまらないものですから、よけいにわあ〱泣きました。

男の子は、そのうちにふと、お父さまからあれほどきびしくとめられてゐたことを思ひ出して、

「あゝ、しまつたことをした。父さまの言ふことを聞かないで、二階の部屋の戸をあけたので、あの美しい玉の飾りの着物までなくなつてしまつた。父さまがかへつたら、何と言はう、母さまや、赤ん坊がゐなくなつたのも、きつと<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>が父さまの言つたことにそむいた<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ばち</span>にちがひない。」

かう思ふと、なほ〱かなしくなりました。

間もなく日がくれて、美しい月夜になりました。男の子は二人の子どもを寝床へ寝かせようとしてゐますと、ふと入口の戸があいて、お母さまが、ゆうべの玉の飾りの着物を着てかへつて来ました。下の二人の子どもは、大よろこびで、お母さまに飛びつきました。

「母さまがゐないからこはかつた。」

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>も怖かつた。」と二人はかはる〲言ひました。お母さまは、

「もう<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>がついてゐるから、何にもこはいことはありません。それよりも、みんなさぞお<ruby><rb>腹</rb><rt>なか</rt></ruby>がすいたでせう。さあこれをおあがりなさい。」と言つて、大空からもつて来た、おいしい果物を分けてやりました。二人の子供はうれしがつて、どん〱食べました。しかし一ばん上の男の子は、それを食べようともしないで、

「母さま、赤ん坊はどこへいつたの。母さまは<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>たちをおいていきはしないと言つたのに、どうしてよそへいつたの。」と聞きました。お母さまは、

「赤ん坊は<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>の二人のお姉さまのそばで寝てゐます。私はこれからすぐにまたお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへつて、遠くから見てゐて上げるから、みんなでおとなしくおねんねをするのよ。またあすの晩もおいしいものをもつて来て上げるから。」と言ひました。男の子は、

「それではその玉の着物をぬいでいつてね。父さまが、あのお部屋をあけてはいけないと言つたのに、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>があけて出したのだから、父さまにしかられる。父さまがかへつたら、私がねだつて、もらつて上げる。」と言ひました。お母さまは、

「そんなことはいゝから、早くこの果物をおあがり。」と言ひました。男の子はさう言はれたので安心して、お母さまとならんで、そのおいしい果物を食べました。

さうすると、だん〱に金の鍵のことも玉の<ruby><rb>飾</rb><rt>かざり</rt></ruby>の着物のこともみんなわすれてしまひました。そしてお母さまが美しい着物を着て、美しい人になつてゐるのが、うれしくてたまりませんでした。

四

男の子は、もうお母さまはどこへも出ていかないものと思つて、安心して寝床へはいりました。すると、そのうちに、また、ふいと歌の声がするので目がさめました。ぢつと聞いてゐると、やつぱりゆうべと同じ美しい声で、

「<ruby><rb>紅宝石</rb><rt>ルービー</rt></ruby>がしきりと泣いてゐる。

日が出ぬうちにかへらねば、

馬の<ruby><rb>蹄</rb><rt>ひづめ</rt></ruby>が糸を切る。」

と<ruby><rb>謡</rb><rt>うた</rt></ruby>ひました。

お母さまは、ちやうど一ばん下の子どもが目をさましたのを寝かしつけてゐました。外の声が<ruby><rb>止</rb><rt>や</rt></ruby>むと、お母さまは、

「ねん〱よ、ねんねんよ。この子はこよひつれていく。この子にこゝで泣かれては、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>もお空で泣くのだから。」と、言ひ〱涙をふきました。

一ばん上の男の子は、またひとりでに眠くなりました。そして、

「明日は母さまにさう言つて、赤ん坊をつれてかへつてもらはう。さうすれば母さまはもうじぶんのお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへらないですむだらう。」と、かう思ひ〱寝てしまひました。

あくる朝目をさまして見ますと、お母さまは、いつの間にか、一ばん下の弟と一しよに、ゐなくなつてゐました。二ばん目の弟は、母さまがゐないと言つてわあ〱泣きました。男の子は、

「泣かなくてもいゝよ。母さまは夜になればまた来て下さるから。」と言つて、なだめました。しかし弟は、何と言つても泣き<ruby><rb>止</rb><rt>や</rt></ruby>まないので、しまひには涙で目がまつ<ruby><rb>赤</rb><rt>か</rt></ruby>にはれました。

そのうちに、日がくれて、空には星が一ぱい出ました。すると間もなく、入口の戸があいて、お母さまがかへつて来ました。

二ばん目の男の子は、走つて来て、お母さまの手に取りついて泣きながら、

「二人きりでこゝにゐるのはいや。母さまのお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へつれてつて。」と言ひました。

お母さまは二人に<ruby><rb>頬</rb><rt>ほほ</rt></ruby>ずりをして、またゆうべのやうな、おいしい果物を分けて食べさせました。一ばん上の男の子は、

「母さまはとう〱二人ともお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へつれてつてしまつたのね。父さまがかへつたら、何と言へばいいの。」と心配さうに聞きました。お母さまは、

「それはまたあとでお話するから、早くお食べなさい。」と言ひました。

男の子は、ひもじくてたまらないので、急いで果物を食べました。そして、もう悲しいことも心配ごともわすれて、お母さまと楽しくお話をして、しまひに寝床へはいりました。

男の子は明け方ぢかくに、ふと目がさめました。さうすると、また外に歌の声がしてゐました。

「日が出ぬうちにかへらねば、

馬の蹄が糸を切る。

二人は夜どほし泣いてゐる。」

と、小鳥のやうな美しい声で謡つてゐます。お母さまは、二番目の子が目をさましたのを寝かせながら、

「ねん〱よ、ねん〱よ。この子が寝たらつれていく。あとでこの子に泣かれては、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>もお空で泣くのだから。」と、悲しさうに言ひました。

男の子はその歌を聞きながら、またすや〱と寝入つてしまひました。

朝起きて見ますと、窓にはもう日かげがまつ黄色にさしてゐました。そして、お母さまも弟もみんなゐなくなつてゐました。

男の子はいちんち一人で泣きつゞけて、涙で目がまつ赤にはれました。

やがて夜になつて、大空に星がかゞやきはじめたと思ふと、また入口の戸があいて、お母さまがかへつて来ました。男の子はお母さまの手に取りすがつて、

「母さまはどうしてみんなをつれてつてしまつたの。父さまがかへつたら、びつくりするよ。早くみんなをつれてかへつてね。ねえ、母さま。父さまがかはいさうだから。」と、たのみました。お母さまは、

「そんなことはあとにして、早くこれをお<ruby><rb>上</rb><rt>あが</rt></ruby>りなさい。」と言ひながら、空からもつて来た果物をたくさんならべました。しかし男の子は、いくらすゝめても食べませんでした。お母さまは、

「それでは、これから<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>と一しよに、おまへの大好きな赤ん坊と、あの二人の弟たちのところへいきませう。さあお立ちなさい。」と言ひました。男の子は、

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>は一人でこゝにゐる。父さまは、かへるまでちやんとお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>の番をしてお<ruby><rb>出</rb><rt>い</rt></ruby>でと言つたから、私は一人で番をするの。」と言ひました。

「それでは<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>はもういきますよ。父さまは明日かへつて入らつしやるはずだから、おかへりになつたらさう言つて下さい。母さまは、玉の飾りの着物を見つけましたから、もうお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへりましたと言つて下さい。母さまはこれまで長い間、毎日〱どんなにお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へかへりたかつたか知れません、もう今晩きりで二どとこゝへは来ないから、よく母さまのお顔を見ておおき。それから父さまが、なぜ二階のお部屋をあけたとお聞きになつたら、二人の女の人が、夢の中で、母さまが泣いてゐてかはいさうだからあけてお上げと言つたから、開けたのですとお言ひなさい。」

お母さまはかう言ひ〱さめ〲と泣きました。

「母さまのお<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>はどこにあるの？　こゝからよつぽどとほいの？」と、男の子は聞きました。

「それは、あとでお父さまにお聞きなさい。」

星の女は、かう言つて、間もなく空へかへつてしまひました。

五

あくる日になりますと、男の子はお父さまがもうかへるか、もうかへるかと思ひながら、いちんち戸口に立つて待つてゐました。さうすると、やつと夕方近くなつて、向うの森の中に、お父さまのかへつて来る姿が見えました。男の子は走つて迎へにいつて、

「父さま、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>はずゐぶん悪いことをしたの。女の人が二人、私が寝てゐるうちに来て、母さまがかはいさうだから、二階のお部屋をおあけと言つたから、金の<ruby><rb>鍵</rb><rt>かぎ</rt></ruby>であけたの。さうすると玉の飾りの一ぱいついた、きれいな着物があつたから、母さまに見せたら、母さまが貸してくれと言つた。そしてその晩、外からたれかゞ<ruby><rb>謡</rb><rt>うた</rt></ruby>をうたつて母さまをよぶと、母さまはその着物を着たまゝいつてしまつたの。」

かう言つて泣き〱話しました。お父さまはそれを聞くとびつくりして、

「ごらんよ、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>のいふことを聞かないから、おまへたちはとう〱母さまをなくしてしまつたぢやないか。しかしもう<ruby><rb>悔</rb><rt>くや</rt></ruby>んでも仕方がない。お部屋をあけたことは、ゆるして上げるから、これからはけつして父さまのいふことにそむいてはいけないよ。母さまはそのうちには、おまへたちを見たくてかへつて来るかもわからない。これからみんなで赤ん坊のおもりをして、たのしくくらすことにしよう。」

