Soranoha

平和を保つため

へいわをたもつため

宮本 百合子

日本女性の参政二年を記念して、去る十日にマッカーサー元帥が発したステートメントの言葉は大変に美しく、日本婦人の理想の姿を描き出していたと思います。

あの文章を読んで、日本のまじめな多くの女性は深い感慨に打たれたと思います。なぜなら現実の生活において日本の大多数の婦人は、自分たちの二度の投票が果して正しく行われ、それが成功であったかどうかについて疑問を感じ始めています。どの家庭の母親もこの春子供たちを苦しめた六・三制の困難な実情について、自分たちで選んだ政府が余りに無力だったのに驚いています。確かに婦人の役人は以前より増えましたが、数人の良心的な婦人視学がいたからといって六・三制の困難が改善されぬ事実を発見しました。

婦人代議士はインフレーションを防ぐためにまだ力がありませんし、総ての家庭が苦しんでいる酷い税の問題についても、総ての婦人は自分たちの政治力がその改善のために発揮されていないことを知っています。日本女性は真面目に自分たちの社会的能力の低いことを反省し、この次には一票を現実的な効果で使わなければならぬことを考え始めています。

日本の中にまだファッシズムと軍国主義的思想が根を張っているようです。日本には六十万以上の戦争未亡人がおり、多数の父を失った子ら、生活に困っている傷病軍人がいます。世界中の婦人が第二次大戦で受けた傷のために今日まだ苦痛の声をあげています。日本の女性は盲目的に戦争にかり立てられた自分たちの運命について次第に深刻に理解しています。どういう名目によっても再び日本があわれな戦争の火つけ人となることを拒絶しています。たとえ世界平和の名目においてさえも、平和は平和でなければならないということを知りました。

そして、日本の女性が戦争に反対する情熱は世界の数千万の女性に共通する情熱の一部であることを知っております。

〔一九四八年四月〕

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日初版発行
初出:「毎日新聞」
1948(昭和23)年4月18日
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2007年11月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「平和を保つため」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第三十巻』新日本出版社、1986年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 015988_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

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