Soranoha

芥川賞(第十八回)選評

あくたがわしょう(だいじゅうはっかい)せんぴょう

岸田 国士

「棉花記」、「和紙」、「伝染病院」、「淡墨」、「道」の五篇のうちから、私は「和紙」を推すことにした。

健康な美しさとでも云ふべきものがあり、「和紙」といふ標題の象徴が、作品の感触のなかに見事に生かされてゐる点を小説として最も高く評価したいからである。

「棉花記」は、正面から時局的問題を取扱つた野心作で、十分読みごたへはあつたが、未完結のため、全体としての点数はまだ入れられない。

「淡墨」も時局的意義をもつた好個の短篇でなかなか鋭いところのある才筆には感服したが、劇的な事件を記録風に書き流した技巧に却つて見得を切つたやうなところがあり、感動が少し浮いてゐると思つた。

「伝染病院」はかういふ材料を自己中心の生活記録にしたところがどうも新鮮でなく、黙し難いであらう一種の公憤が愚痴つぽく響くのをなんとかしてほしいと思はせるやうな小説である。

「道」はちかごろ注目すべき作品には違ひないけれども、率直に云つて、私は、今、かういふものはそつとしておきたいのである。

底本 / Source edition

底本:「岸田國士全集26」岩波書店
1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「文芸春秋 第二十二巻第三号」
1944(昭和19)年3月1日発行
初出:「文芸春秋 第二十二巻第三号」
1944(昭和19)年3月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年5月21日作成
2016年4月14日修正
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
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プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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岸田 国士「芥川賞(第十八回)選評」(新字旧仮名)、底本『岸田國士全集26』岩波書店、1991年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 044715_001154, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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