Soranoha

芥川賞(第二十回)選評

あくたがわしょう(だいにじっかい)せんぴょう

岸田 国士

私の手許に送られて来た作品は、いづれもなかなか佳いものであつた。そのうちでもいろいろな点からみて、いま特に推奨したいと思つたのは「技術史」であつた。「春」もある意味では面白く、「雁立」は十分に傑れたところは認めるが、これを今日取り立てゝ世間に吹聴しようといふ風には考へなかつた。

「技術史」は観念的と云へば観念的であり、啓蒙的すぎる(文学の本道でないといふ意味)と云へばさうも云へるが、しかし、ともかく、時局の表面に浮び出した専門的で同時に常識的な問題を正面から捉へ技巧上の微妙な困難をある程度征服して、立派に一国民としての感懐を作家の情熱と融合させた才能と努力とを、私は高く評価したく思ふ。

受賞と決定した「雁立」について、その理由を最も適確に語り得るは、遺憾ながら私ではない。しかし、私は選者の一人として、他の多くの選者の意見を必ずしも不当とするものではない。協議の席に列しなかつたから詳しいことはわからぬが、多分、この作品が芸術として最も密度が高く、制作の態度も亦、純粋に作家の魂を感じさせるものだといふ、極めて当然な讃辞を浴びたことゝ思ふ。たしかに、若い俳詩人の将来は私も楽しみだ。ただ「生活」の意味をこの作者はどう解してゐるのか。作品を通じての不安がそこから来るのを私はどうしやうもなかつた。

底本 / Source edition

底本:「岸田國士全集26」岩波書店
1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「文芸春秋 第二十三巻第三号」
1945(昭和20)年3月1日発行
初出:「文芸春秋 第二十三巻第三号」
1945(昭和20)年3月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年5月21日作成
2011年5月21日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

この表示について / About this rendering

記録は下にリンクした署名済みの TEI ファイルです。このページはそれを読むための一つの形です。読みが複数ある箇所は一つだけを本文に示し、もう一方は語の title に残しています。 / The record is the signed TEI file linked below. This page is one way of reading it. Where the text has more than one reading, the page shows one of them and keeps the other on the word itself, in its title text.

リリース / Release
913b24012e1626b47bebf5a14fd31773728229efdb088f1ceb934717c1ac800c
TEI
/works/044719_001154/tei
プレーンテキスト / Plain text
/works/044719_001154/plaintext
書誌 / Bibliography
/works/044719_001154/

岸田 国士「芥川賞(第二十回)選評」(新字旧仮名)、底本『岸田國士全集26』岩波書店、1991年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 044719_001154, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite