一

むかし、あるところに、エキモスという羊飼いの少年がいました。父も母もないみなし児で、毎日、羊のむれの番をしてくらしていました。

青々とした野原に、羊たちはたのしくあそんでいます。野の花のあいだに、うつくしい蝶がとびまわっています。<ruby><rb>木立</rb><rt>こだち</rt></ruby>のなかや空たかくに、いろんな鳥がさえずっています。日がうららかにてっています。

エキモスは草の上にねころんで、歌をうたいました。口笛をふきました。草の葉でいろいろな笛をこしらえました。<ruby><rb>葦</rb><rt>あし</rt></ruby>の<ruby><rb>茎</rb><rt>くき</rt></ruby>でも笛をこしらえました。

――自分も、あの小鳥のようにうたいたい。けれども、いくらうたっても、笛をふいても、小鳥にはおよびませんでした。

そのうちに、ある日エキモスは、葦のしげみのなかに、まっ白な葦を一本みつけました。太くてまっすぐにのびて、白く銀のように光っています。エキモスはめずらしさに、しばらくぼんやりながめていましたが、ふと、かんがえました。

――あれで、笛をこしらえたら……。

すぐに、ナイフで、その<ruby><rb>葦</rb><rt>あし</rt></ruby>をきりとって、笛をこしらえました。そしてふいてみました。が、少しもなりません。葦笛はただ銀のようにひかっているだけでした。

エキモスはがっかりしました。けれども力をおとしませんでした。次の<ruby><rb>節</rb><rt>ふし</rt></ruby>でまた笛をこしらえました。がそれもなりませんでした。

三つ、四つ、五つ……いくら笛をこしらえても、どれ一つとしてなるものはありませんでした。けれど、笛がならなければならないほど、エキモスはなお一生けんめいに、笛をつくりました。今にすばらしいのができる、とそんな気がしました。

とうとうさいごの一節になりました。それでだめだったら、もうまっ白なめずらしい葦もなくなってしまうのです。

「おう、神さま！」

とエキモスはさけびました。あらんかぎりの心をこめて、さいごの笛をこしらえました。そしてこわごわ、ふいてみますと……。

エキモスはおどり上がりました。うれしさに涙ぐみました。なります、なります。なんともたとえようのない美しい<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>がします。

エキモスは涙をながしながら、銀色に光るその葦笛をながめました。そしてまた口にあてました。ふきならしました。なんという美しい音でしょう。小鳥のさえずりにもまけません。

エキモスは笛をうちふりながら、野原のなかをかけまわりました。それから森のはずれの木かげにねころびました。そしていろんな歌をむちゅうになってふきつづけました。

するうちに、ふと、気がつくと、羊たちがいつのまにかあつまってきていました。木の上には、多くの小鳥がじっととまっていました。エキモスはほほえみました。羊や小鳥があつまってきて、自分の笛をきいていてくれることが、とてもうれしかったのです。

ところが、羊と小鳥だけならよいが……。エキモスはびっくりしてとび上がりました。森の中に、どこから出てきたのか、<ruby><rb>猿</rb><rt>さる</rt></ruby>や、<ruby><rb>狼</rb><rt>おおかみ</rt></ruby>や、<ruby><rb>狐</rb><rt>きつね</rt></ruby>や、<ruby><rb>野兎</rb><rt>のうさぎ</rt></ruby>や、<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>や、<ruby><rb>獅子</rb><rt>しし</rt></ruby>や、<ruby><rb>鷹</rb><rt>たか</rt></ruby>や、<ruby><rb>鷲</rb><rt>わし</rt></ruby>など、いろんな鳥や<ruby><rb>獣</rb><rt>けだもの</rt></ruby>が、あちらこちらにうずくまっているのです。

エキモスはどうしていいかわかりませんでした。ことに狼や獅子にはびっくりしました。羊や自分も食われてしまうかもしれません。彼はもう笛のこともわすれて、あとずさりしながら、羊のむれのなかににげこみました。がそのおそろしい獣たちは、じっとうずくまったまま、おっかけてはきませんでした。やさしい眼をして見おくっているだけでした。

エキモスは鈴をならして、羊のむれをつれて小屋へかえっていきました。

翌日、エキモスはまた羊のむれをつれて、野原にでました。おそろしい鳥や獣はいませんでした。エキモスは安心して、羊たちを野原のなかにちらばして、自分は木かげにやすんで、白い<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>をふきはじめました。とても自分がふいているのだとはおもわれないほど美しい<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>でした。天からひびいてくるような歌でした。

そのうちに、笛の音をききつけて、羊たちは近くにあつまってきました。小鳥たちもとんできました。みんなだまってきいています。それからなお、森のおくの方から、いろんな鳥や<ruby><rb>獣</rb><rt>けだもの</rt></ruby>がでてきました。<ruby><rb>狼</rb><rt>おおかみ</rt></ruby>や<ruby><rb>獅子</rb><rt>しし</rt></ruby>のようなおそろしいのもでてきました。がエキモスはさほどおどろきませんでした。ただ笛をききにでてきたのだということが、そのようすでよくわかりました。

獣のうちに、五六ぴきの<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>がいました。大きな<ruby><rb>角</rb><rt>つの</rt></ruby>の頭をかしげて、笛にききいっています。そのまんなかに、ひときわ大きいのが一ついて、角のかわりに獅子のようなながい<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">たてがみ</span>がはえ、全身の毛が金色に光っていて、眼が青々とすみきっていました。

その金の毛の大きな鹿には、エキモスもびっくりしました。そんな鹿は、これまでみたこともなければ、話にもきいたこともありません。エキモスが笛をやめて、うっとりみとれますと、鹿はその青くすみきった眼で、わらっているようでした。

エキモスは鹿のそばにやっていきました。金色のふさふさした<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">たてがみ</span>をなでてやりました。鹿はうれしそうにすりよってきます。エキモスが笛をふきだすと、鹿はそばにすわってききいっています。そうして、エキモスと金色の鹿とは、いちばんなかのよいともだちになりました。

エキモスにとっては、何もうれしいことばかりでした。白い<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>はいくらふいてもあきません。笛をふくと多くの鳥や獣がそれをききにでてきます。みんな仲よくして、ただ笛をきいているだけです。そのなかで、金色の鹿が王さまのように光っています。エキモスはいつもその鹿とつれだってあるきます。夕方になると、獣たちは森のおくに、鳥たちは空たかく、そしてエキモスと羊たちは小屋に、それぞれかえってゆくのです。毎日うららかに日がてって、野にはいろんな花がさいています。

ところが、ある日、金色の鹿がすがたをみせませんでした。ほかの鳥や獣はでてきましたが、金色の<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>だけは、エキモスがいくら笛をふいても、夕方までまってもでてきませんでした。

その翌日も、金色の鹿はやはりでてきませんでした。エキモスは心配になりました。それからかなしくなりました。もう笛をふく気もしませんでした。――金色の鹿はどうしたろう！　エキモスはそのことばかり考えました。

二

金色の鹿がでてこなくなってから三日目の朝、エキモスはもう何のたのしみもなく、ただいつもの仕事をして、羊のむれをつれて野原にでました。<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>をふく気にもなれませんでした。

すると、エキモスがやってくるのをまちうけてでもいたかのように、多くの鹿が森からかけだしてきました。そのうちの一つが、エキモスの<ruby><rb>上衣</rb><rt>うわぎ</rt></ruby>のはしをくわえて、しきりに森の方へひっぱります。

何か用があるんだな、とエキモスは思いました。といっしょに、金色の鹿のことが胸にうかびました。もうじっとはしていられません。羊のむれをそこにのこして、鹿につれられて森のなかにはいっていきました。

森のおくふかくなると、人のとおった道もありません。それに、崖があったり坂があったりします。エキモスは一生けんめいに歩きましたが、やがてつかれてきて、足がうごかなくなりました。すると、大きな<ruby><rb>角</rb><rt>つの</rt></ruby>のはえた鹿が、エキモスの前にかがんで、背なかをさしだしました。エキモスはその背にのって、しっかと角にしがみつきました。鹿は走るように早く歩きだしました。

うちひらけたところにでたり、森にはいったり、坂をのぼったり、谷川をわたったりしました。どれくらいきたのかわかりませんが、山ふかいところで、ふいに、谷川のそばの平地にでました。やわらかな草がいちめんにはえて、何ともいえぬよい香りの花がさいています。そしてたくさんの<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>がでむかえています。

その平地のおくの、<ruby><rb>崖</rb><rt>がけ</rt></ruby>の下のところに、エキモスは鹿の背からおろされました。

みると、すぐそこの、草の上に、あの金色の鹿がよこたわっていました。エキモスは声をたててかけよりました。

金色の鹿は、そこによこたわったまま、身うごきも出来ませんでした。とぎれとぎれに、かすかな息をして、じっとエキモスの方をみているだけでした。しらべてみますと、肩のあたりから血が流れています。鉄砲でうたれたらしいんです。もうてあてのしようもありません。死にかけているんです。

エキモスはかなしさに涙ぐんで、そのそばにすわって、<ruby><rb>膝</rb><rt>ひざ</rt></ruby>のうえに頭をのせてやりました。鹿はうれしそうに眼をつぶりました。エキモスは、その<ruby><rb>獅子</rb><rt>しし</rt></ruby>のようにながい<span data-tei-rend="bouten 傍点 right" style="text-emphasis-style: filled sesame; text-emphasis-position: over right">たてがみ</span>をなでてやりました。それから白い<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>をとりだして、さいごのわかれにふいてきかせました。