かう言つて、涙をこぼしました。

「でも赤ん坊は母さまが、あの玉の飾りの着物を貸してくれと言つた晩に、一しよにつれていつてしまつたの。」と男の子は言ひました。お父さまは、

「赤ん坊もいつたのか。」と悲しさうに言ひました。

「しかし、あの子はお乳がないとこまるから、母さまのそばにゐた方が<ruby><rb>仕合</rb><rt>しあはせ</rt></ruby>だ。それでは四人で一しよにくらしていかう。」

「でも母さまは、そのあくる晩と、またあくる晩に、二人ともつれてつてしまつたの。ゆうべは、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>をつれに来たけれど、私は父さまがかはいさうだから、いかないと言つたの。」

男の子がかう言ひますと、<ruby><rb>猟人</rb><rt>かりうど</rt></ruby>は、よろこんでだき上げて、

「よくいかないでゐてくれた。それではこれから、どんなことがあつても、おまへは父さまのそばをはなれないかい？」と<ruby><rb>頬</rb><rt>ほほ</rt></ruby>ずりをして言ひました。

「<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>は、いつまでも父さまと一しよにゐるの。そして、父さまのいふことをよく聞くの。」と男の子は言ひました。二人は、そのまゝ森の<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>でくらしました。

猟人は毎日、その子をつれて猟に出て、夕方になるとまた一しよにかへつて来ました。しかし男の子は、毎日お母さまのことがわすれられませんでした。夜になつて、大空に星が一ぱい出ると、男の子は一人で門口へ出て、そのたくさんの星の中の、どれがじぶんのお母さまか、どれが妹か弟かと思ひながら、いつまでも空を見上げてゐました。

それから寝床へはいつて寝るときにも、いつもお母さまや妹や弟たちにあひたいとおもつて一人で泣きました。

そのうちに、お母さまたちがゐなくなつてから一年になりました。すると、<ruby><rb>或</rb><rt>ある</rt></ruby>晩、夜中に、猟人は男の子を呼びおこして、

「こゝへお<ruby><rb>出</rb><rt>い</rt></ruby>で。早くお出で。父さまは急に気分が悪くなつた。」と言ひました。男の子はびつくりして、そばへいつて見ますと、お父さまはまつ<ruby><rb>青</rb><rt>さを</rt></ruby>な顔をして目をつぶつてゐました。男の子は、お父さまの手をさすつて、

「今日はあんまり遠くまで歩いたからよ。あしたは猟を休んで家にゐませうね。」と言ひました。お父さまは、

「あゝ、くちびるがかわく。冷たい水を飲ましてくれ。」と言ひました。男の子は、おほいそぎですゐれんの泉へかけていきました。お父さまはその水を一と口飲むと、そのまゝすや〱と眠つてしまひました。男の子は夜どほし起きて、そばについてゐました。猟人は、とう〱夜明けまへに死んでしまひました。男の子は、大声を上げて泣きました。

夜が明けると、男の子は泣き〱木を切り集めて、お父さまの<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>を焼きました。男の子は、もう、たつた一人でこの森にゐるのはいやでした。でも、どこと言つていくところもありません。男の子は、森の草の上に顔を伏せて、せめてもう一どお母さまにあひたいと思ひながら、日がくれるまで泣きつゞけに泣いてゐました。

やがて、大空には星がかゞやきはじめました。すると<ruby><rb>蜘蛛</rb><rt>くも</rt></ruby>の王さまは、おほいそぎで下界にとゞく<ruby><rb>梯子</rb><rt>はしご</rt></ruby>をつむぎ出しました。星の女はそれにつたはつて、泣いてゐる男の子のところへ下りて来ました。

男の子は泣き〱お父さまのなくなつたことを話しました。お母さまも、さめ〲と泣きました。そしてしまひに、

「もういゝから、泣かないでおくれ。<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>は、おまへがかはいさうだからむかへに来たのです。さあこれを食べて、一しよに母さまのところへいらつしやい。」

かう言つて、空からもつて来た果物を食べさせました。男の子はそれを食べると、一人でに悲しさをわすれて、お母さまと一しよに、空へ上りました。

そのあくる日、二人の旅人が森をとほりかゝつて、猟人の<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>へはいりました。すると、<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>の中には人が一人もゐないものですから、二人は変に思つて、

「それでは、この<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>の人がかへるまで、二人でこゝに住んでゐよう。」と相談しました。しかし、<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>の人は、いつまでたつてもかへつては来ませんでした。二人の旅人は、とう〱死ぬまで、長い間そこでくらしました。

二人はその間、いつも月のてる晩には、すゐれんの泉の中で、三人の女と、四人の子どもとが、楽しさうに水を浴びてゐる声を聞きました。そして明け方になると、かならず空の上から、

「おかへりなさい。お日さまがお出ましにならないうちにかへらないと、お馬が<ruby><rb>梯子</rb><rt>はしご</rt></ruby>をふみ切つてしまひます。」

かう言つて、みんなをよぶ声が聞えました。