Soranoha

癇癪批評

かんしゃくひひょう

岸田 国士

僕のところの子供は、父親たる僕に話しかける時は、はじめから癇癪を起してゐる。常々、一度や二度呼んだぐらゐで、僕の注意を惹くことは困難だといふことを知つてゐるからだ。「ねえ、パパつたら……」といふ文句を、きまつて頭へつける子供の習癖を、僕は心の中で悲しんでゐる。相手が自分の云ふことに興味がなささうだと思ひ、しかも、それを云はずにをられぬ場合、口調が勢ひヒステリックになる。これは大人にもある。大人げないことだ。

そして、僕自身、屡々、事芝居に関する限り、書くものがこの調子に陥るのである。僕が従来発表した演劇に関する評論乃至感想の類は、どこか日本の劇団と呼吸の合つてゐないところがある。それを、僕が、自分の罪だとは思つてゐないところに、僕の癇癪批評が生れるのである。

何事も急ぐ必要はない。まして、芝居の歴史に一転機を劃するやうな事業が、筆の先でさう易々と仕遂げられるわけはないのである。

劇作同人諸君の言論が、近来、諸所の話題に上り、なかなか盛観であるが、どうもやはり一般と呼吸の合はぬところがあるらしく、従つて、癇癪の反響とも思はれるやうな「怒鳴り返し」が耳にはひる。

若い同士の元気な応酬は、新機運に応はしい光景で、それも結構だが、そのために解る話が解らなくなつては困る。「劇作」の声に耳を傾ける人は、だんだんに多くなりつつあることを信じようではないか。(一九三四・一〇)

底本 / Source edition

底本:「岸田國士全集22」岩波書店
1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「劇作 第三巻第十号」
1934(昭和9)年10月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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書誌 / Bibliography
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岸田 国士「癇癪批評」(新字旧仮名)、底本『岸田國士全集22』岩波書店、1990年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 044512_001154, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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