Soranoha

矢代静一君を推す

やしろせいいちくんをおす

岸田 国士

矢代君の戯曲は以前二つほど読んでゐた。それに今度文学座のアトリエ公演でこの、たしか第三作である「城館しろ」を観て、この作者もいよいよこんなものを書きだしたな、と思つた。といふ意味は、前の二作だけではまだまだ、劇作家矢代静一の特色も真価もはつきりしなかつたからである。

今度の「城館しろ」は、非常に新鮮で彼の豊かな才能の開花がはじめて告げ知らされたやうな気がした。

私は日本での最近の戯曲生産を通じて、これほど傍若無人な作品にぶつかつたことはない。なるほど、戦後のフランス劇あたりにお手本がありさうにも思へるが、それにしても、単に、形式的な模倣に終つてゐないところは、さすがに、この作者は、詩人であることを証明してゐる。新しい戯曲の「生命のエッセンス」をなかなか大胆に追ひ求めてゐるところにも、私は注目した。一見唐突で、気まぐれとさへ思はれる人物の対話や行為のなかに、劇詩の要素である韻律の知的でかつ感覚的な操作を、心にくいほどの落ちつきと計画をもつて行つてゐる。

まだしかし、この試みのなかには、不安な手さぐりもあるし、効果の意外な誤算もあるらしい。作者の柔軟で鋭い感受性が、観念の固い框のなかで喘いでゐる部分が目につく。

私の趣味からいへば、もつと当り前な日本語と日本人らしい動作とで、もつとイメージのはつきりした人間を、新しく深く捉へ、多面的に描いたものの方を好む。

標題の「城館しろ」をなぜ「城」としてはいけないのかも、私にはわからぬ。フランス語の「château」の語感を日本語で出したつもりであらうが、とんでもないことだ。

この作者に私は、大きな期待をもつてゐるだけに、われわれを文句なしに楽しませてくれるやうな、独り善がりでない美しい劇詩を早く見せてくれることを望む。

この作家の力量をわかり易い標準でたとへるなら、さしづめ、有力な芥川賞候補であらう。

底本 / Source edition

底本:「岸田國士全集28」岩波書店
1992(平成4)年6月17日発行
底本の親本:「新劇 第一巻第一号」
1954(昭和29)年4月1日発行
初出:「新劇 第一巻第一号」
1954(昭和29)年4月1日発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2011年2月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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岸田 国士「矢代静一君を推す」(新字旧仮名)、底本『岸田國士全集28』岩波書店、1992年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 044863_001154, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite