人

<ruby><rb>法勝寺執行俊寛</rb><rt>ほっしょうじのしゅぎょうしゅんかん</rt></ruby>

<ruby><rb>丹波少将成経</rb><rt>たんばのしょうしょうなりつね</rt></ruby>

<ruby><rb>平判官康頼</rb><rt>たいらのはんがんやすより</rt></ruby>

<ruby><rb>有王</rb><rt>ありおう</rt></ruby>（俊寛の昔の<ruby><rb>家僮</rb><rt>かどう</rt></ruby>）

<ruby><rb>漁夫</rb><rt>ぎょふ</rt></ruby>（男、女、童子ら数人）

<ruby><rb>丹左衛門尉基康</rb><rt>たんざえもんのじょうもとやす</rt></ruby>（<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>の使者）

その従者　数人

船頭　数人

時

平氏全盛時代

所

<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島

  


第一幕

<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島の海岸。<ruby><rb>荒涼</rb><rt>こうりょう</rt></ruby>とした<ruby><rb>砂浜</rb><rt>すなはま</rt></ruby>。ところどころに<ruby><rb>芦荻</rb><rt>ろてき</rt></ruby>など<ruby><rb>乏</rb><rt>とぼ</rt></ruby>しく<ruby><rb>生</rb><rt>お</rt></ruby>ゆ。向こうは<ruby><rb>渺茫</rb><rt>びょうぼう</rt></ruby>たる<ruby><rb>薩摩潟</rb><rt>さつまがた</rt></ruby>。左手はるかに<ruby><rb>峡湾</rb><rt>きょうわん</rt></ruby>をへだてて<ruby><rb>空際</rb><rt>くうさい</rt></ruby>に<ruby><rb>硫黄</rb><rt>いおう</rt></ruby>が<ruby><rb>嶽</rb><rt>たけ</rt></ruby>そびゆ。<ruby><rb>頂</rb><rt>いただき</rt></ruby>より煙をふく。ところどころの<ruby><rb>巌角</rb><rt>いわかど</rt></ruby>に波<ruby><rb>砕</rb><rt>くだ</rt></ruby>け散る。秋。成経<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>に立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして<ruby><rb>木片</rb><rt>きぎれ</rt></ruby>にて<ruby><rb>卒都婆</rb><rt>そとば</rt></ruby>をつくっている。

成経　あゝとうとう見えなくなってしまった。九州のほうへ行く船なのだろう。それとも<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へのぼる船かもしれない。わしの<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>のほうへ。

康頼　どうせこのような離れ島に寄って行く船はありませんよ。そんなに毎日浜辺に立って、遠くを通る船を見ていたってしかたがないではありませんか。

成経　でも船の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>だけでもどんなになつかしいか。灰色にとりとめもなく広がる大きな海を見ているとわしは気が遠くなってしまう。わしとは何の関係もないように、まるで<ruby><rb>無意味</rb><rt>むいみ</rt></ruby>で、とりつくしまもないような気がする。せめて向こうに<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>の毛ほどでもいいから、陸地の影が見えてくれたら。

康頼　それは及びもつかない願いでございます。ここからいちばん近い<ruby><rb>薩摩</rb><rt>さつま</rt></ruby>の山が、糸すじほどに見えるところまで行くのでも、どんな速い船でも二、三日はかかると言いますから。

成経　でも船の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>がほんのちょっとでも見えるとわしには希望の手がかりがつくような気がします。

康頼　それで毎日毎日海ばかり見ているのですか。

成経　十日に一度くらいは<ruby><rb>白帆</rb><rt>しらほ</rt></ruby>のかげが見られます。でもはれた日でないと雲がかかって見えません。だからしけの日はわしにとって実に不幸な日です。朝起きて見て雲が晴れていると、あゝ、きょうもまた<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>に立って船の見えるのを待とうと思って希望がわきます。

康頼　希望という言葉はほんとうにわしたちにとってありがたい、けれど身をきるような<ruby><rb>響</rb><rt>ひび</rt></ruby>きを持って聞こえますね。

成経　希望、そうだ希望だ。船の姿はわしの<ruby><rb>一縷</rb><rt>いちる</rt></ruby>の希望だ。だってそれででもなくて何をたのしみに生きるのだろう。もしも何かの不思議であの遠くを<ruby><rb>通</rb><rt>かよ</rt></ruby>う船がこっちにやってくるかもしれない。

康頼　それは<ruby><rb>神仏</rb><rt>かみほとけ</rt></ruby>の力でなくてはとてもできることではありません。

成経　それであなたは毎日<ruby><rb>卒都婆</rb><rt>そとば</rt></ruby>をつくって流すのですか。

康頼　きょうでもう九百九十五本流しました。もう五本流せば、<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>様にたてた<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>いのとおり、千本という数になります。

成経　あ。また白帆が見える。ほんとにかすかで、よく見なくては<ruby><rb>鴎</rb><rt>かもめ</rt></ruby>とまちがうくらい小さいけれど。来てごらんなさい。

康頼　わしは見ますまいよ。

成経　早く見ないとかくれてしまう。あなたは初めはわしといっしょに毎日船を見にいらしたではありませんか。

康頼　けれどとてもこの島へは来ないとあきらめたのです。あの船の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>が雲にかくれて見えなくなるときの気持ちが恐ろしくなったのです。わしは何だかあの帆を見ると、<ruby><rb>葬</rb><rt>とむ</rt></ruby>らいの行列の<ruby><rb>幡</rb><rt>はた</rt></ruby>のような気がしてなりません。

成経　何をほうむるのですか。

康頼　わたしたちの希望を！

成経　（悲しげに）あゝ、よしてください。わしのただ一つの希望に、そんな不吉な想像を<ruby><rb>描</rb><rt>えが</rt></ruby>くことは。

康頼　わしはそれよりも、<ruby><rb>日頃</rb><rt>ひごろ</rt></ruby>念ずる神様の不思議の力によって、<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰ることの許さるるよう祈ったほうがいいと思うようになりました。

成経　けれど考えてごらんなさい。その小さな<ruby><rb>卒都婆</rb><rt>そとば</rt></ruby>が何百里という遠い海を<ruby><rb>漂</rb><rt>ただよ</rt></ruby>うて都のほうの海べに着くということがありましょうか。

康頼　でも千本のうち一本くらいは。

成経　とても九州までも行きはしますまい。<ruby><rb>潮風</rb><rt>しおかぜ</rt></ruby>に吹き流されて。この島の<ruby><rb>磯</rb><rt>いそ</rt></ruby>にでも打ちあげれば、<ruby><rb>蜑</rb><rt>あま</rt></ruby>の子が拾うて<ruby><rb>薪</rb><rt>たきぎ</rt></ruby>にでもしてしまうだろう。

康頼　しかしあれには二首の歌が<ruby><rb>彫</rb><rt>ほ</rt></ruby>りつけてあります。<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>をしたう歌が。心あるものはまさか<ruby><rb>焚</rb><rt>た</rt></ruby>いてしまいはしますまい。

成経　<ruby><rb>文字</rb><rt>もんじ</rt></ruby>など読めるような人がこの島にいるものですか。言葉でもろくに通じないくらいだのに、男は<ruby><rb>烏帽子</rb><rt>えぼし</rt></ruby>もかぶらず女は<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>もさげず、はだしで山川を歩くさまはまるで<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>のようではありませんか。

康頼　あゝ。わしはあの<ruby><rb>優雅</rb><rt>ゆうが</rt></ruby>な<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>の言葉がも一度聞きたい。あの<ruby><rb>殿上人</rb><rt>てんじょうびと</rt></ruby>の<ruby><rb>礼容</rb><rt>れいよう</rt></ruby>ただしい<ruby><rb>衣冠</rb><rt>いかん</rt></ruby>と、そして美しい<ruby><rb>上﨟</rb><rt>じょうろう</rt></ruby>の<ruby><rb>品</rb><rt>ひん</rt></ruby>のよい<ruby><rb>装</rb><rt>よそお</rt></ruby>いがも一度見たい。

成経　この島の女は<ruby><rb>猿</rb><rt>さる</rt></ruby>のように<ruby><rb>醜</rb><rt>みにく</rt></ruby>い。

康頼　わしはけさ<ruby><rb>卒都婆</rb><rt>そとば</rt></ruby>を流しにいって、<ruby><rb>岸辺</rb><rt>きしべ</rt></ruby>に立ってさびしいことを考えました。わしはわし自身が<ruby><rb>丹精</rb><rt>たんせい</rt></ruby>してほりつけた歌を今さらのように読み返しました。何たるさびしい歌だろう。卒都婆は波にもまれて<ruby><rb>芦</rb><rt>あし</rt></ruby>のしげみにかくれてしまいました。わしはそれをじっと見送っていたら<ruby><rb>涙</rb><rt>なみだ</rt></ruby>がこぼれた。しかし神様には何でもできないことはないはずだ。千本の内一本でも中国あたりの浜にでも着いて心ある人に拾われたら、きっと<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>の所へ送ってくれるだろう。清盛だって<ruby><rb>鬼神</rb><rt>きじん</rt></ruby>でもあるまい。あのさびしい歌を読んで心をうごかさぬことはあるまい。あゝ。われわれがこの<ruby><rb>孤島</rb><rt>ことう</rt></ruby>でどんな暮らし方をしているかを知ったら。どんなにふるさとをしとうているかを知ったら。むかえの使いを送ってくれまいものでもない。

成経　しかしそれはあまりにおぼつかない希望だ。

康頼　神を<ruby><rb>疑</rb><rt>うたが</rt></ruby>ってはいけません。<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>は<ruby><rb>霊験</rb><rt>れいげん</rt></ruby>あらたかな神でございます。これまでかけた<ruby><rb>願</rb><rt>がん</rt></ruby>の一つとして<ruby><rb>成就</rb><rt>じょうじゅ</rt></ruby>しなかったのはありません。

成経　しかしここは紀州ではなし、<ruby><rb>那智</rb><rt>なち</rt></ruby>の滝もないではありませんか。

康頼　神はどこにでもいられます。わしがあの奥深い森を選んだのは、あたりの様子がどことなしに<ruby><rb>那智</rb><rt>なち</rt></ruby>の<ruby><rb>御山</rb><rt>みやま</rt></ruby>に似ているからです。あれは<ruby><rb>本宮</rb><rt>ほんぐう</rt></ruby>、これは<ruby><rb>新宮</rb><rt>しんぐう</rt></ruby>、一の<ruby><rb>童子</rb><rt>どうじ</rt></ruby>、二の童子とかりに所を<ruby><rb>定</rb><rt>き</rt></ruby>め、谷川の流れを那智の滝と思い、そこに<ruby><rb>飛滝権現</rb><rt>ひりゅうごんげん</rt></ruby>を形ばかりにまつりたてまつったのでございます。どんなにさびしい<ruby><rb>孤島</rb><rt>ことう</rt></ruby>に流されても、拝する神のないのは<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えられません。あの<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>のような清盛だって<ruby><rb>厳島明神</rb><rt>いつくしまみょうじん</rt></ruby>に<ruby><rb>帰依</rb><rt>きえ</rt></ruby>しているではありませんか。

成経　（あざけるように）ではわしは<ruby><rb>天魔</rb><rt>てんま</rt></ruby>でもまつりましょうよ。そしてあの清盛を<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>ってやりましょう。

康頼　わしはこの間も権現様に<ruby><rb>通夜</rb><rt>つや</rt></ruby>をして祈りました。そして祈り<ruby><rb>疲</rb><rt>つか</rt></ruby>れてうとうとしました。するとわしは不思議な夢を見たのです。<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>のほうから<ruby><rb>潮風</rb><rt>しおかぜ</rt></ruby>に吹かれて木の葉が二枚ひらひらと飛んできて、わしの<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>にかかりました。それを手に取ってみると<ruby><rb>御熊野</rb><rt>みくまの</rt></ruby>の山にたくさんある<ruby><rb>栴</rb><rt>なぎ</rt></ruby>の葉なのです。よく見るとその葉に歌が一首書いてあるのです。「ちはやふる神に祈りのしげければ、などかみやこへかえらざるべき」とありあり読みました。あゝありがたいと思ってその<ruby><rb>栴</rb><rt>なぎ</rt></ruby>の葉をいただいて目がさめたのです。

成経　それはあなたがいつも都へ帰りたい帰りたいと思っているから、そんな夢を見たのでしょう。

康頼　しかしありありと歌まで<ruby><rb>覚</rb><rt>おぼ</rt></ruby>えているのです。<ruby><rb>霊夢</rb><rt>れいむ</rt></ruby>に<ruby><rb>相違</rb><rt>そうい</rt></ruby>ありません。たとえそうでなくっても、わしはそうと信じたいのです。

成経　それであの<ruby><rb>卒都婆</rb><rt>そとば</rt></ruby>流しを思いついたのですね。

康頼　（さびしそうに）はい。

間。

成経　俊寛殿はどこへ行きましたか。

康頼　きょうも<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>にお参りなされました。

成経　あの人は神など拝むような人ではなかったが。

康頼　人間は苦しい目にあうと神を拝むようになるものですよ。今でも時々こんなことをしたって何になるなどと<ruby><rb>自暴</rb><rt>やけ</rt></ruby>になってわしにあたったり、それかと思うと絶望したように、ため息をついたりなさいます。そのくせやはり毎日お参りしていらっしゃるようです。

この時<ruby><rb>雷</rb><rt>らい</rt></ruby>のとどろくごとく、大いなる音<ruby><rb>響</rb><rt>ひび</rt></ruby>きわたる。

成経　あゝ、また山が荒れるな。

康頼　ではあしたは雨ですぞ。あの山が荒れるときっとふもとには雨が降るのだから。

成経　あしたは船の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>も見られますまい。雨降りの日ぐらいわしは不幸な気のすることはない。わしはあなたのように信心はなし、雨の<ruby><rb>漏</rb><rt>も</rt></ruby>るあばら家で衣の<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>をぬらしながら、物思いにふけると、さびしいことばかり考えられます。希望の影も見失うて、いちばんさびしいことをさえ考えますよ。……死のことをさえ。

康頼　（身ぶるいする）それを言うのはよしてください。わしはそれを考えるのを恐れているのですから。きっといい日が来ますよ。成経殿。わしたちは希望を失いますまい。<ruby><rb>権現</rb><rt>ごんげん</rt></ruby>様のご<ruby><rb>利生</rb><rt>りしょう</rt></ruby>でもきっと迎えの船が来て、<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へかえることができるでしょう。

成経　それはあの山から煙の出ない日を待つよりも、はかないことかもしれない。

康頼　でもあの山で<ruby><rb>硫黄</rb><rt>いおう</rt></ruby>を取って、集めてそれを<ruby><rb>漁師</rb><rt>りょうし</rt></ruby>の魚や野菜と交換しなかったら、わしたちはどうして生きてゆくのでしょう。

成経　あの年に一度九州から硫黄を取りに来る船に頼んで、せめて九州の地まで行くことはできますまいか。九州の地にさえ着けばそこからは都へ通う船は多いのだから。

康頼　わしらが飛ぶ鳥も落とす<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>に<ruby><rb>謀叛</rb><rt>むほん</rt></ruby>して、島流しになってる身であることを、知らない者はありません。とても船にのせてはくれません。島の漁師たちさえわしらを恐れて近づかぬではありませんか。

成経　何とかして<ruby><rb>商人</rb><rt>あきんど</rt></ruby>をだまして九州まで行けば、どこかに<ruby><rb>隠</rb><rt>かく</rt></ruby>れて時期をうかがうこともできるだろう。

康頼　草の<ruby><rb>陰</rb><rt>かげ</rt></ruby>、<ruby><rb>洞</rb><rt>ほら</rt></ruby>のすみを捜しても、あの清盛が見つけ出さずにはおきますまい。そうなったら今度はとても生かしてはおきますまい。

成経　（絶望したように）あゝ。わしは人間というものがこのようなさびしい、<ruby><rb>乏</rb><rt>とぼ</rt></ruby>しい状態に<ruby><rb>陥</rb><rt>おちい</rt></ruby>り得るものとは思わなかった。いや、それよりもかような<ruby><rb>寂寞</rb><rt>せきばく</rt></ruby>と欠乏とに<ruby><rb>耐</rb><rt>た</rt></ruby>えてもなお<ruby><rb>生</rb><rt>せい</rt></ruby>を欲するものとは思わなかった。わしがもし死を願うことができたなら！　わしはたびたびそう思うのです。もしわしがわしのただ一つの希望を失ってしまったら、も一度<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰れるかもしれないという、かすかな、何のよりどころもないこの空想を。（悲しげに）あゝこの空想を<ruby><rb>描</rb><rt>えが</rt></ruby>く勇気をもはや失ってしまったなら、わしは<ruby><rb>泥</rb><rt>どろ</rt></ruby>のようにくずれて死んでしまうであろうと。そしてそのほうがかえって幸福かもしれないと。けれど<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>に立ってたまさかに遠くの沖をかすめて通る船の影を見ると、わしには再び希望が<ruby><rb>媚</rb><rt>こ</rt></ruby>びるように浮かんでくるのです。わしをからかうように、じらすように、幸福をのせてゆく船、やがて恋しいふるさとの<ruby><rb>岸辺</rb><rt>きしべ</rt></ruby>に着く船、<ruby><rb>疲</rb><rt>つか</rt></ruby>れた旅人はあたたかい<ruby><rb>団欒</rb><rt>まどい</rt></ruby>に加わるうれしさに船を急がせているのだろう。

康頼　（顔をおおう）妻や子のことを考えるのは恐ろしい。

成経　わしの子はもう<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>を<ruby><rb>結</rb><rt>ゆ</rt></ruby>うほどになっているはずです。別れる時に三つだったから。<ruby><rb>乳母</rb><rt>うば</rt></ruby>の六条の<ruby><rb>膝</rb><rt>ひざ</rt></ruby>にのって、いつも院の<ruby><rb>御所</rb><rt>ごしょ</rt></ruby>に<ruby><rb>出仕</rb><rt>しゅっし</rt></ruby>する時と同じように、何もしらないで<ruby><rb>片言</rb><rt>かたこと</rt></ruby>を言ってわしに話しかけていました。門の外にはいかめしく武装した<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>の兵士らがわしの車を<ruby><rb>擁</rb><rt>よう</rt></ruby>して待っていた。彼らのある者は<ruby><rb>剣</rb><rt>つるぎ</rt></ruby>や<ruby><rb>槍</rb><rt>やり</rt></ruby>で<ruby><rb>扉</rb><rt>と</rt></ruby>をこわれるほどたたいて早く早くと<ruby><rb>促</rb><rt>うなが</rt></ruby>していた。妻はまっさおな顔をしてふるえていた。わしの<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>をつかんで、おゝ妻は<ruby><rb>妊娠</rb><rt>にんしん</rt></ruby>だったのだ。わしは<ruby><rb>無礼</rb><rt>ぶれい</rt></ruby>な野武士らの前にひざまずいて、<ruby><rb>乞食</rb><rt>こじき</rt></ruby>のごとくに<ruby><rb>哀願</rb><rt>あいがん</rt></ruby>した。ただ出発をほんの五分間延ばすことを。ただ一口妻をはげます言葉をかけてやるために、そして<ruby><rb>伜</rb><rt>せがれ</rt></ruby>の<ruby><rb>頭髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>を別れのまえにも一度なでてやるために！

康頼　あゝ、わしがあの時に受けた<ruby><rb>屈辱</rb><rt>くつじょく</rt></ruby>を思えば胸が悪くなる！

成経　野武士らはわしの<ruby><rb>懇願</rb><rt>こんがん</rt></ruby>を<ruby><rb>下等</rb><rt>かとう</rt></ruby>な<ruby><rb>怒罵</rb><rt>どば</rt></ruby>をもって拒絶した。そして扉を破って<ruby><rb>闖入</rb><rt>ちんにゅう</rt></ruby>し、<ruby><rb>武者草鞋</rb><rt>むしゃわらじ</rt></ruby>のままでわしの<ruby><rb>館</rb><rt>やかた</rt></ruby>を<ruby><rb>蹂躪</rb><rt>じゅうりん</rt></ruby>した。わしはすぐに飛び出て馬車に乗った。彼らが妻を<ruby><rb>侮辱</rb><rt>ぶじょく</rt></ruby>することを恐れたから。

康頼　<ruby><rb>北</rb><rt>きた</rt></ruby>の<ruby><rb>方</rb><rt>かた</rt></ruby>はどうされました。

成経　母は父の<ruby><rb>安否</rb><rt>あんぴ</rt></ruby>ばかり心配して泣いていました。そしてなぜわしがかかる恐ろしいことを<ruby><rb>企</rb><rt>くわだ</rt></ruby>てたかをかきくどきました。父はその朝院に<ruby><rb>出仕</rb><rt>しゅっし</rt></ruby>する途中を<ruby><rb>捕</rb><rt>とら</rt></ruby>えられたのです。

