Soranoha

純粋戯曲への道

じゅんすいぎきょくへのみち

岸田 国士

矢代静一君の城館しろをみて、私は非常に新鮮なものと、極めてゆたかな才能の開花のようなものを認めた。

その新鮮さには戯曲形式への不敵な挑戦が感じられ、テーマの上でも、構成の上でも、また、特に文体の上で、私は最近の日本の戯曲を通じて、これほど、既成のものから完全に離脱を企てた作品にぶつかったことはない。それはたしかに、一つのものの探究にかけられた作者の情熱だと思う。

作者が、「文学的に」何を追い求めているかを、私は、いま、はっきりいい当てることはできないが、たしかに、それは、新しい戯曲の「生命のエッセンス」ではないかと思う。

この作品は、ただ、そういう野心だけで、でっちあげたものではなく、寧ろ、野心のかげで、沈着にほほえんでいる作者の柔軟で鋭い感受性を誰も見落さないであろう。

少し大げさにいえば、かの、ヴァレリイが純粋詩と呼ぶ、言葉の韻律の知的でかつ感覚的な操作において試みた、それと同じ試みを、戯曲の上に試みることをこの作者のよくバランスのとれた才能に私は期待する。

城館しろのなかには、まだ不安な手さぐりもあるし、効果の誤算もあるらしい。しかし、一番大事な「劇的な時間」の流れを、瞬間々々のイメージが背負っている。文学座の若い俳優諸君は、この唐突な劇詩にまだなじまぬところもあって、すこし力のいれどころに迷っているのていであるが、やがて軌道に乗るであろう。登場人物の一人一人が、このドラマの作者になったとき、舞台はみごとな近代の色に彩られたタブローとなるであろう。

底本 / Source edition

底本:「岸田國士全集28」岩波書店
1992(平成4)年6月17日発行
底本の親本:「文学座あとりえ 第十四号」
1954(昭和29)年2月8日発行
初出:「文学座あとりえ 第十四号」
1954(昭和29)年2月8日発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2011年2月19日作成
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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岸田 国士「純粋戯曲への道」(新字新仮名)、底本『岸田國士全集28』岩波書店、1992年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 044859_001154, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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