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        <title type="main" xml:lang="ja">若草物語</title>
        <title type="reading" xml:lang="ja-Hira">わかくさものがたり</title>
        <title type="original">LITTLE WOMEN</title>
        <author><persName xml:lang="ja"><surname>オルコット</surname><forename>ルイーザ・メイ</forename><idno type="aozora-person-id">001090</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>オルコット</surname><forename>ルイーザ・メイ</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Alcott</surname><forename>Louisa May</forename></persName></author>
        <respStmt><resp>翻訳者</resp><persName xml:lang="ja"><surname>水谷</surname><forename>まさる</forename><idno type="aozora-person-id">001074</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>みずたに</surname><forename>まさる</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Mizutani</surname><forename>Masaru</forename></persName></respStmt>
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        <bibl><title>若草物語</title><publisher>京屋出版社</publisher><date>1948（昭和23）年6月1日</date><note type="input-edition">1948（昭和23）年6月1日</note><note type="proof-edition">1948（昭和23）年6月1日</note></bibl>
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      <refsDecl xml:id="source-spans"><p>A note of type source-span has an xml:id of the form source-START-END, giving the extent in UTF-8 bytes of the decoded primary text identified in sourceDesc. <ptr target="https://w3id.org/soranoha/ns/tei"/></p></refsDecl>
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      <div type="layout" source="#source-455-549" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-479-545"><seg source="#source-479-497">作者について</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">この「若草物語」（原名リツル、ウィメン）は、米国の女流作家ルイザ・メイ・オルコット女史の三十七才の時の作です。父を戦線におくり、慈愛ふかい聡明な母にまもられて、足らずがちの貧しい生活ながら、光りを目ざして成長していく四人の姉妹を描いていますが、それは、けっして坦々たる道ではなく、不平、憎悪、苦悶、嫉妬など、さまざまのものが、彼女たちの健気な歩みを妨げるのであります。そして、その多くの試練にたちむかう、四人の姉妹の、それぞれちがった性格の描写は、まことに、明暗多彩、克明精細、しかも、この一篇にみなぎる愛と誠とは、いかなる読者の心をも魅了し、感激させずにはおきません。なお、この物語は、オルコット女史が、いっているように、ほとんどじぶんたちの姉妹をモデルにしたものであり、家で起った事件もとりいれてあります。それがために、この物語の四人の姉妹は、ありふれた娘であるにかかわらず、心にせまる真実性があり、いつも生きているし、長くも生きるのであります。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1829-2083">それですから、この作は千八百六十八年に公にされて以来、全世界にむかえられ、もう何十万部発行されたかわかりません。そして、今もなおベスト・セラー中にかぞえられています。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2083-2592">オルコット女史について、簡単に御紹介しますと、出生日は、千八百三十二年十一月二十九日、出生場所は米国ペンシルバニア州のジャーマン・タウン、父は教育家でした。この父は個性を尊重する理想主義の教育を主唱し、私学校を建設しましたが、経営に失敗し、したがって、一家は物質的には恵まれませんでしたが、四人の娘たちは精神的にゆたかな生活をしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">オルコット女史は、二女で、この「若草物語」のジョウに作者の面影が出ていますが、文筆の才に恵まれ、教鞭をとるかたわら、作家志願の精進をつづけ、二十三才の<app type="base-text-variant" source="#source-2826-2874"><lem><seg source="#source-2820-2826">とき</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-2862-2868">とさ</seg></rdg></app>、「花物語」という処女作を出しました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">千八百六十一年、女史の三十歳のときに、南北戦争が起り、女史は篤志看護婦となって献身的なはたらきをしました。その後、三十七歳に「若草物語」つづいて、「グッド・ワイブス」「リツル・メン」など大作を世に送りました。「若草物語」を公にしてからの女史は、物質的にもめぐまれ、父の負債をかえし、母を安楽にさせ、妹のメイには絵の修行をさせてやり、自分もあこがれのヨーロッパ旅行をして、イタリイに滞在しました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3529-4263">けれど、母がなくなってから、女史の肩にまた重荷がかかってきました。妹のメイは結婚後しばらくして死に、残されたあかんぼを引きとらなければなりませんでした。女史はいよいよはたらきました。女史の知人は同情して補助をしようとしましたが、女史は補助を受けるのがいやで、困難のなかにも忍耐して努力しました。そうして、女史は千八百八十八年三月六日、五十五歳で、父の死後わずか二日、最愛の父の後を追って、ボストン市で永遠の旅路にのぼりました。女史の一生は、愛と誠をもってする努力精進の一生でありました。</seg></p>
        <p><pb source="#source-4263-4284"/></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-4288-4394" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-4312-4390"><seg source="#source-4312-4336">第一　巡礼あそび</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p>「プレゼントのないクリスマスなんか、クリスマスじゃないわ。」と、ジョウは、敷物の上にねそべって不平そうにいいました。</p>
        <p>「貧乏ってほんとにいやねえ。」と、メグはじぶんの着古した服を見ながらため息をつきました。</p>
        <p>「ある少女が、いいものをたくさんもち、ある少女が、ちっとも、もたないなんて、不公平だと思うわ。」と、小さいエミイは、鼻をならしながらいいました。</p>
        <p>「でもね、あたしたちは、おとうさんもおかあさんもあるし、こうして姉妹があるんだもの、いいじゃないの。」と、ベスが、すみのほうから満足そうにいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5149-5328">ストーブの火に照らしだされた四つのわかわかしい顔は、この快活な言葉でいきいきとかがやきましたが、ジョウが悲しそうに、</seg></p>
        <p>「だって、おとうさんは従軍僧で戦争にいっておるすだし、これからも長いことお目にかかれないと思うわ。」と、いったとき、またもやくらい影におおわれ、だれもしばらく口をききませんでした。けれど、やがてメグが調子をかえて、</p>
        <p>「おかあさんが、今年のクリスマスは、プレゼントなしとおっしゃったのは、みんな暮しがつらくなるし、兵隊さんたちが戦争にいっているのに、たのしみのためにお金を使うのはいけないと、お考えになったからよ。あたしたち、たいしたことはできないけど、すこしの犠牲ははらえるし、よろこんではらうべきだわ。でも、あたしはらえるかしら？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6130-6237">メグは、ほしいものを犠牲にするのがおしいというように頭をふりました。</seg></p>
        <p>「だけど、あたしたちの一ドルを献金したって、たいして兵隊さんの役にたつとは思えないわ。あたしはおかあさんやあなたがたから、プレゼントがもらえないのはいいとして、じぶんでアンデインとシントラム（本の名）を買いたいわ。前からほしかったんですもの。」と、本の好きなジョウがそういうと、ベスはため息をつきながら、</p>
        <p>「あたしはあたらしい譜本を買いたいわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6757-6795">エミイも、きっぱりと、</seg></p>
        <p>「あたし、フェバアの上等の色鉛筆がほしいわ。ほんとにあたしいるんですもの。」と、いいました。ジョウは、</p>
        <p>「おかあさんは、あたしたちのお金のこと、なんにもおっしゃらなかったわ。だから、めいめいほしいものを買ってたのしみましょうよ。これだけのお金をもうけるのに、みんなずいぶん苦労したんだもの。」と、紳士がやるように長靴のかかとをしらべながらいいました。</p>
        <p>「そうよ、ほとんど一日中、あのやっかいな子供たちの勉強を見てやるのたまらないわ。」と、メグがまたも不平をいいますと、つづいてジョウが、</p>
        <p>「そんなことあたしの半分の苦労じゃないわ。あたしは、神経痛で気むずかしいおばあさんに使われてさ。どんなにしてあげても気にいらなくて、いっそのこと窓からとびだそうか、それとも、おばあさんの横っ面をはりとばしてやろうかと思うくらいよ。」</p>
        <p>「不平、いってもしょうがないけど、皿をあらったり、そこらを片づけたり、そんな家のなかの仕事は、ほんとにいやな仕事だわ。手がこわばって、ピアノひけないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8107-8119">ベスは</seg><app type="base-text-variant" source="#source-8128-8182"><lem><seg source="#source-8119-8128">大きな</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-8167-8176">大さな</seg></rdg></app><seg source="#source-8182-8301">ため息をついて、荒れたじぶんの手を見ました。すると、エミイも大声でいいました。</seg></p>
        <p>「あたしぐらい苦労しているものないわ。だって、あなたたちは、勉強ができないといっていじめたり、服がおかしいといって笑ったり、おとうさんが金持でないといったり、鼻のかっこうがわるいといってあざけったりする生意気な連中と、いっしょに学校にいかなくてもいいんですもの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8699-8794">こうして、みんなが不平をぶちまけたあげく、メグがいいました。</seg></p>
        <p>「あたしたちの小さいとき、おとうさんのなくされたお金が、今でもあったらいいと思わない？　そうしたら、どんなに幸福でしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8982-9044">すると、ベスが聞きとがめていいました。</seg></p>
        <p>「こないだ、ねえさんは、キングさんのとこの子は、お金があっても、いつもけんかしたり怒ったりしてるから、あたしたちのほうがずっと幸福だっていったじゃないの？」</p>
        <p>「ええ、いったわ。あたしたちは、はたらかなければならないけど、ジョウのいうように、たのしいあいぼうですもの。」</p>
        <p>「ジョウねえさん、あいぼうだなんてぞんざいな言葉だわ。」と、エミイは、敷物の上にねそべっているジョウのほうを見ていいました。ジョウは、すぐに起きなおって、エプロンのかくしに、りょう手をつっこんで、口笛を吹きはじめました。</p>
        <p>「ジョウ、およしなさい。まるで男の子みたい。」</p>
        <p>「だから、あたしするの。」</p>
        <p>「あたし、下品な、女らしくない子は大きらい。」</p>
        <p>「あたし、気どり屋のおすまし、大きらい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-10027-10083">すると、仲裁者のベスがおどけ顔で、</seg></p>
        <p>「おなじ小さな巣にいる小鳥、いつもなかよしあらそわぬ。」と、うたいだしたので、二人のとがった声も笑い声となりましたが、メグがねえさんぶってお説教をはじめ<app type="base-text-variant" source="#source-10323-10383"><lem><seg source="#source-10311-10323">ました。</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-10365-10377">しまた。</seg></rdg></app></p>
        <p>「二人ともいけないわ。それにジョウは、もう男の子みたいなおいたはやめて、しとやかになさいよ。せいも高いし髪もゆってるのですものもうわかい婦人だわ。」</p>
        <p>「そんなら二十才まで、おさげにしとくわ。あたし、男の子のあそびごとや仕事や身なりが好きなのに、女に生れてつまらないわ。この頃は、おとうさんといっしょに、戦争がしたくてうずうずしてるのに、家にいてよぼよぼばあさんみたいに、編物をしてるだけなんだもの。」</p>
        <p>「かわいそうなジョウねえさん、まあ名前でも男の子らしくして、あたしたちのにいさんになって、がまんしておくんだわねえ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11165-11272">ベスがなぐさめるようにいいました。メグは、またお説教をつづけました。</seg></p>
        <p><app type="base-text-variant" source="#source-11275-11314"><lem><seg source="#source-11272-11275">「</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>それから、エミイは、気むずかし屋で、かたくるしいわ。今はかわいいけど、気をつけないと大人になったら、がちょうみたいに気どり屋さんになるわ。上品ぶらないときは、しとやかなのも、いい言葉も好きだけど、あんたのませた言葉は、ジョウの下品な言葉とおなじように、よくないわ。」</p>
        <p>「ジョウがおてんばで、エミイが気どり屋さんなら、ねえさん、あたしはなあに？」と、ベスはじぶんもお説教されたがって口をはさみました。</p>
        <p>「あなたは、かわいい子、ただそれだけよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11977-12087">メグは、やさしくそういいましたが、これには、だれも反対しませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12087-12782">ところで、みなさんは、この四人の姉妹がどんな人がらか、知りたいでしょう。おもてには十二月の雪がふり、家のなかには、たのしそうにストーブの火のもえている夕暮のうすやみのなかで、編物をしている四人姉妹をスケッチしてみましょう。その前に、部屋のようすをいえば、敷物の色はさめ家具類は質素ですが、壁にはりっぱな絵が一つ二つかけられ、本棚にはぎっしりと本がならび、出窓には菊やばらが咲いています。古い部屋ですが、平和な家庭のなごやかさが、隅々にまで充ちわたっていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-12782-13039">長女のマアガレット（メグ）は十六で、かわいい娘です。ふとって、目が大きく、とび色の髪はふさふさとしており、口もとがかわいく、じぶんでもいくらか得意の白い手をしています。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13039-13560">十五になるジョウは、せいが高く、やせて、小麦色の肌をして、すらりと長い手足をもてあましているようすから、なんとなく仔馬を思わせます。きりっとした口もと、おどけた鼻、きつい灰色の目をもつ顔は、ときにはするどくなり、ときにはおどけ、ときには思い深げになります。その長いゆたかな髪は、すぐれて美しいけれど、いつもむぞうさにネットのなかに束ねています。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">みんながベスとよぶエリザベスは、ばら色の血色の、くせのない髪の、あかるい目をした十三の少女で内気でおだやかですから、おとうさんが「ひっそり姫」という名をつけたのは、たしかにうってつけでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13850-14151">エミイは、一ばん下ですが、じぶんでは一ばんだいじな人物だと思っています。目は青く、ちぢれた金髪を肩までたらした、あどけない少女で、青白く、やせて、いつも起居ふるまいに気をつける、わかい貴婦人です。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14151-14447">時計が六時をうちました。ベスはストーブのまわりを掃いて、スリッパをならべてあたためました。やがて、おかあさんのお帰りです。四人の顔によろこびがかがやき、メグはお説教をやめてランプをともしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14447-14659">すると、その古いスリッパが問題になりました。みんなが、じぶんが買っておかあさんにあげるといいはり、また、一もめ、もめそうでしたが、ベスが、</seg></p>
        <p>「みんなで、おかあさんにクリスマスのプレゼントをあげましょうよ。じぶんのものは、買わないで。」と、いったので、それはいい思いつきだということになり、あれこれ考えたあげく、メグは上等の手袋、ジョウは上等のスリッパ、エミイはへりのついたハンカチ、ベスはコロン水の小瓶にきめました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15075-15185">ジョウは、せなかに手を組み、天井をあおいで部屋を歩きながらいいました。</seg></p>
        <p>「おかあさんには、わたしたちが、じぶんのものを買っていると思わせておいて、びっくりさせてあげましょうよ。メグ、明日の午後に買物にいかないと、クリスマスのお芝居のことで、することがたくさんあるわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15481-15525">すると、メグがいいました。</seg></p>
        <p>「あたし今度きりで、もうお芝居なんかしないつもりよ。あんなこと子供くさいもの。」</p>
        <p>「だって、ねえさんは一ばんの役者ですもの、ねえさんがぬけたらおしまいよ。エミイ、さあ、いらっしゃい。おけいこしましょう。気を失うところをなさい。あんたは火ばしみたいにかたくなるんだもの。」</p>
        <p>「しかたがないわ。気を失うとこなんか見たことないんですもの。」</p>
        <p>「こうやるのよ。手を組み合せて、ロデリゴ！　助けて、助けて！<app type="base-text-variant" source="#source-16122-16170"><lem><seg source="#source-16116-16122">　と</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-16158-16164">と　</seg></rdg></app>気狂いみたいにさけびながらよろけて部屋を横ぎるの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16250-16666">ジョウは、ほんとに悲鳴をあげてやってみせました。それにならってエミイもやりましたが、まるでぎこちなく、おお！　という声だって、絶望どころか、身体にピンでもささった時のようでした、ジョウががっかりしてうめくと、メグは笑いだすし、ベスもおかしがって、パンをこがしてしまいました。</seg></p>
        <p>「おけいこしてもむだだわ、そのときになって、できるだけになさい、見物が笑っても、あたしのせいにしてはいやよ、さあ、それでは、今度はねえさんよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16884-17282">それからは、すらすらと進行しました、ジョウのドン・ペデロは長い科白をまくしたてて世をあざけり、魔女のハーガーは、ひきがえるのいっぱいはいった釜をのぞいて呪文をとなえ、ロデリゴは、おおしくも鉄のくさりをたちきり、ユーゴーは毒をあおいで苦しみながら死んでいきました。</seg></p>
        <p>「今までのおけいこのうちで、一ばんうまかったわ、」と、メグがいうと、ベスも「ジョウねえさん、どうしてこんなりっぱなものが書けるの？　それに、お芝居もじょうずだわ、」</p>
        <p>「それほどでもないけど、この『魔女の呪い』は、すこしはいいかもしれないわ、それはそうと、シェークスピアの『マクベス』がやってみたいのよ。」と、いって、</p>
        <p>「目の前にちらつくは短剣か？」と、有名な悲劇役者のしぐさをまね、目の玉を光らし、虚空をつかんでいいました。すると、メグがさけびました。</p>
        <p>「あら、フォークにさしてやいてるのは、パンじゃなくて、おかあさんのスリッパよ、」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18082-18246">なるほど、スリッパが火にかかっていました。ベスは、おけいこを見て夢中だったのです。みんなは大笑いしました。</seg></p>
        <p>「ずいぶん、たのしそうね。」と、戸口でおかあさんの声がしました。ねずみ色の外套を着て、流行おくれのボンネットをかぶったおかあさんも、娘たちの目には、この世でならびない、すばらしい人としてうつりました。</p>
        <p>「今日はべつになんにもなかったの？　おかあさんは、明日送りだす慰問箱の仕度でいそがしくて、御飯までに帰れなかったの。ベス、どなたかお見えになった？　メグ、かぜはどう？　ジョウ、あなたはひどく疲れているのね、さあさあ、みんな来て、キッスしてちょうだい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-18928-19048">マーチ夫人はぬれた外套をぬぎ、あたたかいスリッパをはき、ソファに腰をおろして、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-19057-19111"><lem><seg source="#source-19048-19057">エミイ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-19096-19105">アミイ</seg></rdg></app><seg source="#source-19111-19380">を膝にのせ、多忙な一日の一ばんたのしいときを、たのしむのでした、メグとジョウとベスは、さっそくとびまわって、食事の支度をし、すべてととのうと、みんなテーブルのまわりにつきました。</seg></p>
        <p>「晩御飯がすんだら、みんなにおみやげをあげますよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19460-19487">さっと、あかるい</seg><app type="base-text-variant" source="#source-19499-19556"><lem><seg source="#source-19487-19499">ほほえみ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-19541-19550">ほえみ</seg></rdg></app><seg source="#source-19556-19678">が、みんなの顔をかがやかしました。ジョウは、ナフキンをほうりあげてさけびました。</seg></p>
        <p>「手紙だ、手紙だ、おとうさん、ばんざい！」</p>
        <p>「ええ、いいお便りです。おとうさんは、おたっしゃで、案じていたほどでもなく、この寒い冬を元気でお過しなされそうですって。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-19928-20218">おかあさんは、そういって、まるで宝物でもはいっているように、ポケットをたたいて見せました。さあ、もうゆるゆる食事なんかしていられません。パンを床に落したり、お茶にむせたりしてたいへんでした。</seg></p>
        <p>「さあ、それでは、お手紙を読んであげましょうね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-20295-20810">みんなは、ストーブの前にあつまりました。おかあさんはソファにかけました。こういう非常のときの手紙は、つよい感動をあたえるものですが、この手紙もそうで、危険に身をさらしたとか、つらいとかということは、すこしも書いてなく、露営、進軍、戦況などがいきいきとした筆で書かれ、たのしく希望にみちていましたが、最後のところで、大きな感動をあたえました。</seg></p>
        <p>「娘たちに、わたしの愛とキスをあたえて下さい。昼は娘たちのこと思い、夜は娘たちのために祈り日夜娘たちの愛情のうちに慰めを見出しています。娘たちとあうまでの一年は、長く思われるが、待ちわびるそのあいだに、たがいに仕事につとめ、日々をむだにしないようにとお告げ下さい。娘たちは、御身には愛すべき子供であり、忠実に義務をおこない<app type="base-text-variant" source="#source-21296-21338"><lem><seg source="#source-21293-21296">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-21329-21332">。</seg></rdg></app>心中の敵と勇ましく戦い、みごとにうち勝って、わたしが凱旋のときには、以前にもまして愛らしく、誇りうるように生長しているように、出発のときに申し聞かせたことを、すべてよく記憶していると思います。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-21631-21747">ここまでくると、みんな鼻をすすりはじめました。涙をとめることはできません。</seg></p>
        <p>「あたしわがままだったわ、おとうさんが失望なさらないように、いい子になります。」と、エミイがいいますと、メグが、</p>
        <p>「みんないい子になりましょう！　あたし見栄ばかり気にして、はたらくこときらいだったわ、もうやめるわ。」と、さけびました。</p>
        <p>「あたしも、いい子になって、らんぼうなまねよすわ。どこかへ、いきたいなんて思わずに、家でじぶんのつとめをするわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22272-22613">ジョウは、家でおとなしくしてるのは、敵一人や二人にたちむかうよりむずかしいと思いながらいいました。ベスは、だまっていましたが、青い軍用靴下でそっと涙をふき、身近の義務を果すための時間のむだにしまいとして、せっせと編みました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-22613-22720">おかあさんは、ジョウの言葉につづいた沈黙を、快活な声でやぶりました。</seg></p>
        <p>「あなたたちが小さかったとき、「巡礼ごっこ」の遊びをしたことおぼえていますか？　みんなせなかに、あたしの小布のふくろをしょって、帽子をかぶり杖をつき、まいた紙をもって、破滅の市の地下室から、日の照っている屋根の上までいき、そこで天国をつくるために、いろいろな美しいものをいただくくらい、うれしいことはなかったでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-23202-23459">みんなは、そのときのいろんなできごとを思いだして話しましたが、エミイまでが、もうこんなに大きくなっては、あんなあそびできないというのをとがめて、おかあさんはいいました。</seg></p>
        <p>「いいえ、年をとりすぎてはいません。あたしたちは、まあお芝居をしているようなものです。荷物はここに、道は目の前にあります。よいことと、しあわせを求める心が、たくさんの苦労や、あやまちのなかを通りぬけて、ほんとの天国、いいかえれば平和に導いてくれるのです。さあ、小さい巡礼さんたち、今度はお芝居あそびではなく、本気でやって、おとうさんがお帰りになるまでに、どのあたりまで巡礼ができるか、やってみてはどう？」</p>
        <p>「おかあさん、それで、荷物ってどこにありますの！」と、エミイが尋ねました。</p>
        <p>「ベスのほかは、みんながじぶんの荷物が、なにか、いいましたよ。ベスは、きっとなにもないのでしょう。」</p>
        <p>「いいえ、ありますが、あたしのはお皿とはたきと、いいピアノをもっている娘をうらやむしがることですわ。」</p>
        <p>「それでは、みんなでしましょう。巡礼ごっこというのは、よい人になろうと努めることね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-24618-24683">メグは、考えこむように、そういいました。</seg></p>
        <p>「あたしたちは、今夜は、<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-24719-24767"><seg source="#source-24719-24731">絶望の沼</seg></hi><seg source="#source-24767-24848">にいたのね、すると、おかあさんが来て、あの本のなかで、</seg><hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-24848-24884"><seg source="#source-24848-24854">救助</seg></hi>がやったように、ひきあげて下すったんです。だけど、掟の巻物を、どうしましょう？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-25006-25080">ジョウが、そういうと、おかあさんが答えました。</seg></p>
        <p>「クリスマスの朝、枕の下をごらんなさい。見つかるでしょうよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-25175-25463">ばあやのハンナが、テーブルを片づけているあいだに、四人の少女たちは、あたらしい計画について話し合い、それからマーチおばさんの敷布をつくるために、四つの小さな仕事かごがもちだされ、せっせと針を</seg><app type="base-text-variant" source="#source-25472-25526"><lem><seg source="#source-25463-25472">はこぶ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-25511-25520">ぱこぶ</seg></rdg></app><seg source="#source-25526-25639">のでしたが、今夜はこのおもしろくない仕事に、だれも不平をいいませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-25639-25953">九時に仕事をやめて、いつものとおり、おわる前に歌を合唱しました。ベスはおんぼろピアノで、こころよい伴奏をしました。メグは笛のような声で、おかあさんと二人で、この合唱隊をリードしました。姉妹たちは、この歌を、</seg></p>
        <p>「きらりきらり、ちっちゃな、星さま」と、まわらぬ舌でうたったころから、今だに<app type="base-text-variant" source="#source-26079-26139"><lem><seg source="#source-26067-26079">つづけて</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-26121-26133">つづけで</seg></rdg></app><seg source="#source-26139-26590">います。おかあさんは生れつきうたがじょうずなので、これが行事の一つとなったわけでした。朝、まず聞えるのは、家のなかを、ひばりのようにうたうおかあさんの声で、晩に聞える最後の声も、おなじたのしいその声でした。姉妹たちはいくつになっても、そのなつかしい子守唄を、聞きあきるということはありませんでした。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-26590-26720" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-26614-26716"><seg source="#source-26614-26650">第二　たのしいクリスマス</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">クリスマスの朝、まだほのぐらい明方に、ジョウが一ばんさきに目をさました。ジョウは、おかあさんとの約束を思いだして、枕の下へ手をさしこみ、小さい赤い表紙の本をひきだしました。それはこの世でもっともすぐれた生活をした人の美しい物語で、よい道案内だと思いました。ジョウは、「クリスマス、おめでとう。」といって、メグを起し、枕の下を見てごらんなさいといいました。ありました。やはり、あかい絵のある緑の表紙の本で、おかあさんの手でみじかい言葉が書かれていました。まもなく、ベスとエミイが目をさまし、枕の下に本を見つけました。一冊は鳩羽色、一冊は空色の表紙でした。みんなは起きなおり、本をながめて話し合い<app type="base-text-variant" source="#source-27620-27674"><lem><seg source="#source-27611-27620">ました</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-27659-27668">ましに</seg></rdg></app><seg source="#source-27674-27745">が、そのうちに東の空がばら色に染ってきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-27745-27777">メグがいいました。</seg></p>
        <p>「まい朝、目がさめたらすこしずつ読んで、その日一日、あたしを助けてもらいましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-27905-28240">メグが読みはじめると、ジョウは片手をメグの身体にかけ、ほおをすりよせました。ほかの二人もしずかに頁をくりました。三十分ばかりして、メグはジョウといっしょに、おかあさんにプレゼントのお礼をいいに階下へかけおりていきました。</seg></p>
        <p><app type="base-text-variant" source="#source-28243-28282"><lem><seg source="#source-28240-28243">「</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>おくさまは、どこかの貧乏な人がおもらいにきたので、なにかいるものを見に、すぐお出かけになりました。おくさまみたいに、食物や着物や薪までおやりになる方はありませんよ。」と、ハンナが答えました。ハンナは、メグが生れてから、この家族といっしょに暮してきて、女中というよりは、友だちとしてあつかわれているのです<app type="base-text-variant" source="#source-28738-28783"><lem><seg source="#source-28735-28738">。</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-28771-28777">。」</seg></rdg></app></p>
        <p>「すぐにお帰りになると思うわ。だから、お菓子をやいて、すっかり用意しておいてね。」と、メグはかごにいれてソファの下にかくしておいたプレゼントを、いざというときに、とり出せるようにしてから、</p>
        <p>「あら、エミイのコロン水の瓶は？」</p>
        <p>「エミイが、リボンをかけるとかといって、もっていったわ。」と。ジョウがいいました。</p>
        <p>「ねえ、あたしのハンケチいいでしょう。ハンナが洗ってアイロンをかけてくれたのよ。マークはあたしがつけたの。」とベスは、ぬいとりの文字をほこらしげにながめました。</p>
        <p>「まあ、この子は、エム・マーチでなく、マザアなんてぬいとりして、おかしいね。」と、ジョウがいうと、ベスはこまったような顔をして、</p>
        <p>「いけないの？、エム・マーチだと、姉さんもおなじだから。」</p>
        <p>「いいのよ、それならまちがいっこない<app type="base-text-variant" source="#source-29835-29889"><lem><seg source="#source-29826-29835">から。</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-29874-29883">か。ら</seg></rdg></app>きっとおかあさんの気にいるわ。」と、メグは、ジョウには顔を<app type="base-text-variant" source="#source-29985-30039"><lem><seg source="#source-29976-29985">しかめ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-30024-30033">しかあ</seg></rdg></app><seg source="#source-30039-30147">、ベスには笑顔を見せていいました。そのとき、扉の音がしたので、ジョウは、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-30150-30189"><lem><seg source="#source-30147-30150">「</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>そらおかあさんだ、かごを早くかくしなさいよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-30260-30316">エミイが、いそいで入ってきました。</seg></p>
        <p>「どこへいっていたの？　うしろに、かくしているのなあに？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-30405-30524">メグは、怠け者のエミイが、朝早く外出してきたのを見てびっくりして尋ねました。</seg></p>
        <p>「笑っちゃいや。あたし小瓶を大瓶にかえてきたの。これでお金はないわ。もうよくばりはやめにするのよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-30676-30891">エミイのかわいい努力に感じて、メグはさっそく彼女を抱きしめ、ジョウは窓へいき、じぶんの一ばんいいばらの花をとってきて、その瓶をかざりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-30891-31100">また扉の音がしました。かごはソファの下にかくされ、姉妹たちはテーブルにつきました。おかあさんがくると、姉妹たちは口をそろえていいました。</seg></p>
        <p>「クリスマス　おめでとう　本をありがとうございました。もう読みはじめました。まい日読もうと思います。」</p>
        <p>「みなさん、クリスマス、おめでとう！　さっそく読みはじめてうれしく思いますよ。つづけて読むようになさいね、ところで、食事の前に一言いいたいことがあります。すぐ近くに、あかちゃんを生んだ貧乏な女の人がいます。火の気がないので、六人の子供たちが、こごえないように、一つのベッドにだき合ってねています。それに、なにも食物がないので、一ばん上の子が寒くてひもじくて、とても苦しんでいるといいにきました。みなさん、あなた方の朝御飯を、クリスマスのプレゼントにあげませんか？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-31953-32159">みんなは一時間近くも待っていたので、ひどくお腹がすいていたので、ちょっとのあいだ、だまっていました。が、ジョウが勇ましくさけびました。</seg></p>
        <p>「食べないうちに、おかあさんが帰っていらして、ほんとによかった。<app type="base-text-variant" source="#source-32258-32297"><lem><seg source="#source-32255-32258">」</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app><seg source="#source-32297-32671">ベスは御飯を運ぶお手伝いをしたいといい、エミイは、クリームと軽焼を持っていってあげるといいました。その二つともエミイの一ばん好きなものでした。メグは、早くもそばをつつみ、パンを大きな皿にもりました。おかあさんは、満足そうにほほえみながらいいました。</seg></p>
        <p>「きっと、みなさんは賛成すると思っていました。さあ、来て手伝って下さい。帰ったらパンとミルクで朝御飯をすませて、夕飯にそのうめ合せをしましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-32892-33401">すぐ仕度をして、みんなで出かけました。いってみておどろきました。なんと、あわれな部屋でしょう。窓はやぶれ火の気はなく、蒲団はぼろぼろでした。おかあさんは病気で、あかんぼうは泣き、青い顔のひもじい子供たちは、一枚の蒲団にくるまってかたまっていました。みんながはいっていくと、子供たちは目を大きく見はり、青ざめた唇にほほえみをうかべました。</seg></p>
        <p>「ああ、神さま！　天使たちがいらした！」と、そのあわれな女は、うれし泣きに泣きながらさけびました。ジョウは、</p>
        <p>「頭をかけ手袋をはめたおかしな天使でしょう。」といって、家中の者を笑わせました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-33687-34319">たちまち、この家にやさしい精霊がはたらきだしたように思われました。薪を運んできた。ハンナは火をおこし、古い帽子や、じぶんの肩かけで窓のやぶれをふさぎました。おかあさんは、母親にお茶やかゆをあたえ、あかんぼうをじぶんの子供みたいに着物を着せ、これからもお世話をしますと約束してなぐさめました。姉妹たちは、そのあいだにテーブルの支度をし、子供たちを炉のまわりにすわらせ、お腹のすいている小鳥たちを養うように食べさせました。</seg></p>
        <p>「ああ、おいしい、子供の天使！」と、子供たちは食べながらいって、紫色にこごえた手をあたたかい火であたためました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-34489-34675">帰ってから、姉妹たちは、パンとミルクしか食べませんでしたが、それはたのしい朝御飯でした。おそらくこの市で、この少女たちより</seg><app type="base-text-variant" source="#source-34678-34720"><lem><seg source="#source-34675-34678">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-34711-34714">。</seg></rdg></app><seg source="#source-34720-34773">幸福であった人はなかったでしょう。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-34773-35408">おかあさんが、すこしおくれて帰って来たとき、プレゼントはもう用意され、ベスの陽気な行進曲とともに、メグがおかあさんを、ていねいに設けの席につけました。おかあさんは、ほほえみをたたえて、プレゼントについている札を読み、スリッパをすぐにはき、ハンケチにコロン水をかけて、かくしにしまい、ばらの花を胸にさし、きれいな手袋をはめました。それから、たのしい談笑とくちづけがつづき、よい思い出としてみんなの心に残ることばかりでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-35408-35611">やがて、めいめい仕事をはじめました。仕事は晩のお芝居の支度で、金をかけずにあり合せのもので、気のきいた小道具や衣装をつくるのでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">その晩、招かれた十人あまりの少女たちが、上等席のベッドの上にならびました。まもなくベルがなり幕があがりました。「魔の森」です。鉢植や箪笥を利用して森と洞穴をあらわしました。魔女が、洞穴の炉にかかっている鍋をのぞきこんでいると、悪漢ユーゴーが腰の剣をがちゃつかせて登場しました。ユーゴーは、ロデリゴへの憎しみと、ザラへの愛をうたい<app type="base-text-variant" source="#source-36109-36151"><lem><seg source="#source-36106-36109">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-36142-36145">。</seg></rdg></app>ロデリゴを殺してザラを手にいれたい決心をのべ、洞穴へしのびより、「おい、女、御用だぞ。」と、いってハーガーに出てくるように命じました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-36354-36656">メグは、白い馬の毛を顔にたらし、赤と黒の衣をまとい、杖をもってあらわれます。ユーゴーが愛の魔薬と死の魔薬を求めると、ハーガーは、あたえることを約束し、愛の魔薬をもってくるように歌で妖精をよびました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-36656-37396">すると、やわらかな音楽につれて、洞穴のかげから、きらきらした翼をつけ、金髪にばらの花冠のかわいい妖精があらわれ、愛の魔薬をいれた金色の瓶をおとして、すがたをけします。そこで、ハーガーがもう一度うたうと、ものすごいひびきとともに、真黒な小鬼があらわれ、しゃがれ声で返事をしたかと思うと、黒色の瓶をユーゴーに投げつけてすがたをけしました。すると、ハーガーは、ユーゴーに、むかしじぶんの友人を二三人殺したことがあるから、じぶんは彼の計画のじゃまをするつもりだといいます。かくて、幕はさがりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-37396-37962">第二幕の舞台はりっぱでした。城の塔が高くそびえ、窓にランプがともっていました。青と白の衣をつけてザラがあらわれ、ロデリゴが来るのを待っていると、まもなく、羽かざりのある帽子をかぶり、赤い外套を着て、ギターをもったロデリゴが来て、塔の下でやさしく小夜曲をうたいました。ザラは、城をぬけだすことを歌で答えます。そこで、ロデリゴは縄梯子をかけ、ザラはそれをつたっておりるのでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ところが、とんだことが起りました。それはザラが、衣の裾の長いことを忘れ、ロデリゴの肩に手をかけておりようとしたとき、裾がからまり塔はすごい音とともに倒れ、二人はその下敷になったのです。芝居はめちゃめちゃになりそうでしたが、気をきかしたドン・ペデロがとびこんできて「笑っちゃだめ、知らん顔をしてやるのよ。」といいながら、じぶんの娘のザラをすばやくひきだし、ロデリゴにむかって立てと命じ、怒りと嘲りを浴せながら王国から追放するぞと宣告しました。ロデリゴはなにをと、その老人をののしり、立ち退くことを拒みました。その勇ましい態度に、ザラもちからを得て、父である領主にたてついたので、彼は二人を城の牢屋にほうりこむことを命じますと、家来がだまってひきたてていきました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">第三幕は、城の広間で、魔女ハーガーが、牢屋の二人を救い出し、ユーゴーを殺そうと思ってあらわれます。魔女はユーゴーの足音を聞いてかくれます。ユーゴーは二つのコップに魔薬をつぎ、小女に、「これを牢屋にいる囚人にあたえ、わしがすぐに行くと告げよ。」と、いいつけます。家来はそばへいって、なにかを告げる間に、ハーガーは二人のコップを害のないものにかえます。小女はそれを運んでいき、ユーゴーはうたった後に魔薬のはいったほうを飲み、もだえ死にます。そこで、ハーガーは、じぶんのしたことを告げますが、その歌は、一ばんすばらしいできばえでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-39754-40239">第四幕、ロデリゴが、ザラにうらぎられたと知って、絶望して胸に短刀をつきさそうとします。そのとき部屋の下で歌がうたわれザラの心はかわらないが、今あぶない目にあっているから、ロデリゴにもし真心があるなら、ザラを救いだせると告げます。ロデリゴはよろこび、投げあたえられたかぎで扉を開け、くさりをたち切って愛人を救いに走ります。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-40239-40410">第五幕は、ザラと父ドン・ベデロのはげしい争いからはじまります。父はザラを尼寺へやろうとしますが、ザラは聞き入れず</seg><app type="base-text-variant" source="#source-40413-40455"><lem><seg source="#source-40410-40413">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-40446-40449">。</seg></rdg></app><seg source="#source-40455-41336">悲痛な訴えをつづけ、気絶しそうになったとき、ロデリゴがきて結婚を求め、つれていこうとします。父はロデリゴが金持でないのを理由にこばみます。そこへ、家来がハーガからの手紙と袋をもってきますが、手紙にはハーガーは、わかい二人に遺言によって莫大な財産をあたえ、もしザラの父がわかい二人を幸福を妨げるならば、その身におそろしい呪いがかかると書いてありました。そして、袋を開けると、ブリキの金貨がきらめきました。これで、頑迷な領主の心もとけ、わかき二人の結婚を許したので、一同はたのしい合唱をして、感謝のいのりのうちに、愛する二人は、ザラの父の前にひざまずき、祝福をうけるところで幕がおりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-41336-41611">嵐のような喝采がおこりましたが、上等席のベッドが、きゅうにたたまれ、大さわぎになりました。幸にけがもなく救いだされましたが、そのさわぎのおさまらないうちに、女中のハンナがあらわれ、</seg></p>
        <p>「おくさまが、みなさんに、夕飯に階下へ来るようにとおっしゃってです。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-41742-42038">これは、ふいうちで、食卓を見たとき、息がとまるほどおどろきました。だって、アイスクリームが、赤と白と二皿、お菓子、果実、フランスボンボン、そして、食卓の上には、温室咲きの大きな花束がありました。</seg></p>
        <p>「妖精が下すったの？」と、エミイ。すると、ベスは、</p>
        <p>「サンタ・クロースよ、きっと。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-42165-42242">メグは、白いひげをはやし、白い眉毛をつけたまま、</seg></p>
        <p>「おかあさまだわ。」と、いいました。ジョウは、</p>
        <p>「マーチおばさまが、すてきな思いつきで、とどけて下さったのよ。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-42435-42491">おかあさんは、にっこり笑いながら、</seg></p>
        <p>「みんなちがいます。ローレンスさまが、下すったのです。」</p>
        <p>「ローレンスの、ぼっちゃんのおじいさまですって？　どうしてでしょう？　わたしたちを、ごぞんじないのに。」と、メグが、おどろいていいました。</p>
        <p>「ハンナが、ローレンスさんの家の女中さんに、今朝のことを話したのです。ローレンスさんは、それを感心なさって、ていねいな手紙で、今日のお祝いにプレゼントをしたいといって、およこしになったのです。」</p>
        <p>「ぼっちゃんが、思いついたんだわ。いいぼっちゃんだわ。お友だちになりたいけど。」と、ジョウがいいますと、それをきっかけに、ローレンス家のうわさに花がさきました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-43321-43656">ローレンスさんは、お金持だが、ちょっとかわっていて、あまりつきあいもしませんが、ぼっちゃんは、いい子で遊びにきたいらしいけど、はにかみ屋だもので、遊びに来れないらしいというようなことが話されました。すると、おかあさんは、</seg></p>
        <p>「ぼっちゃんは、りっぱな紳士のようです。いい折があったらお友だちになるといいと思います。この花は、じぶんで持っていらっしゃいました。二階のさわぎを耳にして、さびしそうに帰られたのです。」</p>
        <p>「では、いつか、ぼっちゃんが見てもいいお芝居をしましょう。」と、ジョウがいいました。</p>
        <p>「あたし花束なんか、もらったことないわ。きれいねえ。」と、メグは花束に見入っていました。そのとき、おかあさんが、</p>
        <p>「花束はかわいいけれど、ベスさんのばらはなおかわいい。」と、いって、胸にさしたベスのしぼみかけたばらをかぎながらいいますと、ベスはおかあさんに身をすりよせて、</p>
        <p>「あたし花束をおとうさんのところへお送りしたかったの、おとうさんは、あたしたちみたいに、たのしいクリスマスをしてはいらっしゃらないでしょう。」と、小さい声でいいました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-44730-44872" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-44754-44868"><seg source="#source-44754-44796">第三　ローレンスのぼっちゃん</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p>「ジョウ、どこ！」と、メグが屋根部屋の梯子の下からよびました。</p>
        <p>「ここよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-44987-45118">かけあがっていくと、ジョウは日なたぼっこをして林檎をかじりながら本を読んでいました。</seg></p>
        <p>「とても、いいニュース。明日の晩、来てほしいという、ガーデイナアのおくさんの正式招待状よ。」と、メグはその手紙を嬉しそうに読みました。</p>
        <p>「大晦日の晩に、小宅で舞踏会を催します。ミス・マーチ、ミス・ジョセフィン、お二人とも御光栄下されたく存じます。ガーデイナア夫人――おかあさんはいってもいいって。だけど、あたしなにを着ていこうかしら？」</p>
        <p>「そんなこと、きいたってだめよ。ポプリンの服しかないんだから、あれを着ていくほかないの知ってるくせに。」と、ジョウは、林檎を口いっぱいほおばっていいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-45859-46263">さあ、それから、メグは、絹の服があればいいとか、手袋のいいのがないとか、くよくよと、こだわってばかりいましたが、ジョウは服に焼けこがしがあるけど、平気が着ていくし、手袋なしですますつもりでした。ジョウにとっては、そんなことたいして心わずらすことではありませんでした。</seg></p>
        <p>「あたしのことは心配しないでいいわ。できるだけ、おすましして、しくじらないように気をつけるわ。それでは返事を出しなさいよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-46451-46565">そこで、メグは、服の用意にとりかかるために出ていき、ジョウは、なおしばらく</seg><app type="base-text-variant" source="#source-46574-46631"><lem><seg source="#source-46565-46574">林檎を</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-46613-46625">林檎をを</seg></rdg></app><seg source="#source-46631-46678">かじって本を読んでいきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-46678-47856">大晦日の晩は、客間はからっぽでした。二人の妹は、着付役にまわり、二人の姉は、夜会のお仕度という、きわめて重要なお仕事に夢中でした。化粧はかんたんでも、二階へかけあがったり、かけおりたり、笑ったりしゃべったり大さわぎで、メグが額の上にすこし捲髪がほしかったので、ジョウがこてで焼いたら、つよい髪の焼けるにおいが家中にただよいました。その失敗に、メグは泣きだすしジョウは心苦しそうでした。このほか、小さい失敗は、かず知れず、それでもやっと二人の仕度はできあがりました。メグは、銀褐色の服、空色ビロウドの、リボンに、レースのふち飾り、そして、真珠のピンをさしました。ジョウは、海老茶色の服に、かたい、男のするようなカラア、それに白菊を飾りにしただけでしたが、ともかく、二人ともすっきりとしていました。二人とも、きれいな手袋を片方ずつはめ、よごれた方をもちました。苦心のお仕度でありました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-47856-47927">姉妹が、すまして歩道へ出ると、おかあさんは、</seg></p>
        <p>「いってらっしゃい、お夜食はたくさん食べちゃいけませんよ。ハンナを十一時に、お迎えにあげるから、帰っていらっしゃい。」と、いって、窓をしめましたが、すぐに、また、</p>
        <p>「もしもし、二人ともきれいなハンカチもっていますか？」と、念をおしました。</p>