康頼　あゝ。<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>はどうされたやら。

成経　父のことを思うのはわしの<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>です。<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>は<ruby><rb>謀叛</rb><rt>むほん</rt></ruby>の<ruby><rb>巨魁</rb><rt>きょかい</rt></ruby>として父をもっとも<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>んでいました。清盛が父を捕えていかに<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしゅう</rt></ruby>的に侮辱したか。わしはそれを聞いた時むしろ死を欲しました。わしは馬車の中で<ruby><rb>警固</rb><rt>けいご</rt></ruby>の武士らに父の安否をききました。彼らは詳しく詳しく語りました。不必要な微細なことまで。わしをはずかしめるために。清盛は西八条の<ruby><rb>邸</rb><rt>やしき</rt></ruby>で父を地べたにけり落としたそうです。その時父が<ruby><rb>冠</rb><rt>かんむり</rt></ruby>をたたき落とされて、あわてて拾おうとしたことまで彼らは語りました。その時清盛がまたけったので父は<ruby><rb>鼻柱</rb><rt>はなばしら</rt></ruby>が<ruby><rb>砕</rb><rt>くだ</rt></ruby>けて黒血がたれた。その時清盛は二人の武士に命じて左右から父の手を捕えて地べたにねじ伏せさせ、「彼にわめかせろ」と言ったそうです。二人の<ruby><rb>侍</rb><rt>さむらい</rt></ruby>はさすがに気の毒になって、小さい声で耳もとにささやいて「何とでもいいから声をたてなさい」と言った。するとおゝ何たることでしょう。父はつくり声で悲鳴をあげたそうです。清盛は大笑いして勝ち<ruby><rb>誇</rb><rt>ほこ</rt></ruby>ったようにふすまをあけて出ていった。その時の父には無念の表情よりもむしろ<ruby><rb>責苦</rb><rt>せめく</rt></ruby>をのがれた<ruby><rb>安堵</rb><rt>あんど</rt></ruby>の色が見えた。こういうことをはたで見ていたと言って、明らかにわしをからかう<ruby><rb>意図</rb><rt>いと</rt></ruby>を見せて詳しく詳しく語りました。そして彼らは父がかかる<ruby><rb>怯懦</rb><rt>きょうだ</rt></ruby>なる<ruby><rb>器量</rb><rt>きりょう</rt></ruby>をもって、<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>を倒そうともくろんだのは、全く<ruby><rb>烏滸</rb><rt>おこ</rt></ruby>の沙汰であると放言しました。むろん、わしは彼らの話の<ruby><rb>細部</rb><rt>さいぶ</rt></ruby>は信じなかった。しかし黙って聞いていなくてはならなかったのです。

康頼　いつもは私の車の<ruby><rb>先払</rb><rt>さきばら</rt></ruby>いの声にもふるえあがった<ruby><rb>青侍</rb><rt>あおざむらい</rt></ruby>が、急に征服者のように<ruby><rb>傲慢</rb><rt>ごうまん</rt></ruby>な態度をもってのぞみだした。彼らと車を同じくすることだけでも<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えられない<ruby><rb>恥辱</rb><rt>ちじょく</rt></ruby>と思っていたのに！

成経　わしは同志の<ruby><rb>安否</rb><rt>あんぴ</rt></ruby>を気づかいました。しかしだめだった。彼らは何ごとをも<ruby><rb>隠</rb><rt>かく</rt></ruby>して語らなくなったから、わしは<ruby><rb>牢獄</rb><rt>ろうごく</rt></ruby>の中で幾たびも<ruby><rb>壁</rb><rt>かべ</rt></ruby>に頭を打ちつけて死のうとしました。彼らはわしの武器を取り上げてしまったから、しかし死にきれなかった。わしは死にきれない自分を恥じた。しかし<ruby><rb>骨肉</rb><rt>こつにく</rt></ruby>の愛と清盛に対する<ruby><rb>復讐心</rb><rt>ふくしゅうしん</rt></ruby>とがわしを死にきれさせなかった。

康頼　<ruby><rb>侮辱</rb><rt>ぶじょく</rt></ruby>されながら、しかも自殺できないほどの<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>がありましょうか。それは実に一種言いようのない<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">わるい</span>状態です。

成経　清盛めは父とわしとを同じ<ruby><rb>備前</rb><rt>びぜん</rt></ruby>の国に流しました。

康頼　さすがに気の毒に思ったのでしょう。

成経　<ruby><rb>重盛</rb><rt>しげもり</rt></ruby>が<ruby><rb>懇願</rb><rt>こんがん</rt></ruby>したからです。しかし結果は<ruby><rb>残酷</rb><rt>ざんこく</rt></ruby>ないたずらと同じになりました。ちょうど中を<ruby><rb>隔</rb><rt>へだ</rt></ruby>てた一つの<ruby><rb>檻</rb><rt>おり</rt></ruby>に親子の<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>をつなぐように。わしの<ruby><rb>配所</rb><rt>はいしょ</rt></ruby>の<ruby><rb>児島</rb><rt>こじま</rt></ruby>と父の配所の<ruby><rb>有木</rb><rt>ありき</rt></ruby>の別所とは間近いのです。しかも決してあうことは許されないのです。その欠乏と恥辱との報知だけはしきりに聞こえるけれども。（間。顔色が悪くなる）ついにわしは父が殺されたといううわさを聞きました。しかしその<ruby><rb>真否</rb><rt>しんぴ</rt></ruby>を確かめることができないうちに、この<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島に移されてしまった。

康頼　それはきっと<ruby><rb>虚報</rb><rt>きょほう</rt></ruby>でしょう。<ruby><rb>重盛</rb><rt>しげもり</rt></ruby>が生きている限りはよもや<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>を殺させはしますまい。自分の愛する妻の兄を！　たとえ<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>が何と言いはっても。

成経　（頭を振る）いや虚報ではありますまい。虚報にしては、あまりに<ruby><rb>細部</rb><rt>さいぶ</rt></ruby>にわたった報知だったから。清盛は父をひどく<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>んでいました。彼は自分の<ruby><rb>憎悪</rb><rt>ぞうお</rt></ruby>を<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしゅう</rt></ruby>せずに制することのできるようなやつではありません。<ruby><rb>西光</rb><rt>さいこう</rt></ruby>殿をあらゆる<ruby><rb>残酷</rb><rt>ざんこく</rt></ruby>な<ruby><rb>拷問</rb><rt>ごうもん</rt></ruby>によって白状させたあとで、その口を引きさいて首をかけたほどの清盛です。あゝ彼らは父を殺すのにどんな恥ずべき手段を用いたことか！

康頼　重盛に秘して、<ruby><rb>暗夜</rb><rt>あんや</rt></ruby>に<ruby><rb>刺客</rb><rt>しかく</rt></ruby>を<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>び込ませましたか。

成経　彼らは<ruby><rb>鼠</rb><rt>ねずみ</rt></ruby>をたおすに用いる毒薬を食に盛って、父を毒害しようとしました。父が病死したと言って重盛をあざむくために。しかしそれが成功しなかったので、（よろめく）あゝ、ほとんど信ずることのできないような残酷な方法です、<ruby><rb>芦</rb><rt>あし</rt></ruby>の密生している高い<ruby><rb>崖</rb><rt>がけ</rt></ruby>の上に連れ出して、後ろから突き落としたのです。父は芦に<ruby><rb>串刺</rb><rt>くしざ</rt></ruby>しにされて<ruby><rb>悶死</rb><rt>もんし</rt></ruby>したそうです。そして父が<ruby><rb>踏</rb><rt>ふ</rt></ruby>みすべって落ちたと言いふらさせたのです。

康頼　（耳をおおう）あゝ。わしは聞くに<ruby><rb>耐</rb><rt>た</rt></ruby>えない。

成経　その残酷な父の最後を聞きながら、<ruby><rb>一指</rb><rt>いっし</rt></ruby>をも<ruby><rb>仇敵</rb><rt>きゅうてき</rt></ruby>に触れることのできない境遇にあることは恐ろしい。その境遇にありながら、死にきれない身はなお恐ろしい。（顔をおおい、くず折れる）

間。

康頼　（森のほうより通ずる道を見る。いたく心を動かされたるさまにて）俊寛殿が帰って来られます。

成経　（顔を上げ、向こうを見る）何か考え込んでいられますね。

康頼　まるで<ruby><rb>蜻蛉</rb><rt>かげろう</rt></ruby>のようにやせている。

成経　ひょろひょろして今にも倒れそうな足どりをしている。

康頼　あゝ、影のような力ない人間の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>だ。

成経　わしはまるで人間のような感じがしません。木の<ruby><rb>株</rb><rt>かぶ</rt></ruby>が歩いているような。それとも石のきれか。

康頼　あゝ、立ち止まりました。岩にもたれてため息をついている。<ruby><rb>疲</rb><rt>つか</rt></ruby>れたのでしょう。

成経　<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>のほうを見ています。

康頼　いや、何も見ているのではありません。<ruby><rb>空虚</rb><rt>くうきょ</rt></ruby>な目つきをしています。

成経　あゝ墓石だ。ああしてじっとして動かないところはまるで墓石だ。

康頼　（身ぶるいする）あゝ。

俊寛　（登場。ため息をつきつつ、海を見入る）

成経　呼んでやりましょう。わしらにも気がつかないのだ。

康頼　（二、三歩あゆむ）俊寛殿。

俊寛　（じっとしている）

成経　（声高く）俊寛殿。

俊寛　（二人のそばに近づく）わしに力を与えてください。わしをはげましてください。わしは絶えいりそうです。

成経　（俊寛を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>く）今希望を失う時ではありません。

康頼　あゝ神々よ。

俊寛　わしはその名を呼ぶのがいやになりました。われわれにこの<ruby><rb>悲運</rb><rt>ひうん</rt></ruby>を与えた神に祈るのが。正しきものの名によって兵をくわだてた勇士をかかる<ruby><rb>悲惨</rb><rt>ひさん</rt></ruby>な境遇に<ruby><rb>陥</rb><rt>おちい</rt></ruby>らしめ、そして王法の敵にかかる<ruby><rb>栄</rb><rt>さか</rt></ruby>えをあたうるごとき不合理な神々の前に、<ruby><rb>乞食</rb><rt>こじき</rt></ruby>のごとくに伏してあわれみを求めることが！

康頼　神々は正しく<ruby><rb>照覧</rb><rt>しょうらん</rt></ruby>していられます。<ruby><rb>耐</rb><rt>た</rt></ruby>えしのんで祈ってあきなかったらいつかはわれわれの日がきっと来るでしょう。

俊寛　あなたはほんとうにそう信じるのですか。

康頼　信じています。

俊寛　ほんとうですか。

康頼　ほんとうに信じています。

俊寛　（康頼の顔を見る）うそではありますまいね。

康頼　（顔をそむける）うそではありません。

俊寛　どうぞきょうばかりはほんとうにいってください。わしは一生懸命なのですから。わしを<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めようと思って<ruby><rb>偽</rb><rt>いつわ</rt></ruby>りの<ruby><rb>証</rb><rt>あかし</rt></ruby>をたてないでください。わしはきょうも<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>に<ruby><rb>日参</rb><rt>にっさん</rt></ruby>して祈りました。しかしだめです。わしはほんとうに信じていないのですから。祈りの心はすぐにかれます。わしは宮の周囲にはえた<ruby><rb>不格好</rb><rt>ぶかっこう</rt></ruby>な<ruby><rb>樹立</rb><rt>こだち</rt></ruby>と、そしてちょろちょろと落ちる谷水を見ていると、何とも言えない欠乏の感じにうたれました。その感じは祈りとか望みとかいうような、すべての<ruby><rb>潤</rb><rt>うるお</rt></ruby>うた感じを殺してしまうようないやなものでした。いったいこの島にはえている草や木はどうしてこんなに<ruby><rb>醜</rb><rt>みにく</rt></ruby>いのでしょう。わしはすべての陰気なものを生み出すような<ruby><rb>祠</rb><rt>ほこら</rt></ruby>の陰の<ruby><rb>湿地</rb><rt>しっち</rt></ruby>にぐじゃぐじゃになって、むらがりはえた一種異様な<ruby><rb>不気味</rb><rt>ぶきみ</rt></ruby>な色と形をした無数の<ruby><rb>茸</rb><rt>きのこ</rt></ruby>を見つけました。その時わしはたまらなくなって立ち上がりました。わしは<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>の<ruby><rb>祠</rb><rt>ほこら</rt></ruby>を拝んでいるのではないかという気がしたのです。

康頼　（力なく地面を見つつ）<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>の底にも神はいられます。

俊寛　あゝ、あなたがそのとおりの言葉をもっと自信をもって言ってくだすったら！

康頼　<ruby><rb>法華経</rb><rt>ほけきょう</rt></ruby>の中にも<ruby><rb>入於大海仮使黒風吹其船舫飄堕羅刹鬼国其中一人称観世音菩薩名者是諸人等皆得解脱羅刹之難</rb><rt>じゅおたいかいけしこくふうずいきせんぼうひょうだらせっきこくきちゅういちにんしょうかんぜおんぼさつみょうしゃぜしょにんとうかいとくげだつらせつしなん</rt></ruby>とかいてあります。

俊寛　<ruby><rb>権威</rb><rt>けんい</rt></ruby>をもって言ってください。それはうそではありませんか、あなたは信じますか。

康頼　（うつむく）わしはそれを信じます。

俊寛　（ため息をつく）あゝ、あなたは<ruby><rb>囚徒</rb><rt>しゅうと</rt></ruby>のごとく不安な態度で仏の名を呼ばれます。このたいせつな<ruby><rb>証</rb><rt>あかし</rt></ruby>をたてるのにわしの顔をも見ないで――あゝ。

成経　（<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えかねたるごとく）康頼殿の唯一の希望をこわすのはよしてください。

俊寛　いや。わしはわしの唯一の希望をこわしました。

成経　（俊寛の肩をたたく）われわれは今絶望する時ではありません。われわれは最後の瞬間まで勇士としての<ruby><rb>覚悟</rb><rt>かくご</rt></ruby>を失いますまい。勇士の子孫としての<ruby><rb>誇</rb><rt>ほこ</rt></ruby>りを。あなたはあまりに衰えました、わしたちがいかにあなたに信頼しているかを思ってください。

俊寛　わしはもうその誇りを失いそうです。

成経　<ruby><rb>蘇武</rb><rt>そぶ</rt></ruby>は<ruby><rb>胡国</rb><rt>ここく</rt></ruby>との戦争に負けて、<ruby><rb>異域</rb><rt>いいき</rt></ruby>の<ruby><rb>無人</rb><rt>むにん</rt></ruby>の山に<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えた<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>のようになって、十五年間もさまよい暮らしました。しかしその困苦に<ruby><rb>耐</rb><rt>た</rt></ruby>えきってついに漢王の<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>に帰ることができたではありませんか。

俊寛　あゝ、都よ、都よ、私はその都という言葉を聞いただけでも恋しさにふるえるようだ。

成経　帰れますよ、きっとも一度その都の地を<ruby><rb>踏</rb><rt>ふ</rt></ruby>む時が来ます。

俊寛　もし<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>がも一度都へかえしてくれたら、わしは清盛がわしに加えた罪悪をも許してやり、清盛の武運を祈ってでもやろうものを。

成経　おゝ、わしはわしの耳を信ずることができない、あなたの口からそんな言葉の出るのを聞くとは思わなかった。

康頼　俊寛殿はもはや何も反省することはできないのです。夢中で言っているのです。<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>を<ruby><rb>慕</rb><rt>した</rt></ruby>うほかには何も考えられないのです。

俊寛　（耳を傾けず）妻はどうしているだろう。あの気の弱い妻は。娘はどうしたろう。もう今年は十一になるはずだ。おゝあのよく泣いて母を困らせた<ruby><rb>伜</rb><rt>せがれ</rt></ruby>はどうしたろう。あの小さな、かわゆいやつは<ruby><rb>無事</rb><rt>ぶじ</rt></ruby>に育っているだろうか。（間）もしや<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>が。（ふるえる）いや、そんなことは決してない。彼だって人間の心は持っているだろう。<ruby><rb>重盛</rb><rt>しげもり</rt></ruby>もついている。あゝそれよりももしやあの純潔な、<ruby><rb>誇</rb><rt>ほこ</rt></ruby>りをもった妻が、<ruby><rb>侮辱</rb><rt>ぶじょく</rt></ruby>されるのを恐れて、子供を<ruby><rb>刺</rb><rt>さ</rt></ruby>し殺して、<ruby><rb>自害</rb><rt>じがい</rt></ruby>しはしなかったろうか。いや決してそんなことはあるまい。わしの<ruby><rb>安否</rb><rt>あんぴ</rt></ruby>も<ruby><rb>定</rb><rt>き</rt></ruby>まらぬうちに、自害する勇気はとてもあるまい。それに<ruby><rb>有王</rb><rt>ありおう</rt></ruby>がついている。あの忠実な勇敢な<ruby><rb>下僕</rb><rt>しもべ</rt></ruby>が。他のすべての<ruby><rb>家来</rb><rt>けらい</rt></ruby>が皆そむき去っても、有王だけはきっと最後まで守護していてくれるだろう。（間）しかし、もしも、もしも。（間）わしの苦しみは<ruby><rb>決定</rb><rt>けつじょう</rt></ruby>することのできない苦しみだ。決定する材料の得られない苦しみだ。しかも死んでいるか、生きながらえて恥を<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>んでいるか、二つの<ruby><rb>凶事</rb><rt>きょうじ</rt></ruby>の<ruby><rb>中</rb><rt>うち</rt></ruby>から、決定しなくてはならないのに！　わしは人間に想像力があるのが恐ろしい。不吉な想像よ。わしを<ruby><rb>放</rb><rt>はな</rt></ruby>ってくれ。わしに息をつかせてくれ。

康頼　神様にすがりましょう。<ruby><rb>霊験</rb><rt>れいげん</rt></ruby>あらたかな<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>の<ruby><rb>利益</rb><rt>りやく</rt></ruby>によって――

俊寛　もうよしてください。神の名をきくのもいやな気がする。私は信じません。われわれの神はすでにわれらを見捨てたのではないか。正しきわれらを。そして清盛の悪を祝しているのでないか。

康頼　神のことをそんな言い方なさっては――

俊寛　ちょうど<ruby><rb>暴虐</rb><rt>ぼうぎゃく</rt></ruby>な主人に<ruby><rb>仕</rb><rt>つか</rt></ruby>える犬が、幾たび<ruby><rb>鞭</rb><rt>むち</rt></ruby>で打たれても、今度は、今度はと思って、<ruby><rb>媚</rb><rt>こ</rt></ruby>びるように尾を振っては、あわれみを<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>うような眼つきをして、泣き声をたてるのを聞くようないまいましい気がする。

康頼　（力なく）あなたはわしを犬にたとえるのですか。

俊寛　主人はほかに気にいる犬を手に入れたので、もうその犬を殺そうと<ruby><rb>無慈悲</rb><rt>むじひ</rt></ruby>に決心している。主人の興味はもはやいかにおもしろく殺そうかということにのみかかっている――

康頼　神の名のために、俊寛殿。

俊寛　（ののしるように）われわれはもはや神を捨てて<ruby><rb>外道</rb><rt>げどう</rt></ruby>を祭ったほうがいいかもしれない。

成経　（耳をおおう）わしはたたりを恐れます。

俊寛　（この前後より山鳴動することはげしくなる）みなたたりかもしれない。（何ごとかを思いだす。おののく）われら一味はもうとくからたたられているのだ。わしは今ほんとうにそう思う。わしはきょうまで<ruby><rb>隠</rb><rt>かく</rt></ruby>していたことを話してしまおう。わしはひとりでこの<ruby><rb>重荷</rb><rt>おもに</rt></ruby>を心に負うているのにもはや<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えきれなくなった。

成経　もはやこの上けがす言葉を<ruby><rb>吐</rb><rt>は</rt></ruby>くのはよしてください。

俊寛　（成経の顔を見る）あなたは何も知りませんな。<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>はわが子に語ることをも恐れていたとみえる。

成経　父が何といたしました。

俊寛　成親殿は神をけがしました。

成経　少しお<ruby><rb>慎</rb><rt>つつし</rt></ruby>みなされい。いかに<ruby><rb>自棄</rb><rt>やけ</rt></ruby>になっているとは言いながら。

俊寛　このことを知っているのはわしとあなたの父上よりほかにはない。成親殿は恐ろしいことをたくらみました。わしは一生懸命とめてみたのだ。しかし成親殿はまるで何ものかにつかれているように<ruby><rb>頑固</rb><rt>がんこ</rt></ruby>だった。わしは力の限り抵抗したけれども、彼の欲望に征服されてしまった。彼の欲望は<ruby><rb>奈落</rb><rt>ならく</rt></ruby>の底に根を持っているように強かった。

成経　この上聞くのは恐ろしい。しかしわしの耳は聞かずにはいられない。

俊寛　わしは短く話します。思いだすのも恐ろしいから。あなたは<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>が<ruby><rb>宗盛</rb><rt>むねもり</rt></ruby>と<ruby><rb>左大将</rb><rt>さだいしょう</rt></ruby>の位を争ったのを知っていますね。

成経　父は宗盛をひどく<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>んでいました。<ruby><rb>法皇</rb><rt>ほうおう</rt></ruby>は父にその位を与えたいと思っていられるのに、あの<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>がそれを<ruby><rb>妨</rb><rt>さまた</rt></ruby>げましたから。

俊寛　あの時成親殿は<ruby><rb>八幡</rb><rt>はちまん</rt></ruby>の<ruby><rb>甲良大明神</rb><rt>こうらだいみょうじん</rt></ruby>に百人の僧をこもらせて、<ruby><rb>大般若</rb><rt>だいはんにゃ</rt></ruby>を<ruby><rb>七夜</rb><rt>ななよ</rt></ruby>の間<ruby><rb>行</rb><rt>ぎょう</rt></ruby>じさせました。その時宮の前の<ruby><rb>櫺</rb><rt>れんじ</rt></ruby>の木に、<ruby><rb>男山</rb><rt>おとこやま</rt></ruby>のほうから山<ruby><rb>鳩</rb><rt>ばと</rt></ruby>が三羽飛んできて<ruby><rb>怪</rb><rt>あや</rt></ruby>しい声で鳴きつつ<ruby><rb>食</rb><rt>く</rt></ruby>らい合いをはじめました。それがいかにもしつこく、憎み合っているように、長い長い間。ついに三羽ともたおれて死んでしまうまで。わしはその時恐ろしくなって、これはきっと<ruby><rb>凶兆</rb><rt>きょうちょう</rt></ruby>だからと言って彼をとめました。しかし彼はききいれなかった。しかしあの青二才の宗盛が多くの位を飛び越えて、ついに左大将になった時に彼の<ruby><rb>怨恨</rb><rt>えんこん</rt></ruby>は絶頂に達しました。彼は<ruby><rb>上賀茂</rb><rt>かみがも</rt></ruby>の神社の後ろの森の中に<ruby><rb>呪詛</rb><rt>じゅそ</rt></ruby>の壇を築いて、<ruby><rb>百夜</rb><rt>ももよ</rt></ruby>の間<ruby><rb>吒幾爾</rb><rt>だきに</rt></ruby>の<ruby><rb>密法</rb><rt>みっぽう</rt></ruby>を行じました。宗盛を<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>い殺すために。<ruby><rb>夜陰</rb><rt>やいん</rt></ruby>の<ruby><rb>森中</rb><rt>もりなか</rt></ruby>に、<ruby><rb>鬼火</rb><rt>おにび</rt></ruby>の燃える<ruby><rb>鼎</rb><rt>かなえ</rt></ruby>の中に<ruby><rb>熱湯</rb><rt>ねっとう</rt></ruby>をたぎらせて、<ruby><rb>宗盛</rb><rt>むねもり</rt></ruby>に似せてつくった<ruby><rb>藁</rb><rt>わら</rt></ruby>人形を<ruby><rb>煮</rb><rt>に</rt></ruby>ました。悪僧らはあらゆる悪鬼の名を呼んで、<ruby><rb>咒文</rb><rt>じゅもん</rt></ruby>を唱えつつ<ruby><rb>鼎</rb><rt>かなえ</rt></ruby>のまわりをまわりました。まるで夢中で、つかれたもののように、しつこくしつこく<ruby><rb>繰</rb><rt>く</rt></ruby>り返して。

成経　父はむろんその場にいなかったのでしょうね。ただ命じてやらせたのでしょうね。

俊寛　いや。<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>は<ruby><rb>夜陰</rb><rt>やいん</rt></ruby>にまぎれて毎夜賀茂の森まで通いました。大杉の<ruby><rb>洞</rb><rt>ほら</rt></ruby>の下の壇の前にぴたりとすわっていました。顔はまっさおでしかも燃えるような目で僧らの<ruby><rb>所業</rb><rt>しょぎょう</rt></ruby>を見ていました。

成経　わしの知らぬ<ruby><rb>間</rb><rt>ま</rt></ruby>にそんな恐ろしいことが人知れずなされたとは！

俊寛　それを秘密にするために彼は恐ろしいことをしました。わしはそれを一生懸命とめたのだが。<ruby><rb>吒幾爾</rb><rt>だきに</rt></ruby>の密法は容易ならざる<ruby><rb>呪詛</rb><rt>じゅそ</rt></ruby>であって、もし神々がそれを受けない時には<ruby><rb>還着於本人</rb><rt>げんちゃくおほんにん</rt></ruby>と言って<ruby><rb>詛</rb><rt>のろ</rt></ruby>ったものに呪詛がかえるのだからといって。

康頼　あゝ、よしてください。この上もはや成経殿を――

成経　言ってください。早く言ってください。

俊寛　<ruby><rb>満願</rb><rt>まんがん</rt></ruby>の夜成親殿は秘密の<ruby><rb>露顕</rb><rt>ろけん</rt></ruby>することを恐れて七人の僧侶を殺して、その<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>を地の中に埋めました。

成経　おゝ。（石のごとくかたくなる）

俊寛　それからは彼の企てることは恐ろしいことばかりになった。宗盛は死ななかった。そして平家の一門がますます栄えるにつれて、彼の<ruby><rb>怨恨</rb><rt>えんこん</rt></ruby>はいよいよつのるばかりだった。彼はいかにして平家を<ruby><rb>転覆</rb><rt>てんぷく</rt></ruby>して<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>みを<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしゅう</rt></ruby>すべきかをばかり考えるらしかった。彼はまるで怨恨の<ruby><rb>権化</rb><rt>ごんげ</rt></ruby>のようにわしには見えた。

成経　あゝ悪魔が父を<ruby><rb>魅</rb><rt>み</rt></ruby>入ったのか。

俊寛　（ふるえる）あゝ今恐ろしい考えがわしの心に起こった。まるで<ruby><rb>陰府</rb><rt>よみ</rt></ruby>からわき上がりでもしたように。

康頼　（<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えかねたるごとく制するごとき手つきをしつつ）俊寛殿。俊寛殿。

俊寛　（つかれたもののごとく）<ruby><rb>怨霊</rb><rt>おんりょう</rt></ruby>だ。怨霊だ。

康頼　成経殿の心臓の止まらないために！

俊寛　わしはこの思いつきにふるえる。<ruby><rb>信頼</rb><rt>のぶより</rt></ruby>の怨霊が<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>にのりうつったのだ。あの<ruby><rb>平治</rb><rt>へいじ</rt></ruby>の乱に<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>に<ruby><rb>惨殺</rb><rt>ざんさつ</rt></ruby>された信頼の怨霊が。

成経　あゝ<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>われたる父よ。（よろめく）

俊寛　<ruby><rb>保元</rb><rt>ほうげん</rt></ruby>の乱に<ruby><rb>頼長</rb><rt>よりなが</rt></ruby>の墓をあばいた<ruby><rb>信西</rb><rt>しんぜい</rt></ruby>は、頼長の霊に<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>われて<ruby><rb>平治</rb><rt>へいじ</rt></ruby>の乱には信頼に墓をあばかれた。信西の霊は清盛について、信頼を殺させた。今信頼の霊は成親殿にのりうつった。

成経　おゝ神々よ。

俊寛　しかし成親殿は世にもみじめな最後をとげた。父の<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>みを相続するものは子でなくてはなるまい。成親殿の怨霊はあなたにつくに相違ない。

成経　あなたは悪とたたかって難にあったわれわれをいたずらに<ruby><rb>醜</rb><rt>みにく</rt></ruby>い<ruby><rb>復讐心</rb><rt>ふくしゅうしん</rt></ruby>を満たそうとして失敗したあわれむべき破産者におとしてしまおうとするのか。正義に<ruby><rb>殉</rb><rt>じゅん</rt></ruby>じた父をただの犬死にさせ、あの<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えられないほどな<ruby><rb>恥</rb><rt>はじ</rt></ruby>な最後にも相当していたような、醜い人間にしてしまおうとするのか。（俊寛につめ寄せる）

康頼　（なだめるように）<ruby><rb>成親殿</rb><rt>なりちかどの</rt></ruby>は今は平和に眠っていられるとわしは思います。

俊寛　（苦しそうに）その正義の観念の上にはっきり立っていられなくなりだしたのがわしの苦しみなのだ。いかなる<ruby><rb>困苦</rb><rt>こんく</rt></ruby>と欠乏とに<ruby><rb>悩</rb><rt>なや</rt></ruby>もうとも自分は正しきものである！　かく考えることによってわしは自分の不幸を支えていた。しかしわしはそれがあやしくなりだした。わしは勢いに巻き込まれたのだという気がする。他人の欲望――というよりも、むしろ<ruby><rb>無始</rb><rt>むし</rt></ruby>以来結ぼれて解けない人間の<ruby><rb>怨讐</rb><rt>おんしゅう</rt></ruby>の大<ruby><rb>渦</rb><rt>うず</rt></ruby>のなかに巻き込まれたのだという気がする。わしたちがもしことを起こさなかったらだれかがきっと起こしたろう。われわれはただ選ばれたのにすぎない。<ruby><rb>三界</rb><rt>さんがい</rt></ruby>をさまようている<ruby><rb>怨霊</rb><rt>おんりょう</rt></ruby>につかれたのにすぎない。

康頼　あなたは自分でつくりだした恐ろしいまぼろしで自分を苦しめていられるのだ。

俊寛　わしはわしのしぶとい性質を<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>う。しかしわしはだめだ。わしは人間の悪が根深い根深いものに見える。二人や三人の力で抵抗しても何の苦もなく押しくずされるような気がする。わしの父、父の父、またわしのあずかり知らない他人、その祖先、無数の人々の結んだ<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>みが一団になって渦巻いている。わしはその中に<ruby><rb>遊泳</rb><rt>ゆうえい</rt></ruby>しているにすぎない。わし自身の欲望はその大いなる霊の欲望に征服される。そしてその欲望を自分の欲望だと思ってしまう。あゝわしはこの間恐ろしい夢を見た。いや、夢ではない。まぼろしだ。わしは<ruby><rb>白昼</rb><rt>はくちゅう</rt></ruby>に見たのだから。それは無数の霊の空中に<ruby><rb>格闘</rb><rt>かくとう</rt></ruby>する恐ろしい光景であった。わしは武器の<ruby><rb>鏗鏘</rb><rt>こうそう</rt></ruby>として鳴る音を空中に聞いた。そのあるものは<ruby><rb>為義</rb><rt>ためよし</rt></ruby>のようであった。そのあるものは<ruby><rb>信西</rb><rt>しんぜい</rt></ruby>のようであった。彼らは叫び、<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>い、<ruby><rb>刃</rb><rt>やいば</rt></ruby>をもって互いに<ruby><rb>傷</rb><rt>きず</rt></ruby>つけた。その争闘ははてしないように見えた。ついに幻影の<ruby><rb>群勢</rb><rt>ぐんぜい</rt></ruby>は格闘しながら海の中へ没した。そしてわしは地に倒れた。

康頼　あなたは頭が変になりかけているのだ。夜も眠らずにあまり思いつめるから。心を静めるようにしなくてはあなたが狂気することをわしは恐れる。

俊寛　わしはむしろ気ちがいになりたい。そしてこの昼夜<ruby><rb>間断</rb><rt>かんだん</rt></ruby>のない<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>から<ruby><rb>免</rb><rt>のが</rt></ruby>れたい。

成経　あなたはわしの<ruby><rb>誇</rb><rt>ほこ</rt></ruby>りをも、康頼殿の信仰をもこわしてしまおうとするのだ。そして自分の心をもかき乱してしまおうとするのだ。

俊寛　あゝ、わしはだめだ。わしは自分を<ruby><rb>支</rb><rt>ささ</rt></ruby>えることができない。支えるものが一つもない。わしの<ruby><rb>魂</rb><rt>たましい</rt></ruby>が<ruby><rb>亡</rb><rt>ほろ</rt></ruby>んでゆくのをはっきりした意識で見ているのは<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えられない。

成経　わしはあなたを見ているのは堪えられない苦痛になりだした。あなたはだんだん荒くなられる、あなたと毎日いっしょに暮らさなければならないことはわしの重荷になりだした。あなたはわしたちに不幸と絶望との息を<ruby><rb>吐</rb><rt>は</rt></ruby>きかける。そしてわしたちに<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めを与えてくれないばかりでなく、わしたちから何の慰めをも受け取ろうとしない。

俊寛　おゝ、あなたは何を言いますか。これほど慰めに<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えているわしに！　（いらだつ）ただわしは知ってきた。あなたがたはもはやわしに送る何の力も持っていられない。<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>は餓鬼に求めても何ものをも与えられない。

成経　（くちびるをふるわす）あなたは餓鬼かもしれない。だがわしは名誉ある武士のすえだ。正義の<ruby><rb>殉教者</rb><rt>じゅんきょうしゃ</rt></ruby>の子だ。

俊寛　七人の僧を暗殺し、神をけがしたものの子だ。

成経　あなたは父の墓をあばいて、<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>に<ruby><rb>唾</rb><rt>つば</rt></ruby>を<ruby><rb>吐</rb><rt>は</rt></ruby>きかける気か。（俊寛にせまる）

俊寛　（自暴的に）わしは、わしの顔に唾を吐きかけたい。

康頼　（涙ぐむ）よしてください。よしてください。何というあさましいことだろう。わしたちが争い合わなくてはならないとは。わしは思い出さずにはいられない。わしたちのこの島に着いた<ruby><rb>当初</rb><rt>とうしょ</rt></ruby>のあの美しい一致を！　わしたちはあたたかくかたまって一団となっていた。不幸とさびしさは三人の心をかたく結合していた。わしはその愛のために死にたいとさえ思っていた。わしたちはこの欠乏と<ruby><rb>艱苦</rb><rt>かんく</rt></ruby>との中にあって、友情をさえ失わなければならないのか。わしはあなたがたがだんだん不和になってゆくのを見ているのは実に苦しい。いつも<ruby><rb>仲裁</rb><rt>ちゅうさい</rt></ruby>者の位置に立たねばならぬのはたまらない。わしがいなかったらあなたがたは互いに飛びかかるようになりはしないかと思うと恐ろしい。<ruby><rb>檻</rb><rt>おり</rt></ruby>の中の<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>のように。

成経　（涙ぐむ）わしはあまりの<ruby><rb>侮辱</rb><rt>ぶじょく</rt></ruby>には<ruby><rb>耐</rb><rt>た</rt></ruby>えられない。わしはいつも<ruby><rb>忍耐</rb><rt>にんたい</rt></ruby>を用意しているにはあまりに余裕のない心でくらしている。わしはそれどころではないのだ。わしは不平でくずれそうなのだ。

俊寛　わしはなぜこうなのだろう。わしは<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>われた人間だ。わしの<ruby><rb>魂</rb><rt>たましい</rt></ruby>の中には荒らす要素がある。わしの行くところはきっと平和がなくなる。わしは小さい時からそのために皆にきらわれてきたのだ。その気質を自分でどんなにきらったろう。しかし変えることができなかったのだ。わしの祖父の血がそうなのだ。わが<ruby><rb>氏</rb><rt>うじ</rt></ruby>の<ruby><rb>遺伝</rb><rt>いでん</rt></ruby>なのだ、わしの運命は不幸になるにきまっていたのだ。いやわしの魂をつくっている要素、わしそのものが不幸なのだ。わしの魂は<ruby><rb>鎌首</rb><rt>かまくび</rt></ruby>をもたげていつもうろうろしている。心の<ruby><rb>座</rb><rt>ざ</rt></ruby>が定まらない。わしは失われる人間なのか。<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>におちる人間なのか。（ほとんど<ruby><rb>慟哭</rb><rt>どうこく</rt></ruby>に近いため息）あゝ。

康頼　（傍白）あゝ何という不幸な目つきだろう。暗い影が一ぱいさしている。

三人沈黙。山鳴りいよいよ激しくなる。

成経　あゝまた山が荒れるな。

康頼　<ruby><rb>明日</rb><rt>あした</rt></ruby>はいよいよ雨だな。（空を仰ぎ<ruby><rb>嘆息</rb><rt>たんそく</rt></ruby>す）あのしつこい。退屈な。

成経　（力なく）明日はしけだ。船の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>も見られぬわい。

俊寛　（山のほうを見る）あゝ。あの山くらいいやな山はない。まるでわしたちを呪ってでもいるようだ。（ふるえる）わしの魂の<ruby><rb>来世</rb><rt>らいせ</rt></ruby>の行く先を暗示してでもいるようだ！

康頼　おゝ。神々よ。（ひざまずく）やわらぎたまえ。

三人沈黙。も一度激しき山の鳴動。その後を単調な<ruby><rb>弾力</rb><rt>だんりょく</rt></ruby>のない波の音ひびく。

――幕――

  


第二幕

第一場

第一幕と同じさびしき<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>。<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>の前。横手に<ruby><rb>貧</rb><rt>まず</rt></ruby>しき森。その一端に荒き<ruby><rb>丸太</rb><rt>まるた</rt></ruby>にてつくれる形ばかりの<ruby><rb>鳥居</rb><rt>とりい</rt></ruby>見ゆ。

第一幕より二年後の春の暮れ。

康頼　（<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>に立って海を見入る）あゝ、この離れ島にも春が来たのか。海の色も<ruby><rb>濃</rb><rt>こ</rt></ruby>くなってきた。このふくれるように盛りあがって満ちてくる<ruby><rb>潮</rb><rt>しお</rt></ruby>の<ruby><rb>香</rb><rt>か</rt></ruby>の<ruby><rb>悩</rb><rt>なや</rt></ruby>ましさ！　わしはこの島の春がいちばん苦しい。わしの<ruby><rb>郷愁</rb><rt>きょうしゅう</rt></ruby>を<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えがたいほど<ruby><rb>誘</rb><rt>さそ</rt></ruby>うから。<ruby><rb>乏</rb><rt>とぼ</rt></ruby>しい<ruby><rb>草木</rb><rt>くさき</rt></ruby>も春の<ruby><rb>装</rb><rt>よそお</rt></ruby>いをしている。わしは<ruby><rb>昨日</rb><rt>きのう</rt></ruby>森の中を<ruby><rb>終日</rb><rt>ひねもす</rt></ruby>花を捜して歩いた。<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>にあるような花は一つもなく、皆わしの名を知らぬ花ではあったけれど、それでもわしに春のこころを告げてくれた。<ruby><rb>交野</rb><rt>かたの</rt></ruby>や<ruby><rb>嵐山</rb><rt>あらしやま</rt></ruby>の春を思えばたまらない。<ruby><rb>桜</rb><rt>さくら</rt></ruby>の花のなかに車をきしらせた春を思えば。つんだ花を一ぱい車の中にまいて、歌合わせをして遊んだ昔の女たちを思えば。わしはむしろ死を願う。彼の女らは皆わしに好意を持っていた。わしはやさしくて趣味がすぐれていたから、わしがたわむれに<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>を握って言い寄った時に、あの機知のある歌をつくってわしをたしなめた美しい<ruby><rb>藤姫</rb><rt>ふじひめ</rt></ruby>はどうしたろう。（間）あゝ、わしの幸福は過ぎてしまったのだ。（<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>を歩む）何というさびしい春だろう！　きょうもまた砂浜を走って波とたわむれて遊ぼうか。（<ruby><rb>汀</rb><rt>みぎわ</rt></ruby>をつたう）あゝ<ruby><rb>浜千鳥</rb><rt>はまちどり</rt></ruby>よ。わしの思いをお前が<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>にはこんでくれたら！

成経　（叫びながら登場）<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>だ。これほどあさましくなれば申し分はない。

俊寛　（手を振りつつ成経を追うて登場）待て。あなたはまちがえている。もしあなたの<ruby><rb>獲物</rb><rt>えもの</rt></ruby>なら、わしはあえて取ろうとは思わない。（小鳥の<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>を投げつける）

成経　（康頼に）わしは驚いた。わしはあきれた。

俊寛　（康頼に）わしは無理にわしの獲物だというのではないのだ。

康頼　（悲しげに）あなたがたは獲物の争いまでしだしたのか。

成経　わしがたしかに<ruby><rb>射落</rb><rt>いお</rt></ruby>とした鳥を横取りしようとするのだ。わしの矢が立っているのに！

俊寛　わしはわしが射落としたと思ったのだ。たとえわしが射落としたにせよ、わしがこんなに<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えていなかったら、成経殿に<ruby><rb>譲</rb><rt>ゆず</rt></ruby>っただろう。たかが小鳥一羽ぐらい！

成経　わしは他人の<ruby><rb>惜</rb><rt>お</rt></ruby>しみのかかった獲物をほしいとは思わない。（俊寛の前に小鳥をたたきつける）持ってゆけ！

俊寛　持ってゆけ！　（弓ではね飛ばす）

成経　わしはいらない。<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>われでもしたらたいへんだ。

俊寛　（あざけるごとく）あなたの父ではあるまいし。

成経　（火のごとく怒る）もう一度言ってみよ。墓場に眠っている父を<ruby><rb>侮辱</rb><rt>ぶじょく</rt></ruby>されるのが子にとってどんなものだか！　（弓を取って詰め寄せる）

俊寛　わしを<ruby><rb>射</rb><rt>い</rt></ruby>る気か。（身構えする）

成経　武器を取れ。わしはお前の言葉の<ruby><rb>価</rb><rt>あたい</rt></ruby>をお前に知らせてやる！

康頼　（成経を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>きとめる）成経殿。軽はずみをしてあとで<ruby><rb>悔</rb><rt>く</rt></ruby>いないために！　あなたは敵をほうるようにして友をころす気か！

成経　彼がわしの友だろうか。この荒い言葉と<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>いの言葉を<ruby><rb>吐</rb><rt>は</rt></ruby>き出す<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>のようなやつが。

俊寛　わしを殺せ。わしは死を願う。わしの<ruby><rb>境涯</rb><rt>きょうがい</rt></ruby>は餓鬼道より少しもまさってはいない。

康頼　（成経と俊寛との間に身を投げる）あゝ、あさましい何たることだ！　あなたがたは正気を失ったのか。わしは信じられない。愛する友が互いに呪い合い、<ruby><rb>汚</rb><rt>けが</rt></ruby>す言葉を吐き合い、互いに殺し合おうとする！　名誉ある武士のすえが、食物を争い合う。あゝ、そんなあさましいことをするよりわしは<ruby><rb>餓死</rb><rt>がし</rt></ruby>を選ぶ。わしらの間にはもう<ruby><rb>平和</rb><rt>へいわ</rt></ruby>は失われた。いっしょに暮らすことは互いの<ruby><rb>重荷</rb><rt>おもに</rt></ruby>になった。もはや何の<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めも<ruby><rb>励</rb><rt>はげ</rt></ruby>ましも互いに期待することはできないのか。あゝ、<ruby><rb>凱歌</rb><rt>がいか</rt></ruby>をあげているものはただ<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>だけだ！　あなたがたは知っていよう。<ruby><rb>檻</rb><rt>おり</rt></ruby>につないだ二頭の<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>の間に食物を投じればどうなるかということを！　それとあなたがたとどこが違うのか。あゝ、わしが今見たことは恐ろしいことだ。（泣く）

成経　（涙ぐむ）康頼殿。あまりに心を痛めないでください。わしは<ruby><rb>優</rb><rt>やさ</rt></ruby>しいあなたの心を<ruby><rb>傷</rb><rt>きず</rt></ruby>つけたのを<ruby><rb>悔</rb><rt>く</rt></ruby>いる。あなたはどんなにいい友だったろう。わしの<ruby><rb>寂寞</rb><rt>せきばく</rt></ruby>はいつもあなたの平和な、あたたかい友情でなぐさめられているのだ。わしの今したことをあなたに恥じる。（康頼の肩に手をおく）わしはもはや決してあなたの目に荒々しいふるまいは見せまい。このやさしいあなたの心の平和を保つだけにでも！　許してください。

俊寛　わしをきらってくれ、きらってくれ。わしはそれに相当している。わしは荒々しい人間だ。わしは平和を恵まれない人間だ。どうぞわしを捨ててくれ。<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>んでくれ。あなたがたは仲よく<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>め合って暮らしてくれ。わしはそれを望む。わしはそれをねたんではならない。（<ruby><rb>慟哭</rb><rt>どうこく</rt></ruby>す）

康頼　（俊寛を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>く）俊寛殿。わしはあなたを悪い人とは思いません。あなたは<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>むべき人ではない。むしろあなたは感じやすい心を持っていられる。もしあなたが荒々しくなったとしたら、それはあなたがあまりに不幸だからだ。

成経　（和解を求めるように）そうだ。われわれはこの上もなく不幸なのだ！　その不幸を三人で分け持たなくてはならない。われわれの心が少しでもかろくなるために、われわれが苦しみに負けてくずれてしまわないために、力をあわせなくてはならないのだ。

俊寛　（嘆息する）わしはあなたがたがだんだんわしをきらうようになるような気がする。そしてそうなるのは無理はないと思う。わしは実際いっしょに暮らしよい人間ではない。自分でそれを認める。わしはきらわれてもしかたがない。あゝ、しかしわしはさびしいのだ。きらわれたくはないのだ。愛されたいのだ。それだのにわしは荒いことを言う、ひねくれたことを考える。気まぐれな<ruby><rb>小鬼</rb><rt>こおに</rt></ruby>めがわしの生命中に巣を<ruby><rb>食</rb><rt>く</rt></ruby>っているようだ。わしの気質は自分の自由にならないのだ。わしは<ruby><rb>孤立無縁</rb><rt>こりつむえん</rt></ruby>の<ruby><rb>霊魂</rb><rt>れいこん</rt></ruby>だ。人とやわらぐことのできない<ruby><rb>粗野</rb><rt>そや</rt></ruby>な性格だ。わしはわしを<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>う。わしを<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>む。おゝわしをあわれむ。

康頼　俊寛殿。心を平らかにしてください。わしはあなたを<ruby><rb>責</rb><rt>せ</rt></ruby>める気は少しもない。あなたはあまりに痛ましい。<ruby><rb>困苦寂寥</rb><rt>こんくせきりょう</rt></ruby>の<ruby><rb>歳月</rb><rt>さいげつ</rt></ruby>があなたの<ruby><rb>忍耐</rb><rt>にんたい</rt></ruby>力を奪ってしまったのだ。あなたは心の<ruby><rb>平衡</rb><rt>へいこう</rt></ruby>を支える勇気を<ruby><rb>砕</rb><rt>くだ</rt></ruby>かれてしまったのだ。だれがわれわれのような境遇にあって<ruby><rb>自暴</rb><rt>やけ</rt></ruby>にならないでいられよう。わしはわしの心が砂のように<ruby><rb>崩壊</rb><rt>ほうかい</rt></ruby>するのを防ぐために必死の力をつくしている。しかも<ruby><rb>踏</rb><rt>ふ</rt></ruby>みしめても、踏みしめても、足下の大地の<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">ずり</span>落ちるような心を制することができないのだ。

成経　わしは<ruby><rb>昨日</rb><rt>きのう</rt></ruby><ruby><rb>巌</rb><rt>いわ</rt></ruby>の上に立って、一そうの船も見えない、荒れ狂う海を見ていたとき、強い強い<ruby><rb>誘惑</rb><rt>ゆうわく</rt></ruby>を感じた。わしは足がすべって前にのめりそうな気がした。しかもわしはそれにほとんど抵抗する気力を欠いていた。もしあの時康頼殿が、とぼとぼと波打ちぎわを歩いて、首をたれて考えに沈みながら、わしのほうへ、おそらくわしのいることも知らずに、近づいてこられるのを見なかったら、わしはどうなっていたかわからない。その<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>はわしに何とも言えない、愛と<ruby><rb>憐憫</rb><rt>れんびん</rt></ruby>の情を起こさせた。<ruby><rb>同悲</rb><rt>どうひ</rt></ruby>の情をわきたたせた。わしは涙がこぼれた。わしはこのさびしき友をなぐさめるためだけにでも、生きていたいと思って、走りだした。

康頼　（涙ぐむ）わしはあなたの姿に気がついた時ふるえた。わしはあなたの心をすぐ知った。今あなたがいかなる危険な状態にいるかを直覚した。そしてあなたを<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>きとめに走ろうとする<ruby><rb>刹那</rb><rt>せつな</rt></ruby>、わしはあなたが両手を広げて涙をいっぱい目にためて、わしのほうに走ってくるのを見た。

成経　わしらは抱き合って泣いたのだ。

間。

俊寛　わしはさびしい気がしてならない。<ruby><rb>昨夜</rb><rt>ゆうべ</rt></ruby>から変に心細い気がしてならない。こんな気のすることはこの島に来てからはじめてだ。不幸が近づいてくるような……

成経　<ruby><rb>白帆</rb><rt>しらほ</rt></ruby>だ！　（急に元気づく）あの<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>がどんなに希望をわしに与えてくれることか。

康頼　（<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>を眺める）この島に来るのなら！　（考える）来るかもしれないぞ。わしは昨夜から不思議に<ruby><rb>胸騒</rb><rt>むなさわ</rt></ruby>ぎがしていたのだ。何か大きな幸福が来るような……

俊寛　（顔色が悪くなる）どうしたのだ。あの白帆を見ると寒い影がサッとわしの心にさしてくるのは！

成経　幸福の船よ！　いやいや。わが心よ、軽はずみにおどるな。あとであまりにさびしいから。わしは<ruby><rb>幾百度</rb><rt>いくひゃくたび</rt></ruby>裏切られたろう。しかも今度は、今度はと思って希望をかけないではいられない。きょうもまた<ruby><rb>無慈悲</rb><rt>むじひ</rt></ruby>に<ruby><rb>方角</rb><rt>ほうがく</rt></ruby>を変えてしまうのかもしれない。そして結果は船の姿を見なかった前よりも、悪くなるのかもしれない。あの気ぬけのした、いまいましい、なぶられたような、不幸な心に！

康頼　（船より目を放たず）わしの<ruby><rb>愚</rb><rt>おろ</rt></ruby>かな<ruby><rb>妄想</rb><rt>もうそう</rt></ruby>だろうか。いや、どうもいつもとは違うようだ。わしに与える気もちがちがっている。いつもは気まぐれな<ruby><rb>鴎</rb><rt>かもめ</rt></ruby>のどちらに飛ぶか見当のつかないような、あてにならない気がするのに、きょうは信ずべきものの渡来を待つような気がする。あの船は決心したようにまっすぐにこの島に向かって来るように見える。

成経　わしもどうもそんな気がする。初めてあの船の姿を見た時から、待っていたものが、ついに来たような気がしてならない。

康頼　わしはまだ童子であったとき、兄の<ruby><rb>花嫁</rb><rt>はなよめ</rt></ruby>の<ruby><rb>輿</rb><rt>こし</rt></ruby>を迎えに行ったことがあった。<ruby><rb>国境</rb><rt>くにざかい</rt></ruby>でわしたちは長く待った。輿は数百の<ruby><rb>燈火</rb><rt>ともしび</rt></ruby>に守られて列をつくってやって来た。あれでもない、これでもない。けれどほんとうに花嫁の輿が来たときに、わしらは皆申し合わせたようにそれを直覚した。わしの今の心持ちはそれに似ている。

俊寛　（傍白）ほんとうにわしはどうしたのだ。<ruby><rb>棺</rb><rt>ひつぎ</rt></ruby>を迎えるような気がするのは！

成経　もう<ruby><rb>半時</rb><rt>はんとき</rt></ruby>すればはっきり見込みがつく。この島にまっすぐに来るとしても、到着するまでには二、三時はかかるだろうけれど。

康頼　恐ろしい半時だ。わしはじっとして船を見ているのに<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えられない。わしは<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>の前にひざまずいて一心不乱に祈ろう。祈りの力で船をこの島に引き寄せよう。神々よ。あの船をこの島に送りたまえ。<ruby><rb>神風</rb><rt>かみかぜ</rt></ruby>を起こしてあの<ruby><rb>帆</rb><rt>ほ</rt></ruby>をふくらせ、<ruby><rb>水夫</rb><rt>かこ</rt></ruby>の<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>の力を二倍にし、鳥のごとくにすみやかにこの岸に着かしめたまえ。（<ruby><rb>鳥居</rb><rt>とりい</rt></ruby>のほうに走り出そうとする）

俊寛　（康頼の<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>を<ruby><rb>握</rb><rt>にぎ</rt></ruby>る）待ってください。ごしょうだからわしのそばを離れずにいてください。わしはさびしくてたまらない。さびしいさびしい考えがさっきからわしの心に起こってきた。

康頼　あなたはどうしたのです。あなたの顔の色は！　この希望に<ruby><rb>痙攣</rb><rt>けいれん</rt></ruby>するような瞬間に、あなたはなぜそのようなさびしい顔をしているのです。

成経　（傍白）まるで<ruby><rb>喪</rb><rt>も</rt></ruby>のような顔つきをしている。

俊寛　わしを捨ててくれな。きらってくれな。

康頼　あなたは何を言うのです。今、幸福が、信じられないほどな幸福がわたしたちに向かって近づきつつある。見なさい。あの<ruby><rb>穏</rb><rt>おだ</rt></ruby>やかな春の海を、いっぱい日光を浴びて、<ruby><rb>金色</rb><rt>こんじき</rt></ruby>に輝いて<ruby><rb>帆走</rb><rt>ほばし</rt></ruby>って来る船を！　あの<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>があなたをおどりあがらせないのは不思議というほかはない。

俊寛　わしは不安で不安でたまらない。

康頼　大きな幸福が来る時には、そしてその幸福がまだ確定しない時には人間は不安を感ずるものだ。その不安ならわしも同じことだ。あまり幸福が大きいから。わしといっしょに行きましょう。いっしょに祈りましょう。

俊寛　（<ruby><rb>哀願</rb><rt>あいがん</rt></ruby>にみちたる調子にて）<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>ってくれ。愛を誓ってくれ。

成経　（<ruby><rb>和睦</rb><rt>わぼく</rt></ruby>と<ruby><rb>愛憐</rb><rt>あいれん</rt></ruby>の表情をもって）あゝ、あなたはそれを気にしているのか。人間は幸福が来る時には人とやわらぎたくなるものだ。俊寛殿。安心なされ。さっきのことなら、わしはすっかり忘れている。わしに来かかっている幸福はわしのすべての<ruby><rb>憎悪</rb><rt>ぞうお</rt></ruby>をもみ消してしまった。わしは心からあなたに和睦の手を差しのべよう。

俊寛　わしはまだまださびしいことが考えられる。あなたがたがわしを捨ててしまいはせぬかというような気がしてならない。わしを振り捨てて、二人だけ<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰ってしまいはしまいかというような気がしきりにする。

康頼　あなたはどうしたのです。あなたは<ruby><rb>凶事</rb><rt>きょうじ</rt></ruby>を自分で<ruby><rb>描</rb><rt>えが</rt></ruby>いてはまねき寄せようとするように見える。凶事についてのあなたの異常な想像力にわしはまったく驚いてしまう。それがあなたの不幸の原因だ。わしが一度でもあなたを捨てると言いましたか。

成経　わしはあなたを一人この島に捨てて帰るほどなら、むしろ三人でこの島で<ruby><rb>餓死</rb><rt>がし</rt></ruby>するほうがいい。

俊寛　（涙ぐむ）あなたはほんとうにそう思ってくれますか。

成経　何しにうそを言いましょう。われわれは同じ日にこの<ruby><rb>孤島</rb><rt>ことう</rt></ruby>に流された。同じ船で。それゆえに同じ日に、同じ船でこの島を去らねばならない。われわれはいかほどの<ruby><rb>困苦</rb><rt>こんく</rt></ruby>をともにしてきたことか。われわれの間に不和が生じたとすれば、それは、われわれの受けている運命の<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>があまりに<ruby><rb>厳</rb><rt>きび</rt></ruby>しかったからだ。

俊寛　（成経を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>く）わしはあなたのひろい心がありがたい。わしはあなたにとって確かに平和な、親切な友ではなかった。わしの気質は荒くて、ゆがんでいるから。もっとも平和な時でさえも、わしはあまり陰気だったから。あなたがたには、長い<ruby><rb>歳月</rb><rt>としつき</rt></ruby>の間さぞわしが<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>え<ruby><rb>難</rb><rt>がた</rt></ruby>い<ruby><rb>重荷</rb><rt>おもに</rt></ruby>だったろう。でもわしをきらってくださるな。わしはあまりにさびしい。（<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>を見る）あゝ、あの船を見るとわしは変にさびしくなる。初めてあの<ruby><rb>帆影</rb><rt>ほかげ</rt></ruby>を見た時暗い<ruby><rb>陰</rb><rt>かげ</rt></ruby>がわしの心をおおうてきた。あの船には何かわしを不幸にするものが乗っているような気がする。「死」が乗っているような気さえする。わしは今<ruby><rb>本能的</rb><rt>ほんのうてき</rt></ruby>に助け手を求める。忠実な友がそばにいてくれることが、今のわしには絶対的に必要だ。

康頼　わしはあなたの最後までの助け手だ。死に到るまでかわらぬ忠実なる友だ。

俊寛　あゝ、あなたは心強いことを言ってくださる。（康頼の顔を見る）どうしてあなたがたのかほどの強い<ruby><rb>励</rb><rt>はげ</rt></ruby>ましが、わしの不安を払いのけてくれぬのだろう。

康頼　わしはあなたをあわれむ。あなたはきょうはどうかしていられる。あまり異常な幸福が近づいたために、心がその喜びをにないきれなくなって、<ruby><rb>平衡</rb><rt>へいこう</rt></ruby>を失ってしまったのではないか。

俊寛　ほんとうに、ほんとうにわしを見捨てませんか。

康頼　わしの目をごらんなさい。あゝ、あなたは泣いていますね。どうしたと言うのだろう。

俊寛　（康頼の足もとに<ruby><rb>崩</rb><rt>くず</rt></ruby>れて泣く）

成経　あなたはあまりに<ruby><rb>衰</rb><rt>おとろ</rt></ruby>えました。風雨が<ruby><rb>樹木</rb><rt>じゅもく</rt></ruby>を打つように、長い間の不幸があなたを打ったのだ。あなたはあわれな老人のごとく、幸福なときにも泣くことしかできないのだ。あなたの<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>はあまりにも痛ましい。わしは思いださずにはいられない。われわれが昔あの<ruby><rb>鹿</rb><rt>しし</rt></ruby>が谷のあなたの山荘に密会したころのことを。あのころのあなたのあの鉄のような意志と、<ruby><rb>鷲</rb><rt>わし</rt></ruby>のような<ruby><rb>覇気</rb><rt>はき</rt></ruby>とを。われわれは皆あなたにいちばん信頼していた。

康頼　われわれの意気はすでに平氏をものんでいた。われわれは恐ろしい<ruby><rb>陰謀</rb><rt>いんぼう</rt></ruby>をたくらみながらも、軽い<ruby><rb>諧謔</rb><rt>かいぎゃく</rt></ruby>をたのしみ<ruby><rb>得</rb><rt>う</rt></ruby>るほどに余裕があった。わしは忘れることができない。あの<ruby><rb>法皇</rb><rt>ほうおう</rt></ruby>をひそかに山荘に迎えた夜、<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>をたおす<ruby><rb>細密</rb><rt>さいみつ</rt></ruby>な<ruby><rb>計略</rb><rt>けいりゃく</rt></ruby>を定めたあとで、さながらわれわれの勝利の前祝いのように、期せずして生じたあの諧謔を！

成経　あの機知にみちた、<ruby><rb>天来</rb><rt>てんらい</rt></ruby>の<ruby><rb>猿楽</rb><rt>さるがく</rt></ruby>を！

康頼　成経殿がふと<ruby><rb>狩衣</rb><rt>かりぎぬ</rt></ruby>の<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>に引っかけて、法皇の前にあった<ruby><rb>瓶子</rb><rt>へいし</rt></ruby>を倒したのが初めだった。

成経　平氏が倒れた！　とあなたが叫んだ時には、<ruby><rb>私</rb><rt>わし</rt></ruby>はその思いつきに笑わずにはいられなかった。

康頼　<ruby><rb>西光殿</rb><rt>さいこうどの</rt></ruby>が横合いから口を入れて言った。あまりに<ruby><rb>瓶子</rb><rt>へいし</rt></ruby>（平氏）が多いので<ruby><rb>酔</rb><rt>よ</rt></ruby>ってしまった。この目ざわりな瓶子（平氏）をどうしたものだろう、と。

俊寛　（<ruby><rb>黙然</rb><rt>もくねん</rt></ruby>として目を閉じている）

成経　俊寛殿。あなたは<ruby><rb>覚</rb><rt>おぼ</rt></ruby>えているでしょう。その時あなたがひじょうに機知のある、不思議なほどに甘い<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">つづめ</span>をつけたのが、この一場の<ruby><rb>猿楽</rb><rt>さるがく</rt></ruby>に驚くほどいきいきした効果を与えたのを。（俊寛苦しそうに首をたれる）あなたは瓶子の首を取って立ちあがりざま、<ruby><rb>心地</rb><rt>ここち</rt></ruby>よげに一座を見回して叫びましたね。平氏の首を取るがいいと。

俊寛　（顔をおおう）わしは恥じる。わしは失敗者だ。すべて<ruby><rb>愚</rb><rt>おろ</rt></ruby>かな愚かなことだった。あなたがたは今いちばん悪いことを思いだしてくれた。わしはこうして立っていられないほど恥ずかしい。あなたがたはわしをこの思い出で元気づけようとしたのか。この皮肉な思い出で……あゝ<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>われたるわしよ。（<ruby><rb>痙攣</rb><rt>けいれん</rt></ruby>する両手で頭をかかえて<ruby><rb>砂上</rb><rt>さじょう</rt></ruby>に伏す）

康頼　（気の毒に<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えざるごとく）わしが愚かなことをしたのならわしは悔いる。許してください。わしは今あなたを<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めることならどんなことでもしたい。俊寛殿、今、われわれの時が来つつあるのだ。この幸福の予感の<ruby><rb>中</rb><rt>うち</rt></ruby>にあって、わしが少し軽い心になっても許してください。わしは足が地につかないような気さえしている。あなたといえば、どうしてこんなに不幸そのもののような顔をなさるのだろう。あなたの内に不幸を<ruby><rb>吐</rb><rt>は</rt></ruby>き出す魔でもすんでいるのか。あなたはわしとともによろこんでくださるはずだ。われわれが長い長い間待った日が来かけているのではないか。あなたはその日をあれほど待っていられたではないか。

成経　（<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>を見る）あの船はいよいよこの島に来るらしいぞ。

俊寛　（苦しそうに）なぜこんなさびしい考えがわしにだけ起こるのだ。去ってくれ。去ってくれ。（船を見る。身ぶるいする）だめだ。わしは<ruby><rb>凶兆</rb><rt>きょうちょう</rt></ruby>を感じる。わしの運命は、わしの星は凶だ。（地に倒れる）

康頼　俊寛殿。気が狂ったか！

成経　何かついたのか！　（刀を抜く）<ruby><rb>外道</rb><rt>げどう</rt></ruby>よ、去れ！

俊寛　（起き上がる）わしに必要だ。一つのことがわしに保証されねばならない。わしを見捨てて帰らぬということが！

成経　安心なさい。俊寛殿。わしはあなたに何のわだかまりも持ってはいない。持っていたものは皆消えた。わしはあなたを<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めたい心で一ぱいになっている。<ruby><rb>鬼神</rb><rt>きじん</rt></ruby>も今のあなたの<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>を見てはあわれみを起こすだろう。

康頼　あなたはあり得ぬことを想像してひとりで苦しんでいられる。二人だけ<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へかえして、あなただけをこの島に残すというはずがないではないか。わしらは同じ罪に座して<ruby><rb>配流</rb><rt>はいる</rt></ruby>されたのだから。

俊寛　もしあったとしたら。

成経　わしはも一度くり返してあえて言おう。あなたを一人見捨てて都へ帰るほどなら、わしはこの島で<ruby><rb>餓死</rb><rt>がし</rt></ruby>することを選ぶ。

康頼　生きるも死ぬるも三人いっしょだ。

俊寛　それを<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>ってくれ。誓ってくれ。

成経　（弓を天にささげる）わしは名誉ある武士のすえだ。わしは弓矢にかけて誓う。あなたと生死をともにすることを！

康頼　わしは神々の名によって誓う。<ruby><rb>天神</rb><rt>てんじん</rt></ruby>よ。（天に息を吹く）<ruby><rb>地祇</rb><rt>ちぎ</rt></ruby>よ。（地に息を吹く）わしは永久に友を見捨てませぬ。

俊寛　（静かに泣く）

長き沈黙。

成経　（突然<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>を見て叫ぶ）いよいよきまった。あの船はもうこの島に必ず来る。あすこまで来たからにはもうだいじょうぶだ。いつも<ruby><rb>方角</rb><rt>ほうがく</rt></ruby>をかえるのはもっとずっと遠くの<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>だから。わしの考えでは、あの船はなかなか大きいらしい。

康頼　（沖を<ruby><rb>凝視</rb><rt>ぎょうし</rt></ruby>す）あれは<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>から来た船だ。（<ruby><rb>渚</rb><rt>なぎさ</rt></ruby>に走る）あの<ruby><rb>帆柱</rb><rt>ほばしら</rt></ruby>や<ruby><rb>帆</rb><rt>ほ</rt></ruby>の張り方や<ruby><rb>櫓</rb><rt>ろ</rt></ruby>の<ruby><rb>格好</rb><rt>かっこう</rt></ruby>はたしかにそうだ。いなかの船にはあんなのはない。（波の中に夢中でつかり、息をこらして船を見る）

成経　（康頼のそばに走る）<ruby><rb>旗</rb><rt>はた</rt></ruby>だ！　たしかに赤い旗が見える。平氏の<ruby><rb>官船</rb><rt>かんせん</rt></ruby>だ。

康頼　迎えの船だ！

成経　（夢中に叫ぶ）追い風よ。吹け。吹け。吹け。

康頼　まっすぐに、こぎつけよ。一刻も早く、この岸に！　わしらはここにいる。ここの岸に立っている。<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>のようにやせて！　（急にむせび泣く）わしはどんなに待ったろう。

成経　あゝ。長い長い間だった。

康頼　神々よ。きょうの恵みはわが子孫に書きのこして伝えられましょう。

成経　わしの心がこのよろこびに持ちこたえられるように！

<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>の船より<ruby><rb>銅鑼</rb><rt>どら</rt></ruby>の<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>ひびく。

康頼　合い図だ！　船着き場へ！　（はせ去る）

成経　（無言にて康頼のあとを追うてはせ去る）

俊寛　（前のところに不安そうに立ったまま）あの船は<ruby><rb>陰府</rb><rt>よみ</rt></ruby>から来たように見える。（心の内にさす不吉の陰を払いのけるように首を振る）　わしはばかげた<ruby><rb>妄想</rb><rt>もうそう</rt></ruby>に<ruby><rb>悩</rb><rt>なや</rt></ruby>まされているかもしれないぞ。そうであってくれ。そうであってくれ。わしのこの恐ろしい考えには少なくとも<ruby><rb>根拠</rb><rt>こんきょ</rt></ruby>はないのだ。たしかに根拠はないのだ。ただわしにそういう不安な気が何となくするというのにすぎない。そんなことが何のあてになろう。（沖を見る。ふるえる）どうしたのだ。（打ち負かされたるごとく）あの船の帆は<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>の顔にかける白い<ruby><rb>布</rb><rt>きれ</rt></ruby>のようにわしに見える。（墓標のごとくにじっと立ちたるまま動かぬ）

ながき沈黙。やがてやや近き沖にて銅鑼の声つづけざまにひびく。

第二場

船着き場。まばらなる松林。右手寄りに小高き丘の一端見ゆ。そのふもとにやや大なる船<ruby><rb>泊</rb><rt>と</rt></ruby>まりいる。正面に<ruby><rb>丹左衛門尉基康</rb><rt>たんざえもんのじょうもとやす</rt></ruby>その左右に数名の<ruby><rb>家来</rb><rt>けらい</rt></ruby><ruby><rb>槍</rb><rt>やり</rt></ruby>をたてて<ruby><rb>侍立</rb><rt>じりつ</rt></ruby>す。その前に俊寛、康頼、成経ひざまずく。

基康　（家来に目くばせす）

家来　（<ruby><rb>雑色</rb><rt>ぞうしき</rt></ruby>の首にかけたる布袋より<ruby><rb>赦文</rb><rt>しゃもん</rt></ruby>を取り出し、うやうやしく基康に捧げる）

基康　つつしんできけ。（赦文を読む）重科<ruby><rb>遠流</rb><rt>おんる</rt></ruby>を<ruby><rb>免</rb><rt>めん</rt></ruby>ず。早く<ruby><rb>帰洛</rb><rt>きらく</rt></ruby>の思いをなすべし。このたび<ruby><rb>中宮</rb><rt>ちゅうぐう</rt></ruby>ご産の<ruby><rb>祈祷</rb><rt>きとう</rt></ruby>によって非常のゆるし行なわる。しかる間、<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島の<ruby><rb>流人</rb><rt>るにん</rt></ruby>、<ruby><rb>丹波</rb><rt>たんばの</rt></ruby>成経、<ruby><rb>平</rb><rt>たいらの</rt></ruby>康頼を<ruby><rb>赦免</rb><rt>しゃめん</rt></ruby>す。

成経　（康頼と顔を見合わす）

基康　つつしんでおうけなされい。

俊寛　（声をふるわす）その赦文をも一度お読みください。

基康　（も一度読む）<ruby><rb>命</rb><rt>めい</rt></ruby>によって迎えにまいった。両人ともしたくをなされい。

俊寛　あなたは俊寛という名を読み落としなされたようだ。

基康　この<ruby><rb>赦文</rb><rt>しゃもん</rt></ruby>には俊寛という名は記してない。

俊寛　（青ざめる）そんなはずはありません。

基康　自分で見るがよかろう。（赦文を康頼に渡す）

俊寛　康頼殿。早く見てください。

康頼　（<ruby><rb>黙読</rb><rt>もくどく</rt></ruby>し、成経に渡す）

俊寛　成経殿。わしの名は？

成経　（黙読し、俊寛に渡す）

俊寛　（ふるえる手にて受け取り読む。まっさおになる）<ruby><rb>礼紙</rb><rt>らいし</rt></ruby>を見てくれ。礼紙を！

基康　（<ruby><rb>無言</rb><rt>むごん</rt></ruby>にて家来に礼紙を渡す）

俊寛　（家来より礼紙を受け取り、裏を返し、表を返して見る）<ruby><rb>執筆</rb><rt>しっぴつ</rt></ruby>の誤りだ。基康殿。あなたは<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>を出発する時三人を連れ帰るようにとの命令を受けられたに相違ない。

基康　わしの役目はこの赦文に記されたとおりを<ruby><rb>行使</rb><rt>こうし</rt></ruby>するのにある。

俊寛　もし執筆の誤りだったら。

基康　（冷ややかに）あなたを残して帰っても、<ruby><rb>責</rb><rt>せ</rt></ruby>めはわしにはかかるまい。

俊寛　（せき込む）しかし<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>殿の意志が三人を<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ呼び<ruby><rb>戻</rb><rt>もど</rt></ruby>すにあるとしたら。主人の意志を果たすがほんとうの忠実なる使者でしょう。あなたは主人の意志を<ruby><rb>熟知</rb><rt>じゅくち</rt></ruby>していられましょう。

基康　（皮肉に）わしがそんな高い身分のある者だったら、こんな役目はおおせつからなかっただろう。主人の意志を知ることなどわしなどには思いもよらぬことだ。わしはただこの紙に記されてあることを忠実に<ruby><rb>遂行</rb><rt>すいこう</rt></ruby>することを上役から命じられたにすぎない。

俊寛　われわれ三人は同じ罪によって、同じ日にこの島に流されたものだ。二人だけを都へ帰して、一人だけを残すというのは法にかなわない処置ではありませんか。

基康　あなたの訴えは正しいかもしれない。しかしそれはこの命令を発した人に向かって言われるべきだろう。

俊寛　清盛はなぜ特別にわしを<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>むのだ。わしから二人の<ruby><rb>伴侶</rb><rt>はんりょ</rt></ruby>を<ruby><rb>無慈悲</rb><rt>むじひ</rt></ruby>に<ruby><rb>奪</rb><rt>うば</rt></ruby>い去ろうとするのだ。

基康　それはわしからききたいくらいだ。

俊寛　刑には理由がなければならない。その理由を示さずに、ただわしだけに重い刑罰を課するのは非法ではないか。

基康　あなたの申し立ては道理でもあろう。しかしわしはそれを<ruby><rb>裁</rb><rt>さば</rt></ruby>く権利を持っていないのだ。

俊寛　あなたは悪い人ではないようだ。わしはあなたに<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>う。わしを<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ連れて帰ってください。

基康　わしはあなたに何の<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>みもない。わしはお気の毒に思う。もしわしにとがめがかからないものなら、わしは連れて帰ってあげてもいいのだが。

俊寛　もしあなたがそうしてくれたら、わしは十倍にしてきっとあなたに<ruby><rb>報</rb><rt>むく</rt></ruby>います。

基康　（考える）どうもわしの身に<ruby><rb>難儀</rb><rt>なんぎ</rt></ruby>がかかりそうだ。

俊寛　もしあなたにとがめがかかったら、わしが立派に申し開きをしよう。その責任はわしがきっとになう。だがそんなことはきっとない。主人の意志は三人を都へ帰すにあるのはわかりきったことなのだから。

基康　その点もあなたが言うほどわしにははっきりしていないのだ。少なくとも<ruby><rb>赦文</rb><rt>しゃもん</rt></ruby>の意味を文字どおりに<ruby><rb>行使</rb><rt>こうし</rt></ruby>するのが最も<ruby><rb>賢</rb><rt>かしこ</rt></ruby>いことがわしにはっきりしているほどには。

俊寛　しかし一度都へ帰ってから、またはるばるこの島まで迎えに来なくてはならないとしたら。

基康　（ある感動をもって）あなたがそういうのはもっともだ。わしは長い<ruby><rb>船旅</rb><rt>ふなたび</rt></ruby>には実際弱ってしまった。都を出てから想像もつかないほどの長い日数がかかっている。それに都を去るにつれてだんだん航路が荒くなった。その上九州の本土を離れてからは何という退屈だったろう。<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>にかえってから、も一度この島に来るというようなことはとても<ruby><rb>耐</rb><rt>た</rt></ruby>えられないことだ。（考える）だがわしは長い間の役目の経験で知っている。一番安全に役目を果たす方法は、いかなる場合にも文書の文字どおりに<ruby><rb>行使</rb><rt>こうし</rt></ruby>することだということを。わしはもう長い間そういうことに決めているが、やはりいちばん<ruby><rb>無難</rb><rt>ぶなん</rt></ruby>なようだ。それにも一度この島に来なければならないことになれば、わしは上役に<ruby><rb>懇願</rb><rt>こんがん</rt></ruby>して、このありがたくない役目をだれかに代わってもらうこともできるだろう。

俊寛　しかしそれは<ruby><rb>区々</rb><rt>くく</rt></ruby>たる<ruby><rb>小役人</rb><rt>こやくにん</rt></ruby>のすることだ。大いなる役人は文書の意のあるところをくみとるべきだ。

基康　（皮肉に）あなたは初めからわしをあまりに高い身分のものと買いかぶりすぎたようだ。わしは平凡な、一人の役人にすぎない。またそうでなくてだれがこんな役目をおおせつかるものか。わしは実際今度の役目にはこりごりした。わしは<ruby><rb>疲</rb><rt>つか</rt></ruby>れている。わしは一日も早くこの役目を果たして、都へ帰りたいと願うほかには何も考える気はなくなっている。

俊寛　しかしわしにとっては大きな大きな問題だ。わしの一生の運命が決まるのだ。

基康　わしはその大きな問題を引き受けるにはあまりに地位も低く、力が<ruby><rb>乏</rb><rt>とぼ</rt></ruby>しい。

俊寛　わしをあわれんでくれ。

基康　わしはあなたに同情する。しかしわしの一身の安全も<ruby><rb>計</rb><rt>はか</rt></ruby>らずにはいられない。

俊寛　（嘆息する）あゝ、あなたは悪い人間ではない。しかしただそれだけにすぎない。

基康　成経殿、康頼殿、出発のしたくをなされい。

成経　わしからあなたに改めてお願いする。なにとぞ、俊寛殿をもわれわれといっしょに<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ連れ帰っていただきたい。

康頼　われわれは長い間この島で困苦をともにしました。今俊寛殿だけをこの島にひとり残して帰るに<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びません。

基康　あなたがたの気持ちはあなたがたとしてしごくもっともに思われる。しかしわしの立場としては前いったことをくり返すほかはない。

成経　あなたの立場はわからないではありません。だがこのわれわれにとって<ruby><rb>千載一遇</rb><rt>せんざいいちぐう</rt></ruby>の非常の時機に際して、あなたの一身の安全をはかるよりほかに、われわれのためにあえてしていただくことは願えないものであろうか。

基康　（不愉快そうに）わしには妻子があるのだ。わしの思いだす限りでは一家の安全をかけてまで、あなたがたのためにつくさねばならぬほどの恩を受けてもいないようだ。

成経　しかし、あなたにとっては一家の運命を<ruby><rb>賭</rb><rt>と</rt></ruby>するほどの大事とは思われない。ただあなたの役目の解釈に少しばかりの自由を保つのにすぎないことではあるまいか。

基康　その少しばかりの自由から、どれほどの大事がまたわしの身に起こってくるかしれたものではない。あなたがたはこの命令の<ruby><rb>発布</rb><rt>はっぷ</rt></ruby>者がどんな性格の人であるかを忘れはすまい。<ruby><rb>獅子</rb><rt>しし</rt></ruby>の意志は<ruby><rb>鼠</rb><rt>ねずみ</rt></ruby>にはわからない。

成経　わしは同じ弓矢をとる<ruby><rb>武人</rb><rt>ぶじん</rt></ruby>としてあなたの<ruby><rb>義気</rb><rt>ぎき</rt></ruby>に<ruby><rb>訴</rb><rt>うった</rt></ruby>えたい。

基康　（<ruby><rb>気色</rb><rt>けしき</rt></ruby>を損じる）この場合わしに対してあまり押しつけがましく出ることは、あなたがたの利益でないことはないか。

成経　（怒りをおさえて沈黙す）

康頼　わしはただあなたに<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>うほかはありません。われわれのみじめな<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>があなたにあわれみを起こさせぬであろうか。あなたがもし俊寛殿の地位に立ったとしたら！

基康　わしはあなたがたに同情しないのではない。だが、ながい間の職務上の経験から同情と役目とを別々に考えることにしているのだ。

康頼　<ruby><rb>窮鳥</rb><rt>きゅうちょう</rt></ruby>がふところに入る時は<ruby><rb>猟師</rb><rt>りょうし</rt></ruby>もこれを殺さないと申しますが。

基康　わしはこういう立場に立ったのは初めてではないのだ。わしには結果の見越しがあまりにつきすぎる。わしがいかほどの同情を起こしたにしても、結局わしがどうしなければならないかということはあまりにはっきりとしているのだ。わしは<ruby><rb>片時</rb><rt>かたとき</rt></ruby>も早くこの不愉快な役目を終わりたい。

康頼　わしたちをあわれんでくれ。わしはひたすらあなたに助けを<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>う。あゝ仏様があなたの心に<ruby><rb>慈悲</rb><rt>じひ</rt></ruby>を<ruby><rb>催</rb><rt>もよお</rt></ruby>さしてくださるように！

基康　（もどかしそうに）幾度言っても同じことだ。わしはほかに選ぶみちがないのだ。わしを無慈悲な人間として考えねばならぬ地位にいつまでも立っているのはたまらない。わしにも人間の心はある。わしは一人の平凡な役人にすぎないのだ。

俊寛　ではわしはあえていうが、あなたの役目は果たされますまいぞ。成経殿も康頼殿もわしを残してこの島から帰られないのだ。けさわしに対して<ruby><rb>誓言</rb><rt>せいごん</rt></ruby>をしたのだから。

基康　（両人に）それに相違ありませぬか。

成経　わしは弓矢にかけて<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>いました。俊寛殿と<ruby><rb>生死</rb><rt>せいし</rt></ruby>をともにすることを。

康頼　わしは神々の名によって誓いました。永久に友を見捨てませぬと。

基康　（沈黙）

俊寛　この上は三人を連れ帰ったほうがあなたの役目にもかないはしますまいか。はるばるこの島まで来たことがむだにならないためにも。

基康　（黙ってしばらく考える。やがて信ずるところあるがごとく）では念のため、も一度だけお<ruby><rb>尋</rb><rt>たず</rt></ruby>ねする。ご両人俊寛殿を残しては<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰る気はありませぬな。

成経　俊寛殿を一人残してわしだけ帰る気はありません。

康頼　わしは友を見捨てるに<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びません。

基康　では三人の意志はたしかに聞き届けました。都にたち帰ってその<ruby><rb>旨</rb><rt>むね</rt></ruby>を<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>殿に伝えましょう。

俊寛　（恐怖を<ruby><rb>隠</rb><rt>かく</rt></ruby>そうとつとめつつ）それではあなたの役目がたちますまいが。

成経と康頼、基康を<ruby><rb>凝視</rb><rt>ぎょうし</rt></ruby>す。

基康　わしはこの命令の<ruby><rb>執達吏</rb><rt>しったつり</rt></ruby>にすぎないのだ。わしは清盛殿の意志をあなたがたにお伝えすればそれでいいのだ。あなたがたがそれを受けようと受けられまいと、それはわしの立ち入る限りではない。

三人沈黙す。

基康　（家来に<ruby><rb>目配</rb><rt>めくば</rt></ruby>せす）出発のしたくをしなさい。

成経　（<ruby><rb>狼狽</rb><rt>ろうばい</rt></ruby>す）しばらくお待ちください。

康頼　そのように急がれるにはおよびますまい。

基康　（冷ややかに）あなたがたの意志を聞いた以上は、もはやわしの役目はすんだというものだ。わしは<ruby><rb>片時</rb><rt>かたとき</rt></ruby>も早くこの荒れた島から離れたい。何か<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>にことづてはありませんか。わしがあなたがたへのただ一つの親切にそれを取りついであげましょう。あゝわしは忘れるところだった。都をたつ時あなたがたにことづかった物があった。<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>からの迎えの使いを<ruby><rb>拒絶</rb><rt>きょぜつ</rt></ruby>するほどのあなたがたに、たいした用はないかもしれんが。（家来に）かの品を。

家来　（<ruby><rb>文</rb><rt>ふ</rt></ruby>ばこを基康に渡す）

基康　（文ばこを成経と康頼に渡す）

成経　（ふるえる手にて文ばこを開き、手紙を手に取り裏を返し、表を返しして見る。おのれを制することあたわざるごとく）母上の<ruby><rb>手蹟</rb><rt>しゅせき</rt></ruby>だ。（感動に<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えざるごとく）あゝ。

康頼　（手紙を<ruby><rb>握</rb><rt>にぎ</rt></ruby>りしめ）わしはどんなに<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えていたか！

俊寛　（われを忘れたるごとく）わしへの手紙は？　故郷の便りは？

基康　わしのことづかったのはこれだけだ。（俊寛、顔をおおう。家来に）出発の用意をしろ。

成経　（あわてる）待ってくれ。わしがもっとよく考えるために。

康頼　今しばらくの<ruby><rb>猶予</rb><rt>ゆうよ</rt></ruby>が願いたい。

基康　あなたがたの意志はもはや確かに<ruby><rb>承</rb><rt>うけたまわ</rt></ruby>ったはずだが。

成経　いや、わしはもっとよく考えて見なければならない。あなたに聞きたいこともある。

康頼　われわれがもっとよく考えて決心するために、今しばらく待っていただきたい。あなたはあまりにあわただしい。

俊寛　（不安に<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えざるごとく。成経に）成経殿、わしはあなたを信じている。あなたが<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>いを守ってくださることを。

成経　（俊寛にむけてではなく）わしは考えねばならない。考えねばならない。

俊寛　康頼殿、わしはあなたの誓いを最後の頼みとしていますぞ。

康頼　わしたちはよく考えて見ましょう。今はあまりに大事な時だ。

俊寛　（天に向かって両手をのばす）神々よ、汝の名によってたてられた誓いは守られねばならぬ！

基康　わしの前で<ruby><rb>内輪</rb><rt>うちわ</rt></ruby>の争いは、見るに<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えぬわい。<ruby><rb>申</rb><rt>さる</rt></ruby>の<ruby><rb>刻</rb><rt>こく</rt></ruby>までに考えを決められい。<ruby><rb>猶予</rb><rt>ゆうよ</rt></ruby>はなりませぬぞ。（退場。家来つづく）

成経　（基康の去るやいなや、<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えたるもののごとく手紙の封を切りて読み入る）

康頼　（手紙を読みかけて、俊寛を見てやめる）

成経　（かたわらに人なきがごとく）なつかしい母上よ、あなたの<ruby><rb>恩愛</rb><rt>おんない</rt></ruby>が身にしみまする。（今ひとつの手紙を読む）妻よ、お前の苦しみは察するにあまりある。どんなに会いたかったろう。（他の手紙を見る）<ruby><rb>乳母</rb><rt>うば</rt></ruby>の六条の手紙に<ruby><rb>添</rb><rt>そ</rt></ruby>えて、わしの小さな娘の手紙も入れてある。何という<ruby><rb>可憐</rb><rt>かれん</rt></ruby>な筆つきだろう。六条よ、あゝおまえの忠義は倍にして<ruby><rb>報</rb><rt>むく</rt></ruby>いられますぞ。（手紙を読みつづける）

俊寛　（<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えかねたるごとく）わしの前でその手紙を読むのはよしてください。わしは不安で不安でたまらない。成経殿、あなたは考えを変えてはなりませぬぞ。きょうあなたが弓矢にかけてたてた<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>いを忘れてくださるな。

成経　（われに帰りたるごとく）わしはあまりに苦しい、今はわしの一生の運命の<ruby><rb>定</rb><rt>き</rt></ruby>まる時だ。わしに考えさせてください。

俊寛　あなたは名誉ある武士のすえだ。あなたはいつもそれを<ruby><rb>誇</rb><rt>ほこ</rt></ruby>っていられた。わしはあなたの誇りに望みをかける。

成経　<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>の便りはわしの<ruby><rb>臓</rb><rt>ぞう</rt></ruby>をかきむしるような気がする。不幸なわしの家族はどんなにわしを待っているだろう。彼らに一度会う日の夢は、わしのこの荒いみじめな生活のただ一つの命であった。今や時が来た。そしてわしは帰ってはならぬのであろうか。

俊寛　あなたの心持ちはもっともだ。だがわしのことを考えてください。あなたがたがそばにいて不幸を分けてくださったればこそ、この言いようのない苦しみにも<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えることができたのだ。が、もしわし一人この島に残らねばならなかったら、わしはどうしてこの先を暮らしてゆくことができよう。それはあまりに堪えがたい。考えただけでも恐ろしい。

成経　わしはあなたのことを思わないのでは決してない。だがわしとして、わしの境遇になって、はたして故郷への迎えの船をむなしく帰すことができるだろうか。

俊寛　わしはこういう時の来ることを予感したのだ。それを思えばこそけさあれほどあなたに念を押したのだ。そしてあなたのあの心強い<ruby><rb>誓言</rb><rt>せいごん</rt></ruby>を得たのだ。あなたはそれを忘れはなさるまい。

成経　（心の内に戦いながら）時機は二度と来ぬのだから。

俊寛　わしはあなたに要求する気はない。ただあなたの友情にすがって折り入って頼む。なにとぞわし一人をこの島に残さないでください。

成経　わしは一度だけ母に会いたい。妻に会ってその苦しみをねぎろうてやりたい。一生に、も一度だけわしの子供が<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>きたい。

俊寛　それはみなわしの願うところだ。わしの朝夕の夢だ。今その夢を<ruby><rb>実</rb><rt>まこと</rt></ruby>にすることのできるあなたの幸福と、この荒れた島にただ一人残る自分の運命とを較べるのは<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えがたい。わしの恐ろしい運命を考えてください。

成経　わしはただ一度だけ<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>の土が<ruby><rb>踏</rb><rt>ふ</rt></ruby>みたい。ただ一度だけ家族と会えばまたこの島に帰ってもよい。だがただ一度だけは。

俊寛　わしを助けてくれ。

成経　わしは苦しい。何も考えられない。わしの心は<ruby><rb>顛倒</rb><rt>てんとう</rt></ruby>するようだ。

俊寛　あなたはどうしても帰る気か、<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>いを破り、わしを捨てて。

成経　（苦しそうに沈黙す）

俊寛　きょうからわしはあなたを名誉ある武士とは思いませぬぞ。困苦をともにした友に危難の<ruby><rb>迫</rb><rt>せま</rt></ruby>った場合、<ruby><rb>無慈悲</rb><rt>むじひ</rt></ruby>に見捨て去るとは、実に見下げた人だ。<ruby><rb>八幡</rb><rt>はちまん</rt></ruby>のたたりを恐れられい。わしはいうがわれわれがこんなみじめな境遇に落ちたのも、もとはあなたの父上のためだ。

成経　（顔をおおう）

俊寛　あなたの父を<ruby><rb>鼠</rb><rt>ねずみ</rt></ruby>のごとく殺した<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>のところへ、あわれみを<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>うて帰る気か。

成経　（あたりをはばかりつつ）わしは<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしゅう</rt></ruby>することができる。<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰れば機会をうかがうことができる。

俊寛　（不安に<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えざるごとく、康頼に）康頼殿、今はわしの頼みはあなた一人となりました。わしはあなたの愛と誠実とに依頼する。あなたはながい間どんなにわしを愛してくださったろう。あなただけはわしを見捨ててくださらぬだろう。

康頼　私はあなたの運命を思えばたまらない気がする。あなたはじつに苦しかろう。

俊寛　わしは恐ろしい。わしのそばにいつまでも離れずにいてください。

康頼　わしはあなたをあわれむ心でいっぱいだ。あなたの今の地位の恐ろしさは言い表わす言葉もないほどだ。

俊寛　（<ruby><rb>哀願</rb><rt>あいがん</rt></ruby>に満ちたる調子にて）あなたはわしを見捨ててはくださらぬだろう。

康頼　わしはあなたを見捨てて去るには<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びない。

俊寛　ではわしとともにこの島に残ってくださるのですね。

康頼　（力なく）わしはそうしたい。そうしなければならぬと思う。けれども――

俊寛　（不安の極度に達す）わしはあなたの信心に依頼する。

康頼　迎えの船の来たのは<ruby><rb>熊野権現</rb><rt>くまのごんげん</rt></ruby>の<ruby><rb>霊験</rb><rt>れいげん</rt></ruby>と思われる。

俊寛　あなたは神々にたてた<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>いを忘れはすまい。あれほど信心深いあなたが、天地の神々の名によってたてた誓いを破ろうとは信じられない。

康頼　（沈黙）

俊寛　（あわれみを<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>うごとく）康頼殿、あなただけはわしを見捨ててくださるな。あなたは成経殿の例にならってくださるな。この長い困苦の年月あなたがわしのためにどんなに忠実な友であったか、わしは感謝の心でいっぱいだ。今一人の友が<ruby><rb>無慈悲</rb><rt>むじひ</rt></ruby>にわしを捨てて去ろうとする時、あなただけはわしを助けてください。わしはあなたに<ruby><rb>救</rb><rt>すく</rt></ruby>いを求める。

康頼　（沈黙）

俊寛　（康頼の<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>を<ruby><rb>握</rb><rt>にぎ</rt></ruby>り地にひざまずく）あわれな友の最後の願いをしりぞけてくださるな。

康頼　わしはあなたを見るに<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びない。わしの心はちぎれるようだ。

俊寛　わしを<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>から救ってくれ。（地に伏して<ruby><rb>慟哭</rb><rt>どうこく</rt></ruby>す）

康頼　（苦しげに）わしはあなたのそばにいたい。あなたを見捨てる気にはなれない。

俊寛　わしはあなたを最後の頼みといたしますぞ。

基康　（家来をしたがえて登場）もはや時は来た。決心を<ruby><rb>承</rb><rt>うけたまわ</rt></ruby>ろう。（家来に）出発の用意をしろ。

家来数名船のほうにゆく。三人沈黙。

基康　（成経に）あなたの決心は？

成経　わしは迎えをお受けする。

基康　（うなずく。康頼に）あなたは？

康頼　（力なく）わしは友を見捨てるに<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びません。

基康　よろしい。ではあなたはこの島に残るがよかろう。成経殿だけ<ruby><rb>伴</rb><rt>ともな</rt></ruby>って帰ろう。成経殿、出発の用意をなされい。

成経　（康頼に）わしは苦しい立場ではあるが思いきって<ruby><rb>一足</rb><rt>ひとあし</rt></ruby>先に<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰ります。あなたはとどまって俊寛殿を<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めて時機を待ってください。わしは都へたち帰ったらきっと再び迎えの使いを送ります。（俊寛に）あなたはわしが<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>かろう。だがわしの立場を思ってゆるしてください。わしが都へ帰ったらきっと<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>殿にとりなして、あなたも<ruby><rb>帰洛</rb><rt>きらく</rt></ruby>のかなうよう取りはからいます。それを頼みに苦しみに<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えて待っていてください。

俊寛　（答えず）

成経　何か<ruby><rb>形見</rb><rt>かたみ</rt></ruby>に残したいがわしに何もあろうはずがない。この<ruby><rb>衾</rb><rt>ふすま</rt></ruby>をあなたにのこします。わしはこれで<ruby><rb>雨露</rb><rt>あめつゆ</rt></ruby>をしのぎました。

俊寛　（<ruby><rb>衾</rb><rt>ふすま</rt></ruby>を地になげうつ）わしはあなたを友とは思わぬ。早く<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>に帰るがいい。そして自分の敵に<ruby><rb>追従</rb><rt>ついしょう</rt></ruby>するがいい。

家来　船の用意はできました。

基康　ではお別れする。（船に乗る。成経つづく）

成経　（船の上より康頼に）おことづてはありませぬか。

康頼　（何か言いかけて感動のあまりやめる）

基康　すぐに出発しろ。

家来　（ともづなを<ruby><rb>解</rb><rt>と</rt></ruby>く）

俊寛　（顔をそむける）

成経　（康頼に）ではお別れいたしまする。

康頼　（<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えかねたるごとくに）基康殿、お待ちください。

基康　何かごようか。

船少し動く。

康頼　待ってくれ。わしは考えて見たいから。

基康　船を止めろ。（家来船を止める）

俊寛　（不安の極に達し）康頼殿、わしはあなたを信じますぞ。

康頼　（苦しみに堪えざるごとく）神々よ。わしに力を与えてください。

基康　船を出せ。（船動く）

康頼　待ってくれ。わしは迎えをお受けする。

俊寛　（まっさおになる）康頼殿、あなたもか⁈

康頼　俊寛殿、ゆるしてください。わしはあなたのそばにいたい。最後まであなたの<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めの友でありたい。けれど、わしは今自分を支えることができなくなった。あなたはわしがどれほど<ruby><rb>故郷</rb><rt>こきょう</rt></ruby>を<ruby><rb>慕</rb><rt>した</rt></ruby>っていたか知っていられよう、そのために頼むべからざるものをも頼みとしていたことを。<ruby><rb>熊野神社</rb><rt>くまのじんじゃ</rt></ruby>に<ruby><rb>日参</rb><rt>にっさん</rt></ruby>したことも、千本の<ruby><rb>卒都婆</rb><rt>そとば</rt></ruby>を流したことも。今やその日が来た。ほとんど信じられない夢のような日が。けれどわしはあなたをあわれむあまり、今の今まで<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えてきた。けれど今はわしの力もつきたような気がする。この船を<ruby><rb>逸</rb><rt>のが</rt></ruby>したら二度と機会は来ないかもしれない。あの荒れた<ruby><rb>乏</rb><rt>とぼ</rt></ruby>しい、退屈な、長い長い日が無限につづくことを思えばたまらない。わしはこの船が<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>に苦しむ罪人を迎えに来た<ruby><rb>弘誓</rb><rt>ぐぜい</rt></ruby>の船のような気さえしているのだ。

俊寛　（康頼の<ruby><rb>袖</rb><rt>そで</rt></ruby>をつかむ）永久に<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>に残るわしの運命を思ってくれ。それもただ一人で！　あゝ考えてもぞっとする。残ってください。残ってください。

康頼　わしが帰ったらきっと<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>殿に取りはかろうて迎えの船を送ります。それを信じて待ってください。

俊寛　それがあてになるものか。このたびの処置で清盛がわしをどれほど<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>んでいるかがわかる。わしはこの島にただ一人残って船の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>が見えなくなる瞬間が恐ろしい。わしの命がその瞬間を支え得るとは思われない。

康頼　きっと迎えにまいります。その日を待ってください。わしを帰らせてくれ。

俊寛　（康頼を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>く）残ってくれ、残ってくれ。

康頼　（<ruby><rb>苦悶</rb><rt>くもん</rt></ruby>の極に達す）あゝ。神々よ。

基康　船を出せ！

康頼　待ってくれ。（決心す）わしは帰らねばならない。（俊寛を<ruby><rb>放</rb><rt>はな</rt></ruby>す）

俊寛　わしを<ruby><rb>無間地獄</rb><rt>むげんじごく</rt></ruby>に落とすのか。

康頼　ゆるしてくれ、ゆるしてくれ。

俊寛　（康頼にしがみつく）助けてくれ。

康頼　（<ruby><rb>躊躇</rb><rt>ちゅうちょ</rt></ruby>す）

基康　（いらだたしく）船を出せ！

康頼　待ってくれ。（俊寛を押し<ruby><rb>放</rb><rt>はな</rt></ruby>ち船に乗る）

俊寛　（よろめく）あゝわしは。待ってくれ！

家来船を止めんとす。

基康　（声を<ruby><rb>励</rb><rt>はげ</rt></ruby>ます）出発しろ。

船動く。

俊寛　基康殿。わしは犬のごとくひれ伏してあなたに<ruby><rb>乞</rb><rt>こ</rt></ruby>う。わしをただ九州の地までつれて帰ってくれ。

基康　（顔をそむける）

成経　俊寛殿、きっと迎えにまいります。

康頼　心を確かに俊寛殿。わしは<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>ってもいい。きっと迎えをよこすことを。（無意識にふところより<ruby><rb>法華経</rb><rt>ほけきょう</rt></ruby>を取り出す）誓いのしるしにこの法華経をあなたにのこします。わしのただ一つの<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めであったこの経を。わしのかたみに！

俊寛　（<ruby><rb>法華経</rb><rt>ほけきょう</rt></ruby>を引き<ruby><rb>裂</rb><rt>さ</rt></ruby>く）

基康　（声を励まし）すぐ出せ！

船、岸を離る。

俊寛　（船にすがりつく）わしもつれて帰ってくれ。（船、動く。俊寛水の中に<ruby><rb>浸</rb><rt>ひた</rt></ruby>る）待ってくれ。（船、動く。俊寛水に浸りたるまま、一間ばかり船に引きずられてゆく）

基康　手を<ruby><rb>放</rb><rt>はな</rt></ruby>させろ。

家来　（俊寛の手をつかんで放す）

俊寛　（またしがみつく）

基康　（刀を抜き<ruby><rb>背</rb><rt>むね</rt></ruby>にて俊寛の手を打つ。俊寛、手を放す）急いで<ruby><rb>漕</rb><rt>こ</rt></ruby>げ。

船、岸を離れる。

俊寛　（ずぶぬれになったまま）船を<ruby><rb>戻</rb><rt>もど</rt></ruby>せ！　船を戻せ！

基康　（家来に）急げ。（俊寛に）わしのせいではないぞ。

成経　きっと迎えにまいりますぞ。

康頼　ゆるしてくれ。ゆるしてくれ。（手を合わす）

俊寛　助けてくれ！　わしを一人残すほどなら、むしろわしを殺してくれ。

答えなし、船退場。

俊寛　ただ九州の地まで。一生の願いだ。そしたら海の中に投げ込んで殺してくれてもいい。

答えなし。

俊寛　（水ぎわを伝って走る）船を<ruby><rb>戻</rb><rt>もど</rt></ruby>せ！　わしを助けてくれ。

答えなし。

俊寛　（丘の上にはい登り<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>をさしまねく）おーい、康頼殿。

<ruby><rb>沖</rb><rt>おき</rt></ruby>より呼ばわる声聞こゆ。

俊寛　船を戻せ！　船を戻せ！

沖より<ruby><rb>銅鑼</rb><rt>どら</rt></ruby>の<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>響く。

俊寛　船を戻せ！　船を戻せ！

答えなし。

俊寛　（衣を引き<ruby><rb>裂</rb><rt>さ</rt></ruby>く。狂うごとく打ちふる）おーい。康頼殿。

答えなし。この時<ruby><rb>雷</rb><rt>らい</rt></ruby>のとどろくごとく山の<ruby><rb>鳴動</rb><rt>めいどう</rt></ruby>聞こゆ。

俊寛　（ふるえる）助けてくれ！

答えなし。

俊寛　（絶望的に）だめだ！　（地に倒れる。立ち上がる）<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>だ。<ruby><rb>畜生</rb><rt>ちくしょう</rt></ruby>だ。お前らは帰れ。帰って<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>にこびへつらえ、<ruby><rb>仇敵</rb><rt>きゅうてき</rt></ruby>の前にひざまずいてあわれみを受けい。わしは最後まで勇士としてただ一人この島に残るぞ。この島で<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えて死ぬるぞ。

も一度激しき山の鳴動。

俊寛　（思わず叫ぶ）助けてくれ！　（地に伏す。間。必死の力を出して立ち上がりよろめきつつ）わしはこの島の鬼となるぞ！

波の音、松風の音、その間を時々山の鳴動。

  


第三幕

第一場

舞台、第一幕に同じ。岩多き<ruby><rb>荒涼</rb><rt>こうりょう</rt></ruby>たる<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>、第二幕より七年後の晩秋。

俊寛　（やせ<ruby><rb>衰</rb><rt>おとろ</rt></ruby>え、<ruby><rb>髪</rb><rt>かみ</rt></ruby>をぼうぼうとのばし、ぼろぼろに破れ、風雨のために<ruby><rb>縞目</rb><rt>しまめ</rt></ruby>もわからずなりたる着物をきている。岩かどに立ちて、嘆息しつつ海を眺める）あゝだめだ。まただまされた。何百度だまされればいいのだ。康頼めがなまじいに迎えによこすと言ったばかりに！　苦しまぎれにいいかげんなことをいったのだ。その場限りの<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めだ。それが何のあてになるものか。それをお前は知ってるくせに。<ruby><rb>愚</rb><rt>おろ</rt></ruby>か者！　<ruby><rb>未練</rb><rt>みれん</rt></ruby>なわしよ。あゝわしはもう自分に頼る気もなくなった。どうしてわしは死んでしまわないのだ。この岩かどに頭を打ちつければ、この悪夢のようなわしの<ruby><rb>生涯</rb><rt>しょうがい</rt></ruby>は閉じるのではないか。あゝ想像もつかない恐ろしい七年が経った。わしはどうして生きてくることができたのだろう。四季の移り変わりと月の<ruby><rb>盈虧</rb><rt>みちかけ</rt></ruby>がなかったら、どうして月日さえ数えることができたろう。何よりも苦しいのは食物がないことだ。わしはいつも<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>のように<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えていなければならない。もう弓を引く力もなくなった。水くぐる<ruby><rb>海士</rb><rt>あま</rt></ruby>のすべも知らない。（ふと<ruby><rb>岩陰</rb><rt>いわかげ</rt></ruby>を見る）見つけたぞ！　（<ruby><rb>岩陰</rb><rt>いわかげ</rt></ruby>に飛びゆき）待て。かにめ。（あわて<ruby><rb>捕</rb><rt>とら</rt></ruby>えんとす）えゝ逃げおったわい。（がっかりする。考える）あゝわしは<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>だ。少しの食物を得るためにどんなにあさましいことをしなければならないか。

この時岩かどにとまりいたる<ruby><rb>兀鷹</rb><rt>はげたか</rt></ruby>空を舞い、矢のごとく<ruby><rb>海面</rb><rt>うみづら</rt></ruby>に<ruby><rb>降</rb><rt>お</rt></ruby>り魚を捕えたちさる。

俊寛　あゝわしはあの兀鷹がうらやましいわい。

<ruby><rb>漁夫</rb><rt>ぎょふ</rt></ruby>一登場、<ruby><rb>𡏱</rb><rt>びく</rt></ruby>を岩の上に置き<ruby><rb>網</rb><rt>あみ</rt></ruby>を打つ。

俊寛　（おずおずと漁夫のそばに近寄る）

漁夫一　（気味悪そうに俊寛を見る。網をあげ、捕えたる魚を𡏱の中に入れ、再び網を打つ）

俊寛　（𡏱の中をのぞきこむ。何かいいかけて<ruby><rb>躊躇</rb><rt>ちゅうちょ</rt></ruby>す。やがて思いきりたるごとく）この魚をわしの<ruby><rb>硫黄</rb><rt>いおう</rt></ruby>と<ruby><rb>換</rb><rt>か</rt></ruby>えてくれまいか。

ふところより硫黄の<ruby><rb>塊</rb><rt>かたまり</rt></ruby>を出す。

漁夫一　（俊寛を<ruby><rb>軽蔑</rb><rt>けいべつ</rt></ruby>したように見る）わしはそんなものはいらない。（網を引き上げる）

俊寛　そうであろうが二、三尾でいいから換えてくれまいか。

漁夫一　九州から硫黄を買いに来る<ruby><rb>商人</rb><rt>あきんど</rt></ruby>に持ってゆくがいい。

俊寛　いつくるかわからない。わしは<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えているのだから。

漁夫一　それっぱかしの硫黄をもらったってしかたがないや。

俊寛をさけるごとく、少し離れた所に行き網を打つ。

俊寛　（𡏱の中を物欲しそうにのぞきこむ。やがて<ruby><rb>隙</rb><rt>すき</rt></ruby>をうかがい手を突込み魚をつかみ、ふところに入れる）

漁夫一　（それを見つける）<ruby><rb>盗</rb><rt>ぬす</rt></ruby>みやがったな。<ruby><rb>太</rb><rt>ふと</rt></ruby>いやつだ。

俊寛　わしは知らぬわい。

漁夫一　うそをつけ。魚を出せ。（俊寛に詰め寄せる）

漁夫二とその妻登場。

漁夫二　どうしたのだ。

漁夫一　こいつ、わしの魚を<ruby><rb>盗</rb><rt>ぬす</rt></ruby>みやがったのだ。

漁夫二　この<ruby><rb>流人</rb><rt>るにん</rt></ruby>めが。とっちめてやれ。

漁夫二の妻　（背中の子供をゆすぶりながら）こいつはいつもうろうろして物盗みをするということだよ。

漁夫二　ぶちなぐってやれ。（俊寛逃げんとす）

漁夫一　待て！　（俊寛を地にねじ伏せる）

漁夫二　<ruby><rb>盗人</rb><rt>ぬすっと</rt></ruby>め！　（俊寛の顔を打つ）

俊寛　（顔をおおうて地に伏す。漁夫の子供火のつくように泣く）

漁夫二の妻　（けんどんに子供をゆすぶりながら）ほえまいぞ、ほえまいぞ。ほえるとこの流人のようにぶたれるぞ。

漁夫二　（俊寛を突きやり）<ruby><rb>失</rb><rt>う</rt></ruby>せろ、流人め。二度とこんなまねをしやがったら、生かしてはおかないぞ。

漁夫一　二度とこの<ruby><rb>界隈</rb><rt>かいわい</rt></ruby>にうろつくな。

漁夫二の妻　いやなやつだね。あんなのを<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>というのだろうよ。