エキモスが心をこめてふく葦笛は、とてもいいあらわせない美しいひびきをたてました。谷川の水も、しばらくながれやんで、ききいりました。

エキモスが笛をふきやめると、もう、金色の鹿は死んでいました。

エキモスはそのまま、ながいあいだすわっていました。それから、金色の毛皮をすこし、かたみに切りとりました。そして死体を、そこの崖の下にうずめてやりました。

エキモスが帰りかけると、また、多くの<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>がおともをして、<ruby><rb>角</rb><rt>つの</rt></ruby>の大きな鹿がエキモスを背なかにのせてくれました。そして、<ruby><rb>崖</rb><rt>がけ</rt></ruby>や坂や谷川や森をこして、もとの野原にもどってきました。

羊のむれは、しずかに草をたべています。蝶はとんでいます。小鳥はさえずっています。けれど、エキモスは気がはれませんでした。金色の鹿のかたみの毛皮で、だいじなものをいれる袋をつくって、<ruby><rb>腰</rb><rt>こし</rt></ruby>にさげましたが、かなしさはまぎれません。笛をふく気にも、とてもなれません。

――だれが、あの鹿を、鉄砲でうったんだろう。

そう考えると、くやしかったり、さびしかったりして、どこか旅にでもでてしまいたくなりました。羊たちもかわいいけれど、金色の鹿が死んだかなしみの方が、もっとつようございました。

エキモスはついに決心して、主人のところへいって、ひまをもらいたいと願いました。

主人はエキモスをひきとめたがりました。けれど、その話をきき、そのかなしみと決心とをみて、願いをゆるしてくれました。

「それでは、都でも見物してくるがよい」と主人はいいました。「都にはいろいろおもしろいことがあるから、気がはれるかもしれない。けれど、おもしろいのはうわべだけで、ずいぶん悪い人が多いから、気をつけなければいけないよ。そして、また戻ってきたくなったら、いつでも戻っておいで、使ってあげるから」

エキモスはお礼をいって、主人からもらったお金を毛皮の袋にいれ、白く銀色に光る<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>をもって、ほかにはなんの荷物もなく、つれもなく、ぼんやりでかけました。

だいぶいってから、エキモスは、道ばたの木かげに休みました。そしてはじめて、どちらへいったものかと考えました。主人がいうように、都へゆくのもいいかもしれないと思いました。

――だが、都へゆけば、お金がたくさんいるだろう。これだけでたりるかしら。

エキモスは<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>をひらいて、主人からもらったお金をかんじょうしかけました。そしてびっくりしました。皮袋のなかのお金は、みんな金貨ばかりでした。でも、そんなはずはありません。主人からもらった時はたしかに、銀貨や銅貨もまじっていました。それが、みな金貨ばかりになっているのです。

エキモスにはわけがわかりませんでした。ふしぎそうに皮袋をながめました。

――もしかしたら、あの金色の<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>の毛皮だから……。

ためしに、道の小石をひろって、皮袋にいれてみました。とりだしてみると、それが、<ruby><rb>黄金</rb><rt>こがね</rt></ruby>になっています。

エキモスはびっくりして立ち上がりました。いくつ小石をいれても、とりだすと黄金になっています。それがおもしろくて、やたらに小石を黄金にしては、<ruby><rb>四方</rb><rt>しほう</rt></ruby>になげちらしました。

――ふしぎな皮袋だ。あの金色の鹿の毛皮でこしらえたのだ。

それさえあれば、都にいっても不自由はしません。エキモスは都にいくことにきめました。

ふしぎな皮袋とふしぎな<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>……。エキモスは、にわかに元気がでてきました。そして都をさしてやっていきました。

三

まだ汽車や飛行機のないころのことです。エキモスは、いく日かのんきな旅をして、ようやく都につきました。

大きなりっぱな家が、たちならんでいました。うつくしいものが、店いっぱいにかざってありました。そしてなによりも、人間が多いのにエキモスはびっくりしました。<ruby><rb>蟻</rb><rt>あり</rt></ruby>のすをつついたように、たくさんの人がいそがしそうにあるきまわっていました。

夕方になると、いちめんに灯がともって、町はいっそうきれいになり、うつくしくきかざった人が、いっそう多くなりました。

エキモスははらがすいてきましたので、あるりっぱなホテルにはいっていきました。ぴかぴかひかるガラス戸のおくに、白い服をきた男がたっていました。そしてエキモスのようすを、じろじろながめて、いいました。

