Soranoha

よろこびはその道から

よろこびはそのみちから

宮本 百合子

夕暮

仕事につかれ

「赤と黒」とを手にもって

縁側に腰かけている

きょうも 空しいままに暮れた

わがよろこびの小径を眺めながら。

松の木と木の間をぬけて

草道はうねり

あっちの林へ消えている

その道の果はこの庭

この間の嵐で 松の落葉の散りしいた

この小径はよろこびの小径

夕方、六時が半分すぎた頃

この道から おかしな二輪車があらわれる

草の上だから音もなく

樹間にちらつく俥夫の白シャツは

わたしの うれしい前じらせ

車がとまり

その幌のなかから

溢れ出す わたしのよろこび

この小径は よろこびの小径。

きょうも空しく暮れるよろこびの小径を眺め

わたしは考えている

ああ もし あした この小径に

あのよろこびが溢れ出したら

わたしは泣き出さないでいられようか、と。

これは それほどわたしの

よろこびの小径

底本 / Source edition

底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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リリース / Release
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TEI
/works/004236_000311/tei
プレーンテキスト / Plain text
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書誌 / Bibliography
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宮本 百合子「よろこびはその道から」(新字新仮名)、底本『宮本百合子全集 第十八巻』新日本出版社、1981年。Soranoha Aozora Bunko TEI Corpus, 004236_000311, release 913b24012e16. https://doi.org/10.5281/zenodo.22718079

引用のしかた / How to cite