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        <title type="main" xml:lang="ja">地図</title>
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        <author><persName xml:lang="ja"><surname>太宰</surname><forename>治</forename><idno type="aozora-person-id">000035</idno></persName><persName xml:lang="ja-Hira"><surname>だざい</surname><forename>おさむ</forename></persName><persName xml:lang="ja-Latn"><surname>Dazai</surname><forename>Osamu</forename></persName></author>
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        <bibl><title>日本の名随筆　別巻46　地図</title><publisher>作品社</publisher><date>1994（平成6）年12月25日</date><note type="input-edition">1994（平成6）年12月25日第1刷</note><note type="proof-edition">1994（平成6）年12月25日第1刷</note></bibl>
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      <refsDecl xml:id="source-spans"><p>A note of type source-span has an xml:id of the form source-START-END, giving the extent in UTF-8 bytes of the decoded primary text identified in sourceDesc. <ptr target="https://w3id.org/soranoha/ns/tei"/></p></refsDecl>
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      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-544-729">琉球、首里の城の大広間は朱の唐様の燭台にとりつけてある無数の五十匁掛の蝋燭がまばゆい程明るく燃えて昼の様にあかるかつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-729-828">まだ敷いてから間もないと思はれる銀べりの青畳がその光に反射して、</seg><seg type="annotated-text" source="#source-831-879"><seg source="#source-828-831">し</seg><note type="gloss"><seg source="#source-852-864">（ママ）</seg></note></seg><seg source="#source-879-906">き通るやうな、スガ</seg><choice source="#source-906-912"><orig>／＼</orig><reg>〱</reg></choice><seg source="#source-912-1362">しい色合を見せて居た。慶長十九年。内地では豊臣の世が徳川の世と変つて行かうとして居る時であつた。首里の名主といはれて居る謝源は大広間の上座にうちくつろいで座つて居た。謝源のすぐ傍に丞相の郭光はもう大分酩酊したやうにして膝をくづして、ひかへて居た。やゝ下つて多くの家来達がグデングデンに酔つぱらつてガヤ</seg><choice source="#source-1362-1368"><orig>／＼</orig><reg>〱</reg></choice><seg source="#source-1368-1646">騒ぎたてて居た。広間の四方の障子はスツカリ取り払はれ、大洋を拭ふて来る海風は無数の蝋燭の焔をユラユラさせながら気持ちよく皆の肌に入つて行くのであつた。十月といつても南国の秋は暑かつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-1646-2194">謝源は派手な琉球絣の薄ものをたつた一枚身にまとひ、郭光の酌で泡盛の大杯をチビリ、チビリと飲んで居た。謝源は今宵程自分といふものが大きく思はれた時はなかつた。その為か彼は今迄の苦い戦の味もはや忘れてしまつたやうになつて居た。五年の長い歳月を費し、しかも大敗の憂目を見ること三度、やうやうにして首里よりはるか遠くの石垣島を占領したあの苦しみも忘れてしまふ程であつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-2194-3388">石垣島は可成大きい国であつた。そして兵も十分に強かつた。チヨツとした動機から彼は石垣島征服を思ひ立ち、直ちに大兵を率ゐて石垣島を攻めたのであつた。石垣島の兵はよく戦つた。そして外敵を三度も退りぞけることが出来た。謝源は文字通りの悪戦苦闘を続けた。併し彼は忍耐強かつた。ジリジリ石垣島を攻めたてた。五年の年月を過し、遂に石垣島を陥し入れたのは、つい旬日前のことであつた。首里に凱旋して来た謝源は今夜の宴を開いたのであつた。彼は満足げに大杯を傾けて居た。彼は下座で騒いで居る家来達をズツと見廻した。その時の彼の眼には、もう家来なんぞは虫けらのやうに見えて、しやうがなかつた。フイと首を傾けて外を眺めた。暗い晩であつた。まだ月が出るには間があるのか、たゞまつくらで空と大地との区別すらつかない程であつた。彼はその空を見て居るうちにもう、その空までも自分が征服してしまつたやうな気がした。勝つた者の喜び</seg><g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-3388-3424">‼</g><seg source="#source-3424-3474">　彼はそれを十二分に味つて居た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-3474-3653">ジーと暗い空の方を眺めて居た。彼はフト空のスグ低い所に気味の悪い程大きな星がまばたきもせず黙つて輝いて居るのを見た。</seg></p>
      <p>「大きい星だナ」彼は何気なくつぶやいた。郭光はその王の独りごとを耳に聞きはさんだ。「どれ、どれ、どこにその星が……」郭光はおかしみたつぷりにそう言つた。謝源はそれを聞いて微笑みながら、だまつてその星のある方を指さした。郭光は「ウム、ななーる程これア大きい星ぢや。何といふ星ぢやらう。うらめしそうに、わしの方を見て居りますナ。王、あれア石垣の、やつらがくやしがつてあの様ににらめて居るので御座らう」ヒヨウキン者の郭光は妙な口調でこういつた。そしてその星に向つて、「ヤイ<choice source="#source-4352-4358"><orig>／＼</orig><reg>〱</reg></choice>いくさに負けて、くやしいだらう」とやゝ高声に変なフシをつけて叫んだ。謝源も、これを聞いた家来の一部のものも、あまりのオカシさに笑ひこけてしまつた。その瞬間その大きな気味の悪い星が不吉を予言するかのやうにスーツと音もなく青白い長い尾を引きながら暗の中に消えてしまつたのは誰も知らなかつたことである。謝源と郭光はそれから一しきり、いくさの手柄話に花を咲かせて居た。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">その時一人の家来があはたゞしく王の前に参り「たゞ今二人の蘭人がこれに見えて、王に戦勝の祝の品を持つて来たと申して居ます。いかゞとりはからひませうか」と言つた。謝源はフト郭光との話を止めて上機嫌で「アヽそうか、すぐこれへ」と口ばやに言つた。家来は「承知致しました」と急いで、そこを去つた。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5334-5744">謝源には二人の蘭人とは誰と誰であるかゞわかつて居た。八年前に謝源がこの沖合で難破した蘭人の二人を家来の救ふて来たのを、世話してやつたことがあつた。キツトその蘭人があれから先づ己の国に帰つて又日本に来る途中で自分の戦勝を聞き、取り敢へず祝の品を持つて来たのだらうと思つた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5744-5989">彼はその蘭人の恩を忘れぬ美しい心が又となく嬉しく思はれた。果してあの蘭人であつた。二人はあれからは大分老いて見えた。丈の高い方はもう頭に白髪が十分まじつて居た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-5989-6183">肥えて居た方はことに衰へて、あのはち切れさうだつた血色のいゝ皮膚が、今はもうタブタブして居て、ガサガサした感じさへ与へて居た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-6183-6342">二人はめいめい先年の絶大な恩を受けたこと、及びこの度の戦勝の祝をくどくどしく申し述べた。謝源は絶えずニコ</seg><choice source="#source-6342-6348"><orig>／＼</orig><reg>〱</reg></choice>してそれを聞いて居た。殊に両人ともまだ琉球のことばを忘れて居ないで、たやすく思ふまゝに言ふことが出来て居たといふことは謝源をムシヤウに嬉しがらせた。謝源は二人の言葉の終るのを待ち遠しそうにして「アヽよし<choice source="#source-6651-6657"><orig>／＼</orig><reg>〱</reg></choice>両人とも大儀であつたナ」と言つた。彼の得意はもうその絶頂に達して居た。異人種から戦勝の祝のことばを述べられる。恐らくそれは日本の内地にでさへもなかつたことだつたらう。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">もう五十の齢にも及ばうとして居る謝源も前後を忘れて「アヽ愉快だ<g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-7004-7040">‼</g>」と叫びたくなつた程であつた。蘭人はやがて紫の布に包んだ祝の品を恭しく差し出した。郭光はこれを介して謝源に渡した。偉いと言はれてもいくらか原始的な人種である琉球人たる謝源はその品を受け取つてしまつてからは、それを見たくてたまらなかつた。それは長い軸物であつた。一体なんであらうと彼は考へた。南蛮の……兵法……そうでなければ何か新らしい武器の製法……剣術の法……を書いたもの……それとも舶来の絵……いろ<choice source="#source-7640-7646"><orig>／＼</orig><reg>〱</reg></choice><seg source="#source-7646-7669">と考へて見た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">もう彼はこらへ切れなくなつて、両人に「オイここで開いて見てもいゝだらうナ」と言つた。勿論両人はそれに対して異存がある筈はなかつた。謝源はその時は全く子供のやうにハシヤギながら、急いでそれを開いて見たのであつた。地図であつた。勿論それは両人に聞いて始めて世界の地図だといふことを知つたのだ。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-8106-8285">謝源は全くそれを珍らしがつた。彼はこの地図の中に自分の国も亦今自分の占領した石垣島もあるのだといふことを思ひついた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">そう思ひついた以上は彼はそれがどんな風にこの地図に記入されてあるかを知りたくてしやうがなかつた。謝源はその地図を蘭人に示して「もそつと、前に進んでこれを説明して呉れぬか」と言つた。両人は静かに前に進んで行つた。謝源は地図を下に置いて蘭人の説明を待つた。丈の高い方の蘭人はスラスラ説明をして行つた。「この青い所は海で……このとび色をして居る所が山で御座います。この地図は上の方は北で、下の方は南……」謝源はそんなことはどうでもよかつた。早く自分の領土がどこにあるかを知りたくてたまらなかつた。丈の高い蘭人は尚説明をし続けて行つた。「この北方の大きな国は夜国と申します。夜ばかり続くそうです。そのチヨツと下の大きな所はガルシヤと申します。