三人退場。

俊寛　（立ち上がり、あたりを見回す）あゝ、何というみじめさだ。（走り行き岩かどに頭を打ちつけんとして<ruby><rb>躊躇</rb><rt>ちゅうちょ</rt></ruby>す）あゝ死ね！　死ね！　（地に伏す）あゝだめだ。これでもわしは死ねないのか。（<ruby><rb>慟哭</rb><rt>どうこく</rt></ruby>す。やがて岩かどに腰をかける。ふとそこに落ちいたる魚を見つける。無意識に拾い上げて食わんとす。この時犬の群れのほゆる声起こる。ぎょっとしてあたりを見回す）しっ。しっ。（犬ますますほえる。俊寛、石を拾う）<ruby><rb>畜生</rb><rt>ちくしょう</rt></ruby>！　（石を投げる。犬の声静まる。魚にかじりつく）

有王登場。俊寛人の<ruby><rb>気配</rb><rt>けはい</rt></ruby>に<ruby><rb>岩陰</rb><rt>いわかげ</rt></ruby>に<ruby><rb>隠</rb><rt>かく</rt></ruby>れる。

有王　（あたりを見回しつつ）なんと言う荒れた島だろう。<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>にいる時<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島のさびしいことは聞いていたが、これほどだろうとは思わなかった。ほんとうに<ruby><rb>鬼</rb><rt>おに</rt></ruby>でも住むような島だ。この島で一日と暮らせようとは思えない。あゝご主人さまはこの島で、七年もただ一人で暮らさなければならなかったのだ。もしやもはやお果てなされたのではあるまいか。この島中を山をよじ<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>を伝って捜したけれどもそれらしい人も見あたらない。もしか絶望のあまり岩かどに頭を打ちつけて自殺でもなさりはすまいか。いやいやそんなことはあるまい。奥方や若君の<ruby><rb>安否</rb><rt>あんぴ</rt></ruby>もわからぬ先にそのようなことはなさるまい。（岩のほうに行く）

俊寛　（岩陰よりいで去らんとす）

有王　（俊寛の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>を見て驚き、二、三歩後ろにさがる。小声にて傍白）あれはなんだろう。あの恐ろしい姿は！　わしは<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>道へでも迷って来たのではあるまいか。いや、やはり人間のようだ。<ruby><rb>尋</rb><rt>たず</rt></ruby>ねてみよう。（俊寛の後ろより声をかける）ちょっと、物をお<ruby><rb>尋</rb><rt>たず</rt></ruby>ねいたしたい。

俊寛　（後ろを振り向く）

有王　わしは<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>から来た者だが、（俊寛、都と聞いて驚いて有王を見る）この島に<ruby><rb>法勝寺</rb><rt>ほっしょうじ</rt></ruby>の<ruby><rb>執行</rb><rt>しゅぎょう</rt></ruby>俊寛<ruby><rb>僧都</rb><rt>そうず</rt></ruby>と申す方が十年前よりお渡りになっているはずだが、もしやご存じあるまいか。

俊寛　（驚きのためまっさおになる。何か言いかけてくちびるをひきつける。やがてつくづく有王を見る）有王だ！　（有王に<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>きつく。やがて反射的に有王を<ruby><rb>放</rb><rt>はな</rt></ruby>し顔をおおう）あゝ、わしは恥ずかしい。

有王　（驚きて俊寛を見る）お前はだれだ。わしの名を知っているお前は。

俊寛　有王よ。わしだ。俊寛だ！　（有王に抱きつく）

有王　（驚き、つくづくと俊寛を見る）あゝ、ご主人様だ！　（俊寛を抱く）

俊寛　あゝ、わしはわしは。（<ruby><rb>慟哭</rb><rt>どうこく</rt></ruby>す）

有王　おなつかしゅうございました。（<ruby><rb>愛憐</rb><rt>あいれん</rt></ruby>の情に<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えざるごとく）あなた様のこのお変わりようは！

俊寛　わしの<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>を見てくれい。

有王　あゝいたわしや、ご主人様。よく生きていてくださいました。どうしてこの十年をお過ごしなされました。この荒い島で、ただ一人で。（泣く）

俊寛　わしは<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>のように暮らしてきた。どうして生きてきたか自分にもわからない。すべては困苦と欠乏と孤独と、そして堪えられない<ruby><rb>侮辱</rb><rt>ぶじょく</rt></ruby>だった。

有王　ここでお目にかかろうとは！

俊寛　夢だ！　悪い、長い夢だ。

有王　<ruby><rb>今生</rb><rt>こんじょう</rt></ruby>でふたたびお目にかかれるとは。あゝありがたい。

俊寛　この変わりはてたあさましい<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>をあわれんでくれ。

有王　ご主人様、もはやご安心なさいませ、私がまいりました。あなたの手足のように忠実な有王めでございます。

俊寛　（有王を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>きすすりなく）

有王　私の心は昔と<ruby><rb>寸分</rb><rt>すんぶん</rt></ruby>変わりませぬ。あなたが<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>をおたちなされてから、苦しい長い日がつづきました。あゝ長い長い日が、わたしはどんなにあなたのことをお案じ申したか、先年<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島の<ruby><rb>流人</rb><rt>るにん</rt></ruby>たちがきょうは都へ上ると聞いた時、私は夢かとよろこんで取るものもとりあえず<ruby><rb>鳥羽</rb><rt>とば</rt></ruby>までまいりましたけれども、康頼殿と成経殿の<ruby><rb>輿</rb><rt>こし</rt></ruby>は帰ったけれども、あなた様は一人鬼界が島に取り残りなされたと聞いた時、私は絶えいるばかりに悲しみました。それから七年の間あなたの<ruby><rb>赦免</rb><rt>しゃめん</rt></ruby>のことがある日をあけくれ待ちわびていました。けれど七年がむなしく過ぎました。待ちあぐんだ末、私は<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えきれなくなって人目を<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びこの島に<ruby><rb>尋</rb><rt>たず</rt></ruby>ねてまいりました。せめて今生に一度だけでもお目にかかりたいと思って。

俊寛　あゝ、お前にふたたび会えようとは！　はるばると来てくれたか。わしのすべての友、すべての家来がわしを見捨てたのに。この島の<ruby><rb>漁師</rb><rt>りょうし</rt></ruby>さえわしをあなどり、<ruby><rb>餓鬼</rb><rt>がき</rt></ruby>を恐れるようにわしを<ruby><rb>避</rb><rt>さ</rt></ruby>けようとするのに。

有王　私の尊いご主人様、私はあなたのために命を<ruby><rb>惜</rb><rt>お</rt></ruby>しみませぬ。幼い時からあなたに受けたご恩を思えば、私はよろこんであなたのために死にまする。

俊寛　わしは絶望のあまり幾度も幾度も死にかけた。深い海やけわしい岩かどは、絶え間なくわしを死に<ruby><rb>誘</rb><rt>さそ</rt></ruby>うた。だがわしの妻子の愛着がわしを死なせなかった。この地上のどこかで妻や子が生きているのだと思えばわしは死ねなかった。しかもきっと不幸と<ruby><rb>恥辱</rb><rt>ちじょく</rt></ruby>との中に。有王よ、わしは妻子の<ruby><rb>安否</rb><rt>あんぴ</rt></ruby>を気づかった時、いつもお前のことを頼みにしていた。すべての家来はそむき去っても、お前だけはきっと最後まで命をかけても彼らを守ってくれると信じていた。わしに聞かせてくれ。聞かせてくれ。わしの妻はどうしていますか。

有王　（何かいいかけてやめる。あわれむごとく、俊寛の顔を見、顔をそむける）

俊寛　言ってくれ！　有王よ。わしはたいてい想像している。どんな恥な暮らしをしていてもわしはもはや驚きはしない。

有王　（苦しそうに）あゝ、私の申し上げることはもっと悪いことでございます。

俊寛　（青ざめる。心を確かに保とうとつとめつつ）わしは覚悟している。

有王　（<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えかねたるごとく）<ruby><rb>西方</rb><rt>さいほう</rt></ruby>におわします奥方様。ご主人様のお心をお支えくださるように！

俊寛　あゝ<ruby><rb>亡</rb><rt>な</rt></ruby>くなったか。<ruby><rb>自害</rb><rt>じがい</rt></ruby>したか。

有王　（思いきりたるごとく）幾たびかそれをくわだてられました。そのたびごとに私が必死になっておとどめ申さなかったら、あなたが西八条に<ruby><rb>捕</rb><rt>とら</rt></ruby>われていらっしたあと、平氏の役人どもが<ruby><rb>館</rb><rt>やかた</rt></ruby>に押し寄せて近親のかたがたをことごとくからめとり、連れかえって<ruby><rb>拷問</rb><rt>ごうもん</rt></ruby>し、<ruby><rb>謀叛</rb><rt>むほん</rt></ruby>の<ruby><rb>次第</rb><rt>しだい</rt></ruby>を白状させてことごとく首をはねました。もし<ruby><rb>重盛</rb><rt>しげもり</rt></ruby>が<ruby><rb>命乞</rb><rt>いのちご</rt></ruby>いをしなかったら、女や幼い者さえも<ruby><rb>免</rb><rt>のが</rt></ruby>れることができなかったでしょう。奥方は若君と<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>君とを<ruby><rb>伴</rb><rt>ともの</rt></ruby>うて<ruby><rb>鞍馬</rb><rt>くらま</rt></ruby>の奥に身をお<ruby><rb>隠</rb><rt>かく</rt></ruby>しなされました。深いご恩をこうむっている数多くの<ruby><rb>郎党</rb><rt>ろうどう</rt></ruby>は自分の身にとがめのかかるのを恐れて皆逃げ去ってしまいました。私一人おともをいたしご奉公申し上げましたけれども、そのご不自由さは申すもおいとしいほどでございました。絶えず敵の<ruby><rb>追手</rb><rt>おって</rt></ruby>を恐れ、ことに恥と<ruby><rb>侮</rb><rt>あなど</rt></ruby>りとを防ぐためにあの気高い奥方がどんなに心を苦しめられたか、あなたがこの島にご<ruby><rb>流罪</rb><rt>るざい</rt></ruby>になられたと聞いてから奥方のお<ruby><rb>嘆</rb><rt>なげ</rt></ruby>きははたの見る目も苦しいほどでございました。康頼殿、成経殿のご<ruby><rb>赦免</rb><rt>しゃめん</rt></ruby>があってあなたのみお残りなされたと聞かれてから、奥方の悲しみはもはや私の<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>め申すにはあまりに深くなりました。そしてついに病の床におつきなされ種々手をつくしてご<ruby><rb>看病</rb><rt>かんびょう</rt></ruby>申し上げましたけれどもそのかいなくついにお果てなされました。

俊寛　あゝあわれな妻よ。（目を閉じる。力なく）二人の子供は！

有王　そのあとを申し上げるのはあまりに苦しゅうございます。

俊寛　言ってくれ。言ってくれ。わしの心はもはや悲しみにしびれている。

有王　若君は夜も昼も父母をお<ruby><rb>慕</rb><rt>した</rt></ruby>いなされ、「母上はいずくにゆかれた！　<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島とやらへ連れてゆけ。」とおむずかり遊ばしましたが、六年前の二月ごろその時はやった<ruby><rb>痘</rb><rt>もがさ</rt></ruby>という病気におかかりなされついにお<ruby><rb>失</rb><rt>う</rt></ruby>せなされました。

俊寛　（石のごとく<ruby><rb>硬</rb><rt>かた</rt></ruby>く冷たき表情にて）ただ一人残った娘は？

有王　姫君さまはこの世をはかなみ奈良の<ruby><rb>法華寺</rb><rt>ほっけじ</rt></ruby>にて<ruby><rb>尼</rb><rt>あま</rt></ruby>になって、母上や若君の<ruby><rb>菩提</rb><rt>ぼだい</rt></ruby>をとむろうていられましたが、去年の秋の暮れふとおゆくえがわからなくなり、手をわけて捜しましたところ。（俊寛を見る。<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えかねたるごとく顔をそむけ口をつぐむ）

俊寛　言ってくれ。ひと思いに。この場におよんでもはや私に悲しみをおしんでくれな。

有王　さる谷間に<ruby><rb>姫</rb><rt>ひめ</rt></ruby>君のおなきがらが見つかりました。

俊寛　（ほとんど無感覚になりたるごとくうつろなる目つきにて）無だ！　すべてが、すべてが亡びていたのか、わしの<ruby><rb>氏</rb><rt>うじ</rt></ruby>を根こそぎ<ruby><rb>奪</rb><rt>うば</rt></ruby>ってゆくのか。

有王　気をおたしかに！

俊寛　（われにかえりたるごとく）<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>はどうしている？　平氏の運命は？　わしに信じられないほど<ruby><rb>残酷</rb><rt>ざんこく</rt></ruby>な運命が平氏をどう扱うか、わしはそれが知りたい。

有王　世は<ruby><rb>澆季</rb><rt>すえ</rt></ruby>になったと思われまする。平氏はますます栄えはびこり、その<ruby><rb>荘園</rb><rt>しょうえん</rt></ruby>は天下に半ばし、一族ことごとく<ruby><rb>殿上</rb><rt>てんじょう</rt></ruby>に時めき「平氏にあらざるものは人にあらず」といわれております。清盛が<ruby><rb>厳島</rb><rt>いつくしま</rt></ruby>に<ruby><rb>参詣</rb><rt>さんけい</rt></ruby>する道を<ruby><rb>直</rb><rt>なお</rt></ruby>くするために切り開かした<ruby><rb>音戸</rb><rt>おんど</rt></ruby>の<ruby><rb>瀬戸</rb><rt>せと</rt></ruby>で、傾く日をも呼び返したと人は申しまする。法皇は清盛の<ruby><rb>女</rb><rt>むすめ</rt></ruby>の<ruby><rb>胎</rb><rt>はら</rt></ruby>から生まれた<ruby><rb>皇子</rb><rt>おうじ</rt></ruby>に位を<ruby><rb>譲</rb><rt>ゆず</rt></ruby>られる、と聞いております。あらゆる<ruby><rb>暴虐</rb><rt>ぼうぎゃく</rt></ruby>に<ruby><rb>飽</rb><rt>あ</rt></ruby>いた身を宮殿をしのぐような<ruby><rb>六波羅</rb><rt>ろくはら</rt></ruby>の邸宅の<ruby><rb>黄金</rb><rt>こがね</rt></ruby>の床に横たえて、<ruby><rb>美姫</rb><rt>びき</rt></ruby>を集めて<ruby><rb>宴楽</rb><rt>えんらく</rt></ruby>にふけっております。天下は清盛の前に恐れ伏し、平氏にこびへつらい何人もあえて対抗しようとするものはありませぬ。

俊寛　成経はどうした。<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>に帰れば<ruby><rb>隙</rb><rt>すき</rt></ruby>をうかがって<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしゅう</rt></ruby>することができるといった成経は？

有王　成経殿はこのたび<ruby><rb>宰相</rb><rt>さいしょう</rt></ruby>の少将に<ruby><rb>昇</rb><rt>のぼ</rt></ruby>られるといううわさでございます。平氏に<ruby><rb>刃向</rb><rt>はむ</rt></ruby>かうことなどは思いもよらぬように見受けられます。

俊寛　父を<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>に殺された成経が！　康頼はどうしている。

有王　康頼殿は<ruby><rb>東山双林寺</rb><rt>ひがしやまそうりんじ</rt></ruby>の山荘にこもって風流に身をやつしていられます。<ruby><rb>鬼界</rb><rt>きかい</rt></ruby>が島での生活を材料にして<ruby><rb>宝物集</rb><rt>ほうぶつしゅう</rt></ruby>という物語を世に出されるといううわさでございます。

俊寛　犬だ！　<ruby><rb>鼠</rb><rt>ねずみ</rt></ruby>だ！　わしは最後まで勇士として立つぞ。自分を売らぬぞ。有王船を用意しろ、船を！

有王　お心を静かに！

俊寛　ただ<ruby><rb>一矢</rb><rt>ひとや</rt></ruby>を！　わしの<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>にまだ力があるうちに！

有王　船は急にはありませぬ、私がこの島に来ることができたのも不思議なほどでございます。<ruby><rb>赤間</rb><rt>あかま</rt></ruby>の関で役人に<ruby><rb>捕</rb><rt>とら</rt></ruby>えられすでに<ruby><rb>危</rb><rt>あやう</rt></ruby>きところをのがれ、<ruby><rb>船頭</rb><rt>せんどう</rt></ruby>をだましてようやくこの島に着くことができました。

俊寛　九州まで！　いかなる手段をつくしても！　九州まで着けば身を<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>ばして都に入り、時機をうかがうことができる。

有王　たとえ九州まで帰り着いても、清盛が草をかきわけても捜し出さずにはおきませぬ。

俊寛　ただ<ruby><rb>一太刀</rb><rt>ひとたち</rt></ruby>！　わしの<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>みを<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>の肉にただ一太刀<ruby><rb>刻</rb><rt>きざ</rt></ruby>みつけるために！

有王　（つくづくと俊寛を見る）あゝご主人様何ごとも時でございます。われわれの運は去りました。

俊寛　（倒れんとす）

有王　（俊寛を支えあわれみに<ruby><rb>堪</rb><rt>た</rt></ruby>えざるごとく）お気をたしかに！　<ruby><rb>栄枯盛衰</rb><rt>えいこせいすい</rt></ruby>は人間の力に<ruby><rb>測</rb><rt>はか</rt></ruby>りがたき天のさだめでございます。今時を得て全盛の<ruby><rb>極</rb><rt>きわ</rt></ruby>みにある平家の運命もいつかはきっとつきる時が来るでしょう。

俊寛　（夢中にて）残っている！　まだわしの<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>に力が残っている。

有王　一人や二人の力で刃向こうても、今時を得ている平氏をくつがえすことはできませぬ。天が平氏を<ruby><rb>滅</rb><rt>ほろ</rt></ruby>ぼすのを待ちましょう。

俊寛　清盛よ、お前がわしに課した<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>の<ruby><rb>価</rb><rt>あたい</rt></ruby>をお前に知らさずにはおかぬぞ！

有王　あの清盛の前代<ruby><rb>未聞</rb><rt>みもん</rt></ruby>の<ruby><rb>暴逆</rb><rt>ぼうぎゃく</rt></ruby>が天罰を受けずにはおきますまい。

俊寛　今わしが流すこのあぶらのような涙をお前の歓楽の<ruby><rb>杯</rb><rt>さかずき</rt></ruby>に注ぎ込んで飲まさずにはおかぬぞよ。

有王　<ruby><rb>無間地獄</rb><rt>むげんじごく</rt></ruby>の苛責とても今のあなたの苦しみにまさりはいたしますまい。

俊寛　この苦しみを倍にして、七倍にしてきっとお前に<ruby><rb>報</rb><rt>むく</rt></ruby>いるぞ！　わしの足がまだわしの体を支える限りは。えゝ。船を出せ。船を！

有王　（力つきたるごとく、ぐったりとして）船はとても得られませぬが。

俊寛　たとえ生きながら龍となって大海を越ゆるとも！　（衣を<ruby><rb>裂</rb><rt>さ</rt></ruby>く）わしは憎む。わしは憎む。（狂うごとく）えゝ、この頭が張り<ruby><rb>裂</rb><rt>さ</rt></ruby>けるわい！　（ほとんど無意識に頭を岩かどに打ち当てんとす）

有王　（まっさおになり、俊寛を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>き止める）ご主人様。ご主人様。

俊寛　（有王の<ruby><rb>腕</rb><rt>うで</rt></ruby>の中にて）<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>よ。わしの<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>をお前の死骸に重ねるぞ！　（失神して倒れる）

有王　（俊寛を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>きかかえたるまま）ご主人様、お気をおたしかに！　あゝ、いたわしや。あまりに苦しみがすぎました。<ruby><rb>鬼神</rb><rt>きじん</rt></ruby>もおあわれみくだされい。かかる苦しみが歴史の記録にもありましょうか。

俊寛　（われに返り、抱かれたるまま、無限の感情をこめて）あゝ、有王よ。

有王　ご主人様。気をおたしかに！　有王は最後まで宮仕えいたしますぞ。海をくぐり、山によじても食物をあさり求めあなたを養い守りますぞ。（俊寛を抱きしめる）

第二場

俊寛の小屋。いそに<ruby><rb>漂着</rb><rt>ひょうちゃく</rt></ruby>したる丸太や竹を<ruby><rb>梁</rb><rt>はり</rt></ruby>や<ruby><rb>桁</rb><rt>けた</rt></ruby>とし、<ruby><rb>芦</rb><rt>あし</rt></ruby>を<ruby><rb>結</rb><rt>むす</rt></ruby>んで屋根を<ruby><rb>葺</rb><rt>ふ</rt></ruby>き、<ruby><rb>苫</rb><rt>とま</rt></ruby>の破片、<ruby><rb>藻草</rb><rt>もぐさ</rt></ruby>、松葉等を掛けてわずかに<ruby><rb>雨露</rb><rt>あめつゆ</rt></ruby>を<ruby><rb>避</rb><rt>さ</rt></ruby>けたるのみ。すべて<ruby><rb>乏</rb><rt>とぼ</rt></ruby>しく荒れ果てている。俊寛、藻草を敷き破れたる苫をかけてねている。第一場より一か月後の夜、<ruby><rb>隙間</rb><rt>すきま</rt></ruby>より月光差し入る。小屋の外はあらし吹く。

