Soranoha

映画アカデミイについて

えいがアカデミイについて

岸田 国士

この問題を私が最初に提唱したのは一九三六年の秋である。その時は主として、国家が映画や演劇の政治的文化的意義に着眼して、先づ民間では至難とされてゐる現代俳優の本格的養成に乗出してほしいといふ意味のことを述べたのであるが、私のこの希望は、音楽家や美術家を国家が国費をもつて育てようと企図する実例を基礎として生れたものである。

しかし、今日では、問題は一層複雑で、所謂映画国策といふやうな言葉も生れた時代であるから、政府が若し、かゝる事業に永久且つ根本的な企画を求めるとすれば、それは単なる俳優だけの問題ではなく、一般技術的な研究、人的要素の整備、製作機構の確立、配給方法の考慮等が、みな関連した問題として取りあげられるであらう。

かゝる制度の具体案については、私はまだなんら意見を述べる資格はない。考へてみる興味は十分あるのであるが、今生憎その時間もなく、調査も資料蒐集も困難な事情にあるので、ほんの責ふさぎに過ぎぬ一個の思ひつきを書きつらねてみる。

先づ、現在、国庫から各省に振り当てられる予算のうち、「映画に関する事業費」概算合計百万円を、ある統一機関の手で、より有効に、より経済的に使用し得るやう、例へば、内閣直属の映画局といふやうなものを新設する。或は、これを全然お役所風のものにせず例へば理化学研究所式の、半官半民的研究生産機関として独立の組織を与へる。

この機関は、日本では、少くとも、左の条件を具備しなければならぬ。

一、映画の政治的・文化的役割に関する研究。

国策の宣伝教化的内容の撰択、日本映画の国際的価値及び国際性の拡大方針等。

二、技術向上に関する研究。

三、映画企業及び技術の専門家養成。

人材の海外派遣、養成機関の設立準備。欧米技術家の招聘。

四、俳優の質的改善と基礎的教育。

官立大学乃至専門学校に準ずる教育制度の確立。

五、政府各省の要求に応ずる映画企画製作。殊に模範的文化映画の生産。

当分の内、民間の適材をピツクアツプして個々の製作プランを樹てること。そのための各専門委員会設置。

以上の諸条件は、近々にこれを整備し行くこともできる。

かういふ仕事は、何時まで相談してゐても、どんなにいゝ案が練れても、いざ取りかゝつた場合、主になる人物が駄目なら結局、所期の目的を達することは愚か、却つて、世間の信用を失墜しないとは限らない。

老朽官吏を総裁とか局長とかに据えることはまつたく新興芸術のために取らないところである。

底本 / Source edition

底本:「岸田國士全集24」岩波書店
1991(平成3)年3月8日発行
初出:「日本映画 第三巻第八号」
1938(昭和13)年8月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年3月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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岸田 国士「映画アカデミイについて」(新字旧仮名)、底本『岸田國士全集24』岩波書店、1991年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 044614_001154, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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