ズーツとこつちに来ましてこの広い島はメリカンと申します……」謝源は可成失望をしてしまつた。目ぼしい大きい国は皆名さへ聞いたことのないものばかりであつたからだ。それでも彼は細いながらも望みをもつて居た。とうとう「ヨシヨシ。して、わしの領土は一体どこぢや」と聞いてしまつた。謝源はやがて蘭人が指さして呉れる大きな国を想像して居た。蘭人は少しためらつて居た。謝源はせきこんで「ウン一体どこぢや」と言つた。二人の蘭人は互に顔を見合せて何事かうなづき合つて居たが、やがて太つた方の蘭人がさも当惑したやうにして「サア、チヨツト見つかりませんやうです、この地図は大きい国ばかりを書いたものですから、あまり名の知れてない、こまかい国は記入してないかも知れません、現にこれには日本さへあるかなしのやうに、小さく書かれて居ますから……」とモヂモヂしながら言つた。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">謝源は「何ツ<g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-10375-10411">‼</g>」とたつた一こと低いが併し鋭く叫んだ。それきり呼吸が止つてしまつたやうな気がした。全身の血が一度に血管を破つて体外にほとばしり出たやうな感じがした。眼玉の上がズキンとなにかで、こ突かれたやうな気がした。全身がブルブル震つたことも意識した。彼はその蘭人の為に土足のまゝで鼻柱を挫かれたやうな思ひがした。今の蘭人の言葉は彼にとつては致命的な侮辱であつた。真赤な眼をして凍つたやうになつて、地図を穴のあく程みつめて居た。「名高くない小さい所は記入してないといふのか」彼はヤツとこれだけ言ふことが出来た。そしてキツト二人の蘭人を見つめた。蘭人達はあまりに変つた王の様子にタヾ恐ろしさの為に震つてばかり居た。そして「ハイ日本さへもこのやうに小さく出てるんですから」とやつと青くなりながら言つた。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">謝源はもうだまつて居ることが出来なくなつた。そして妙にフラフラになつて「郭光<g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-11556-11592">‼</g><seg source="#source-11592-11601">　酒だ</seg><g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-11601-11637">‼</g>」といつた。郭光はあまりのことにボンヤリして「ハツ」と答へたが別に酒をついでやらうともしなかつた。「酒だといふに<g ref="#gaiji-1-8-75" source="#source-11805-11841">‼</g>」郭光はこの二度目の呼び声にハツと気がつき謝源のグツと差し出した大杯に少しく酒を注いだ。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-11975-12157">謝源はガブと一口飲んだ。濁酒の面には蝋燭の焔がチラホラとうつつて居た。実際それは彼にとつては火を飲むやうに苦しかつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">謝源は「ウーム」とうなつた。ホントに彼は今の所では唸るよりほかに、すべがなかつたのであらう。血ばしつたまなこで蘭人をヂツとにらめつけて居た。大広間の酔ぱらつて居る家来も流石に王のこの様子に気づいたのか急にヒツソリとなつた。殺気に満ちた静けさが長くつゞいた。やゝあつて謝源は何と思つたか丈の高い方の蘭人に彼の大杯をグイツと差しのべて「飲んで見ろ」と言つた。そして郭光に眼でついでやれと言ひつけた。その蘭人はさすがに狼狽した。そして「失礼でございませうが、私は日本の酒は飲めないんで……」と言つて、「イヒヽヽヽ」と追従笑ひをした。実際蘭人達は日本酒、殊にアルコール分の強い泡盛は飲めなかつたのである。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-13056-13113">謝源はカツとなつた。さつきのことばと</seg><seg type="annotated-text" source="#source-13119-13170"><seg source="#source-13113-13119">言へ</seg><note type="gloss"><seg source="#source-13143-13155">（ママ）</seg></note></seg>、今の笑ひ声と言ひ明らかに自分を侮辱してると彼は一途に思ひつめた。「わしのやうな小国の王の杯は受けぬと言ふのか、恩知らず奴ツ」彼はこう叫ぶやいなや、その大杯を丈の高い蘭人の額にハツシとぶつけた。彼は何もかもわからなくなつた。傍にあつた刀をとり上げて鞘を払つた。立ち上つた。刀をめちやくちやに振り廻した。蘭人二人の首は飛んだ。これらのことは皆同時になつて表はれたと、いつてもいゝ程であつた。やゝあつて謝源はニヨツキリとつつ立つたまゝ「恩知らずツ馬鹿ツたわけめツ」とあらゆる罵声を首のない二人の死骸にあびせかけて居た。もう酒宴どころの騒ぎではなかつた。家来はたゞあはて、ふためいて居るばかりであつた。やゝあつて謝源の心は少しく落ちついて来た。彼は力なげに外をながめた。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14168-14326">月が出たのかそれらは一面に白くあかるかつた。夜露にしめつた秋草の葉は月の光で青白くキラキラ光つて居た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14326-14364">虫の声さへ聞えて居た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14364-14382">謝源はもう</seg><seg type="annotated-text" source="#source-14385-14433"><seg source="#source-14382-14385">シ</seg><note type="gloss"><seg source="#source-14406-14418">（ママ）</seg></note></seg><seg source="#source-14433-14477">ツカリ自暴自棄に陥つて居た。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-14477-15322">地図にさへ出てない小さな島を五年もかゝつて、やつと占領した自分の力のふがひなさにはもう呆れ返つて居た。謝源は人が自分の力に全く愛想をつかした時程淋しいことはあるものでないと考へた。彼は男泣きに大声をあげて泣いてしまひたかつた。波の音がかすかにザザザと聞えて居た。裏の甘蔗畑が月に照らされて一枚一枚の甘蔗の葉影も鮮やかに数へることが出来た。そして謝源にはその青白い色をして居る畑が自分を冷笑して居るやうにも見えた。若しこの時謝源が空を見上げたならば、もう一つの気味の悪い大きな星が彼の丁度頭の上で、さつきと同じやうに長い尾を引いて流れたのを見たことであつたらう。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15322-15377">彼は長い間ボンヤリ立つて居た……</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15377-15442">謝源の乱行は日増に甚だしくなつて行つた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15442-15639">飲酒、邪淫、殺生その他犯さぬ悪さとてなかつた。この時に於ける郭光の切腹して果てたことも謝源の心に何の反省も与へては呉れなかつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-15639-15941">中にも土民狩と言つて人民を小鳥か何かのやうに取扱ひ弓等で射殺し、今日は獲物が不足だつたとか、多かつたとかで喜んで居たりしたことは鬼と言つてもまだ言ひ足りない気がする位である。人民の呪詛もひどかつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)">一人として王を恐れ且つ憎まぬ者はないやうになつた。そして人民は皆「王が石垣島を占領した功に誇り、慢心を起し遂にこんなになつてしまつたのだ」と口々に言つて居た。</p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16183-16301">若し謝源がこれを聞いたならキツと心からの苦笑を洩らしてしまふにちがひない。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16301-16687">こんなフウだつたからそれから一年もたゝぬ中に石垣島のもとの兵に首里が襲はれて易々と復讐されたのは言ふまでもないことである。併し謝源は少しも残念がる様子もなく或夜コツソリと一そうの小舟で首里からのがれて行つた。どこに行つたか一人も知つて居るものがなかつた。</seg></p>
      <p style="text-indent: 1em" rend="first-line-indent(1)"><seg source="#source-16687-17203">たゞ数ヶ月の後、石垣島の王のやしきの隅にその頃日本では、なかなか得ることの出来なかつた世界の地図が落ちてあるのを家来の一人が発見した。誰がどんな理由で持つて来てここのやしきの中に投げこんで行つたのか無論わからなかつた。そしてその地図の所々に薄い血痕のやうなものが付いて居た。石垣島の王はそれを、たいへん珍らしがつて保存して置いたことであらう。</seg></p>
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        <note type="source-attribution" source="#source-17211-17449"><seg type="source-line">底本：「日本の名随筆　別巻46　地図」堀淳一編、作品社</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1994（平成6）年12月25日第1刷発行</seg><lb/><seg type="source-line">底本の親本：「太宰治全集　第一二巻」筑摩書房</seg><lb/><seg type="source-line" style="padding-inline-start: 3em">1977（昭和52）年11月</seg></note>
        <note type="transcriber-note" source="#source-17449-17899"><seg type="source-line">※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」（区点番号5-86）を、大振りにつくっています。</seg><lb/><seg type="source-line">入力：ブラン</seg><lb/><seg type="source-line">校正：土屋隆</seg><lb/><seg type="source-line">2003年12月14日作成</seg><lb/><seg type="source-line">青空文庫作成ファイル：</seg><lb/><seg type="source-line">このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（http://www.aozora.gr.jp/）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。</seg></note>
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      <note type="parser-completion" n="true">The n attribute is true when no parser diagnostic of error severity was raised for this source. What the converter could not interpret is recorded in the interpretation-problem and parser-diagnostic notes.</note>
      <note type="source-decoding">windows-31j</note>
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</TEI>