        <p>「ええ、まっ白よ、ねえさんはコロン水もかけました。」と、ジョウは答えました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-48401-48763">二人は、カーデナア夫人の家にいくと、その化粧室で、かなり長いあいだ鏡をのぞいてから、すこしびくびくしながら、階下におりていきました。二人は、めったに舞踏会などに招待されたことがないので、今晩の会は略式でも、二人にとっては大きな事件でした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-48763-49620">りっぱな老夫人カーデイナア夫人は、にこやかに二人を迎えてくれ、六人の娘のなかの長女に二人を渡しました。メグはサーリーさんを知っていたので、すぐに親しく話し出しましたが、女の子らしいおしゃべりに興味をもたないジョウは、服に焼けこがしがあるので、用心ぶかく壁をせにして立っていました。部屋のむこうで、快活な五六人の男の子が、スケートの話をしていたので、ジョウはそこへいってもいいかと、メグに合図をしましたが、メグの眉がおどろくほどあがったので、動くことができませんでした。しかたなしに、ジョウは、ただ一人とりのこされ、ダンスがはじまるまで、人々をながめているばかりでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ダンスがはじまると、メグはすぐに相手ができて、にこにこして踊りましたが、きゅうくつな靴の痛さをがまんしていることは、だれにも気がつかれませんでした。ジョウは、髪の毛の赤い青年がやってくるのを見て、ダンスを申込まれては大へんだと思い、いそいでカーテンのかげに入ると、そこには、はにかみ屋さんの「ローレンスのぼっちゃん」がいました。ジョウは、さっそく、クリスマスのプレゼントのお礼をいいますと、</p>
        <p>「あれは、おじいさんのプレゼントです。」</p>
        <p>「でも、おじいさんにおっしゃったのは、あなたでしょう？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-50358-50591">ぼっちゃんは笑っていました。それから、いろいろ話しているうちに、ジョウは、このぼっちゃんが、ローリイという名で、長いあいだ、外国にいたことを知りました。</seg></p>
        <p>「まあ、外国へ、あたしは旅行の話を聞くのは大好き！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-50671-50970">ローリイは、どう話したらいいかわからないようでしたが、ジョウが熱心にいろいろ質問したのでエヴェの学校のことや、この前の冬、パリイにいた話をしました。ジョウは、めずらしい外国の話にたまらなくなって、</seg></p>
        <p>「ああ、いってみたい！」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-51032-51277">それから、話はフランス語のことになり、ジョウが、じぶんは読めてもしゃべれないだけれど、ちょっと話してみてほしいといいますと、ローリイは、フランス語でいいました。</seg></p>
        <p>「あのかわいいスリッパはいた人はだれですか？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-51348-51416">ジョウは、わかったので、すぐに答えました。</seg></p>
        <p>「あれは姉のマーガレットです。あなたは、わたしのねえさんをかわいいと思いますか？」</p>
        <p>「ええ、おねえさんは、なんとなくドイツの少女を思わせます。いきいきして、それでしとやかで、りっぱな淑女みたいに踊りますね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-51729-52421">ジョウは、姉をほめられてうれしく、ぜひメグに話してやろうと思いました。ローリイは、もうすっかりはにかみもせず、心を開いて話し、ジョウも、今は服のことなど忘れて、快活ないつものジョウになり、ローリイが好きになりました。それで、ローリイのことを、姉妹に話してやるために、顔かたちや身体つきなどをよく憶えておこうと思っていくども見なおしました。けれど、年はいくつでしょう？　ジョウは、おいくつといいそうにしましたが、やっとこらえて、遠まわしに尋ねることにしました。</seg></p>
        <p>「もうじき大学へいらっしゃるんでしょう？」</p>
        <p>「まだ二三年はだめです。十七にならなくてはいけません。」</p>
        <p>「では、まだ十五ですか？」</p>
        <p>「来月、十六です。」</p>
        <p>「あたしは大学へいきたいけれど、あなたはいきたそうではありませんのね。」</p>
        <p>「ぼくはいやです。ぼくはイタリイに住んでじぶんの好きなように暮したい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-52865-53134">ジョウは、ローリイのいう、その好きなように暮したいということを、くわしく聞きたいと思いましたが、眉をひそめてふきげんに見えたので、気をかえさせようと思って、足拍子をとりながら、</seg></p>
        <p>「ああ、いいポルカね。あなたなぜいってダンスなさらないの？」と、尋ねました。</p>
        <p>「あなたもいけば。」</p>
        <p>「あたしはだめ。あたし姉さんに踊らないといったの、なぜって、いうと……」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-53392-53580">ジョウが、いおうか、笑ってすまそうかとしていると、ローリイは、しきりにわけを尋ねます。だれにもいわないならばと念をおして、</seg></p>
        <p>「服にやけこがしがあるんです。あたしわるいくせがあって、よくやけこがしするの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-53702-53749">ローリイは笑いませんでした。</seg></p>
        <p>「そんなこと平気ですよ。それじゃ、あっちの細長い広間で踊りましょう。だれにも見られないから。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-53892-54455">ジョウは感謝して、よろこんでついていき、だれもいない、その広間で、ポルカを踊りました。ローリイは、ダンスがじょうずで、ドイツ流を教えてくれたが、まわったりはねたりすることが多いのでおもしろく踊れました。音楽がやむと、二人は階段にやすんで話しましたが、つぎの部屋でメグが手まねきしたので、ジョウがしぶしぶいってみると、メグは足をかかえ、青い顔をしてソファにすわっていました。</seg></p>
        <p>「高いかかとがひっくりかえって、くるぶしをひどくいためたの。痛くて立てそうもないわ。どうやって家へ帰ろうかしら？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-54628-54702">ジョウは姉のくるぶしをそっとなでてやりながら、</seg></p>
        <p>「あんまりかかとが高いから、けがすると思ったわ。お気のどくね。だけど、どうしたらいいでしょう。馬車を頼むか、ここに夜通しいるか。」と、こまった顔をしました。</p>
        <p>「馬車を頼めば高いし、頼みにいってもらう人もいないし、ここへはとめてもらえないし、あたしハンナが来たら、なんとか考えるわ。あら、みんな夜食にいくわ。あなたもいって、あたしにコーヒーもらって来てよ。あたし疲れて動けないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-55273-55599">ジョウは、いそいでいきましたが、あちこち部屋をまちがえて、やっと食堂にはいり、コーヒー茶わんに手をかけたとたん、こぼして服の前をよごしてしまいました。それを、あわてて手袋でこすったので、手袋もよごしてしまいました。</seg></p>
        <p>「お手伝いしましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-55637-55795">親しみのある声がしました。それは片手にコーヒー茶わん、片手にアイスクリームの皿をもったローリイでした。</seg></p>
        <p>「あたしねえさんのところへ、コーヒーをもっていこうとしましたら、また、やりそこないましたの。」</p>
        <p>「ちょうどいい。<app type="base-text-variant" source="#source-55971-56025"><lem><seg source="#source-55962-55971">わたし</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-56010-56019">たわし</seg></rdg></app>がもっていってあげましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-56072-56743">ジョウがさきにいきました。ローリイは、なれたものごしで、コーヒーとアイスクリームを、メグにすすめ、ジョウのために、もう一度とりにいってくれました。三人が、しばらく話しているうちにハンナが来ました。メグはびっこをひきひき帰り支度をしに二階へいきました。そのあいだに、ジョウは玄関へいって、下男らしい人に、馬車をやとうことを頼みましたが、その人はその日だけやとわれた下男で、近所のことは知りませんでした。すると、ローリイが聞きつけて来ていいました。</seg></p>
        <p>「どうか送らせて下さい。道はおなじですし、それに雨もふっています。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-56847-57266">ローリイは、じぶんを迎えに来たおじいさんの馬車に、メグとジョウとハンナをのせました。みんなは、ぜいだくな箱馬車にのって、たのしい、ゆたかな気持にひたりながら帰りました。ローリイは馭者台にのったので、メグは痛い足を前に出すことができ、姉妹は気がねなしに話をすることができました。</seg></p>
        <p>「あたし、とてもおもしろかったわ。」と、ジョウは髪をかきあげながらいいました。</p>
        <p>「あたしもよ、けがするまでは、サーリイさんのお友だちの、マフォットさんという方と仲よしになったのよ。サーリイさんと一週間とまりがけで来るようにといって下すったわ。サーリイさんは、春になってオペラがはじまるといらっしゃるんですって。あたしおかあさんがいかして下さるといいけど。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-57801-57854">メグは元気づきながらいいました。</seg></p>
        <p>「おねえさんは、あたしがにげ出したあの赤い髪の人と踊ったのね、あの人、いい人だった？」</p>
        <p>「ええ、髪はとび色よ。ていねいな方で、あたし気持よく踊ったわ。」</p>
        <p>「あの人、足を出すとき、ひきつった、きりぎりすみたいだったわ。ローリイさんとあたし笑ってしまったわ。あたしたちの笑うの聞えなかった？」</p>
        <p>「いいえ、それやぶしつけだわ。あなたたち、そこにかくれて、なにしてたの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-58399-58717">ジョウは、そこでじぶんたちのやったことを話しました。その話がおわったとき、馬車は家へつきました。姉妹は、あつくお礼をのべて馬車をおり、そっと家へはいりましたが、扉の音で二つの小さな頭がうごき、ねむそうな、けれど</seg><app type="base-text-variant" source="#source-58726-58780"><lem><seg source="#source-58717-58726">熱心な</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-58765-58774">熱心が</seg></rdg></app><seg source="#source-58780-58803">声がしました。</seg></p>
        <p>「ねえ、会の話をしてよ？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-58844-59200">ジョウは、メグのいう、ひどいお作法をやって、妹たちにボンボンをもってきてやりました。妹たちはそれをもらい、その夜の胸のわくわくするような話を聞いて、まもなく寝入ってしまいました。メグは、ジョウは、薬をぬってほうたいをしてもらいながら、</seg></p>
        <p>「馬車で夜会から帰り、ねま着のまますわって、女中に世話してもらって、りっぱな貴婦人みたいだわ。」と、いいました。</p>
        <p>「あたしたちは、髪の毛をやいたり、服が古かったり、手袋が片方だけだったり、きつい靴をはいてくるぶしをくじいたり、とんまのまぬけ<app type="base-text-variant" source="#source-59571-59631"><lem><seg source="#source-59559-59571">だけどね</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-59613-59625">だけねど</seg></rdg></app>、たのしかったわねえ。」と、ジョウがいいましたがほんとにそのとおりだったのです。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-59755-59879" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-59779-59875"><seg source="#source-59779-59812">第四　重い荷をかついで</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p>「やれやれ、またお荷物かついで仕事をはじめるの、なんてつらいんでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-59992-60165">会のあくる朝、メグはため息をつきました。一週間たのしく遊んだあとで、いやな仕事はやすやすはじめられませんでした。</seg></p>
        <p>「いつまでも、クリスマスかお正月だといい。そうしたらおもしろいでしょうね。」と、ジョウは、あくびまじりに答えました。</p>
        <p>「そしたら、今よりか半分もおもしろかないわ。だけど、お夜食や花束をいただいたり、会へいったり、馬車で帰ったり、読書したり、休養したりして、こつこつ<app type="base-text-variant" source="#source-60578-60650"><lem><seg source="#source-60560-60578">はたらかない</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-60626-60644">はたちかない</seg></rdg></app>ですむような人、うらやましいわ。」と、メグがいいました。</p>
        <p>「でも、そんなことできないわ。だから、ぐちをこぼさないで、おかあさん<app type="base-text-variant" source="#source-60868-60964"><lem><seg source="#source-60838-60868">みたいに、ほがらかに</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-60928-60958">みたいにほ、がらかに</seg></rdg></app>歩いていきましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-60999-61103">けれど、メグの心は晴れません。髪をきれいにする元気すらありません。</seg></p>
        <p>「ああ、いやだ。せっせとはたらいて、年をとって、きたない気むずかし屋になるんだわ。貧乏でおもしろく暮せないばっかりに。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-61285-61627">こういってメグは、ふくれた顔をして階下へいき朝の食事のときもふきげんでした。みんなも気分がひきたちませんでした。ベスは頭痛がするので、ソファの上に横になり、親ねこと三びきの子ねこを相手に気をまぎらそうとしました。エミイは勉強が</seg><app type="base-text-variant" source="#source-61651-61735"><lem><seg source="#source-61627-61651">はかどらないのに</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-61705-61729">はがどらないのに</seg></rdg></app><seg source="#source-61735-62037">、ゴム靴が見つからないのでぷりぷりしました。ジョウは口笛をふいて、さわぎをひきおこしかねないようすでした。おかあさんは、いそぎの手紙を書くのにいそがしく、ハンナも前の晩おそかったので、ふきげんでした。</seg></p>
        <p>「こんないじわるの家ってありやしない！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-62099-62335">ジョウは、インキのつぼをひっくり返し、靴のひもを二本とも切ったので、とうとうかんしゃくを起して、じぶんの帽子の上にどさりとすわり、大声でそうさけびました。</seg></p>
        <p>「なかで、あなたが一ばんいじわるよ。」と、エミイがやり返し、石盤の上にこぼした涙で、まちがいだらけの計算を消してしまいました<app type="base-text-variant" source="#source-62524-62569"><lem><seg source="#source-62521-62524">。</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-62557-62563">。」</seg></rdg></app></p>
        <p>「ベス、こんなうるさいねこ。あなぐらにほうりこんでおかないと。水でおぼれさせれしまうわよ。」と、メグは、じぶんのせなかにかじりついたねこを、はなそうとしながらいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-62828-62992">ジョウは笑う。メグはしかる。ベスはあやまる。エミイは、十二の九倍がいくつになるか、わからなくて泣きました。</seg></p>
        <p>「さあ、しずかにしておくれ、今朝早く出さなければならないのに、がやがやうるさくして、書けやしません。」と、おかあさんは手紙の書きそこないを消しながらいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">それで、ちょっと静まりました。ハンナが来て、熱いパイを二つおいて、出ていきました。姉妹たちのいく道は遠く寒く、三時前までに帰れないので、これはおべんとうでもあり、また、手をあたためることもできました。それでこのパイのこと「マフ」ともよんでいました。</p>
        <p>「では、かあさんいってまいります。今朝はあたしたちだだっ子でした。でも、天使になって帰って来ます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-63763-64272">ジョウは、そういって、メグといっしょに出かけました。町角でふりかえると、いつも窓でにっこり笑うおかあさんの顔があり、それが励ましになるのでした。二人は今朝もふりかえり、おかあさんの笑顔を見ると、元気になろうとつとめ、しばらく歩いてから、べつべつの道をいきました。メグは保姆の仕事、ジョウはマーチおばさんのところへはたらきにいくのでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-64272-65183">おとうさんが、不幸な友人を救おうとして財産を失くしたとき、二人はすこしでも家のためになりたくてはたらき、それからずっとはたらいているのです。メグの給料はわずかで、しかもまい日キング家で、年上の姉妹たちが、ぜいたくをしているのを見るので、だれよりも貧乏をつらがっていました。ジョウはびっこのマーチおばさんの世話をしますが、気みじかのおばさんと、よく気が合いました。それに、死んだおじさんの文庫がすばらしく、おばさんが昼寝をしたり、来客でいそがしいときさっそく文庫にはいりこんで、詩、歴史、旅行記だのに読みふけりました。それはいいとしても、思うさまかけまわったり、馬にのったりできないのは、なやみの種でした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-65183-65917">ベスは、はにかみ屋で、学校へもいけないほどでした。それでおとうさんが勉強を見ていましたが出征しなすってからはおかあさん、かあさんが軍人後援会へいくようになってからは、ひとりで勉強します。性質は勤勉で家事が好きで、ハンナを助けて家をきれいにしますが、まだ子供で、人形と遊ぶことが、なによりのたのしみでした。けれど、このベスにも、苦になることがありました。それは、音楽好きなのに、よいピアノもないし、音譜もないことで、音楽の勉強が思うようにできないので、涙をながすことがときどきありました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-65917-66384">エミイのつらいことには、鼻が美しくないことで、エミイにいわせると、あかんぼのとき、ジョウが手をすべらして炭取のなかへ落したためだそうです。エミイは絵がじょうずで、花を写生したり、空想的な絵もかきます。それに十あまりの曲もひくし、フランス語も読めるし、性質は素直でおとなしいので、みんなからかわいがられました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-66384-66494">さて、晩に、みんながいっしょにお裁縫をはじめたとき、メグがいいました。</seg></p>
        <p>「今日はほんとにくさくさした日だったわ。なにかおもしろい話でもない？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-66601-66657">すると、ジョウがすぐにいいました。</seg></p>
        <p>「あたし、今日はへんなことあったのよ。マーチおばさんがいねむりをはじめたので、おばさんが読め読めという、つまらない、ベルシャムを読みかかったら、こっちもねむくなり、大きなあくびをしたの。そうしたら、おばさんは、罪ということについて、ながながとお説教をやりだし、お説教がすむと、よく考えなさいといって、またいねむりよ。そこでわたしは、「村牧師」を出して読みだしたのよ。そしたら、水のなかへころげこむところで、つい大声をあげて笑ったの。すると、おばさんが目をさまして、それを読んで聞かせなさいとおっしゃるの。私は読んであげた。おもしろかったのね。だから、お昼すぎに、あたしが手袋をとりにいったら。おばさんは、じぶんで「村牧師」を熱心に読んでるのよ。ね。やっぱりベルシャムなんかよりおもしろいのよ。おばさんみたいな金持だって貧乏人とおなじような心配があるんだわ。だから、「村牧師」にひきつけられるのだわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-67859-67903">すると、メグがいいました。</seg></p>
        <p>「それで、あたしも話すこと思いついたわ。今日キングさんのところへいったら、なんだかへんなの<app type="base-text-variant" source="#source-68041-68080"><lem><seg source="#source-68038-68041">。</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>それで、あたし一人の子に尋ねたら、一ばん上の兄さんがなにか大へんなことをして、おとうさんから家をおいだされたんですって。泣き声、どなり声がして大へんだったわ。家のはじになるような、らんぼうな男の兄弟がいなくてよかったわねえ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-68421-68468">すると、エミイがいいました。</seg></p>
        <p>「今日、スージーさんは、先生の漫画を書いたので、三十分も教壇にたたされたの。あたしスージーさんが、きれいな、めのうの指輪をはめて学校へ来たので、うらやましく思っていたけれど、あんなはずかしい目にあうようじゃ、いい指輪はめたってしあわせじゃないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-68842-68886">つぎに、ベスが話しました。</seg></p>
        <p>「今朝あたしハンナにかわって、魚屋へかきを買いにいったの。すると、貧乏そうな女の人が来て、仕事がなくて子供に食べさせるものがないから、みがきものでもさせて、お魚をすこし下さいと頼んだの。すると、魚屋さんいそがしいもので、つっけんどんに、だめよといったの。すると、そのときローレンスさんがしおれて帰っていく女に、大きな魚をステッキでひっかけてあげたの。女は、びっくりして、よろこんで、なんどもお礼をいって、ローレンスさんに天国へいけるようにって祈ったの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-69569-69721">みんなはベスの話を笑いましたが、もちろん心をうたれました。そして、おかあさんにお話をねだりました。</seg></p>
        <p>「そうね、おかあさんは、会で青いネルを裁っていたら、おとうさんのことが、みょうに心配になって、もしものことがあったら、どんなに頼りなく、さびしいだろうと思っていました。すると、なにか註文をもっておじいさんが、心配そうな、疲れたようすでやって来ました。身の上を尋ねてみたら四人息子が戦争に出ていて、二人は戦死をし、一人はとりこになり、一人はワシントン病院にいるんですって。そして、これからそこへいくんですって。けれど、すこしもぐちをこぼさないで、よろこんでお国のために、子供たちを出したというのです。おかあさんは、たった一人おとうさんを出してつらがっています。はずかしくなりました。そればかりか、おじいさんは、たった一人ぼっちですがおかあさんには四人も娘がいて、なぐさめてくれます。ほんとに、おかあさんは、じぶんの恵みふかい幸福がありがたかったので、おじいさんに、つつみとお金をあげ、教えていただいた教訓に、心からのお礼をいいました。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-70974-71195">みんなは、この話にも心をうたれました。ジョウは、もう一つ、今のようないい話をと望みました。おかあさんは、にっこり笑って、すぐに話しはじめました。</seg></p>
        <p>「むかし、食べたり着たり、なに不足のない四人の娘がありました。たのしみも、よろこびもありあまり、親切なお友達や両親があって、愛されていたのに、娘たちは満足しませんでした。（ここで聞き手たちは、こっそり見かわして、お裁縫に精を出しました）娘たちはよくなろうと決心するのですが、やりとげることができないで、これがあったらとか、あれができたらとかと、考えました。それで、あるおばあさんに、幸福にしてくれるまじないがあれば教えて下さいといいましたら、あなたがたが満足に思うとき、恵みということを考えて感謝なさいといいました。（ここでジョウは、なにかいいたそうでしたが、話がおわらないのでいうのをやめました）それで、りこうな娘たちが、その言葉を試してみますと、じぶんたちがいかによい暮しをしているかわかってびっくりしました。一人は、お金持でも家のはじと悲しみは救えないということがわかりました。一人は、貧乏でも、若くて元気なら、じぶんのたのしみもたのしめない、気むずかしいおばあさんより、ずっと幸福ということがわかりました。一人は食事の仕事はいやだけど、食物をもらって歩くのは、つらいということがわかりました。一人は、めのうの指輪よりもお行儀のいいほうがいいということがわかりました。それで、四人の娘たちは、ぐちをやめ、さずかった恵みを感謝し、もっとよくなろうと考えました。」</p>
        <p>「おかあさんは、あたしたちのお話をとって、あたしたちをお説教なさるの、ずるいわ。」と、メグがいいますと、ベスがいいました。</p>
        <p>「あたし、そういうお説教すきだわ。おとうさんがよく話して下さったわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-73238-73282">エミイは、つぶやくように、</seg></p>
        <p>「あたし、そう不平いわないけど、もっとつつしむわ。スージーさんのやりそこないで、あたしほんとに教えられたんですもの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-73461-73508">すると、ジョウが、ふざけて、</seg></p>
        <p>「おかあさんの教えは、よかったわ。もしか忘れたら、チョール人のおじいさんみたいに、子供らよ慈悲ちゅうもんを、ようくかんげえねせえと、おかあさん、おっしゃって下さい。」と、いいました。これでおもおもしい空気が、あかるくなりました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-73854-73972" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-73878-73968"><seg source="#source-73878-73908">第五　おとなりどうし</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p>「まあ、ジョウ、なにをなさるの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-74025-74255">ある雪のふる午後、妹のジョウがごむ靴をはき、古ばけた上衣に、ずきんといういでたちで、ほうきとシャベルをもって広間へ出て来たのを見て、そうたずねました。</seg></p>
        <p>「運動にいくの。」</p>
        <p>「今朝、二度も散歩して来たんだもの、たくさんだわ。家にいて火にあたりなさいよ。」</p>
        <p>「いやなこった。ねこじゃあるまいし、火のそばでいねむりなんかするの大きらい。あたし冒険がすき、これからなにかさがしにいくの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-74597-75136">メグは炉に足を出して本を読み、ジョウは通路の雪をどけはじめました。ところで、マーチの邸はローレンスの邸と、生垣でへだてられていました。いずれも、森や芝生の多い、いなかめいた気分のなかにつつまれていましたが、ローレンスの邸では、大きな馬車をいれる納屋や、温室や、りっぱな石づくりの家があるのに、マーチの邸には、赤茶けたふるびた家が見すぼらしくあるだけでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-75136-75355">けれど、ローレンスのりっぱな家はなんとなくさびしく、ここにおじいさんと、ただ二人で住むぼっちゃんに友だちもありませんでした。ジョウは考えました。</seg><app type="base-text-variant" source="#source-75358-75397"><lem><seg source="#source-75355-75358">「</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>かわいそうに、少年の心のわからないおじいさんから、お部屋にとじこめられているんだわ。ローリイには、にぎやかな、わかわかしい遊び相手がいるんだわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-75618-76058">ジョウはなんとかして、ぼっちゃんを誘い出そうと、冒険をもくろんでいると、ローレンス老人が馬車で出かけました。すてき、すてき、ぼっちゃん一人ならと、生垣のところまで道をつけていくと下の窓にはカーテンがおりていて、召使の姿も見えませんが、上の窓には、やせた手と、ちぢれた髪の黒い頭が見えました。</seg></p>
        <p>「かわいそうに、病気でねているんだわ。こんなさびしい日に。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-76150-76320">ジョウは、一かたまりの雪を窓を目がけてなげました。黒い頭がすぐにふりむき、大きな目がいきいきとかがやきました。</seg></p>
        <p>「いかが、御病気なの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-76358-76432">ローリイは、窓を開けてしゃがれ声で答えました。</seg></p>
        <p>「ありがとう。いくらかいいんです。ひどいかぜをひいて、一週間ねちゃいました。」</p>
        <p>「まあ、お気のどく、なにして遊んでいらっしゃるの？」</p>
        <p>「なにもしてません。家はお墓みたい。」</p>
        <p>「本は読まないの？」</p>
        <p>「あんまり読みません。読ませてくれないんですもの。」</p>
        <p>「だれにも読んでいただけないの？」</p>
        <p>「おじいさんに、ときどき。でもぼくの本はおじいさんにおもしろくないし、ブルック先生に頼むのは、いつだっていやだし。」</p>
        <p>「じゃ、お見舞に来る人もいないの？」</p>
        <p>「いないんです。男の子はがやがやさわぐし、ぼくは頭がよわってるんです。」</p>
        <p>「女の子はいないの、本を読んだりなぐさめてくれる女の子は？　女の子は静かだし、看護婦ごっこすきよ。」</p>
        <p>「そんな女の子知りませんもの。」</p>
        <p>「あんた、あたしを知ってる？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-77446-77511">ジョウが笑うと、ローリイがさけびました。</seg></p>
        <p>「知ってる！　あんた来てくれる？」</p>
        <p>「ええ、あたしは、おとなしくも、やさしくもないけど、おかあさんがいいとおっしゃったらいくわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-77707-78096">ジョウは、ほうきをかついで家へ帰りました。そのあいだに、ローリイはお客を迎えるために、髪にブラシをかけ、あたらしいカラをつけ、五六人の召使たちに部屋をかたづけさせました。やがて、ジョウが玄関にたちベルをおしました。ローリイは、こころよくジョウを迎えました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-78096-78272">ジョウは、親切のあふれた顔をして、片手にはおおいをした皿をもち、片手にはベスの三匹の子ねこをだいてあらわれました。</seg></p>
        <p>「おじゃまにあがりました。荷物までしょって、おかあさんがよろしくって。メグはお手製の白ジェリイをお見舞ですって。おいしいんですよ。それから、ベスはねこをおなぐさみにつれていくようにって。お笑いになるでしょうが、ことわりきれなくて。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-78622-78900">ローリイは、ねこを見て笑い、はにかみを忘れ、すぐにうちとけました。ジョウが、皿のおおいをとると、緑の葉のわと、エミイの秘蔵のジェラニュームの赤い花をそえた白ジェリイがあらわれました。</seg></p>
        <p>「ああ、きれいだ、食べるのがおしい。」</p>
        <p>「たいしたものではないの。ただ、みんながお目にかけたかっただけ。でも、あっさりしてるからめしあがれてよ。それにやわらかいから、のどが痛くても、するっとはいってしまうわ。それはそうとこの部屋なんて気持がいいんでしょう。」</p>
        <p>「女中が女中なので、片づいていなくて。」</p>
        <p>「じゃ、あたし二分間で片づけてあげるわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-79415-79567">ジョウは、てきぱきとはたらきました。部屋の感じが一変したので、ローリイは満足してお礼をいいました。</seg></p>
        <p>「さあ、今度はぼくがお客さまをよろこばせなくちゃ。」</p>
        <p>「いいえ、あたしはあなたをなぐさめに来たのよ。なにか本を読んであげましょうか？」</p>
        <p>「ありがとう、でもそこにある本、みんな読んでしまったんです。だから、あなたさえよかったら、お話のほうがいいんだけど。」</p>
        <p>「いいですとも、一日だって話すわ。ベスはあたしがおしゃべりをはじめたら、いつやめるかわからないなんていうのよ。」</p>
        <p>「ベスさんというのは、ときどき小さなバスケットをもって出ていく、あかい顔の。」</p>
        <p>「ええ、いい子ですわ。」</p>
        <p>「すると、あの美しいかたがメグさんで、まき毛のかたがエミさんですね？」</p>
        <p>「どうしてごぞんじ、そんなによく。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-80438-80497">ローリイは、さっと顔をあかめました。</seg></p>
        <p>「だって、ここにいると。たのしそうなみなさんがよく見えるんですもの、夜、カーテンを閉め忘れた窓ごしに、おかあさんをかこんで、いらっしゃるところも見えます。おかあさんのお顔は、やさしく花のようです。ああ、だけど、ぼくには母はいない。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-80847-81167">母の愛にうえた少年の目は、ジョウのあたたかい胸をうごかしました。すなおなジョウは、じぶんが、いかにゆたかな家庭の愛に恵まれているかを感じたので、よろこんでそれを病気のさびしいかれに、分けあたえたいと思いました。</seg></p>
        <p>「では、カーテンをおろさずにお好きなだけ見せてあげます。いいえ、それより家へいらっしゃい。おかあさんはいい人よ、ごちそうたくさんして下さるわ。ベスは歌をうたい。エミイはダンスをする。メグとあたしはおかしなお芝居の道具を見せて笑わしてあげるわ。そうして、みんなでおもしろく遊ぶのよ。でも、おじいさん来させて下さる？」</p>
        <p>「あなたのおかあさんが頼んで下さればね。おじいさんは親切で、ぼくのすきなことをさせてくれます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-81786-82415">ローリイは、マーチ家の人たちのことについてたくさんの興味をもち、ジョウの口から姉妹たちのことを聞いてうれしそうでした。ことに、ジョウが、せっかちの、気むずかしいおばさんの世話をしにいく話をおもしろがって、そのおばさんのところへ気どった老紳士が結婚申込に来たとき、むく犬がその紳士のかつらをひっぱって、はげ頭がむき出しになった話では、ころげまわって、涙が出るほど笑ったので、女中がおどろいて、のぞきに来たくらいでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-82415-82852">ジョウは、話が成功したのでとくいになって、家のお芝居のこと、いろんな計画のこと、おとうさんのこと、その希望や心配、家のなかの一ばんおもしろいことなど、のこらず話しました。それから本の話になりましたが、ジョウはローリイがやはり本ずきで、じぶんよりもたくさん読んでいるのをうれしく思いました。</seg></p>
        <p>「そんなに本が<app type="base-text-variant" source="#source-82885-82945"><lem><seg source="#source-82873-82885">すきなら</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-82927-82939">すきなち</seg></rdg></app>、おじいさんの文庫へいきましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-83001-83288">文庫は、ジョウをよろこばせました。ずらりとならんだ本のほかに、絵や彫刻や古い品物のはいったたんすがあり、ゆったりしたイスがそなえてありました。ジョウは、そのビロウド張りのイスに腰をかけて、</seg></p>
        <p>「まあ、りっぱだ！　あなたは、一ばんこの世でしあわせなぼっちゃんですよ！」と、いいましたがそのときベルが鳴りました。あ、おじいさんだと、はっと、しましたが、まもなく女中が来て、お医者さんが来たといい、ローリイは診察してもらいに出ていきました。ジョウは、ほっとして、文庫のなかを見物しましたが、老紳士のりっぱな肖像画の前に足をとめてながめました。そのとき、扉が開いたけれど、ジョウはふり返ってもみずに、</p>
        <p>「この人、親切そうな目をしていらっしゃるから、あたしもうこわくないわ。でも口もとはきつそうだし、とても意地っぱりみたいね。うちのおじいさんほど、きれいではないけど、あたし好きだわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-84165-84215">すると、うしろで声がしました。</seg></p>
        <p>「どうも、ありがとう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-84253-84633">ふりかえると、ローレンス老人が立っていたので、ジョウはちぢみあがりました。顔はあかくなり動悸がうちます。逃げ出すのに卑怯だし、ふみとどまることにしたものの、ほんものの老人の目は、肖像画の目よりも、もっとやさしかったので、そんなにこわくなくなりました。</seg></p>
        <p>「そうすると、あなたは、わたしがこわくないのかね？」</p>
        <p>「そんなに。」</p>
        <p>「あなたのおじいさんほど、きれいではないというのだね？」</p>
        <p>「ええ、きれいではありませんわ。」</p>
        <p>「わしは、意地っぱりかね？」</p>
        <p>「そう思います。」</p>
        <p>「それだのに、わしが好きだって？」</p>
        <p>「ええ、好きです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-85033-85161">この答えが老人をよろこばせました。老人はジョウの手をにぎり、その顔をのぞきこんで、</seg></p>
        <p>「顔はにていなくても、あなたは、りっぱなおじいさんの性質をうけついでいる。おじいさんは勇気があり正直だった。わたしは、あのかたと、友だちであったことを誇りに思っていますわい。」</p>
        <p>「ありがとうございます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-85468-85521">ジョウは、気がらくになりました。</seg></p>
        <p>「あなたは、家の子と、なにをしていなさったのかね？　ええ？」</p>
        <p>「近所づきあいをしようとしただけです。」</p>
        <p>「あなたは、あの子を元気づける必要があるとお考えかね？」</p>
        <p>「ええ、すこしさびしそうですもの。わかいお友だちがあるといいでしょう。わたしたち、女ですけど、お役にたちたいと思います。あなたのとどけて下さったりっぱなクリスマスのプレゼントを、とてもありがたく思っていますのよ。」</p>
        <p>「いや、あれはあの子の考えたことじゃ。ところで、あの気のどくな婦人はどうしたな？」</p>
        <p>「らくに暮していますわ。」</p>
        <p>「そうか、おかあさんのやり口は、いつも貧乏な人たちを恵んだおじいさんのやり口とおなじだ。いつか天気のいい日に、おかあさんをお訪ねしたいといっておいて下され。ほら、お茶のベルだ。さあいっしょにお茶をのんで、近所づきあいをしてもらおう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-86603-86929">ローレンス老人は、礼儀正しくジョウにうでをさし出し、二人はうでをくんで階段をおりていきました。すると、そこへローリイが帰って来て、そのありさまを見てびっくりしました。まったく、これは考えることもできないことでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-86929-87192">老人は、四はいのお茶をのむ間、あまりしゃべりませんでした。老人は、ローリイがジョウと快活にしゃべって、顔が今日にかぎって、あかくいきいきしているのを見まもっていたからです。</seg></p>
        <p>「ふむ、この娘のいうとおり、孫はさびしいのだ。今日、孫はかわった。よし、この家の娘たちが、孫をどうするか見ていよう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-87371-87742">老人も、ほんとは気さくで、こだわりがない人だったのです。だから、孫のことも理解することができました。お茶がすむと、ジョウは帰るといい出しましたが、ローリイはひきとめて、ジョウを温室へつれていき、りょう手にもてないほど、美しい花をたくさん切って、</seg></p>
        <p>「これ、おかあさんにあげて下さい。そして、おとどけ下すったお薬、とても気にいりましたとおっしゃって下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-87906-88076">客間へ帰ったとき、老人は炉の前に立っていました。ジョウの目は、そこにあるグランド・ピアノにすいつけられました。</seg></p>
        <p>「あなた、ひくの？」</p>
        <p>「ときどき」と、ローリイは、ひかえ目に答えました。</p>
        <p>「今、ひいてちょうだい。帰ったらベスに話してやりたいから、聞いていきたいの。」</p>
        <p>「あなた、さきにひかない？」</p>
        <p>「あたしだめなの。音楽はすきだけれど。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-88410-88730">ローリイがひきました。ジョウは花たばに鼻をおしつけながら、耳をすましました、ローリイが、じょうずなのに、ちっとも気どらないので尊敬をよせました。ひきおわってから、あまりほめたのでローリイはまっかな顔をしました。</seg></p>
        <p>「いや、ほめるのはもうたくさん。この子の音楽はまずくはないが、もっとほかのだいじなことに、身をいれてもらいたいのじゃ。ああ、もうお帰りか。ありがとう、またお出で、おかあさんによろしく。では、さよなら、お医者のジョウさん。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-89065-89337">老人の握手はかたかったが、なにか気にいらないようすでした。あとで、ローリイにたずねたら、ぼくがピアノをひいたからだといいました。なぜというと、いつか話すといいました。ローリイは、</seg></p>
        <p>「また、来てね。」と、名残りおしそうでした。</p>
        <p>「あなたが、よくなったら、家へ来るという約束をすれば。」</p>
        <p>「ええ、いきます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-89523-89897">ジョウが帰って来て、のこらず報告すると、みんなもおしかけたくなりました。マーチ夫人は、おとうさんのことを忘れないでいる老人と話したかったし、メグは温室が歩きたかったし、ベスはグランド・ピアノに心ひかれ、エミイはりっぱな絵や彫刻が見たかったのです。</seg></p>
        <p>「おかあさん。ローレンスさんは、なぜローリイさんがピアノをひくのをきらうのでしょう？」と、せんさく癖をジョウが出しました。</p>
        <p>「よく知らないけど、ローリイさんのおとうさんが、イタリアの女の音楽家と結婚なさったのをきらうからでしょう。ローリイさんがまだ小さいとき、両親がなくなったので、おじいさんがひきとったわけですが、おかあさんのような音楽家になりたいなどという、望みを起されたら、こまるからでしょう。」</p>
        <p>「まあ、小説みたいね。」と、メグ。すると、すぐに、ジョウが</p>
        <p>「まあ、いやだ。音楽家になりたければならせて、いやな大学にいかせて、苦しめなくてもいいのに。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-90733-90852">ひとしきり、ローリイのことで話ははずみました。話のすえに、メグがいいました。</seg></p>
        <p>「夜会であったけど、たしかにあなたの話のとおり、ローリイは、お作法を知ってるわ。おかあさんがあげた薬って、ちょっと、気のきいたいいまわしね。」</p>
        <p>「白ジェリイのことでしょう？」</p>
        <p>「まあ、なんておばかさんでしょう！　あなたのことを、おっしゃったのよ。」</p>
        <p>「そうなの。」と、ジョウは、思いがけないというようすで目をまるくしました。</p>
        <p>「あんたみたいな人ってあるかしら？　お世辞をいわれてわからないんですもの。」</p>
        <p>「そんなばかなこといいっこなしよ。お世辞をいうなんて考えずに、かあさんのないぼっちゃんをみんなで親切にしてあげましょう。ローリイ、遊びに来てもいいでしょう、おかあさん？」</p>
        <p>「ええ、ええ、けっこうです。それから、メグさん、子供はできるだけ、いつでも子供でいるほうがいいのよ。」</p>
        <p>「あたし、じぶんを子供だなんていわないねまだ十三にもなっていないんですもの。」と、エミイがつぶやきました。</p>
        <p>「ベス、あなたはどう？」</p>
        <p>「あたし、あの巡礼ごっこのこと考えていたの。おとなしくなろうとして、失望の沼をとおり、試練の門をぬけて、けわしい山をのぼっていくことだの、あのりっぱなもののたくさんあるローレンスさんの家が、あたしたちの美しい宮殿になるかもしれないってことだの、考えていたの。」</p>
        <p>「あたしたちは、まあライオンのところまで来ることができたんです。」と、ジョウは、ベスの言葉にいくらか賛成らしく答えました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-92643-92749" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-92667-92745"><seg source="#source-92667-92691">第六　美しい宮殿</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-92749-93502">大きな家は、とうとう美しい宮殿になりました。けれど、みんながそこへいくのに、かなりの時間がかかり、ことにベスがライオンのそばをとおりぬけるのに、かなり骨がおれました。そして、ローレンス老人は、一ばん大きなライオンでしたが、訪ねて来て、娘の一人一人に、おどけ言葉や親切な言葉をかけ、おかあさんとむかし話をしてからは、もうだれも老人をこわがりませんでした。もう一つのライオンは、こちらが貧乏で、むこうが金持ということで、それもそのうちに、ローリイが、貧乏でも、愛のこもった家から受けるなぐさめを、どんなに</seg><app type="base-text-variant" source="#source-93523-93601"><lem><seg source="#source-93502-93523">ありがたがって</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-93574-93595">なりがたがって</seg></rdg></app><seg source="#source-93601-93873">いるかがわかったので、じぶんたちがローレンスの家から受けるものを、べつに恐縮しないでもいいと思うようになりました。そして、そこに春の草のめばえのように、あたらしい友情がもえました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-93873-94187">ローリイは、今までおかあさんの味も、姉妹の味も知らなかったので、マーチ家にみなぎるゆたかな、あたたかなものに心をひかれ、ひまさえあると、遊びに来ました。それを心配してブルック先生は老人へくわしく告げました。</seg></p>
        <p>「いや、かまわん。遊ばせて<app type="base-text-variant" source="#source-94235-94289"><lem><seg source="#source-94226-94235">おくさ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-94274-94283">おくき</seg></rdg></app>。あとでとりかえせばいい。マーチ夫人の意見のとおり、あまり勉強させすぎたのがいけなかったのだ。マーチ夫人がよくやってくれる」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-94477-94612">老人は、もうわかっていました。そして、みんなはどんなにおもしろく遊んだでしょう！　お芝居</seg><app type="base-text-variant" source="#source-94615-94654"><lem><seg source="#source-94612-94615">、</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app><seg source="#source-94654-94939">そり遊び、氷すべり、にぎやかな夜会、たのしい談話。マーチ家からも三人の姉妹がおしかけ、メグは温室で花たばをつくり、ジョウは文庫で本をむさぼり読み、エミイは絵をうつしました。ただ、ベスだけは、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-94963-95047"><lem><seg source="#source-94939-94963">グランド・ピアノ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-95017-95041">グランド、ピアノ</seg></rdg></app><seg source="#source-95047-95232">にあこがれながら、老人をこわがって、逃げて帰りました。老人は、そのことを知って、わざわざ訪ねて来ておかあさんにいいました。</seg></p>
        <p>「ローリイは、ピアノを怠けています。やりすぎたから、いいあんばいなのですが、ピアノは使わんといかん。<app type="base-text-variant" source="#source-95394-95454"><lem><seg source="#source-95382-95394">どなたか</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-95436-95448">どなかた</seg></rdg></app>来て使ってもらえんかな、いつはいって来てもいいし、口をきかんでもいい。だまって来て、だまってひけばいいんだが。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-95624-95689">聞いていたベスは、もうたまらなくなって、</seg></p>
        <p>「あたしベスです。音楽が好きです。おじゃまでなければ、まいりたいのですが」</p>
        <p>「どうぞ。どうぞ。半日だれもいないんだから、えんりょなく、ピアノを使ってもらえれば、こちらからお礼をいわねばならん。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-95981-96202">ああ、ベスは顔をほてらし、ローレンスさんの手をにぎり、お礼の言葉がいえないので、ただきつくにぎりしめました。老人は、そっとベスの髪に口をあてて、</seg></p>
        <p>「わしには、こういう娘があった。ああ、かわいい子じゃ、さよなら、おくさん。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-96318-97526">老人が大いそぎで帰っていくと、ベスはおかあさんといっしょによろこび、そのうれしいニュースを仲よしの人形たちに告げに二階へかけあがっていきました。その晩、ベスは今までにない、たのしさでうたいました。あくる日、老人とローリイが出かけたのを見とどけたベスは、こっそりと、客間へしのびこみ、ふるえるゆびでピアノをひきました。おお、その美しい音、ベスはうっとりとなり、よろこびはてしなく、やすまずにひきつづけ、ハンナが食事のむかえに来るまで手をやめませんでした。その後、ベスはまい日のように生垣をくぐり、客間にしのびこんでひきました。ベスは、老人がそのしらべを聞くために、じぶんの部屋の扉を開けることも、新らしい音譜をそなえておいてくれることも、ローリイが広間にいて女中たちの来るのをおっぱらってくれることも知りませんでした。ただ、ベスは、じぶんの望みのかなったことを感謝して、まことにたのしかったのであります。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-97526-97618">二三週間たちました。ある日、ベスはおかあさんにいいました。</seg></p>
        <p>「おかあさん、あたしローレンスのおじいさんに、スリッパを一つ、つくってあげたいの。あたしお礼をしたいんだけど、ほかにどうしていいかわからないんです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-97845-97895">おかあさんは、にっこり笑って、</seg></p>
        <p>「ええ、ええ。つくっておあげなさい。きっとおよろこびになるでしょう。みんなも手伝ってくれるでしょうし、かかるお金は、おかあさんが出してあげますよ。」と、いいましたが、おかあさんは、ベスがめったにおねだりをすることがないので、今、ベスの望みをかなえてやるのを、とくべつうれしく思いました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-98326-99003">ベスは、メグやジョウと相談して、型をえらび、材料をととのえて、スリッパをつくりはじめました。紫紺の布地に、しなやかな三色すみれの花をおいたのが、たいそうかわいいと、みんながいいました。ベスは、手が器用でしたし、ほとんど朝から晩までかかりきりでしたから、まもなくできあがりました。それから、ベスはごくみじかい手紙を書き、ローリイに頼んで、ある朝、老人がまだ起きないうちに、こっそり書斎のテーブルの上に、スリッパといっしょに、のせておいてもらいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-99003-99432">ベスは、心待ちに、待ちましたが、その日も、つぎの日の朝も、なんの返事もありません。きっと老人をおこらせたのだと、ベスは心配しはじめました。けれど、その日の午後、ベスがちょっとお使いに出た帰りに、思いがけないことが起りました。ベスが家のちかくまで来たとき、四つの頭が客間の窓から、見え、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-99444-99504"><lem><seg source="#source-99432-99444">たくさん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-99486-99498">たんさん</seg></rdg></app><seg source="#source-99504-99584">の手がふられ、いっせいにさけぶ声が耳をうったのです。</seg></p>
        <p>「ローレンスさんから御返事よ！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-99634-99885">ベスは胸をとどろかせながら、いそいで帰って来ました。すると、姉妹たちは扉口のところに待っていて、ベスをつかまえ、わいわいいいながらかついで、客間へつれていきました。</seg></p>
        <p>「ほれ、あれよ！」と、みんなが、ゆびさすほうを見たとき、ベスはうれしいのと、おどろいたのとで、まっさおな顔色になりました。ああ、そこには、小さなキャビネット・ピアノがおいてあって、ぴかぴかしたふたの上に「エリザベス・マーチさん」にあてた手紙がのっていました。</p>
        <p>「あたしに？」と、ベスはジョウにつかまり、たおれそうな気がしながら、あえぐようにいいました。ジョウは、手紙をわたしながら、</p>
        <p>「そう、あんたによ、いい方ね、世の中で一ばんいいおじいさんね、かぎも手紙のなかにあるわ。」といいました。</p>
        <p>「読んでちょうだい、わたし読めないわ。へんな気がして、ああ、とてもすてき！」と、ベスはそのおくりものに、すっかりどぎもをぬかれてしまって、ジョウのエプロンに顔をかくしました。ジョウは、手紙を開きましたが、最初の言葉を見て笑い出しました。そこには、</p>
        <p>「マーチさん、親愛なるおくさん」と、書いてあったからです。</p>
        <p>「まあいいこと！　あたしにも、だれかがそんなふうに書いて手紙くれるといいわ。」と、エミイがいいました。エミイは、こういうむかし風の書き出しは、たいそう上品のように思われました。</p>
        <p>「小生これまでに、かず多くスリッパを使用いたし候が、あなたよりおくられしスリッパのごとく、小生に似合うものこれなく、三色すみれ、すなわち心を安める花は、小生の愛する花にて、やさしきおくり主を常に思い起させてくれるものと存じ候。よって小生は小生の負債をはらいたく、なにとぞこの老紳士の小さき孫のものたりし、あるものを、あなたにおくることをお許し願い上げ候。心よりの感謝と祝福をこめて、あなたのよろこんでいる友だちでもあり、いやしき召使の、ジェームス・ローレンス。」</p>
        <p>「ねえ、ベス、あなた、じまんしてもいいわ！　ローリイが話しだけど、<app type="base-text-variant" source="#source-102152-102221"><lem><seg source="#source-102137-102152">おじいさん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-102197-102215">おじいささん</seg></rdg></app>は、亡くなったお孫さんがすきで、そのお孫さんのものはちゃんとしまっておおきになるんですって。そのピアノを、あなたに下すったのよ。大きな青い目をして、音楽が好きなためよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-102478-102666">ジョウは、そういって、今までに見たことがないほど、たかぶって、ふるえているベスを、おちつけようとしました。すると、メグも、</seg></p>
        <p>「ごらんなさい。このローソク立て、まんなかに金のばらのあるみどり色の絹のおおい、きれいな楽譜かけに、腰かけと、みんなそろってるわ。」と、楽器を開けて、そのきれいなものを見せながらいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-102953-102973">そのとき、</seg></p>
        <p>「さあ、ひいてごらんなさいまし、かわいいピアノの音を聞かして下さい。」と、家族のよろこびにもかなしみにも、いつでも仲間入りする女中のハンナがいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-103203-103499">そこで、ベスがひきました。みんなは口をそろえて、こんないい音は聞いたことがないといいました。それは、あたらしく調律されて、調子がととのっていました。ああ、なんというすばらしい音色だったでしょう。</seg></p>
        <p>「おじいさんとこへいって、お礼をいわなくちゃいけないわ。」と、ジョウが、じょうだんのつもりでいいました。むろん、はにかみ屋のベスが、ほんとにいく<app type="base-text-variant" source="#source-103721-103769"><lem><seg source="#source-103715-103721">とは</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-103757-103763">とほ</seg></rdg></app><seg source="#source-103769-103819">思わなかったからですが、ベスは、</seg></p>
        <p>「ええ、いくわ、今すぐ」と、いって、庭におり、生垣をくぐり、ローレンス邸の扉を開けてはいっていきました。これには、みんなは、あきれてしまいましたが、ベスがそれからどうしたかを知れば、もっとおどろいたにちがいありません。というのは、ベスは書斎の扉をたたき、おはいりという声を聞くと、はいっていき、おどろくローレンスさんのそばへ立ち、手をさし出しながら、</p>
        <p>「あたし、お礼を申しに来ました。」と、いいましたが、やさしい老人の目につきあたって、もうあとの言葉が出なくなり、いきなり、老人の首にだきついて、じぶんの唇をあてました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-104600-105146">老人は、たとい、屋根がふいにふきとばされても、もっとおどろきはしないでしょう。老人は、すっかりおどろきましたが、それがうれしく、そのかわいい唇づけで、いつものふきげんは消えうせてしまいました。老人は、ベスをじぶんのひざの上にのせて、そのしわだらけのほおを、ベスのばら色のほおにすりよせ、まるでじぶんのかわいい孫娘が、生きかえって来たような気持になりました。ベスは</seg><app type="base-text-variant" source="#source-105149-105191"><lem><seg source="#source-105146-105149">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-105182-105185">。</seg></rdg></app><seg source="#source-105191-105739">そのときから、もう老人をこわがらなくなりました。そして、まるで生れたときから、ずっと知っている人に話すように、やすらかな気持で話しました。なぜなら、愛はおそれをおいのけ、感謝は誇りをおしつぶすからです、ベスが家へ帰るとき、老人は門まで送り、あたたかい握手をしてくれました。そして、いかにもりっぱな軍人らしく帽子に手をかけて、敬礼をし、堂々とひきかえしていきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-105739-106077">姉妹たちは、そのありさまを見て、おどろくとともに、うれしくてたまりません。ジョウは、じぶんの満足をあらわすために、おどりあがってダンスをはじめ、エミイはびっくりして、窓からころげおちそうになり、メグは手をあげて叫びました。</seg></p>
        <p>「まあ、この世の中は、とうとうおしまいが来たようね！」</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-106162-106280" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-106186-106276"><seg source="#source-106186-106216">第七　はずかしめの谷</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-106280-106420">ある日、ローリイが馬にのって、家の前をむちをふって通りすぎるのを見て、エミイがいいました。</seg></p>
        <p>「ローリイさんが、あの馬につかうお金のうち、ほんのすこしでもほしいわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-106530-106592">メグが、なぜお金がいるのか尋ねますと、</seg></p>
        <p>「だって、わたしたくさんお金がいるの、借りがあるんですもの、お小遣は、あと一月もしないともらえないし。」</p>
        <p>「借りがあるって？　なんのこと？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-106803-106856">メグは、まじめな顔になりました。</seg></p>
        <p>「塩漬のライム、すくなくっても、一ダースは借りがあるの。それに、おかあさんは、お店から<hi rend="bouten 傍点 right" source="#source-106985-107021"><seg source="#source-106985-106991">つけ</seg></hi>でもって来るのいけないとおっしゃるし。」</p>
        <p>「すっかり話してごらんなさいよ。」</p>
        <p>「今ライムがはやっているの？」</p>
        <p>「ええ、みんなライム買うわ。メグさんだって、けちだと思われたくなかったら、きっと買うわ。そして、みんな教室で机のなかにかくしておいてしゃぶるの。お休み時間には、鉛筆だの、ガラス玉だの<app type="base-text-variant" source="#source-107459-107501"><lem><seg source="#source-107456-107459">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-107492-107495">。</seg></rdg></app>紙人形やなにかと、とりかえっこするの。また、好きな子にはあげるし、きらいな人の前では見せびらかして食べるの。みんなかわりばんこにごちそうするの、あたしも、たびたびごちそうになったわ。それをまだお返ししてないの、どうしてもお返ししなければねえ、だってお返ししなければ顔がつぶれてしまうわ。」</p>
        <p>「お返しするのに、どのくらいいるの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-107994-108059">メグは、財布をとり出しながら尋ねました。</seg></p>
        <p>「二十五銭でたりますわ。あまったぶんで、おねえさんにも、ごちそうできますわ、ライムお好き？」</p>
        <p>「あまり好きじゃないわ。あたしのぶんもあげます。では、お金、できるだけ長く使うのよ、ねえさんだって、もうそんなにないんですから。」</p>
        <p>「ありがとう。お小遣のあるの、いい気持ねえ、みんなにごちそうしてあげるわ、わたしこの週は、まだ一度もライム食べないわ。ほんとは食べたいけど、お返しできないのに、一つでもいただくの気がひけるわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-108689-108734">つぎの日、エミイはいつもより</seg><app type="base-text-variant" source="#source-108743-108794"><lem><seg source="#source-108734-108743">すこし</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-108782-108788">すこ</seg></rdg></app><seg source="#source-108794-110026">おそく学校へ行きました。けれど、しめった、とび色の紙づつみを机のおくにしまう前に、みんなに見せびらかしてしまいました。すると、それから五分とたたぬうちに、エミイが二十四のおいしいライム（エミイはその一つを学校へ来る途中で食べました。）をもっていて、それを大ぶるまいするといううわさが、たちまち仲間につたわり、お友だちの、エミイへのおせじは、ものすごいものとなりました。ケティはつぎの宴会によぶといいましたし、キングスレイは、つぎのお休み時間まで、時計を貸してあげるといいましたし、ライムをもっていないといって、エミイをあざけったことのあるスノーという、いじわるの子もたちまち好意をよせて、エミイの得意でない算数を教えてやるといいました。けれど、エミイは、スノーのいったわる口を忘れてはいけませんでした。それで、きゅうにそんな親切はむだよ、あなたにあげないという、電報を発して、スノーの希望をぺしゃんこにしてしまいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-110026-110523">ところが、ちょうどその日、ある名士が学校へ参観に来ました。そして、エミイのかいた地図がおほめにあずかりました。その名誉にエミイは得意になり、スノーははげしい苦しみを味わいました。そこで、名士が教室から出ていくと、重要な質問でもするようなふうをして、デビス先生のそばへいき、エミイがライムを机のなかにかくしていることを告げました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-110523-111068">デビス先生は、きびしい先生で、チュウインガムのはやったときも、とうとうやめさせてしまいましたし、小説や新聞をもって来ると、とりあげてしまいました。生徒が手紙をやりとりすることもよさせました。ですから、ライムがはやりだすと、ライムをもって来てはいけない、もしもって来た者を見つけたらむちでうつと、おごそかにいわたしたのです。それは、つい一週間ほど前のことでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-111068-111289">それに、この日、先生はたしかにきげんがわるかったのです。それで、スノーの告げたライムという言葉は、まるで火薬に火をもっていったようなものでした。</seg></p>
        <p>「みなさん、しずかに！　エミイ・マーチ、机のなかのライムをもってここへ来なさい！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-111414-111473">となりにいた生徒が、ささやきました。</seg></p>
        <p>「みんなもっていくことないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-111523-111759">そこで、エミイはす早く半ダースほどを、つつみからふり落して、先生のところへもっていきました。先生は、このライムのにおいが大きらいでしたから、顔をしかめて、</seg></p>
        <p>「これで、みんなですか？」</p>
        <p>「いいえ。」と、エミイは口ごもりました。</p>
        <p>「のこりをもって来なさい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-111906-111992">エミイは、じぶんの席へ帰り、いわれたとおりにしました。</seg></p>
        <p>「たしかに、もうのこっていませんか？」</p>
        <p>「うそ、いいません。」</p>
        <p>「よろしい、それでは、このきたならしいものを、二つずつもっていって、窓からすててしまいなさい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-112232-112696">このはずかしめに、顔をあかくして、エミイは六度も窓へ往復しました。ライムがすてられると、窓の下の往来から子供たちのよろこびの声が起りました。みんなは、その声を聞いて、ライムをおしみ、無情な先生をにくみました。エミイが、すっかりライムをすててしまうと、えへんと、せきばらいをして、きびしい顔つきでいいました。</seg></p>
        <p>「みなさんは、一週間ほど<app type="base-text-variant" source="#source-112738-112786"><lem><seg source="#source-112732-112738">前に</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-112774-112780">前た</seg></rdg></app>、わたしがいい聞かせたことをおぼえているはずです。ところがこうしたことが起って、まことにざんねんです。わたしはじぶんのつくった規則をまもります。さ、マーチ、手を出しなさい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-113049-113373">エミイは、びっくりして、りょう手をうしろへまわし、かなしそうな、許しを乞うような目をしました。エミイは、先生のお気にいっていた生徒の一人でしたし、その嘆願の目つきは言葉よりもつよく、先生の心を動かしたようでしたが、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-113385-113448"><lem><seg source="#source-113373-113385">だれかが</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-113427-113442">だれかがだ</seg></rdg></app><seg source="#source-113448-113466">、ちぇっ！　</seg><note type="base-edition" source="#source-113466-113502">空白は底本では欠落</note><seg source="#source-113502-113645">と、舌うちする音がしたので、かんしゃくもちの先生は、エミイを許すことなんか、考えようともせず、</seg></p>
        <p>「手を出して、さあ！」と、<app type="base-text-variant" source="#source-113690-113738"><lem><seg source="#source-113684-113690">宣告</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-113726-113732">宜告</seg></rdg></app><seg source="#source-113738-113770">をしてしまいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-113770-114207">エミイは、自尊心のつよい子でしたから、泣いたりあやまったりするようなことはなく、頭をもたげひるむことなく、その手がはげしく五六度うたれるままに、まかしていました。けれど、人からうたれるのは、これがはじめてで、そのはずかしめは、エミイにとっては、先生からなぐりたおされたほどにも感じました。</seg></p>
        <p>「休み時間まで教壇の上に立っていなさい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-114272-114355">デビス先生は、どこまでも、ばつを加えるつもりでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-114355-114723">これもエミイにとって、たまらないはずかしめでした。けれど、それをやらなければなりません。エミイは、その場にたおれそうになる足をふみしめて、その不名誉の場所に立ち、まっさおな顔をして立ちつづけました。一時間ほどにも思われる十五分がすぎ、先生が、</seg></p>
        <p>「休め、もうよろしい、エミイ」と、いったときには、もううたれた手の痛みを忘れ、うれしくてたまりませんでした。エミイは、だれにも口をきかず、ひかえ室へいき、じぶんのものをひっつかんで二度と来るものかと、怒りの言葉をもらして、立ち去りました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-115082-115297">エミイが、家へ帰ったとき、すっかりしょ気ていました。やがて、ねえさんたちが帰ってきました。ねえさんたちは話を聞いてすっかりふんがいしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-115297-115947">メグは、エミイのはずかしめられた手を、リスリンと涙で洗ってやり、ジョウは、すぐにデビス先生をしばりあげろといいました。ベスは、じぶんのかわいいねこも、こんなときのエミイにはなぐさめにならないと、思いました。ハンナは、わる者めと、いって、げんこをふりあげ、夜の食事のじゃがいもが、わる者ででもあるように、すりこ木でつぶしました。ただ、おかあさんだけは、あまり口もきかず、心をいためていたようでしたが、エミイをやさしくなぐさめました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-115947-116399">エミイが逃げて帰ったことは、親しい友だちのほか、だれも気がつきませんでした。けれど、よく気のつく生徒たちは、デビス先生が、その日の午後からたいへんやさしくなり、それでいていつになくびくびくしているのに気がつきました。ちょうど授業のおわるころ、こわい顔をしたジョウが来て先生に母の手紙をわたしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><note type="base-edition" source="#source-116402-116438">空白は底本では欠落</note><seg source="#source-116438-116578">それから、のこっていたエミイのもちものを一まとめにまとめると、それをもって帰っていきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-116578-116631">その晩、おかあさんがいいました。</seg></p>
        <p>「エミイ、退学させました。むちでぶつことには賛成できません。デビス先生の教育方針にも感心できないし、友だちもためにならないようです。けれど、ほかの学校へかわることは、おとうさんにうかがってからでないとできません。だから、まい日、これからベスといっしょに勉強するんです。ただ、あなたがライムを机のなかにいれていたことは、同情できません。規則をやぶったのですから。」</p>
        <p>「ね、おかあさんは、あたしがあんなふうに、人の前ではじをかかされたのを、あたり前と思っていらっしゃるんですか？」</p>
        <p>「あやまちを改めさせるのに、おかあさんならば、あんなやり方をしません。ただ、あなたは、このごろ、すこし<app type="base-text-variant" source="#source-117511-117571"><lem><seg source="#source-117499-117511">うぬぼれ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-117553-117565">うぬばれ</seg></rdg></app>が強くなっていくようです。なおさなくてはいけません。あなたは、才能もありいい性質ももっているけど、それを見せびらかしてはだいなしです。へりくだるという気持、それがあなたをぐっと美しくするでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-117870-117983">そのとき、むこうで、ジョウと将棋をさしていたローリイが大声でいいました。</seg></p>
        <p>「そのとおり！　音楽のすばらしい才能をもっていながら、じぶんでは気づかずにいる、あるおじょうさんを、ぼくは知っていますが、その人は、ひとりでいるとき、どんなりっぱな音楽を作曲しているのか知らずにいるし、そのことを人からいわれても本気にしません。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-118354-118446">ローリイのそばに立っていたベスが、それを聞いていいました。</seg></p>
        <p>「そんなすてきな方とお友だちになりたいわ。きっと、あたしのためになる方よ、あたしなんて、とてもだめ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-118601-118654">ローリイは、いたずらっ子らしく、</seg></p>
        <p>「あなたは知っていますよ。その人は、ほかのだれよりも、あなたのためになっていますよ。」と、いったので、ベスは顔を<app type="base-text-variant" source="#source-118834-118891"><lem><seg source="#source-118822-118834">あからめ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-118876-118885">あかめ</seg></rdg></app><seg source="#source-118891-118959">、はずかしがってクッションに顔をうめました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-118959-119261">ジョウは、ベスをほめてもらったお返しに、ローリイに勝をゆずりました。ベスはほめられてからは、いくらすすめられても、ピアノをひこうとしませんでした。ローリイは、いいきげんで、たのしそうにうたいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-119261-119279">ローリイが</seg><app type="base-text-variant" source="#source-119288-119342"><lem><seg source="#source-119279-119288">帰って</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-119327-119336">帰てっ</seg></rdg></app><seg source="#source-119342-119377">いってから、エミイは、</seg></p>
        <p>「ローリイは、なんでもできる方なの？」と、いうと、おかあさんが、</p>
        <p>「教育もあり、天分もあるから、かわいがられて、増長しなければ、りっぱな方におなりでしょう。」と、答えました。</p>
        <p>「うぬぼれたりなさらないでしょう？」と、エミイが尋ねました。</p>
        <p>「ちっとも。だから人をひきつけるのよ。」</p>
        <p>「たしかに、気どらないのは、りっぱなことだわ。」と、エミイはしみじみいいました。</p>
        <p>「教養とか才能は、へりくだっていても、あらわれて来ます。見せびらかさなくてもいいわけです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-120055-120090">ジョウが、そのとき、</seg></p>
        <p>「あなたの帽子や服やリボンを、みんな一度に身につけて、人に見せびらかさなくてもいいわけね。」と、いったので、おかあさんのお説教は、にぎやかな笑い声のなかにおしまいとなりました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-120358-120470" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-120382-120466"><seg source="#source-120382-120409">第八　ジョウの原稿</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-120470-120646">エミイが、土曜日の午後、ねえさんたちの部屋へいくと、メグとジョウが外出の支度をしていましたが、ないしょらしいので、</seg></p>
        <p>「おねえさんたち、どこへいらっしゃるの？」と、尋ねました。すると、ジョウは</p>
        <p>「どこへだっていいじゃないの、<app type="base-text-variant" source="#source-120813-120867"><lem><seg source="#source-120804-120813">小さな</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-120852-120861">小さに</seg></rdg></app>子はそう聞きたがらないものよ。」と、つっけんどんにいいました。</p>
        <p>「わかったわ！　ローリイといっしょに、七つの城のお芝居を見にいらっしゃるのね。あたしもいくわ。おかあさんは、見てもいいとおっしゃったわ。あたしお小遣もあるし。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-121204-121251">メグは、なだめすかすように、</seg></p>
        <p>「まあ、あたしのいうことを<app type="base-text-variant" source="#source-121311-121389"><lem><seg source="#source-121290-121311">お聞きなさいよ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-121362-121383">お聞ぎなさいよ</seg></rdg></app>。おかあさんは、あなたの目がまだなおっていないから来週ベスやハンナといっしょに、いくといいって。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-121538-121591">エミイは、あわれっぽい顔をして、</seg></p>
        <p>「いやだあ、おねえやんやローリイといく、半分も<app type="base-text-variant" source="#source-121675-121744"><lem><seg source="#source-121660-121675">おもしろく</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-121720-121738">おおもしろく</seg></rdg></app>ないわ。ね、お願いだからいかせてよ。長いことかぜひいて家にばかりいたんですもの、ねえ、おとなしくしますから。」と、せがむのでした。</p>
        <p><seg source="#source-121941-121944">「</seg><app type="base-text-variant" source="#source-121959-122022"><lem><seg source="#source-121944-121959">いっしょに</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-122004-122016">いっしに</seg></rdg></app>つれていってはどう？　あつ着させていけば、おかあさんだって、なにもおっしゃらないでしょう。」と、とうとうメグが、しかたがないというようにいいました。</p>
        <p>「それなら、あたしいかないわ。二人だけ招待されたのに、つれていくのは失礼だわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-122368-122502">このジョウのいいかたや態度は、ますますエミイを怒らせました。靴をはきながら、エミイは、</seg></p>
        <p>「メグねえさんがいいっておっしゃった<app type="base-text-variant" source="#source-122562-122610"><lem><seg source="#source-122556-122562">から</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-122598-122604">かち</seg></rdg></app>、あたしいきます。じぶんで切符買うから、ローリイにめいわくかけません。」</p>
        <p>「あたしたちのは指定席よ。と、いって、あなた一人はなれていられないしさ、そうすると、ローリイがじぶんの席をゆずる<app type="base-text-variant" source="#source-122900-122960"><lem><seg source="#source-122888-122900">でしょう</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-122942-122954">ででよう</seg></rdg></app>。それじゃ、つまらない。もしかしたら、ローリイが切符もう一枚買うかもしれないけど、それじゃずうずうしいわ。だから、おとなしく待っていらっしゃい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-123181-123333">ジョウは、仕度にあわてて、針で指をさしたので、ますますふきげんになって、エミイをしかりつけました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-123333-123617">エミイは泣き出しました。メグがなだめていると、階下でローリイがよんだので、二人は、いそいでおりていきました。二人が出かけていくのを、エミイは窓から見おろして、おどかすようにさけびました。</seg></p>
        <p>「今に、後悔するわよ。ジョウさん、おぼえていらっしゃい！」</p>
        <p>「ばかな！」と、ジョウがやり返して、玄関の扉をぴしゃっと閉めました。</p>
        <p>「七つの城」のお芝居は、とてもよかったので、三人はたのしく見物しました。けれど、ジョウはときどき、きれいな王子や王女に見とれながらも<app type="base-text-variant" source="#source-124011-124053"><lem><seg source="#source-124008-124011">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-124044-124047">。</seg></rdg></app><seg source="#source-124053-124202">心にくらい影がさしました。妹が、後悔するわよといった言葉が、あやしく、耳にのこっていたからでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-124202-124588">ジョウとエミイは、前からよくはげしいけんかをしました。二人とも気がみじかく、かっとするとひどくめんどうなことになるのでした。けれど、二人とも長く怒ることはなく、けんかの後では、たがいによくなろうとするのですが、日がたつと、またくり返すことになるのでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-124588-125028">二人が家へ帰ったとき、エミイは知らん顔をして本を読んでいました。ジョウは、帽子を二階へしまいにいきましたが、この前けんかをしたとき、エミイがひき出しをひっくり返したので、たんすやかばんや、たなの上などをしらべましたが、なんともなっていないので、エミイがじぶんを許してくれたものと思いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-125028-125163">けれど、それはジョウの思いちがいであることが、あくる日になってわかりました。その日の午後</seg><app type="base-text-variant" source="#source-125172-125223"><lem><seg source="#source-125163-125172">ジョウ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-125211-125217">メグ</seg></rdg></app><seg source="#source-125223-125375">は血相をかえて、メグとベスとエミイが話しあっているところへ、とびこんで来て、息をきらして尋ねました。</seg></p>
        <p>「だれか、あたしの原稿とった？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-125425-125547">メグとベスは、いいえといいましたが、エミイは炉の火をつついてだまっていました。</seg></p>
        <p>「エミイ、あなたですね。」</p>
        <p>「あたし、持ってないわ。」</p>
        <p>「じゃ、どこにある？」</p>
        <p>「知らないわ。」</p>
        <p>「うそつき！　知らないとはいわさないわ。さあ、早い白状なさい。白状しないか。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-125809-125871">ジョウは、ものすごい顔でどなりました。</seg></p>
        <p>「いくらでも怒るがいいわ。あんなつまらない原稿なんか、もう出ないわよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-125981-126067">エミイは、どうにでもなれというような、いいかたでした。</seg></p>
        <p>「どうして！」</p>
        <p>「あたしが焼いちゃったから。」</p>
        <p>「なに？　あんなに苦労して、おとうさんがお帰りになるまでに書きあげるつもりの、あの大切な原稿を、ほんとに焼いたの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-126313-126435">ジョウは、まっさおになり、目は血ばしり、ふるえる手でエミイにとびかかりました。</seg></p>
        <p>「ええ、焼いたわ。昨夜、いじわるしたからよ。おぼえていらっしゃいといったでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-126563-126628">ジョウは、悲しみと怒りに、かっとなって、</seg></p>
        <p>「ばか、ばか！　二度と書けないのよ。あたし一生あなたを許さない。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-126729-126947">メグもベスも、どうしようもありませんでした。ジョウは、エミイの横っつらをひっぱたいて、部屋をとび出し、屋根部屋のソファに身を伏せて泣きました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-126947-127498">おかあさんは、帰宅してその話を聞き、エミイをしかりました。エミイはわるいことをしたと思いました。けれど、ジョウの原稿は、五六篇のかわいいお伽話でしたが、文学的才分と全精力を数年間かたむけて書いたもので、ジョウにとっては、とり返しのつかぬ損失でしたから、ジョウは、お茶のベルが鳴ったとき、いかにもこわい顔をして出て来ました。エミイは、ありったけの勇気をふるい起して、</seg></p>
        <p>「ジョウ、ごめんなさいね、あたし、ほんとうにわるかったわ。」と、あやまりました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-127620-127658">ジョウは、ひややかに、</seg></p>
        <p>「許してあげるものか。」と、答え、エミイにとりあいませんでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-127756-128182">だれも、この大事件のことを口にしませんでした。ジョウがじぶんの怒りをやわらげるまで、なにをいってもしようがないからです。そんなわけで、その晩はたのしくなく、みんなだまって針仕事をしました。おかあさんが、おもしろい物語を話しても、なにかもの足りなくて、家庭の平和は、すっかりみだされて</seg><app type="base-text-variant" source="#source-128197-128275"><lem><seg source="#source-128182-128197">いました。</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-128242-128269">いました。いました</seg></rdg></app><seg source="#source-128275-128376">おもくるしい気分は、メグとおかあさんがうたっても晴れませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-128376-128486">おかあさんは、ジョウにおやすみなさいのキッスをしたとき、やさしい声で、</seg></p>
        <p>「ねえ、怒りを明日まで持ち越さないように、今夜中にきげんをなおしましょうね。おたがいに、ゆるし合い助け合いましょう。明日からは、またたのしくね。」と、ささやきました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-128737-128967">ジョウは、おかあさんの胸に、顔をうずめました。悲しみと怒りを、涙で流したかった。けれど、あまりにいたでは深く、とうとう頭をふり、エミイに聞えよがしに、</seg></p>
        <p>「あんまりひどいんですもの、許してやれませんわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-129044-129193">そういって、ジョウは、さっさと寝室へいってしまったので、その夜はおもくるしい気分でおわりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-129193-129607">つぎの日も、おもくるしい気分は去らず、みんなつまらなそうでした。ジョウは、ぷんぷんして、ローリイを誘ってスケートにでもいってみようと思って出かけていました。エミイは、じぶんのほうからあやまったのに、ジョウがまだ怒っているので、なお気をわるくしました。メグは、エミイにむかって</seg><app type="base-text-variant" source="#source-129610-129655"><lem><seg source="#source-129607-129610">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-129643-129649">、」</seg></rdg></app></p>
        <p>「あなたがわるかったのよ。大切な原稿をなくされたんですもの、なかなか許せないわ。だけど、いいおりを見て、あやまればいいと思うの。だから、あなたもスケートにいってごらんなさい。そしてジョウがローリイと遊んで、きげんがよくなったとき、ジョウにキッスしてしてあげるか、なにかやさしいことしてあげるのよ。そしたら、心から仲なおりしてくれるにちがいないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-130181-130771">この忠告が気にいったので、エミイはいそいそと仕度をして、後をおいかけました。川までは、そんなに遠くなかったが、エミイがいったとき、二人はすべる用意ができていました。ジョウは、エミイのすがたを見ると、くるりとせなかをむけました。ローリイは、エミイの来たのに気がつかず、氷のあつさをしらべるために、そのひびきを聞きわけながら、用心ぶかく岸にそってすべっていきました。ローリイは、角をまがるとき、</seg></p>
        <p>「岸について来なさい。まんなかはあぶない。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-130839-130904">そういって、すがたが見えなくなりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-130904-131536">ジョウが、すべって、その角までいったとき、エミイはずっとはなれたところで、川のまんなかへすべっていきました。ジョウは、みょうな心さわぎをおぼえましたが、ふいに氷のさける、ばりっという音とともに水けむりをたて、エミイがりょう手をあげ、悲鳴とともに落ちこむのを見ました。その悲鳴に、ジョウは心臓がとまると思うくらい、おどろきました。ローリイをよぼうとしましたが声が出ません。すると、なにかが、じぶんのそばを走ったと思うと、</seg></p>
        <p>「ぼうをもって来て、早く、早く！」と、ローリイのどなる声が聞えました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-131643-131814">それから、ジョウは、まるで夢中でした。ただし冷静なローリイのさしずのままになって、おびえているエミイを救いあげる</seg><app type="base-text-variant" source="#source-131820-131871"><lem><seg source="#source-131814-131820">こと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-131856-131865">ことと</seg></rdg></app><seg source="#source-131871-131894">ができました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-131894-132310">ふるえて、ぼとぼとしずくをたらしながら泣いているエミイを、二人は家までつれて帰りました。ジョウは、口ひとつきかず、青い顔をし、手にきずをし、服はさけたままで、とびまわり、なにかと用事をしました。さわぎがおさまった後、エミイは毛布にくるまって炉の火の前でねむってしまいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-132310-132471">おかあさんは、エミイのそばにすわってましたが、ほっとして、ジョウをよんで、手にほうたいをしてやりました。</seg></p>
        <p>「おかあさん、だいじょぶでしょうか？」</p>
        <p>「ええ、けがもしていないし、かぜもひかなかったようです。あなたが、よくくるんで、大いそぎでつれて来てくれたからね。」</p>
        <p>「ローリイが、みんなしてくれたのです。わたしは、エミイをほっといたから、一人ですべっていって落ちたんです。もしかして死んだら、あたしのせいですわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-132930-133097">ジョウは、後悔の涙を流しましたが、それはもっと重い心の痛みからのがれることのできた、感謝の涙でもありました。</seg></p>
        <p>「みんな、あたしの、おそろしいかんしゃくからですわ。ああ、どうして、こうなんでしょう。おかあさん。どうぞあたしを救って下さい。」</p>
        <p>「ええ、ええ、救ってあげますよ。そんなに泣かないでね。今日のことよく覚えておいて、二度としないと誓いなさい。<app type="base-text-variant" source="#source-133468-133534"><lem><seg source="#source-133453-133468">おかあさん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-133513-133528">おおあさん</seg></rdg></app>だって、じつは、あなたとおなじくらい、かんしゃくもちなんですよ。それに、おかあさんはうち勝とうとしているんです。」</p>
        <p>「まあ、おかあさんが？　だって、一度だって、かんしゃくを起しなすったの、見たことがありませんわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-133856-133921">ジョウは、おどろしい目をまるくしました。</seg></p>
        <p>「なおすのに四十年かかりました。やっとおさえられるようになりました。ほとんど、まい日、怒りたくなるけど、顔に出さぬようになったのです。これからは、<app type="base-text-variant" source="#source-134152-134218"><lem><seg source="#source-134140-134152">怒りたく</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-134194-134212">怒りたくない</seg></rdg></app>ならないようにしたいのですが、それには、もう四十年かかるかもしれません。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-134331-134657">ああ、その言葉はジョウにとって、どんなお説教より、はげしいおしかりより、よい教訓でありました。そして、四十年も祈りつづけて欠点をなくそうとしたおかあさんのように、じぶんもどうかしてこの欠点をなおしたいと思いました。</seg></p>
        <p>「ねえ、おかあさん、どういうやりかたなさるの？　教えて下さい。」</p>
        <p>「そう、あたしは、今のあなたより、すこし大きくなったころ、おかあさんをなくしました。あたしは、自尊心が強いので、じぶんの欠点をたれにうち明けることもできず、ただ一人で長い年月を苦しみました。なん度も失敗して、にがい涙を流しました。そのうちに、あなたたちのおとうさんと結婚して、しあわせになったので、じぶんをよくすることが、らくになりました。けれど、四人の娘ができ、貧乏になって来ると、またまたむかしのわるい欠点がでて来そうです。もともと、あたしは忍耐心がないので、娘たちがなにか不自由しているのを見ると、とてもたまらない気持になるんです。」</p>
        <p>「まあ、おかあさん！　それじゃ、なにがおかあさんを救って下すったんですか？」</p>
        <p>「あなたのおとうさんです。おとうさんは、忍耐なさいます。どんなときも、人をうたがうことなく不平なく、いつも希望をもっておはたらきになります。おとうさんは、あたしを助けなぐさめ、娘たちの御手本になるように、教えて下すったのです。だから、あたしは娘たちのお手本になろうとしてじぶんをよくすることに努めました。」</p>
        <p>「ああ、おかあさん。もしあたしが、おかあさんの半分もいい子になれたら本望ですわ。」</p>
        <p>「いいえ、もっともっといい人になって下さい。今日味ったよりも、もっと大きな悲しみや後悔をしないように、全力をつくして、かんしゃくをおさえなさい。」</p>
        <p>「あたし、やってみます。でも、あたしを助けて下さいね。あたしね、おとうさんは、とってもおやさしいけど、ときどき真顔におなりになり、指に口をあてて、おかあさんをごらんになるのを見ましたわ。そうすると、おかあさんは、いつも口をむすんで、部屋を出ていらっしゃいます。そういうとき、おとうさんに、おかあさんは、お気づかせになったんですか？」</p>
        <p>「そうなんです。そういうふうに、助けて下さいとお頼み<app type="base-text-variant" source="#source-137074-137125"><lem><seg source="#source-137068-137074">した</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-137110-137119">しんだ</seg></rdg></app>んです。おとうさんは、お忘れにならないで、あのちょっとしたしぐさや、やさしいお顔つきで、あたしがきつい言葉を出しそうになるのを救って下すったのですよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-137355-137504">ジョウは、おかあさんの目に涙があふれているのを見て、いいすぎたかしらと、心配になって尋ねました。</seg></p>
        <p>「あたし、あんなふうにいったの、いけなかったでしょうか？　でも、あたし思ったこと、おかあさんにみんないってしまうの。とてもいい気持なんですもの。」</p>
        <p>「ええ、なんでもおっしゃい。そうやって、うちあけてくれると、おかあさんはうれしいのよ。」</p>
        <p>「あたしは、おかあさんを悲しませたのではないかと思って。」</p>
        <p>「いいえ、おかあさんは、おとうさんのことを話しているうちに、お留守という<app type="base-text-variant" source="#source-138062-138110"><lem><seg source="#source-138056-138062">こと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-138098-138104">ごと</seg></rdg></app><seg source="#source-138110-138113">が</seg><app type="base-text-variant" source="#source-138125-138182"><lem><seg source="#source-138113-138125">しみじみ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-138167-138176">みじみ</seg></rdg></app>さびしくなり、おとうさんのおかげということを思ったりしたので。」</p>
        <p>「だって、おかあさんは、おとうさんに従軍なさるように、おすすめになったし、出発のときもお泣きにならなかったし、留守になってからも一度もこぼしたりなさらないし、だれの助けもあてにしていらっしゃらないし。」と、ジョウは、いぶかしそうにいいました。</p>
        <p>「あたしは、愛する御国のために、あたしの一ばん大切なものをささげたのです。どうしてぐちがいえましょう。あたしが人の助けがいらないように見えるのは、おとうさんよりも、もっといいかたがおかあさんが慰め励まして下さるからなの、それは、天国のおとうさんです。天国のおとうさんに近づけば、人の知慧や力に頼る必要はなく、平和と幸福が生れます。さ、あなたもこのおとうさんのところへいきなさい。すべての心配や悲しみや罪をもって。ちょうど、あなたがおかあさんのところへ心から信頼して来るように、」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ジョウの答えは、ただおかあさんに、しっかりすがりつくことでした。そして、だまって、心からある祈りをささげ、いかなる父や母よりも、いっそう強いやさしい愛で、すべての世の子供をむかえて下さる「おとうさん」に、近づいていくのでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-139708-139947">エミイは、眠ったまま、ねがえりをうって、ため息をつきました。ジョウは、今すぐに、じぶんの過失をつぐないたいと思うためか、今までにないまじめな表情をしました。</seg></p>
        <p>「あたし、かんしゃくをつぎの日までもち越して、エミイを許さなかった。もしローリさんがいなかったら、とんだことになったんだわ。ああ、どうしてあたしは、こんなにいけないんでしょう？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-140216-140567">ジョウは、エミイの上によりかかり、枕の上のみだれ髪をなでながら、そういいましたが、それが聞えたもののように、エミイはばっちり目を開け、ほほえみをうかべて手をさし出しました。二人はなんともいいませんでしたが、毛布にへだてられながらも、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-140582-140645"><lem><seg source="#source-140567-140582">しっかりと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-140627-140639">しっりと</seg></rdg></app><seg source="#source-140645-140736">抱き合い、心こめたキスに、すべてを許し忘れてしまいました。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-140736-140836" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-140760-140832"><seg source="#source-140760-140781">第九　虚栄の市</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-140836-141282">四月のある日、メグはじぶんの部屋で、いもうとたちにかこまれながら、トランクに荷物をつめこんでいました。おかあさんは、娘たちが年ごろになったら与えようと考えて、むかしのはなやかだった時代の記念品のしまってある杉箱を開けて、絹の靴下と、きれいな彫刻のある扇子と、かわいい青いかざり帯を下さいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-141282-141800">あくる日は、うららかな天気で、メグはたのしい二週間の遠出に家を出ました。上流のマフォット家の客になりにいくのです。おかあさんは、あまりこの訪問をよろこびませんでしたが、メグが熱心に頼むし、サリイがよく面倒を見ると約束してくれたので、冬の間よくはたらいたごほうびの意味で許したので、メグは、上流社会の生活を味わう第一歩をふみ出したのであります。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-141800-142627">マフォット家に客となってみると、メグはそのすばらしい家や、そこに住む人々の上品さに、気をのまれてしまいました。その生活は、軽薄でしたが、みんなが親切でしたから、らくな気持になりました。すばらしいごちそうをたべ、りっぱな馬車で乗りまわし、上等な服を着かざって、なにもせずに遊び暮すことは、たしかに、たのしいことでした。それはメグの趣味にかない、メグはその家の人たちの、会話や態度や服の着こなしや、髪のちぢらしかたなどを、まねしようと努めました。そして、金持の家の暮しのゆたかさにくらべると、貧乏なわが家の暮しが、いかにも味気なく不幸に見えて来ました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-142627-143028">メグは、マフォット家の、三人のわかいおじょうさんたちの気にいって、散歩、乗馬、訪問、芝居やオペラ見物、夜会など、いつもいっしょに、たのしい時間をすごしました。そして、ベルには婚約者があることがわかりましたが、メグはそれに興味をもち、ロマンチックなことに思えました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">マフォット氏は、ふとった老紳士で、メグのおとうさんを知っていました。マフォット夫人も、やはりふとった婦人で、メグをかわいがってくれ、「ひな菊さん」という名で、よんでくれました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-143297-143875">いよいよ、夜会があるという日、三人はみんなすばらしい服を着て、はしゃいでいるのに、メグはじぶんのポプリンの服のみすぼらしさに心がおもくなりました。それでも、服のことなど、なんとも思っていないように、三人は親切にメグにむかって、髪をゆってあげようとか、かざり帯をしめてあげようとかいいましたが、メグはその親切のなかに、じぶんの貧しさへのあわれをみてとり、いっそう心は重くなるのでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-143875-143973">そこへ、女中が花のはいっている箱をもって来ました。アンニイが、</seg></p>
        <p>「ジョージから、ベルへ来たんだわ。」と、いいましたが、女中は、手紙をさしだしながら、</p>
        <p>「マーチさんへと、使いの者が申しました。」と、いいました。</p>
        <p>「まあ、すてき。どなたから？　あなたに恋人があるとは知らなかったわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-144297-144356">みんなは、強い好奇心をいだきました。</seg></p>
        <p>「手紙は母から、花はローリイからですわ。」</p>
        <p>「まあ、そうなの。」と、アンニイは、みょうな表情でいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-144516-144651">母からの手紙は、みじかいけれど、よい教訓でした。メグはポケットにしまいました。また、花は</seg><app type="base-text-variant" source="#source-144663-144723"><lem><seg source="#source-144651-144663">しずんだ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-144705-144717">じずんだ</seg></rdg></app><seg source="#source-144723-145100">気持をひきたててくれました。その幸福な気持で、メグは、しだとばらをわずかとって、あとは気前よくわけましたので、メグのやさしさに心ひかれたようでした。メグが、みどりのしだを髪にさし、ばらの花を胸にさしたので、服はそのためにいくらかひきたって見えました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-145100-145468">メグは、その夜、心ゆくまでダンスをしました。みんなが親切にしてくれ、歌をうたえばいい声だとほめ、リンカーン少佐は、あの目の美しい令嬢はどなたと尋ねましたし、マフォット氏は、メグの身体にばねみたいなものがある、ぜひメグとダンスするといいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-145468-145740">こうしてたのしくしていたのに、温室のなかに腰かけて、ダンスの相手がアイスクリームを持って来てくれるのを待っていたとき、うしろで話す話し声をふと聞いて、メグは気分をこわされました。</seg></p>
        <p>「いくつぐらいでしょう？」</p>
        <p>「十七八かしら、」</p>
        <p>「あの娘たちのうちの一人が、そういうことに、なったらたいしたものですよ。サリイがいってましたが、あの人たちは、このごろとても親しくしていて、それに、あの老人は娘たちに、まるで夢中になっているんですって。」</p>
        <p>「それやマーチ夫人の計略ですよ。娘のほうではそんな気はなさそうだけど、」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-146228-146290">そういったのは、マフォット夫人でした。</seg></p>
        <p>「あの子ったら、おかあさんからだなんてうそついて、花がとどいたら顔をあかくしたわ。いい服さえ着せたら、きれいになるでしょうに。木曜日にドレス<app type="base-text-variant" source="#source-146509-146563"><lem><seg source="#source-146500-146509">貸して</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-146548-146557">貸しで</seg></rdg></app>あげようといったら、あの子、気をわるくするかしら？」</p>
        <p>「あの子、自尊心は強いけれど、モスリンのひどい服しかないのだから、気をわるくはしないでしょう。それに今晩の服をやぶくかもしれないから、貸してあげる口実になるわ。」</p>
        <p>「そうねえ。あたしローレンスをよんで、あの子をよろこばしてあげましょう。そして、後で、からかってあげましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-147058-147272">そこへ、ダンスの相手がもどって来ました。メグは、今のうわさ話に怒りをもやし、すぐにも家へ帰って、おかあさんに心の痛みを訴えたくなりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-147272-147326">けれど、メグの自尊心は、むろんその</seg><app type="base-text-variant" source="#source-147335-147389"><lem><seg source="#source-147326-147335">ことを</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-147374-147383">ことる</seg></rdg></app><seg source="#source-147389-147532">させるわけもなく、できるだけ、ほがらかにふるまったので、だれもメグの努力に気づきませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-147532-147966">夜会がおわると、メグはほっとしました。ベットのなかで考えていると、ほてったほおに、涙が流れました。あのおろかなうわさ話は、メグに新らしい世界を開いてくれ、古い平和の世界を根こそぎみだしてしまいました。あわれなメグは、ねぐるしい一夜をあかし、おもいまぶたの、いやな気分で床をはなれました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-147966-148340">その朝は、だれもぼんやりしていました。娘たちが編物をはじめる気力が出たときには、もうおひるでした。メグは、みんなが好奇心で、じぶんのことを気にしていることを知りましたが、ベルが手をやめて感傷的ないいかたで、こういったので、なにもかもわかりました。</seg></p>
        <p>「ねえ、ひな菊さん、木曜日の会に、あなたのお友だちのローレンスさんに招待状を出しましたの。あたしたち、お近づきになりたいし、それに、あなたに対する敬意ですからね。」</p>
        <p>「御親切にありがとうございます。でも、あのかた、いらっしゃらないでしょう。七十に近い、お年よりですもの。」</p>
        <p>「まあ、ずるい、あたしのいうのは、わかいかたのほうよ。」と、ベルは笑いました。</p>
        <p>「わかいかたって、いらっしゃいませんわ。ローリイなら、ローリイなら、まだ子供で、いもうとのジョウくらいでしょう。あたしはこの八月で十七ですもの。」</p>
        <p>「あんなりっぱな花をおくって下すって、ほんとにいい方ね。」と、アンニイが、意味ありげにいいました。</p>
        <p>「ええ、いつでも下さるの。あたしの家のみんなに。あのかたの家に、いっぱい花があるし、あたしの家ではみんなが花がすきだからです。母とローレンスさんとはお友だちでしょう。だから、あたしたち子供同志も遊びますの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-149552-149638">メグは、この話を、うちきってくれればいいと思いました。</seg></p>
        <p>「ひな菊さんは、まだ世間のことにうといのね。」と、クララはうなずきながら、ベルにむかっていいました。</p>
        <p>「まるで、まだあかちゃんね。」と、ベルは肩をすぼめました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-149879-149992">そのとき、マフォット夫人が、レースのついた絹の服を着てはいって来ました。</seg></p>
        <p>「あたし、これから娘たちのものを、もとめにまいりますが、みなさん御用はありませんか？」</p>
        <p>「ございませんわ、おばさま、ありがとう。あたしは木曜日には、あたらしいピンクの絹のを着ますし。」と、サリイがいいました。</p>
        <p>「あなた、なにお召しになるの？」と、メグにサリイが尋ねました。</p>
        <p>「昨夜の白いのを来ますわ。ひどくさけましたが、もしうまくなおせましたら。」</p>
        <p>「どうして、かわりを家へとりにおやりにならないの？」と、気のきかないサリイがいいました。</p>
        <p>「かわりなんか、あたしありませんわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-150706-150813">やっとメグがいったのに、サリイは人のよさそうな、びっくりしたふうで、</seg></p>
        <p>「あれっきり、まあ、」と、いいかけましたが、ベルは頭をふって、サリイの言葉をさえぎってやさしくいいました。</p>
        <p>「ちっともおかしくないわ。まだ社交界に出ていないのに、たくさんドレスこしらえておく必要ないわ。ひな菊さん、いく枚あっても、お家へとりにいかせなくてもいいわ。あたしの小さくなった、かわいい青色の絹のが、しまってありますから、あれを着てちょうだいな。」</p>
        <p>「ありがとうございます。でも、あたしみたいな子供には、この前のでたくさんですわ。」</p>
        <p>「そんなことおっしゃらないで、あなたをきれいにしてみたいの。だれにも見せないように仕度してシンデレラ姫みたいに、ふたりでふいに出ていって、みんなをおどろかしたいの。」と、ベルは笑いながら、けれど、あたたかい気持ですすめるので、メグもそれをこばむことはできませんでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-151877-152270">木曜日の夕方、ベルと女中で、メグを美しい貴婦人にしあげました。髪をカールし、いい香りの白粉をぬりこみ、唇にさんご色の口紅をぬり、空色のドレスを着せ、腕環、首かざり、ブローチなど、装身具でかざりたてました。美しい肩はあらわに、胸にばらの花はあかく、ベルも女中も、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-152285-152351"><lem><seg source="#source-152270-152285">ほれぼれと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-152330-152345">ほればれと</seg></rdg></app><seg source="#source-152351-152374">ながめました。</seg></p>
        <p>「さあ、みんなに見せてあげましょう。」と、<app type="base-text-variant" source="#source-152443-152491"><lem><seg source="#source-152437-152443">ベル</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-152479-152485">べる</seg></rdg></app><seg source="#source-152491-152589">は、ほかの人たちのつめかけている部屋へ、メグをつれていきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-152589-153038">メグは、ハイヒールの青い絹の舞踏靴をはき、長いスカートをひきずり、胸をわくわくさせながら歩いていきました。鏡がかわいい美人だと、メグにはっきり教えてくれたので、メグはかねての望みがかなえられた満足を味わい、じぶんから進んで、美しさを、見せびらかそうとさえしました。ベルは、ナンとクララにむかって、</seg></p>
        <p>「あたしが、着かえて来る間に、ナン、あなたは裾さばきと、靴のふみかたを教えてあげてね。ふみちがえてつまずくといけないから、それから、クララ、あなたの銀のちょうちょを、まんなかにさして髪の左がわのカールをとめてあげて<app type="base-text-variant" source="#source-153374-153437"><lem><seg source="#source-153359-153374">ちょうだい</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-153419-153431">ようだい</seg></rdg></app>。あたしのつくった、すてきな作品をだめにしちゃいやよ。」と、いって、じぶんの成功に、さも満足らしい顔つきで、いそいで出ていきました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-153637-153822">ベルが鳴りひびき、マフォット夫人が、使いをよこして、娘たちにすぐ来るように、告げたとき、メグはサリイに、ささやきました。</seg></p>
        <p>「あたし、階下へいくのこわいわ。なんだか、とてもへんな、きゅうくつな気持で、それに半分、はだかみたいで。」</p>
        <p>「とてもきれいだから<app type="base-text-variant" source="#source-154034-154112"><lem><seg source="#source-154013-154034">いいわ。あたし</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-154085-154106">いいわあ。たし</seg></rdg></app>なんかとてもくらべものにならない。ベルの趣味はすてき、ただつまずかないようにね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-154237-154423">心のなかにその注意をたたみこんで、メグは無事に階段をおり、客間へ、しずかにはいっていきました。メグは、たちまちみんなの目を</seg><app type="base-text-variant" source="#source-154435-154495"><lem><seg source="#source-154423-154435">ひきつけ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-154477-154489">ひさつけ</seg></rdg></app><seg source="#source-154495-154860">、この前の夜会のときと、まるでちがって、わかい紳士たちが、ちやほやして、いろいろ気にいるようなことを話しかけました。ソファに腰かけて、他人の品定めをしていた数人の老婦人たちは、メグに興味をもち、なかの一人がマフォット夫人に身もとを尋ねました。</seg></p>
        <p>「ひな菊マーチです。父は陸軍大佐で、あたしどもとおなじ一流の家がらですが、破産しましてね、ローレンスさんと親しいんです。家のネッドはあの子に夢中なんですよ。」</p>
        <p>「おや、そうなんですの。」と、その老婦人はもっとよく見ようとして眼鏡をかけました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-155224-155832">メグは、聞えないふりをしましたが、夫人のでたらめにはあきれました。けれど、その妙な気持を心のすみにおしつけ、笑いをたたえて、貴婦人らしくふるまっていました。ところがメグの顔からきゅうに笑いがきえました。正面にローリイの姿を見たからで、その目はじぶんを非難しているではありませんか。ローリイは、笑っておじぎをしましたが、メグはこんな姿でなくじぶんの服を着ていればよかったと思いました。メグは、そばへいき、</seg></p>
        <p>「よくいらっしゃいました。お出でにならないと思っていました。」</p>
        <p>「ジョウが、ぜひいって、あなたのようすを見て来てほしいというので来たんです。」</p>
        <p>「ジョウに、なんておっしゃるつもり？」</p>
        <p>「どこの人だかわからなかったといいます。だって、まるで大人みたいで、あなたらしくないんですもの。」</p>
        <p>「みんなでこんななりにさせたの、あたしもちょっとしてみたかったけど。ジョウびっくりするでしょうね？　あなたもこんなの、おいや？」</p>
        <p>「ぼく、いやです。わざとらしく、かざりたてたの、いやです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-156540-156662">年下の少年からいわれた言葉としては、あまりにするどく、メグはふきげんになって、</seg></p>
        <p>「あなたみたいな、失礼な人、知らないわ。」と、いって、そこを去り、窓ぎわへいって<app type="base-text-variant" source="#source-156794-156854"><lem><seg source="#source-156782-156794">たたずみ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-156836-156848">たにずみ</seg></rdg></app><seg source="#source-156854-157099">、きゅうくつなドレスのために、ほてったほおを夜気にひやしました。大好きなワルツの曲がはじまっても、そのままでいると、ローリイが来て、ていねいに手をさしのべました。</seg></p>
        <p>「失礼なこといって、お許し下さい。いっしょに踊って下さい。」</p>
        <p>「お気持をわるくするとこまります。」</p>
        <p>「いいえ、ちっとも、ぼくダンスしたいのです。そのドレスは好きじゃないけど、あなたはほんとうに、すてきです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-157411-157530">メグは、にっこり笑って気持をやわらげ、二人は音楽に合せておどりはじめました。</seg></p>
        <p>「ローリイ、あたしのお願い聞いてね、家へ帰ってもあたしのドレスのこといわないでね、家の人々は、じょうだんがわからないし、おかあさんには心配させるから。」</p>
        <p>「どうしてそんなものを着たんです？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-157816-157869">ローリイの目がなじっていました。</seg></p>
        <p>「どんなに馬鹿だったか、自分でお母さんにいうから、あなたいわないでよ。」</p>
        <p>「いわないと約束します。でもきかれたらどういいましょう！」</p>
        <p>「あたしがきれいで、たのしそうだったとだけ、いってちょうだい。」</p>
        <p>「きれいだけど、さあ、たのしそうかしら？　たのしそうに見えない。」</p>
        <p>「ええ、たのしくないの。おもしろいことしてみたかったけど、やっぱり性にあわないわ。あきてしまうわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-158419-158541">このとき、マフォット家の若主人のネッドが来たので、ローリイは顔をしかめました。</seg></p>
        <p>「あの人、あたしに三回もダンスを申しこんでいるの。だから来たんでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-158654-158773">メグがいかにもいやそうにいうので、ローリイは、これはおもしろいと思いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-158773-159057">ローリイは、それっきり夕飯のときまで、メグと話しませんでした。食事のとき、ネッドとその友達のフィッシャアを相手に、メグがシャンペン酒を飲むのを見たローリイは、だまっていられませんでした。</seg></p>
        <p>「そんなもの飲むと、明日、頭痛がしますよ。ぼくは飲みません。おかあさん<app type="base-text-variant" source="#source-159171-159225"><lem><seg source="#source-159162-159171">だって</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-159210-159219">たって</seg></rdg></app>、お気にいらないでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-159269-159409">ローリイは、ネッドとフィッシャアに聞かれないように、メグによりそって、そうささやきました。</seg></p>
        <p>「今夜は、あたし気ちがいみたいなお人形なの。明日からはいい子になるわ。」</p>
        <p>「それじゃ、明日もここにいたいんですね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-159584-159652">ローリイに、ついとはなれて立ち去りました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-159652-159906">メグは、踊ったり、ふざけたり、しゃべったり、ローリイがあきれるほど、はしゃぎました。帰りがけに、ローリイがあいさつに来ると、メグは、もう頭痛になやまされていましたが、</seg></p>
        <p>「いいこと！　頼んだこと忘れないでね。」と、むりに笑顔をつくっていいました。</p>
        <p>「死をもっての沈黙」と、ローリイは、フランス語で、芝居がかりで答えて立ち去りました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-160150-160354">メグは、もう疲れきっていました。わびしい気分で床にはいりましたが、あくる日も一日気分がわるく、土曜日になって、二週間の遊びと、ぜいたく</seg><app type="base-text-variant" source="#source-160366-160426"><lem><seg source="#source-160354-160366">ざんまい</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-160408-160420">さんまい</seg></rdg></app><seg source="#source-160426-160479">にあきあきして家へ帰って来ました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-160479-160589">日曜日の晩、メグはおかあさんとくつろいだとき、あちこち見まわしながら、</seg></p>
        <p>「年中、お客さわぎなどいやだわ。しずかに暮すのたのしいわ。りっぱでなくても、<app type="base-text-variant" source="#source-160712-160763"><lem><seg source="#source-160703-160712">じぶん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-160751-160757">じぶ</seg></rdg></app>の家が一ばんいいわ。」と、のびのびした表情でいいました。</p>
        <p>「そう聞いてかあさんはうれしい。あなたがりっぱなところへいったので、家が<app type="base-text-variant" source="#source-160972-161038"><lem><seg source="#source-160957-160972">つまらなく</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-161017-161032">つまちなく</seg></rdg></app>、みじめに見えやしないかと、心配していたのよ。」と、おかあさんの目の、気づかわしそうな影が消えました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-161193-161418">メグは、おもしろそうに、いろいろの冒険を話しました。けれど、心の中になにかおもくるしいものがあるらしく、九時がうってジョウがねようといい出したとき、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-161427-161481"><lem><seg source="#source-161418-161427">メグは</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-161466-161475">メグに</seg></rdg></app><seg source="#source-161481-161516">思いきったというふうに</seg></p>
        <p>「おかあさん、あたし白状することがありますの。」</p>
        <p>「そうだと思っていました。どんなこと！」</p>
        <p>「あたし、むこうへいきましょうか？」と、ジョウが気をきかしていいました。</p>
        <p>「いいえ、いて。なんでもあなたには、うち明けてるじゃないの。いもうとたちの前では、はずかしいけど、あなたには、あたしのした、あさましいこと、すっかり聞いてほしいわ。」</p>
        <p>「さあ、聞きましょうね。」と、<app type="base-text-variant" source="#source-162073-162139"><lem><seg source="#source-162058-162073">おかあさん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-162118-162133">あかあさん</seg></rdg></app><seg source="#source-162139-162210">は、にこにこしながらも、すこし心配そうでした。</seg></p>
        <p>「みんなで、あたしをかざりたてたことは、お話しましたが、髪をカールしたり、白粉をぬったり、ドレスを着せたりしたこと、まだ話しませんでしたね。ローリイは、正気の沙汰ではないと思ったでしょう。あたしは、お人形のようだとか、美人だとかおだてられました。つまらない<app type="base-text-variant" source="#source-162600-162645"><lem><seg source="#source-162594-162600">こと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-162636-162639">と</seg></rdg></app>とはわかっていながら、おもちゃになりました。」</p>
        <p>「それっきり？」と、ジョウがいいました。</p>
        <p>「まだ、あるの。シャンペンを飲んだり、ふざけたり、はねまわったり、けがらわしいことばかり」と、メグは自責の念に堪えられないようでした。</p>
        <p>「もっと、なにかあったでしょう？」と、おかあさんが、やさしくメグのほおをなでながらいいました。</p>
        <p>「ええ、とてもばかげたことなの。だって、みんながあたしとローリイのこと、あんなふうにいったり考えたりするのんですもの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-163306-163599">メグは、マフォット家で聞かされたいろんなうわさ話をしました。おかあさんは、こんな考えを純真なメグの心につぎこんだことを不快に思って、唇をぎゅっとむすんでいました。ジョウは、怒ってさけびました。</seg></p>
        <p>「そんなばかなこと、あたし聞いたことがないわ。なぜおねえさんは、その場でいってやらなかったの？」</p>
        <p>「あたしにはできなかったの。でもあんまりひどいので、しゃくにさわるし、はずかしいし、帰って来なければならないのに、帰るのも忘れてしまって。」</p>
        <p>「あたしたちのような貧乏人の子供について、そんなつまらぬうわさ話をしていることを、ローリイに話したら、きっとどなりつけるでしょうね。」</p>
        <p>「ローリイにそんなこといったら、いけませんわ。ねえ、おかあさん。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-164261-164323">おかあさんは、まじめな顔でいいました。</seg></p>
        <p>「いけません。ばかなうわさ話は、二度と口にしてはいけません。できるだけ早く忘れることです。あなたをいかせたのは、おかあさんの失敗でした。親切なんでしょうが、下品で、教養があさく、わかい人たちにいやしい考えを持たせる連中ですからね。メグ、今度の訪問があなたにわるい影響があるようなら、かあさんは残念です。」</p>
        <p>「御心配下さらないで。あたしは、自分のいけ<app type="base-text-variant" source="#source-164856-164916"><lem><seg source="#source-164844-164856">なかった</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-164898-164910">なかっだ</seg></rdg></app>ことをなおしますわ。けれど、あたしはみんなから、ちやほやされて、ほめられるの、わるい気はしませんの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-165071-165127">メグは、はずかしそうにいいました。</seg></p>
        <p>「それは、しぜんな気持です。それがために、ばかげたことをしなければいいんです。ただ、ほめられたとき、それだけの価値がじぶんにあるか反省して、美しい、へりくだる娘になることです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-165396-165518">それから、話は計略のことになりましたが、メグはおかあさんにむかって尋ねました。</seg></p>
        <p>「マフォット夫人のおっしゃったように、計略をたてていらっしゃる<note type="misc" subtype="unresolved" source="#source-165611-165683">［＃「いらっしゃる」は底本では「いらっっしゃる］</note>の？」</p>
        <p>「ええ、たくさんたてています。だけどマフォット夫人のいうのとはちがいます。あたしのは、娘たちが、美しくて教養のある、善良な人になって幸福な娘時代をすごし、よい、かしこい結婚をして、神さまの御意により、苦労や心配をできるだけすくなくして、有益なたのしい生涯を送ってほしいのです。りっぱな男の人に愛され、妻としてえらばれることは、女の身にとって一ばんたのしいことです。あたしは、娘たちがこういう美しい経験をすることを、心から望んでいます。そういうことを考えるのはしぜんで、メグ、その日の来るのを望み、その日を待つのは正しいことですし、その支度をして<app type="base-text-variant" source="#source-166525-166591"><lem><seg source="#source-166510-166525">おくことは</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-166570-166585">おくことに</seg></rdg></app>かしこいことです。あたしは、あなたがたのために、そういう大望をいだいています。けれど、ただ世間へおし出し、金持と結婚させたいのではありません。お金持だからとか、りっぱな家に住めるからとか、そんなことだけで結婚したら、それは家庭といえません。愛がかけているからです。お金は必要で大切なものです。上手に使えばたっといものですが、ぜひとも手にいれるべき第一のものとか、ごほうびとか思ってはこまります。かあさんは、あなたがたが、幸福で、愛されて、満足してさえいれば、自尊心や平和なくして王位にのぼっている王女さまたちになってもらうより、かえって貧乏人の妻になってもらいたいと思います。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-167460-167528">メグは、そのとき、ため息をしていいました。</seg></p>
        <p>「貧乏な家の娘は、せいぜい出しゃばらなければ、結婚のチャンスはつかめないって、ベルがいってましたわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-167683-167733">ジョウは、気づよくいいました。</seg></p>
        <p>「そんなら、あたしたちは、いつまでも、えんどおい娘でいましょう。」</p>
        <p>「ジョウのいうとおりです。不幸な奥さんや、だんなさんをあさりまわっている娘らしくない娘よりも、幸福なえんどおい娘でいたほうが、よろしい。なにも心配することはありません。メグ、ほんとに愛のある人は、相手の貧乏などにひるむことはありません。かあさんの知っているりっぱな婦人のなかには、むかしは貧乏だったかたがいくらもあります。けれど、愛をうける、ねうちのあるかたのばかりだったから、人がえんどおい娘にしておかなかったのです。そういうことは、なりいきにまかせておけばいいので、今は、この家庭を幸福にするように努め、やがて結婚の申しこみをうけたらばその新らしい家庭にふさわしい人になるし、もしかしこい結婚ができなければ、この家に満足して暮すのです。それから、もう一つ、よく覚えていてほしいのは、かあさんはいつでもあなたが秘密をうち明けることのできる人ということ、また、おとうさんは、あなたがたのよいお友だちであるということです。そして、おとうさんとあたしは、あなたがたが結婚しても、独身でいても、あたしたちの生活のほこりであり、なぐさめであることを信じ、また望んでもいるということをね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-169306-169335">メグとジョウは、</seg></p>
        <p>「おかあさん、あたしたちきっとそうなります！」と、ほんとに、心からさけんで、おやすみなさいをいいました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-169495-169787" style="padding-inline-start: 10em">
        <p><app type="base-text-variant" source="#source-169651-169783"><lem><seg n="2" type="heading" rend="dogyo" source="#source-169519-169651"><seg source="#source-169519-169567">第十　ピクイック・クラブと郵便局</seg></seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-169729-169777">第十　ピックイク・クラブと郵便局</seg></rdg></app></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-169787-170023">春がめぐって来ると、いろいろと新らしいたのしみがはやり、しだいに日がのびるにしたがって、長い午後の時間に、いろいろの仕事やあそびができるようになりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-170023-170394">庭に手入れをしなければなりませんでした。姉妹はめいめい四分の一の地所をもらって、じぶんのすきなようにやりました。ハンナが、どれがどのかたの庭か、支那から見たってわかるといいましたが、まさにそのとおりで、四人の趣味はひとりひとりちがっていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-170394-170841">メグは、ばらとヘリオトロープと天人花と、かわいいオレンジの木をうえました、ジョウの花壇には、二シーズン、けっしておなじじものがうえられたことがなかったのは、たえず新らしい実験を試みるからで、今年は日まわりをうえるはずで、その種子はにわとりと、そのひよこの餌にするためでした。ベスは、スイート・ピイ</seg><app type="base-text-variant" source="#source-170844-170886"><lem><seg source="#source-170841-170844">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-170877-170880">・</seg></rdg></app><seg source="#source-170886-171395">もくせい草、ひえん草、なでしこ、パンジイ、よもぎなど、古風な香りゆたかな花や、小鳥の餌になるはこべ、子猫のためのいぬはっかなどをうえました。エミイは、小さくはあるが、かわいいあずま家をつくり、にんどうだの、朝がおだのを、その上にはわせ、いろんな花を咲かせました。そして、せの高い白ゆりだの、やさしいしだなど、たくさんの花をうえこみました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">晴れた日には、庭いじり、散歩、川でのボートあそび、花の採集など、雨の日には、室内のあそびごとに時間をすごしました。そのあそびのなかには、もとからのもあり、新らしいのもありましたがその一つ、ピクイック・クラブというのは、イギリス文豪ジケンスの作品中から、その名をとったものでした。このクラブは、そのころはやっていた秘密会で、土曜日の夕方、ひろい屋根部屋で開き、ずっと一年もつづけて来たのです。会はこんな順序で行われます。ランプをおいたテーブルの前に、三つのイスをならべ、ちがった色でクラブの頭文字のＰ、Ｃ、二つの大きな字をぬいつけた四つの白いきしょうが用意されました。そして、「ピクイック週報」という週刊新聞が発行され会員はみんななにか寄稿することになって、文才のあるジョウが、編集にあたりました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-172444-172717">今後七時、四人の会員は、クラブ室にのぼっていき、くびに、きしょうをまきつけ、ものものしい態度で席につきました。ディケンスの小説のなかの名を借りて、メグは一ばん年上なので、サミエル・</seg><app type="base-text-variant" source="#source-172735-172807"><lem><seg source="#source-172717-172735">ピクイック氏</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-172783-172801">ビクイック氏</seg></rdg></app><seg source="#source-172807-173029">。ジョウは文学的才能があるので、オーガスタス・スノーダグラス氏、ベスは、トラシイ・タップマン氏、エミイは、ナザニエル・インクル氏でありました。会長の</seg><app type="base-text-variant" source="#source-173044-173110"><lem><seg source="#source-173029-173044">ピクイック</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-173089-173104">ビクイック</seg></rdg></app><seg source="#source-173110-173502">が、週報を読みました。週報には、創作物語、詩、地方のニュース、おかしな広告、たがいの、欠点や短所を注意しあういましめなどが、いっぱいのっていました。今夜は、玉のはいっていない目がねをかけた会長が、テーブルをたたいて、せきばらいをし、おもむろに読みはじめました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-173502-173684">会長が、週報を読みおわると、いっせいに拍手の音が起り、つぎにスノーダグラス氏が、ある提案をするために立ちあがりました。</seg></p>
        <p>「会長ならびに紳士諸君。」と、議会で演説するような堂々たる態度と調子ではじめました。「わたくしは、ここに一名の新会員の入会許可を提議したいと思うのであります。その人は、その名誉をあたえられるにふさわしい人物でありまして、入会されたならば、クラブの精神、週報の文学的価値に寄与するところ大なるものがありましょう。そして、その人とは、ほかならぬテオドル・ローレンス氏です。ねえ、入れてあげましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-174280-174519">ジョウの演説は、最後で調子がかわったので、みんな大笑いしました。けれど、すぐに、みんな気づかわしそうな顔をして、ひとりも発言しませんでした。そこで、会長が、</seg></p>
        <p>「投票によってきめることにします。」と、いい、つづいて「この動議に賛成のかたは、賛成といって下さい。」と、大声でうながしました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-174713-174832">すると、おどろいたことに、ベスのトラシイ・タップマン氏が、おずおずした声で、</seg></p>
        <p>「賛成」と、いいました。</p>
        <p>「反対のかたは、不賛成といって下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-174932-175150">メグとエミイ、すなわち、ピクイック氏と、インクル氏は、不賛成でありました。そして、まずエミイのインクル氏が立ちあがって、いと上品にいいました。</seg></p>
        <p>「わたしたちは、男の子たちを入会させたくありません。男の子たちは、ふざけたり、かきまわしたりするだけです。これは、女のクラブですから、わたしたちだけで、やっていきたいと思います。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-175422-175589">ついで、メグのピクイック氏が、何かうたがうときにするくせの、ひたいの小さなカールをひっぱりながらいいました。</seg></p>
        <p>「ローリイは、わたしたちの週報を笑いものにし、あとでわたしたちをからかうでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-175717-175827">すると、スノーダグラス氏は、はじかれたようにとびあがって、熱をこめて、</seg></p>
        <p>「わたしは紳士として誓います。ローリイはそんなことは致しません。かれは書くのがすきで、わたしたちの書いたものに趣きをそえ、わたし<app type="base-text-variant" source="#source-176028-176079"><lem><seg source="#source-176019-176028">たちが</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-176067-176073">たが</seg></rdg></app>センチメンタルになるのを防いでくれると思います。そう思いませんか？　わたしたちは、かれにすこししかなし得ませんが、かれはわたしたちにたくさんのことをしてくれます。よって、かれに会員の席をあたえ、もし入会すれば、よろこんで迎えたいと思います。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-176444-176617">いつも受けている利益をたくみに暗示されたので、ベスのタップマン氏は、すっかり心をきめたようすで立ちあがりました。</seg></p>
        <p>「そのとおりです。たとえ、すこしぐらいの不安はあっても、かれを入会させましょう。もしかれのおじいさんも、はいりたければ入会させてよいと思います。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-176838-176966">ベスのこの力ある発言に、みんなおどろき、ジョウは席をはなれて握手を求めに来ました。</seg></p>
        <p>「さあ、それでは、もう一度投票します。諸君はわたしたちのローリイであることを頭にいれて、賛成といって下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-177133-177294">ジョウのスノーダグラス氏が、いきおいこんでさけぶと、たちまち、賛成という三つの声がいっしょに聞えました。</seg></p>
        <p>「よろしい、ありがたいしあわせ！　さて、それでは、時をうつさず、さっそく新会員を紹介させて下さい。」と、ジョウは、戸だなを開けると、くずいれぶくろの上に、おかしさをこらえて顔をあかくして、ローリイがすわっていました。このいたずらに、すっかりやられた三人が、</p>
        <p>「いたずら者。ひどいわ！」と、ぶつぶついっているあいだに、ジョウはかれをひき出し、会員章をあたえて席につかせてしまいました。</p>
        <p>「きみたち、ふたりのずるいのにはおどろかされましたぞ。」と、ピクイック氏は、こわいしかめっ面をしようとしましたが、かえってにこにこ顔になってしまいました。その新会員に、うやうやしく敬礼をして、きわめて愛想のよいようすでいいました。</p>
        <p>「会長閣下および淑女諸君、いや、これは失礼、紳士諸君、どうぞ自己紹介をお許し下さい。わたくしは、このクラブの<app type="base-text-variant" source="#source-178383-178431"><lem><seg source="#source-178377-178383">末席</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-178419-178425">未席</seg></rdg></app>をけがすサム・ウェラーと申します。」</p>
        <p>「すてき　すてき」と、ジョウはテーブルをたたきながらいいました。</p>
        <p>「ただ今、わたくしを、じょうずにひっぱり出して下すった、忠実な友だち、そして、尊敬すべき後援者は、今夜のずるい計画については、すこしも責任はないのでありまして、これはすべてわたくしがたてた計画で、わたくしがむりをいって、やっと承知させたのであります。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-178965-179141">ローリイが、手をふりながらそういうと、そのじょうだんが、おもしろくてしようがないというふうに、スノーダグラス氏は、</seg></p>
        <p>「みんなじぶんのせいにしなくってもいいわ。戸だなにかくれることは、あたしがいい出したんだわ。」といいました。</p>
        <p>「この人のいうことなど心にかけてはいけません。計画をしたわる者はわたくしです。しかし名誉にかけて、二度とこんなことはしません。今後は、永久につづくこのクラブのために、大いに力をいたす考えであります。」</p>
        <p>「ヒャ！　ヒャ！」と、ジョウはフライ鍋のへりをたたきながらさけびました。</p>
        <p>「つづけろ！　つづけろ！」と、インクル氏は、会長がうやうやしく礼をしている間にいいました。</p>
        <p>「おお、一言申しておきたいことは、小生の受けた名誉を感謝いたしたく、となり合う両国民の親善関係をふかめる一助として、庭のすみに郵便局をつくったことであります。もとはつばめ小屋でしたが改造しました。手紙、原稿、本、小づつみ、なんでもとりつぎ、時間の節約に役だつと思います。両国民はそれぞれかぎをもちますわけで、ここにそのかぎを贈呈することをお許し下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-180387-180731">ウェラー氏が、かぎをテーブルの上において、自席にもどると、さかんな拍手、さけび声が起りました。つづいていろんな討議がおこなわれ、めいめい、かっぱつに意見をかわしました。そして、新人会員のばんざいを、最後にとなえて散会しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-180731-181136">たしかに、ローリイのサム・ウェラー氏の入会は、このクラブに生気をふきこみ、書くものでも、週報にちがったおもむきをそえました。郵便局は、すばらしい考えでした。たくさんの奇妙なものがとりつがれました。悲劇台本、ネクタイ、詩、漬もの、草花の種子、長い手紙、譜本、しょうがパン</seg><app type="base-text-variant" source="#source-181139-181178"><lem><seg source="#source-181136-181139">、</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app><seg source="#source-181178-181644">ゴム靴、招待状、注意書き、小犬などでした。ローレンス老人も、このあそびをおもしろがって、おかしな小づつみや、ふしぎな手紙や笑いの電報などを送って来ました。また、ローレンス家の園丁はマーチ家の女中ハンナにひきつけられ、本気で恋文を書いて来ました。その秘密がばれたとき、みんなはどんなに笑いころげたことでしょう！</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-181644-181762" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-181668-181758"><seg source="#source-181668-181698">第十一　経験が教える</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p><app type="base-text-variant" source="#source-181765-181804"><lem><seg source="#source-181762-181765">「</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>六月一日、明日はキングさんの家の人、みんな海岸へ出かけていって、あたしはひまになるの！　三ヶ月のお休み！　なんてうれしいんでしょう！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-182007-182360">あるあたたかい日、家へ帰って来たメグが、ジョウを見つけてさけびました。ジョウは、いつになく疲れたようすで、ソファの上に横たわり、ベスがそのほこりだらけの靴をぬがしてやっていました。エミイは、みんなのためにレモン水をつくっていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-182360-182395">ジョウがいいました。</seg></p>
        <p>「マーチおばさんも、今日お出かけになったわ。すてきでしょ。いっしょにいってほしいと、いわれやしないかと、びくびくしちゃった。それで、あたし、おばさんを早くたたせたいので、お気にめすように、それこそいっしょうけんめいにはたらいたわ。だけど気のきいたこのおつきを、つれていこうと思われたら大へんだと心配したの。それでおばさんを馬車にのりこませると、なにかいってたけど聞えないふりをして、大いそぎで逃げて帰ったの、ほんとに<app type="base-text-variant" source="#source-183034-183103"><lem><seg source="#source-183019-183034">助かったわ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-183079-183097">助かったわわ</seg></rdg></app>。」</p>
        <p>「よかったわね。それで、メグねえさん。この休みになにをなさるつもり？」と、エミイが尋ねました。</p>
        <p>「うんと朝ねぼうして、なにもしないの。だって冬からこっち、朝早くからたたき起されて、ひとのためにはたらいてばかりいたんですもの。大いに休んであそぶのよ。」</p>
        <p>「ふうむ、あたしはそんなだらけたの大きらい。たくさん本を集めておいたから、あの古い林檎の枝の上で、このかがやかしい少女時代をよくするために勉強するの。」と、ジョウがいいました。</p>
        <p>「あたしたちも、勉強はやめにして、おねえさんのまねしてあそびましょう。」と、エミイがいうと、ベスも、よろこんで、</p>
        <p>「ええ、いいわ。あたし<app type="base-text-variant" source="#source-183968-184028"><lem><seg source="#source-183956-183968">新らしい</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-184010-184022">新ちしい</seg></rdg></app>歌をすこしおぼえたいし、人形さんの夏服もつくらなければならないし。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-184156-184269">そのとき、おかあさんが、針仕事の手をやめて、みんなにむかっていいました。</seg></p>
        <p>「一週間、はたらかないであそんでごらんなさい。土曜日の晩になると、つまらないということが、きっとわかるでしょう。」</p>
        <p>「そんなことありませんわ。とてもうれしいわ。きっと。」と、メグがいいました。</p>
        <p>「ねえ。わが友、祝杯をあげましょうよ。あそびは永久に！　あくせくしっこなし！」と、ジョウはレモン水がいきわたったとき、そのコップを高くささげてさけびました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">みんなはたのしそうに飲みほしました。そのときから、ぶらぶらあそびがはじまりました。あくる朝も、メグは十時までねどこのなか。ジョウは花瓶に花もささず、ベスはそうじをしないし、エミイの本はちらかったまま、ただ「おかあさんの領分」だけが、きちんと片づいているだけでした。この部屋では、メグは、休息も読書もできず、あくびが出るばかり、給料で夏のどんなドレスが買えるかなどと考えるのでした。ジョウは、午前のうちはローリイと川へボートこぎにいき、今後は林檎の木の上で「広い世界」という物語を涙を流して読みました。ベスは、戸だなをかきまわし、そのままにして、ピアノへ気をうつしていきました。エミイは、じぶんの花園のスケッチをはじめました。それから散歩にいきましたが、夕方になってぬれねずみになって帰って来ました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-185846-186430">お茶のとき、四人はその日のことを、いろいろ話し合いましたが、たのしかったけれど、いつになくその日は、永く感じられたということに、みんなの意見は一致しました。そして、つぎの日も、また、つぎの日も、休んであそびました。ところが、いよいよ一日が永く感じられ、なんとなくおちつかない気分になって来ました。すると、悪魔は四人の心をねらい、いろんなわるいことを見つけて、あばれはじめたのであります。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-186430-186673">たとえば、メグは布地を小さくきりすぎて、一枚の服をだいなしにしてしまいました。ジョウは、本を読みすぎて目がぼやけ、いらいらした気分となって、やさしいローリイと、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-186688-186760"><lem><seg source="#source-186673-186688">けんかして</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-186733-186754">けんかしてして</seg></rdg></app><seg source="#source-186760-187305">しまいました。ベスは、あそんでばかりいないで、いつもの習慣で家事のお手つだいをするので、わりにいいほうでしたが、それでも、家のなかの気分に動かされて、いらいらしてしまい、人形をしかりとばしたりしました。エミイは、ひとりであそぶことが、むずかしいことがわかりました。一日中、絵をかいてもいられませんし、人形あそびはきらいでしたし、すっかり心のつかれをおぼえました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-187305-187697">金曜日の晩になると、だれもあそびにあきたとはいいませんでしたが、もう一日で一週間がおわるので、うれしく思いました。おかあさんのほうでも、ほうれごらんと、ちゃんと見てとって、この教訓をいっそう印象づけたいと思って、わざとハンナに土曜日一日、休みをあたえました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-187697-187864">土曜日の朝、みんなが起きてみると、台所には火の気はなく、食堂には朝御飯はなし、おかあさんもハンナもいません。</seg></p>
        <p>「あら、どうしたっていうんでしょう！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-187923-188123">ジョウがさけんだとき、メグはもう二階へかけあがっていき、まもなく、ほっとして、けれど、すこしはおかしそうな顔をしておりて来ました。</seg></p>
        <p>「おかあさんは、御病気ではないけど、おつかれでおやすみよ。今日一日は、みんなで好きなようになさいって。」</p>
        <p>「そう。いいじゃないの、おもしろいわ、あたしなにかしたくて、うずうずしてたんですもの。」と、ジョウがいいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-188451-189125">まったく、今、四人はすこし仕事がしたくなりました。メグがコック長となってさっそく食事の仕度がはじまり、みんなおもしろがってやりました。おかあさんは、じぶんのことはかまわないでといいましたが、おかあさんの食事は用意され、ジョウが二階へはこびました。わかしすぎた紅茶はにがく、オムレツはこげ、ビスケットは重曹でかたまって、ぶつぶつしていましたが、おかあさんは、感謝して受け、ジョウが去ってしまうと、おかしくてたまらなくて、ひとりで笑ってしまいました。</seg></p>
        <p>「かわいそうに、みんなこまっているでしょう。でも、そうつらいとも思っていないだろうし、後のためにもなることだから。」と、つぶやいて、おかあさんはじぶんで用意しておいたもっとおいしい食物をとり出し、運ばれた食事はわからないようにしまつして、食べたことにしておいたので、みんなはうれしがりました。これはおかあさんらしい、ちょっとしたうそでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-189637-189795">ところで、階下ではいろんな不平が起りました。食事の失敗に、コック長はひどくくやしがりました。ジョウは、</seg></p>
        <p>「いいわ。お昼の食事は、あたしが女中になって用意するわ。ねえさんはおくさんになって、お客さまの相手をしてちょうだい。」と、いって、ローリイをよぶことを提案しました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-190043-190303">これは、賛成されました。そこで、ジョウは、さっそくローリイに招待状を書いて郵便局へ出しておきました。けれど、ジョウのうで前は、すこしあぶないようでした。メグが心配すると、</seg></p>
        <p>「だいじょうぶ、コンビーフも、じゃがいももある。つけ合せに、アスパラガスとえびを買ってくるわ。それから、ちさでサラダをつくりましょう。つくりかたの本を見ればいいわ。デザートは、白ジェリイといちご、もっとぜいたくすれば、コーヒーも出すのよ。」</p>
        <p>「ジョウ、あなたは。しょうがパンとキャンディだけしかつくれないじゃないの。あたしこの御馳走には関係しないわよ。だって、あなたが勝手にローリイをよんだんだから。」</p>
        <p>「おねえさんは、ローリイを、そらさないようにして下さればいいわ。でもこまったら、なんでも教えて下さるでしょうねえ？」と、ジョウはむっとしました。</p>
        <p>「ええ、でもあたしいろんなこと知らないわ。おかあさんに、尋ねてからにするほうがいいわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-191259-191435">ジョウは、じぶんのうでをうたがうようなことをいわれたので、ぷりぷり怒って部屋を出て、おかあさんへ相談にいきました。</seg></p>
        <p>「好きなようになさい。おかあさんのじゃまをしないでね。あたしは食事は外でします。家のことなどかまっていられません。今日はお休みです。本を読んだり、手紙を書いたり、お友だちをたずねたりして過します。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-191734-191934">いつもいそがしいおかあさんが、今日は朝からゆれイスにかけて本を読んでいるふしぎなありさまと、けんもほろろな、その言葉に、ジョウは、</seg></p>
        <p>「へんだわ。おかしいわ。」と、ひとり言をいいながら階段をおりて来ると、ベスの泣き声が聞えました。いってみると、鳥かごのなかでカナリヤが死んでいました。</p>
        <p>「みんな、あたしのせいよ。えさも水もちっともないわ。」と、ベスはこわばって、つめたくなったカナリヤを手の上にのせて、かいほうしましたが、もうだめでした。</p>
        <p>「お墓へいれてやるわ。もうあたし小鳥なんかかわない。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-192474-192533">ベスは、すっかり気を落していました。</seg></p>
        <p>「おとむらいは、お昼からにして、みんなでおまいりしましょう。さ、もう泣かないで、箱のなかへねかせておやり。」と、ジョウはいって、台所へはいりましたが、台所は手のつけられないほど混乱しストーヴは火が消えていました。ジョウは火を起し、お湯がわくまでに市場に買い出しにいくことにしました。えびとアスパラガスと、いちごを二箱買って来ると、火は起きていました。ジョウはまず台所を片づけましたが、ハンナがパンをやくように鍋にしかけたままにしてあったのを、メグがこねなおして、ストーブにのせたまま、客までサリー<app type="base-text-variant" source="#source-193280-193319"><lem><seg source="#source-193277-193280">・</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app><seg source="#source-193319-193372">ガーデナアのお相手をしていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><app type="base-text-variant" source="#source-193384-193435"><lem><seg source="#source-193375-193384">ジョウ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-193423-193429">メグ</seg></rdg></app><seg source="#source-193435-193479">は、そこへとびこんでいって、</seg></p>