「ここは、お前さんのような者がくるところではない。食事がしたいんなら、ほかをたずねてごらん」

エキモスは外に出ました。しばらくゆくと、また、うつくしくきかざった人たちが出入りしてる、りっぱなホテルがありました。そこにはいっていくと、ガラス戸のおくの白い服の男が、エキモスのようすをみながらいいました。

「ここは、お前さんのような者がくるところではない。食事がしたいんなら、ほかをたずねてごらん」

エキモスはうなだれて外にでました。

ぼんやりあるいていると、なおいくつも、りっぱなホテルが、ならんでいましたけれど、もうはいってみる気もしませんでした。

――どうして、食事をさせてくれないんだろう。

そう思うと、なおはらがすいてきますし、かなしくなりました。

いつのまにか、大きな川のふちにでました。川には、むこうがわの灯がちらちらうつって、きれいでしたが、川のふちは、人どおりもすくなく、うすぐらくて、ひっそりしていました。

しばらくゆくと、すこしひろいところがあって、大きな木が四五本うわっていて、そのなかに、ちいさな<ruby><rb>噴水</rb><rt>ふんすい</rt></ruby>がありました。ふるいきたない服をきて、靴もはかず、<ruby><rb>帽子</rb><rt>ぼうし</rt></ruby>もかぶらないでいる、年をとった男が、噴水の水をのんでいました。

エキモスは、はらがすいていますし、のどもかわいていましたので、その男にたずねました。

「その水は、だれでものんでいいんですか」

年とった男は、ふりむいてこたえました。

「のんでいいとも。だが、うまい水じゃあないよ」

でも、エキモスはうまそうにのみました。そのようすをみて、年とった男はいいました。

「お前さんも、どうやら、はらがすいてるようだね」

「ええ」とエキモスはこたえました。「どこでも、たべさしてくれないんです」

「どこでも……」

エキモスは、りっぱなホテルから、おいだされた話をしました。年とった男はわらいました。

「そりゃあ、そうしたもんだよ。お前さんみたいな、きたないなりをした子供に、あんなところで食事をさせてくれるものかね」

「だって僕、お金はもってるんですよ」

エキモスは、<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>から金貨を一つとりだして、みせました。

「ほう」

男はふしぎそうに、金貨とエキモスの顔をみくらべています。エキモスはいいました。

「おじさん、どこか、これでなにかをたべさせてくれるところはありませんか。おじさんもおなかがすいているんなら、いっしょにたべましょうよ」

「なるほど、それもいいが……」と男はかんがえながらいいました。「二人きりでたべるのは、すこしもったいないな」

「ほかにもまだ、おなかのすいてる人があるんですか」

「あるとも、たくさんあるよ。からだがわるかったり、靴がなかったりして、しごとをしにでかけられない者が、いくらもあるからね」

「じゃあ、そんな人とみんなで、たべましょうよ」

年とった男は、とてもうれしそうな顔をしました。きゅうにげんきになって、かけだしていきました。しばらくすると、十四五人の男たちをつれて、もどってきました。靴のない者ややせほそった者で、みんなしょんぼりしていました。年とった男は、エキモスをさしてさけびました。

「この人が、おれたちにごちそうしてくださろうという、神さまのお使いだ」

人々は、エキモスをまんなかにかこんで、うれしそうにあるいていきました。うらどおりのせまい町すじを、右にまがったり、左にまがったりして、やがて、ちいさなたべもの屋にはいりました。

<ruby><rb>天井</rb><rt>てんじょう</rt></ruby>のひくい、きたない部屋で、木のテーブルと木のこしかけとがならんでいて、ランプがくすぶっていました。でも、そこにいっぱいになった人々の顔は、どんなうつくしいあかりよりも、もっとはればれとかがやいていました。

エキモスは、部屋のおくにたっている主人のところにいって、<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>から金貨を五つとりだして、かんじょう台のうえにならべました。

「これで、みんなの人に、うまいごちそうをしてください」

主人は、びっくりしたようすをしました。そして五つの金貨をとって、皆の方へそれをうちふりました。

「おい、みなさん、これだけのごちそうだとよ」

わーっとよろこびの声があがりました。

声がでなくて、涙ぐんでる者もありました。エキモスもうれしくて、涙がでてきました。

酒がでました。ごちそうがでました。たいへんなさわぎでした。みんな元気になりました。やせほそった病気の者も、あしたから仕事へでかけるといいだします。みんなが仕事のことをはなします。エキモスはまた金貨をとりだして、靴のない人たちのために、靴をかってきてもらいました。みんなが、あしたからは、自分たちだけで、都じゅうの仕事をするような、元気です。そしてはらいっぱいに、のんだりたべたりしました。

