二列に並んで百貨店ギャラレ・ラファイエットのある町の一席を群集は取巻いた。中には雨傘の用意までして来た郊外の人もある。人形が人間らしく動く飾物を見ようとするのだ。

百貨店の大きな<ruby><rb>出庇</rb><rt>でびさし</rt></ruby>の<ruby><rb>亀甲形</rb><rt>きっこうがた</rt></ruby>の裏から金色の光線が頸の骨を叩き付けるほど浴せかける。右から左から赤や水色の紫外光線が足元を<ruby><rb>掬</rb><rt>すく</rt></ruby>う。ここでは物は曖昧でいる事は許されない。明るみへ出て影を<ruby><rb>捥</rb><rt>も</rt></ruby>ぎとられるか闇に骨まで呑み込まれてしまうかだ。

行列の前の方で鬘で年を隠したマダムが逃げた若い情夫と思わず<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">めぐ</span>り合った。<ruby><rb>金棕櫚織</rb><rt>パルミエドル</rt></ruby>の<ruby><rb>襟飾</rb><rt>クラバァト</rt></ruby>に手がかかる。

――まあ、この薄情が！　ちょっとお出で。

鋪石へ連れ出す。

気の利いたタキシーがすぐ側へ乗りつけて来て無言で<ruby><rb>扉</rb><rt>ドア</rt></ruby>をあける。後れ走せに馳けつけた巴里の巡査が二人を軽く押し込んで扉を締める。

――行先きは二人でよく相談しなさい。

そしてわざと丁寧な挙手をした。

二人の抜けたあとの行列の空所は直ぐうずまった。

<ruby><rb>基督降誕祭</rb><rt>ノエル</rt></ruby>にはあと四五日の土曜の夜だ。高いオペラの空気窓から「タイスの」唄が炭酸<ruby><rb>瓦斯</rb><rt>ガス</rt></ruby>にまみれて浮き出ている。遅々たる行列の進みが百貨店の外の入口まで届くと黒服の店員に管理されて人数の一<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">くぎり</span>ずつが内側の入口の床石に誘われる。ここは三面飾窓で囲まれて兎の口のようになっている。飾窓の二面は普通の新衣裳の飾人形だが、残った一つの入口に向って右の飾窓のがみんなの目あての「エッフェル塔見物」の機械人形だ。

<ruby><rb>英吉利</rb><rt>イギリス</rt></ruby>の田舎おやじらしい、塔の欄干から外へ墜ちかけた。若者がズボン釣を捉えた。おやじは<ruby><rb>甲蟲</rb><rt>かぶとむし</rt></ruby>のように<ruby><rb>踠</rb><rt>もが</rt></ruby>く。下はセーヌを目尺にして巴里の鳥瞰図が展開する。群集の興味はズボン釣一つに<ruby><rb>繋</rb><rt>つなが</rt></ruby>る。

おやじの妻は驚いて卒倒しかけている。その顔は<ruby><rb>菠薐</rb><rt>エピナアル</rt></ruby>の葉の緑だ。昇降機の中に六人の男女がいる。機械仕掛のことだから六人が六人とも同じ時間を置いて同じ程度の驚きを見せる。

いずれモンパルナスあたりの<ruby><rb>新進美術家</rb><rt>ジュスアルチスト</rt></ruby>のプランと見える。その誇張が<ruby><rb>新野性主義</rb><rt>ネオヴァヴァリズム</rt></ruby>の指標に適っていて賑やかできびきびしている。見物は笑わない。ただ見惚れている。そこに生れる機械でもなく人間でもない動作のリズムに見惚れている。そして宛てられた時間が切れてオスマン通りへ送り出されると其処で始めてわれに返った。そして今見た人形のように手を上げ下げした。<ruby><rb>洋傘</rb><rt>かさ</rt></ruby>を持った郊外の人も。

みんな飽きていたのだ。――感情で動く動作にも、経済で動く動作にも。もっと変った動作は無いものか？　それを見たのだ。今、百貨店、ギャラレ・ラファイエットの飾窓から一くぎりずつ出て来る群集を待ち受けて旧套な夜の巴里が次ぎ次ぎに呑んで行く――。