        <p>「ね、パンがお鍋のなかでころがるようになったら、ふくらんだのじゃない？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-193589-193786">サリイは笑い出しましたが、メグはただうなずいただけでした。ジョウは、すぐにひきかえし、すっぱいパンをそのまま、かまにいれました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-193786-194139">そのとき、おかあさんは、どんなぐあいにやっているか、あちこちのぞきまわり、あわれなカナリヤを箱にいれて、着せてやる服をぬっているベスに、なぐさめの言葉をかけると、外へ出かけてしまいました。娘たちは、なんだかもの足りない気がしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-194139-194672">そこへ、クロッカーがやって来ました。この人は、やせて黄色い顔をしたオールドミスで、いろいろとあたりをながめまわし、お昼の食事をごちそうになりたいといいました。娘たちは、この人がきらいでしたが、年よりで貧乏で友だちもないから、親切にしてあげるようにいわれていました。その人は、いろいろなことを尋ねたり、やたらに批評したり、知人のうわさ話をしたりしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-194672-194942">その朝のジョウの苦しい骨折は、たいへんなものでありました。ジョウの骨折は、すべて失敗におわり、アスパラガスは、一時間もにてまだかたく、パンは黒くこげ、サラダのかけじるは食べられる</seg><app type="base-text-variant" source="#source-194960-195032"><lem><seg source="#source-194942-194960">しろものでは</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-195008-195026">しろものでほ</seg></rdg></app><seg source="#source-195032-195154">なく、えびには手こずり、じゃがいもはなまにえ、白ジェリイはぶつぶつだらけでした。</seg></p>
        <p>「まあ、いいわ。ビーフとパンにバタをつけて食べてもらえばいいわ。だけど、朝のうちまるで、むだになったのがくやしい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-195330-195737">ジョウは、いつもより三十分おくれて食事のベルを鳴らしましたが、いつもりっぱな料理を食べつけているローリイと、失敗をほじくり出すような好奇の眼と、それをしゃべり散らす舌をもつクロッカーの前にならんだ料理をながめて、ジョウは顔がほてり、すっかりしょげてつっ立っていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-195737-196202">ああ、料理はちょっと味をみただけで、のこされていきます。エミイはくつくつ笑い、メグはこまった顔をし、オールド・ミス・クロッカーは口をつぼめるし、ローリイは景気づけようとして大いにしゃべりました。ジョウの最後の頼みはいちごでした。ガラスの皿に赤いいちごをもり、おいしそうなクリームがかかっています。だが、それを</seg><app type="base-text-variant" source="#source-196211-196268"><lem><seg source="#source-196202-196211">食べた</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-196250-196262">食べた・</seg></rdg></app><seg source="#source-196268-196301">クロッカーは、しかめ面</seg><app type="base-text-variant" source="#source-196307-196355"><lem><seg source="#source-196301-196307">して</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-196343-196349">しで</seg></rdg></app><seg source="#source-196355-196636">あわてて水を飲みました。ローリイは口をゆがめながらも男らしく食べてしまいました。エミイは、むせかえり、ナプキンで口をおさえて、あたふたと食卓からはなれていきました。ジョウはふるえながら、</seg></p>
        <p>「まあ、どうしたの？」と、さけびました。</p>
        <p>「お砂糖のかわりに塩をいれたんだわ。クリームすっぱいわ。」と、メグが答えました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-196820-197329">ジョウは、うめき声をたてて、イスにたおれかかりました。ところが、がまんをしようとしても、おかしくてたまらないというような、ローリイの顔につきあたると、ジョウはきゅうにこの事件がいかにもこっけいに思われ、涙のこぼれるほど笑い出しました。すると、ぶつくさ屋のクロッカーもいっしょに、みんな笑い出し、不幸な宴会は、ともかく陽気におわりました。</seg></p>
        <p>「あたし、もう片づける元気ないわ。だから、おとむらいをして、すこしおちつきましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-197460-198083">ジョウは、みんなが食卓をはなれたときにいいました。クロッカーは帰っていきました。きっとこの料理のことを、しゃべりたかったからでしょう。みんなはベスのために、やっとおちつきました。ローリイは、木立のなかの、しだの下にお墓をほり、カナリヤはやさしいベスの手で、涙とともにうめられ、こけでおおわれ、すみれとはこべの花輪が、墓石の上にかざられました。墓石には、ジョウが、食事の仕度をしながらつくった詩が書かれていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-198083-198706">おとむらいがすむと、ベスは悲しみと、さっきのえびとで、胸がいっぱいになり、じぶんの部屋へひっこみましたが、ベッドがそのままになっていて、ねる場所もありませんでした。片づいているうちに、悲しみもやわらいで来たので、台所で片づけものをしているジョウの手つだいをしました。二人はへとへとにつかれました。ローリイは、エミイを馬車にのせてつれ出しました。すっぱいクリームで気持がわるくなっていたエミイは、大よろこびでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-198706-198721">やがて、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-198736-198799"><lem><seg source="#source-198721-198736">おかあさん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-198781-198793">おかさん</seg></rdg></app><seg source="#source-198799-198984">が帰宅しました。三人の娘たちがはたらいていましたし、戸だなをちょっとのぞいてみて、経験の一部が成功したことがわかりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-198984-199340">ところが、やっと片づけたのに、三人は休むこともできませんでした。と、いうのは、数人の来客があり、それお茶、それお使いというわけでした。けれど、露とともにたそがれがせまるころ、姉妹たちは六月のばらが美しく咲きはじめたポーチに集りました。</seg></p>
        <p>「なんていやな日だったでしょう。今日は。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-199405-199452">ジョウが口をきると、メグが、</seg></p>
        <p>「いつもより短いような気はしたけど、とてもいやだったわ。」</p>
        <p>「ちっとも家みたいじゃないわ。」と、エミイ。</p>
        <p>「おかあさんと、カナリヤがいなければ、家のような気がしないわ。」とベスは、涙ぐんで、からの鳥かごを見あげました。</p>
        <p>「みなさん、かあさんは帰って来ましたよ、ベス、カナリヤがほしければ、明日買ってあげましょうね。」と、いいながら、おかあさんも娘たちの仲間入りをしました。おかあさんも、一日のお休みが、あまりたのしそうではありませんでした。</p>
        <p>「みなさん、あなたたちの経験は、もうたくさんですか！」</p>
        <p>「あたし、もうたくさん。」と、ジョウ、ほかの三人も、声をそろえて、</p>
        <p>「あたしも！」</p>
        <p>「おかあさんは、みなさんが、どんなふうにやるかと思って、わざとなにもかもほうって、出かけました。けれど、今日の経験で、みなさんは、家をたのしくするには、めいめいが、受持の仕事を忠実にやらなければならぬということがわかったと思います。ハンナとあたしが、みんなの仕事をしていれば、<app type="base-text-variant" source="#source-200747-200813"><lem><seg source="#source-200732-200747">あなたがた</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-200792-200807">おなたがた</seg></rdg></app>は、そう幸福で気らくだったとは思いませんが、とどこおりなくやっていけたのです。だから、かあさんは、だれもかれも、じぶんのことばかり思ったら、どんなことになるか、教訓としてみんなに見せておきたかったのです。あなたがたが、たがいに助け合い、まい日のお仕事があれば、ひまになったとき、それがとてもたのしく思えるし、くるしいときにはたがいに、しんぼうし合っていけば、家はどんなにたのしく美しいでしょう。わかりましたか？」</p>
        <p>「わかりました。よくわかりました。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-201489-201539">娘たちは、口々にさけびました。</seg></p>
        <p>「では、かあさんのいうことを聞いて、もう一度、小さい重荷をしょうのですよ。たまには重く思えても、みんなのためになり、なれればかるくなっていきます。はたらくことは健康にもよく、たいくつはしないし、わるい心も起らないものです。身体にも心にもよく、お金や流行ものなどより、精神力や独立心をあたえてくれます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-201994-202303">みんなは、はたらくことにきめました。よろこんで。ジョウは、お料理をけいこする、メグは、おかあさんにかわって、おとうさんへ送るシャツをぬう、ベスはピアノやお人形あそびにあまり時間をとれないで、まい日勉強する</seg><app type="base-text-variant" source="#source-202306-202345"><lem><seg source="#source-202303-202306">、</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app><seg source="#source-202345-202530">エミイは、ボタンのあなかがりがじょうずになるように、また文法にかなう言葉づかいのけいこをすると、てんでに決心をのべました。</seg></p>
        <p>「けっこうです。かあさんは、今度の経験がうまくいって、よかったと思います。もうくりかえさなくてもいいと思います。でもね。どれいのように、はたらきすぎないように、はたらくにもあそびにも、時間を<app type="base-text-variant" source="#source-202824-202878"><lem><seg source="#source-202815-202824">きめて</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-202863-202872">きめで</seg></rdg></app>、まい日を有益にたのしく送って、時間をじょうずに使い、時間のねうちをさとるようになさい。それできたら、貧乏でも、娘時代をたのしくすごせるし、年をとってからも後悔することもなく、この人生をりっぱに生きていけるのです。」</p>
        <p>「よくわかりました。」と、娘たちは、おかあさんの教訓を、ふかくも心にとどめました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-203331-203473" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-203355-203469"><seg source="#source-203355-203397">第十二　ローレンスのキャンプ</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-203473-203593">ベスは郵便局長でした。たいてい家にいて、時間をきめて局へいくことができましたし</seg><app type="base-text-variant" source="#source-203596-203638"><lem><seg source="#source-203593-203596">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-203629-203632">。</seg></rdg></app><seg source="#source-203638-203880">かぎで小さな扉を開けて、郵便物をとって来て、くばるのがすきだったからです。七月のある日のこと、ベスはりょう手にいっぱい郵便物をかかえて帰り、家中にくばりました。</seg></p>
        <p>「おかあさん、はい、花束、ローリイは一度も忘れたことないのねえ。」と、いって、ベスはおかあさんの花瓶にさしました。</p>
        <p>「メグねえさんには、手紙が一本、手ぶくろが片っぽ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-204133-204243">メグは、おかあさんのそばにすわって、シャツのそで口をぬっていましたが、</seg></p>
        <p>「あら、りょうほう忘れて来たのに。お庭に落して来や<app type="base-text-variant" source="#source-204330-204393"><lem><seg source="#source-204318-204330">しない？</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-204372-204387">しないい？</seg></rdg></app>」</p>
        <p>「いいえ、郵便局に片っぽしかなかったわ。」</p>
        <p>「片っぽなんていやだわ。でもそのうちに片っぽ見つかるでしょう。あたしのお手紙は、ドイツの歌の訳したのがはいっているだけ、きっとブルック先生が<app type="base-text-variant" source="#source-204685-204745"><lem><seg source="#source-204673-204685">なさった</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-204727-204739">なかった</seg></rdg></app>のね。」</p>
        <p>「ジョウ博士には、手紙が二通、本が一冊、おかしな古帽子、帽子は大きくて、郵便局からはみ出していました。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-204917-205024">ベスは、書斉でなにか書きものしているジョウに、笑いながらいいました。</seg></p>
        <p>「まあ、いやなローリイさん、あたし日にやけるから大きな帽子がはやるといいといったら、流行なんか気にしないで、大きな帽子かぶりなさいっていうから、あればかぶるといったの。いいわ。あたしかぶって、流行なんか気にしないこと見せてあげよう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-205377-205571">その帽子をそばの胸像にひっかけて、手紙を読みはじめました。それはおかあさんからの手紙で、ジョウの目はよろこびにかがやきました。</seg></p>
        <p>「愛するジョウ――あなたが、かんしゃくをおさえようと努めているのを見て<app type="base-text-variant" source="#source-205679-205721"><lem><seg source="#source-205676-205679">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-205712-205715">。</seg></rdg></app>かあさんはたいへんうれしく思っています。あなたはその試み、失敗、成功についてなにもいわないし、日々あなたを助けて下さる神さまのほかには、だれも見ていないと考えておいででしょう。けれど、かあさんものこらず見ていました。そして、りっぱな実がむすびそうですから、あなたの決心が真心からであることがわかります。愛する娘よ、しんぼう強く勇ましくやり通して下さい。かあさんが、あなたに同情をよせていることを、常に信じて下さい。」</p>
        <p>「まあ、うれしい。百万円もらって山ほど賞讃されるよりうれしい。かあさんが助けて下さるんですもの、あたしやります。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-206520-206813">ジョウは、顔をふせたので、うれし涙で原稿をぬらしてしまいました。やっと顔をあげたジョウはこのありがたい手紙を、ふいにおそって来る敵へのふせぎの楯にするつもりで、上衣の内がわにピンでとめました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-206813-206872">もう一つの手紙はローリイからでした。</seg></p>
        <p>「やあ、親愛なるジョウさん、明日、イギリス人の男の子と女の子が二三人来るから、おもしろくあそびたいのです。天気がよかったら、ロングメドウへボートでいってテントを張り、べんとうを食べてからクロッケーをし遊ぼうというわけ。焚火をし料理をつくり、ジプシイみたいにやるつもり、みんないい人たちで、そういうことが好き、ブルック先生もいっしょで、男の子のかんとくをして下さるし、ケイト・ボガンさんが女の子をとりしまって下さいます。みんなぜひ来て下さい。食料の心配は無用、すべてぼくのほうで用意します。右とりいそぎ、あなたの永久の友ローリイ。」</p>
        <p>「すてきだわ！」と、ジョウはさけんで、メグに知らせるためにいそぎました。</p>
        <p>「ね、かあさん、いってもいいでしょう。いけばローリイも助かるわ。あたしボートこげるし、メグはおべんとうの世話ができるし、エミイやベスだってなにか役にたつわ。」</p>
        <p>「ボガンの人たち、大人くさくなければいいのね。あの人たちのこと知ってる？」と、メグがいいました。</p>
        <p>「兄妹四人ということしか知らないわ。ケイトはあなたより年上、ふた児のフレッドとフランクはあたしぐらい、グレースは九つか十でしょう。ローリイは、その人たちと外国で知り合ったんだって。兄妹のうち男の子が好きらしいのよ。でもローリイは、ケイトをあまり好きでないらしいわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-208565-208774">メグとジョウは、着ていく服について話し合いました。キャンプだから、しわくちゃになってもかまわないものにすることにきまりました。ジョウは、</seg></p>
        <p>「さあ、精出して、今日中に、二倍の仕事をしておきましょう。明日、安心して遊べるように」といって、ほうきをとりに<app type="base-text-variant" source="#source-208954-209020"><lem><seg source="#source-208939-208954">いきました</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-208999-209014">いききした</seg></rdg></app><seg source="#source-209020-209025">。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-209025-209342">つぎの日、いい天気を約束しに、お日さまが娘たちの部屋をのぞいたとき、そこでは、娘たちがたのしい遠足の仕度をしていました。ベスは、さっさと仕度をすまして、窓ぎわへいって、おとなりのようすを、たえず知らせました。</seg></p>
        <p>「あ、おべんとうをつめている。あら、ローリイが、まるで水兵さんみたいなかこうをして……」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-209476-209748">やがて、みんなの仕度ができました。ジョウは、ローリイがじょうだん半分でよこした旧式の麦わら帽子をかぶり、あかいリボンをしばりました。それを見て、メグがやめなさいというと、ジョウは</seg></p>
        <p>「あたし、だんぜんかぶっていくの。だって、かるくて大きくて日よけになるし、みんなおもしろがるわよ。」と、いって、平気で出ていきました。それにつづいて、はなやかな三人の<app type="base-text-variant" source="#source-210006-210060"><lem><seg source="#source-209997-210006">娘たち</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-210045-210054">娘だち</seg></rdg></app><seg source="#source-210060-210092">の小隊がいきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-210092-210364">ローリイは、かけて来て小隊をむかえ、じぶんの友だちに紹介しました。芝生が応接間になり、そこに陽気な光景がひろげられました。すぐにみんなは心やすくなり、えんりょなく話し合いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-210364-211086">テントやおべんとうは、クロッケーの道具などといっしょに、さきへ運んでありましたので、一行は二隻のボートにのりこんで岸をはなれました。ローレンス氏は、岸に立って帽子をふっていました。ローリイとジョウが一隻のボートをこぎ、ブルック先生と大学生のネッドが、もう一隻のほうをこぎました。ジョウのおかしな帽子は、みんなを笑わせて気分をやわらげ、ボートをこぐと、つばがばたばたしてすずしい風が起りましたし、ジョウにいわせれば、もし夕立でもふれば、みんなをいれてあげることができるそうでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-211086-211355">メグは、もう一隻のボートにのっていましたが、ブルック先生とネッドにとって、よろこばしい存在で、この二人の青年は、メグがいるので、いつもよりいっそうじょうずにボートをこぎました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-211355-211696">ロングメドウについたとき、もうテントがはられ、クロッケーをするための、鉄輪がとりつけてありました。そこは、気持のよい緑の野原で、まんなかに、三本の樫の樹が、広く枝をはり、クロッケーをする芝生は、きれいに刈りこまれていました。</seg></p>
        <p>「キャンプ・ローレンスばんざい！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-211749-211767">みんなが、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-211782-211848"><lem><seg source="#source-211767-211782">よろこびの</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-211827-211842">よろこのび</seg></rdg></app><seg source="#source-211848-211916">声とともに上陸すると、ローリイがいいました。</seg></p>
        <p>「ブルック先生が司令官で、ぼくが兵站総監、ほかのみんなは参謀です。それから、女のかたはお客さま、テントはみなさんのために、とくに張ったもので、樫の樹のところは客間、ここが食堂、そちらが台所です。あまり暑くならないうちに、ゲームをやって、それから、ごちそうの支度をしましょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-212332-212928">フランク、ベス、エミイ、それからグレースは芝生に腰をおろし、ほかの八人がクロッケーをはじめました。ブルック先生はメグとケイトとフレッドと組み、ローリイは、サリー、ジョウ、ネッドと組みました。みんな張りきって、ものすごく戦い、しばらくは、どちらが勝つか敗けるわかりませんでした。そのうちに、フレッドが、だれも近くにいなかったので、じぶんの打ちいいように、ボールを靴のさきでころがしました。そして、</seg></p>
        <p>「ぼくはいったよ。さあ、ジョウ、あなたを敗かして、ぼくが一ばんだ。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-213056-213229">ジョウは、ずるいフレッドにむかって、やり返しました。そして、しばらく戦いましたが、とうとう勝つことができました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-213229-213411">ローリイは、帽子をほおりあげましたが、お客の敗けたのをよろこんではいけないと気がつき、小声になってジョウにいいました。</seg></p>
        <p>「きみ、えらかったぞ。あいつインチキやった。ぼく見てた。みんなの前でいってやることできないが、二度とやらないだろう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-213590-213709">メグも、髪をなおすふりをしてジョウをひきよせ、さも感心したというような顔で、</seg></p>
        <p>「ほんとに、しゃくだったわ。でも、よくこらえたわ。あたし、うれしかった。」</p>
        <p>「ほめないでよ。メグ。今だってあいつの横っ面はりとばしたいくらいよ。もうすこしであのとき、かんしゃく玉がはれつしそうだったわ。」と、ジョウは、フレッドをにらみつけました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-214079-214144">時計を出して、ブルック先生がいいました。</seg></p>
        <p>「さあ、おべんとうにしましょう。兵站総監、きみは火を起させたり、水をくませたりして下さい。マーチさんとサリーさんとぼくとで食卓の支度をするから、たれかコーヒーをじょうずにいれる人はいませんか？」</p>
        <p>「ジョウがじょうずです。」と、メグはよろこんで妹をすいせんしました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-214541-215218">ジョウは、このごろ、料理のけいこをしたので、こんな名誉な役をひきうけられるのだと思いながら、支度にかかりました。そのあいだに、少年たちは火を起し、近くの泉から水をくんで来ました。司令官とその部下は、すぐにテーブルかけをひろげ、食べものや飲みものをならべ、みどりの葉でかざりました。コーヒーの用意ができると、みんな席につきました。食慾はさかんでしたし、まことにたのしく、しばしば起る大きな笑い声は、近くで草を食べているおとなしい馬をおどろかせました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-215218-215394">食事がすむと、すずしくなるまで、なにか遊びをしようということになり、樫の樹のかげ、すなわち客間へ席をうつしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-215394-215459">ケイトが、尻とり話をしようといいました。</seg></p>
        <p>「いいですか、たれかが、勝手なお話をはじめるのよ。そして、好きなだけつづけて、おもしろそうなところで、ぷつっときってしまうのよ。すると、つぎの人がそれをつづけ、じゅんに話していくと悲しいのやおかしいのや、ごっちゃになっておもしろいわ。さ、では、どうぞあなたから。」と、ケイトが命令するような調子でいったので、ブルック先生がはじめました。</p>
        <p>「むかし、ある一人の騎士が立身出世しようと思って旅に出ました……」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-216066-216776">ブルック先生は、ゆたかな想像で話しました。この騎士は二十八年も旅をつづけ、ある王宮へいきますと、王さまはまだならしていない馬を、うまくしこんだ者に、ほうびを与えると申されました。そこで、騎士はその馬をしこむために、まい日、のりまわしましていると、お城に美しいおひめさまが、魔法のためにとじこめられ、自由になるお金をつくるために、糸をつむいでいることを知りました。騎士は、貧乏なので、お金はなし、しかたがないので、お城の扉をたたくと……と後の待たれるように話をきりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-216776-217438">それをつづけたのは、ケイト、ネッド、メグ、ジョウ、フレッド、サリー、エミイ、ローリー、フランクというじゅんでしたが、話のすじは、じつに変化していき、おほりに落ちたり、墓場のようなろうかを歩いていったり、そこで見つけたかぎ煙草をかいだら首がおちたり、そうかと思うと、たちまち生きかえったり、箱の中でダンスしたら、それが軍艦にかわったり、聞いている者も、ときには笑い出し、ときには眉をしかめ、はてしもなく変化していく話をおもしろく思いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-217438-217491">話がすむと、サリーがいいました。</seg></p>
        <p>「ずいぶん、へんな話でしたね。だけど、練習すれば、もっといいのができそうね。それじゃ、今後はツルースっていうあそびごぞんじ？」</p>
        <p>「どんなの？」</p>
        <p>「そうね、みんなで手をかさねておいて、かずをきめて、じゅんじゅんに手をのけていって、そのかずにあたった人が、ほかの人の質問になんでも正直に答えるの。それやおもしろいわ。」</p>
        <p>「やってみましょう。」と、新しいことの好きなジョウがいいました。そして、みんなで手をかさね、じゅんじゅんにのいていくと、ローリイがあたりました。</p>
        <p>「だれ、あなたの尊敬する英雄は？」と、ジョウが尋ねました。</p>
        <p>「おじいさんと、ナポレオン。」</p>
        <p>「一ばん美しいと思う女の人は？」と、フレッド。</p>
        <p>「もちろん、ジョウ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-218422-218544">ローリイの、あたり前さというような顔つきに、みんなどっと笑ったので、ジョウは、</seg></p>
        <p>「ずいぶん、ばかげた質問ね。」と、けいべつするように肩をすぼめました。</p>
        <p>「さ、もう一度やろう。おもしろいね。」と、フレッドがいいました。今度はジョウのばんでした。</p>
        <p>「あなたの<app type="base-text-variant" source="#source-218812-218866"><lem><seg source="#source-218803-218812">一ばん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-218851-218860">一がん</seg></rdg></app>大きい欠点は？」と、フレッドが尋ねました。</p>
        <p>「かんしゃく。」</p>
        <p>「一ばんほしいものは？」と、ローリイがいいましたが、ほしいものをいえば、ローリイがくれそうなので、わざと、</p>
        <p>「靴のひも」と、答えました。</p>
        <p>「そんなのだめ、ほんとのこといわなくちゃ。」と、ローリイ。</p>
        <p>「天才、あなたは、あたしに天才をくれたいと思わない？」と、ジョウはいって笑いました。</p>
        <p>「男の美点のなかで、なにが一ばんだいじ？」</p>
        <p>「勇気と正直」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-219467-219502">すると、フレッドが、</seg></p>
        <p>「今度はぼくのばんだ。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-219564-219689">ローリイが、あれをいっておやりと、ささやいたので、ジョウはすぐにきり出しました。</seg></p>
        <p>「クロッケーでインチキやらなかった？」</p>
        <p>「うん、ちょっと。」</p>
        <p>「よろしい、きみのさっきの尻とり話、海のライオンという本からとらなかった？」と、ローリイ。</p>
        <p>「いくらかね。」</p>
        <p>「イギリス国民は、あらゆる点で完全と思いますか？」と、サリー。</p>
        <p>「そう思わなかったら、イギリス人の自分は、はずかしいですよ。」</p>
        <p>「それでこそほんとのイギリス人だ。さあ、今度はサリーのばんだ。」</p>
        <p>「あなたは、じぶんをおてんば娘だと思いませんか？」と、ローリイ。</p>
        <p>「ひどいわ。そんな女じゃないわ。」</p>
        <p>「なにが一ばんきらい？」と、フレッド。</p>
        <p>「くもと、ライス・プディング。」</p>
        <p>「一ばん好きなのは？」と、ジョウ。</p>
        <p>「ダンスとフランスの手ぶくろ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-220594-220647">そのとき、ジョウが、頭をふって、</seg></p>
        <p>「つまらない遊びね。それより作家トランプを、おもしろくやらない？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-220748-220838">ネッドとフランクと小さい女の子がくわわって遊んでいるあいだ</seg><app type="base-text-variant" source="#source-220841-220883"><lem><seg source="#source-220838-220841">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-220874-220877">。</seg></rdg></app><seg source="#source-220883-221185">年上の三人はそこからはなれて腰をおろして話しました。ケイトは、ふたたび写生帳をとり出してかき、メグはそれをながめブルック先生は草の上にねころんでいました。メグは、ケイトのかくのを見て、おどろきの声で、</seg></p>
        <p>「なんておじょうずなんでしょう！　あたしもあんなにかいてみたいわ。」と、いいました。</p>
        <p>「どうして、おけいこなさらないの？　あなたは絵の天分がおありですわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-221420-221728">それから、家庭教師のことになり、ケイトは家庭教師について習ったから、あなたも家庭教師に習うといいといいました。メグは家庭教師につくどころか、じぶんは家庭教師として教えにいっているといいますと、ケイトは、</seg></p>
        <p>「まあ、そうなんですの。」と、いいましたが、そのいいかたは、おやおや、いやなことだと、いうような調子でした。ブルック先生は、とりなすように、</p>
        <p>「アメリカのおじょうさんがたは、先祖がそうであったように、独立し自活することがたっとばれるのです。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-222116-222241">ケイトは、眉をひそめて、去っていきましたが、それを見送りながらメグはいいました。</seg></p>
        <p>「あたし、イギリス人が、女の家庭教師をけいべつすることを忘れていました。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-222354-222410">ブルック先生は、むしろ満足そうに、</seg></p>
        <p>「あちらでは、男の家庭教師だってよくいいません。なさけないことですがね、なんといっても、われわれはたらく者には、アメリカほどいいところはありません。」と、いったので、メグはじぶんのことを嘆いたのを、むしろはずかしくなりました。</p>
        <p>「ええ、あたしアメリカに生れたのをうれしく思いますわ。そのために、たくさんのよろこびを得ているのですから。ただ、あたし、あなたのように教えることが好きになれたら、どんなにいいでしょう。」</p>
        <p>「ローリイがあなたの生徒だったら、あなたも教えるのがたのしくなります。来年ローリイと別れなければならないので、ざんねんですよ。」</p>
        <p>「大学へいらっしゃるのでしょう？」</p>
        <p>「そうです。準備はだいたいできています。ローリイがいけば、ぼくは軍隊にはいります。」</p>
        <p>「まあ、すてき！　わかい男のかたは、兵隊にいきたがるのはほんとですね。お家にのこるおかあさんや、姉妹たちはつらいでしょうが。」</p>
        <p>「ぼくは一人ぼっちです。友だちもすくないし、ぼくが死のうが生きようが、たれも心配する者はいません。」</p>
        <p>「ローリイやおじいさんが心配なさいますわ。それに、あたしたちだって、あなたがおけがでもなされば、悲しみますわ。」</p>
        <p>「ありがとう。そう聞いてうれしく思いますよ。」と、ブルック先生は、また快活になって話しつづけましたが、ネッドが馬にのって来たので、しずかに話し合うことはできませんでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-224177-224557">たった一つ、メグやジョウのおどろいたことがありました。それは、ベスが、人をよろこばせたいという一心から、足のわるいフランクに話を聞かせてやっている光景でした。それは、また、フランクのいもうとにとっても、びっくりするようなことで、いもうとのグレースは、</seg></p>
        <p>「フランクにいさんが、あんなに笑っているの知らないわ。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-224667-225005">日ぐれ近くまで、また、いろいろのあそびをしました。帰り支度は、みんなでやり、テントをたたみ、クロッケーの鉄輪をぬき、一行はボートにのりこみ、声はりあげてうたいながら、川を下っていきました。ネッドは、センチメンタルになって、</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-225005-225243" style="padding-inline-start: 2em">
        <p><seg source="#source-225040-225096">ひとり、ひとり、ああ、ただ、ひとり。</seg></p>
        <p><seg source="#source-225096-225131">われら、いまだ年わかく</seg></p>
        <p><seg source="#source-225131-225166">みなあたたかき心もつに</seg></p>
        <p><seg source="#source-225166-225207">なぜにつめたくはなれいく。</seg></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-225245-225454">と、いうところで、わざとあわれっぽい表情をして、メグをながめましたので、メグは笑い出してしまい、その歌をめちゃめちゃにしてしまいました。</seg></p>
        <p>「あなたは、どうしてぼくにつらくあたるんです？　今日一日、あなたはあのかたくるしいイギリス人にばかりくっついていて、今度はぼくを鼻であしらうんですね。」</p>
        <p>「そんなつもりじゃなくってよ。あんまりおかしな顔をなさるので、つい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-225791-225862">ネッドは怒って、サリーの同意を得ようとして、</seg></p>
        <p>「あの人、すこしも情味のない人ね。」</p>
        <p>「ちっとも。だけど、かわいい人。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-225971-226054">サリイは、友だちの短所をみとめながらもかばいました。</seg></p>
        <p>「とにかく、あの人は手おい鹿ではないね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-226119-226229">ネッドは、しゃれたつもりでしたが、たいしたしゃれとはいえませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-226229-226654">朝、集合したローレンス家の芝生で、みんなは、たがいに、あいさつして別れをおしみました。というのは、ボガン家の人たちは、カナダへ帰っていくからでした。四人の姉妹は、庭を通って家へ帰りましたが、そのうしろすがたをながめていたケイトは、今度はかばうような調子などをまじえずにいいました。</seg></p>
        <p>「アメリカの娘さんたちは、ずいぶん露骨なところはあるけれど、よく知ってみると、とてもいい人たちねえ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-226809-226865">すると、ブルック先生がいいました。</seg></p>
        <p>「ぼくも同感ですね。」</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-226902-227131" style="padding-inline-start: 10em">
        <p><app type="base-text-variant" source="#source-227028-227127"><lem><seg n="2" type="heading" rend="dogyo" source="#source-226926-227028"><seg source="#source-226926-226959">第十三　美しい空中楼閣</seg></seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-227091-227121">十三　美しい空中楼閣</seg></rdg></app></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-227131-227397">九月のあるあたたかい日の午後、ローリイは、マーチ家の連中が、なにをしているだろうと考えながらも、わざわざ見に出かけていくのもおっくうなので、ただハンモックにゆられていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-227397-227927">かれは、ふきげんでした。その日は、することがうまくいかず、あたたかいので身体はだるく、勉強をすっぽかしてブルック先生をいやがらせ、お昼からピアノをひきつづけて、おじいさんの気持をそこね、家の犬が一匹、気がくるったといって女中をおどかし、馬にひどくしたといって馬丁とけんかし、世のなかはおもしろくないやと、ぷんぷん怒って、ハンモックにとびこんだのです。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-227927-228634">けれど、美しくのどかなので、かれの気持はやすまり、世界一周の航海をしているような空想にふけっていると、人声がして空想はやぶれました。見るとマーチ家の姉妹たちが出かけていくところでした。けれど、いつもとようすがちがって、めいめい大きなつばの帽子をかぶり、肩に茶色のふくろをかけて長いつえをつき、メグはクッション、ジョウは本、ベスはひしゃく、エミイは紙ばさみを、それぞれ持っていました。一行は、しずかに庭をぬけ、うら木戸を出て、家と川のあいだにある丘をのぼりはじめました。</seg></p>
        <p>「ひどいなあ。ぼくを誘わないでピクニックにいくなんて。かぎをもっていないから、ボートにのれまい。よし、持っていってやろう。そして、なにをするのか見て来よう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-228873-229364">ローリイは、どの帽子をかぶろうかとまよい、かぎをさんざんさがし、かぎがポケットにはいっているのに気がつくと、さっそく後を追いましたが、少女たちのすがたはなく、ボート小屋へいきましたが、だれも来ないので、上へのぼっていきました。すると、松の木立のかげから、風の音よりも、こおろぎの歌よりも、もっとほがらかな声が聞えて来ました。</seg></p>
        <p>「すてきだ！」と、ローリイは、目がさめたような思いでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-229453-230406">姉妹たちは、木かげにすわり、太陽の光と木の影が、その上にゆれていました。メグはぬいものをしていましたが、ピンクのドレスがばらのようにあざやかでした。ベスは、松ぼっくりをよりわけていました。エミイは、一むらのしだを写生していました。そして、ジョウは、大きな声で本を読みながら、あみものをしていました。この光景が、ローリイの心をとらえました。ローリイは、そばへいきたいが、誘われたのでもなし、家へ帰るべきだが、家はたまらなくさびしく、それで立ち去りかねていると、リスがかれのすがたにおどろいて、するどい声を出しました。その声に、ベスが顔をあげると、ローリイのさびしそうな顔があったので、安心させるように、にっこり笑って手まねきしました。</seg></p>
        <p>「ぼく、いっても、いいですか？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-230456-230587">メグは、眉をつりあげて、いけないといようすをしましたが、ジョウはメグに顔をしかめて、</seg></p>
        <p>「だいじょうぶよ、いらっしゃい。お誘いしようと思ったけど、こんな女の遊びなんか、つまらないと思ったのよ。」</p>
        <p>「あなたたちの遊びなら好きです。でもメグがいやなら、ぼく帰ります。」</p>
        <p>「いやじゃありませんわ。そのかわり、ここでは怠けてはいけないという規則だから、あなたもなにかしなければいけませんよ。」</p>
        <p>「どうもありがとう。なんでもします。だって家は、さばくみたいに退屈です。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-231144-231194">ローリイは、うれしそうでした。</seg></p>
        <p>「それでは、あたしが、かかとをあんでいるあいだに、この本を読んでしまってね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ジョウが本をわたすと、ローリイは、はいと、うやうやしく答えて「はたらきばち会」に入会させてくれた好意に感謝して、熱心に読みはじめました。その物語はあまり長くはなく、ローリイは読みおわると、労にむくいて<app type="base-text-variant" source="#source-231625-231679"><lem><seg source="#source-231616-231625">もらう</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-231664-231673">もろう</seg></rdg></app><seg source="#source-231679-231729">ために、二三の質問を出しました。</seg></p>
        <p>「ちょっとうかがいますが、この有益な会は、新らしくできたんですか？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-231833-232084">姉妹たちは顔を見合せました。秘密にしておくべきか、それともうち明けるべきか？　ローリイにならいってもいいと、みんなは考えました。ジョウは、にっこり笑っていいました。</seg></p>
        <p>「あたしたち、巡礼<app type="base-text-variant" source="#source-232120-232174"><lem><seg source="#source-232111-232120">あそび</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-232159-232168">あそぴ</seg></rdg></app>を、冬から夏までつづけて来たの。そして、この休暇には、怠けないようにと思って、めいめい仕事をこしらえて精いっぱいやりました。休暇はもうじきおわりますが、仕事はみんなできて、よろこんでいますの。ところで、おかあさんは、あたしたちを、外へ出したがっていらっしゃるので、この丘へ仕事を持って来て、おもしろくやっているの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-232650-232706">ローリイは、うなずいていいました。</seg></p>
        <p>「ああ、それで、ふくろをしょい、杖をつき、古い帽子をかぶるんですね。」</p>
        <p>「あたしたちは、この丘のことを、よろこびの山といってますの。ずっと、むこうまで見わたせるし<app type="base-text-variant" source="#source-232951-232990"><lem><seg source="#source-232948-232951">、</seg></lem><rdg type="base-text" subtype="omission"/></app>あたしたちが、いつかは住んでみたいと思う国も見えるからです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-233085-233375">ジョウが、ゆびさしたので、ローリイは立ちあがってながめました。あおい川、ひろびろとした草地、そのむこうのみどりの山々、その峰にたなびく金と紫の雲、まことに、天の都を思わせるものがありました。</seg></p>
        <p>「なんてうつくしいんだろう！」と、ローリイは、美しさをす早く見つけました。</p>
        <p>「あのうつくしい景色のところが、あたしたちのほんとの国で、みんなでそこへいけたら、うれしいと思うわ。」と、ベスがいいますと、メグは、やさしい声で、</p>
        <p>「あれよか、もっとうつくしい国があるのよ。あたしたちが、りっぱな人になったら、そこへいけるのよ。」と、いいました。</p>
        <p>「ベスなんか、いつかいけるでしょうが、あたしなんか、戦ったりはたらいたり、のぼったりすべったりで、いかれそうにもないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-234067-234114">ジョウがいうと、ローリイも、</seg></p>
        <p>「ぼく、ベスの道づれになりますよ。でも、ぼくがその旅におくれたら、やさしい言葉をかけてくれるでしょうね？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-234275-234382">ベスは、なんと返事してよいかこまったようでしたが、快活にいいました。</seg></p>
        <p>「だれだって、ほんとはいきたい気持で、一生、努力の旅をつづけたら天の都へいけると思うわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-234519-234593">しばらく沈黙がつづいた後、ジョウがいいました。</seg></p>
        <p>「あたしたちの勝手に考える空中楼閣がみんなほんとのものになって、そこに住むことができたら、どんなにおもしろいでしょう。」</p>
        <p>「ぼくは見たいだけ世界を見物してから、ドイツにおちついて、好きなだけ音楽を勉強して、有名な音楽家になるんです。けれど、ぼくはお金だとか、商売とかすこしも気にかけずに、じぶんの好きなように暮すんです。これがぼくの気にいっている空中楼閣です。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-235137-235214">ローリイがそういうと、メグがつぎをつづけました。</seg></p>
        <p>「あたしは、いろいろぜいたくなものが、たくさんあるうつくしい家がいいわ。おいしい食べもの、きれいな服、りっぱな道具、感じのいい人たち、そして、お金は山ほどあるの。あたしその家のおくさんで、召使をたくさん使って。でも怠けたりしないで、いいことをして、みんなからかわいがられたい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-235633-235668">ジョウは、ずばりと、</seg></p>
        <p>「おねえさんは、なぜりこうでやさしい夫と、天使のような子供がいてと、おっしゃらないの。それがなかったら、おねえさんの空中楼閣はできないわ。」と、いいました。</p>
        <p>「あなたの空中楼閣には、馬とインクつぼと小説しかはいっていないんでしょう？」と、メグはすこしむっとしていいかえしました。</p>
        <p>「いいじゃないの。アラビア馬のいっぱいはいった馬屋と、本をつみあげた部屋と、魔法のインクつぼがあれば、あたしは、そのインクつぼで、ローリイの音楽とおなじくらい、有名な作品を書くんだわ。だけど、あたしその空中楼閣へはいる前に、なにかすばらしい英雄的なこと、そうね、あたしが死んでも人から忘れられないようなこと、やってみたいわねえ。そうだ、あたし本を書いてお金持になり有名になれたらいいわ。それがあたしに似合っているの。それ、あたしの大好きな空想よ。」</p>
        <p>「あたしのは、無事におとうさんやおかあさんといっしょに家で暮して、家の人たちの世話をしてあげることですわ。」と、ベスがいうと、ローリイが尋ねました。</p>
        <p>「ほかには、なにか望みはないの？」</p>
        <p>「あのかわいいピアノをいただいたから、ほかになんにも望みはありません。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-237147-237194">すると、エミイがいいました。</seg></p>
        <p>「あたしは、絵をかきにローマへいき、りっぱなものをかいて、世界中で一ばんえらい画家になることですわ。」</p>
        <p>「ぼくたち、なかなかの野心家ですね。ベスのほかは、金持になり、有名になり、あらゆる点でえらくなろうというのですから。」と、ローリイがいうと、ジョウが、</p>
        <p>「今から十年たって、みんな生きていたらあつまって、だれが望みをとげたか、だれが望みに近づいたか見ましょうよ。」と、いいました。</p>
        <p>「そしたら、あたしいくつ？　二十七ね。」と、メグ。すると、すぐにジョウが、</p>
        <p>「ローリイとあたしが二十六、ベスが二十四、エミイが二十二、なんとみなさん、相当の御先輩というわけね。」</p>
        <p>「ぼくは、それまでになにか、じまんになるようなことしたいな、だけど、ぼくはこんな怠け者だから、だめだろう。ねえ、ジョウ。」</p>
        <p>「おかあさんが、あなたにはなにかいい動機があれば、きっとすばらしいことなさるって、いってらしたわ。」</p>
        <p>「そうですか。ぼくやります。ぼくは、おじいさんの、気にいるようにしたいんだが、できないんですよ。おじいさんは、後つぎにして、インド貿易商にしたがっているんです。だけど、ぼくいやだ。大学へ四年いくだけで、満足して下さればいいのに、ああ、おじいさんを世話して下さるかたがあれば、ぼくは明日にも家をとび出すんだがなあ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-238845-239075">ローリイは、ひどく気がたかぶっていました。かれには青年の熱情があり、じぶんのちからで世の荒浪をのりきっていこうとして、いるのでした。ジョウは同情して、</seg></p>
        <p>「あなたの船で海へのり出し、したいほうだいなことして、あきるまで帰らなければいいわ。」と、じぶんの好きな空想であおりました。びっくりしたメグはいいました。</p>
        <p>「いけないわ。ジョウ、あんなこといって、ローリイもそんな忠告聞いてはだめ。あなた大学で一心に勉強すれば、おじいさんもいつまでもがんこなこといわないで、きっとあなたの望みをかなえて下さいます。だから、さびしがったり、いらいらしないで、じぶんの務めをはたすようになさいね。そうすれば、ブルック先生のように、みんなからたっとばれ愛されるようになります。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-239832-239967">それから、メグは、ブルック先生が、おかあさんのなくなるまで孝養をつくしたこと、おかあさん</seg><app type="base-text-variant" source="#source-239973-240021"><lem><seg source="#source-239967-239973">から</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-240009-240015">かち</seg></rdg></app><seg source="#source-240021-240656">はなれたくないので、家庭教師として外国へいけるのをことわったこと、そして、今でもなくなったおかあさんの看病をしてくれたおばあさんに、まい月、仕送りをしていること、それをだれにもいわずにいたことなど、ローリイのおじいさんが、メグのおかあさんに話したことを話し、どうかそのりっぱなブルック先生を満足させるように、よく勉強しなければいけないと、まるで、ねえさんみたいに、ローリイにいって聞かせました。そして、こうつけ加えました。</seg></p>
        <p>「ごめんなさい。お説教したりして。けれど、まるでほんとの兄弟みたいな気がするものですから、思ったとおりのこというのよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-240838-240912">ローリイは、親切なメグの言葉をありがたく思い、</seg></p>
        <p>「ねえさんのように、ぼくの欠点をいって下さってありがとう。今日はぼくふきげんだったけど、これでさっぱりした。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-241079-241552">ローリイは、できるだけ愉快にしようとして、メグの糸をまいてやったり、ジョウをよろこばそうとして、詩をうたったり、ベスに松ぼっくりを落してやったり、エミイの写生を手つだってやったりはたらきばち会の会員にふさわしいように努めました。そのうちに、ハンナの知らせるベルが聞えました。みんなが家へ帰る時間です。ローリイは、</seg></p>
        <p>「ぼく、また来てもいい？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-241593-241631">メグは、にこにこして、</seg></p>
        <p>「ええ、おとなしくして、本が好きになれたらね。」</p>
        <p>「好きになります。」</p>
        <p>「じゃ、いらっしゃい、あみもの教えてあげるわ。スコットランド人は、男でもあみものするのよ。それに、今とても靴下の注文があるんですって。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-241943-242404">その晩、ベスはローレンス老人のためにピアノをひきましたが、ローリイはそれをカーテンのかげにたたずんで聞きました。ベスのあどけない音楽は、ローリイの気持をしずめてくれ、おじいさんのことが、しみじみとなつかしく思われるのでした。そして、その日の午後のメグの話を思い出しながら、よろこんで犠牲をはらうつもりで、</seg></p>
        <p>「ぼくは、空中楼閣なんてすてて、おじいさんが望むだけ、いつまでも、いっしょにいてあげよう。おじいさんは、ぼくだけしか、頼る人がないんだもの。」と、ひとり言をいいました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-242660-242754" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-242684-242750"><seg source="#source-242684-242702">第十四　秘密</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-242754-243041">十月にはいると、寒さもきびしくなり、日ざしもみじかくなったので、ジョウは屋根部屋でいそがしい日を送りました。最後のページをおわって、じぶんの名を花文字で書くと、ペンをなげ出していいました。</seg></p>
        <p>「さあ、できあがった、これでだめなら、もっとよく書けるまで待たなくてはならない。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-243166-244188">ソファにころりとあおむきになり、ジョウは念入りに原稿を読みなおし、ところどころに、線をひいたり、感嘆符をつけたりしました。それから、あかいリボンでとじました。この屋根部屋のジョウの机は、かべにとりつけてある古いブリキの台所用のたなでした。ジョウは、そのなかへ原稿用紙や二三冊の本をしまいこんで、ねずみの、がりがりさんに、荒らされないようにしました。がりがりさんは、やっぱり文学好きで、原稿用紙や本をよくかじるからです。ジョウは、ブリキのいれものからもう一つの原稿をとり出し、今書きおわった原稿といっしょに、ポケットにねじこんで階段をおりました。それから、こっそり家を出て、通りがかりの乗合馬車をよびとめてのり、いかにもたのしそうな、秘密ありそうな顔つきで、町のほうへいきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-244188-244736">町へ来たジョウは、大いそぎで、あるにぎやかな通りの、ある番地まで突進しました。やっとある家をさがし出しましたが、そのきたない階段を見あげると、じっと立ちどまっていましたが、きゅうに、また大いそぎで帰っていきました。こんなことを二三回くりかえしたあげく、まるで歯をすっかりぬいてもらうような悲壮な顔つきで階段をのぼっていきました。その建物には歯科医もあったのです。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-244736-244870">それを見ていたのは、むかいがわの建物の、窓のところをぶらぶらしていたわかい紳士でした。</seg></p>
        <p>「一人で来るなんて、あの人らしいな。けれど、気分でもわるくなったら、家までつきそってあげなくちゃ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-245022-245366">十分とたたないうちに、ジョウはまっかな顔をして、なにかおどろくほど苦しい目にあったように階段をかけおりて来ました。わかい紳士は、ほかならぬローリイでしたが、ジョウがちょいと頭をさげていきすぎたので、すぐに後をおって尋ねました。</seg></p>
        <p>「とても痛かった？」</p>
        <p>「そんなでもなかったわ。」</p>
        <p>「早くすんだねえ。ずいぶん。」</p>
        <p>「ええ、うまくいったわ！」</p>
        <p>「どうして一人でいったの？」</p>
        <p>「たれにも知らせたくなかったからよ。」</p>
        <p>「ずいぶん、かわっているんだね。きみは、それで、なん本ぬいたの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-245731-245937">ジョウは、ローリイのいう意味がわからないのでかれの顔をながめましたが、はっと気がついて、おもしろくてたまらないというように笑いました。</seg></p>
        <p>「二本ぬいてもらいたいんだけど、一週間も待たなきゃならないのよ。」</p>
        <p>「なにを笑ってるの？　また、なにかいたずらしてきたんだね、ジョウ。」</p>
        <p>「あんなこそ、玉突屋でなにしてらしたの？」</p>
        <p>「はばかりながら、玉突屋ではありません。体育館でして。ぼくは剣術を習ってます。」</p>
        <p>「まあ、うれしい！」</p>
        <p>「なぜ？」</p>
        <p>「あたし教えてもらえるもの。そうすれば、今度ハムレットをやるとき、あんなレアティスやれるから、二人であのすばらしい剣術の場がやれる。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-246581-246676">ローリイがふき出したので、通行人が、二三人ふりかえりました。</seg></p>
        <p>「教えてあげるよ、ハムレットはどうでもいいが、おもしろいよ。やれば身体がしゃんとなる。でもそれだけで、あなたが、まあうれしいって、あんなに強くいったとは思えないが。」</p>
        <p>「そうよ、あんたが玉突屋にいなかったのがうれしかったの。あんた、いくの？」</p>
        <p>「そんなに、いきませんよ。」</p>
        <p>「いかないほうがいいわ。」</p>
        <p>「なにもわるいことありませんよ。家の玉突では、じょうずな相手がなくてつまらない。だから、ときどきいって、ネッド・マフォットや、そのほかの連中とやるんです。」</p>
        <p>「いやだわ、だんだん好きになって、時間をお金をむだにして、いけない子になるんでしょう。品行方正でいてほしいわ。」</p>
        <p>「男は、品をおとさなければ、ときどきおもしろい遊びをしてはいけないかしら？」</p>
        <p>「それは遊ぶ方法と場処によるわ。ネッドの連中、あたしきらい、交際しないほうがいいわ。あたしの家にも来たがっているけど、おかあさんよせつけないようになさるの。あなたが、あの人みたいなら、今までどおりあなたと遊ばせないでしょう。おかあさんは。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-248009-248047">ローリイがいいました。</seg></p>
        <p>「では、ぼく申しぶんのない聖人になります。」</p>
        <p>「聖人なんてまっぴら、すなおな品のある人になってほしいわ。キングの家の息子さんみたいに、お金たくさん持って、よっぱらったり、ばくちをしたり、しまいに、家出しておとうさんの名を<app type="base-text-variant" source="#source-248388-248448"><lem><seg source="#source-248376-248388">かたって</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-248430-248442">がたって</seg></rdg></app>、なにか偽造までして、こわいわ。」</p>
        <p>「ぼくも、そんなことしかねないと思っているんですね？　どうもありがとう。」</p>
        <p>「とんでもない。ただあたし、お金はおそろしい誘惑をするって聞いてるから、あなたが貧乏だったら、心配しないでもいいと思うことがあるわ。だって、あなた、ときどきふきげんだったり、強情だったりするから、いったんまちがったほうへむいたら、ひきとめるのがむずかしいと思うわ。」</p>
        <p>「そう、そんなに心配していてくれるの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-249077-249191">ローリイは、しばらくだまりこんで歩いていました。ジョウは、すこしいいすぎた</seg><app type="base-text-variant" source="#source-249203-249263"><lem><seg source="#source-249191-249203">かしらん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-249245-249257">かしらう</seg></rdg></app><seg source="#source-249263-249319">と思いましたが、やがて、ローリイは、</seg></p>
        <p>「あなたは家へ帰るまで説教するつもり？」</p>
        <p>「いいえ、どうして？」</p>
        <p>「説教するつもりなら、ぼくバスにのるし、しないなら、いっしょに歩いて、とてもおもしろいこと聞かせてあげる。」</p>
        <p>「しない。だから、そのニュース聞かせて。」</p>
        <p>「よろしい、これは秘密ですよ。ぼくがいったら、あなたのもいわなければだめですよ。」</p>
        <p>「あたし秘密なんかないわよ。」と、ジョウはいいましたが、じぶんにも秘密があることを思って、きゅうに口をつぐみました。</p>
        <p>「あるでしょう。かくしたってだめ、さっさと白状なさい。いわなければ、ぼくもいわない。」</p>
        <p>「あなたの秘密おもしろいの？」</p>
        <p>「おもしろいとも！　あなたのよく知っている人のこと。あなたが知っていなければならない秘密だから、教えてあげたくてうずうずしているんです。さあ、あなたからですよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-250369-250467">ジョウは、家の人にもいわないこと、からかわないことを念おして、</seg></p>
        <p>「じゃいうわ。あたしね、小説を二つ、新聞社の人のところへおいて来たの。そして、来週返事があるの。」と、相手の耳にささやきました。ローリイは、</p>
        <p>「アメリカにその名も高きマーチ女史ばんざい！」と、さけんで帽子を高くなげ、それをうけとめました。もう郊外を歩いていたので、それは二羽のがちょうと、四ひきのねこと、五羽のにわとりと、六人のアイルランド人の子供をよろこばせました。</p>
        <p>「返事なんか来ないわ。このこと、たれにも失望させたくなかったから、いわなかったの。」</p>
        <p>「なあに、だいじょうぶ、あなたの書くもの、シェークスピアの書いたものくらい、ねうちがありますよ。活字になったらすてきだな！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-251336-251452">ジョウは、そういわれると、うれしく思いました。友だちの賞讃はいいものです。</seg></p>
        <p>「それで、あなたの秘密ってなあに？　公明正大にいいなさい。」</p>
        <p>「いってしまうと、こまることになるかもしれないんですが、いわないと気がらくになれないし、あのね。メグの片っぽうの手ぶくろのありかを知っているんです。」</p>
        <p>「それっきり？」</p>
        <p>「今のところ、それでじゅうぶんだよ、どこにあるかということを教えたら。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-251907-252143">ローリイは、ジョウの耳に三つの言葉をささやきましたが、その言葉でジョウは、おどろきと不愉快な表情をしてつっ立ち、ローリイの顔を見つけてから歩き出しました。</seg></p>
        <p>「どうして知ってるの？」</p>
        <p>「見たんだよ、ポケットに。」</p>
        <p>「ずっと今でも？」</p>
        <p>「ええ、ロマンティックじゃない？」</p>
        <p>「いいえ、こわいわ。きらいだわ。ばかばかしい。たまらないわ。メグねえさん、なんていうかしら？」</p>
        <p>「たれにもいわないでよ、きみを信用したからいったのさ。」</p>
        <p>「それじゃ、当分はいわないわ。でも、いやね。聞かしてくれなければよかった。」</p>
        <p>「ぼくは、きみがよろこぶかと思った。」</p>
        <p>「たれかがメグをつれ出しに来るっていうことを、あたしがよろこべますか。ああ、あたしには秘密ってものは性に合わない。あなたがそんなこと聞かすものだから、気持がくしゃくしゃしちゃった。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-252986-253048">ジョウが不満らしくいうと、ローリイは、</seg></p>
        <p>「この坂を競走しておりよう。そうすれば、気持がさっぱりするよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-253146-253412">あたりには人かげもなく、平らな道がまねくように坂なっていました。ジョウは走り出し、帽子もくしもふり落し、髪をふりみだし、目をかがやかしました。もう不満な色はありませんでした。</seg></p>
        <p>「あたし馬だったら、こんなに気持のいい空気のなかを、いくらかけても息がきれないでしょう。ああおもしろかった。でも、このおかしなかっこう。あたしの落したものひろって来てよ。」と、ジョウは紅葉のちっているかえでの木の下にすわりました。そして、髪をなおしました。そのあいだにローリイは、ジョウの落しものをひろいにいきましたが、そこへ訪問がえりのメグが、りっぱな服を着て、貴婦人みたいに大人びて、通りかかりました。</p>
        <p>「あなた、走ったのね、いつになったら、そんなおてんばやまるの？」</p>
        <p>「年をとって、身体がこわばって、松葉杖をつくるようになるまでやめないわ。あたしを大人あつかいにするのいやよ。おねえさんが、きゅうに変ったのを見るのつらいわ。せめてあたしだけいつまでも子供にしておいて。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-254426-254632">ジョウには、メグが大人びていくように思えるのに、ローリイのいった秘密から、やがて別れというおそろしいときが、近く来そうな気がしました。</seg></p>
        <p>「そんなに、おめかしてどこへ？」</p>
        <p>「ガーデナアのところへ、サリーは、ベル・マフォットの結婚のことをすっかり話してくれました。とてもりっぱでしたって、お二人はこの冬をパリで送るために、もうおたちになったのよ。どんなにうれしいでしょうね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-254987-255145">そこへ、ローリイも帰って来て、ジョウといっしょに、メグの結婚のことを話しているうちに、とうとうメグは、</seg></p>
        <p>「あたし、たれとも結婚しないわ。」と、つんと気どって歩きはじめました。二人はその後から、子供みたいに、笑ったり、つつき合ったりしてついていきました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-255369-255941">さて、それから一二週間というもの、ジョウはいかにも奇妙なふるまいが多かったので、みんなおどろいてしまいました。郵便屋の足音がすると玄関へかけていったり、ブルック先生につっけんどうにしたり、じっとすわりこんで悲しそうな顔をしてメグをながめたり、きゅうに、メグにとびついてキッスしたり、ローリイが来ると、二人で目くばせして、新聞のことを話したり、いったい、どうしたというんでしょう？</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-255941-256108">ある日、ジョウは家のなかへとびこんで来て、ソファに横になり、新聞を読むふりをしていました。ベスが尋ねました。</seg></p>
        <p>「なに読んでいらっしゃるの？」</p>
        <p>「はりあう画家という小説。」</p>
        <p>「おもしろそうね、読んでちょうだい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-256258-256488">メグがいうと、ジョウはせきばらいをして、読みはじめましたが、ロマンチックな作で、出て来る人物は最後にみんな死んでしまうという、かなり悲壮なものでした。</seg></p>
        <p>「いいわ、恋をするとこ好き、だあれ、作者は？」と、エミイが尋ねると、</p>
        <p>「あなたがたの姉妹よ。」</p>
        <p>「あなた？」と、メグがさけびました。</p>
        <p>「とてもおじょうずね。」と、エミイ。</p>
        <p>「ああ、あたし肩身がひろい。」と、ベス。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-256804-257298">この成功に、みんなはおどり出したいほどよろこびました。ハンナもとびこんで来て、おどろきの声をあげ、おかあさんもどんなにほこらしく思ったでしょう。よろこびが、家中をあらしのようにひっかきまわしました。ジョウは目にいっぱい涙をため、ミス・ジョセフィン・マーチと印刷された名前の新聞が、みんなの手から手へわたるのをながめていました。</seg></p>
        <p>「すっかり、話して聞かせてよ。」「いつ新聞は来たの？」「いくらいただけるの？」「おとうさんはなんておっしゃるかしら？」「ローリイは笑わなかった？」と、ジョウのまわりに集った家中の者が、つぎつぎにさけびました。</p>
        <p>「では、なにもかもいっちまうわ。」と、ジョウは、じぶんの作品を売りにいったときのことを話し、返事を聞きにいったら、二つともおもしろいが、はじめての人には原稿料を出さないで、ただ新聞にのせるだけ、そのかわり、いいものを書けるようになったら、原稿を買いに来るということだったと話しました。</p>
        <p>「それで、あたし二つともわたして来たの。そしたら、今日これを送って来たの。ローリイが見せろってきかないから見せてあげたの。ローリイは、よくできているからもっと書けというの。そしてこのつぎから原稿料を出させるようにしてやるって。あたし、うれしいわ。<app type="base-text-variant" source="#source-258421-258481"><lem><seg source="#source-258409-258421">じぶんで</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-258463-258475">しぶんで</seg></rdg></app>書いたもので食べていけて、みんなのくらしもらくにすることが、できるかもしれないんですもの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-258621-258961">ジョウは、一気でしゃべって息がきれました。そして、新聞で顔をおおって、涙でじぶんの小説をぬらしてしまいました。ペンで、一人立ちして、愛する人からほめられるようになることは、一ばんジョウにとっては、うれしいことでありました。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-258961-259079" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-258985-259075"><seg source="#source-258985-259015">第十五　雲のかげの光</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p>「十一月って、いやな月ね。」と、メグがいったのがきっかけで、ジョウもエミイも、霜がれの庭をながめながら、いろんな気のひきたたない話をしていると、べつの窓から外を見ていたベスが、</p>
        <p>「うれしいことが二つあるわ。おかあさんは町からお帰りだし、ローリイさんは、なにかおもしろいお話でもありそうに、お庭をぬけて来るわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-259545-259823">二人とも家へはいって来ました。おかあさんに、おとうさんから手紙が来なかったか尋ねました。ローリイは、今日は数学をやりすぎたので頭がふらつくから、ブルック先生を馬車で送っていくといい、</seg></p>
        <p>「どうです、みんないらっしゃい。今日は陰気だけど馬車は気持いいですよ。」と、じょうずに誘いかけました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">メグは、そうたびたびわかい男といっしょにドライブしないほうがいいという、おかあさんの意見にしたがいたかったので、ことわりましたが、ほかの三人は出かけることになりました。ローリイは「おばさん、なにか御用はありませんか？」と、いつもの愛くるしい声で尋ねますと、マーチ夫人はいいました。</p>
        <p>「ありがとう。できたら郵便局へよって下さい。今日は手紙の来る日だのに、郵便屋さんが来ません。おとうさんは、お日さまがまい日でるように、まちがいなく手紙を下さるのに。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">そのとき、けたたましいベルが鳴って、まもなくハンナが一枚の紙を持って来ました。ハンナは、「おくさま、おそろしい電報が来ました。」といって、その電報が爆発でもするかのように、こわごわ出しました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-260947-261321">おかあさんは、それをひったくるようにして読みましたが、まるで弾丸を胸にうちこまれたかのように、まっさおになって、イスにたおれかかりました。ローリイは、水をとりに階下へかけおり、メグとハンナはおかあさんをだき起し、ジョウはふるえ声で読みあげました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-261321-261348">マーチ夫人へ――</seg><app type="base-text-variant" source="#source-261363-261429"><lem><seg source="#source-261348-261363">ゴシュジン</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-261408-261423">ゴシジュン</seg></rdg></app><seg source="#source-261429-261542">　ジュウタイ　スグコラレタシ。ワシントン　ブランクビョウイン　エス・ヘール</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-261542-261841">部屋は水をうったようにしんとなりました。娘たちは、じぶんたちの生活のあらゆる幸福と力がうばい去られるような気がしました。おかあさんは、すぐにわれにかえって、電報を読みなおし、悲痛な声でいいました。</seg></p>
        <p>「あたしはすぐに出かけます。けれど、もうまにあわないかもしれません。ああ、あなたたち、どうかおかあさんが、それに耐えられるように力を貸して下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-262065-262607">しばらくは、とぎれとぎれのなぐさめの言葉や、助け合うという誓いの言葉や、神さまの加護を信ずる言葉にまじるすすり泣きの声のほかに、部屋にはなんのもの音もしませんでした。けれど、あわれなハンナがわれにかえり、じぶんでは気づかないちえで、ほかの者にいい手本を示しました。すなわち、ハンナにとっては、はたらくということが、たいていの心配ごとをなおす良薬でありました。</seg></p>
        <p>「神さまが、だんなさまをお守り下さいます。わたしは泣いてばかりいられません。おくさまがおたちになる仕度をしなければなりません。」と、ハンナは真心からいって、涙をエプロンでぬぐい、そのかたい手でマーチ婦人の手をにぎって、人一倍はたらくために出てきました。</p>
        <p>「ハンナのいうとおりです。泣いているときではありません。みんなおちついてちょうだい。そしておかあさんに考えさせておくれ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-263172-263399">おかあさんが、あおざめた顔をしながらも、気をとりなおして悲しみをおさえ、娘たちのためにいろいろ考えはじめたとき、娘たちも気をおちつけようとしました。</seg></p>
        <p>「ローリイはどこ？」と、おかあさんは、まず第一になすべきことをきめたのです。</p>
        <p>「ここにいます。おばさん、どうぞなにかさせて下さい。」と、ローリイは、いそいでとなりの部屋から出て来ました。かれはこの一家の人たちの悲しみのなかに、いかに親しくても、まじってはならぬと思って、となりの部屋にしりぞいていたのです。</p>
        <p>「あたしが、すぐ出発するという電報をうって下さい。つぎの汽車は明日の朝早く出るはずです。それでいきます。」</p>
        <p>「そのほかには？　馬の用意はできています。どこへでもいきます。なんでもします。」</p>
        <p>「それから、マーチおばさんのところへ手紙をとどけて下さい。ジョウ、ペンと紙とを下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-264276-264341">手紙が書かれ、ローリイはわたされました。</seg></p>
        <p>「では、すみませんがお願いします。めちゃに馬を走らせてけがなんかしないで下さい。そんなにいそがなくてもいいんですからね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-264526-264669">けれど、その言葉は守られず、ローリイは五分の後には、はげしいいきおいで馬を走らせていました。</seg></p>
        <p>「ジョウ、あなたは事務所へいって、あたしがいけないってことわって来て下さい。途中で買い物をして来て下さい。今書きますから。それからベスはローレンスさんのとこで、古いぶどう酒を二本いただいて来て下さい。おとうさんのためなら、いただくのをはずかしいと思ってはいられません。エミイ。ハンナに黒革のトランクをおろすようにいって下さい。メグ、あなたはおかあさんの、さがしものを手つだって下さい。あたしはだいぶうろたえていますからね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-265307-265789">手紙を書いたり、考えたり、さしずしたり、すべてを一度にしなければならないおかあさんに、メグはじぶんたちではたらくから休んでいてほしいといいました。けれど、おかあさんに休むことが、どうしてできましょう。無事でたのしかった家は、今や不吉なあらしに吹きあらされ、みんなは木の葉のように、ふきとばされるほかはありませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-265789-265906">ローレンス老人は、ベスとともに来ました。親切な老人は、病人のためになりそうな</seg><app type="base-text-variant" source="#source-265912-265960"><lem><seg source="#source-265906-265912">もの</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-265948-265954">うの</seg></rdg></app><seg source="#source-265960-266478">を、考えられるだけ考えて持って来ました。そして、夫人の留守中は、娘たちの世話はひき受けるといいましたので、おかあさんは安心することができました。また、老人は、なんでも必要なものは提供するといい、いっしょにワシントンへつきそっていくとさえいい出しました。けれど、長い旅に老人にいってもらうことは、とてもできませんので好意を感謝してことわりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-266478-266663">老人が帰っていってまもなく、メグが片手にゴム靴、片手に紅茶を持って玄関をかけていくと、ばったりブルック先生にあいました。</seg></p>
        <p>「今、聞いたのですが、ほんとうにお気のどくです。僕はおかあさんのおつきそいをしていこうと思って来たのです。ローレンスさんが、ぼくをワシントンまでいかせる用事ができたのです。ですから、道中おかあさんのお世話ができれば、ほんとうに満足です。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-267022-267126">メグは、あやうくゴム靴をおとしそうになるほど、感謝にあふれました。</seg></p>
        <p>「みなさん、なんて御親切なのでしょう。おかあさんはきっとよろこんでお受けいたすでしょう。あなたがお世話下されば安心でございますわ。お礼の申しようもありません。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-267368-267475">メグは、ブルック先生を、客間へ案内しておかあさんをよびにいきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-267475-268176">ローリイが、マーチおばさんからの手紙を持って帰ったときには、すべての支度がととのっていました。その手紙のなかには頼んだお金と、おばさんが前からたびたびいっていたことが書いてありました。すなわち、マーチが軍隊にはいることはいけないといつもいっていたし、どうせろくなことにならないと、注意しておいたが、こんなことになった。今後はじぶんのいうことにしたがってほしいとありました。おかあさんは手紙を火にくべ、お金を財布にいれ、きゅっと口をむすんで、また支度をつづけました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-268176-268661">みじかい午後が暮れました。外の用事はすべてすみ、メグとおかあさんは、必要なぬいもの、ベスとエミイは夕飯の支度、ハンナはアイロンかけに、みんないそがしく手をうごかしていましたが、どうしたものか、ジョウがまだ帰りません。みんなそろそろ心配しはじめていると、ジョウがみょうな表情で帰って来ました。そして、すこし声をつまらせて、</seg></p>
        <p>「これおとうさんの御病気がよくなって、家へお帰りになれるようにと思ったあたしの心持だけなの。」と、いっておかあさんにおさつのたばをわたしました。</p>
        <p>「まあ、どこから手にいれたの？　二十五ドル、ジョウ、あんたはとんでもないことしやしませんか？」</p>
        <p>「いいえ、りっぱなあたしのお金です。じぶんのもの売ったお金です。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-269123-269299">ジョウが帽子をぬぐと、みんなは、あっ！と、おどろきの声をあげました。ふさふさした髪の毛はみじかく切られていました。</seg></p>
        <p>「このほうが、さっぱりして気持がいいわ。じぶんの髪をじまんして、虚栄心を起しそうだったが、これでもいいわ。どうぞお金とってちょうだい。」</p>
        <p>「ジョウ、おかあさんは、満足とは思いませんが、しかりはしません。あなたが愛のために、虚栄心を犠牲にしたことはよくわかります。でもね、そんなことまでする必要はなかったのです。いつか後悔するでしょうね。」</p>
        <p>「いいえ、そんなことありませんわ。」と、ジョウは、じぶんのしたことを、一がいに非難されなかったので、ほっとしていいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-269992-270255">みんなは、ジョウの髪について、いろいろ考えました。なんといっても、重大事件でした。食卓をかこんだとき、髪の話でもちきりでした。いろいろ話があったあげく、ジョウがいいました。</seg></p>
        <p>「はじめは髪を売るなんて考えなかったのよ、どうしたらいいかと考えながら歩いているうちに、ひょいと床屋の窓を見ると、長いけれど、あたしほどこくない黒髪が、一たば四十ドルなの、とっさにあたしにもお金になるものがあると気がついてはいっていったの。そして、いくらに髪を買って下さるか尋ねたのよ。店の人は、女の子が髪を売りに来たことなんか、あまりないらしく、びっくりしていたけど、あたしの髪の色は、今の流行ではないといって、なるべき安く買おうとするのよ。そこであたしお金のいるわけを話したりして、ぜひぜひといそいだの。そうしたら、おかみさんが聞きつけて出て来て、買って娘さんをよろこばしておあげなさいよ。あたしにも売れるような髪があったら、家のジンミイのためなら売りますよと、とても親切なんでしょ。ジンミイというのは、出征している息子ですって。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-271361-271414">話がおわると、メグが尋ねました。</seg></p>
        <p>「切られるとき、こわいと思わなかった？」</p>
        <p>「床屋さんが道具を出しているあいだに、あたし見おさめに、じぶんの髪をながめたわ。でも、あたしめそめそしないわ。でもきってしまったら、腕か足きられたようなへんな気持したわ、おかみさんはあたしがきられた髪をながめているのに気がついて、長い毛を一本ぬいて、しまっておきなさいといってくれたの。おかあさん、記念にこれさしあげます。きったらさっぱりして、あたしもう二度とのばそうと思いません。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-272054-272569">おかあさんは、その毛をたたみ、おとうさんのみじかい灰色の毛といっしょに、机のなかにしまいました。おかあさんは、ただ、ありがとうといっただけでしたが、娘たちはおかあさんの顔色を見て話をかえ、ブルック氏の親切なことや、明日はよい天気になりそうなことや、おとうさんが帰っていらして、じぶんたちが看病できるたのしさなど、できるだけ元気に話しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-272569-272961">だれもねたくないようでしたが、十時をうつと、おかあさんは、さあ、みなさんといいました。ピアノで、おとうさんの一ばん好きな讃美歌をひきました。元気よくうたい出しましたが、一人また一人と声が出なくなり、音楽がいつもなぐさめになるベスだけが、心こめてうたいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-272961-273431">讃美歌がおわると、娘たちはおかあさんにキッスして、しずかに床にはいりました。ベスとエミイは、大きな心配ごとがあっても、すぐにねむりましたが、メグはねむれませんでした。ジョウは、身うごきもしなかったので、メグはもういもうとがねむったことと思っていましたが、おさえつけたようなすすり泣きを聞いたので声をかけました。</seg></p>
        <p>「ジョウ、おとうさんのことで泣いてるの？」</p>
        <p>「今はそうじゃないの、あたしの髪のこと。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-273561-273722">ジョウは、そういって、なおもはげしく泣きました。メグは、なやめるいもうとにキッスし、その頭をなでました。</seg></p>
        <p>「後悔はしていないの。だけど、美しいものをなくしたので、ちょっとばかり泣いただけ。でも、もうすっかりおちついたから、だれにもいわないで。おねえさんは、どうしてねられないの？」</p>
        <p>「とても心配なので。」</p>
        <p>「たのしいことを考えてごらんなさい。ねむれてよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-274097-274333">話しているうちに、ジョウが大きく笑ったので、メグはおしゃべりをやめようといって、ジョウの髪にカールをかけることを約束し、やがて二人はねむってしまいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-274333-274653">時計が、十二時をうち、ひっそりと部屋がしずまったとき、一人の人かげが、娘たちのベッドからベッドを歩き、ふとんにさわったり、枕をなおしたり、ね顔をながめたり、唇にそっとキッスしたり熱いいのりをささげたりしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-274653-274982">その人かげが、カーテンをひいて、わびしい夜空を見あげたとき、ふいに黒雲のかげから月があらわれて、あかるい慈悲ぶかい顔のように、その人かげに照りましたが、その顔は、言葉なき言葉で、こうささやいているように思われました。</seg></p>
        <p>「心やすくあれ、いとしき魂よ、雲のかげには、いつも光あり。」</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-275076-275188" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-275100-275184"><seg source="#source-275100-275127">第十六　手紙の花束</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-275188-275409">寒い、うすぐらい夜明けに、姉妹たちはランプをつけて、今までにない熱心さで聖書を読みました。その小さな書物には、救いとなぐさめがあふれていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-275409-275906">階下へおりていくと、もう仕度はできて、ハンナがいそがしく台所ではたらいていました。おかあさんは、夜ねむらなかったので、ひどくやつれて見えました。心配の多いおかあさんを悲しませないように、旅に送り出すつもりでしたが、おかあさんの顔を見ると、つい涙ぐまずにはいられなくなりました。おかあさんは、食卓についてもあまり食べませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-275906-276067">馬車の来るまで、みんなはあまり話さずに、おかあさんの身のまわりの用事をしました。おかあさんがいいました。</seg></p>
        <p>「おかあさんは、あなたがたを、ハンナとローレンスさんにお願いしていきます。ハンナは心からの律義者ですし、おとなりのあの親切なかたは、あなたがたを、じぶんの娘のように守って下さいます。ですから、すこしもあたしは心配しませんが、ただ、この不幸をよく理解して、留守中、悲しんだり、いらいらしたり、なまけたりせずに、めいめいの仕事をやって下さい、希望をもってはたらきどんなことが起っても、けっしておとうさんを失わないということを覚えていらっしゃい。」</p>
        <p>「はい、おかあさん。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-276767-276868">おかあさんは、なおもこまかく、一人一人の娘に注意をあたえました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-276868-277128">馬車の音がしたとき、みんなはよくこらえて、悲しみの声をたてる者はありませんでした。ただ、しずかにおかあさんにキッスして、馬車が動き出したら、元気で手をふろうと思いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-277128-277799">ローリイとおじいさんが見送りに来てくれました。同行するブルック先生は、いかにも頼もしく見えましたので、巡礼ごっこのなかの案内者グレート・ハート氏という、あだ名を、さっそくつけました。馬車が走り出したとき、いい前ぶれのように、ちょうど日光が見送りのみんなを照らしました。そして、おかあさんが角をまがるとき、最後に目にはいったのは、四つのかがやかしい顔と、そのうしろに護衛のように立っているローレンス老人と、ハンナと、誠実なローリイのすがたでした。</seg></p>
        <p>「みなさん、なんて親切にして下さるのでしょう。」と、おかあさんは、ブルック青年の顔にあらわれた尊敬と同情を見ました。</p>
        <p>「だれだって、あなたがたに親切にせずにはいられないのです。」と、ブルック先生は、気持よく笑ったので、おかあさんもほほえまずにはいられませんでした。こうして長途の旅行は、日光と微笑と、たのしい言葉の、よい前兆ではじめられました。</p>
        <p>「あたし、なんだか地震でもあった後のような気がするわ。」と、おとなりの二人が帰っていってしまうと、ジョウがいいました。</p>
        <p>「家が半分なくなってしまったようね。」と、メグがさびしそうにいいそえました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-278611-278913">そして、娘たちは、勇ましい決心をしていたにかかわらず、その場に泣きくずれてしまいました。ハンナは、気をきかして、そっとしておき、どうやら夕立が晴れもようになったとき、コーヒーわかしを持って来ました。</seg></p>
        <p>「さ、おかあさんのおっしゃったとおりにやるんです。コーヒーで元気をつけて。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">この朝、とくにハンナが腕をふるったおいしいコーヒーに、みんなはすっかり元気づけられ、「せっせとはたらけ、希望をもって」の、標語どおりに、ジョウは、マーチおばさんのところへ、メグはキング家へはたらきにいきました。そして、エミイとベスは、ハンナを助けて家のなかの仕事を、つぎからつぎへ片づけていきました。こうして、まい日、わりに元気にあかるく、なにごともなく過ぎていきました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-279592-280107">それに、おとうさんのことが、娘たちをたいそうなぐさめました。重態ではありましたが、もっともすぐれた看護婦がつきそうようになってから、その効果はすでにあらわれました。ブルック先生がまい日、容態を知らせてくれるので、その速達を一家の長としてのメグが、読みあげることにしましたが、一週、二週とすぎるにつれて、いよいよ娘たちを元気づけてくれました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-280107-280277">みんなずいぶんふくらんだ手紙を書いて、ワシントンへ出しました。その手紙のなかから、こっそり披露してみましょう。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-280277-280318">なつかしい、おかあさん。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">先日のお手紙がどんなにあたしたちを幸福にしたか申しあげかねるほどでございます。あまりうれしいお便りなので、読みながら泣いたり笑ったりいたしました。ブルックさまは、なんて御親切なのでございましょう。ローレンスさまの御都合で、そんなに長くいて下さって、おとうさんやおかあさんを、いろいろお世話下さるのは、まことにしあわせでございますね。ジョウは、あたしのぬいもののお手伝いをしてくれます。あの子の「道徳上の発作」が永つづきしないことを知っていなければ、過労にはならぬと心配になるくらいです。ベスは時計のように正しく、じぶんの仕事をしています。エミイは、わたしのいうことをよくきいてくれます。ボタンの穴かがり靴下のつくろい、わたしに教わってよくやります。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-281295-281909">ローレンスさまは、年とったかあさんのにわとりみたいに、ジョウがそう申します。わたしたちの世話をして下さいます。ローリイもたいそう親切にしてくれます。おかあさんが遠くへいらしたのでわたしたちはときどきさびしくて孤児みたいな気もしますが、ローリイとジョウが元気づけてくれます。ハンナは、聖人みたいです。日夜おかあさんのお帰りを待っています。おとうさんにくれぐれもよろしくお伝え下さいませ、おかあさんのメグより。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-281909-282082">においいりの、びんせんに、きれいに書いたこの手紙とちがって、つぎの手紙は、大きなびんせんに書きなぐってあります。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-282082-282129">わたしのたっといおかあさん。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-282129-282581">なつかしき父上のために、ばんざい三唱、おとうさんのよくなられたことを、電報で知らせて下さるブルック先生まことに頼もしきかぎり、電報を見て屋根部屋へかけあがり、わたしたちによくして下さる神さまにお礼を申さんとせしも、ただ大声で、うれしいとくり返し泣きましたのみ。でも、長きいのりとおなじかと存じます。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-282581-283705">わたしどもは、おもしろく暮しています。みんなひどく親切で、山鳩の巣にいるごとし。メグねえさんは、おかあさんらしくふるまい、日に日に美しくなり、いもうとたちは、かわいい天使のようです。わたしは、あいかわらずのジョウ。そうそうローリイと、けんかしました。わたしのほうが正しいがいいわけしたのがわるく、わたしがあやまるまで来ないといって帰り、国交断絶、わたしはローリイのあやまりに来るのを待ちましたが来ません。その晩、エミイが川に落ちたときの、おかあさんの教訓を思い出し、聖書を読んだらおちついて、怒ったままねてはならぬと、あやまりに来るローリイとあい、すっかり心は晴れ、元どおり仲よしとなりました。昨日のハンナの洗濯のお手伝いをして詩をつくりました。お笑草に。おとうさんに、わたしにかわって、愛情こめてキッスをしてあげて下さい。でたらめのジョウより、</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-283705-284989" style="padding-inline-start: 1em">
        <p style="text-indent: 3em" rend="first-line-indent(3)"><seg source="#source-283740-283775">しゃぼん水のうた</seg></p>
        <p><seg source="#source-283775-283858">わたしのたらいの女王さま、わたしはたのしくうたいます。</seg></p>
        <p><seg source="#source-283858-283914">白いあわが、ぶくぶく高くたつあいだに</seg></p>
        <p><seg source="#source-283914-283973">せっせとあらって、しぼって、ほします。</seg></p>
        <p><seg source="#source-283973-284026">きれいなお空の下で、吹きまわる風に</seg></p>
        <p><seg source="#source-284026-284084">せんたくものは、ひらひらふかれます。</seg></p>
        <p><seg source="#source-284084-284134">あたしたちの心とたましいについた</seg></p>
        <p><seg source="#source-284134-284178">一週間のけがれをあらいたい。</seg></p>
        <p><seg source="#source-284178-284219">水と空気のふしぎなちからで</seg></p>
        <p><seg source="#source-284219-284263">きれいにきれいにきよめたい。</seg></p>
        <p><seg source="#source-284263-284316">そうすれやこの世に、とてもすてきな</seg></p>
        <p><seg source="#source-284316-284371">せんたく日がおこなわれるでしょう。</seg></p>
        <p><seg source="#source-284371-284403">よき人の世の小道には</seg></p>
        <p><seg source="#source-284403-284447">いつもパンジイが咲くでしょう</seg></p>
        <p><seg source="#source-284447-284518">いそがしい心は　かなしみも　うれいも　なやみも</seg></p>
        <p><seg source="#source-284518-284559">考えるひまは、ありはしない</seg></p>
        <p><seg source="#source-284559-284606">ほうきをせっせとつかうときには</seg></p>
        <p><seg source="#source-284606-284649">なやむ思いもはいてしまう。</seg></p>
        <p><seg source="#source-284649-284693">日ごと日ごとにつとめる仕事が</seg></p>
        <p><seg source="#source-284693-284746">わたしにあたえられたのはうれしい。</seg></p>
        <p><seg source="#source-284746-284832">仕事がつよいからだと　ちからとのぞみを　もってきてくれる</seg></p>
        <p><seg source="#source-284832-284900">頭でいろいろよく考え　心でいろいろよく感じ、</seg></p>
        <p><seg source="#source-284900-284953">けれど　手はいつもはたらかすよう。</seg></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">なつかしい、おかあさん――わたしの愛情とおとうさんがお帰りになったとき、お目にかけようと大切にしていた三色すみれのおし花とをお送りするだけでございます。わたしはまい朝あの本を読んでいい子になろうとつとめ、ねるときはおとうさんの好きな歌をうたいます。わたしは、「まことの国」がうたえません。うたえば泣けて来るからです。みなさんが大切にして下さいますので、おかあさんがるすでも、幸福に暮しています。エミイがこの紙ののこりに書くそうですから、これでやめます。まい日、時計をまくことと、部屋にいい空気をいれることは忘れたことありません。なつかしいおとうさんによろしくお伝え下さい。小さなベスより</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-285877-286593">あたしのおかあさん――みんな元気です。わたしはまい日勉強しています。おねえさんのいうことをききます。メグねえさんは、たいへんやさしくして下さいます。夕飯のときゼリイを食べさせて下さいます。ジョウねえさんは、あたしがゼリイを食べるからおとなしいのだといいます。もうじき十三になるのに、ローリイはあたしを子供あつかいにし、ひよこさんといったり、あたしがフランス語で、メルシイ（ありがとう）とか、ボンジュール（こんにちは）とかいうと、ぺらぺらとフランス語をしゃべってこまらせます。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-286593-287291">空色のドレスのそでがきれたので、メグねえさんが新らしいのとつけかえて下さいましたが、色が青すぎて前のほうがだめになりました。いやでしたが、ぐずらないで、つらいのを、がまんしています。ハンナがエプロンにもっとのりをつけて、まい日おそばを食べさせてくれるといいと思います。メグねえさんは、あたしの文章、てんのうちかたと、字の使いかたがだめだといいます。することがたくさんあるのでしかたありません。さよなら、おとうさんにくれぐれもよろしくおっしゃって下さい。エミイより</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-287291-287741">おしたわしきマーチおくさまへ――一筆申しあげます。みなさんおたっしゃで、おりこうで、よくおはたらきになります。メグさまは、よいおくさまぶりで、なんでも早くこつをのみこみなされます。ジョウさま　まっさきにたっておはたらきになりますが、考えてからなさらないので、なにをしでかしなさるかわりません。月曜日</seg><app type="base-text-variant" source="#source-287753-287819"><lem><seg source="#source-287741-287753">せんたく</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-287795-287813">せんたくたく</seg></rdg></app><seg source="#source-287819-288776">をなさいましたが、しぼらずにのりをつけたり、もも色キャラコを青くしたり、おかしくてころげるほど笑いました。ベスさまは一ばんよくできたかたで、手まわしがよく、わたしは大助かりです。なんでもおぼえようとなされ、市場の買出しにもいかれます。みんなでずいぶん険約しおくさまのおおせどおり、コーヒーも一週間に一回、食物は栄養のあるものにして、ぜいたくいたしません。エミイさまは、よい服を着たがったり、お菓子をほしがったりして、だだをこねなさるときもあります。ローリイさまは、あいかわらずのあばれんぼうですが、みなさんを元気づけて下さいますので、けっこうです。パンがふくらみかけたので、これでやめます。だんなさまによろしくお伝え下さいませ。肺炎が早く</seg><app type="base-text-variant" source="#source-288785-288839"><lem><seg source="#source-288776-288785">なおり</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-288824-288833">おなり</seg></rdg></app><seg source="#source-288839-288922">ますようお祈りいたしております。ハンナ・マレットより。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-288922-288954">第二号付看護婦長殿</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-288954-289534">ラパハノック川岸はきわめて静かにて全軍士気さかん。兵站部の処置よろし。テディ大佐指揮の国防軍その警備にあたる。司令長官ローレンス将軍は、まい日軍隊の検閲をなされ、給養係マレットは宿舎をととのえ、ライオン少佐（犬の名）は夜中歩哨の任につく。ワシントンよりの吉報に、二十四発の祝砲をはなち、司令部に大観兵式をおこのう。司令長官の熱誠あふるる祝福をお伝えし、全快を祈るものなり　テディ大佐</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-289534-290150">親愛なる夫人よ――御令嬢方みな無事。ベスと小生の孫は、まい日お便りいたしています。ハンナは模範的な召使、美しいベスさんを、まるで竜のように守っています。上天気つづきなにより、どうぞブルックを御遠慮なくお使い下されたく、なお、費用お見込をこえる場合、当方よりお引出し願いたく、御主人に御不自由なきよう、御快方におもむかれしことを神に感謝いたしております。あなたの忠実な友であり召使の　ジェームス・ローレンス。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-290150-290262" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-290174-290258"><seg source="#source-290174-290201">第十七　小さな真心</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-290262-290864">はじめの一週間というものは、マーチ家の美徳は、となり近所へ配給してもあまりあるくらいでした。たしかにおどろくべきもので、たれもかれも申しぶんのない、よいきげんでしたし、わがままをおさえました。けれど、おとうさんについて、はじめのような心配がなくなると、しだいに気がゆるみ、標語の、せっせとはたらくということも怠りがちとなり、非常な努力のあとだもの、休んでもよかろうという気持で、たびたび休みました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-290864-291664">ジョウは、髪をきった頭をつつまなかったので、かぜをひき、マーチおばさんは、なおるまで来るなといいましたので、それをいいことにして休みました。エミイは、家の仕事をやめて粘土細工をやりだしました。メグはキング家から帰ってする針仕事に、あまり身をいれなくなり、ワシントンへ手紙を書いたり、ワシントンから来た手紙をくりかえして読んだりしました。ベスだけは、たいして怠けず、まい日こまごました小さな仕事を忠実にやりました。おかあさんのことがこいしく、おとうさんのことが心配になるようなときは、戸だなへはいってすすり泣き、こっそり祈りました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-291664-291744">おかあさんが出発してから十日後、ベスがいいました。</seg></p>
        <p>「メグねえさん、ハンメル家へいって見て来ていただきたいわ。おかあさんはあの人たちのこと忘れないようにと、おっしゃったでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-291938-292141">すると、メグはあまり疲れたからいけないといいます。そこで、ベスはジョウねえさんに頼むと、かぜをひいているからといってことわりました。</seg></p>
        <p>「あなた、どうしてじぶんでいかないの？」と、メグが尋ねました。</p>
        <p>「あたし、まい日いってるのよ。だけど、あかちゃん病気していて、どうしていいかわからないの。おばさんは、はたらきにいってしまうし、ロッチェンが看病してるけど、だんだんわるくなっていくようよ。おねえさんかハンナがいかなければだめだと思うわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-292595-292678">ベスが熱心にいうので、メグは明日いくと約束しました。</seg></p>
        <p>「ハンナに頼んで、なにかおいしいものつくって、もらって持っていっておやりなさいよ。ベス<app type="base-text-variant" source="#source-292810-292852"><lem><seg source="#source-292807-292810">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-292843-292846">・</seg></rdg></app><seg source="#source-292852-292867">外の空気は</seg><app type="base-text-variant" source="#source-292876-292930"><lem><seg source="#source-292867-292876">あなた</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-292915-292924">おなた</seg></rdg></app>の身体にいいわ。」と、ジョウはいって、また、いいわけらしく言葉をそえました。「あたしもいってあげたいけど、この小説書きあげてしまいたいのよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-293145-293174">けれど、ベスは、</seg></p>
        <p>「あたし頭痛がしてくたびれているの。たれかいって下さるといいのに。」と、いかにも疲れているようなようすでした。</p>
        <p>「エミイが、もうじき帰ってくるわ。あの子に一走りいってもらうといい。」と、メグがいいました。</p>
        <p>「では、あたしすこし休んで、エミイの帰るの待っていますわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-293573-294046">そういってベスは、ソファに横になりました。メグとジョウは、それぞれの仕事にかかり、一時間あまりたってもエミイは帰りませんでした。ハンナは台所でいねむりをしていました。ベスは、しかたなしに、そっと頭巾をかぶり、かわいそうな子供たちにやるものをバスケットにいれ、悲しげな顔をしてつめたい風のなかを出かけていきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-294046-294381">ベスが帰ったのは、だいぶおそく、帰るとこっそり二階へあがり、おかあさんの部屋にこもりました。ジョウが、用事でその部屋へいったとき、ベスが目をあかくして、カンフルの瓶を片手に持ち、薬箱に腰かけているのを見ておどろきました。</seg></p>
        <p>「どうしたの？」と、ジョウが尋ねると、ベスは近よってはいけないという手つきをしました。</p>
        <p>「ハンメルさんのあかちゃん、おばさんの帰って来ないうちに、あたしに抱かれて死んでしまったの。」</p>
        <p>「まあ、かわいそうに、どんなにこわかったでしょうね。あたしがいけばよかった。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-294774-294899">ジョウは、後悔の色を顔にうかべ、おかあさんの大きなイスにかけてベスを抱きました。</seg></p>
        <p>「こわくはなかったけど、悲しかったわ。ロッチェンが医者をよびにいったというので、あたしがあかちゃんを抱いて、ロッチェンを休ませてあげてたの。そうしたら、あかちゃんが、きゅうに泣き声をたててぶるぶるふるえて動かなくなったの。足をあたためたり、ミルクを飲ませたりしたんですがもうだめ、ちっとも動かないの。」</p>
        <p>「泣かないでね、それから、どうしたの？」</p>
        <p>「お医者さまが来るまで、あたし抱いていたの。お医者さまに死んでしまったとおっしゃって、ヘンリッヒとミンナののどを見て、「しょうこう熱」ですね、おくさん、もっと早くわたしをよびに来なければだめですと、むずかしい顔をしておっしゃったわ。すると、ハンメルのおばさんが、貧乏だからじぶんの手でなおそうとしたんです。どうかほかの子を助けて下さいといったの。そして、わたしにね。早く家へ帰ってベラドンナを飲みなさい。そうでないと、あなたもかかるよとおっしゃったの。」</p>
        <p>「ああ、ベス、あなたがかかったら、あたしはどうしたって、じぶんを許せないわ！」</p>
        <p>「だいじょうぶ、ベラドンナを飲んだら、いくらかよくなったようだわ。」</p>
        <p>「ああ、おかあさんが家にいて下すったら！　あなたは一週間以上も、ハンメル家へいったんだものきっとうつったわ。ハンナをよんで来るわ。ハンナは病気のことなんでも知っているから。」</p>
        <p>「エミイを来させないでね、エミイはまだ<app type="base-text-variant" source="#source-296657-296720"><lem><seg source="#source-296642-296657">かからない</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-296702-296714">かかない</seg></rdg></app>から、うつると大へんだわ。あなたとメグねえさんは、もううつらないでしょうか？」</p>
        <p>「だいじょうぶと思うわ。うつったってかまわないわ。あなたばかりいかせて、くだらないもの書いていて、じぶん勝手のむくいだわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-297027-297314">ジョウは、そうつぶやいて、ハンナのところへ相談にいきました。ハンナはよく知っていて、手あてさえよければ死ぬものではないといったので、ジョウはほっとし、今度は、二人でメグをよびにいきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-297314-297409">ハンナは、ベスの容態を見たり、いろいろ尋ねてからいいました。</seg></p>
        <p>「では、バンクス先生に診察していただいて手当をするんです。エミイさんはうつるといけないからしばらくマーチおばさんのところであずかっていただきましょう。それから、どなたか一人のこってベスさんのお相手になってあげて下さいませ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-297747-297882">のこるのは、ジョウにきまりましたが、エミイは、どうしてもいかないといい、いくくらいなら、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-297897-297963"><lem><seg source="#source-297882-297897">しょうこう</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-297942-297957">しょうこの</seg></rdg></app><seg source="#source-297963-298071">熱にかかったほうがいいと、だだをこねはじめました。なだめても、すかしても</seg><app type="base-text-variant" source="#source-298077-298125"><lem><seg source="#source-298071-298077">聞き</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-298113-298119">聞さ</seg></rdg></app><seg source="#source-298125-298286">ません。おりよく来たローリイに頼むと、ローリイはいろいろとエミイの心をひくようなことを、まくしたてました。</seg></p>
        <p>「ぼくがまい日顔を出して、ベスの容態を知らせたり、遊びにつれ出したりしてあげる。あのばあさんは、ぼくが好きなんだ。だから、できるだけうまくやるよ。芝居にもつれていってあげる。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-298552-298602">とうとうエミイは承知しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-298602-298877">メグとジョウは、二階からおりて来て、エミイが承知したことを知って安心しました。バンクス先生をよびにいくのも、ローリイがしてくれました、親切なローリイは、生垣をとび越していきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-298877-299350">バンクス先生がいらして、ベスにはしょうこう熱のきざしがあると診断しました。そして、ハンメル家の話を聞いてむずかしい顔をしましたが、たいていかるくすむだろうということでした。エミイは、すぐに家からはなれるように命ぜられ、予防の手あてをしてもらってから、ローリイとジョウにまもられて、マーチおばさんの家へいきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-299350-299400">マーチおばさんは、話を聞いて、</seg></p>
        <p>「だから、いわないことじゃない。よけいなおせっかいをして、貧乏人の家へいったりするからだよ。エミイは、ここにいて、御用をしたらいいだろう。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-299636-299866">エミイは、おばさんから、目がね越しに、じろじろ見られるので、いやになってしまいましたが、それでも、ローリイとジョウが帰ってしまうと、気をとりなおして、</seg></p>
        <p>「あたし、とてもがまんできそうにないけど、やってみましょう。」と、考えました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-299985-300062">そのとき、おばさんのとこの、おうむのポーリーが、</seg></p>
        <p>「でていけ、ばけもの！」と、さけんだので、エミイはしくしく泣いてしまいました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-300183-300301" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-300207-300297"><seg source="#source-300207-300237">第十八　つづく暗い日</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-300301-300606">ベスは、まぎれもなく、しょうこう熱でした。ハンナと医者しか、その重態であることを知りませんでした。ローレンス氏は、老体なので、病人を見舞うことは許されませんでしたから、すべてハンナが一人でやりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-300606-301442">メグは、おかあさんへ手紙を書くとき、ベスのことに一言もふれないので、小さい罪をおかしているような気がしましたが、これはハンナがよけいな心配をかけてはいけないと、とめたためでした。ジョウはベスにつききりでしたが、熱の高いベスは、ピアノをたたくかっこうをしたり、はれあがったのどでうたおうとしたり、まわりの人の顔がわからなくなったりするので、すっかりジョウはおびえてしまい、ハンナに、おかあさんへ知らせようといい、ハンナもそうしましょうかといっているところへ、ワシントンからの通信が来て、おとうさんの病気がぶりかえして、当分帰る見こみはないということでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-301442-301663">来る日も来る日も、家のなかは悲しくわびしく、父母の帰りと、ベスの回復とをねがいながら、はたらいている姉妹の心は、なんとおもくるしかったでしょう！</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-301663-302463">けれど、みんなそれぞれ心に教訓を受けました。メグは、今までの生活が、金であがなうことのできる、いかなるぜいたくよりも、はるかにたっといものであることを知りました。ジョウは、ベスが病気になって、はじめてベスの美徳を知りました。ほかの者のために生き、手近の仕事をして家庭をたのしくしようとする、そのあたたかい心持は、才能や財産や美しさよりもたっといことを知りました。エミイは、早く帰ってベスのためにはたらきたいと思いました。労苦をいとわぬベスが、じぶんのなおざりにしておいた仕事を、いかにたくさん片づけてくれたかを考えて後悔しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-302463-302813">ローリイは、おちつきを失って、家のなかをうろつき、ローレンスは、ベスがじぶんをなぐさめてくれたピアノを思い出すのにたえられなくて、グランド・ピアノにかぎをかけてしまいました。牛乳屋もパン屋も肉屋も、みんながベスのことを尋ねました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><note type="base-edition" source="#source-302816-302852">空白は底本では欠落</note><seg source="#source-302852-302914">ベスのすがたが見えないさびしいのでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-302914-302944">ベスは、ぼろ人形を</seg><app type="base-text-variant" source="#source-302950-302998"><lem><seg source="#source-302944-302950">そば</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-302986-302992">ぞば</seg></rdg></app><seg source="#source-302998-303447">におきました。子ねこにもあいたがりましたが、病気がうつるのを心配してがまんしました。すこし気分がいいと、手紙を書きたがりました。けれど、そのうちに、病状はわるくなり、意識が不明となり、うわ言をいうようになりました。バンクス先生は、一日に二回も来ました。メグは、机のひき出しに電報用紙を用意しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-303447-303602">十二月一日は、冬らしい日で、風が吹き雪がふりました。その朝、バンクス先生は診察をすますといいました。</seg></p>
        <p>「おくさんが御主人のそばをはなれられるようなら、およびしたほうがよろしいです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-303724-304161">ハンナは、うなずきました。メグは、イスにぐったりたおれました。まっさおになったジョウは、電報用紙をひっつかんで、吹雪のなかへとび出していきました。まもなく帰って来たとき、ローリイが来て、おとうさんがまた快方にむかったという手紙を持って来ました。けれど、ジョウの顔が悲痛にあふれているので、</seg></p>
        <p>「どうしたの？　ベスわるいの？」</p>
        <p>「ええ、おかあさんに電報うって来たの。もうあたしたちの顔がわからないのよ。おとうさんもおかあさんもいらっしゃらないし、神さまも遠くへいっておしまいになった！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-304450-304839">ジョウの顔に、涙がたきのように流れました。よろけそうなので、ローリイはその手をつかみ、なにかなぐさめの言葉をかけようとしたが、言葉もないので、ジョウの顔をやさしくなでてやりました。ジョウは無言の同情を心に感じ、やっとおちついて、感謝にみちた顔をあげました。</seg></p>
        <p>「ありがとう。もうだいじょうぶ、万一のことがあっても、こらえられるわ。」</p>
        <p>「ぼくはベス死ぬと思わない。あんなにいい子だし、ぼくたちこんなにかわいだっているんだもの、神さまがつれていらっしゃるわけはない。」</p>
        <p>「やさしい、かわいい子は、いつでも死んでしまうんだわ。」</p>
        <p>「きみ、つかれてるんだ、心ぼそく思うの、きみらしくないよ。ちょっと待ってて。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-305351-305563">ローリイは、階段をかけあがり、まもなくいっぱいのぶどう酒を持って来た。ジョウはにっこり笑って、ベスの健康のために飲むわといって飲みました。</seg></p>
        <p>「あなたいい医者ね。そして、ほんとに気持のいいお友だちね、どうして、お返しできるかしら？」</p>
        <p>「いずれ勘定書を出すよ。そして、今夜はぶどう酒より、もっときみの心をあたためるものをあげるよ。」</p>
        <p>「なんなの？」</p>
        <p>「昨日、電報うったのさ。そうしたらブルック先生から、すぐ帰るという返電さ。だから、おかあさんは、今晩お帰りになる。そうすれや、万事好都合だろう。ぼくのやったこと気にいらない？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-306135-306188">ジョウは、狂喜してさけびました。</seg></p>
        <p>「おおローリイ！　おかあさん！　うれしい！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-306256-306663">ジョウは、ローリイにしがみつき、めんくらわせてしまいました。けれど、ローリイは、おちついて、ジョウのせなかをさすり、気がおちつくのを見て、二三度はずかしそうにキッスをしました。それで、ジョウはきゅうにわれにかえり、やさしくかれをおしのけ、息をはずませながらいいました。</seg></p>
        <p>「だめよ、あたしそんなつもりじゃなかったのよ。いけなかったわ。でもハンナがあんなに反対したのに、電報うって下すったと思うと、うれしくて、とびつかずにいられなかったの。きっとぶどう酒のせいだわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-306956-307030">ローリイは、笑いながらネクタイをなおしました。</seg></p>
        <p>「かまわないさ。ぼくもおじいさんも、とても心配でね。もしもベスに万一のことでもあれば、申しわけない、だけどハンナは、ぼくが電報をうつというと、どなりつけたんだ。それでぼくかえって決心して、うってしまったんだ。終列車は、午前二時につくからぼく迎えにいく。」</p>
        <p>「ローリイ、あなた天使だわ。どんなにおれいいっていいかわからないわ。」</p>
        <p>「じゃ、もう一度とびつきたまえ。」と、ローリイがいたずらそうな顔をしていいました。</p>
        <p>「いいえ、もうたくさん、おじいさんがいらしたら、とびついてあげるわ。さ、あなたはお迎えにいって下さるのだから、早く帰ってお休み下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-307851-307950">ジョウは、そのまま台所へかけこみ、そこにいたねこにまで、うれしい</seg><app type="base-text-variant" source="#source-307962-308022"><lem><seg source="#source-307950-307962">お知らせ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-308004-308016">わ知らせ</seg></rdg></app><seg source="#source-308022-308072">をいって聞かせました。ハンナは、</seg></p>
        <p>「おせっかいな小僧さんだが、かんべんしてあげましょ。おくさまが早くお帰りになるから。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-308227-308769">新らしい空気がさっと流れこんで来たようなよろこびでした。あらゆるものが希望にみちて来ました。姉妹たちは、顔を合せるごとに、おかあさんが帰っていらっしゃるのよと、はげまし合うようにささやきました。ベスだけは、見るも痛ましく、おもくるしい昏睡状態におちていましたが、それでも姉妹たちは神さまとおかあさんを信頼していますので、今までほど心は苦しくありませんでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-308769-309041">吹雪の一日が暮れて、とうとう夜が来ました。バンクス先生が来て、よくなるか、わるくなるか、いずれにしても、ま夜中ごろ変化が起るだろうから、そのころまた来るといって帰っていきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-309041-309454">ハンナはつかれきって、ソファに横になってねてしまいました。ローレンス氏は客間をあちこち歩きまわっていました。ローリイはストーブの前に横わって、じっと火を見つめていました。姉妹たちは、すこしもねむくなくて、一生忘れることのなさそうな、ひきしまった気持でベスのそばにいました。</seg></p>
        <p>「もし神さまがベスをお助け下すったら、あたしもう二度と不平をいわないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-309567-309620">メグが熱心にささやくと、ジョウも</seg></p>
        <p>「あたしは、一生、神さまにお仕えする。」と、答えました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-309706-310123">やがて、十二時が鳴りました。二人はベスのやつれた顔に、なにか変化が起ったような気がしたので、われ知らず病人の顔を見まもりました。家のなかは死のように静まり、むせび泣くような風の音だけが聞えました。一時間がすぎましたが、ローリイが停車場へ迎えに出かけたほか、なにごとも起りません</seg><app type="base-text-variant" source="#source-310132-310186"><lem><seg source="#source-310123-310132">でした</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-310171-310180">てした</seg></rdg></app><seg source="#source-310186-310455">。さらに一時間すぎました。吹雪のために汽車がおくれたのでしょうか、それとも、おとうさんに大きな悲しみでも起ったのではないかしら。あわれな姉妹たちは、また心をなやましはじめました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-310455-310578">二時まで、ジョウは窓のそばへいって、外を見ていましたが、ふとふりかえると、メグが</seg><app type="base-text-variant" source="#source-310596-310665"><lem><seg source="#source-310578-310596">ひざまずいて</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-310644-310659">ひざまいて</seg></rdg></app><seg source="#source-310665-311126">います。あ、ベスが死んだがメグはこわくてあたしにいえないのだと考えると、さっとつめたい恐怖が全身に通りすぎました。ジョウは、すぐにベスのそばにいきました。苦しそうなようすは消えていかにも安らかな顔です。ジョウは泣く気にも、悲しむ気にもなれず、かわいいベスの上に身をかがめて、そのしめった額に唇をあてました。</seg></p>
        <p>「さようなら、ベス、さようなら！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-311179-311361">その気配でハンナが目をさまし、いそいでベッドのそばへ来て、手にさわったり、唇に耳をあてて息をしらべたりしていましたが、</seg></p>
        <p>「ありがたい、熱がさがりました。すやすやねていなさる。肌もしめっているし、息もらくになられた。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-311531-311830">姉妹がこのうれしい変化を信じかねているうちに、バンクス先生が来て保証してくれました。危険は通りすぎた。よくねむらしてあげなさいという、言葉を聞いたとき、お医者の顔は神さまの顔のように思われました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-311830-312048">お医者が帰ってから、メグとジョウとハンナは、大きな安心のなかで、抱いたり、手を握り合ったり、よろこびのなかで、ゆめのような時間をすごしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-312048-312170">冬の夜は、ようやく明けはじめました。メグは、咲きかけた白ばらの花を持って来て、</seg></p>
        <p>「あの子が目をさましたら、このかわいいばらと、おかあさんの顔が、一ばんはじめに見えるようにしてあげよう。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-312355-312570">メグとジョウは、長い、悲しい一夜を明かし、おもいまぶたに、あかつきの空をながめたとき、こんなに美しい朝を見たことがないと思いました。メグが、</seg></p>
        <p>「まるで、おとぎの国みたいねえ。」と、いってほほえむと、ジョウがとびあがって、</p>
        <p>「あら、お聞きなさい！」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-312751-312840">そうです。ベルが鳴り、ハンナとローリイのうれしそうな声、</seg></p>
        <p>「おかあさんのお帰りですよ！」</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-312889-313013" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-312913-313009"><seg source="#source-312913-312946">第十九　エミイの遺言状</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-313013-313372">家でこういうことが起っているあいだ、エミイは、マーチおばさんの家で、まことにつらい日を送っていました。エミイは、まるで島流しにあったようなわが身をふかく悲しみ、わが家でどんなにかわいがられていたかということを、生れてはじめて感じました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-313372-313737">マーチおばさんは、親切でしたが、けっして人をあまやかすようなことをしませんでした。エミイはしつけがいいので、たいそう気にいりました。それで、エミイをかわいがり、幸福にしてやりたいと思いましたが、ざんねんながら、その方法がまちがっていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-313737-314045">マーチおばさんは、すべて命令ずくめで、きちょうめんで、くどい長いお説教で、エミイを教育しようとしましたが、これがまたエミイをすっかり不幸にし、まるでじぶんはくものあみにかかったはえのようだと思いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-314045-314767">エミイは、まい朝、茶わんをあらい、スプーンや湯わかしを、ぴかぴかに光るまでみがかなくてはなりませんでした。それから、おそうじ、おばさんはちり一つ見のがさないので、なんとまあおそうじはつらかったでしょう。それから、おおむのポーリーに餌をやり、ちんの毛をくしけずり、足のわるいおばさんの用事を、なん度も召使のところへいいにいったり、階段をのぼったりくだったり、それがやっとすむと、勉強をさせられます。その後の一時間！　そのとき運動か遊びを許されるので、どんなにたのしかったでしょう！</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-314767-315349">ローリイは、まい日訪ねて来て、エミイの外出を許してもらうように口説きたて、やっと許されると、二人は散歩したり馬車にのったりして、たのしい時をすごしました。お昼の御飯を食べてから、おばさんに本を読んで聞かせます。おばさんがねむってしまっても、じっとしてすわっていなければなりませんでした。おばさんは、はじめの一ページでいねむりをやりだし、たいてい一時間はねむりました。それから、夕方まで、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-315361-315421"><lem><seg source="#source-315349-315361">つぎはぎ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-315403-315415">つぎはば</seg></rdg></app><seg source="#source-315421-315897">仕事などをしなければなりませんでした。夕飯までしばらくのあいだ遊びますが、夕飯をすましてからは、マーチおばさんのわかいときの話やお説教を聞かされたいくつしてしまいます。そして、やっと話がおわると、エミイはねるのですが、つらい身の上を思いきり泣こうと思っても、一二滴の涙しかこぼさないうちに、いつもねむってしまいます。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-315897-316074">もしローリイと、エスターばあやがいなかったら、こんなおそろしいまい日を、がまんできないとエミイは思いました。おおむの</seg><app type="base-text-variant" source="#source-316086-316146"><lem><seg source="#source-316074-316086">ポーリー</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-316128-316140">ローリー</seg></rdg></app><seg source="#source-316146-316206">だけでも、エミイを発狂させるほどでした。</seg><app type="base-text-variant" source="#source-316218-316278"><lem><seg source="#source-316206-316218">ポーリー</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-316260-316272">ローリー</seg></rdg></app><seg source="#source-316278-316526">はエミイの髪をひっぱったり、そうじしたばかりのかごに、ミルクをひっくりかえしてこまらしたりしました。また、ふとったむく犬も、エミイの手にかかることばかりやりました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-316526-317275">エスターばあやだけは、エミイをほんとにかわいがってくれました。ばあやはフランス人で、マーチおばさんと長年暮らし、おばさんもこのエスターをいなければならぬ人と思っていました。ばあやは、エミイにフランスにいたころのめずらしいお話を聞かせてたのしませました。また、広い家のなかを勝手に歩きまわらせて、大きな戸だなや、古風なたんすにしまいこんだものを、自由に見させてくれました。なかでも宝石箱には、真珠の首かざりやダイヤの指輪、そのほか、ピンやロケットなどいくつも、目もまばゆいばかりのものがありました。</seg></p>
        <p>「もしおばさんが遺言なさる場合、あなたはどれがほしいと思いますか？」と、そばについていて、かぎをおろすエスターが尋ねました。</p>
        <p>「あたし、ダイヤモンドが一ばん好き。だけど、ダイヤモンドの首かざりはないから、この首かざり」と、エミイは答えて、金と黒たんのじゅ玉でできて、さきに十字架のついた首かざりに見とれました。</p>
        <p>「あたしも、これが一ばん好きですが、首かざりにはもったいない。あたしのような旧教の信者はおじゅずに使います。」</p>
        <p>「あなた、お祈りするのたのしそうね。」</p>
        <p>「ええ、あなたもお祈りなさるといいですよ。化粧室を礼拝堂につくってあげましょう。おばさんがいねむりをなさっているあいだに、じっとすわって、神さまにおねえさんをおまもり下さるように、お祈りあそばせ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-318266-318370">エミイは、その思いつきが気にいり、礼拝堂をつくるように頼みました。</seg></p>
        <p>「マーチおばさんがおなくなりになったら、この宝石はどうなるのかしら？」</p>
        <p>「あなたと、おねえさんたちのところへいくのですよ。遺言状を見ました。あたしは。」</p>
        <p>「まあ、うれしい。今、下さればいいのに。」</p>
        <p>「今は早すぎます。はじめに結婚なさるかたに真珠、それから、あなたがお帰りになるときには、トルコ玉の指輪、おくさまはあなたが、お行儀がいいといって、ほめていらっしゃいました。」</p>
        <p>「ほんと？　あの美しい指輪がいただけるの。まあ、うれしい。やっぱりおばさん好き。」と、エミイは、うれしそうな顔をして、それをきっと手にいれようと心をきめました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-319169-319615">その日から、エミイは、おとなしく、なんでもいうことを聞いたので、マーチおばさんはじぶんのしつけが成功したと思って、たいそう満足しました。エスターは、礼拝堂をつくってくれ、聖母の絵をかいてくれました。エミイは、心をこめてここに祈り、ベスの病気をなおし、じぶんを正しく導いて下さるように願いました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-319615-319890">エミイは、善良になるために、マーチおばさんのとこに遺言状をつくろうと思いました。遊び時間に、エスターから法律上の言葉を教えてもらって、じぶんの所持品を公平にわけることを書きました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-319890-320426">エスターは証人となって署名してくれました。エミイは、ローリイに、第二の証人になってもらうつもりでした。ところで、この部屋には、流行おくれの服がいっぱいはいったタンスがあって、エスターはエミイに、それで自由に遊ばせました。その服を着て、長い姿見の前をいったり来たりして、わざとらしくおじぎをしたり、衣ずれの音をさせたりするのが、おもしろくてたのしみでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-320426-321031">この日は、そんなことを、あまり夢中でやっていたので、ローリイの鳴らしたベルにも気がつかなかったし、そっと来てのぞいたのも知りませんでした。エミイは、青色のドレスと黄色の下着をつけもも色のふちなし帽子をかぶり、扇子を使ってすましてねり歩いたのでした。ローリイが、後でジョウに話したところによると、エミイがそうやって気どって歩いていくあとから、おおむのポーリーがそのまねをして歩き、ときどき立ちどまって、</seg></p>
        <p>「きれでしょ、あっちいけ、おばけさん、おだまり、キッスして！　ハッ！　ハッ！」と、どなりましたが、それはとてもおかしな光景だったということでした。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-321252-321481">ローリイは、おかしさのあまり、ふき出しそうになるのを、やっとこらえました。そして、ていねいに迎えられ、これを読んでよと、あの遺言状を見せられました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 4em" rend="first-line-indent(4)"><seg source="#source-321481-321504">遺言状</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-321504-321710">わたし、エミイ・カーチス・マーチは、正気にて所有物全部を左記の如く分配します。父上には一ばんいい絵、スケッチ、地図、額ぶちづき美術品。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-321710-321874">母上には、衣類全部、ただしポケットのある青いエプロンはべつ。それから、わたしの肖像画とメダルを真心こめて。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-321874-322107">メグねえさんには、トルコ玉の指輪（もしいただいたら）鳩のついている緑の箱と、首かざりのためのレース、姉上をかいたスケッチ。これは姉上の愛する妹のかたみ。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-322107-322328">ジョウねえさんには、一度なおした胸ピンと、青銅のインクつぼ（ふたはおねえさんがなくした）それから、原稿を焼いたおわびに一ばん大切な石膏のうさぎ。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-322328-322681">ベス（もしわたしの後まで生きていれば）には、人形、小さなタンス、扇子、麻のカラー、それから病気がよくなり、やせてなければ、新らしいスリッパ、それから、わたしがいつも古ぼけたジョアンナのことをからかったことを、ここで後悔しておきます。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-322681-323025">お友だちであり隣人であるローリイには、紙のかばんと、首がないようだとおっしゃったが、粘土細工の馬。つぎに心配のときに親切にして下さったお礼に、わたしの絵のなかで気にいったものさしあげます。ノートルダムが一ばんよくできています。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-323025-323258">大恩人ローレンス氏には、ふたに鏡のついた紫の箱、ペンいれによろし。わたしたち一家、ことにベスへの御厚意をありがたく思っていることを思い起させるでしょう。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-323258-323413">なかよしのキティ・ブライアントには、青色のエプロンと、金色のじゅず玉の指輪を、キッスとともにあげる。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-323413-323553">ハンナには、ほしがっている紙箱と、つぎはぎの細工を全部、わたしを思い出してもらうためです。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-323553-323912">わたしの大切な所有品を全部処分せり、みなみな満足して死者を非難せざるよう望む。わたしはすべての人を許し、最後のラッパの鳴りひびくとき、みな再会することを信ず。アーメン、この遺言状は、千八百六十一年十一月二十日、わが手によって認め封印す。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-323912-323983" style="padding-inline-end: 2em; text-align: right">
        <p><seg source="#source-323942-323983">エミイ・カーティス・マーチ</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-323983-324054" style="padding-inline-end: 6em; text-align: right">
        <p><seg source="#source-324013-324054">証人　　エステル・ベルノア</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-324054-324118" style="padding-inline-end: 5em; text-align: right">
        <p><seg source="#source-324084-324118">セオドル・ローレンス</seg></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-324118-324285">最後の名は鉛筆で書いてありました。エミイはかれにそれをペンで書きなおして、正式に封印してほしいといいました。</seg></p>
        <p>「どうしてこんなことを思いついたの？　<app type="base-text-variant" source="#source-324348-324396"><lem><seg source="#source-324342-324348">ベス</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-324384-324390">べす</seg></rdg></app>が形見わけでもするというようなことを、たれから聞いたの？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-324485-324538">エミイは、そのわけを話してから、</seg></p>
        <p>「ベスはどうですって？」と、訪ねました。</p>
        <p>「いいかけたからいうけど、ベスこのあいだ大へんわるくなって、ジョウにいったの。ピアノはメグに、あなたに小鳥を、かわいそうな古い人形はジョウに。ジョウに人形をかたみとしてかわいがってほしいって。ベスは、あまり人にあげるものないといって悲しがって、ぼくたちには髪を、おじいさんには愛だけをのこすんだって、でもベスは遺言状のことはなんにも考えていなかった。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-325130-325330">ローリイは、そういいながらサインしていると、大きな涙のつぶがおちて来ました。はっとして顔をあげると、エミイの顔には苦痛の色があふれ</seg></p>
        <p>「遺言状には、二伸みたいなものをつけていいでしょうか？」</p>
        <p>「いいでしょう。追伸というんでしょう。」</p>
        <p>「じゃ、書きいれてちょうだい。あたしの髪みんな切ってお友だちに分けるって。へんなかっこうになるけど、そのほうがいいわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-325660-325791">ローリイは、エミイの最後の大きな犠牲にほほえみながら書き足し、一時間ほど遊びました。</seg></p>
        <p>「ベスは、ほんとに、そんなにわるいの？」</p>
        <p>「そうらしいんだ。よくなるように祈ろうねえ、泣いちゃだめですよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-325954-326420">ローリイは、にいさんのように、エミイの肩に手をかけてなぐさめました。ローリイが帰ってしまうと、エミイは小さな礼拝堂にはいり、夕ぐれのあかりのなかにさわって、涙を流しながらベスのために祈りました。もし、このやさしい小さい姉をうしなったら、たとえトルコ玉の指輪が百万もらっても、あきらめられないと思われました。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-326420-326532" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-326444-326528"><seg source="#source-326444-326471">第二十　うち明け話</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-326532-327122">おかあさんと、娘たちの対面を語る言葉はないようです。こういう世にもうるわしい光景は、描写するにむずかしいものです。そこで、それはいっさい読者のみなさんの想像にまかせておいて、ただここでは、家のなかに真に幸福がみちあふれ、メグのやさしい望みがかなえられて、ベスが永いねむりからさめたとき、その目にうつった最初のものは、小さな白ばらの花と、おかあさんの顔であったということだけを述べておきます。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-327122-327689">ベスは、おとろえていたので、まだ気力がなく、ただにっこりと笑って、おかあさんに身をすりよせましたが、また、ひっそりとねむってしまいました。そのあいだに、ハンナのよろこびでつくった朝のすばらしい御飯を、メグとジョウがお給仕しながら、おかあさんがあがりました。あがりながらおかあさんは、おとうさんの容態、ブルック氏が後にのこって看病をしてくれること、帰りの汽車が吹雪でおくれたこと</seg><app type="base-text-variant" source="#source-327692-327734"><lem><seg source="#source-327689-327692">、</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-327725-327728">。</seg></rdg></app><seg source="#source-327734-327955">ローリイが希望にみちた顔で迎えに出ていてくれたので、つかれと寒さでくたくたになっていたが、口にいえない安心をしたことなどを、ひそひそと話しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-327955-329034">その日はなんという、ふしぎな気持よい日でしたろう。外はまばゆいばかり、雪に日が照っていましたが、家のなかはおちついて、看病といねむりだけで、安息所みたいでした。ローリイは、エミイにおかあさんの帰ったことを知らせにいきましたが、エミイは一刻も早くあいたいのに、す早く涙をかわかしてその気持をおさえたので、ローリイは一人前の婦人みたいにりっぱな態度だとほめ、マーチおばさんも心から同意しました。そして、エミイは、ローリイに散歩につれていってほしく思いましたが、たいへん疲れているようなので、それもがまんして、ローリイをソファにかけさせて休ませじぶんはおかあさんに手紙を書きました。書きおわってもどってみると、ローリイはぐうぐうねむってしまい、そばにマーチおばさんが、いつになく親切心をあらわして、じっとすわっていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-329034-329465">ところが、エミイのよろこぶことが起りました。おかあさんが来て下すったのです。おかあさんのひざにすわって苦しかったことをうち明け、それをなぐさめる微笑と愛撫を得たとき、エミイはこの市で一ばん幸福だったでしょう。二人は礼拝堂であいましたが、おかあさんは、エミイのこの思いつきをほめました。</seg></p>
        <p>「家へ帰ったら、戸だなのすみに、聖母とあかちゃんの絵をかいてかざるつもりです。イエスさまも前にはこんな小さいあかちゃんだと思うと、そんなに遠くはなれていらっしゃるかたではなく、いつもお助け下さるような気がします。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-329788-329853">おかあさんは、ほほえんでうなずきました。</seg></p>
        <p>「ああそうだ。おばさんが、今日キッスしてこれをゆびにはめて下さいました。そして、お前はわたしのほこりになるほどいい子だから、そばへおきたいとおっしゃいました。これはめてても、よろしいでしょうか？」</p>
        <p>「美しいですね、でもまだ小さいんだから、すこし早すぎるように思えますね。」</p>
        <p>「虚栄心を起さないようにします。ただ美しいから<app type="base-text-variant" source="#source-330343-330403"><lem><seg source="#source-330331-330343">はめたい</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-330385-330397">ほめたい</seg></rdg></app>のではなく、あることを思い出すためですの。」</p>
        <p>「マーチおばさんのこと？」</p>
        <p>「いいえ、利己主義になってはいけないと<app type="base-text-variant" source="#source-330581-330638"><lem><seg source="#source-330569-330581">いうこと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-330623-330632">うとこ</seg></rdg></app>。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-330646-330744">おかあさんは、エミイのまじめは顔つきを見て笑うのをやめました。</seg></p>
        <p>「あたし、このごろ、じぶんのわるいお荷物のなかで、利己主義が一ばんいけないと思いました。ベスねえさんは利己主義でないから、あんなにかわいがられ、なくなると思うと、みんなはあんなに心配するんですわ。あたしベスのようになりたいんです。それで、これをはめてみたらと思うんです。」</p>
        <p>「よござんすよ、だけど、戸だなのすみのほうが、もっといいでしょう。よくなろうとまじめに考えたら、半分やりとげたようなものです。では、おかあさんはベスのところへ帰ります。元気でいなさいね。すぐに迎えに来ますからね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-331477-331761">その晩、メグが安着の知らせる手紙をおとうさんへ書いているとき、ジョウは二階のベスの部屋にそっといきましたが、おかあさんを見るとたちどまり、なにか心配そうなようすで、ゆびで髪をかきました。</seg></p>
        <p>「どうしたの？」と、おかあさんが手をさしのべてやりながら、尋ねました。</p>
        <p>「お話したいことがありますのよ。」</p>
        <p>「メグのことですか？」</p>
        <p>「まあ、おかあさんの察しの早いこと！　そうなんです。あたし気になるもので。」</p>
        <p>「ベスがねむってますから、小さい声でね。あの、まさかマフォットが来たのではないでしょうね？」</p>
        <p>「あんな人来たら門前ばらいくわせてやりますわ。」と、ジョウはおかあさんの足もとにすわりながらいいました。「この夏ね、メグねえさんがローレンス家へ手袋を忘れて来たんです。片方もどって来ましたが、ローリイが片方をブルックさんが持っているといってくれるまで、あたしたちそんなことを忘れていたんですの。あの方それをチョッキのかくしにいれていて、それを落したのをローリイが見つけてかかったんです。そうしたら、メグは好きだけど、まだ年はわかいし、じぶんは貧乏だからいい出せないって白状なさったそうです。こと重大ではないでしょうか？」</p>
        <p>「メグはあのかたを好いていると思いますか？」</p>
        <p>「まあ！　恋とかなんとか、そんなくだらないこと、あたしわかりませんわ。小説だといろいろ人目にたつ変化があるわけですが、メグにはちっともそんなことはなく、食べたり飲んだり、ふつうの人のように夜もよくねむりますわ。あのかたのこと、あたしがいっても、あたしの顔をまともに見ますし、ローリイが恋人なんかのじょう談をいっても、すこし顔をあかくするだけです。」</p>
        <p>「それでは、メグがジョンさんに興味を持っていないとお思いなのね？」</p>
        <p>「だれに？」と、ジョウはびっくりしました。</p>
        <p>「ブルックさんのこと。かあさんはあの人のこと、このごろジョンさんといってるんです。病院でそんなふうによぶようになったもので。」</p>
        <p>「まあ、そう、おかあさんはあの人のこと、味方するでしょう。あの人はおとうさんに親切にしたんだし、もしメグさんが結婚したいといえば、おかあさんはあの人をしりぞけないでしょう。ああ、いやしい！　おとうさんのお世話をして、おかあさんにとりいって、じぶんを好きにさせるなんて。」とジョウはまたいらだたしそうに髪をかきむしりました。</p>
        <p>「まあ、そんなに怒らないでね、どういう事情か話してあげます。ジョンさんは、ローレンスさんに頼まれて、かあさんといっしょにいって、つききりで看病して下すったので、あたしたちは好きにならずにはいられませんでした。あのかたはメグについては公正明大で、メグを愛しているが、結婚を求める前にたのしく暮せる家を持てるように稼いでおきたいとおっしゃるんです。あのかたは、メグを愛し、メグのためにはたらくことを許してほしい。そして、もしメグにじぶんを愛させるようになったら、その権利を許してほしいとおっしゃった。あのかたは、りっぱな青年です。かあさんたちはあのかたのいうことに耳をかたむけずにはいられませんでした。けれど、メグがあんなにわかくて婚約するのは不承知です。」</p>
        <p>「もちろんですわ。そんなばかな話。なにかわるいこと起ってると思ってました。これじゃ予想していたよりもっとわるいわ。いっそのこと、あたしがメグと結婚して家庭のなかに安全にしておきたいわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-335692-335817">このおかしな考えに、おかあさんはほほえみました。けれど、またまじめな顔になって、</seg></p>
        <p>「あなたには、うち明けましたが、メグにはいわないで下さい。ジョンが帰って来て、二人があうようになったら、メグの気持がもっとはっきりわかると思いますからね。」</p>
        <p>「おねえさんは、とても感じやすいから、あの人の美しい目を見たら、一たまりもありませんわ。すぐに恋におちてしまって、家の平和もたのしみもおしまいになります。ああ、いやだ。ブルックさんはお金をかきあつめて、おねえさんをつれていき、家に穴をあけてしまいます。あたしつまらない。なぜあたしたちは、みんな男の子に生れなかったんでしょう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-336547-336669">ジョウは、いかにもおもしろくないというようなようすをして、言葉をつづけました。</seg></p>
        <p><seg source="#source-336669-336672">「</seg><app type="base-text-variant" source="#source-336687-336750"><lem><seg source="#source-336672-336687">おかあさん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-336732-336744">おかあん</seg></rdg></app>も、あんな人おっぱらって、メグには一言もいわないで、今までのようにみんなでおもしろくしましょうよ。」</p>
        <p>「ジョウ、あなたがたは、<app type="base-text-variant" source="#source-336950-337010"><lem><seg source="#source-336938-336950">おそかれ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-336992-337004">おれかれ</seg></rdg></app>早かれ、家庭を持つことが、しぜんな正しいことです。でも、かあさんはできるだけ長く、娘たちを手もとにおきたいから、この話があんまり早く起ったのを悲しく思います。メグは十七になったばかりだし、おとうさんもあたしも、二十までは約束も結婚もさせないことにしました。もしたがいに愛し合うなら、それまで待てるでしょうし、待っているあいだに、その愛がほんものかどうかもわかります。」</p>
        <p>「おかあさん、おねえさんをお金持と結婚させたほうがいいと思いませんか？」</p>
        <p>「かあさんは、娘たちを財産家にしたいとか、上流社会へ出したいとか、名をあげさせたいとか考えません。身分やお金があるかたが、真実の愛と美徳を持っていて、迎えて下さるならよろこんでお受けもしましょうが、今までの経験からいえば、質素な小さな家に住んで、日日のパンをかせぎ、いくらか不足がちの暮しのほうが、かずすくないよろこびをたのしいものにしてくれるものです。かあさんは、メグがじみな道をふみ出すのを満足に思います。メグは、夫の愛情をしっかりとつかんでいける素質があって、それは財産よりももっといいものです。」</p>
        <p>「おかあさん、よくわかりました。あたしはメグをローリイと結婚させて、一生らくにさせてあげようと、計画していたんです。」</p>
        <p>「ローリイは、メグより年下です。」</p>
        <p>「そんな<app type="base-text-variant" source="#source-338682-338727"><lem><seg source="#source-338676-338682">こと</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-338718-338721">と</seg></rdg></app>かまうもんですか、あの人は、年よりふけているし、せも高いし、それで、金持で、親切で……」</p>
        <p>「だけど、かあさんは、メグにふさわしいほどローリイが大人とは思いません。そんなこと計画するものではありません。」</p>
        <p>「では、よします。人間は、頭にアイロンでものせておけば、大人にならないものならいいけど、つぼみは花になるし、子ねこはおやねこになるし、ああ、つまらない。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-339264-339362">そこへ、書きあげた手紙を持って、メグがそっとはいってきました。</seg></p>
        <p>「アイロンとねこが、どうしたの？」</p>
        <p>「つまらない、おしゃべりをしてたの。あたし、もうねるわ。いらっしゃいな。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-339528-339584">おかあさんは、手紙に目をとおして、</seg></p>
        <p>「けっこうです。きれいに書けました。ジョンによろしくって、かあさんがいってると、書きそえて下さい。」</p>
        <p>「あのかたのこと、ジョンとおよびになりますの？」と、メグはにこにこして尋ねました。</p>
        <p>「そうです。あのかたは、家の息子みたいな気がします。あたしたちは、あのかたが、とても気にいりましたよ。」</p>
        <p>「そう聞いて、うれしいと思いますわ。あの人、さびしいかたです。おかあさん、おやすみなさいませ。おかあさんが家にいて下さると、口でいえないほど安心ですわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-340252-340380">おかあさんが、メグにあたえたキッスは、やさしく、メグが出ていくと、つぶやきました。</seg></p>
        <p>「まだジョンを愛していないけど、まもなく愛するようになるでしょう。」</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-340486-340628" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-340510-340624"><seg source="#source-340510-340552">第二十一　ローリイのいたずら</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-340628-341737">あくる日、ジョウはむずかしい顔をしていました。れいの秘密が心の重荷になったのです。メグはわざと尋ねないで、一人でおかあさんの世話をしました。そして、おかあさんは、ジョウに、あなたは永いあいだ家にとじこもっていたから、外へいって思いきり運動でもしなさいといいました。そこで、ジョウは、ローリイのところへ遊びにいきましたが、このいたずら好きの少年は、ジョウがなにか秘密をもっているのをかぎつけて、本音をはかせようとし、なあにすっかり知っているといったりそんなことは聞きたくないといったり、しつこい努力を重ねたすえに、とうとうその秘密がメグとブルック氏に関することだということをたしかめました。そして、ローリイは、じぶんの家庭教師が、その教え子に秘密をうちあけてくれないのを怒り、無視されたその侮辱に、なにかしかえしをしようと思いたちました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-341737-342120">ところで、メグにかわったようすがありました。メグは、話しかけられるとびっくりしたり、人から見られると顔をあかめたり、なやましそうな顔をして裁縫をしたり、おかあさんが尋ねると、どこもわるくないと答え、ジョウが尋ねると、ほっておいてちょうだいと答えました。</seg></p>
        <p>「メグねえさんは、あれを空気のなかで感じたんです。あれって恋のことですよ。そして、どんどん進行していくんです。<app type="base-text-variant" source="#source-342300-342366"><lem><seg source="#source-342285-342300">ふきげんで</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-342345-342360">ふさげんで</seg></rdg></app>、食慾がなく、夜はねむらないし、「小川の声は銀鈴のようにささやく。」とうたっていたし、ねえ、おかあさん、どうしたらいいんでしょう？」</p>
        <p>「待っているほかはありません。親切にしてあげて、おとうさんが帰っていらっしゃれば、なにもかもかたがつきます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-342733-342834">そのあくる日、ジョウがれいの郵便局にはいっていたものを配達して、</seg></p>
        <p>「メグねえさんのところへお手紙よ。ローリイ、なんだってこんなにいかめしく封をしたんでしょう？」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-342977-343153">メグは、手紙を読むと、ただならぬ声をあげ、おびえたような顔をしました。おかあさんもジョウもおどろいてしまいました。</seg></p>
        <p>「まあ、ひどい、あなたが書いて、あの不良少年が手伝ったのでしょ。よくもあなたは、あたしたち二人に、こんならんぼうな、いやしいまねができたものねえ。」と、メグは、胸がつぶれでもしたように泣きました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-343449-343538">ジョウは、おかあさんといっしょに、その手紙を読みました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-343538-343576">最愛のマーガレットへ、</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-343576-344265">わたしはもう熱情をおさえることができなくなりました。帰宅する前にじぶんの運命を知りたく思います。まだ御両親には話さないでいますが、わたしたち二人が愛し合っていることがわかれば、御承認下さると思います。ローレンスさまは、必らずわたしを適当なところへお世話下さるでしょう。そのときは、愛する少女よ。わたしを幸福にして下さるでしょう。なお、御家族にはなにごともおもらしなきよう。ただ希望の一言をローリイさんの手をとおしてお送り下さい。あなたにささげたジョンより、</seg></p>
        <p>「まあ、まあこのいたずら小僧！　あたしがおかあさんとの約束をまもっているしかえしなんだ。いって、うんと怒って、ひきずって来てあやまらせる。」と、ジョウは、かっとなり、すぐにもとび出しそうにしましたが、おかあさんが、ひきとめきつい顔をしていいました。</p>
        <p>「ジョウ、お待ち、まずあなたが、じぶんの証をたてなければなりません。あんたは、これに関係ありませんか？」</p>
        <p>「いいえ、おかあさん。けっして。あたし今までにこの手紙見たこともなく、なんにも知りません。もし関係したのなら、もっとうまく、もっとじょうずに書きます。あたしだって、ブルックさんがこんな手紙書かないことわかってますわ。」と、ジョウはいまいましそうに、その手紙を床にたたきつけました。</p>
        <p>「あのかたの書いたのと似ています。」と、メグはそれをじぶんの手にあるのと見くらべながら口ごもりました。</p>
        <p>「メグ、まさかあなたは返事は出さなかったでしょうね？」と、おかあさんはせきこんでいうと、メグは、はずかしそうに、</p>
        <p>「出しましたわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-345573-345593">ジョウは、</seg></p>
        <p>「あたし、あのいたずら小僧をひっぱって来て白状させ、<app type="base-text-variant" source="#source-345677-345725"><lem><seg source="#source-345671-345677">うん</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-345713-345719">うふ</seg></rdg></app>としかってやります。」と、ふたたび走り出そうとしました。</p>
        <p>「およし、考えていたよりも、こまったことになりました。メグ、みんなお話しなさい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-345936-346049">おかあさんは、メグのそばに腰をおろし、ジョウをしっかりとつかまえました。</seg></p>
        <p>「はじめの手紙をローリイから受取って、おかあさんにうち明けるつもりでしたが、ブルックさんが好きだとおっしゃったこと思い出して、四五日くらい秘密にしといてもいいと思いましたの。お許し下さい、ばかなまねをしたばつです。二度とあのかたに顔を合すことができません。」</p>
        <p>「それで、なんとお返事しましたの？」</p>
        <p>「そんなことを考えるのはまだ年がわかいし、それにおかあさんに秘密を持ちたくないから、おとうさんにいって下さい、御親切はありがたいと思いますが、ただのお友だちとしてつき合いをしていきたいと申しあげましたの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-346805-346906">おかあさんは、いかにも満足そうにほほえみ、ジョウは手をたたいて、</seg></p>
        <p>「おねえさんは、つつしみ深いわ、メグ、いってちょうだい、あの人、なんといってよこした？」</p>
        <p>「恋文なんて出したおぼえはないし、いたずら好きの妹さんが、わたしたちの名を勝手に使うのは遺憾だと書いてありました。親切なお手紙でしたけれど、あたしはずかしくて。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-347285-347521">メグはしおれておかあさんによりそい、ジョウはローリイをののしりながら部屋を歩きまわりましたが、ふとたちどまり、二通の手紙をとりあげて見くらべていましたが、</seg></p>
        <p>「二つともブルックさん見ていないと思うわ。ローリイが二つとも書いて、あたしが秘密をいわなかったものだから、おねえさんのをとっておいて、あたしをやりこめようというんだわ。」</p>
        <p>「ジョウ、秘密なんか持ってはだめよ。」と、メグがいいました。</p>
        <p>「いやだわ、おかあさんから聞いた秘密よ。」</p>
        <p>「いいの、ジョウ、かあさんはメグをなぐさめますから、あなたはローリイをつれていらっしゃい。すっかりしらべて、こんないたずらやめさせます。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-348144-348299">ジョウはかけ出していき、おかあさんはメグに、ブルック氏のほんとの気持を、すっかり話して聞かせました。</seg></p>
        <p>「それで、あなたの気持はどう？あの人があなたのために家庭がつくれるのを待っていますか？　それとも、なにもきめないでおきますか？」</p>
        <p>「今度のことで心配させられたので、これからずっと、もしかしたら、いつまでも、恋人なんかのことにかかわりたくありません。もしあのかたが、こんなばかげたことを御存知ないなら、いわないで下さい。ジョウとローリーにも口どめして下さい。あたし、だまされたり、からかわれたりしたくありません。ほんとに、はじさらしですわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-348960-349163">やさしいメグが、いつになく怒っているのを見て、おかあさんは、けっしてしゃべらせぬこと、これからもよく注意するといって、なだめました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-349163-350038">ローリイの足音が聞えると、メグは書斎にかけこみました。ジョウは、かれが来ないといけないと思って、なんの用事か告げませんでしたが、おかあさんの顔を見たとき、すぐに察して帽子をひねくりまわしました。ジョウは、部屋から出ていくようにといわれ、犯人の逃亡をふせぐために、玄関へ来ていましたから、会見のもようは、メグにもジョウにもわかりませんでした。話がすんで二人が部屋によびこまれたとき、ローリイはいかにも後悔しているようでした。メグに、ローリイは謝罪し、ブルック氏がこのいたずらについては、なにも知らぬと保証しました。メグはそれでほっとしました。なお、ローリイは、きっぱりといいました。</seg></p>
        <p>「ぼくは死んでもブルック先生に話しません。どうか許して下さい。だけど、一ヶ月くらいあなたから口をきいてもらえなくても、しょうがないと思っています。」</p>
        <p>「許してあげますわ、でも、あまり紳士らしくないやりかたですわ、あなたが、こんな意地わるをなさろうとは思いませんでした。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-350444-350746">ジョウは、そのあいだも、ひややかな態度で立っていました。非難の気持をゆるめないようにつとめました。ローリイは、すっかり感情をそこね、話がすむと、おかあさんとメグにあいさつして出ていってしまいました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-350746-351030">ジョウは、ローリイにもっと寛大にすればよかったと思いました。おかあさんとメグが二階へいってしまうと、ローリイにあいたくなり、返す本をかかえておとなりへ出かけていきました。女中にむかって、</seg></p>
        <p>「ローリイさん、いらっしゃいますか？」と、尋ねると、在宅だがあわないでしょうといいます。病気かと重ねて尋ねると、</p>
        <p>「いいえ、じつはおじいさまと口論なさいまして、お怒りになって、お部屋へ閉じこもってしまって、食事の支度ができたので、扉をたたいたのですが御返事ありません、おじいさまもお怒りで、まったく、こまっております。」と、いう返事でした。</p>
        <p>「あたしいって、ようす見て来ましょう。二人ともこわくないから。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-351639-351881">ジョウはあがっていき、ローリイの部屋の扉をたたき、よせといっても、かまわずたたき、扉を開けたとき、さっととびこみました。そして、床にひざまずき、へりくだって。</seg></p>
        <p>「意地わるしてごめんなさい。仲なおりに来たの、仲なおりするまで帰らない。」と、いいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">ローリイは、すぐに仲なおりして、ジョウを立たせました。だが、まだぷんぷん怒っています。どうしたのか尋ねると、「きみのおかあさんから、だまっていろといわれたことを、しゃべらなかったもので、おじいさんからこづきまわされたのだ。おじいさんは、ほんとのことをいえというが、メグのかかり合いさえなければ、ぼくのやったいたずらだけは、いうつもりだったが、それができないから、だまってがまんしたんだ。だけど、しまいにえり首をつかまえたんで、ぼくはかっとなって、なにをやり出すかわからないので、部屋からとび出したんだ。」</p>
        <p><seg source="#source-352779-352782">「</seg><app type="base-text-variant" source="#source-352791-352845"><lem><seg source="#source-352782-352791">そうよ</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-352830-352839">そうを</seg></rdg></app>、きっとおじいさんも後悔していらっしゃるわ。仲なおりなさい、あたしもいっしょにいってあげるから。」</p>
        <p>「だめだ、わるくないのに、二度もあやまるのはいやだ。だいたい、おじいさんは、ぼくをあかんぼあつかいになさる。かれこれ世話をやいてほしくないということを、おじいさんに知らせてやるんだ。」</p>
        <p>「では、あなたこれからどうするの？」</p>
        <p>「おじいさんがあやまって、ぼくが、どんなことがあったのか話せないといったら、信用してくれればいい。」</p>
        <p>「それや、むりだわ。あたしできるだけ説明してあげるわ。あなたも、ここにいつまでもいて、芝居がかったまねをして、なんの役にたつのよ？」</p>
        <p>「ぼくは、いつまでも、ここにいるつもりはないよ。そっと家出して、旅行にいっちゃうんだ。おじいさんは、ぼくがいなくて、さびしくなったらわかるだろう。」</p>
        <p>「そうかもしれないけど、とび出しておじいさんに心配かけるのわるいわ。」</p>
        <p>「お説教はよしてくれ。ぼくはワシントンへいって、ブルック先生にあうんだ。あすこはおもしろいよ。いやな目にあったんだから、うんと遊ぶんだ。」</p>
        <p>「いいわね、いっしょにいければ、いいんだけど。」と、ジョウが忠告者である立場を忘れてそういうと、ローリイは、</p>
        <p>「来たまえ、すばらしいぞ、びっくりさせるんだ、お金はぼく持ってるし。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-354491-354652">ジョウの趣味にかなった突飛な計画でしたから、いきたかったのですが、窓からじぶんの家を見ると、首をふって、</seg></p>
        <p>「だめ、あたし男の子だったら、いっしょにいくんだけど。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-354738-354848">ローリイは、なおもすすめましたが、もうジョウはじぶんの立場をまもって、</seg></p>
        <p>「おだまんなさい、このうえ、あたしに罪を重ねさせないでちょうだい。それよか、もしおじいさんに、あなたをいじめたお詑びをさせたら、家出をやめる？」</p>
        <p>「ああ、だけどそんなこと、きみにできないよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-355137-355544">けれど、ジョウは、やれると思って、ローレンス老人の部屋へいきました。そして、本を返し、つぎの第二巻を借りるために、梯子にのって書庫のたなをさがしました。そして、なんといって話を切り出そうかと思っていると、老人のほうから、ジョウがなにかたくらんでいると見てとったらしく、</seg></p>
        <p>「あの子は、なにをしたのかね？　なにかいたずらをしたにちがいないが、一言も返事をせぬからおどしつけたら、じぶんの部屋にはいってかぎをかけてしまった。」</p>
        <p>「あのかた、わるいことをしたのです。けれどみんなで許してあげました。そのことは、母にとめられていますから、申せません。ローリイは白状して、ばつを受けました。わたしたちは、ローリイをかばいません。ある人をかばうために、だまっているのです。ですから、おじいさまも、どうかこのことには立ちいらないで下さい。かえって、いけません。」</p>
        <p>「だが、あんたがたに親切にしてもらっていながら、わるいことをしたのなら、わしはこの手でたたきのめしてやる。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-356423-356770">老人の心は、なかなかとけませんでしたが、ジョウは、そのわるいことが、たいしたことでないように、事実にふれないで、かるく話し、やっとうなずかせました。けれど、この際、すこし老人にもじぶんのしうちを考えるようにしてあげたいと思って、</seg></p>
        <p>「おじいさまは、ローリイに親切すぎるくらいですけど、ローリイがおじいさまを怒らせたりするときには、すこし気がみじかくはないでしょうか？」と、正直にいいました。</p>
        <p>「いや、あなたのいうとおりじゃ、わしはあの子をかあいがっているが、がまんのならぬほどわしをじらすようなこともする。こんなふうだと、どうなるかな。」</p>
        <p>「申しあげましょうか？あの人、家出しますわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-357301-357723">老人の顔は、さっと青くなり、美しい男の肖像画を見あげました。それは、わかいころ家出して、老人の意にそむいて結婚したローリイの父母でありました。ジョウは、老人がくるしい過去を思い出しているのを察し、あんなこといわなければよかったと後悔しました。それで、ジョウはあわてていいました。</seg></p>
        <p>「でも、あの人、よっぽどのことがないと、そんなことしませんわ。ただ勉強にあきると、そんなことをいっておどかすだけなんです。わたしだって、そんなことしたいと考えます。髪をきってからよけいそうです。だから、二人がいなくなったら、二少年をさがす広告を出して、インドいきの船をおさがし下さい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-358154-358249">ジョウは、こういって笑ったので、老人もほっとしたようでした。</seg></p>
        <p>「おてんば娘は、とんでもないことをいいなさる。子供はうるさいが、いなくちゃこまる。もうなんでもないといって、食事にあの子をつれて来て下され。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-358464-358700">ジョウは、わざと、すなおにいうことをきかないで、詫状を書いて形式的にあやまれば、ローリイは、じぶんのばかもわかり、きげんをなおして来ますといつわりました。</seg></p>
        <p>「あなたは、なかなかくえない子じゃ。でも、あなたやベスに、いいようにされてもかまわん。さ、書こう。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-358852-359154">老人は、本式の詫状を書きました。ジョウは、それを持ってローリイの部屋にいき、扉の下からそれをなかへいれ、きげんをなおして、おりて来るようにいいました。ローリイは、すぐおりて来ました。階段のところで、</seg></p>
        <p>「きみは、えらいな。しかられなかった？」</p>
        <p>「よく、わかって下すったわ。さ、新らしい出発よ。御飯を食べれば気もはれる。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-359332-359500">ジョウは、さっさと帰り、ローリイはおじいさんにあやまり、おじいさんもすっかりきげんをなおし、この事件はすっかり</seg><app type="base-text-variant" source="#source-359509-359563"><lem><seg source="#source-359500-359509">片づき</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-359548-359557">片すぎ</seg></rdg></app><seg source="#source-359563-359577">ました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">けれど、メグは、この事件のために、ブルック氏へ近づいたのでした。あるとき、ジョウは、切手をさがすために、メグの机のひき出しをさがすと「ジョン・ブルック夫人」という落書のしてある紙片がありました。ジョウは、悲しそうなうめき声とともに、その紙片を火になげこみ、ローリイのいたずらが、じぶんにとっての、不幸な日を、早めたことをしみじみと感じました。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-360097-360221" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-360121-360217"><seg source="#source-360121-360154">第二十二　たのしい野辺</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-360221-360410">その後の数週間は、あらしが吹き去った後、日光がさしたようでした。おとうさんは、新年になれば帰宅するといって来ました。ベスは、</seg><app type="base-text-variant" source="#source-360416-360464"><lem><seg source="#source-360410-360416">書斎</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-360452-360458">書斉</seg></rdg></app><seg source="#source-360464-360847">のソファまでいって横になることができるようになり、子ねこと遊んだり、人形の服をぬったりしました。ジョウは、まい日ベスを散歩につれ出し、メグはおいしい料理に腕をふるいました。エミイは、ねえさんたちに、できるだけのたからものをあげ、その帰宅を祝福されました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-360847-361287">クリスマスが近づくにつれ、いろんな計画がはじめられました。ジョウは、このいつもとちがうおめでたいクリスマスを祝うために、とてつもない、ばかげたお祭りを提案して、みんなを大笑いさせました。ローリイも、とっぴな計画をたて、勝手にさせておけば、花火でも凱旋門でも、こしらえかねないいきおいでした。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-361287-361859">ただ者でないジョウとローリイは、妖精のように夜中に起きてはたらき、ベスのために、とてつもないものを庭先につくりあげました。それは、雪姫でひいらぎの冠をいただき、片手には花や果物をいれたバスケットをさげ、片手には新らしい譜本を持ち、肩に赤い毛布をまきつけ、口からクリスマスの祝歌を書いた吹流しを出していました。ベスは窓ぎわまでかつがれていき、この雪姫を見てどんなに笑ったでしょう。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-361859-361903">祝歌というのは、こうです。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-361903-362839" style="padding-inline-start: 1em">
        <p style="text-indent: 2em" rend="first-line-indent(2)"><seg source="#source-361938-361982">ユングフラウからベスへ、</seg></p>
        <p><seg source="#source-361982-362020">ベス女王さま　おめでとう</seg></p>
        <p><seg source="#source-362020-362061">ちっともくよくよなさらずに</seg></p>
        <p><seg source="#source-362061-362099">たのしく平和にすこやかに</seg></p>
        <p><seg source="#source-362099-362139">お祝いなされよクリスマス</seg></p>
        <p><seg source="#source-362139-362177">はたらき蜂さん果物食べて</seg></p>
        <p><seg source="#source-362177-362215">お花のにおいをかぎなさい</seg></p>
        <p><seg source="#source-362215-362236">譜本はピアノを</seg><app type="base-text-variant" source="#source-362248-362308"><lem><seg source="#source-362236-362248">ひくため</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-362290-362302">くためひ</seg></rdg></app><seg source="#source-362308-362313">で</seg></p>
        <p><seg source="#source-362313-362348">毛布はおみ足つつむため</seg></p>
        <p><seg source="#source-362348-362377">ジョアンナの肖像は</seg></p>
        <p><seg source="#source-362377-362421">ラファエル第二世がねっしんに</seg></p>
        <p><seg source="#source-362421-362459">きれいで、よくにるように</seg></p>
        <p><seg source="#source-362459-362508">かきあげたもの、いいでしょう。</seg></p>
        <p><seg source="#source-362508-362549">あかいリボンもあげましょう</seg></p>
        <p><seg source="#source-362549-362584">ねこの夫人の尾のかざり</seg></p>
        <p><seg source="#source-362584-362622">アイスクリームはペグの作</seg></p>
        <p><seg source="#source-362622-362666">桶にもりあがるモン・ブラン山</seg></p>
        <p><seg source="#source-362666-362701">アルプス娘のこのわたし</seg></p>
        <p><seg source="#source-362701-362739">つくったローリイとジョウ</seg></p>
        <p><seg source="#source-362739-362768">雪の胸にひそませた</seg></p>
        <p><seg source="#source-362768-362803">あつい情をお受け下さい</seg></p>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-362841-363050">雪姫の贈りものを、ローリイがはこび、ジョウがそれを贈るために、こっけいな演説をしました。ベスは、雪姫の贈りもののおいしいぶどうを食べて、</seg></p>
        <p>「あたし幸福でいっぱい、これでおとうさんがいらしたら、もうどうしようもないわ。」と、いいました。</p>
        <p>「あたしも幸福」と、ジョウも、前からほしがって、やっと手に入れた二冊の本アンデインとシントラムのはいっているかくしをたたきながらいいました。</p>
        <p>「あたしだって、そうよ。」と、エミイはおかあさんからいただいたマドンナとその子の版画をながめながらいいました。</p>
        <p>「もちろん、あたしも。」と、メグは生れてはじめて手にした絹のドレスにさわりながらいいました。それはローレンス氏が、くれるといってきかなかったのです。</p>
        <p>「かあさんだって、そうですよ。」と、おかあさんも満足そうにいって、今しがた娘たちが胸にとめてくれたブローチをなでました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-363981-364190">ところが、それから三十分の後に、まるで小説にでもありそうな思いがけないうれしいことが起りました。それは、ローリイが興奮して客間をのぞき、</seg></p>
        <p>「さあ、マーチ家へまたクリスマス・プレゼントがとどきましたよ。」と、いって、すぐに、すがたをけしたことからはじまりました。みんなは、はじかれたように、なにごとかと、ローリイの言葉にかくされたものを考えていると、首まきをしたせの高い人がもう一人のせの高い人の腕によりかかりながらあらわれました。あっと、みんなはさけんでおしよせ、たちまちとりかこみ、すがりつき、よろこびのうずが家のなかにまきかえりました。ああ、その人はおとうさんでした。そして、つづく笑い声、あんまりうれしいので、みんながいろんな、らちもないしくじりをしたのが、よけいおかしく思われました。やっと笑い声がしずまると、ブルック氏はローリイをうながして帰り、おとうさんとベス、二人の病人はしずかにソファにかけました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-365206-365463">おとうさんは、上天気になったので、医者が帰宅を許してくれたこと、それで、わざとふいうちに帰って来たこと、ブルック氏がよく世話をしてつれて来てくれたことなどを話しました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-365463-365990">ところで、その日のごちそうは、マーチ家では、はじめてのすばらしいクリスマスのごちそうで、七面鳥のむし焼き、ほしぶどういりのプディングゼリイなど、ハンナができるかぎり腕をふるいました。そして、お客はローレンス老人、ローリイ、それからブルック氏で、健康を祝して乾杯し、語りあい、歌を合唱しあって、ごちそうを食べ、心ゆくばかりたのしいときをすごしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-365990-366217">食事をおわってから、家族は炉のまわりに集りました。娘たちは、今年の思い出話をしましたが、じっと耳をかたむけていたおとうさんは、満足そうにいいました。</seg></p>
        <p>「小さい巡礼さんたちの旅としては、今年のあと半分はくるしい旅だったね。だけど、みんな勇ましく歩いて来たし、めいめいの重荷も、うまいぐあいにころげおちそうだね。」</p>
        <p>「どうしておわかりですか？　おかあさんからお聞きになりました？」と、ジョウが尋ねました。</p>
        <p>「まだ、そんなに聞いてはいないが、わらの動きかたで風向きがわかるね。それで、おとうさんは、今日いろいろなものを発見した。まず、これが一つ。」と、おとうさんは、そばにすわっているメグの手をとって、「あれた手だね。やけどもある、まめもある。だが、むかし美しかったときよりも、今のほうが美しいね。この手は家庭を幸福にしていく、勤勉な手だ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-367096-367209">おとうさんは、にっこり笑って、むかいがわにすわっているジョウをながめて、</seg></p>
        <p>「髪をきったが、一年前の息子のジョウではなくなった。身じまいもきちんとして、すっかり女の子になった。今は看病と心配のつかれで青い顔をしているが、ずっとおだやかな顔つきになった。むかしのおてんば娘がいなくなって、すこしさびしいが、そのかわり頼もしい心のやさしい娘があらわれた。」</p>
        <p>「こんどはベスね。」と、エミイはじぶんの番の来るのを待ちどおしく思いました。</p>
        <p>「ベスは、病気でこんなに小さくなったから、うっかりしゃべっているあいだに、どこかへ消えてしまいそうだね、まあ、前ほどはにかまなくなったようだが。」と、おとうさんは、もうすこしでこの子を失うところだと思い、しっかりとだきしめ、「ベス、どうかいつまでもじょうぶでいてほしいね。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-368154-368303">みんなだまって、それぞれなにか考えていました。と、おとうさんは、足もとのエミイの髪をなでながら、</seg></p>
        <p>「エミイは、食事のとき、いつもとちがって、鳥の足の肉をとったし、またお昼からはお使いをしたし、しんぼうづよく、みんなのお給仕もしたね、おしゃれもしなくなったし、指にはめているきれいな指輪のことも口に出さなかったね。これでおとうさんには、エミイがじぶんのことより、他人のことをよけい考えるようになったことがわかってうれしい。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-368791-368883">おとうさんの話がすむと、ジョウがベスにむかって尋ねました。</seg></p>
        <p>「ベス、あなたなにを考えているの？」</p>
        <p>「あたし、今日、天路暦程のなかで、クリスチャンとホープフルが、いろいろくるしい旅をつづけたあげく、年中ゆりの花のさいていてたのしい緑の野辺について、ちょうど今のあたしたちのように、目的地にむかって、また出発する前に、そこでたのしく一休みするところを読みました。」と、ベスはいって、おとうさんのそばをはなれてピアノの前にいきました。</p>
        <p>「お歌の時間でしょう。おとうさんのお好きな、巡礼の聞いた羊飼いの少年の歌、あたし作曲しましたの。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-369585-369764">そういって、ベスはピアノをひき、二度ともう聞けないかと思った美しい声で、ベスにふさわしい古風な讃美歌をうたいました。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-369764-370322" style="padding-inline-start: 1em">
        <p><seg source="#source-369799-369840">へりくだるものにおそれなく</seg></p>
        <p><seg source="#source-369840-369884">ひくきにあるものにほこりなし</seg></p>
        <p><seg source="#source-369884-369925">まずしきものは、とこしえに</seg></p>
        <p><seg source="#source-369925-369962">神のみちびきえらるべし</seg></p>
        <p><seg source="#source-369962-370000">われもつものにことたれり</seg></p>
        <p><seg source="#source-370000-370038">たとえおおくもすくなくも</seg></p>
        <p><seg source="#source-370038-370079">ああ、そのたるをしるこころ</seg></p>
        <p><seg source="#source-370079-370116">主のこころにかなうべし</seg></p>
        <p><seg source="#source-370116-370157">おもにはかたにおもくとも、</seg></p>
        <p><seg source="#source-370157-370201">じゅんれいのたびをつづけつつ</seg></p>
        <p><seg source="#source-370201-370239">このよのさちはうすくとも</seg></p>
        <p><seg source="#source-370239-370286">主のしゅくふくをうけるならん。</seg></p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-370326-370456" style="padding-inline-start: 10em">
        <div>
          <head n="2" source="#source-370350-370452"><seg source="#source-370350-370386">第二十三　マーチおばさん</seg></head>
        </div>
      </div>
      <div>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-370456-370863">はたらき蜂が、女王蜂のまわりにむらがるように、おかあさんと娘たちは、そのあくる日、ベスのそばの大きなイスに身体をうずめたおとうさんのまわりにたかり、あらゆる親切なお世話をしました。ただ一人、ふしぎなかわりかたはメグで、そわそわしたり、気がぬけたようになったりしました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-370863-371228">午後、ローリイが、窓ぎわのメグを見て、雪のなかに片ひざをつき、胸をうって髪をかきむしり、哀願するように、りょう手を組み合せて、拝むようなかっこうをしました。メグが、ばかなまねはおよしなさいというと、ハンカチで空涙をふいていってしまいました。</seg></p>
        <p>「おばかさん、なんのつもりかしら？」と、メグがいうと、ジョウが</p>
        <p>「あなたのジョンが、こうなるという実演なのよ。あわれでしょう。」と、せせら笑っていました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-371460-371621">メグは、顔をしかめ、わたしをこまらせないで、今までどおりみんなで遊んでいればいいといいますと、ジョウは、</seg></p>
        <p>「そうはいかないわ、おかあさんにもあたしにも、よくわかるけど、おねえさんはちっともおねえさんらしくなくなったわ。遠いところへいっておしまいになったみたい。あたしおねえさんみたいに、ぐずぐずしてるのきらい。だから、そうする気ならさっさときめるといいのよ。」</p>
        <p>「あたしのほうからいい出せるものではないし、おとうさんはあのかたに、あたしのことわかすぎるとおっしゃったんですもの、あのかたもいい出せないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-372222-372272">ジョウは、メグが気がよわいから</seg></p>
        <p>「あの人にいい出されたら、なんていっていいかわからなくなり、泣き出すか顔をあかくするか、ノウがいえないで、あの人の思うようになってしまう。」と、いいますと、メグは</p>
        <p>「あなたの思うほど、あたしばかでもよわ虫でもないわ。あたしにだって、いうことはいえるわ。」とやりかえしました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-372684-372797">それから、恋愛についていろいろ話したあげく、メグは、もしいい出されたら、</seg></p>
        <p>「あたしすっかりおちついていうわ。ありがとうございます。ブルックさま、けれど、まだ年がわかすぎますので、今のところ婚約などできませんの。父もおなじ意見でおりますの。どうかなにもおっしゃらずに、今までどおりお友だちとしておつき合い下さいませ。」</p>
        <p>「ほう、いえるかしら。あのかたの感情を害することを気にして、きっと敗けてしまうわ。」</p>
        <p>「いいえ敗けるものですか、つんとすまして部屋を出ていくわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-373382-373483">そのとき、だれか扉をたたきました。開けると、それはジョンでした。</seg></p>
        <p>「こんにちは、こうもりがさをとりに来ました。あのう、おとうさんの御容態、今日はどうかと思いまして。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-373635-373754">ジョンは、メグとジョウの、意味ありげな顔を見て、ややあわてながらいいました。</seg></p>
        <p>「たいそう元気でいますわ。かさたてにいますからつれて来ます。それから、あなたのお見えになったことも知らせて来ます。」と、ジョウは、かさと、おとうさんを、ごっちゃにした答えをしながら、メグに例の口上をいわせ、つんとすまして部屋を出ていかせるために、じぶんは部屋を出ました。メグは、ジョウのすがたが見えなくなると、すぐに、</p>
        <p>「おかあさんが、お目にかかりたたがっていますわ。どうぞおかけになって、すぐよんで来ますから。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-374376-374420">ジョンは、メグにむかって、</seg></p>
        <p>「お逃げにならなくてもいいでしょう。ぼくがこわいんですか？」と、ひどく、感情を害したような顔つきでしたので、メグはびっくりして、</p>
        <p>「父にあんなに親切にして下すったのに、どうしてこわがりましょう。どうしてお礼を申しあげたらいいかと思っていますのよ。」</p>
        <p>「どうしてお礼をしていただくか、いってあげましょうか？」と、ジョンは、メグの手を握りしめ、愛情をこめて見るので、メグは</p>
        <p>「いいえ、いいえ、どうぞおっしゃらないで。」と、やはりこわそうに手をひっこめようとしました。</p>
        <p>「ごめいわくはかけません。すこしでもぼくに好意を持って下さるかどうか知りたいだけです。ぼくは心からあなたを愛しています。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-375297-375713">さあ、今こそおちついて、例の文句をいうべきでしたが、すべて忘れ、うなだれて、わかりませんわと答えただけで、それもあまりにひくかったので、ジョンは聞きとるために身をかがめなければなりませんでした。そして、ジョンは、すこしぐらいめいわくをかけてもいいと思ったらしく、満足そうに、</seg></p>
        <p>「ぼく、いつか報いられるかどうか、うかがいたいのです。そうでないと仕事もできません。」と、いいました。</p>
        <p>「でも、わたしまだわかすぎますから。」</p>
        <p>「ぼくは待っています。そのうちに、ぼくを好きになるようになって下さい。ぼくは教えてあげたいのです。これはドイツ語よりやさしいのです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-376130-376462">ジョンは、懇願するようでしたが、一面、なんとなく、たのしそうで、成功をうたがわぬというような満足そうなほほえみさえうかべていました。メグは、アンニイ・マフォットのことを思いうかべ処女の優越感から気まぐれな気持にかられ、</seg></p>
        <p>「わたし、そんな気持になれませんわ。どうぞお帰り下さい。」と、いってしまいました。それを聞いたジョンは、メグのそのふきげんにおどろき、</p>
        <p>「本気でそうおっしゃるのですか？」と、部屋から立ち去ろうとするメグを追って、心配そうに尋ねました。</p>
        <p>「ええ、あたし、そんなことで気をもみたくありませんわ。父も気にかけないようにといいました。早すぎますし、そんな気になれませんわ。」</p>
        <p>「あなたのお気持がかわって来てほしいものです。ぼくは待っています。ぼくをからかわないで下さい。」</p>
        <p>「あたしのことなんか考えないで下さい。そのほうが、あたし、けっこうなのです。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-377276-377668">メグは、恋人の忍耐とじぶんの力を試そうとする気味のわるい満足を味わいながらいいました。ジョンは、青い顔になり、いかにもなやましそうでした。この興味ふかい場面に、マーチおばさんが、びっこをひきながらはいって来なかったら、そのつぎにはどんなことが起ったでしょう？</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-377668-378036">マーチおばさんは、ローリイからマーチ氏が帰宅したことを聞くと、すぐさま甥にあいに馬車をのりつけました。びっくりさせるために案内も乞わずにはいって来ましたが、たしかにメグとジョンはおどろき、メグはとびあがり、ジョンは書斎へ逃げこもうとしました。</seg></p>
        <p>「おや、まあ、これはいったい、なにごとですかい？」と、老婦人は杖で床をたたき、二人がそこにいたのをあやしみました。</p>
        <p>「あの、おとうさんのお友だちですの。」</p>
        <p>「その男が、お前さんの顔をなぜあかくさせたかね？　なにかまずいことでもあったね。」</p>
        <p>「ただお話ししただけです。ブルックさんは、こうもりがさをとりにいらしたのです。」</p>
        <p>「ほう、ブルック、あの子の家庭教師がね？　ああ、わかりました。ジョウがおとうさんのことづけをいいに来たとき、まちがえて口をすべらしたのを聞いた。お前さんは、承知しはしないだろうね？」</p>
        <p>「しっ！　聞えますわ、おかあさんをよんでまいりましょうか？」</p>
        <p>「まだいい。お前にいうことがあります。お前がその男と結婚する気なら、わたしはびた一文もあげないからね、よくおぼえておき、そして、りこうにおなりよ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-379106-379336">老婦人は、どんなにやさしい人にも反抗心を起させる人で、今もメグは、強制的にそういわれると愛情と片意地で、ジョンを好きになろうと思い、いつになく強気で、</seg></p>
        <p>「あたしは、好きな人と結婚します、お金はあなたの好きな方にあげて下さいませ。」</p>
        <p>「なんですって！　そんな口のききかたをして、今に貧乏人との恋にあきて後悔しますよ。」</p>
        <p>「お金持と、愛のない結婚するよりましですわ。」と、メグはゆずっていません。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-379696-379833">老婦人は、メグがこんなことをいい出したのでおどろき、今度はやわらかに説き伏せるつもりで、</seg></p>
        <p>「わたしは親切からいうんです。お前さんはりっぱな結婚をして家の者を助けなければならないのです。」</p>
        <p>「いいえ。両親ともそんなこと考えません。両親ともジョンが好きです。貧乏ですけれど。」</p>
        <p>「お前さんの両親は、世間知らずのねんねだからね。そのブルックとやらは、貧乏で、金持の親類もないそうだね。」</p>
        <p>「でも、親切な友だちがたくさんいますわ。」</p>
        <p>「友だちがなんの力になる<app type="base-text-variant" source="#source-380378-380432"><lem><seg source="#source-380369-380378">ものか</seg></lem><rdg type="base-text"><seg source="#source-380417-380426">ものが</seg></rdg></app>、それに、その男には職業もないんでしょう？」</p>
        <p>「まだ、ありません。ローレンスさまがお世話して下さいます。」</p>
        <p>「あんな変物が頼みになるものかね。とにかくお前はもうすこしりこうだと思っていたが。」</p>
        <p>「ブルックさんは、りっぱなかたです。かしこいし、才能もありますし、勇気もおありになります。わたしのこと思って下さるのを、わたしは誇りにしています。」</p>
        <p>「あの男は、お前に金持の親類があるから、それでお前を好きになったんだよ。」</p>
        <p>「まあ、どうしてそんなことおっしゃるんですか？　わたしは、どうしても、あのかたと結婚します。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-381200-381385">メグは、そこまでいって、もしかジョンに聞かれたらと思って、はっとして言葉をきりましたが、マーチおばさんはたいそう怒って、</seg></p>
        <p>「よろしい、強情だね、あたしは、もうお前のおとうさんにあう気力もない。結婚したからって、あたしからなにかもらうなんて考えたってだめです。永久におさらばだよ。」と、おそろしい顔つきで帰っていきました。のこったメグが、ぼんやりつっ立っていると、ジョンが来て、</p>
        <p>「メグ、ぼくのこと弁護して下すってありがとう。それから、おばさんにはあなたがわずかにしろぼくのこと愛して下さることを証明して下さったお礼をいいますよ。」</p>
        <p>「おばさんが、あなたのわる口をいい出すまでは、どんなにあなたを思っていたか、わたしにもわかりませんでしたわ。」</p>
        <p>「では、ぼく帰らないで、ここにいて幸福になれますね、え？」と、ジョンがいいましたが、ここでもつんとすまして立ち去るわけでしたが、メグは、ええとやさしくささやいて、ジョンの胸に顔をうずめ、ジョウの手前、永久に頭のあがらぬことになってしまいました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-382533-382874">十五分ほどして、ジョウが二階からおりて来て、予期しなかった変化におどろき、まるで息の根がとまるほどでした。しかも、ジョンは、ぼくたちを祝って下さいというではありませんか。ジョウは悲痛なさけびとともにとび出し二階へかけあがり、</seg></p>
        <p>「ああ、たれか早く階下へいって下さい。ジョンがおかしなまねをして、おねえさんがよろこんでいるわよ！」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-383026-383424">おとうさんと、おかあさんは、いそいで階下へいきました。ジョウは、ベスとエミイにおそろしいニュースを聞かせながら、ののしりわめきましたが、二人ともむしろそれをうれしいニュースと考えていたので、ジョウはじぶんの屋根部屋へいき、そのなやみをねずみたちにうち明けました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-383424-383699">その日の午後、客間でなにがあったか、だれも知りませんでした。けれど、いろいろの話がかわされ、おとなしいジョンが、じぶんの望みや計画を非常な熱心さで話したことは、たしかでありました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-383699-384322">夕飯のベルが鳴り、みんなが食卓についたとき、ジョンとメグは、この上もなくたのしそうに見えたので、もうジョウも、さっぱりと、じぶんの感情を流し、二人を祝福する気持になりました。むろん、エミイもベスも、心からよろこび、エミイは二人をスケッチしようと思いたちました。この古ぼけた部屋にこの一家の、最初のロマンスが、まばゆいばかりかがやき出し、たいしたごちそうはありませんでしたが、それはそれはたのしい食事でありました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-384322-384363">おかあさんがいいました。</seg></p>
        <p>「今年は悲しみをおいかけるように、よろこびがやって来る年らしいですが、その変化がはじまったようです。でも、すべてうまくいきそうで、けっこうです。」</p>
        <p>「来年は、もっといい年になればいいと思います。」と、ジョウにはメグをうばわれたことは、いい年とは思えませんでした。</p>
        <p>「ぼくは、さ来年が、もっといい年になってほしいと思います。ぼくの計画が進んでいけば、きっとそうなります。」と、ジョンがメグにほほえみかけながら、そういうと、結婚の日が早く来ればいいと待ち遠しく思っているエミイが尋ねました。</p>
        <p>「待ち遠しくありません？」</p>
        <p>「勉強することがありますから、みじかいくらいですわ。」と、メグが答えました。</p>
        <p>「あなたは、ただ待っていて下さればいいんです。はたらくのはぼくがやります。」と、いって、かれは仕事の手はじめとして、メグのナプキンをひろってやりました。</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-385479-385613">それを見てジョウは、気にくわなかったのですが、そのとき、玄関の扉がばたんと開いたので、</seg></p>
        <p>「ローリイだわ、これでやっと気のきいた話ができそうだわ。」と考えましたが、ローリイが来たときすっかりあてがはずれたことがわかりました。というのは、この事件のすべてがじぶんの考えで成立したというような、あやまった考えを起して、ジョン・ブルック夫人のために、結婚式用の大きな花束をかかえて来たからです。</p>
        <p>「ぼくは、ブルック先生が、じぶんの考えどおりになさることがわかっていました。いつだって、そうなんです。やりとげようと決心なさると、空がおちて来ようと、やりとげておしまいになります。」とローリイは、花束とお祝いの言葉とをささげながらいいました。</p>
        <p>「おほめにあずかって恐れいります。ぼくはそれを未来のよい前ぶれとしてお受けいたします。そして、ぼくたちの結婚式には、あなたを招待することをきめましょう。」</p>
        <p>「地球の果てからでもまいります。そのときのジョウの顔を見るだけでも、大旅行して来るねうちがあります。きみは、うれしそうな顔をしていませんね。どうしたの？」と、客間のすみのほうへいくジョウの後についていきました。みんなは、ローレンス氏を迎えるために、そこへ集っていきました。</p>
        <p>「あたし、この結婚に不賛成だけど、がまんすることにしたら、一言も反対はいわない。だけど、メグをやってしまうの、どんなにつらいか、あなたにはわからないわ。」と、いったジョウの声はかすかにふるえていました。</p>
        <p>「やってしまうんじゃない。半分だけのこることになる。」</p>
        <p>「ううん、もとのとおりにはならない、あたしは一ばん大切な友だちをなくしたのよ。」</p>
        <p>「だけど、ぼくがいる。たいしてやくにたたないけど、一生きみの味方をする！」</p>
        <p>「それや、わかってるわ。ありがたいと思うわ。ローリイ、あなた、いつだって、あたしをなぐさめてくれたわね。」と、ジョウは感謝をこめてローリイの手をにぎりました。</p>
        <p>「さあ、いい子だから、うかぬ顔をするのおよし。メグさんは幸福になるし、ブルック先生は就職なさるし、おじいさまはよくめんどうを見てあげる、メグがいっちまったら、ぼくも大学を卒業するしそしたら、いっしょに外国を漫遊するか、どこかへすてきな旅行をしよう。なぐさめになるよ。」</p>
        <p>「そりゃ、いいなぐさめねえ、でも、三年のあいだに、どうなるかわからないわ。」</p>
        <p>「そりゃそうだが、きみは未来をのぞいて、ぼくたちがどうなるか見たかない？」</p>
        <p>「あたし、見たくないわ、なにか悲しいことが見えるかもしれないもの。今はみんな幸福だけど、これ以上、幸福になれると思わないわ。」</p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-388756-388929">ジョウは、そういって部屋を見まわしましたが、かがやくばかりにたのしそうなありさまに、ジョウの目もかがやきました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-388929-389567">おとうさんとおかあさんは、二十年前にはじめられたじぶんたちのロマンスの第一章を、心しずかによみがえらしてすわっていました。エミイは、二人の恋人がみんなからはなれて、じぶんたちだけの美しい世界にすわっているすがたを写生していました。ベスは、ソファに横になって、ローレンス老人とたのしそうに語っていました。老人は、ベスの手をにぎりしめ、その小さい手がじぶんを、彼女の歩いて来た平和な道にみちびいてくれるような気がしていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-389567-389884">ジョウは、彼女らしい、きりっとしたしずかな表情で、ひくいイスによりかかり、ローリイはそのイスのせにもたれ、あごを彼女のちぢれ毛の頭とならべ、二人をうつしている長い鏡のなかの彼女にほほえんでうなずいていました。</seg></p>
        <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">こうして、メグとジョウとベスとエミイが、たのしくしているところへ幕はおりました。この幕がふたたびあげられるかどうか、それは、この「愛の姉妹」とよばれる家庭劇の第一幕が、いかにお客さまがたに、迎えられるかによるのであります。</p>
      </div>
      <div type="layout" source="#source-390222-390264" style="padding-inline-end: 2em; text-align: right">
        <p><seg source="#source-390252-390264">おわり。</seg></p>
      </div>
    </body>
    <back>
      <div type="source">
        <note type="source-attribution" source="#source-390272-390362"><seg type="source-line">底本：「若草物語」京屋出版社</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1948（昭和23）年6月1日発行</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-390362-391282"><seg type="source-line">※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。</seg><lb/><seg type="source-line">その際、以下の置き換えをおこないました。</seg><lb/><seg type="source-line">「勝ち→がち　かも知れ→かもしれ　給→たま　（て）見→（て）み」</seg><lb/><seg type="source-line">また、底本では一部連濁の「づ」が「ず」になっていますが、「づ」に統一しました。</seg><lb/><seg type="source-line">※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」（区点番号5-86）を、大振りにつくっています。</seg><lb/><seg type="source-line">入力：大久保ゆう</seg><lb/><seg type="source-line">校正：秋鹿</seg><lb/><seg type="source-line">2006年10月16日作成</seg><lb/><seg type="source-line">2010年11月1日修正</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（http://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
        <note type="source-span" xml:id="source-10027-10083" n="53"/>
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      </div>
      <note type="parser-completion" n="true">The n attribute is true when no parser diagnostic of error severity was raised for this source. What the converter could not interpret is recorded in the interpretation-problem and parser-diagnostic notes.</note>
      <note type="source-decoding">windows-31j</note>
      <note type="interpretation-problem">{
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="unmatched-close" source="#parser-source-4">unmatched_close</note>
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="unmatched-close" source="#parser-source-5">unmatched_close</note>
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="unclosed-bracket" source="#parser-source-8">unclosed_bracket</note>
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="unclosed-bracket" source="#parser-source-9">unclosed_bracket</note>
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      <note type="parser-diagnostic" subtype="warning" n="bouten-target-ambiguous" source="#parser-source-10">bouten_target_ambiguous</note>
    </back>
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