しまいには、「神さまのお使い」のエキモスを胴上げして、よろこびさわぎました。

夜がふけました。エキモスがねむそうな眼になりますと、たべもの屋の主人は、そまつな家ですが、そのなかのいちばんよい部屋につれていって、ねかしてやりました。

四

エキモスはたのしく眼をさましました。ゆうべのことをかんがえると、うれしくてたまりませんでした。あの人たちが、あんなによろこんで元気よく食事をしたことは、いままでにありませんでした。

エキモスはたくさんの金貨を宿の主人にあずけて、ゆうべの人たちがきたら食事をさせてくれるようにたのんで、都のなかを見物にでかけました。

いろいろな店がありました。いろいろな人がとおっていました。公園や博物館などもありました。

夕方はやく、エキモスは宿にかえって、ゆうべの人たちをまちうけました。が、その人たちは、夜になって、二三人ずつ、つれだってやってきまして、お礼をいっただけで、もどっていきました。

エキモスは宿の主人にたずねました。

「あの人たちは、なぜ早くかえってしまうんだろう」

主人はこたえました。

「それはむりもありませんよ。一日はたらいたんだから、くたびれているんです。それに、あなたにごちそうになっては、すまないと思っているんです。あの人たちはもう大丈夫です。けれど、びんぼうで、おおぜい子供があったり、病気だったりして、ひどくこまってる人が、まだまだたくさんあります。その人たちをみんなたすけてやることは、いくらあなたが神さまのお使いだって、なかなかできますまい」

主人は頭をふって、かなしそうな顔をしました。

「僕は神さまのお使いなんかじゃないんですよ」とエキモスはいいました。「けれど、こまってる人たちがそんなにあるなら、どうかして、よろこばしてあげたいもんだなあ」

エキモスはいろいろかんがえました。そして、金貨でちょっとしたものをかっては、おつりに銀貨や銅貨をもらい、それを金色の<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>の毛皮でこしらえた袋にいれて、みんな金貨にしてしまいました。たくさんの金貨ができました。それをもって、エキモスは毎晩おそく、びんぼうな人たちのすんでるところへ、でかけていきました。

びんぼうな人たちのところでは、ふしぎなことがおこりました。

病気で仕事ができなくて、お金がないので、ものもたべられず、どうしていいかわからないでいる男が、ぼんやり外にたっていますと、そまつななりをした少年が、これでうまいものをおあがりなさいといって、金貨を一つくれます。男はあっけにとられてるうちに、少年はもうどこかへいってしまいます。

靴をもたない子供が、はだしで使いにいきますと、そまつななりをした少年が、これで靴をおかいなさいといって、金貨を一つくれます。

窓のガラスがこわれたまま、それをあらたにかうことができなくて、紙をはってるところがありますと、夜おそく、おもたいものがなげつけられます。紙がやぶけて、金貨がばらばらと部屋のなかにふってきます。

それからある朝、まだくらいうちに、戸をどんどんたたく者があります。一けん一けん戸をたたいていきます。どのうちでも眼をさまします。なにごとかと思って、おもてにでてみますと、そこに、たくさんの金貨がふりまかれています。みんながとびだしてきて、その金貨をひろいます。

どのうちにも、金貨がたまっていきました。みんな元気になりました。じようになるものをたべますし、<ruby><rb>帽子</rb><rt>ぼうし</rt></ruby>や靴もかいました。男たちは、いさんではたらきにでかけますし、女たちは、家の中をきれいにします。みんなの、しょんぼりした眼はいきいきとかがやいてきます。町じゅうに元気があふれてきました。

それがみな、エキモスのしわざでした。みなの人にもそれはわかっていました。けれど、エキモスを神さまのお使いだとおもっていましたので、おもてだってお礼にいくこともおそろしいような気がして、ただかげで、ありがたがって、ひそひそとうわさするだけでした。

それでも、お菓子や果物などを、エキモスの宿に、そっととどけにくる者がたえませんでした。いくらことわっても、またそっとおいていきます。それには、宿の主人がいちばんこまりました。うちのなかはお菓子や果物でいっぱいです。しかたがありませんから、ほうぼう知りあいのうちにくばりましたが、しまいには、どこのうちでもかまわずやたらに、それをくばってあるきました。そのためにまた、どこのうちにも、お菓子や果物があるようになりました。

びんぼうな子供たちはほんとにうれしがりました。これまであおい顔をしてうちにばかりひっこんでいたのが、お菓子や果物をたくさんたべて、元気になり、公園などにあそびにでました。

