あひるさんは泣きながら学校から帰つて来て、お母さんに申しました。

「お母さん、先生から頂いた月謝の袋を落したの。先生に<ruby><rb>叱</rb><rt>しか</rt></ruby>られるといや」

お母さんはおつしやいました。

「あひるさんや、カバンの中をしらべて見て、なかつたら、<ruby><rb>明日</rb><rt>あした</rt></ruby>、先生によくお話しをなさい」

そしてお八つの牛乳を下さいました。けれどもあひるさんは一口も飲みません。

「あひるさんや、さあ、お飲みなさい。心配をしないで。とてもあたたかくて、うまい牛乳ですよ」と、お母さんは、あひるさんの口に牛乳の<ruby><rb>瓶</rb><rt>びん</rt></ruby>をおしつけました。すると、あひるさんは、牛乳の瓶をはねとばしましたので、折角の牛乳が半分こぼれました。

そして、あひるさんはベツドの中へもぐり込んで、

「お母さん、今すぐ月謝の袋を見つけて下さい」と、わあ〱泣きわめきました。お母さんは<ruby><rb>家中</rb><rt>うちぢゆう</rt></ruby>をさがしましたが、月謝の袋は出て来ませんでした。

あひるさんはベツドの中で、涙でグツシヨリになつて、

「ああ、<ruby><rb>私</rb><rt>わたし</rt></ruby>が月謝の袋屋さんだつたら！　私はどんなに幸だつたらう。私はこんなに心配しないでもすんだのに。そして私は月謝の袋をなくして、心配で心配で泣いてゐる世界中の子供に、一枚づつ、ただで上げるのに！」と思ひました。けれども、あひるさんは月謝の袋屋さんではありません。ほんとにかあいさうなあひるさんです。

ところが、その晩は大変よいお月夜でした。学校の先生の<ruby><rb>烏</rb><rt>からす</rt></ruby>さんは、散歩に出かけて、あひるさんの<ruby><rb>家</rb><rt>うち</rt></ruby>の前を通りかかりました。

あひるさんのお母さんは先生に申しました。

「先生、うちのあひるさんは月謝の袋を落したといつて、泣いてばかりゐて、牛乳も飲みません」

烏先生は、ベツドの中へもぐつてしまつたあひるさんを、ベツドから引出して申しました。

「月謝の袋は<ruby><rb>明日</rb><rt>あした</rt></ruby>あげますから、早く牛乳をお飲みなさい」

そこであひるさんは、やつと泣くのがとまつて、こんどはそれは〱うれしさうに、ニコ〱と牛乳を二本半と、御飯を四杯もたべて、ベツドの中へはいつて、<ruby><rb>明日</rb><rt>あした</rt></ruby>の朝まで、グツスリと眠りました。安心して下さい。