俊寛　（突然苫をおしのけ、起き上がり、あたりを見回す）<ruby><rb>魔道</rb><rt>まどう</rt></ruby>に落ちているのか。妻よ。今に、今に<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>みを晴らしてやるぞ！　（われにかえりたるごとく）あゝ夢か。（急に自分の地位をはっきりと意識したるごとく）あゝわしはどうして死にきれないのだ。すでに三七日も<ruby><rb>飲食</rb><rt>おんじき</rt></ruby>を<ruby><rb>断</rb><rt>た</rt></ruby>っているのに！　わしは<ruby><rb>干死</rb><rt>ひじ</rt></ruby>にすることもできないのか。わしの<ruby><rb>生命</rb><rt>いのち</rt></ruby>の根は<ruby><rb>執念</rb><rt>しゅうねん</rt></ruby>深く断ちきれない。このあさましいわしの<ruby><rb>業</rb><rt>ごう</rt></ruby>をいつまでもさらさせようとするのか。食を断っても断っても死にきれぬ<ruby><rb>蛇</rb><rt>へび</rt></ruby>のように。わしの力はわしの<ruby><rb>四肢</rb><rt>しし</rt></ruby>からもう失せたのにわしの根はいつまでも死にきらないのか。運命はあくまでもわしを<ruby><rb>責</rb><rt>せ</rt></ruby>めさいなもうとするのか。わしは死にたい。死にたい。ただ<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>みだけがわしの生命を<ruby><rb>燃</rb><rt>も</rt></ruby>やしているのだ。わしは死んでただわしの恨みだけが生きているのだ。わしは恨みそのものだ。わしは生きながらの<ruby><rb>怨霊</rb><rt>おんりょう</rt></ruby>だ。（耳をそばだてる）あゝ風の音か。わしの子どもが泣いているような気がしたのだが。

有王　（登場、魚と<ruby><rb>荒布</rb><rt>あらめ</rt></ruby>とを持っている）ただいま帰りました。

俊寛　（なお何者かのあとを追うごとく）あゝ帰ったか。

有王　ご気分はいかがでございます。（俊寛のそばによる）

俊寛　わしの根はますますはっきりするばかりだ、わしの<ruby><rb>身体</rb><rt>からだ</rt></ruby>は日に日に<ruby><rb>衰</rb><rt>おとろ</rt></ruby>えてゆくのだが。

有王　（つくづくと俊寛を見る）ご主人様、なにとぞ私の申すことをお聞きください。今夜は心を静めて何か召し上がりませ。ここに魚と荒布とがございます。

俊寛　わしはもはや飲食はたったのだ。わしははやく死にたい。

有王　なぜそのようなことをおっしゃいますか、私が生きている限りはたとえご不自由とは申せ、海山をあさってもあなたを<ruby><rb>飢</rb><rt>う</rt></ruby>えさせはいたしませぬ。

俊寛　あゝわしは生きていてどうするのだ。わしの手足にまだ力が残っていた間は、いかにもして一度<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>に帰って<ruby><rb>敵</rb><rt>かたき</rt></ruby>に<ruby><rb>一太刀</rb><rt>ひとたち</rt></ruby><ruby><rb>報</rb><rt>むく</rt></ruby>いる望みがあった。お前からあの恐ろしい<ruby><rb>凶報</rb><rt>きょうほう</rt></ruby>を聞いた時、わしがすぐに死ななかったのはただその希望のためのみであった。があまりに激しい悲しみはわしを打った。<ruby><rb>衰</rb><rt>おとろ</rt></ruby>えきったわしの体を病気がむしばんだ。わしはもはやふたたび都の土を<ruby><rb>踏</rb><rt>ふ</rt></ruby>む望みはない。<ruby><rb>一指</rb><rt>いっし</rt></ruby>を加えることができないで敵とともに一つの天をいただくことは限りない苦しみだ。

有王　病気はなおすことができるではありませんか。命さえあればふたたび都に帰れないとは限りません。

俊寛　（苦しそうに）有王。この<ruby><rb>期</rb><rt>ご</rt></ruby>に<ruby><rb>臨</rb><rt>のぞ</rt></ruby>んでもはやまやかしごとを言ってくれな。

有王　でも<ruby><rb>寿命</rb><rt>じゅみょう</rt></ruby>のある限りは。

俊寛　（さえぎる）わしはもはや再び立つことはできない。

有王　どうしてそのようなことがありましょう。なにとぞ<ruby><rb>飲食</rb><rt>おんじき</rt></ruby>をおとりください。私が苦心してあり求めてきたのでございますから。

俊寛　わしは<ruby><rb>干死</rb><rt>ひじ</rt></ruby>にするのだ。わしの<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>いが悪魔の心にかなうために。わしの肉体の力はつきた。わしに残っているのはただ<ruby><rb>魂魄</rb><rt>こんぱく</rt></ruby>の力だ。わしのこの力で<ruby><rb>復讐</rb><rt>ふくしゅう</rt></ruby>して見せる。<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>はわしからすべての力を<ruby><rb>奪</rb><rt>うば</rt></ruby>った。しかしこの力を奪うことはできないのだ。人間の魂魄の力がどれだけ強いか。わしはそれを知らせてやる。清盛を呪うてやる。ともに魔道に<ruby><rb>伴</rb><rt>ともの</rt></ruby>うてゆくぞ！

有王　あゝ恐ろしい。ご主人様、あなたは静かにこの世を終わってください。私は争いに<ruby><rb>飽</rb><rt>あ</rt></ruby>きました。あゝこの年月私の見てきたことはあまりに恐ろしいことばかりでありました。思えば思うほどあさましい。私はこの恐ろしい世を<ruby><rb>惜</rb><rt>お</rt></ruby>しいとは思いませぬ。その<ruby><rb>渦</rb><rt>うず</rt></ruby>の中からのがれたい。たとえこの荒れた島はいかにさびしくとも、ここで静かに<ruby><rb>余生</rb><rt>よせい</rt></ruby>を送りましょう。私が朝夕心をつくしてご奉公申し上げますから。つくづくあなたのご<ruby><rb>生涯</rb><rt>しょうがい</rt></ruby>を思えばただごとではない気がいたします。目に見えぬ<ruby><rb>悪業</rb><rt>あくごう</rt></ruby>があなたの<ruby><rb>氏</rb><rt>うじ</rt></ruby>につきまとっている気がいたします。静かに<ruby><rb>業</rb><rt>ごう</rt></ruby>のつきるのを待ち平和な<ruby><rb>来世</rb><rt>らいせ</rt></ruby>をお迎え遊ばすよう、私はひたすら祈ります。今あなたの心に起こっていることは世にも恐ろしいことでございます。あなたの来世を魔道に落とさぬよう。

俊寛　わしのこの、この<ruby><rb>骨髄</rb><rt>こつずい</rt></ruby>に<ruby><rb>徹</rb><rt>てっ</rt></ruby>する<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>みをどうするのだ。あゝわしの受けた<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>がどれほどのものだったか！　わしはよい人間ではないかもしれない、だが、かほどの苛責がわしに相当しているだろうか。少なくともわしは<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>ほど<ruby><rb>悪虐</rb><rt>あくぎゃく</rt></ruby>ではないつもりだ、彼ほど人を傷つけてはいないつもりだ。天はその清盛をどのように遇しているか！

有王　あゝ私もそれはわかりませぬ、が、清盛の積んだ悪業はきっと<ruby><rb>罰</rb><rt>ばち</rt></ruby>を受ける時が来ると思います。

俊寛　あゝわしはその罰を呼び起こすのだ。その罰を七倍にしてやるのだ。彼を<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>に引きずり落としてやるのだ。

有王　ご主人様、なにとぞお心を静めてください。清盛の<ruby><rb>懲罰</rb><rt>ちょうばつ</rt></ruby>は<ruby><rb>魔王</rb><rt>まおう</rt></ruby>に<ruby><rb>任</rb><rt>まか</rt></ruby>せてください。この世では記録にないほどの恐ろしい<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>を受け、死後もまた<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>におちて<ruby><rb>永劫</rb><rt>えいごう</rt></ruby>につきない火に焼かれなくてはならなかったら！

俊寛　たとえ地獄の火に焼かるるとも<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>を<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>い殺さずにはおかないぞ。彼を火の中に呪い落として永劫に<ruby><rb>責</rb><rt>せ</rt></ruby>めさいなまずにはおかないぞ。

有王　（耳をおおう）あゝ恐ろしい。仏様が主人の心をお静めくださるよう！

沈黙。あらしの音が過ぎる。

俊寛　有王よ。お前は<ruby><rb>都</rb><rt>みやこ</rt></ruby>へ帰ってくれ。

有王　（驚く）ご主人様。何をおっしゃいます。

俊寛　お前はまだ若い。わしとともにこの島で<ruby><rb>朽</rb><rt>く</rt></ruby>ち果てさすに<ruby><rb>忍</rb><rt>しの</rt></ruby>びない。都へ帰ってよき主に仕え、世に出る道を<ruby><rb>計</rb><rt>はか</rt></ruby>ってくれ。

有王　私は世をいといます。この島で一生あなたに仕えるほか何の望みも持ちません。

俊寛　都へ帰れ。都へ帰れ。

有王　私は死ぬまであなたを養い守ります。

俊寛　わしはお前にとっていい主人ではなかった。お前になんの<ruby><rb>栄</rb><rt>さか</rt></ruby>えをも与えることもできないで。恥と<ruby><rb>煩</rb><rt>わずら</rt></ruby>いとのみ負わせた。お前がわしの妻子に最後までつくしてくれたことは、わしの<ruby><rb>肝</rb><rt>きも</rt></ruby>に<ruby><rb>銘</rb><rt>めい</rt></ruby>じている。お前の一生をこの島にうずめさせてはならない。立ち帰ってお前の栄えを求めてくれ。

有王　お言葉が身に余りまする、私はあなたのためによろこんで死にます。この島に<ruby><rb>朽</rb><rt>く</rt></ruby>ち果てることは物の数ではありませぬ。ただいかに心をつくしてもあなたのあまりに深い心の<ruby><rb>手傷</rb><rt>てきず</rt></ruby>を<ruby><rb>慰</rb><rt>なぐさ</rt></ruby>めることができないのを悲しむばかりでございます。

俊寛　わしを捨ててくれ。この島で一人死なせてくれ。

有王　私は最後まであなたのそばを離れませぬ。あなたとともに死にます。

俊寛　わしの死はもう手の届くほど近づいている。

有王　あゝ私は無常を感じます。静かにこの世を終わりましょう。<ruby><rb>来世</rb><rt>らいせ</rt></ruby>の平安を祈りましょう。<ruby><rb>主従</rb><rt>しゅじゅう</rt></ruby>は<ruby><rb>三世</rb><rt>さんぜ</rt></ruby>と申します。

間。

俊寛　（何ごとかを思いつきたるごとく急に立ち上がり、やがてまっさおになりて、くずれるごとく寝床にすわる）

有王　どうかなさいましたか。急にお顔の色が悪くなりましたが。

俊寛　（平気を<ruby><rb>装</rb><rt>よそお</rt></ruby>う）わしは寒い。有王、火をたいてくれ。

有王　あゝあまり夜風がきついのがさわったのでございましょう。すぐに火をたきましょう。すぐ<ruby><rb>薪</rb><rt>たきぎ</rt></ruby>を拾ってまいりますから。（退場）

俊寛　（寝床の上に倒れる。やがて決心したるごとく立ち上がる）有王よ。お前の忠義はいつまでも忘れぬぞ。（よろめきつつ<ruby><rb>藻草</rb><rt>もぐさ</rt></ruby>をかきわけて小屋をいであたりをうかがい<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>のほうに向かって退場）

舞台しばらく<ruby><rb>空虚</rb><rt>くうきょ</rt></ruby>。

有王　（登場）すぐに火をたきますぞ。ひどいあらしだ。（俊寛の<ruby><rb>姿</rb><rt>すがた</rt></ruby>の見えざるに気づいて、驚き薪を投げる）ご主人様。（小屋の中を捜す。<ruby><rb>藻草</rb><rt>もぐさ</rt></ruby>のかきわけてあるのを見る。急にまっさおになる）あゝ。（驚きあわて小屋を走りいで、月明りに<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>のほうを<ruby><rb>透</rb><rt>す</rt></ruby>かし見つつ急ぎ退場）

第三場

舞台第一場に同じ。時。第二場の直後。<ruby><rb>烈風</rb><rt>れっぷう</rt></ruby>吹き、波の音高し。荒れ狂う海の上に<ruby><rb>利鎌</rb><rt>とがま</rt></ruby>のごとき月かかる。<ruby><rb>雲足</rb><rt>くもあし</rt></ruby>はやく月前をかすめ飛び舞台うす暗くなり、またほのあかるくなる。俊寛よろめきながら登場。幾たびか岩かどにつまずきては倒れ、また起きあがる。息を<ruby><rb>吐</rb><rt>つ</rt></ruby>きつつ後ろを透かしながめ、よろめきつつ岩をよじ<ruby><rb>上</rb><rt>のぼ</rt></ruby>り、けわしき<ruby><rb>巌</rb><rt>いわ</rt></ruby>かどに突き立つ。手足、顔のところどころ傷つき<ruby><rb>血痕</rb><rt>けっこん</rt></ruby>付着す。月雲を離れ、俊寛の顔を照らす。

俊寛　（月をにらみつつ）いかに<ruby><rb>月天子</rb><rt>げってんし</rt></ruby>、<ruby><rb>汝</rb><rt>なんじ</rt></ruby>の照らすこの世界をわしは<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>うぞよ。汝の偶たる<ruby><rb>日輪</rb><rt>にちりん</rt></ruby>をも呪うぞよ。かつては汝らの名によってこの世界に正しき律法あることを<ruby><rb>証</rb><rt>あかし</rt></ruby>したこともあったが、今は悪魔の名によってそれを取り消すぞ。あゝこの世界をわしは<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>む。わしが生きている間、わしをいかに<ruby><rb>遇</rb><rt>ぐう</rt></ruby>したか。それをわしは<ruby><rb>永劫</rb><rt>えいごう</rt></ruby>に忘れぬぞ。この世界はゆがめる世界だ。善が滅び悪が勝つ世界だ。あゝ、なきに<ruby><rb>劣</rb><rt>おと</rt></ruby>る世界だ。かかる世界は悪魔の手に渡すがいい。悪魔よ来たれ。わしは汝に今こそ親しく呼びかけるぞ。わしは<ruby><rb>三界</rb><rt>さんがい</rt></ruby>に<ruby><rb>怨霊</rb><rt>おんりょう</rt></ruby>というもののできる理由を今こそ知った。わしのごとく<ruby><rb>遇</rb><rt>ぐう</rt></ruby>せられて死んだものの霊が、<ruby><rb>怨霊</rb><rt>おんりょう</rt></ruby>にならずして何になるのだ。（月雲にかくる）あゝ<ruby><rb>信頼</rb><rt>のぶより</rt></ruby>の怨霊よ。<ruby><rb>成親</rb><rt>なりちか</rt></ruby>の怨霊よ。わしにつけ。わしにつけ。<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>に住む<ruby><rb>悪鬼</rb><rt>あっき</rt></ruby>よ。<ruby><rb>陰府</rb><rt>よみ</rt></ruby>に住む<ruby><rb>羅刹</rb><rt>らせつ</rt></ruby>よ。<ruby><rb>湿地</rb><rt>しっち</rt></ruby>に住むありとあらゆる<ruby><rb>妖魔</rb><rt>ようま</rt></ruby>よ。みなその陰気なる<ruby><rb>洞窟</rb><rt>どうくつ</rt></ruby>をいでてわしのまわりにつどえ。わしはわしの霊を汝らの手に渡すぞ。わしはわしに生を与えたるものにそむき、<ruby><rb>永劫</rb><rt>えいごう</rt></ruby>に汝らに属することを<ruby><rb>誓</rb><rt>ちか</rt></ruby>うぞ。わしの誓いのしるしを受けい。（俊寛石を拾いおのれの胸、顔等をうつ、<ruby><rb>皮膚</rb><rt>ひふ</rt></ruby>破れて血ほとばしる。地に倒れ、また立ち上がりて狂えるごとく衣を<ruby><rb>裂</rb><rt>さ</rt></ruby>く）あゝ悪魔よ。わしの<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>いをいれよ！　（岩かどに突立つ。烈風<ruby><rb>蓬髪</rb><rt>ほうはつ</rt></ruby>を吹く。俊寛両手を天に伸ばす）わしはあらゆる悪鬼の名によって呪うたぞ！　<ruby><rb>清盛</rb><rt>きよもり</rt></ruby>は火に焼けて死ね。<ruby><rb>宗盛</rb><rt>むねもり</rt></ruby>の首は<ruby><rb>梟</rb><rt>きゅう</rt></ruby>せられよ。<ruby><rb>維盛</rb><rt>これもり</rt></ruby>は<ruby><rb>刃</rb><rt>やいば</rt></ruby>にたおれよ。わしは清盛の<ruby><rb>女</rb><rt>むすめ</rt></ruby>の<ruby><rb>胎</rb><rt>はら</rt></ruby>を呪うたぞ。その胎よりいずるものは水におぼれよ。平家に<ruby><rb>禍</rb><rt>わざわい</rt></ruby>あれ。禍あれ。平家の運命に火を積むぞ。平家の氏に呪いをおくぞ。たねのたね、すえのすえまで呪うたぞ。清盛よ、汝を地獄に伴いゆくぞ。（月雲を離れ俊寛の顔を照らす。月をにらんで）汝、<ruby><rb>僭冒</rb><rt>せんぼう</rt></ruby>者よ。天の座よりおちおれい。（天に向かって<ruby><rb>唾</rb><rt>つば</rt></ruby>を吐く。風のため唾ことごとく俊寛の顔にかかる。俊寛狂うがごとく）悪鬼よ。羅刹よ。妖魔よ。来たってわがまわりにつどえ。すべて汝らの<ruby><rb>族</rb><rt>やから</rt></ruby>に属するものことごとく来たってわが呪いに名を<ruby><rb>署</rb><rt>しょ</rt></ruby>せよ。わしは今わしの<ruby><rb>魂魄</rb><rt>こんぱく</rt></ruby>を<ruby><rb>永劫</rb><rt>えいごう</rt></ruby>に汝らの手に渡すぞ。おゝ清盛よ。<ruby><rb>奈落</rb><rt>ならく</rt></ruby>の底で待っているぞ。（岩かどに頭を打ちつける。倒れる）

間。

有王　（登場）ご主人様。（うろうろ捜す）あゝどこにゆかれたか。あゝわかっている。わかっている。何をあなたが思いつかれたか！　あゝ恐ろしい。ご主人様。（砂の上に血の<ruby><rb>痕</rb><rt>あと</rt></ruby>を見つける）おゝ。（血の痕をたどり、岩の上によじ、俊寛の<ruby><rb>死骸</rb><rt>しがい</rt></ruby>を見つける）おゝご主人様。（俊寛を<ruby><rb>抱</rb><rt>だ</rt></ruby>き起こす。すでに<ruby><rb>絶息</rb><rt>ぜっそく</rt></ruby>しおるを知る。地に倒れる。やがて起き上がり俊寛を抱きしめる。<ruby><rb>慟哭</rb><rt>どうこく</rt></ruby>す。沈黙。やがて俊寛の死骸を抱きつつ）あゝ、いたわしいご主人様。苦しい苦しいご<ruby><rb>生涯</rb><rt>しょうがい</rt></ruby>でございました。なにゆえにあなたはこれほどの<ruby><rb>苛責</rb><rt>かしゃく</rt></ruby>をお受けにならなければならなかったのか。それは私にもわかりません。あゝしかしあなたの悪夢のような、ご<ruby><rb>生涯</rb><rt>しょうがい</rt></ruby>は終わりました。静かな平和な<ruby><rb>来世</rb><rt>らいせ</rt></ruby>があなたを待っているように！　（つくづくと俊寛の顔を見る）何という恐ろしい死に顔だろう。あゝご主人様、あなたは<ruby><rb>呪</rb><rt>のろ</rt></ruby>うて死なれましたか。天を<ruby><rb>恨</rb><rt>うら</rt></ruby>み、世を<ruby><rb>憎</rb><rt>にく</rt></ruby>み、敵を呪うて、恐ろしい、恐ろしい考えを死ぬる<ruby><rb>際</rb><rt>きわ</rt></ruby>まで持ちつづけて！　あゝあなたの未来が恐ろしい。あゝ私がこの十年の間見てきたことは実に恐ろしい人生の<ruby><rb>相</rb><rt>すがた</rt></ruby>であった。（沈黙。やがて決心したるごとく立ち上がる。死骸に向けて）有王はどこまでもどこまでもお伴いたしますぞ。（俊寛の死骸を負う）あゝ仏様。私はこの世をいといまする。この恐ろしい世界から一時も早くのがれとうございます。私は主人とともに死にまする。私は何もわかりません。私の今することがたとえ間違っていようとも、なにとぞゆるしてくださいませ。あゝ主人の来世をお<ruby><rb>救</rb><rt>すく</rt></ruby>いくださいませ。主人の霊を<ruby><rb>地獄</rb><rt>じごく</rt></ruby>より救い出してとこしえの平和を恵みたまえ。（死に場所を選びつつ）今私の霊をあなたの<ruby><rb>御手</rb><rt>みて</rt></ruby>に<ruby><rb>託</rb><rt>たく</rt></ruby>しまする。（俊寛の死骸を負いたるまま岩の上より海に身を投げる）

あらしの音。波の音。月光ほしいままに<ruby><rb>浜辺</rb><rt>はまべ</rt></ruby>を照らす。

――幕――