エキモスは、そういう子供たちとあそぶのが、なによりたのしみでした。公園の木には、たくさんの<ruby><rb>雀</rb><rt>すずめ</rt></ruby>がいました。エキモスは子供たちとあそびつかれると、木のかげにやすんで、銀色の<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>をふきます。すると雀たちが、笛の<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>にききとれて、エキモスのまわりにおりてきます。あたりいちめん雀ばかりです。子供たちがつかまえても、すこしもにげようとはしません。それを子供たちは、頭にとまらせたり、肩にとまらせたり、手のひらにのせたりして、うれしがっています。

「もうこれでおしまい」

そういってエキモスが立ち上がって、笛をしまいますと、雀たちも木のうえにとんでいきます。

そのようにして、ある日、エキモスが公園で子供たちとあそんでいますと、まっ黒い服をきた一人の男が、しずかに近よってきました。大きなつよそうな男で眼がするどくひかっていました。

男はエキモスのようすをじろじろながめてから、ひくい声でいいました。

「じつは、あなたにぜひごそうだんしたいことがありますので、あちらまできてくださいませんか」

エキモスはニコニコしていいました。

「ここではいけませんか」

「ええ、ちょっと……ひみつのことですから……」

それでエキモスは、その男についていきました。公園のではずれに、馬車がまっていまして、黒い服をきた大きなつよそうな男が四人のっていました。エキモスはいわれるままに、その馬車にのりました。馬車はいっさんにはしりだしました。

五

エキモスをのせた馬車は、どこまでもはしっていきました。くろい服をきたつよそうな五人の男が、エキモスをかこんでいました。

ずいぶんいってから、馬車は大きな石の門をはいりました。そこでエキモスは馬車からおろされました。あかい服をきて剣をさげてる五人の男が、くろい服の男とかわって、エキモスをとりかこみました。

エキモスにはわけがわかりませんでした。でもべつにこわいともおもいませんでした。あかい服の男たちにつれられて、大きなたてもののなかにはいり、ながいひろい廊下をとおって、ちいさな中庭にでました。そしてそこで、じゃりのうえの木の<ruby><rb>腰掛</rb><rt>こしかけ</rt></ruby>にすわらせられました。

やがて、正面の幕がまきあがりました。中庭より一だんたかい部屋のなかに、大ぜいの人がひかえていました。

あかい服の男の一人が、エキモスにいいました。

「王さまと大臣だ。おじぎをしろ」

エキモスはおじぎをして、顔をあげました。みると、まんなかに、金のかんむりをかぶってむらさきの服をきている人が、王さまらしく、そのすこし前のほうに、ぴかぴかひかる服をつけているのが、大臣らしゅうございました。そのほかの人たちは、赤や金のすじのはいった服をつけて、王さまの左右にならんでいました。

大臣はおごそかな声で、エキモスにたずねました。

「お前は、なんという名前だ」

「エキモスというものです」とエキモスはへいきでこたえました。

「エキモス、お前は魔法つかいだな」

「いいえ、魔法つかいではありません。山の羊かいです」

「その羊かいが、どうして、公園の<ruby><rb>雀</rb><rt>すずめ</rt></ruby>をよびあつめるのか」

「よびあつめるのではありません。雀があつまってくるんです」

「それでは、なんのために、びんぼう人どもの町に、金貨をまきちらすのか」

「みんなをよろこばせたいからです」

「その金貨は、どこからぬすんできたのか」

エキモスはへんじにこまりました。しかたがありませんから、金色の<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>をとりだして、そのふしぎな力をみせてやりました。銅貨や銀貨をいれると、金貨にかわりますし、石ころをいれても、金にかわってしまいました。

大臣はあかい服の男たちにさけびました。

「その魔法の袋をとりあげて、しばってしまえ」

エキモスは皮袋をとりあげられ、うしろでにしばりあげられました。どうすることもできませんでした。

大臣はいいました。

「お前は、けしからんやつだ。魔法をつかって、むほんをたくらんでいる。しかしもう、魔法の袋をとりあげたからには、どうにもできないぞ。かくごするがよい」

エキモスはいろいろいいわけしましたが、なんのやくにもたちませんでした。びんぼう人たちのところに金貨をまきちらして、はたらくのがばかばかしいという気をおこさせ、公園で<ruby><rb>雀</rb><rt>すずめ</rt></ruby>をよびあつめて、みんなのきげんをとり、そして神さまのお使いだなどといいふらして、むほんをたくらんでいる、というのです。

「これから、<ruby><rb>七日</rb><rt>なのか</rt></ruby>のあいだ、森のなかの<ruby><rb>牢</rb><rt>ろう</rt></ruby>にとじこめて、それから、島ながしにいたします」

大臣は王さまにそうもうしました。王さまはだまってうなずきました。

それで、おしまいでした。エキモスは森のなかの牢屋にいれられました。だいじな笛までも、牢屋でとりあげられてしまいました。

森のなかに石でこしらえられて、兵士たちだけがばんをしている、おそろしいさびしい牢屋でした。エキモスはそこにとじこめられ、七日たてば、舟にのせられ、川をくだって海にいで、海をとおくわたって、人の住んでいないちいさな島にながされるのでした。

けれど、エキモスはさほどかなしみませんでした。なんにもわるいことをしたのではありません。今にだれかたすけにきてくれるような気がしました。

牢屋には、ちいさな窓が一つついていました。その窓からのぞくと、森の木がみえます。木のしげみをとおして、むこうに野原がみえます。エキモスは、山で羊かいをしていたときのことを、なつかしくおもいだしました。

――羊たちはどうしてるだろう。

そして毎日、その窓から、森の木やむこうの野原をながめてくらしました。だが、野原には人のかげもみえません。だれもたすけにきてくれるものはありません。

三日たちました。四日たちました。だれもきてくれません。五日……六日……七日……。だれもきてくれません。森のなかはしいんとしていますし、森のむこうの野原には人かげもありません。

八日目の朝、いつも食事をはこんでくれる番人が、エキモスをかわいそうにおもってか、こういいました。

「いよいよきょうは、島にいくんだ。なにかねがいはないかね」

エキモスはすぐにこたえました。

「なんにもありませんが、ただ、なごりに、笛をふかしてください」

「うむ、きいてきてあげよう」

しばらくたつと、番人は<ruby><rb>白葦</rb><rt>しろあし</rt></ruby>でこしらえた銀色の笛をもってきてくれました。

エキモスはとびあがってよろこびました。そのだいじな笛を胸にだきしめて、なみだをながしました。それから<ruby><rb>一心</rb><rt>いっしん</rt></ruby>に、笛をふきはじめました。なんともいえないうるわしい<ruby><rb>音</rb><rt>ね</rt></ruby>がひびきわたりました。エキモスはもうなにもかもわすれて、むちゅうにふきつづけました。いく時間ふきつづけたか、じぶんでもしりませんでした。

そのうち、なんだかさわがしいので、エキモスは気がつきました。そして窓からのぞきみると、びっくりしました。

森のなかいっぱい、鳥や<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>ばかりでした。<ruby><rb>鷲</rb><rt>わし</rt></ruby>や<ruby><rb>狼</rb><rt>おおかみ</rt></ruby>やライオンのようなおそろしいものもまじっていました。エキモスの笛をききにやってきたのです。<ruby><rb>牢</rb><rt>ろう</rt></ruby>の番人たちはにげだしてしまって、だれもいません。ただ鳥や獣ばかりです。

エキモスは笛をふきやめて、ぼんやりそれをながめていました。ふと気がつくと、森のむこうの野原のなかに、なにかうごいています。だんだんちかよってきます……。たくさんの人が、馬をかけさしてやってくるのでした。

六

エキモスがとじこめられている牢屋へ、馬でかけつけてきたのは、王さまと王子でした。大臣もおともしていました。それからおおくの兵士がしたがっていました。

はじめ、エキモスが牢屋へおくられた時、<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>は、魔法の袋だといって、大臣から王さまの手にわたされました。王さまはそれを、じぶんの部屋にもってかえって、ふしぎそうにながめました。みごとな金色の<ruby><rb>鹿</rb><rt>しか</rt></ruby>の毛皮でした。そしてその毛をなでてみてるうちに、ふと、魔法とかいうのを、ためしてみたくなりました。

王さまはその皮袋に、銅貨を一ついれてみました。とりだすと、金貨になっています。小石を一ついれてみました。とりだすと、<ruby><rb>黄金</rb><rt>おうごん</rt></ruby>になっています。

王さまは、うれしさに眼をひからしました。そして銅貨や小石をとりよせては、皮袋にいれて、みな<ruby><rb>黄金</rb><rt>おうごん</rt></ruby>にしてしまいました。くたびれてくると、大臣をよびました。つぎには、ごてんじゅうの役人をよびました。小石や銅貨をはこぶもの、それを<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>にいれて黄金にするもの、その黄金を部屋のすみにつみかさねるもの、おおさわぎでした。黄金がだんだんふえてゆくのをみて、みんなむちゅうになりました。

一日たちました。一つの部屋が黄金でいっぱいになりました。

二日たちました。二つの部屋が黄金でいっぱいになりました。

王さまに、エキモスとおなじくらいな年ごろの王子がありました。王さまはじめみんなが、黄金をこしらえて、むちゅうになってるのをみて、かなしそうにいいました。

「そんなことをして、なにになりますか」

でも、だれもへんじをしませんでした。

三日……四日……五日たちました。五つの部屋が黄金でいっぱいになりました。

王子はいいました。

「そんなことをして、なにになりますか」

だれもへんじをしませんでした。

六日たち、七日たちました。七つの部屋が黄金でいっぱいになりました。

王子はかなしそうにいいました。

「そんなことをして、なにになりますか」

だれもへんじをしませんでした。がこんどは、みんな、たがいに顔をみあわせました。そしてため息をつきました。くたびれていました。なんだかさびしくなっていました。七つの部屋にいっぱいの<ruby><rb>黄金</rb><rt>おうごん</rt></ruby>の山をみて、どうしていいかわからなくなってきました。

王子はいいました。

「石ころをつんでるのと、おんなじではありませんか」

じっさい、黄金ばかりこしらえて、なにになるんでしょう。こうなると、石ころをつんでるのとおなじでした。これまであんなにとうといものとおもっていた黄金も、七つの部屋いっぱいほどになると、どうにもしようがありませんでした。

――ばかなことをしたものだ。

そうかんがえて、王さまは大臣のほうをみました。大臣も王さまのほうをみました。二人ともこまってしまいました。

そして、八日めの朝になると、七つの部屋いっぱいの黄金をまえにして、王さまも大臣の役人たちも、ただため息をつくばかりでした。

そこへ、いちどに、いろんな知らせがまいりました。――人民たちは、エキモスが<ruby><rb>牢</rb><rt>ろう</rt></ruby>にとじこめられて、いよいよ今日は島ながしになるんだということを、いつのまにかききだして、たいへんさわぎたっています。ぜひともエキモスをうばいかえすとさわいでいます。――エキモスがむほんをたくらんでたということも、びんぼう人たちのところへ金貨がまきちらされるのを、ねたんでる者どもが、かってにこしらえた話です。――そして牢屋のほうでは、ふしぎにも、数かぎりない鳥や<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>がやってきて、牢屋から森まで、すっかりせんりょうしてしまっています……。

王さまは立ち上がりました。王子も立ち上がりました。すぐに馬をひきださせて、<ruby><rb>牢屋</rb><rt>ろうや</rt></ruby>のほうへかけさせました。それを気づかって、大臣はおおくの兵士をつれて、あとにしたがいました。

きてみると、ほんとでした。牢屋のまわりの森のなかは、鳥や<ruby><rb>獣</rb><rt>けもの</rt></ruby>でいっぱいでした。<ruby><rb>鷲</rb><rt>わし</rt></ruby>や<ruby><rb>狼</rb><rt>おおかみ</rt></ruby>や<ruby><rb>獅子</rb><rt>しし</rt></ruby>のようなおそろしいのもまじっています。馬はおどろいてはねあがりました。王さまも王子も大臣も兵士たちも、馬からとびおりました。牢屋の窓には、にこにこしてるエキモスの顔がみえます。けれども、鳥や獣のためにちかよれませんでした。

そこへ、エキモスをうばいかえそうとして、たくさんの人民たちがやってきました。王さまはすぐに、エキモスをゆるすということをふれさせました。人民たちはあんしんしました。けれど、森のなかの鳥や獣をみて、エキモスのところへはちかよれませんでした。

そのうちに、王子はなんとおもってか、一人で森のなかにはいっていきました。ふしぎにも、狼や獅子もじっとうずくまったまま、なんの害もしませんでした。王子はずんずんすすんで、牢屋のなかにはいり、かぎをさがして、エキモスの部屋をあけました。

エキモスはよろこんで王子をむかえました。

王子は金色の<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>をエキモスにかえしていいました。

「エキモス、お前はその皮袋で、わたしたちにたいへんよいことをおしえてくれました。人間の欲というものが、どんなにばかげてるものか、おしえてくれました。ありがとう」

王子のあとについて、王さまもはいってきました。王さまはいいました。

「エキモス、わしのおもいちがいだった。お前をくるしめたのを、ゆるしてくれ」

王さまのあとから、人民たちがとびこんできました。どうするひまもありませんでした。人民たちはエキモスをかつぎあげて、<ruby><rb>牢屋</rb><rt>ろうや</rt></ruby>からつれだし、野原のなかにはこんでいきました。

それからたいへんなさわぎでした。都じゅうの人が野原にでてきて、王さまも、王子も、大臣も、兵士も、かねもちも、びんぼう人も、みないっしょになって、エキモスをかんげいするおまつりさわぎをしました。

おまつりさわぎは、一日じゅうつづきました。

そのさわぎのなかで、エキモスはなんだかさびしくなりました。もう都には用がないような気がしました。山の羊たちのことがおもいだされました。そしてその夜おそく、エキモスは<ruby><rb>葦笛</rb><rt>あしぶえ</rt></ruby>と<ruby><rb>皮袋</rb><rt>かわぶくろ</rt></ruby>をかかえて、そっと都をたちのきました。